【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年6月13日に一般社団法人 日本鉄鋼協会 生産技術部門が主催した第90回設備技術部会大会において発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記性能測度に対して、所定の時間幅における最大値を算出する最大値フィルタ処理、所定の時間幅における最小値を算出する最小値フィルタ処理、又は所定の時間幅についての移動平均を算出する移動平均フィルタ処理の内の何れか1つのフィルタ処理を施すフィルタ処理部を更に備え、
前記近似式算出部は、前記フィルタ処理が施された性能測度を用いて前記近似式を算出することを特徴とする請求項2に記載の異常診断装置。
前記性能測度推定部は、性能測度の最確値に加えて、統計的手法により算出される所定の前記性能測度の信頼区間の上限値又は/及び下限値を算出することで前記推定を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の異常診断装置。
前記最新の時系列データを取得した時点から前記性能測度の推定値が所定の閾値よりも低下するまでの期間を、前記機械設備が継続して稼働可能な時間を示す稼働継続可能時間として算出する稼働継続可能時間算出部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の異常診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は適宜に省略する。
【0011】
本発明の実施形態に係る異常診断装置は、工場、商業施設、工事現場、病院などで使用される機械設備の稼働率を維持・向上するため、機械設備の性能を示す指標である性能測度を把握して、異常診断のための情報を提供するものである。そのために、診断対象となる機械設備からセンサデータ、又はセンサデータに加えて、稼働情報、イベント情報、設備負荷、作業報告書などに関する情報を取得し、取得した情報を用いて、現在から将来にかけての機械設備の性能測度を推定し、更には機械設備の稼働継続可能時間(RUL;余寿命)を推定する。
【0012】
なお、本明細書において、機械設備の「性能」には、機械設備が有する機能以外の出力形態や、機械設備が製造する製品などの出来具合などに関連する量や質的な変数が対応している。また、例えば、ガスエンジンの燃費が悪くなることや、プレス機の対象加工品の精度が劣化した程度を指すものである。
また、「RUL」は、診断対象である機械設備としては正常な範囲で稼働することができるが、性能が所定のレベル(例えば、最大性能の60%など)よりも低下する状態に到達するまでの期間をいうものである。これによって、機械設備の性能が低下し過ぎる前に、計画的に保守作業を実行して、機械設備の生産性を高く維持することが可能となる。
更にまた、「異常診断」とは、機械設備が稼働不能な異常な状態に達するかどうかを診断することに限らず、正常な状態の範囲で稼働可能ではあるが、機械設備の性能の低下の程度を診断することも含むものである。
【0013】
[異常診断装置の構成]
まず、
図1を参照して、本実施形態に係る異常診断装置1の構成について説明する。
図1に示すように、異常診断装置1は、時系列データ取得部10と、時系列データ記憶部11と、性能測度算出部12と、近似式算出部13と、性能測度推定部14と、RUL算出部(稼働継続可能時間算出部)15と、異常予兆検知部16と、出力部17と、センサデータ抽出部18と、参照期間設定部19とを備えて構成されている。
【0014】
時系列データ取得部10は、インターネット網などを介して、診断対象である機械設備から出力される多次元のセンサデータを取得する手段である。センサデータは、取得時刻(又はセンサで測定された時刻)と対応付けられた時系列データとして取り扱われる。時系列データ取得部10は、取得した最新の、すなわち現在の時系列データを取得するごとに、時系列データ記憶部11に順次に記憶させることで蓄積する。
なお、現在の時系列データについては、時系列データ取得部10から性能測度算出部12に直接出力するようにしてもよい。
【0015】
時系列データ記憶部11は、時系列データ取得部10から入力された時系列データを記憶するものである。また、時系列データ記憶部11に記憶される時系列データは、性能測度算出部12及びセンサデータ抽出部18によって、過去及び現在の時系列データとして適宜に参照される。
