(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771316
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】前立腺癌細胞の放射線抵抗性の低減、および/または前立腺癌の治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20150806BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20150806BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150806BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20150806BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20150806BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20150806BHJP
A61K 47/42 20060101ALI20150806BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20150806BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20150806BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
A61K37/02
A61K9/51
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P13/08
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/02
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-136124(P2014-136124)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-137278(P2015-137278A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2014年7月1日
(31)【優先権主張番号】103102246
(32)【優先日】2014年1月22日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼ 志河
(72)【発明者】
【氏名】林 宥欣
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼ 正國
(72)【発明者】
【氏名】張 家碩
【審査官】
山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/205187(WO,A1)
【文献】
特開2014−074005(JP,A)
【文献】
Nanomedicine(Lond),2014年 5月,Vol.9,No.6,p.803-817
【文献】
Cell Death and Disease,2014年,Vol.5,No.1,e1003
【文献】
Oncotarget,Vol.5,No.14,p.5523-5534
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 9/51
A61K 47/02
A61K 47/32
A61K 47/34
A61K 47/36
A61K 47/42
A61P 13/08
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の活性成分を含み、
前記活性成分は、細胞致死性膨張性毒素サブユニットB(CdtB)カプセル化キャリアナノ粒子である、
前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるための医薬組成物。
【請求項2】
有効量の活性成分を含み、
放射線療法と組み合わせて使用され、
前記活性成分は、細胞致死性膨張性毒素サブユニットB(CdtB)カプセル化キャリアナノ粒子である、
前立腺癌を治療するための医薬組成物。
【請求項3】
前記キャリアは、キトサン、ヘパリン、ポリグルタミン酸、トリポリリン酸、ポリアクリル酸、ポリエチレン・グリコール−キトサン、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記キャリアは、キトサンおよびヘパリンを含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ナノ粒子は、1000ナノメーター未満の粒径を有する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、500ナノメーター未満の粒径を有する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ナノ粒子は、約300ナノメーターから約400ナノメーターの平均粒径を有する、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記細胞致死性膨張性毒素サブユニットBタンパク質は、カンピロバクター・ジェジュニからクローニングされたものである、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌の治療に関する。特に、前立腺癌を治療するための、または前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるための医薬組成物に関する。組成物は有効量の活性成分を含み、当該活性成分は細胞致死性膨張性毒素サブユニットB(CdtB)によってカプセル化されたキャリアナノ粒子である。医薬組成物は、放射線療法と組み合わせて利用することもでき、前立腺癌の治療において優れた効果を提供する。
