(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
STT(スピントランスファートルク)―RAM(ランダムアクセスメモリ)素子における下部電極上に形成された、MTJ(磁気トンネル接合)素子のナノピラー構造であって、
AP2層/結合層/AP1層なる構造を有するシンセティック反強磁性ピンド層と、
前記AP1層に接するMgOトンネルバリア層と、
金属(M)酸化物、金属窒化物または金属酸化窒化物からなる絶縁体マトリクス中にR(M)粒子(Rは鉄(Fe)、ニッケル(Ni)もしくはコバルト(Co)、またはそれらの組み合わせであり、Mは金属)を形成してなる少なくとも1つのナノ電流チャネル(NCC)層、を含む複合フリー層とを備え、
前記R(M)粒子の最小粒径が1.0nmであり、
前記NCC層の厚さが0.6nmないし1.0nmである
MTJナノピラー構造。
前記反強磁性層に接するAP2層と、ルテニウム(Ru)からなる結合層と、CoFeBもしくはCoFeまたはそれらの組み合わせからなるAP1層とを順に積層することにより、前記シンセティック反強磁性ピンド層を形成する
請求項17に記載のMTJナノピラー構造の形成方法。
前記第1の厚さを、高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)を用いた測定により定められる1.8nmないし2.4nmとし、前記第2の厚さを、高分解能透過型電子顕微鏡を用いた測定により定められる0.5nmないし1.6nmとする
請求項17に記載のMTJナノピラー構造の形成方法。
【背景技術】
【0002】
シリコンCMOSと磁気トンネル接合技術とを組み合わせた磁気抵抗効果型ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)は、SRAM、DRAMおよびフラッシュメモリ等の現行の半導体メモリに対して大いに競争力を有する主要な新興技術として注目されている。同様に、C. Slonczewskiによる非特許文献1に記載のスピン注入(以下、スピントランスファートルクまたはSTTとも称する。)磁化反転は、STT−RAM等のギガビット規模のスピントロニック素子に応用できる可能性があることから、近年多大な関心を呼んでいる。このSTT−RAMデバイスは、後述するように、導線に電流を流して発生させた外部磁界によってフリー層の磁化方向を変化させることにより情報の書き込みを行うフィールドMRAMとは異なる原理で動作するものである。
【0003】
図1は、代表的なSTT−RAMデバイスのメモリセルの断面構造を表すものである。
図1に示すSTT−RAM1は、P型の半導体基板2に形成されたトランジスタのゲート5、ソース3およびドレイン4と、ゲート5上に設けられたワード線(WL)7と、ソース線9とを備えている。また、STT−RAM1は、ソース線9およびワード線7の上方に設けられた下部電極(BE)10と、この下部電極10とビット線(BL)12との間に設けられた磁気トンネル接合(MTJ)セル11と、ソース3とソース線9とを接続するための銅スタッド6と、下部電極10とドレイン4とを接続するためのバイアスタッド13および銅スタッド8とを備えている。トランジスタのソース3およびドレイン4は、MTJセル11に直流電流が流れるように、MTJセル11に接続されている。
【0004】
フィールドMRAMおよびSTT−RAMは、いずれもトンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)効果に基づくMTJ素子を有している。このMTJ素子の積層構造は、2つの強磁性層が薄い非磁性誘電体層により分離された構造を有している。MTJ素子は、通常、第1の導電線等の下部電極と、第2の導電線である上部電極との間の、上部電極と下部電極とが交差する部分に形成されている。
【0005】
MTJ素子の積層構造は、例えば、ボトム型のスピンバルブ構造を有する。この場合、シード層と、反強磁性(AFM:Anti-Ferromagnetic)ピンニング層と、強磁性ピンド層と、非磁性誘電体からなる薄いトンネルバリア層と、強磁性フリー層と、キャップ層とが、下部電極の上に順次形成されている。反強磁性層は、ピンド層の磁気モーメントを一定方向に保持する。ピンド層は、例えば、x方向に磁化された隣接する反強磁性層との交換結合によってx方向に固定された磁気モーメントを有する。フリー層は、ピンド層の磁気モーメントに対して平行または反平行な磁気モーメントを有する。トンネルバリア層は、導電電子の量子力学的トンネル効果によってこのトンネルバリア層を電流が流れるほどに薄い厚さを有している。ここで、フィールドMRAMの場合、フリー層の磁気モーメントは、外部磁場に応じて変化するようになっている。一方、STT−RAMの場合、フリー層の磁気モーメントは、注入されたスピン電子によって変化するようになっている。
【0006】
フリー層とピンド層との磁気モーメントの相対角度によって、トンネル電流すなわちトンネル接合抵抗が決定される。センス電流が、上部電極から下部電極へとMTJ素子の積層面と直交する方向に通過するとき、フリー層およびピンド層の磁化方向が平行状態(「1」記憶状態)の場合には低抵抗値が検出され、それらの磁化方向が反平行状態(「0」記憶状態)にある場合には高抵抗値が検出される。
【0007】
膜面垂直通電(CPP:Current Perpendicular to Plane)構造のフィールドMRAMの場合、MRAMセルに記憶されている情報は、そのセルの内部を上から下に流れるセンス電流を介してフリー層の磁気的状態(抵抗レベル)を検出することにより読み出される。書き込み動作に際しては、MTJ素子を上下方向に挟んで交差する二つの導電線としてのビット線およびワード線に電流を流すことにより外部磁場を発生させ、フリー層の磁気的状態をしかるべき状態に変化させることにより、情報がMRAMセルに書き込まれる。一方の線(ビット線)は、ビットの磁化容易軸に対して平行な磁場をもたらし、他方の線(デジット線)は、その磁場に垂直な方向(困難軸方向)の成分をもたらす。それらの線の交差した部分には、MTJ素子の反転閾値をちょうど超えるように設計されたピーク磁場が生じる。
【0008】
MTJ素子が高い性能をもつかどうかは、「dR/R」として規定されるMR比(抵抗変化率)の値が高いか否かで決まる。ここで、「R」はMTJ素子の最小の電気抵抗値であり、「dR」は、フリー層の磁気状態を変化させたときに観測される電気抵抗の変化値である。TMR比および抵抗値の均一性が高い(すなわち、ピンド層の磁化とフリー層の磁化とが平行であるときの抵抗値のばらつき(共分散Rp_cov)が小さい)ことや、スイッチング磁場が低い(保磁力Hcが小さい)こと、磁歪(λs)が低いことは、従来のフィールドMRAMにおいて望ましいことであった。
【0009】
一方、スピンRAM(STT−RAM)では、高い磁歪(λs)と高い保磁力Hcとを有することが、より優れた熱安定性のための高い異方性をもたらす。このことは、以下の(a)〜(c)によって成し遂げられる。
(a)フリー層の磁化およびそのスイッチング動作(すなわち、磁化反転動作)が十分に(適切に)制御されていること。
(b)大きな交換磁界と高い熱安定性とを有するピンド層の磁化が十分に(適切に)制御されていること。
(c)トンネルバリア層が完全無欠(integrity)であること。
【0010】