【0016】
なお、時系列データ記憶部11に、新たに取得した時系列データを追加する場合は、不図示の評価手段によって、データとしての妥当性(異常ではないこと、既に時系列データ記憶部11に格納されているデータとの類似性)を評価した後に蓄積され、正常状態における過去の時系列データとして活用できる形態になっている。
また、診断対象となる機械設備が複数である場合は、時系列データは、診断対象の単位となる各機械設備に対応付けて記憶される。
【0017】
時系列データ記憶部11に記憶される時系列データには、センサデータの他に、環境データとしてイベントデータ、稼働データ、負荷データ、保守履歴データなどが含まれるようにしてもよい。これらのデータは、何れもそれぞれが取得された時刻に対応付けられている。
【0018】
ここで、イベントデータとは、機械設備の運転状態を示すものであり、例えば、機械設備の起動や停止などの運転パターンの制御状態を示すものである。
稼働データとは、機械設備の運転時間や操作時間などの稼働時間やその累積時間を示すものである。例えば、ショベルなどでは、走行時間や旋回動作の時間などの動作の詳細時間が該当する。
負荷データとは、機械設備にかかる負荷状態を示すものであり、例えば、エンジンにかかる負荷の状況や燃費、医療設備における患者数、工作機械における被加工物の硬さなどが該当する。
保守履歴データとは、機械設備に関して過去の故障内容、部品交換などの作業履歴を示すものであり、保守作業として行われた作業項目のリストが含まれている。
【0019】
性能測度算出部12は、時系列データ記憶部11に記憶されている現在及び過去の時系列データを参照して、この時系列データを学習データとした統計的手法により、機械設備の性能を示す指標である性能測度を算出するものである。また、性能測度算出部12は、センサデータ抽出部18から性能測度を算出する際に用いるセンサデータの種別を入力して、当該特定の種別のセンサデータからなる多次元センサデータを用いて性能測度を算出する。性能測度算出部12は、算出した性能測度を近似式算出部13、異常予兆検知部16及び参照期間設定部19に出力する。また、性能測度算出部12は、算出した性能測度を時系列データとして不図示の記憶手段に蓄積しておき、近似式算出部13などからの要求に応じた期間についての性能測度の時系列データを出力するように構成してもよい。
【0020】
また、性能測度算出部12は、
図2に示すように、第1性能測度算出部121と、第2性能測度算出部122と、性能測度統合部123と、フィルタ処理部124とを備えている。第1性能測度算出部121及び第2性能測度算出部122は、互いに異なる手法により性能測度を算出するものである。第1性能測度算出部121及び第2性能測度算出部122は、それぞれが算出した性能測度を性能測度統合部123に出力する。
性能測度を算出する手法としては、ベクトル量子化法や局所部分空間法などを用いることができる。これらの性能測度を算出する手法の説明については後記する。
【0021】
なお、第1性能測度算出部121及び第2性能測度算出部122は、それぞれ、多次元のセンサデータをそのまま多次元ベクトルとして用いてもよいが、特徴変換を施した特徴量を用いるようにしてもよい。特徴変換の手法としては、例えば、主成分分析、独立成分分析、ウェーブレット変換などを用いることができる。特徴変換を施すことによって、時系列データの次元数を低減したり、性能測度の感度を向上させたりすることが可能となる。
【0022】
性能測度統合部123は、第1性能測度算出部121及び第2性能測度算出部122から、それぞれが算出した性能測度を入力し、2つの性能測度を1つの値に統合して、フィルタ処理部124に出力する。
2つの性能測度を統合する方法としては、調和平均、加重平均などを用いることができる。特に、異なる手法によって算出された性能測度を、それぞれの性能測度の特性を損なわずに、かつ、それぞれの性能測度の特性が強調され過ぎないように統合するには、調和平均を用いることが好ましい。
【0023】
なお、性能測度を算出するために用いる手法は、2つに限定されるものではなく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、3つ以上の手法で性能測度を算出する場合は、調和平均することで1つの値に統合することが好ましい。
