(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術によると、自動車足回り部品の所定箇所に抜き穴を設けることにより、軽量化について一定の効果を得ることが可能である。
しかし、自動車足回り部品の軽量化に対するニーズは強く、特許文献1に開示された技術とは異なる観点に基づいた、さらなる軽量化に資する技術が求められている。
【0008】
ここで、特許文献1に開示された技術を含めた従来技術において、自動車足回り部品のリブの幅は一定に形成されていた。
【0009】
加えて、自動車足回り部品は、自動車の重量の大半を支える部品であることから、単純に軽量化できればよいというものではなく、強度および剛性の低下を抑制し、当該部品に要求される耐久性等を満たす必要もある。
【0010】
そこで、本発明は、強度および剛性の低下を抑制しつつ、軽量化に資する自動車足回り部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明の発明者らは、自動車足回り部品の構造的特徴や当該部品の軽量化を勘案しつつ、強度と断面係数との関係や、剛性と断面二次モーメントとの関係等を詳細に検討することにより本発明を創出した。
【0012】
すなわち、本発明に係る自動車足回り部品は、ウェブと、リブと、を備える自動車足回り部品であって、前記リブは
、第1部分と、前記第1部分よりも幅の狭い第2部分と、を含んで構成され、前記第2部分は、前記ウェブから連続して形成される内側壁面が、対向する外側壁面に向かって、近接するように設けられることによって、前記第1部分と比較して幅が狭くなって
おり、前記第1部分は、前記ウェブから連続して形成される第1内側壁面と、前記第1内側壁面に対向する第1外側壁面とを有し、前記第1内側壁面の傾斜角度θがθa(°)であり、前記第1内側壁面の先端に形成される角部の曲率半径RがRa(mm)であり、前記第1外側壁面の傾斜角度θがθb(°)であり、前記第1外側壁面の先端に形成される角部の曲率半径RがRb(mm)であり、2つの前記角部の間に形成される平面部の幅がws(mm)であり、前記第2部分は、前記内側壁面である第2内側壁面と、前記外側壁面である第2外側壁面とを有し、前記第2内側壁面の傾斜角度θがθa´(°)であり、前記第2内側壁面の先端に形成される角部の曲率半径RがRa´(mm)であり、前記第2外側壁面の傾斜角度θがθb´(°)であり、前記第2外側壁面の先端に形成される角部の曲率半径RがRb´(mm)であり、2つの前記角部の間に形成される平面部の幅がws´(mm)であり、wa=Ra×cosθa−(Ra−Ra×sinθa)×tanθa、wb=Rb×cosθb−(Rb−Rb×sinθb)×tanθb、wa´=Ra´×cosθa´−(Ra´−Ra´×sinθa´)×tanθa´、wb´=Rb´×cosθb´−(Rb´−Rb´×sinθb´)×tanθb´と規定した際に、前記第1部分と前記第2部分との幅の差L(mm)は、{(wa−wa´)+(wb−wb´)+(ws−ws´)}であり、L>0を満たすことを特徴とする。
【0013】
この自動車足回り部品によれば、リブの第2部分は、内側壁面が外側壁面に向かって近接するように設けられることによって、第1部分と比較して幅が狭くなっていることから、幅が狭くなった分だけ軽量化を図ることができる。
また、この自動車足回り部品によれば、リブの第2部分の内側壁面を外側壁面に向かって近接させることにより軽量化を図っているため、アーム幅を狭くする必要はないことから、断面係数や断面二次モーメントの値の大幅な減少を抑制することができる。その結果、自動車足回り部品の強度および剛性の低下を抑制することができる。
つまり、この自動車足回り部品によれば、リブの幅が一定に形成されていた従来の自動車足回り部品と比較して、強度および剛性の低下を抑制しつつ、軽量化を図ることができる。
【0015】