接合抵抗Rと形成面積Aとの積で表される固有の面積抵抗(RA)値や、高い破壊電圧Vbなどによって特徴づけられる良好なバリア特性を得るためには、反強磁性ピンニング層やピンド層における平滑かつ緻密な結晶成長によって促進される、ピンホールの無い均質なトンネルバリア層が必要である。ともに1μm以下の磁化容易軸方向寸法および磁化困難軸方向寸法によって定まる接合面積(すなわち、1μm
2 以下の接合面積)を有する磁気トンネル接合においては、そのRA値は比較的小さく(例えば10000Ωμm
2 未満)すべきである。
【0011】
MRAMデバイスでは、電流線に書込電流を流すことで外部磁場(誘導磁場)を発生させ、その誘導磁場によってフリー層の磁気モーメントの方向をスイッチング(反転)させている。しかしながら、MRAMセルのサイズを縮小するにつれ、その誘導磁場の発生による問題、すなわち、隣接するセルへの誤った書き込みが生じ易くなってきている。したがって、超高密度のMRAMデバイスを製造するにあたっての重要な点は、半選択(選択対象MRAMセルに隣接するMRAMセルへの誤書込)の問題を除去するために、大きな磁化反転マージン(読み出しマージン)を確保することである。
【0012】
このような背景から、スピン注入トルク(スピントランスファートルク)デバイスと呼ばれる新しいタイプのデバイスが開発されている。このスピン注入トルク(STT)−RAMは、それまでのMRAMと比較して、次のような利点を有する。すなわち、半選択の問題による隣接するセルへの誤った書込動作を回避することができる。スピントランスファー効果は、強磁性層/非磁性スペーサ層/強磁性層という多層構造がもつスピン依存性の電子伝導特性に起因するものである。スピン偏極電流(電子のスピン方向が一方向に偏った電流)が磁気多層構造の内部を、その積層方向に流れる際、強磁性層へ入射する電子のスピン角運動量(spin angular moment)が、その強磁性層と非磁性スペーサ層との界面近傍において、その強磁性層の磁気モーメントと相互に作用する。この相互作用を通じて、電子の角運動量が強磁性層に移動することとなる。その結果、スピン偏極電流の電流密度が十分に高く、多層構造の寸法が小さければ、そのスピン偏極電流によって強磁性層の磁化方向を反転させることができる。STT−RAMと従来のフィールドMRAMとの違いは、書込機構が異なるだけであり、読出機構は同じである。
【0013】
STT−RAMを90nmテクノロジーノードにおいて実現可能とするには、極小のMTJ素子(本明細書では、ナノピラーまたはナノマグネットとも称する。)が、AlOxからなるトンネルバリア層とNiFeからなるフリー層とを有する従来のものよりも遙かに高いTMR比を発揮する必要がある。さらに、例えば100nmのゲート幅につき100μAを供給可能な一般的なCMOSトランジスタによって駆動するには、臨界反転電流密度Jcを10
6 A/cm
2 未満とする必要がある。なお、臨界反転電流密度Jcとは、強磁性層(フリー層)の磁化方向を反転させ得る最小限のスピン偏極電流の密度である。また、90nmテクノロジーノードとは、線幅の最小値および隣接する線同士の間隔の最小値が90nm以下となるようにパターニングを行う技術ノードである。
【0014】
スピントランスファー効果を利用したスイッチングを行うための臨界電流Ic[=(Ic
++Ic
-I)/2]は、180nmテクノロジーノードにおけるMTJ素子(接合面積が0.2μm×0.4μmのもの)では、数mAである。臨界反転電流密度Jc(=Ic/A)は、10
7 A/cm
2のオーダーである。このような、スピントランスファー効果を引き起こすような高い臨界反転電流密度は、AlOxやMgOなどからなる薄いトンネルバリア層を絶縁破壊する可能性がある。したがって、STT−RAMなどのギガビット規模の高密度デバイスにおいては、MTJデバイスの電気的破壊(絶縁破壊)を回避し、かつ、下方に配置されるCMOSトランジスタ(特定のメモリセルを選択する際のスイッチング電流を供給するもの)と適合させるために、臨界電流Ic(および臨界反転電流密度Jc)を1桁以上低減させることが望ましい。
【0015】
あるMTJセルに情報が書き込まれた場合、回路は、MTJセルが高抵抗状態または低抵抗状態のいずれであるのかを検出(読出)できなければならない。TMR比の均一性およびMTJ素子の絶対抵抗値は、フィールドMRAMやSTT−RAMにおいて極めて重要である。読出動作においては、MTJ素子の抵抗の絶対値が、固定された抵抗状態のリファレンスセルと比較されるからである。言うまでもなく、読出プロセスは、アレイ中のMTJセルの抵抗値のばらつきに起因する、いくつかの統計上の問題をもたらす。メモリブロック内の選択セルの抵抗値が大きなばらつきを示す場合(すなわち、共分散Rp_cov,Rap_covが大きい場合)、これを参照セルの抵抗値と比較すると信号のエラーが生じる可能性がある。良好な読み取り動作のマージンを確保するためには、TMR/Rp_cov(またはTMR/Rap_cov)を、最小でも12とする必要があり、好ましくは15よりも大きく、最も好ましくは20よりも大きくするとよい。なお、Rpは、MTJ素子において、ピンド層の固定磁化方向と平行な方向の磁化を有するフリー層の抵抗値であり、Rapは、ピンド層の固定磁化方向と反平行な方向の磁化を有するフリー層の抵抗値である)。
【0016】
固有の臨界反転電流密度Jcは、IBM社のSlonczewskiによって以下の式(1)で表されることが示されている。
【0017】
Jc=2eαM
st
F(H
a+H
k+2πM
s)/hη …(1)
ここで、eは電子電荷、αはギルバートダンピング定数、M
sはフリー層の飽和磁化、t
Fはフリー層の膜厚、H
aは外部磁界、H
kは異方性磁界、2πM
sはフリー層の減磁界、hはプランク定数、ηはスピン偏極率である。
【0018】
非特許文献1および非特許文献2は、C. SlonczewskiによるSTT−RAMに関連した二つの刊行物である。MTJ素子のF/I/F構造体(Fは強磁性層、Iは絶縁体)において、スピン緩和距離が強磁性層の厚みよりも大幅に大きい場合、スピンの連続性が正確に維持され、すなわち、左右両方からの界面トルクの和がスピン電流の正味の大きさと等しくなる。一方の側の強磁性層では磁化が固定されているので、他方の側の磁化は、
T=−(hP
LJ
0 /2e)sinθ
という式で表される面内トルク(in-plane)Tを受けることとなる。ここで、hはプランク定数、P
L はトンネル偏極因子、J
0 は電流密度、eは電子電荷、θはトンネルバリア(絶縁体)層を挟む強磁性層の磁化の相対角である。
【0019】
通常、フリー層の減磁場2πM
s(数千[Oe]=数千×10
3/4π[A/m])は、一軸異方性磁場Hkおよび外部磁場H
a(約100[Oe]=10
5/4π[A/m])よりも大幅に大きいことから、外部磁場H
aや異方性磁界H
kが臨界反転電流密度Jcへ及ぼす影響は小さなものである。よって、式(1)は、以下の式(2)のように表現できる。
【0020】
Jc∝αM
sV/hη …(2)
ここで、Vは磁気ボリューム(M
s×t
FA)であり、熱の安定性を示す項(K
uV/k
bT)に関連する。なお、K
uは、磁気異方性エネルギーであり、k
bはボルツマン定数、Tは絶対温度である。
【0021】
その他、STT−RAM(スピンRAM)構造体に関する他の刊行物は、以下のものが挙げられる。
【0022】
M.Hosomiらによる非特許文献3には、CoFeBからなるピンド層およびフリー層と、RFスパッタ法により形成されたのち350℃,10kOe(=10