【背景技術】
【0002】
前立腺は男性特有の生殖器である。前立腺癌は、世界中の男性において、最も一般的な癌の1つとなっている。前立腺癌の発生は、年齢に関連する。食習慣の変化、高脂肪食品の摂取増加、および平均寿命の上昇に伴い、前立腺癌の発症率および死亡率は、癌による一般的な死亡原因でのトップ10の1つとなるまでに上昇している。前立腺の病理学は不明確ではあるが、既知の病因には、遺伝、食品、ホルモンおよび環境要素が含まれている。前立腺癌の早期においては、通常症状はない。しかし、尿路または尿道部分への腫瘍の侵食または妨害として、尿路妨害に類似した症状が起こる。進行した段階においては、尿の重大な分泌閉止症状である、血尿および無尿となって現れ得る。さらに、骨転移が起こった場合、患者は、骨の痛み、病理学的な圧砕作用、貧血症および脊髄の圧迫により引き起こされる対麻痺の症状に苦しめられるだろう。
【0003】
一般的な前立腺癌の治療方法には、手術、ホルモン療法および放射線療法が含まれる。リンパ転移または骨転移した患者は、手術によって転移した全ての癌細胞を切除することが困難であるため、前立腺癌を効果的に治療することができない。さらに、術後の回復期間が遅いため、高齢の患者には、手術が常に勧められるわけではない。早期の前立腺癌細胞はアンドロゲン依存性であるため、前立腺癌細胞の増殖および分裂にはアンドロゲン刺激が必要である。アンドロゲン不在下においては、前立腺癌細胞は退行するだろう。そのため、アンドロゲン抑制またはアンドロゲン除去のようなホルモン療法が、前立腺癌を治療するためにクリニックにおいて使用されている。しかし、いくつかの前立腺癌細胞は一定時間後にアンドロゲン非依存性形態に変化するので、そのような前立腺癌細胞は、アンドロゲン抑制またはアンドロゲン除去のようなホルモン療法による治療にもかかわらず、継続的に増殖することができる。そのため、ホルモン療法では前立腺癌を効果的に治療することができなくなる。
【0004】
そこで、手術およびホルモン療法の両方において、放射線療法のような追加の治療方法を必要とする。放射線療法とは、細胞の増殖を停止させるために、前立腺癌細胞のDNA構造を損傷させる集束放射線ビームを使用するものである。放射線療法の別の利点は、任意の年齢または健康状態の患者を治療するために利用できることである。放射線量および放射範囲は、装置の使用によってより正確とすることが可能である。しかし、放射線抵抗性を有する前立腺癌細胞が生じ、細胞は放射線被曝下においてさえも継続的に増殖することができるので、放射線療法は治療の後期段階では効果が少ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前立腺癌の現在の限られた治療の効果を考慮すると、前立腺癌を効果的に治療する、特に、前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させ前立腺癌の治癒率を高める1つの方法または薬剤を提供することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、細胞致死性膨張性毒素サブユニットB(CdtB)カプセル化キャリアナノ粒子が、前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させる目的において、放射線抵抗性を有する前立腺癌細胞の放射線感受性を増大させることができるということを見出した。放射線療法は、細胞致死性膨張性毒素サブユニットBによってカプセル化されたキャリアと組み合わされて使用することが可能であり、患者における前立腺癌の治療効果を増加させ、再発を減少させる。このような治療オプションは、手術に適さない高齢者または患者にとって有益となるだろう。
【0007】
本発明の目的は、前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるための薬剤の製造における活性成分の使用を提供することである。当該活性成分は、細胞致死性膨張性毒素サブユニットB(CdtB)カプセル化キャリアナノ粒子である。
【0008】
本発明の別の目的は、前立腺癌を治療するための薬剤の製造における活性成分の使用を提供することである。当該活性成分は細胞致死性膨張性毒素サブユニットBカプセル化キャリアナノ粒子であり、当該薬剤は放射線療法と組み合わせて使用される。
【0009】
さらなる本発明の別の目的は、対象における前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるための方法を提供することである。当該方法は、対象に有効量の活性成分を投与することを含む。当該活性成分は、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子である。