この自動車足回り部品によれば、第1部分と第2部分との幅の差Lを、リブの角部の曲率半径R、壁面の傾斜角度θ等を用いて規定することにより、リブの構造的特徴(R、θ等)に基づいた確実な軽量化を図ることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る自動車足回り部品は、前記角部の曲率半径Rが、1〜10mmであることが好ましい。
この自動車足回り部品によれば、角部の曲率半径Rを所定範囲に規定することにより、適切に製造することが可能となり、より実情に即した自動車足回り部品となる。
【0017】
また、本発明に係る自動車足回り部品は、前記リブの高さh(mm)が、前記リブの2つの角部の曲率半径Rのうち小さい値をR(mm)の値として用いた場合、h<(5R+40)であることが好ましい。
この自動車足回り部品によれば、リブの高さhの上限をリブの角部の曲率半径Rを用いて規定することにより、当該リブを有する自動車足回り部品を金型でプレス成形する際に、金型の角部に割れが発生する可能性を低減することができる。
なお、リブの幅はリブの2つの角部の曲率半径Rの合計よりも狭くすることができないため、軽量化を追求する場合、2つの角部の曲率半径Rを小さくすることとなる。従来は、リブの高さを考慮することなくリブの2つの角部の曲率半径Rを決定していた。しかし、本発明に係る自動車足回り部品によると、要求されるリブの高さに応じて、リブの角部の曲率半径Rの最小値を決定することができる。その結果、前記のような効果(金型の角部に割れが発生する可能性を低減)を得つつ、リブの幅を狭くすることによって、更なる軽量化を図ることができる。
【0018】
また、本発明に係る自動車足回り部品は、前記第1部分の平面部の幅wsおよび前記第2部分の平面部の幅ws´が、いずれも2mm未満であることが好ましい。
この自動車足回り部品によれば、軽量化という効果を確実なものとすることができる。
【0019】
また、本発明に係る自動車足回り部品は、アルミニウム合金からなることが好ましい。
この自動車足回り部品は、アルミニウム合金からなることにより、より軽量化を図ることが可能となるとともに、より実情に即した自動車足回り部品となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る自動車足回り部品によれば、リブの第2部分は、内側壁面が外側壁面に向かって近接するように設けられることによって、第1部分と比較して幅が狭くなっていることから、幅が狭くなった分だけ軽量化を図ることができる。
また、本発明に係る自動車足回り部品によれば、リブの第2部分の内側壁面を外側壁面に向かって近接させることにより軽量化を図っているため、アーム幅を狭くする必要はないことから、断面係数や断面二次モーメントの値の大幅な減少を抑制することができる。その結果、自動車足回り部品の強度や剛性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る自動車足回り部品およびその製造方法を実施するための形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
最初に、
図1、2を参照して、本発明の実施形態に係る自動車足回り部品の全体構成について説明を行う。
[自動車足回り部品]
自動車足回り部品(以下、適宜、「足回り部品」という)10は、サスペンションアーム、例えば、ロアーアーム、アッパーアーム、ナックル、リンク等の自動車の足回りに用いられる部品である。以下では、足回り部品10について、
図1、2に示すアッパーアームを用いて説明する。
【0024】
図1に示すように、足回り部品10は、3つのボス1(1a、1b、1c)と、ボス1間を繋ぐ3つのアーム2(2a、2b、2c)と、を備える。そして、
図2に示すように、アーム2は、所定の厚さを呈するウェブ3と、ウェブ3の表面(ウェブ3の縁部分における表面)から突出し長手方向に延びるように設けられたリブ4と、を備える。詳細には、ウェブ3の両面から4つのリブ4(4a、4b、4c、4d)が突出している。なお、