7/4π[A/m])の条件下でアニールされたMgOからなるトンネルバリア層とを有するMTJセルを備えた4KビットのSTT−RAMについて記載がなされている。MTJセルは、100nm×150nmの楕円形の平面形状を有している。トンネルバリア層は、面方位が(001)のMgOからなり、1nm(10オングストローム)未満の厚さと、約20Ωμm
2 の面積抵抗RAとを有している。MTJセルの固有の抵抗変化率dR/Rは160%であるが、読み取り動作中(0.1Vのバイアス電圧を印加した状態)では、抵抗変化率dR/Rは約90%から100%である。10nsのパルス幅を用いた場合でのスピン注入磁化反転に要する臨界反転電流密度Jcは、およそ2.5×10
6A/cm
2 である。4Kビット回路における高抵抗状態から低抵抗状態への遷移時および低抵抗状態から高抵抗状態への遷移時に対する書き込み電圧分布は、良好な書き込みマージンを示している。低抵抗状態の抵抗値(Rp)および高抵抗状態の抵抗値(Rap)における抵抗分布は、約4%のばらつき(すなわち、シグマまたは共分散Rp_cov,Rap_covが4)を有している。したがって、読み出し動作の場合では、TMR(0.1Vのバイアス)/Rp_covは、20を超える。
【0023】
T. Kawaharaらによる非特許文献4は、CoFe(B)/高周波(RF)スパッタMgO/CoFe−NiFeという組成を有するMTJ素子を備えたプロトタイプRAMについて記載している。この非特許文献4によれば、厚さ1.0nmのMgOトンネルバリアを用いた場合の面積抵抗RAは、約20Ωμm
2である。アニール温度を350℃にした場合のトンネル磁気抵抗比TMRは100%におよぶ。100nm×50nmの楕円形のMTJ素子に対する100nsパルスを用いたスイッチング(反転)電圧は約0.7Vであり、臨界反転電流密度Jcは2〜3×10
6A/cm
2である。反転動作は、熱アシストを通じて行っている(書き込みパルス:100ns)。
【0024】
S. Ohらによる非特許文献5は、従来のリソグラフィ技術とドライエッチング技術とを用いて、50nm以下の大きさのMTJセルを作製し、これによりGb密度を得ることを開示している。CoFeB/MgO/CoFeBというMTJ構造についての磁性材料を最適に調整することにより、10nsパルスを用いた場合に、1.63×10
6A/cm
2という低い臨界反転電流密度(反転電流密度)Jcが得られている。
【0025】
S. Hondaらによる非特許文献6および非特許文献7は、Fe−SiO
2膜およびCo−SiO
2膜における磁気特性およびTMR特性の厚さ依存性についての検証を行っている。Fe顆粒(または粒子)はFe−OシェルまたはFe(Si)−Oシェルによって覆われており、スパッタFe(40原子%)−Si0
2膜に対する遊離Fe(FeSi)顆粒の直径は、1.0nm〜2.5nmの範囲に分布している。Co−SiO
2グラニュラー膜の場合、Co顆粒を覆う非磁性シェルの形成が極めて抑制されることから、遊離Co顆粒の直径は、その厚さと同程度(すなわち、柱状成長)となる。
【0026】
特許文献1には、TMR素子において、酸素雰囲気下のMgターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリングを介して、強磁性層の上に第1のMgOトンネルバリア層を形成したのち、この第1のMgO層の上に、MgO層を無酸素雰囲気下でスパッタ成膜することにより、第2のMgO層を形成することが記載されている。
【0027】
MgOトンネルバリア層を形成するための自然酸化(NOX:Natural Oxidation)法に関する本出願人による特許出願として、例えば、特許文献2ないし特許文献4が挙げられる。特許文献2は、ラジカル酸化(ROX:Radical Oxidation)法を用いて第1のMg層を酸化させ、第2のMg層を成膜したのち、NOX法を用いて第2のMg層を酸化させる方法を開示している(積層構造の最上部層として、第3のMg層を形成することもできる)。特許文献3は、NOX法を用いて第1のMg層を酸化させたのち、このMgO層の上に第2のMg層を形成する方法を開示している。特許文献4は、STT−MRAMにおいて、0.5nm〜2nmの厚さを有するMgOトンネルバリア層を開示している。
【0028】
特許文献5は、ピンド層をピン止めするAFM2層(例えば、MnPt)よりも低いブロッキング温度を有するAFM1層(例えば、IrMn)によってピン止めされた軟磁性フリー層を含むMTJ素子を開示している。このMTJ素子では、書き込み動作中、AFM1層のブロッキング温度よりも高くAFM2層のブロッキング温度よりは低い温度の誘導熱を生じさせることにより、AFM1層のピン止めに依存せずにより反転を発生し易くすることを可能としている。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本実施の形態は、低い臨界反転電流密度Jc
0および高い熱安定性が得られ、これにより64MbのSTT−RAMを含む高度なデバイスに必要とされる高い性能が確保可能なMTJ素子(MTJナノピラー構造)を提供するものである。また、本実施の形態は、超高密度STT−RAMデバイスに用いられるMTJ素子の形成方法を含むものである。以下、ボトム型スピンバルブ構造を例として本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれには限定されず、例えば、トップ型スピンバルブ構造やデュアル型スピンバルブ構造を採用してもよい。
【0046】
本明細書において、「上面視」とは、STT−RAMデバイスの基板面に対する上方の位置からの視点として定義される。また、以下の各実施の形態で説明するフリー層構造の各磁性層およびNCC層の厚さは、本出願人による測定尺度に基づいており、高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM:High Resolution-Transmission Electron Microscopy)を用いた測定によって定められる場合よりも薄くなっている。したがって、1.3倍の変換係数を適用することが好ましく、例えば、本発明の実施の形態の1.35nm厚の強磁性層は、産業界で用いられているHR−TEMによる測定に基づく場合では、約1.8nmの厚さとなる。本実施の形態おける他の層の厚さの値は、HR−TEMによる測定に基づいている。
【0047】
本出願人は、未公開の関連出願(米国特許出願第12/284,066号)において、Co
40Fe
40B
20/CoFeを含むAP1層と、MgOトンネルバリア層と、Co
40Fe
40B
20/NCC/Co
40Fe
40B
20を含むフリー層とを有し、NCC層がFeSiOから構成された、MTJ素子を、その一実施形態として開示している。この構造では、スピン電流がナノ導電チャネルのみを通過することから、多量のジュール熱が発生する。これにより、フリー層の書き込みが熱的にアシストされるようになっている。
【0048】
上記関連出願の場合、100nm×150nmの楕円形状を有するナノマグネットの臨界反転電流密度Jc
0は、2.5×10
6A/cm