【0024】
フィルタ処理部124は、性能測度統合部123から1つに統合された性能測度を入力し、性能診断の感度又は信頼性を向上させたり、ノイズを除去するために、時間軸方向に所定のフィルタ処理を施すものである。フィルタ処理部124によるフィルタ処理後の性能測度は、
図1に示す近似式算出部13、異常予兆検知部16及び参照期間設定部19に出力される。
なお、本実施形態では、統合した性能測度にフィルタ処理を施すようにしたが、各手法により算出された性能測度にフィルタ処理を施した後に、統合するようにしてもよい。
【0025】
フィルタ処理の方法としては、例えば、所定の時間幅についての移動平均を算出する移動平均フィルタや、所定の時間幅についての最小値を算出する最小値フィルタ、所定の時間幅についての最大値を算出する最大値フィルタなどを用いることができる。
【0026】
フィルタ処理として最大値フィルタを用いた場合は、例えば、
図7に示すように、上下に大きく振動しながら変化する性能測度の波形200が、細かいピークの上限値を接続したような波形201に変換される。最大値フィルタを用いることで、ノイズの重畳によって性能測度の低下が過大に評価されることを抑制することができる。このため、高い確度で異常診断を行うことができる。
また、フィルタ処理として最小値フィルタを用いた場合は、性能測度の低下の下限値を逃さずに把握することができる。このため、高い感度で異常診断を行うことができる。
また、フィルタ処理として移動平均フィルタを用いた場合は、最大値フィルタと最小値フィルタとの中間的な特性の異常診断を行うことができる。
なお、これのらフィルタ処理において、フィルタサイズである時間幅は、性能測度の周波数特性や性能測度に含まれるノイズ成分の周波数特性などに応じて、適宜に定めることができる。
【0027】
ここで、性能測度を算出する手法の例として、3つの手法について説明する。
本実施形態では、何れの手法においても、診断対象である機械設備が正常に稼働している間にセンサで測定することで得られた時系列データ(以下、「正常データ」ともいう)を用いるものである。
なお、前記したように、センサデータを特徴変換した特徴量の時系列データを用いるようにしてもよい。
【0028】
(ベクトル量子化法)
まず、
図3を参照して、ベクトル量子化法について説明する。
ベクトル量子化法においては、正常データを学習データとして予めクラスタリングをしておき、診断対象となる現在の時系列データ(以下、「診断データ」ともいう)と、当該診断データが所属するクラスタとの距離に基づいて性能測度を算出するものである。
ベクトル量子化法によれば、予め生成したクラスタを用いることで、高速に、また安定した精度で性能測度を算出することができる。
【0029】
クラスタリングの方法としては、例えば、k平均法を用いることができる。また、診断データが所属するクラスタの判定には、例えば、k−NN法を用いることができる。
図3に示すように、学習データが、クラスタA(黒丸「●」で示した学習データをメンバx
Aとするクラスタ)とクラスタB(黒四角「■」で示した学習データをメンバx
Bとするクラスタ)とにクラスタリングされているとする。k−NN法によれば、
図3に破線の円で示したように、まず、診断データqの最近傍のk個(
図3の例では5個)のメンバxA,xBを抽出する。そして、各クラスタについて抽出されたメンバ数を計数して、抽出されたメンバ数の最も多いクラスタが、診断データqの所属クラスタであると判定する。
図3に示した例では、クラスタBの所属するメンバx
Bが3個と最も多く抽出されたため、診断データqの所属クラスタはクラスタBと判定される。
【0030】
次に、診断データqと所属クラスタであるクラスタBの代表値c(例えば、所属メンバの重心を用いることができる)との距離dを用いることで、機械設備の正常状態からの乖離の大きさを示す指標である異常測度を算出する。
なお、異常測度は、診断データqと所属クラスタの代表値cとの距離dをそのまま用いてもよいが、正規化することが好ましい。ここで正規化は、距離dを、所属クラスタの広がりを示す半径で除することで行うことができる。クラスタの半径は、特に限定されるものではないが、例えば、代表値cから各メンバまでの距離の平均値、代表値cから最遠に位置するメンバまでの距離、メンバの標準偏差又は標準偏差を定数倍したもの、などを用いることができる。