図1および
図2において、ウェブ3はリブ4間に連続して形成されているが、軽量化を図るため、ウェブ3に穴(抜き穴)が設けられていてもよい。
また、足回り部品10の素材については、特に限定されないが、軽量化の点において優れるアルミニウム合金であることが好ましい。
【0025】
ここで、ボス1とは、ブッシュ等の部品を嵌め込んだり組み合わせたりするための肉厚部材(突起部材)である。また、アーム2とは、ボス1間に設けられボス1を繋ぐ部材であって、前記のとおり、薄肉のウェブ3と当該ウェブ3を補強するリブ4とを備える部材である。
なお、アーム2としては、様々な構造を呈するものが存在し、例えば、前記の構造以外にも、
図10に示すように、ウェブ3Xの上面の中央部からリブ4Xが突出するとともに、ウェブ3Xの下面の両端部からリブ4Xが突出するといった断面形状のアーム2Xも存在する。また、
図11に示すように、ウェブ3Yの両面の中央部からリブ4Yが突出するといった断面形状のアーム2Yや、
図12に示すように、ウェブ3Zの上面の中央部からリブ4Zが突出するといった断面形状のアーム2Zも存在する。そして、製品に要求される強度要件に対し、効果的な位置にリブ4は配置される。
そして、本発明は前記した構造を呈するアーム2を備えた足回り部品10をはじめ、様々な構造の足回り部品に適用することが可能である。
【0026】
なお、以下では、リブ4の構造を中心に説明するが、リブ4の中でも、ボス1の端部V近傍(
図1参照)のリブ4の構造はボス1の構造に大きく影響を受けるため、設計上、安定した構造となっていない場合がある。例えば、ボス1とアーム2とが連続して形成されることにより、ボス1の端部V近傍において、ボス1とリブ4とウェブ3との厚さが略同じとなっているような構造の足回り部品等が存在する。このような場合、本発明のリブ4とは、ボス1の端部Vの近傍部分を除いたリブ、言い換えると、ボス1の構造に影響を受けている部分を除いたリブを示す。
例えば、本発明のリブ4とは、ボス1の端部Vから10mmの部分を除いたリブである。また、本発明のリブ4とは、リブ4の末端(アーム2においてウェブ3の厚さよりも厚く形成されるリブ4の起端)から10mmの部分を除いたリブである。
【0027】
次に、
図3、4を参照して、リブの詳細な構造について説明を行う。
[リブの第1部分と第2部分との構造]
足回り部品10のリブ4は、最も幅の広い部分である第1部分40(
図1のB−B線におけるリブの断面部分)と、第1部分40よりも幅の狭い第2部分40´(
図1のC−C線におけるリブの断面部分)と、を含んで構成される。
【0028】
図3に示すように、リブ4の第1部分40は、ウェブ3から立ち上がるように連続して形成される第1内側壁面41と、第1内側壁面41に対向する外側壁面である第1外側壁面43と、を有する。
ウェブ3に直交する方向に対する第1内側壁面41の傾斜角度θはθaであり、第1内側壁面41の先端(ウェブ3に直交する方向の先端部分)に形成される角部42の曲率半径RはRaである。
ウェブ3に直交する方向に対する第1外側壁面43の傾斜角度θはθbであり、第1外側壁面43の先端(ウェブ3に直交する方向の先端部分)に形成される角部44の曲率半径RはRbである。
そして、角部42と角部44との間には、幅がwsである平面部45が形成されている。ただし、この平面部45は無くてもよい(ws=0)。
なお、第1内側壁面41の傾斜角度θaと第1外側壁面43の傾斜角度θbとは、同じ角度(θa=θb)であっても、異なる角度(θa≠θb)であってもよい。また、角部42の曲率半径Raと角部44の曲率半径Rbとは、同じ曲率半径(Ra=Rb)であっても、異なる曲率半径(Ra≠Rb)であってもよい。
【0029】
図4に示すように、リブ4の第2部分40´は、ウェブ3から立ち上がるように連続して形成される第2内側壁面41´と、第2内側壁面41´に対向する外側壁面である第2外側壁面43´と、を有する。