2であり、従来の手法により測定された熱安定性は、約30である。しかしながら、既存の技術は、64Mb級のSTT−RAM、256Mb級のSTT−RAM、あるいはさらに高密度のデバイス等の、高度なデバイスに要求されるすべての要件を満たしていなかった。そこで、本出願人は、STTスイッチングに基づくMTJ素子のさらなる改善の必要性を認識するに至った。詳細には、高い面密度を有する最先端の磁気デバイスへのMTJ素子の導入を可能とするために、以下に列挙するすべての特性(a)〜(d)を実現することが望まれる。
【0049】
(a)書き込み電圧が400mV未満(エラーレートが10
-9以下の場合において)であること。
(b)読み出し電圧が100mVよりも高い(エラーレートが10
-9以下の場合において)こと。
(c)データ保存のための保磁力Hcが100Oe(=10
5/4π[A/m])よりも高いこと。
(d)熱安定性係数Ebが60よりも高いこと。
さらに、TMR比/Rp_covが少なくとも15、好ましくは20以上であり、臨界反転電流密度Jc
0が約2×10
6A/cm
2未満であることが望ましい。
【0050】
[第1の実施の形態]
図2は、本発明の一実施の形態におけるMTJナノピラー構造の断面構造を表すものであり、例えば
図1に示したSTT−RAMのMTJセル11に相当するものである。
このMTJ素子は、下部電極32と、STT−RAMアレイ(図示せず)のビット線43との間に、複数の層(シード層33ないしハードマスク層42)を有する。下部電極32は、例えば、下部シード層、中間導電層および上部キャップ層(いずれも図示せず)を有する複合体として構成される。具体的には、下部電極32は、例えば、TaN/NiCr/Ru/Taなる構造を有する。最下部のTaN層(図示せず)は、酸化シリコン等からなる基板としての絶縁層31の上に形成され、最上部のTa層は、シード層33に接している。絶縁層31は、例えば、その内部に金属からなるバイアスタッド(ビアスタッド)30を有し、これによりビット線43と、基板(絶縁層31)の下方の下部構造のトランジスタのドレイン(図示せず)とを電気的に接続可能にしている。なお、例えば、TaN層の厚さは3nm、NiCr層の厚さは3nm、Ru層の厚さは10nm、Ta層の厚さは12nmである。下部電極32の各層の厚さを増減させて調整することにより、最適な性能が得られるようにすることができる。
【0051】
他の例として、下部電極32は、スパッタエッチング処理またはイオンミリング処理により非晶質面が形成されたTa層(図示せず)を少なくとも有するように構成してもよい。また、例えば、本出願人による米国特許第7,208,807号明細書に記載の方法を用いて、下部電極32のTa層の表面に酸素界面活性層(OSL:Oxygen Surfactant Layer)を形成するようにしてもよい。この酸素界面活性層は、Ta層をスパッタエッチング処理したのち、このTa層を一定期間、酸素雰囲気下に暴露させることにより形成可能である。
【0052】
下部電極32が、非晶質タンタル(非晶質Ta)から構成された上面を有することは、この上に順次形成される他のMTJ層の均一かつ高密度な結晶成長を促進させる上で特に有利である。
【0053】
トンネルバリア層39およびフリー層40は、MTJ積層構造において最も重要な役割を果たす層である。トンネルバリア層39は、ウェハ上に極めて均一に形成される必要がある。トンネルバリア層の厚さに僅かなばらつきがあると、抵抗値および面積抵抗値RAに大きなばらつきが生じてしまうからである。
【0054】
本実施の形態では、例えば、下部電極層をパターニングすることにより下部電極32のアレイを形成したのち、この下部電極32の上に酸素界面活性層(図示せず)を形成する。次に、絶縁層(図示せず)を成膜したのち、周知の方法を用いた平坦化処理を行うことにより、絶縁層の表面が下部電極32(下部電極と酸素界面活性層との積層構造)の表面と同一平面となるようにする。
【0055】
次に、上記のようにパターニングした下部電極32の上に、シード層33と、反強磁性(AFM:Anti-Ferromagnetic)層34と、シンセティック反強磁性(SyAF:Synthetic Anti-Ferromagnetic)ピンド層35と、MgOトンネルバリア層39と、フリー層40と、キャップ層41と、ハードマスク層42とを順次形成することにより、MTJナノピラー積層構造を作製する。シード層33は、好ましくはNiCrから構成される。ただし、NiFe、NiFeCr、または他の適したシード層の材料を用いてもよい。下部電極32が酸素界面活性処理されたα−Ta(非晶質Ta)表面を備えるようにすると共に、この表面上にNiCrを有するシード層33を成長させるようにした場合には、NiCrに滑らかで緻密な(111)方向の結晶配向が生じ、これにより、それ以降順次形成される他のMTJ層において滑らかで高密度の結晶成長が促進される。
【0056】
反強磁性層34は、好ましくはMnPtから構成され、12nmから20nmの範囲の厚さを有する。ただし、約5nmから10nmの厚さのIrMnにより構成するようにしてもよい。また、反強磁性層34を、NiMn,OsMn,RuMn,RhMn,PdMn,RuRhMn,またはMnPtPd等の他の材料から構成するようにしてもよい。
【0057】
シンセティック反強磁性層35は、AP2層/結合層/AP1層構造を有し、これによりMTJ素子の熱安定性を向上させるとともに、フリー層40に加わる層間結合磁界(オフセット)Hinを低減させている。AP2層36はCoFeから構成され、結合層37はルテニウム(Ru)から構成されることが好ましい。AP1層38は、CoFeもしくはCoFeB、またはそれらの組み合わせ(CoFeB/CoFe等)から構成されることが好ましい。本実施の形態の場合、AP1層38はCoFeB/CoFeから構成され、非晶質CoFeBを有するフリー層40との組み合わせで用いられる。他の例として、AP1層38はCoFeBから構成され、結晶性CoFeBを有するフリー層40との組み合わせで用いられるようにしてもよい。この結晶性CoFeBフリー層は、例えば、CoFeB/NCC/CoFeBなる構造を有するように形成される。ここでのNCC(ナノ電流チャネル)層は、実質的に非晶質特性を有している。
【0058】
本実施の形態の重要な特徴のひとつは、MgOトンネルバリア層39の形成方法にある。
図3は、MgOトンネルバリア層39を形成する際の各工程を示すフローチャートである。本出願人は、酸素界面活性層をMgOトンネルバリア層39に挿入することが、絶縁破壊電圧(Vbd:Breakdown Voltage)における有害なソフトブレークダウン(SBD:Soft Breakdown)成分が減少するという点で、従来のMgO層に対して有利であることを発見した。なお、絶縁破壊電圧分布(プロットは図示せず)は、2つのピークをもつ分布を有している場合が多く、この場合、高い方のピーク(モード)は、高い絶縁破壊電圧または標準的な絶縁破壊電圧を示すデバイスによるものであり、低い方のピーク(モード)は、低い絶縁破壊電圧または穏やかな絶縁破壊電圧(ソフトブレークダウン)を示すデバイスによるものである。ソフトブレークダウンは、MgOトンネルバリア層39における欠陥等の不完全性に関連している。
【0059】