【0031】
なお、診断データqの所属クラスタの判定は、k−NN法に限定されるものではない。例えば、診断データqと各クラスタの代表値cとの距離が最も近いクラスタを所属クラスタであると判定することもできる。
【0032】
前記したように、異常測度は、機械設備の正常状態(代表値cに対応)からの乖離度の大きさを示すものであるため、診断データqと代表値cとの距離dが大きくなるほど異常測度も大きくなる。すなわち、異常測度は、機械設備が理想的な好ましい状態から離れるほど大きな値となる。従って、性能測度は、異常測度は、その値が逆の方向に変化する指標である。つまり、距離dが大きくなるほど、性能測度は小さくなる。
そこで、本実施形態では、性能測度を、異常測度と値が逆の方向に変化する(異常測度が大きくなるほど性能測度が小さくなるような)異常測度の関数として算出する。
【0033】
このような関数としては、性能測度をy、異常測度をzとすると、例えば、式(1.1)〜式(1.3)を挙げることができる。
y=1/z (但し、c>0として、z<cのときは、y=c) ・・・(1.1)
y=1/(z+c) (但し、c>0) ・・・(1.2)
y=c−z (cは例えば、zの最大値)・・・(1.3)
但し、式(1.1)〜式(1.3)において、cは正の定数である。
式(1.1)は、異常測度zの逆数であり、式(1.2)は、式(1.1)において異常測度zが「0」となる場合を考慮して、分母が「0」とならないように正の定数cを換算した関数であり、式(1.3)は、定数cから異常測度zを減じる関数である。
【0034】
(局所部分空間法)
次に、
図4を参照して、局所部分空間法について説明する。
局所部分空間法では、診断データqの最近傍のk個の正常データを抽出し、診断データqから、抽出されたk個の正常データで定められる(k−1)次元の部分空間へ降ろした垂線の長さに基づいて性能測度を算出するものである。
局所部分空間法によれば、蓄積された正常データから、診断データに類似する正常データを抽出して用いるため、機械設備の状態変化が激しい場合でも、精度を保った性能測度の算出が可能である。
なお、本手法でも、前記したベクトル量子化法と同様に、異常測度を算出し、式(1.1)〜式(1.3)など用いて、異常測度を用いて性能測度を算出する。
【0035】
図4に示した例では、k=3として、3個の正常データx
1,x
2,x
3が抽出されている。ここで、3個の正常データで定められる2次元の部分空間SSは平面である。そして、診断データqから部分空間SSに降ろした垂線の足Xbまでの距離dを算出する。当該距離dをそのまま異常測度として用いてもよいが、正規化することが好ましい。ここで正規化は、例えば、距離dを抽出したk個の正常データの標準偏差で除することで行うことができる。
そして、算出した異常測度を用いて、式(1.1)〜式(1.3)などにより性能測度を算出することができる。
【0036】
(性能劣化クラスタを用いる手法)
次に、
図5を参照して、性能劣化クラスタを用いる手法について説明する。
本手法では、機械設備が正常な状態の範囲で稼働しているが、性能が所定のレベルよりも低下した状態で稼働しているときに取得されたセンサデータの時系列データを学習データとして用いて、性能が劣化した状態の範囲を示す性能劣化クラスタを生成する。なお、時系列データを取得するごとに別途に機械設備の性能を評価しておき、当該性能の評価データを参照して、正常データの内で、性能が劣化した状態のときに取得したデータを学習データとして抽出することができる。
性能劣化クラスタは、前記したk平均法などのクラスタリング手法を用いて生成することができる。性能劣化クラスタは、1個の限定されず、2個以上にクラスタリングされるものであってもよい。
【0037】
図5に示すように、診断データqと、当該診断データqに最近接する性能劣化クラスタの代表値cとの距離dに基づいて、性能測度を算出するものである。当該距離dをそのまま性能測度として用いてもよいし、例えば、性能劣化クラスタの半径で除して正規化した値を用いるようにしてもよい。
【0038】