ウェブ3に直交する方向に対する第2内側壁面41´の傾斜角度θはθa´であり、第2内側壁面41´の先端(ウェブ3に直交する方向の先端部分)に形成される角部42´の曲率半径RはRa´である。
ウェブ3に直交する方向に対する第2外側壁面43´の傾斜角度θはθb´であり、第2外側壁面43´の先端(ウェブ3に直交する方向の先端部分)に形成される角部44´の曲率半径RはRb´である。
そして、角部42´と角部44´との間には、幅がws´である平面部45´が形成されている。ただし、この平面部45´は無くてもよい(ws´=0)。
なお、第2内側壁面41´の傾斜角度θa´と第2外側壁面43´の傾斜角度θb´とは、同じ角度(θa´=θb´)であっても、異なる角度(θa´≠θb´)であってもよい。また、角部42´の曲率半径Ra´と角部44´の曲率半径Rb´とは、同じ曲率半径(Ra´=Rb´)であっても、異なる曲率半径(Ra´≠Rb´)であってもよい。
【0030】
(リブの幅)
リブ4の第1部分40の幅wは、w=wa+wb+wsで表される。ここで、waとは、平面部45の接線と第1内側壁面41の接線との交点T1から平面部45と角部42との境界までの距離である。
そして、waは、角部42の曲率半径Raと第1内側壁面41の傾斜角度θaとを用いて、wa=Ra×cosθa−(Ra−Ra×sinθa)×tanθaと表すことができる。
【0031】
一方、wbとは、平面部45の接線と第1外側壁面43の接線との交点T2から平面部45と角部44との境界までの距離である。
そして、wbは、角部44の曲率半径Rbと第1外側壁面43の傾斜角度θbとを用いると、wb=Rb×cosθb−(Rb−Rb×sinθb)×tanθbで表すことができる。
【0032】
リブ4の第2部分40´の幅w´は、w´=wa´+wb´+ws´で表される。ここで、wa´とは、平面部45´の接線と第2内側壁面41´の接線との交点T1´から平面部45´と角部42´との境界までの距離である。
そして、wa´は、角部42´の曲率半径Ra´と第2内側壁面41´の傾斜角度θa´とを用いると、wa´=Ra´×cosθa´−(Ra´−Ra´×sinθa´)×tanθa´で表すことができる。
【0033】
一方、wb´とは、平面部45´の接線と第2外側壁面43´の接線との交点T2´から平面部45´と角部44´との境界までの距離である。
そして、wb´は、角部44´の曲率半径Rb´と第2外側壁面43´の傾斜角度θb´とを用いて、wb´=Rb´×cosθb´−(Rb´−Rb´×sinθb´)×tanθb´と表すことができる。
【0034】
なお、リブ4の第1部分40の平面部45の幅wsと、第2部分40´の平面部45´の幅ws´は、2mm未満であるのが好ましい。平面部の幅ws、ws´を2mm未満に構成することにより、リブ4の第1部分40の幅wと、第2部分40´の幅w´とを十分に狭くすることができ、軽量化という効果を確実なものとすることができるためである。
【0035】
(近接距離L)
第2部分40´は、第2内側壁面41´が第2外側壁面43´に向かって、近接するように設けられることによって、第1部分40と比較して幅がL(mm)だけ狭くなっている。つまり、第1部分40と第2部分40´との幅の差はL(mm)となる。
ここで、Lとは、第1部分40の幅wの値から、第2部分40´の幅w´の値を減算した値(L=w−w´)であり、L={(wa−wa´)+(wb−wb´)+(ws−ws´)}で表される。
このようにリブ4の第2部分40´の第2内側壁面41´が、第2外側壁面43´に向かってLだけ近接するように設けられていることから、近接する分だけ足回り部品全体としての軽量化を図ることができる。
【0036】
なお、