【0010】
さらなる本発明の別の目的は、対象における前立腺癌を治療するための方法を提供することである。当該方法は、同時または別々に、対象に放射線療法および有効量の活性成分の投与を行うことを含む。当該活性成分は、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子である。
【0011】
さらなる本発明の別の目的は、有効量の活性成分を含む、前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるための医薬組成物を提供することである。当該活性成分は、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子である。
【0012】
さらなる本発明の別の目的は、有効量の活性成分を含む、前立腺癌を治療するための医薬組成物を提供することである。当該医薬組成物は放射線療法と組み合わせて使用され、当該活性成分はCdtBカプセル化キャリアナノ粒子である。
【0013】
詳細な技術および本発明のために実施された好ましい実施の形態は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図面と共に後述の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本発明の実施の形態によるCdtBカプセル化キャリアナノ粒子を示す図である。
【
図1B】CdtBによってカプセル化されていないキャリアナノ粒子を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態によるCdtBカプセル化キャリアナノ粒子の粒径を示す棒グラフの図である。縦軸はナノ粒子の数(%)を表し、横軸はナノ粒子の粒径(nm)を表す。
【
図3】異なる条件において処置された前立腺癌細胞の生存率の比較を示す図である(
*p<0.01:推計的有意性)。縦軸はコントロールグループと比較した細胞生存率(%)を表し、当該コントロールグループはCdtBによってカプセル化されていないキャリアナノ粒子を用いて処置した前立腺癌細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、詳細における本発明のいくつかの実施の形態について記載する。しかし、本発明の精神から逸脱することなく、本発明は種々の実施の形態において具体化され得るし、本明細書に記載される実施の形態に限定されるべきではない。さらに、本明細書において他に言及のない限り、本明細書において(特に、特許請求の範囲において)用いられる“1”、“当該”および同様の用語は、単数形式および複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。さらに、本明細書において使用されている“有効量”という用語は、対象に投与される場合、被疑対象において治療されている状態を少なくとも部分的に緩和することができる化合物の量を示している。本明細書において使用されている“対象”という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を含む、哺乳動物を示している。
【0016】
カンピロバクター・ジェジュニは、ヒトの胃腸炎を引き起こす主たる病原菌のうちの1つである。細胞致死性膨張性毒素(Cdt)が、カンピロバクター・ジェジュニの病原性進化においてとても重要な役割を果たすということが証明されている。当該毒素は、G2期/有糸分裂期(G2/M期)において細胞を膨張・停止させ、細胞にアポトーシスを引き起こさせる。Cdtは、CdtA、CdtBおよびCdtCを含む3つのサブユニットから構成されているホロトキシンである。CdtAおよびCdtCは、細胞膜に結合する機能を果たす。CdtBは、Cdtにおける酵素活性を担うサブユニットであり、DNAに損傷を与え、細胞周期を停止させることができるI型デオキシリボヌクレアーゼ(DNase I)活性を有する。
【0017】
本発明者らは、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子が、放射線抵抗性を有する前立腺癌細胞の放射線感受性を増加させるのに有益であり、従って、前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減できることを見出した。CdtBカプセル化キャリアナノ粒子と放射線とを組み合わせた使用は、前立腺癌を治療する上で顕著な効果を得ることができる。
【0018】
従って、本発明は、前立腺癌を治療する上での、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子の適用に関する。これには、放射線耐性を有する前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるため、および/または前立腺癌を治療するための薬剤の製造におけるCdtBカプセル化キャリアナノ粒子の使用、対象における前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるため、および/または前立腺癌を治療するためにCdtBカプセル化キャリアナノ粒子を必要とする対象に投与すること、ならびに、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子を含む医薬組成物を提供することが含まれる。当該医薬組成物は、対象における前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるために、または前立腺癌を治療するために放射線療法と組み合わせて使用される。