前記したベクトル量子化法のように異常測度に基づく性能測度の算出方法と異なり、性能劣化クラスタとの距離dが小さいほど、性能が低いことが示される。従って、例えば、診断データqと性能劣化クラスタの代表値cとの距離dが、性能劣化クラスタの外縁を示すクラスタ半径又はクラスタ半径にマージンを持たせた所定の閾値THよりも小さくなると、機械設備を保守すべき状態まで性能が劣化したと診断することができる。
【0039】
また、性能測度は、診断データqと、性能劣化クラスタの代表値c(例えば、クラスタメンバの重心)との距離dに基づいて算出されるものに限らず、性能劣化クラスタの外縁と診断データqとの距離に基づいて性能測度を算出するようにしてもよい。
更にまた、性能劣化クラスタを生成せずに、機械設備が劣化した状態のときに取得した時系列データを用いて、前記した局所部分空間法により劣化状態を示す時系列データと診断データとの距離を算出し、当該距離を性能測度として用いるようにしてもよい。
【0040】
なお、本実施形態では、第1性能測度算出部121が前記した手法の内の一手法を用い、第2性能測度算出部122が前記した手法の内の他の一手法を用いて、それぞれ前記した手順で性能測度を算出する。
【0041】
図1に戻って、異常診断装置1の構成について説明を続ける。
近似式算出部13は、性能測度算出部12から入力した過去及び現在の性能測度(フィルタ処理部124によってフィルタ処理を施された性能測度)を用いて、当該性能測度の推移を示す多項式による近似式を算出するものである。また、近似式算出部13は、参照期間設定部19から、近似式を算出する際に参照する性能測度の時系列データの参照期間についての情報を入力する。近似式算出部13は、当該情報で指示された参照期間の性能測度の時系列データにフィットする近似式を算出する。ここで、近似式を算出するとは、近似式である多項式の各係数を算出することである。また、近似式算出部13は、算出した近似式を、性能測度推定部14に出力する。
更にまた、近似式算出部13は、近似式の係数の誤差についても算出することが好ましい。これによって、近似式の信頼性を、誤差の大きさで示すことができる。近似式算出部13が係数の誤差を算出する場合は、当該係数の誤差も性能測度推定部14に出力する。
【0042】
なお、近似式である多項式の次数は特に限定されるものではなく、1次以上の多項式を用いことができる。また、多項式の次数を、オペレータからの指示に応じて適宜に選択可能なように構成してもよい。例えば、
図7に示すように、性能測度の推移(実線で示した波形201)と選択した次数の近似式を用いて描画した曲線(破線で示した波形202)とを表示装置や印刷装置などにグラフ表示して、オペレータが当該グラフ表示された性能測度の推移を示す曲線にフィットする適切な次数が決まるまで、次数の選択と近似式の再計算とを繰り返すことができるようにしてもよい。
【0043】
ここで、性能測度の多項式近似について、3次関数で近似する場合を例に説明する。
性能測度をy、時刻をxとしたとき、性能測度yは、時刻xの3次関数として、係数a,b,c,dを用いて式(2.1)のように表すことができる。
y=ax
3+bx
2+cx+d ・・・(2.1)
係数a,b,c,dは、実測データである(x,y)の時系列データを用いて、最小二乗法を適用することで算出することができる。多項式の次数が1次、2次又は4次以上の場合も、係数の数が増減するが、最小二乗法により算出することができる。
【0044】
また、係数a,b,c,dの各最確値についての誤差は、測定値である(x,y)の近似式からの誤差の分布から統計的な手法で求めることができる。すなわち、x,yの近似式からの誤差が正規分布に従うと仮定した場合に、x,yの誤差の標準偏差などから、係数a,b,c,dについて、標準誤差を算出することができる。
【0045】
更に簡単な例として、性能測度yを、時刻xの1次関数で近似する場合について説明する。この場合は、近似式は、係数a,bを用いて、式(2.2)のように表すことができる。
y=ax+b ・・・(2.2)
また、係数a,bは、次のような手順で算出される。すなわち、測定値の個数をNとし、x,yについての個々の実測値を、添字iを用いて、y
i,x
iのように表し、測定値x
iにほとんど誤差がないと仮定すると、係数a,bは、それぞれ式(3.1),式(3.2)のように表され、更に、係数a,bの標準誤差σ
a,σ
bは、式(4.3)で表されるyの誤差の標準偏差σ
yを用いて、それぞれ式(4.1),式(4.2)のように表される。
【0047】