図5に示すリブ400のように、リブ400の先端に平面部が存在せず、内側壁面401および外側壁面403に平面箇所が存在しないものもある。このようなリブ400の交点T10については、リブ400の頂点(ウェブ3に直交する方向においてウェブ3から最も離れた点)における接線と、角部402に対応する近似円E1の接線(詳細には、近似円E1が内側壁面401と離れる点における近似円E1の接線)と、の交点として判断すればよい。そして、内側壁面401の傾斜角度θcは、前記した近似円E1の接線の傾斜角度として判断すればよい。
また、リブ400の交点T20については、リブ400の頂点における接線と、角部404に対応する近似円E2の接線と、の交点として判断すればよい。そして、外側壁面403の傾斜角度θdは、前記した近似円E2の接線の傾斜角度として判断すればよい。
なお、角Rの大きさは、Rゲージ、非接触式3次元スキャン、接触式3次元測定機等で測定することができる。また、傾斜角については、非接触式3次元スキャン、接触式3次元測定機等で測定することができる。
【0037】
なお、
図1に示すように、少なくとも1本のリブ(各ボス1の間に設けられるリブ)が、第1部分40と第2部分40´とを有するように構成されていてもよい。
また、
図13に示すように、1本のリブの全体が第2部分40´により構成されていてもよく、このようなリブが足回り部品10´内に複数存在していてもよい。
さらに、リブは、ウェブに対して直交する方向に突出するものだけに限定されず、ウェブに対して斜め方向に突出するものであってもよい。詳細には、リブの平面部がウェブの表面に対して平行でないものであってもよい。この場合、w等を導く際の各壁面の傾斜角度は、リブの平面部に直交する方向に対する各壁面の傾斜角度とすればよい。
【0038】
次に、
図6、7を参照して、リブの構造と強度・剛性との関係について説明を行う。
[リブの構造と強度・剛性との関係]
(断面2次モーメントおよび断面係数の算出方法)
図6は、断面2次モーメントおよび断面係数を算出するためのアームの断面図である。このような断面を呈するアーム200の断面2次モーメントI(図心を通る中立軸であるY軸回りのI)は、次の式で表される。
そして、この断面2次モーメントIの値が低下すると、アーム200の剛性(
図6の矢印が示す方向の外力に対する剛性)が低下する。
【0039】
一方、アーム200の断面係数Zは、次の式で表される。
上記式のe
1は、断面内において中立軸(
図6ではY軸)から最も遠い部分までの距離、e
2は、断面内において中立軸からe
1と反対方向の最も遠い部分までの距離を示す。なお、アーム200の断面は点対象の図形となっており、e
1=e
2であるため、Z=Z
1=Z
2となる。
そして、この断面係数Zの値が低下すると、断面内で発生する応力が増加し、アーム200の強度(
図6の矢印が示す方向の外力に対する強度)が低下してしまう。
【0040】
(アームの断面形状をH型であると想定した場合)
図7は、断面2次モーメントおよび断面係数を算出し易いように断面形状をH型であると想定したアームの断面模式図である。
このような断面を呈するアーム200の断面2次モーメントI(
図7の一点鎖線軸回りのI)は、I={HW
3−2h(W−2w)
3}/12で表される。そして、この断面2次モーメントIの値が低下すると、アーム200の剛性(
図7の矢印が示す方向の外力に対する剛性)が低下する。
一方、アーム200の断面係数Zは、Z={HW
3−2h(W−2w)
3}/(6W)で表される。そして、この断面係数Zの値が低下すると、アーム200の強度(
図7の矢印が示す方向の外力に対する強度)が低下してしまう。
なお、Wはアーム200の幅であり、wはリブ410の幅であり、Hはアーム200の全体高さであり、hはリブ410の高さである。
【0041】
アームの断面形状をH型であると想定した場合の断面2次モーメントIおよび断面係数Zの算出式によると、アーム200の幅Wが狭くなることによるIおよびZの低下と比較して、アーム200の幅Wを変化させずにリブ410の幅wを狭くした場合の方が、IおよびZの低下を抑制できることがわかる。