本実施の形態では、MgOトンネルバリア層39を形成する際、はじめに、DCマグネトロンスパッタ法を用いて、AP1層38の上に、0.5nmから0.8nmの厚さ(好ましくは0.6nm厚)を有する第1のMg層を成膜し(ステップS100)、次に、自然酸化(NOX:Natural Oxidation)法によるその場(in-situ)酸化処理を行う(ステップS101)。ステップS100およびステップS101は、例えば、スパッタ成膜装置の酸素チャンバ内で行う。なお、この第1のMg層の厚さは、本出願人による関連出願(米国特許出願番号第12/284,066)に記載の第1のMg層(約0.8nm厚)よりも薄くなるようにしている。そのため、本実施の形態では、自然酸化処理の酸素量を相対的に少なくするようにしている。例えば、0.8nm厚のMg層の酸化を完了させるのに必要な酸素量が1リットルであると仮定した場合、0.6nm厚のMg層の場合では、例えば1リットルの約75%の酸素量が必要となる。
【0060】
次に、酸化させた第1のMg層の上に、0.3nmから0.5nmの範囲の厚さ(好ましくは0.3nm厚)を有する第2のMg層をスパッタ成膜する(ステップS102)。次に、この第2のMg層を、例えばスパッタ成膜装置の酸素チャンバにおける極低圧酸素環境に曝すことにより、酸素界面活性層を形成する(ステップS103)。あるいは、第2のMg層を、例えばスパッタ成膜装置内のロードロック室に残留する酸素に曝すことにより、およそ単分子層分の厚さを有する薄い酸素界面活性層を形成するようにしてもよい。最後に、酸素界面活性層の上に、0.2nmから0.4nmの範囲の厚さ(好ましくは0.3nm厚)を有する第3のMg層をスパッタ成膜する(ステップS104)。
【0061】
本出願人による方法は、Mg金属ターゲットを用いてDCスパッタ処理を行うものであり、粒状性のない均一なMg膜を得ることができる。64Mb型のSTT−RAMのMTJ素子に求められる面積抵抗値(RA値)は、約8Ωμm
2未満であり、Mg層の厚さおよび自然酸化の処理条件を調整することによって得ることができる。
【0062】
この自然酸化処理は、例えば、スパッタ装置の酸素チャンバ内において、0.05〜1torr(=(0.05〜1)×1.33322×10
2Pa)の圧力の酸素雰囲気下で、0.1から1.0標準リットル/分(slm:standard liters per minute)の酸素流量により、約30秒から500秒にわたって行われる。この自然酸化処理の結果生じたMgO層の内部の酸素は、第2のMg層へと拡散し、第1のMg層および第2のMg層のほぼすべてが酸化される結果、均一なMgO層からなるトンネルバリア層39が形成されるものと考えられる。さらに、第3のMg層は、酸素界面活性層との接触およびフリー層40内の酸素をゲッターとした酸化作用によって酸化される。なお、抵抗変化率dR/Rを最大限に高めるためには、フリー層40から酸素を除去することが重要である。本出願人が得た結果によると、第2のMg層と第3のMg層との間に上記酸素界面活性層を挿入することにより、より均一なMgOトンネルバリア層39が形成され、これによりソフトブレークダウンが低下することが示された。
【0063】
当業者の間で知られているように、MTJ素子が、面方位が(001)の結晶構造を有する結晶性MgOトンネルバリアと、(001)方向の結晶構造を有するCoFeBフリー層とを有する場合には、コヒーレントトンネリングに由来した非常に高い抵抗変化率dR/Rが得られる。このコヒーレントトンネリングにおいては、強磁性電極の電子対称性が、(001)構造の結晶性MgOトンネルバリアを通過する際に保存される。
【0064】
最も一般的なCoFeBフリー層の組成は、[Co
XFe
(100-X)]
80B
20により表される。ここで、ボロン(B)の含有量は20原子%であり、xはコバルト(Co)の含有量(原子%)を表している。成膜直後(as-deposited)のCoFeB膜は、非晶質相の構造を有し、摂氏300度を超える熱処理によって再結晶化しない限り、非晶質を維持し続ける。なお、CoFeBフリー層は、これと類似するCoFeフリー層よりも幾分高い固有の緩和定数(intrinsic damping constant)を有しているものの、摂氏300度を超える熱処理の結果得られた(001)構造の結晶性CoFeBフリー層は高い分極を有しており、これにより、CoFeフリー層と比較して飛躍的に高い抵抗変化率dR/Rが得られる。ここで、固有の緩和定数とは、いわゆるギルバートのダンピング定数α(上記(1)式参照)に相当するものであり、スピン磁化が平衡状態になるときのレートに関連し、磁性膜のスピンダイナミクスを特徴付けるものである。すなわち、このギルバートのダンピング定数αが増大すると、臨界反転電流密度Jcも増大する。
【0065】
なお、本実施の形態のフリー層40はCoFeBに限定されず、CoFe、CoFeB、またはそれらの組み合わせから構成されるようにしてもよい。
【0066】
S.Ikedaらによる非特許文献8は、Co
20Fe
60B
20/MgO/Co
20Fe
60B
20というAP1層/トンネルバリア/フリー層構造を含むMTJ素子のTMR比は、Co
40Fe
40B
20/MgO/Co
40Fe
40B
20という構造のMTJ素子のTMR比と同様の大きさであることを証明し、これは、MgOトンネルバリア層を有する複数のMTJ素子の中で最も高いTMR比を有するものであることを報告している。M.Ooganeらによる非特許文献9によれば、鉄リッチなCo
20Fe
60B
20の緩和定数は、Co
40Fe
40B
20の緩和定数よりも小さくなることが予測される。
【0067】
本出願人は、上記関連出願(米国特許出願番号第12/284,066)において、STT−RAMのMTJ素子のフリー層における[Co
XFe
(100-X)]
80B
20のxの値を75から50に低下させるとともに、Co
40Fe
40B
20合金がCo
60Fe
20B
20合金よりも高い分極および低い緩和定数を有していることに着目し、Co
60Fe
20B
20合金ではなくCo
40Fe
40B
20合金を用いることによって、低い反転電流密度(臨界反転電流密度)Jcが得られることを開示した。上記の式(2)から表されるように、高い分極および低い緩和定数を有するフリー層を用いることにより、低い反転電流密度(臨界反転電流密度)Jcを得ることができる。さらに本出願人は、CoFeB合金中のxの値を20原子%〜30原子%の範囲に減少させることにより、従来より得られていた反転電流密度(臨界電流密度)Jcよりも、さらに低い反転電流密度(臨界電流密度)Jcが得られることを見出した。例えば、上記xの値が25であるときのCo
20Fe
60B
20/NCC/Co
20Fe
60B
20なる構造を有するフリー層40では、Co
40Fe
40B
20/NCC/Co
40Fe
40B
20構造のフリー層と比較して、低い反転電流密度(臨界反転電流密度)Jcを有している。
【0068】
図4に示すように、本実施の形態のフリー層40は、下部磁性層(FL1層)50と、上部磁性層(FL2層)52と、中間ナノ電流チャネル(NCC)層51とを含む複合体であることが好ましい。中間NCC層51の厚さtは0.6nm〜1.0nmであり、後述するRMO(RM酸化物)、RMN(RM窒化物)、またはRMON(RM酸化窒化物)から構成されたナノ電流チャネル層におけるRM粒子の最小粒径1.0nmとほぼ同じ値となっている。
【0069】