性能測度推定部14は、近似式算出部13から近似式として多項式の係数及び係数の誤差を入力し、当該近似式を用いて、現時点から将来にかけての所定の期間を推定期間(
図8では、時刻t0から時刻t2までの期間)とし、将来の性能測度を推定する。ここで、将来の性能測度を推定するとは、例えば、近似式として前記した式(1)を用いた場合は、係数a,b,c,dと、推定期間について適宜な間隔(例えば、時系列データのサンプリングと同じ間隔)で、各時刻xについての性能測度yを算出することである。性能測度推定部14は、推定期間について算出した性能測度を、RUL算出部15及び出力部17に出力する。
【0048】
なお、性能測度の推定期間は、予め定められた一定の長さの期間であってもよく、オペレータにより、キーボードやポインティングデバイスなどの適宜な入力手段を用いて指定されるようにしてもよい。
【0049】
RUL算出部(稼働継続可能時間算出部)15は、性能測度推定部14から推定期間について算出された性能測度を入力して、当該推定期間の性能測度の推移に基づいて、RUL(稼働継続可能時間)を算出する。RUL算出部15は、算出したRULを、出力部17に出力する。
【0050】
ここで、
図8を参照して、RULを算出する方法について説明する。
なお、
図8において、波形201は性能測度の実測値を示し、実線で示した波形202は近似式を用いて算出された現在の時刻までの性能測度を示し、破線で示した波形203は近似式を用いて算出された推定期間の性能測度の最確値を示している。また、過去の時刻t1から現在の時刻t0までの期間が、近似式を算出する際に参照される参照期間である。
また、閾値THは、機械設備が所定の性能レベルで稼働可能な限界となる性能測度の下限値を示すものである。すなわち、推定された性能測度の波形203が閾値THに達する時刻までは、前記した所定の性能レベル以上で機械設備を稼働させることができる。従って、現在の時刻t0から推定された性能測度が当該閾値THに達する時刻までの時間を、RULの推定値(
図8参照)として算出することができる。
【0051】
更に、近似式を算出する際に、近似式の誤差、すなわち、近似式である多項式の係数の誤差を算出することで、当該誤差を用いて、近似式の上限値と下限値とを推定することができる。
図8に示すように、推定期間において波形203は、推定された性能測度の最確値を示し、波形203の上下に点線で示した波形は、性能測度の推定値の上下限値を示すものである。
このように、推定された性能測度の最確値に加えて、例えば、式(2.2)において、係数a,bを最確値から標準誤差σ
a、σ
bの1.96倍変化させた近似式を用いて、95%の信頼区間における性能測度の上下限値を算出することで、推定値の信頼性を把握することができる。また、性能測度の推定誤差に加えて、又は代えて、性能測度の上下限値の波形が閾値THを超える時刻を用いてRULの推定誤差を算出するようにしてもよい。
【0052】
また、
図8に示すように、各波形201,202,203、閾値TH、RUL推定値、RUL推定誤差などを表示してオペレータに提示することにより、性能測度の将来の推移やその信頼性(妥当性)を、オペレータが容易に把握することができる。
【0053】
更に、本実施形態では、新たな診断データ(時系列データ)を取得するごとに、性能測度を算出し、当該最新の性能測度を加えた参照期間を設定し直して、逐次に近似式を算出し、更には、RULを算出し直すものである。
このように、時系列データを取得するごとに参照期間を設定し直して性能測度の近似式を再計算するため、最新の近似式に基づいてRULを推定することができる。また、近似式やRULなどの再計算に伴い、
図8に示した波形等の表示内容も更新される。このため、RULの推定などの機械設備の異常診断を、常に高い精度で行うことができる。また、近似式として多項式を用いるため、非常に短いで間隔で時系列データを取得する場合でも、時系列データを取得するごとに容易に近似式を算出することができる。
【0054】
図1に戻って、異常診断装置1の構成について説明を続ける。
異常予兆検知部16は、性能測度算出部12から、最新の時系列データについて算出された性能測度を入力し、当該性能測度が所定の閾値より低下しているかどうかを判定することで、異常予兆の有無を検知する。性能測度が所定の閾値より低下している場合は、異常予兆検知部16は、機械設備に「異常予兆あり」と診断し、当該診断結果を出力部17に出力する。