したがって、本発明の実施形態に係る足回り部品は、リブの第2部分について、アーム幅を変更することなく、リブ幅を狭くしていることから、断面2次モーメントIおよび断面係数Zの低下を抑制しながら、アームの断面積を小さくすることができる。つまり、本発明の実施形態に係る足回り部品によれば、足回り部品の強度、剛性の低下を抑制しながら、足回り部品全体としての軽量化を図ることができる。
【0042】
次に、
図8を参照して(適宜、
図3、4参照)、リブの構造と金型への応力との関係について説明を行う。
[リブの構造と金型への応力との関係]
これまで説明したように、足回り部品の軽量化を図るためには、
図4に示すリブ4の第2部分40´の幅w´(=wa´+wb´+ws´)を小さくする必要がある。ここで、第2部分40´の幅w´を小さくするためには、ws´=0とするとともに、wa´とwb´とをできる限り小さくしなければならない。ここで、wa´とwb´を小さくするためには、角部42´の曲率半径Ra´と、角部44´の曲率半径Rb´とを小さくすればよい。
【0043】
しかし、小さな曲率半径の角部を有するリブを金型でプレス成形しようとした場合、金型側の角部に応力が集中することで、金型の割れが発生し易くなり、金型寿命を低下させてしまう。
したがって、足回り部品の軽量化を図るために、リブの角部の曲率半径を小さく設定しようとすると、金型寿命の低下を招き、金型改修費用や新規金型の作製費用が必要となり、製造コストが増大してしまう。
【0044】
本発明者らは、リブの構造と当該リブをプレス成形する金型に生じる応力との関係について鋭意研究した結果、金型の角部に生じる応力は、リブの角部の曲率半径だけでなく、リブの高さも影響することを見出した。
詳細には、
図8に示すように、金型の角部に生じる等応力線は、リブの角部の曲率半径R(横軸)だけでなく、リブの高さh(縦軸)にも影響を受けることがわかった。そして、この
図8によれば、リブの高さが一定の場合、リブの角部の曲率半径R(横軸)が小さくなるにつれ、金型の角部に生じる応力が大きくなり、リブの角部の曲率半径R(横軸)が一定の場合、リブの高さが高くなるにつれ、前記応力が大きくなることもわかる。
【0045】
ここで、金型の割れの発生確率については、金型の材質にも左右されるが、金型の角部に1000MPa以上の応力が生じると割れの発生確率が高まる。詳細には、
図8の800MPaの等応力線よりも若干上方に位置するh=(5R+40)が割れの発生の境界となることがわかった。つまり、リブの高さhとリブの角部曲率半径Rとの関係が、
図8のh=(5R+40)よりも上方に位置するような関係となる場合は、金型の割れの発生確率が高くなってしまう。言い換えると、リブの高さhとリブの角部の曲率半径Rとの関係が、h<(5R+40)を満たせば、金型の割れの発生を抑制することができる。
【0046】
例えば、強度等を確保するためにリブの高さhを50mmと設定する必要のある場合は、h<(5R+40)の式によれば、リブの角部の曲率半径Rを2mmを超える値(R>2)に設定すれば、金型の割れの発生を抑制することができる。また、リブの高さhを60mmと設定する必要のある場合は、前記式によれば、リブの角部の曲率半径Rを4mmを超える値(R>4)に設定すれば、金型の割れの発生を抑制することができる。一方、リブの角部の曲率半径Rを1mmと設定したい場合は、前記式によれば、リブの高さhを45mm未満(h<45)に設定するのが好ましいことがわかる。
なお、リブの角部の曲率半径は、金型の割れの発生を適切に抑制するとともに、より実情に即したものとするため、1〜10mmが好ましい。
【0047】
ここで、リブの2つの角部の曲率半径が異なる場合、具体的には、
図4の角部42´の曲率半径Ra´が角部44´の曲率半径Rb´よりも小さい場合(Ra´<Rb´)、金型に割れを発生させやすい角部の曲率半径、つまり、小さい曲率半径Ra´を、前記式に当てはめて判断すればよい。