下部磁性層50および上部磁性層52は、いずれも低い磁気緩和定数を有するCoFeBにより構成されることが好ましい。ただし、CoFe、または、CoFeBとCoFeとの組み合わせ(CoFeB/CoFe)により構成されてもよい。上部磁性層52の厚さは、約0.4nm〜1.2nm(HR−TEMによる測定に基づく場合では0.5nm〜1.6nm厚)であり、より好ましくは、約0.6nm〜1.2nmである。一方、下部磁性層50の厚さは、約1.3nmから2.0nm(HR−TEMによる測定に基づく場合では1.8nmから2.4nm厚)であり、より好ましくは、約1.3nmから1.7nmである。したがって、上部磁性層52の厚さは、下部磁性層50の厚さよりも小さくなっている。
【0070】
下部磁性層50は、約1.3nmまたはそれ以上の厚さにより生じると考えられる連続膜を形成するのに十分に大きな厚さを有することが好ましい。ただし、下部磁性層50の厚さを大きくしすぎると、Jc
0(臨界反転電流密度)が増加することになる。一方、上部磁性層52の厚さは、約1.2nm未満に維持され、これにより強磁性結合がない状態での常磁性挙動が得られるようにしている。なお、中間NCC層51を介しての下部磁性層50と上部磁性層52との間の結合は、上部磁性層52に対し強磁性の性質をもたらす。そのため、下部磁性層50が反転すると、この結合が上部磁性層52に作用し、その磁気モーメントの向きを反対方向に配向させる。後述の実施例で説明するように、上部磁性層52の厚さを大きくすると、飽和磁束密度Bsおよび読み出し電圧VRが増加するため好ましいが、反面、Jc
0(臨界反転電流密度)が増加する。
【0071】
本実施の形態において、AP1層38、下部磁性層50、および上部磁性層52がいずれもCoFeBから構成されている場合、そのCoFeBの組成(例えば、Co
20Fe
60B
20)は、それらの各層について同じであることが好ましい。なお、本出願人は、従来の成膜方法において用いられている圧力およびパワーよりも低い圧力および低いパワーを採用することによりCoFeB層の成膜法を改善する方法を見出した。例えば、パワーを約50ワットから約15ワット程度へと減少させるとともに、アルゴンガスの流量を約100sccm(標準立方センチメートル毎分)から約40sccmへと減少させるというスパッタ成膜法の変更により、AP1層38、下部磁性層50、および上部磁性層52がより均一に形成され、MTJ素子の磁気特性を改善することができる。
【0072】
本実施の形態の他の重要な特徴は、
図4に示したように、以下の構造を有する中間NCC層51にある。この中間NCC層51は、RMO(RM酸化物),RMN(RM窒化物),またはRMON(RM酸化窒化物)から構成される。Rは、鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),またはそれらの合金(例えばCoFe等)であり、Mは、シリコン(Si)またはアルミニウム(Al)等の金属である。RM粒子は、金属(M)酸化物、金属窒化物、または金属酸化窒化物からなる絶縁体マトリクス(ここでは、酸化シリコンマトリクス層51b)中の導電性チャネル(ここでは、ナノ導電チャネル(nano-conducting channel)51a)として形成されている。なお、以下では、適宜、「RM粒子」を「R(Si)粒子」とも表記するものとする。
【0073】
例えば、Mがシリコン(Si)の場合、RSiO,RSiN,およびRSiONは複合体であり、この複合体の内部において、導電性のR(Si)粒子(Fe(Si)等)は、隣接する下部磁性層50および上部磁性層52と磁気的かつ電気的に結合しているとともに、非晶質酸化シリコン、非晶質窒化シリコン、または非晶質酸化窒化シリコンからなる絶縁体マトリクスの中に形成されている。Fe(Si)等のR(Si)粒子は、例えば、下部磁性層50から上部磁性層52へと延在した柱状に形成される。下部磁性層50と上部磁性層52とは強磁性結合していることから、同一方向の磁気モーメントを有している。下部磁性層50および上部磁性層52の磁化方向は、AP1層(基準層)38の磁化方向に対して平行または反平行な方向である。
【0074】
また、Rがコバルト(Co)または鉄(Fe)であり、Mがアルミニウム(Al)である場合、CoAlOまたはFeAlOからなる中間NCC層51が得られる。場合によっては、適したRMOスパッタ成膜用のターゲットが製造できないという理由により、RとMとの組み合わせが限定されることが考えられる。例えば、現状の技術では、好適なCo−SiO
2ターゲットを作製可能ではない。ただし、例えば、RターゲットとMOターゲットとを同時スパッタすることにより、RMO層を形成することができる。
【0075】
本実施の形態において、フリー層40をCoFeB/FeSiO/CoFeBにより構成し、キャップ層41をルテニウム(Ru)により構成した場合には、フリー層40のFeSiO部におけるスピン電流は、酸化シリコンマトリクス層51bの内部のナノ導電チャネル51aのみを通過する。このため、ナノ電流チャネル層をもたないCoFeBから構成された一般的なフリー層の場合の約9倍の高い電流密度が生じ、これにより反転磁区核生成(reverse domain nucleation)が促される。その結果、磁区壁は、フリー層40の全体が反転するまでSTT−RAMの連続的なスピン注入電流によって押され続ける。また、局所的な電流密度に起因した加熱作用も、フリー層40の2つのCoFeB層における磁化反転に寄与する。
【0076】
このように、反転磁化粒子がナノ電流チャネル層に存在し、かつ、この粒子が下部磁性層50および上部磁性層52と結合していることから、これらの下部磁性層50および上部磁性層52の磁化反転は、MTJ素子にナノ電流チャネル層が設けられていない場合と比較して格段に容易となる。
【0077】
本実施の形態で説明している単一スピンバルブ構造のMTJ素子は、事実上、デュアルスピンバルブ(DSF:Dual Spin Valve)構造のように挙動する一方、スピン偏極電流がフリー層40とキャップ層41との界面から反射し、フリー層40内に蓄積することから、抵抗変化率dR/Rの減少が発生しない。また、横方向のスピン蓄積(transverse spin accumulation)が高まることにより、スピントルクが増加し、反転電流を効果的に減少させることができる。
【0078】
本実施の形態において、中間NCC層51がFeSiO(FeSiO
2とも表記される)である場合、単一のFe−SiO
2(Fe含有量:25原子%)ターゲットによるRFマグネトロンスパッタ法を用いて、0.6nm〜1.5nm、好ましくは0.6nm〜1.0nm、より好ましくは0.8nm〜1.0nmの厚さの中間NCC層51を成膜する。上記の非特許文献6によると、SiO
2マトリクス中におけるFe(Si)粒子の体積分率(x)は0.115と計算される。遊離Fe(Si)粒子の直径は、1.0nm〜2.0nmの範囲にあることが認められた。
【0079】
本出願人は、下部磁性層50と上部磁性層52との間のナノ導電チャネル51aの均一性を確保するために、粒子直径分布の下限値(1.0nm)を、プロセスレコード(POR:Process of Record)の中間NCC層51の厚さとして設定した。
【0080】
中間NCC層51の厚さが約1.0nmよりも大きくなると、いくつかのFe(Si)粒子がナノ電流チャネルとしての機能を発揮せず、中間NCC層51が高抵抗となることにより、複合フリー層40を含むMTJ素子の面積抵抗RAおよび共分散Rp_covが増加することになる。なお、本実施の形態の中間NCC層51は、本出願人による測定尺度に基づいた場合では、FeSiO0.8(またはNCC0.8)として表され、0.8nmの厚さをもつが、HR−TEM装置を用いて計測した実厚さは、1.0nmである(約1.3倍厚さが大きい)。一方、中間NCC層51の厚さが小さくなり過ぎると、下部磁性層50と上部磁性層52との間の結合が大きくなりすぎてしまい、性能が劣化することになる。