なお、異常予兆を検知するための閾値は、RULを算出するために用いた閾値THを用いることもできるが、当該閾値THよりも更に高いレベルの性能測度に対する閾値を用いて、RULで推定される時期よりも早期に異常予兆を検知するようにしてもよい。
【0055】
出力部17は、性能測度推定部14から推定期間について算出された性能測度の時系列データを入力し、RUL算出部15からRULを入力し、異常予兆検知部16から異常予兆の有無の診断結果を入力し、これらの入力データを表示するものである。また、出力部17は、これらの入力データの表示に代えて、又は加えて、不図示の上位システムであるAHM(asset health management)やEAM(enterprise asset management)にこれらのデータを出力する。また、出力部17は、更に、性能測度算出部12から過去の性能測度を入力し、近似式算出部13から近似式を入力して、
図8に示すように、性能測度に関するデータをグラフ表示するようにしてもよい。
【0056】
センサデータ抽出部18は、時系列データ記憶部11に蓄積された多次元のセンサデータから、性能測度に大きく影響する1又は2以上のセンサデータを抽出し、抽出したセンサデータの種別を性能測度算出部12に出力する。性能測度を算出するために用いるセンサデータの次元数を低減することで、性能測度の算出のための処理負荷を低減することができる。なお、センサデータ抽出を行わないで、性能測度算出部12は、すべての種別のセンサデータを用いて性能測度を算出するようにしてもよい。
【0057】
センサデータの抽出方法としては、例えば、各センサデータ間のインパルス応答を利用することができる。すなわち、時系列データ記憶部11に蓄積されている過去に取得された時系列データを用いて各センサデータの性能測度に対するインパルス応答を調べておき、性能測度の変化に大きな影響を与えるセンサデータを予め抽出しておくことができる。
また、他の抽出方法として、性能測度が大きく変化した際に、性能測度に対する寄与度の大きなセンサデータを予め抽出するようにしてもよい。
また、センサデータ抽出部18は、評価したい性能の種別が複数種類ある場合は、性能種別ごとに適したセンサデータを抽出しておき、オペレータの指示などによって選択された性能の種別に対応するセンサデータの種別情報を性能測度算出部12に出力するようにすればよい。
【0058】
参照期間設定部19は、性能測度算出部12から過去の性能測度の時系列データを入力し、近似式算出部13が近似式を算出するために参照する性能測度の時系列データの期間を決定するものである。参照期間設定部19は、決定した過去の性能測度の参照期間を近似式算出部13の出力する。
【0059】
参照期間設定部19は、過去の性能測度の推移を解析し、例えば、性能測度の変化の勾配が所定の閾値以上となった時点(例えば、
図8の時刻t1)を始点とし、現時点(
図8の時刻t0)を終点とする期間を、近似式算出のための参照期間(
図8参照)として決定する。また、参照期間設定部19は、性能測度の推移を示すグラフにおいて、勾配が正の変曲点に対応する時刻を参照期間の始点とするようにしてもよい。
また、参照期間設定部19は、キーボードやマウスなどの入力手段を介してオペレータからの指示による参照期間を入力し、当該入力した参照期間を近似式算出部13に出力するようにしてもよい。
【0060】
[異常診断装置の動作]
次に、
図9及び
図10を参照(適宜
図1及び
図2参照)して、実施形態に係る異常診断装置1が異常診断処理を行う動作について説明する。
図10に示すように、異常診断装置1は、時系列データ取得部10によって、機械設備に設置されたセンサの測定値であるセンサデータを時系列データとして取得する(ステップS10)。時系列データ取得部10によって取得された時系列データは、時系列データ記憶部11に正常データのデータベースとして蓄積される。なお、機械設備が正常でない状態、例えば、不図示の評価手段によってデータの妥当性が否定された時系列データは、時系列データ記憶部11に蓄積されない。
また、時系列データ記憶部11には、予め、性能測度の算出に必要な量の正常データが蓄積されているものとする。
【0061】