【0048】
本発明の実施形態に係る自動車足回り部品は、以上説明したとおりであるが、本発明を実施するにあたり、前記構成に悪影響を与えない範囲において、構成を変更してもよい。
例えば、
図3、4では、ウェブ3を基準として上下のリブ40の断面形状が対称となっているが、非対称となっていてもよい。
【0049】
また、足回り部品のリブは、第1部分と第2部分とを含んで構成されていればよい。
例えば、足回り部品の強度・剛性が、当該部品に対して要求される範囲内となるのであれば、外側壁面が内側壁面に向かって近接するように設けられることによって、第1部分よりも幅が狭い「第3部分」を含んでいてもよい。
さらに、第1部分よりも幅が狭く第2部分よりも幅が広い「第4部分」や、第2部分よりも幅が狭い「第5部分」を含んでいてもよい。
【0050】
加えて、内側壁面を外側壁面(または、外側壁面を内側壁面)に向かって大幅に近接させることによって、強度・剛性の低下が著しい部分については、足回り部品の全体重量が増加しない範囲内で、リブの高さを高くすることにより、強度・剛性の低下を抑制してもよい。
【0051】
次に、
図9を参照して、本発明の実施形態に係る自動車足回り部品の製造方法を、アルミニウム合金を用いた場合を例に説明する。
[自動車足回り部品の製造方法]
例えば、
図9に示すように、本発明の実施形態に係る自動車足回り部品の製造方法は、鍛造工程S4を含む。そして、鍛造工程S4の前に、鍛造用素材作製工程S1、熱処理工程S2、成形加工工程S3を行ってもよく、鍛造工程S4の後に、調質処理工程S5を行ってもよい。
【0052】
(鍛造用素材作製工程)
鍛造用素材作製工程S1とは、鍛造用素材を作製する工程である。
ここでいう鍛造用素材とは、鋳造ビレット、押し出し材、異形鋳塊等を指している。
鍛造用素材作製工程S1は、所定の長さに切断する切断工程も含む。
【0053】
(熱処理工程)
熱処理工程S2とは、鍛造用素材に均質化処理を施す工程である。
熱処理工程S2において、鍛造用素材に均質化処理を施すことにより、鋳造時に晶出した金属間化合物を拡散固溶させることで組織が均質化される。そして、熱処理工程S2での均質化処理は加熱炉において従来公知の条件で行えばよい。なお、加熱炉としては、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉等の従来公知の炉を用いればよい。
【0054】
(成形加工工程)
成形加工工程S3とは、熱処理を施した鍛造用素材に成形加工を施す工程である。成形加工工程S3の成形加工としては、ロール成形、曲げ加工等が挙げられる。ここで、ロール成形とは、ロール成形装置によって、例えば、鍛造用素材を段付きロール成形材とする成形方法である。また、I型以外の形状部品、例えば、L型のサスペンションアームを製造する場合には、ロール成形後に曲げ加工を施す。この曲げ加工は、例えば、V字のダイ(曲げ加工用金型)にロール成形材を載せ、上からパンチで押して任意の角度に変形させるという方法で行えばよい。
【0055】
(鍛造工程)
鍛造工程S4とは、鍛造用素材を金型でプレス成形する工程である。
鍛造工程S4のプレス成形としては、鍛造用素材が前記した形状の足回り部品となるように設計された金型を用意し、当該金型でプレス成形を施せばよい。
なお、鍛造用素材とは、鍛造を施す前の状態の金属素材であり、前記工程S1、S2、S3を経た成形加工後の鍛造用素材であってもよいし、押し出し材や異形鋳塊を用いてもよい。
【0056】
(調質処理工程)
調質処理工程S5とは、鍛造後の鍛造材に調質処理を施す工程である。
調質処理工程S5は、具体的には、鍛造材に溶体化処理を施した後、焼き入れ処理を施し、その後、時効硬化処理を施すというものである。