【0081】
HR−TEMを用いて中間NCC層51を観察した場合、この中間NCC層51は、MgOトンネルバリア層39と同様に、平坦かつ滑らかな連続膜として成長していることがわかる。なお、RMO,RMN,またはRMONから構成される他の層については、RM粒子サイズ分布における最小粒径に応じて、1.0nmとは異なる最適な厚さを有してもよい。
【0082】
図5は、本発明の他の実施の形態に係る、二重のNCC構造を有するフリー層(以下、二重NCCフリー層40Dと称する)を示す拡大断面図である。この二重NCCフリー層40Dは、
図4に示したNCCフリー層構造(中間NCC層51を有するフリー層40)に加え、上部磁性層52の上に順次形成された、第2の中間NCC層(NCC2層)53と第3の磁性層(FL3層)54とをさらに含む構成を有している。第2の中間NCC層53は、中間NCC層51と同様に、RMO(RM酸化物),RMN(RM窒化物),またはRMON(RM酸化窒化物)から構成される。Rは、鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),またはそれらの合金(例えばCoFe等)であり、Mは、シリコン(Si)またはアルミニウム(Al)等の金属である。RM粒子は、金属(M)酸化物、金属窒化物、または金属酸化窒化物からなる絶縁体マトリクス(例えば酸化シリコンマトリクス層53b)中の導電性チャネル(例えばナノ導電チャネル53a)として形成されている。中間NCC層51および第2の中間NCC層53は、いずれも、例えば0.6nm〜0.7nmの厚さを有し、好ましくは0.6nmの厚さを有する。
【0083】
この二重NCC構造は、通常約0.8nm厚である中間NCC層51を1つ設けた場合よりも、NCC層の合計厚み(中間NCC層51の厚さと第2の中間NCC層53との厚さの合計)が大きい。第2の中間NCC層53は、例えば、上述した中間NCC層51と同様に、金属(M)酸化物、金属窒化物、または金属酸化窒化物の絶縁体マトリクス中に形成されたR(M)粒子を有する。したがって、フリー層40の磁化反転を熱アシストするための熱は、柱状のナノ導電チャネル51aのみによる場合と比較して、柱状のナノ導電チャネル51aおよびナノ導電チャネル53aによってさらに多く発生する。
【0084】
この二重NCCフリー層構造では、例えば、下部磁性層50の厚さは1.3nmから2.0nm、上部磁性層52の厚さは0.4nmから0.5nm、第3の磁性層54の厚さは、0.4nmから1.2nmである。下部磁性層50、上部磁性層52および第3の磁性層54は、いずれも、[Co
XFe
(1-X)]
80B
20(x=10〜30、好ましくは20〜30)により表される組成を有することが好ましい。また、これらの下部磁性層50、上部磁性層52および第3の磁性層54のうちの1つ以上の磁性層が、例えばCoFe、またはCoFeとCoFeBとの組み合わせから構成されるようにしてもよい。
【0085】
キャップ層41は、フリー層40の上に形成され、例えば、ルテニウム(Ru)から構成されている。キャップ層41の厚さは、1.0nmから3.0nmであり、好ましくは3.0nm厚である。あるいは、キャップ層41を、タンタル(Ta)等の1種類以上の他の金属から構成してもよく、この場合、単層もしくは合金層、または、後述するように、2つ以上の金属層の積層体もしくはルテニウムとの組み合わせの積層体から構成してもよい。薄いRu層をキャップ層41として用いた場合には、抵抗変化率dR/Rが増加する上、Jc
0(臨界反転電流密度)も著しく減少する。このJc
0の著しい低下は、Ru層が多数電子に対し強力なスピン散乱効果を発揮することにより、単一の中間NCC層51を有する構造では、上部磁性層52とキャップ層41との界面におけるスピン蓄積が増大し、二重NCCフリー層構造では、第3の磁性層54とキャップ層41との間の界面におけるスピン蓄積が増大することに、主に起因していると考えられる。スピン蓄積が高まることにより、フリー層40の内部のスピン偏極電流が増加する。これにより、上部磁性層54の磁化に作用するスピントルクをさらに生じさせることができる。
【0086】
図6は、キャップ層41を複合キャップ層として構成した場合の部分拡大断面構造を表すものである。なお、
図6に示す構成は、フリー層40が単一NCCフリー層構造である場合のものである。この場合のキャップ層41は、RMO,RMNまたはRMONから構成された下部NCC層41aと、ルテニウム(Ru)から構成された上部Ru層41bとを有する複合体である。下部NCC層41aは、フリー層40の上部磁性層52と接しており、約0.5nm〜0.6nmの厚さを有している。Y.Tserkovnyakらによる非特許文献10に記載されているように、ルテニウムから構成されたキャップ層41は、隣接するCoFeBからなるフリー層40の緩和定数を大幅に増加させることが可能である。また、上記の式(3)により表される関係を考慮すると、フリー層40/キャップ層41の構造を変更することにより、フリー層40の上部磁性層52(特にCoFeBからなる場合)における緩和定数を減少させ、これにより固有の臨界反転電流密度Jcを好ましい値に低下させる点で有利である。本出願人は、中間NCC層51の厚さを0.6nm〜0.7nmに減少させるとともに、RMO,RMN,またはRMON(例えば、FeSiO)からなる約0.5nm〜0.6nmの厚さの下部NCC層41aを、キャップ層41における下部層として挿入することにより、CoFeBからなる上部磁性層52における緩和係数のパラメータが効果的に低下することを発見した。
【0087】
図7に示すように、ハードマスク層42は、例えば、キャップ層41に接しMnPtからなる下部層42aと、この下部層42aの上に形成されたタンタル(Ta)からなる上部層42bとを有する複合体として構成可能である。このMnPt/Ta構造は、MTJナノピラー構造のパターニングに用いられる反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)処理に適合するように、特に設計されたものである。なお、イオンビームエッチング(IBE:Ion Beam Etching)処理を用いる場合には、適宜他の構成のハードマスク層42を用いてもよい。
【0088】
本実施の形態においては、Taからなる上部層42bの厚さは30nm〜50nmであり、好ましくは30nm厚である。MnPtからなる下部層42aの厚さは20nm〜30nmであり、好ましくは25nmである。MnPtからなる下部層42aを用いる理由は、このハードマスク層42をパターニング処理する際に厚い(パターニング分解能の低下の要因となる)フォトレジスト層を必要とする、60nm厚のTaハードマスク層を用いる必要性を避けるためである。なお、ハードマスク層42がMnPtのみからなるようにしてもよい。
【0089】
以上の構成を有する下部電極32およびMTJ素子の各層(シード層33ないしハードマスク層42)は、酸化シリコンや酸化アルミニウム等からなる絶縁層としての基板31の上に順次形成される。この基板31に設けられた金属のバイアスタッド30は、その下方の下部構造体に設けられたトランジスタのドレイン(図示せず)に接続されている。トランジスタは、MTJ素子の各層をパターニングすることによってMTJナノピラー構造の形成が完了し、このMTJナノピラー構造の上にビット線を形成したのちにおいて、ビットセル(MTJ素子)の抵抗状態を設定する記録動作または再生動作に際して用いられる。