【0019】
本発明において関わっているCdtBは、カンピロバクター・ジェジュニからクローニングし、精製することができる。当該方法は、Lin et al., Cholesterol depletion reduces entry of Campylobacter jejuni cytolethal distending toxin and attenuates intoxication of host cells, Infect. Immun. 79(9), 3563-3575 (2011)に開示されており、ここに参照により全体として組み込まれる。
【0020】
近年、ナノ粒子は、生物医学、光学およびエレクトロニクスのような様々な分野に適用されている。多くの医学研究では、ナノ粒子はその小さな粒径に由来して薬剤をカプセル化させ送達するために使用されている。本発明において、CdtBはナノ粒子の形態である。
【0021】
本発明において、CdtBをカプセル化するために使用されるキャリアは、生体適合性材料である。例えば、当該キャリアは、キトサン、ヘパリン、ポリグルタミン酸、トリポリリン酸、ポリアクリル酸およびポリエチレン・グリコール−キトサンから構成される群から選択される、1または複数の生体適合性材料でよい。本発明のいくつかの実施の形態では、所望するナノ粒子を提供するように、キトサンおよびヘパリンがCdtBをカプセル化するために使用される。
【0022】
本発明のCdtBカプセル化キャリアナノ粒子は、任意の適切な方法によって調製することができる。例えば、本発明の1つの実施の形態では、所望するナノ粒子は、単純なイオン性ゲル化法により室温下においてCdtBとキャリア材料とを混合することによって提供され得る。
【0023】
本発明のCdtBカプセル化キャリアナノ粒子の粒径は、通常、1000nm未満であり、好ましくは500nm未満である。任意において、当該ナノ粒子の粒径は、キャリアおよびCdtBの相対的な量比率を変えることによって調整され得る。一般的に、CdtBの相対量が高くなれば、より大きなナノ粒子を提供するだろう。例えば、キャリア成分として0.2mlのヘパリン溶液(2.0mg/ml)および2mlのキトサン溶液(1.5mg/ml)を使用して、4.0mg/ml、8.0mg/mlまたは16.0mg/mlの濃度における0.2mlのCdtBを使用した場合、得られたナノ粒子の平均粒径は、それぞれ、約300nm、約400nm、および約800から900nmであった。
【0024】
本発明のCdtBカプセル化キャリアナノ粒子は、放射線抵抗性の前立腺癌細胞の増殖を効果的に阻害することができ、放射線抵抗性を有する前立腺癌細胞の放射線感受性を増大することができる。理論的に制限することがなければ、CdtBは、癌細胞のDNA上において、その効果に基づいて前立腺癌細胞の増殖を効果的に阻害することができると考えられる。放射線抵抗性の前立腺癌細胞の高い複製能力および多くのDNA含有量のため、CdtBによる阻害がより容易となる。このため、放射線療法との組み合わせにおける、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子の使用は、前立腺癌の治療においてより大きな効果を提供することができる。
【0025】
従って、本発明のCdtBカプセル化キャリアナノ粒子は、治療が放射線と組み合わされた場合、放射線耐性の前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるため、もしくは前立腺癌を治療するための医薬組成物の提供に利用することができ、および/または、放射線耐性の前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるため、もしくは前立腺癌を治療するための薬剤の製造において利用することができる。医薬組成物または薬剤は、投与のための任意の適切な形態の薬剤へと製造することができる。また、医薬組成物または薬剤の形態および目的によって、当該医薬組成物または薬剤は薬学的に許容可能なキャリアをさらに含んでもよい。
【0026】
例えば、医薬組成物または薬剤は、対象への経口投与、皮下注射または静脈注射に適した形態において製造することもできる。経口投与に適した薬剤の製造において、当該医薬組成物または薬剤は、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、酸化防止剤、結合剤、潤滑剤および水分吸収剤のような、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子の活性に悪影響を与えない、薬学的に許容可能なキャリアを含むことができる。薬剤は、タブレット、カプセル、細粒、粉末、流体抽出液、溶液、シロップ、懸濁液、乳剤およびチンキ剤等のような、任意の適切な方法による経口投与のための形態として調製され得る。
【0027】