鍛造工程S4の後、足回り部品としての必要な強度、靱性、および耐食性を得るため、T6、T7等の調質処理を施す。ここで、T6とは、溶体化および焼き入れ処理後、最大強さを得る人工時効処理である。また、T7とは、溶体化および焼き入れ処理後、最大強さを得る人工時効処理条件を超えた条件にて行う過剰時効硬化処理である。
【0057】
溶体化処理は、通常の条件、例えば、520〜570℃の温度範囲に1〜7時間保持するという条件で行えばよい。なお、溶体化処理は、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉等の従来公知の炉を用いればよい。また、焼き入れ処理も、従来公知の条件で行えばよい。
【0058】
時効硬化処理は、通常の条件、例えば、160〜220℃の温度範囲と、2〜24時間の保持時間の範囲から、前記T6、T7等の調質処理の条件を選択すればよい。なお、時効硬化処理も、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉等の従来公知の炉を用いればよい。
【0059】
本発明の実施形態に係る自動車足回り部品の製造方法は、以上説明したとおりであるが、本発明を実施するにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、他の工程を含めてもよい。例えば、鍛造工程S4の後に、抜き穴加工等を施す工程を含めてもよい。
また、前記各工程において、明示していない条件については、従来公知の条件を用いればよく、前記各工程での処理によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることは言うまでもない。
【実施例】
【0060】
次に、本発明に係る自動車足回り部品について、リブの各構成の寸法を示して具体的に説明する。
【0061】
表1は、
図14、15に示すリブの第1部分、第2部分および第3部分の各構成の寸法を具体的に示している。なお、前記の実施形態において説明したとおり、第2部分は、内側壁面が外側壁面に向かって近接するように設けられた部分であり、第3部分は、外側壁面が内側壁面に向かって近接するように設けられた部分である。
そして、表1のリブ1〜4とは、
図14、15中に示すr1〜4と対応しており、表1の隅Rとは、
図15中に示すリブの基端部における曲率半径CRのことである。
そして、表1のθa、θb、θa´、θb´Ra、Rb、Ra´、Rb´、w、w´等の各記号は、前記の実施形態において説明したものと対応している。
そして、表1の断面係数、断面2次モーメントは、
図15の一点鎖線を中心軸とし、前記の実施形態において説明した算出方法(
図6を用いた方法)に基づいて計算したものである。
なお、供試材No.0〜10は、全てアルミニウム合金からなる。
【0062】
【表1】
【0063】
[結果の検討]
表1に示すとおり、供試材No.9は、第2部分を備えていることから、従来技術として示した供試材No.0と比較すると、アーム全体として2.4%減量(リブ、ウェブだけでは2.9%減量)することができ、軽量化できることがわかった。
さらに、供試材No.9は、内側壁面を外側壁面に近接させた第2部分を備えることから、外側壁面を内側壁面に近接させた第3部分を備える供試材No.10と比較すると、断面係数および断面2次モーメントの低下の幅を小さくできることがわかった。
つまり、供試材No.9の結果によると、本発明は、強度や剛性の低下を抑制しつつ、軽量化できることがわかった。
【0064】
供試材No.1〜8は、供試材No.0のリブよりも狭い幅のリブを有するとともに、供試材No.0の断面係数および断面2次モーメントの値と同じ値となるように、リブの高さを変更したが、リブの高さを大きくしても軽量化の効果を十分に発揮できることがわかった。また、供試材No.7の結果より、外側壁面を内側壁面に近接させた第3部分が含まれていても、軽量化の効果を発揮できることもわかった。
なお、上記で述べた効果は、アルミニウム合金の部品だけではなく、鋳鉄の製品であっても同様に得ることができる。