次に、異常診断装置1は、性能測度算出部12によって、ステップS10で取得された最新の時系列データを診断データとして、過去の正常データを適宜に参照して、当該診断データについての性能測度を算出する(ステップS11)。
【0062】
ここで、
図10を参照して、性能測度算出部12によって行われる性能測度算出処理ステップ(S11)について説明する。
性能測度算出部12は、第1性能測度算出部121によって、第1の手法(例えば、ベクトル量子化法)を用いて性能測度を算出する(ステップS21)。
次に、性能測度算出部12は、第2性能測度算出部122によって、第2の手法(例えば、局所部分空間法)を用いて性能測度を算出する(ステップS22)。
なお、ステップS21とステップS22とは、何れを先に行ってもよく、並行して行ってもよい。
また、ステップ21及びステップS22で用いられるセンサデータの種別は、予め、センサデータ抽出部18によって抽出されているものとする。
【0063】
次に、性能測度算出部12は、性能測度統合部123によって、ステップS21及びステップS22で算出された性能測度を1つの値に統合する(ステップS23)。
次に、性能測度算出部12は、フィルタ処理部124によって、ステップS23で1つの値に統合された性能測度について、最新の性能測度を含む性能測度の時系列データに最小値フィルタなどの所定のフィルタ処理を施す(ステップS24)。なお、性能測度算出部12が算出した性能測度の時系列データは、性能測度算出部12内の記憶手段に蓄積されているものとする。
【0064】
図9に戻って、異常診断装置1の動作について説明を続ける。
異常診断装置1は、参照期間設定部19によって、近似式を算出するために用いる性能測度の時系列データの参照期間を設定する(ステップS12)。
【0065】
次に、異常診断装置1は、近似式算出部13によって、ステップS12で設定された参照期間の時系列データを用いて、性能測度の推移を示す近似式を算出する(ステップS13)。
次に、異常診断装置1は、ステップS13で算出された近似式を用いて、推定期間である所定の将来の期間について、所定の時間間隔(例えば、時系列データのサンプリング間隔)で、性能測度を算出(推定)する(ステップS14)。
【0066】
次に、異常診断装置1は、RUL算出部15によって、ステップS14で算出された性能測度の推定値を用いて、RULを算出する(ステップS15)。
次に、異常診断装置1は、異常予兆検知部16によって、ステップS11で算出された診断データについての性能測度を用いて、異常予兆の有無を診断する(ステップS16)。なお、ステップS16は、ステップS11以降の何れのタイミング行ってもよい。
【0067】
次に、異常診断装置1は、出力部17によって、ステップS15で算出されたRUL、ステップS16で診断された異常予兆の有無、ステップS14で算出された性能測度の推定値などの診断結果を、不図示の表示装置に表示し、又は/及び外部の上位システムに出力する。
【0068】
また、異常診断装置1は、ステップS10からステップS17までの処理を、診断データとして新たな時系列データを取得するごとに実行する。
【0069】
なお、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0070】
また、前記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、前記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テープ、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【解決手段】異常診断装置1は、機械設備に設置した複数のセンサからのセンサデータを時系列データとして取得する時系列データ取得部10と、時系列データを学習データとした統計的手法により、機械設備の性能を示す指標である性能測度を算出する性能測度算出部12と、過去に取得した時系列データに基づいて算出した性能測度の推移を、多項式により近似した近似式を算出する近似式算出部13と、近似式を用いて、将来の所定の時点までの性能測度を推定する性能測度推定部14と、を備え、時系列データを取得するごとに、最新の時系列データについての性能測度を算出し、最新の時系列データについての性能測度を前記推移に加えた近似式を算出し、その近似式を用いて将来の性能測度を推定する。