皮下注射または静脈注射に適した薬剤としては、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子から製造された医薬組成物または薬剤は、等張液、生理食塩緩衝液(例えば、リン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液)、可溶化剤、乳化剤および他のキャリアのような、1または複数の組成物を含んでもよい。これは、静脈注射剤、エマルジョン静脈注射剤、粉末注射剤、懸濁液注射剤および粉末懸濁液注射剤等のような薬剤を製造するためである。
【0028】
上述のアジュバントに加えて、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子から製造された医薬組成物または薬剤は、結果物としての医薬組成物または薬剤の味および外観を向上させるために、香味剤、トナーおよび着色剤等のような他の添加物を含んでもよい。また、当該医薬組成物または薬剤の保存性を改善するために、適切な量の防腐剤、保存剤、消毒剤および抗菌剤等も添加してもよい。さらに、医薬組成物または薬剤は、本発明の当該医薬組成物または薬剤の効能を増大させるため、もしくは当該医薬組成物または薬剤の適応柔軟性および順応性を増加させるために、1または複数の他の活性成分を含んでもよく、または、1または複数の活性成分を含む薬剤と組み合わせて使用されてもよい。しかし、これは、当該他の活性成分が、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子の効果に悪影響を及ぼさない場合に限る。
【0029】
さらに、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子から製造された医薬組成物または薬剤は、治療の必要において、対象への放射線療法と同時または別々に投与を行うことができる。例えば、当該医薬組成物または薬剤は、経口投与または注射によって投与し得る。放射線療法は、直後に、または時間間隔をおいて(通常24〜48時間後)、行われ得る。あるいは、放射線療法は、医薬組成物または薬剤の経口投与または注射の前に行われ、経口投与または注射の後にも再度行われ得る。
【0030】
CdtBカプセル化キャリアナノ粒子から製造された医薬組成物または薬剤は、1日に1回、1日に数回または数日に1回のような、様々な投与頻度において投与することができる。例えば、前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させるために人体へと適用される場合、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子は、1日に、約1mg(CdtBとして)/kg−体重から約5mg(CdtBとして)/kg−体重の投与量範囲において、投与される。好ましくは、1日に、約2.5mg(CdtBとして)/kg−体重から約4mg(CdtBとして)/kg−体重の投与量範囲において、投与される。ここで、“mg/kg−体重”という用語は、治療される対象のkg体重毎において必要とされる量を意味する。CdtBカプセル化キャリアナノ粒子から製造された医薬組成物または薬剤が、前立腺癌を治療するために放射線療法と組み合わせて1日に1回対象に投与される場合、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子は、約1mg(CdtBとして)/kg−体重から約5mg(CdtBとして)/kg−体重の量範囲において投与される。好ましくは、約1.5mg(CdtBとして)/kg−体重から約3mg(CdtBとして)/kg−体重の量範囲において投与される。例えば、医薬組成物または薬剤と放射線療法との組み合わせは、医薬組成物または薬剤を1日に1回約2.5mg(CdtBとして)/kg−体重において投与した場合、顕著な治療効果が提供され得る。しかし、重篤な状態を有する患者には、実践的な要求に応じて、投薬量を数倍または数十倍に増加させることができる。
【0031】
本発明は、対象における放射線耐性を有する前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させる方法も提供する。当該方法は、対象に有効量の活性成分を投与することを含む。活性成分は、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子である。キャリアの様式、ならびにCdtBカプセル化キャリアナノ粒子の適用形態および投与量については、全て上述と同様である。
【0032】
本発明は、対象における前立腺癌を治療する方法も提供する。当該方法は、対象への有効量の活性成分の投与および放射線療法を行うことを含む。活性成分は、CdtBカプセル化キャリアナノ粒子である。キャリアの様式、ならびにCdtBカプセル化キャリアナノ粒子の適用形態および投与量については、全て上述と同様である。
【0033】
本発明は、さらに、以下の特定の実施例の詳細において説明される。しかし、以下の実施例は、本発明を説明するためのみに提供されるものにすぎず、それにより本発明の範囲は限定されない。
【実施例】
【0034】
(実施例1)CdtBカプセル化キャリアナノ粒子の調製
まず、0.2mlのCdtB(4.0mg/ml)と0.2mlのヘパリン溶液(2.0mg/ml)とを混合し、混合液を作り、室温において10分間、2mlのキトサン溶液(1.5mg/ml)中において攪拌した。その後、当該混合液を15,000gで50分間遠心分離し、上澄み液を除去し、沈殿物(すなわち、CdtBカプセル化キャリア粒子)を回収した。
【0035】
次いで、回収した沈殿物を脱イオン水に溶かし、懸濁液を得た。懸濁液における粒子の形態を、透過型電子顕微鏡(TEM)を通して観察し、粒径分布を動的光散乱スペクトロメータ(Zetasizer ZS90, Malvern, イギリス)により分析した。当該結果を
図1Aおよび
図2に示す。
図1Aおよび
図2において示されるように、CdtBカプセル化キャリア粒子はナノ粒子に属する500nm未満であり、CdtBカプセル化キャリア粒子の平均粒径は約300nmであった(以下、“CdtBカプセル化キャリアナノ粒子”として示す)。
【0036】
さらに、CdtBを含まない粒子を、CdtBの使用を除き同様の手順によって製造した。懸濁液中における当該粒子の形態を、透過型電子顕微鏡(TEM)を通して観察した。これを
図1Bにおいて示す。
図1Bにおいて示されるように、CdtBによってカプセル化されていないキャリアナノ粒子の粒径は、約200nmから250nmであった。
【0037】
(実施例2)癌細胞の細胞毒性実験
CdtBカプセル化キャリアナノ粒子が前立腺癌細胞の生存に影響を与え得るかどうかを評価するために、1−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−3,5−ジフェニルホルマザン(MTT)を、この実験において使用した。
【0038】
MTTは可溶性のテトラゾリウム塩であり、生細胞中のミトコンドリアの呼吸鎖に影響を与え得る。コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)およびシトクロムc(cyt c)の影響下では、MTT中におけるテトラゾリウムブロミドの構造は代謝還元をおこし、不溶性結晶を伴って青紫色のホルマザンが形成され得る。死細胞中にはコハク酸デヒドロゲナーゼが存在しないので、MTTを還元させることができず、結晶基質の形成は直接的に生細胞の数に比例するものとも考えられる。さらに、ミトコンドリアは環境に対し最も敏感な細胞小器官であり、従って、薬剤処置後における細胞生存を分析するためのマーカーとして利用することができる。
【0039】
放射線抵抗性を有する前立腺癌細胞(5×10
3cell/well)(DAB2IP遺伝子を欠失しているPC3−KD細胞株)を、96ウェル培養プレートにおいて培養した。インキュベーター内において、5%CO
2、37℃の条件下で24時間培養した後、細胞にそれぞれ次の方法を用いて処置を行った。
(i)500nMのCdtBによってカプセル化されていないキャリアナノ粒子を用いて24時間処置(以下、“コントロールグループ”として示す)。
(ii)500nMのCdtBカプセル化キャリアナノ粒子を用いて24時間処置(以下、“CdtBナノ粒子グループ”として示す)。
(iii)2グレイ(Gy)放射線を用いて3分間照射(以下、“放射線グループ”として示す)。
(iv)500nMのCdtBカプセル化キャリアナノ粒子を用いて処置し、2Gy放射線を用いて3分間照射し、24時間において反応(以下、“CdtBナノ粒子+放射線グループ”として示す)。
上記の処置の後、懸濁液を除去した。次いで、10μl/wellのMTTと、100μl/wellの培養培地とを加え、暗所において4時間置いた。その後、全ての培養培地を除去し、10分間反応させるために暗所において100μl/wellのDMSOを加えて、570nmでの吸光度の波長を分析した。“コントロールグループ”の吸光度(生存率100%)をコントロールとして使用し、それぞれのグループの生存率を測定した。結果を
図3および表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
図3および表1によると、“放射線グループ”における癌細胞の生存率は95.30%に至るままであり、これは、放射線抵抗性を有している前立腺癌細胞は、放射線療法のみでは効果的に死滅させることができないことを明らかとしている。“CdtBナノ粒子グループ”における結果では、CdtBナノ粒子のみを用いて処置した場合、放射線抵抗性を有する前立腺癌細胞の生存率が69.73%にまで減少するということが示され、これは、CdtBナノ粒子が前立腺癌細胞の治療において効果的であるということを表している。“CdtBナノ粒子+放射線グループ”における結果では、“CdtBナノ粒子”を“放射線”と組み合わせて処置した場合、放射線抵抗性を有する前立腺癌細胞の生存率が55.4%にまで減少するということが示され、これは、“CdtBナノ粒子”が前立腺癌細胞の放射線抵抗性を低減させる効果を有しているということを表している。そのため、“CdtBナノ粒子”のみを用いて処置した場合よりも、“CdtBナノ粒子”を“放射線”と組み合わせて処置した場合において、69.73%から55.4%にまで癌細胞の生存率を減少させることができた。
【0042】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願103102246(出願日2014年1月22日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。