【0090】
なお、従来のMRAMとは異なり、STT−RAMにおけるMTJ素子の磁化反転動作は、ビットセルの内部に電流を通過させることにより行われるのであって、ワード線およびビット線に流れる電流によって生じた誘導磁場によるものではないことに注意する必要がある。また、本実施の形態では、下部電極32のxy面方向の面積は、その上部に設けられたMTJ素子の各層(シード層33ないしハードマスク層42)のxy面方向の面積よりも大きくしている。
【0091】
上述した各層(シード層33ないしハードマスク層42)を有するMTJ積層構造は、下部電極32を形成したときと同一のスパッタ成膜装置を用いて成膜する。そのようなスパッタ装置としては、例えば、各々が5つのターゲットを有する3つの物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)チャンバと、酸素チャンバと、スパッタエッチングチャンバとを有するアネルバ社製のC−7100等がある。複数のPVDチャンバのうちの少なくとも一つは、同時スパッタリングが可能であることが好ましい。
【0092】
スパッタ成膜は、例えば、超真空下でアルゴンスパッタガスを用いて、金属または合金からなるターゲットを基板上に成膜することにより行う。下部電極32と、これを覆う上方のMTJ素子の各層(シード層33ないしハードマスク層42)とを、スパッタ装置の単一ポンプダウン後に形成することにより、スループットを向上させることができる。MgOバリア層39を形成する際に用いられる自然酸化処理や酸素界面活性層の形成は、例えば、スパッタ成膜装置の酸素チャンバ内で行う。
【0093】
パターニングした下部電極32の上にMTJ素子の各層(シード層33ないしハードマスク層42)を成膜したのち、このMTJ素子の各層を、例えば、x軸(容易軸)方向に沿った5000〜10000[Oe](=5×10
6/4π〜10
7/4π[A/m])の印加磁場の下で、真空オーブンを用いて高温(例えば摂氏330度〜摂氏360度)で、約1時間から5時間にわたってアニールする。
【0094】
次に、上述した反応性イオンエッチングを含む処理工程を用いて、ほぼ垂直なサイドウォールを有するMTJ素子のアレイを作製する。はじめに、ハードマスク層42の表面を覆うようにフォトレジスト層(図示せず)を形成したのち、周知のフォトリソグラフィ法を用いてこのフォトレジスト層をパターニングする。これにより、上面視で所望のMTJ素子(ナノピラー)の楕円形、円形または他の形状に対応した複数のアイランドパターンをフォトレジスト層に形成する。パターニング処理されたフォトレジスト層は、反応性イオンエッチング装置を用いた第1の反応性イオンエッチング(RIE)処理によってハードマスク層42のTaからなる上部層42bの露出部分を除去する際のエッチマスクとして機能する。
【0095】
次に、例えば、フォトレジスト層を除去したのち、第2の反応性イオンエッチング処理を行うことにより、ハードマスク層42のTaからなる上部層42bによって保護されていない、MnPtからなる下部層42aと、キャップ層41と、その下方のMTJ各層(シード層33ないしフリー層40)とを選択的にエッチングする。その結果、はじめにフォトレジスト層に形成されたアイランドパターンが、MTJ各層(シード層33ないしハードマスク層42)に転写され、MTJナノピラー構造のアレイが形成される。この場合、反応性イオンエッチング処理を用いて、MTJナノピラー構造にほぼ垂直なサイドウォールを形成しているため、従来技術のようにイオンビームエッチングを用いた場合よりも高密度のMTJナノピラーアレイを形成することが可能である。
【0096】
なお、ハードマスク層42がMnPtのみからなるハードマスク層である場合には、反応性イオンエッチング処理を1回行うことによりフォトレジストパターンをハードマスク層42に転写したのち、このハードマスク層42に形成されたパターンを、第2の反応性イオンエッチング処理により、その下方の各層(シード層33ないしキャップ層41)に転写すればよい。
【0097】
[第2の実施の形態]
図8は、本発明の第2の実施の形態のSTT−RAMにおけるMTJナノピラー構造の断面構造を表すものである。本実施の形態では、上記第1の実施の形態のように下部電極層をパターニングして下部電極32のアレイを形成してからMTJ各層(シード層33ないしハードマスク層42)を成膜するのではなく、上面視でMTJナノピラー構造とほぼ同じ形状の下部電極32が形成されるまで上記第2の反応性イオンエッチング処理を継続して行うようにしている。したがって、本実施の形態では、上記第1の実施の形態(
図2)の場合と比べて、STT−RAMアレイにおけるMTJナノピラー配設密度をさらに高めることができる。なお、バイアスタッド32は、下部電極32の下面に接していることが好ましい。
【0098】
上述した第1および第2の実施の形態では、ずれも、MTJナノピラーのアレイを形成したのち、下部電極32および基板31の上(第1の実施の形態)または基板31の上(第2の実施の形態)に、隣接するMTJナノピラー間の隙間を埋める程度に第2の絶縁層(図示せず)を成膜する。そして、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)法を用いて、第2の絶縁層の上部を除去し、ハードマスク層42を露出させる。これにより、第2の絶縁層の表面がハードマスク層42の表面と同一平面に位置するようになる。
【0099】
次に、この第2の絶縁層の上およびハードマスク層42の表面を覆うように、銅(Cu)もしくはアルミニウム(Al)またはこれらの合金等からなる導電性材料を成膜する。そして、周知のフォトレジストパターニング法およびエッチング法を用いて導電層をパターニングし、ハードマスク層42に接するビット線43を形成する。
【実施例】
【0100】
次に、本発明の実施の形態に関するいくつかの実施例について説明する。
この実施例では、作製したMTJ素子の磁気特性を評価するため、4Kbのアラクネ(Arachne)ADM(Array Development Macro)チップを試料として採用した。詳細には、上面視で55nm×210nmの楕円状のナノマグネット(MTJ素子)を作製し、これを試験した。
【0101】
はじめに、比較例として、本発明者らによる以前の設計および方法(本願関連出願の米国特許出願第12/284,066号明細書を参照)に基づく4Kbのナノマグネットを作製した。この比較例に係るMTJ素子の実験結果を表1に示す。
【0102】
この比較例のMTJ素子(以下、比較例サンプルという。)におけるAP1/トンネルバリア/フリー層/キャップ層の構造は、次の通りである。なお、以下の表記において、組成式または元素記号に続く数字は、膜厚をnm単位で示したものである。
【0103】
Co
40Fe
40B
20/(001)MgO/Co
40Fe
40B
201.4/NCC/Co
40Fe
40B
200.6/Ru3.0
【0104】
ここで、NCCは1.0nmの厚さのFeSiOからなるナノ電流チャネル層であり、Ruキャップ層は3nmの厚さである。面方位が(001)のMgOからなるトンネルバリア層は、まず0.8nmの厚さのMg層を成膜し、このMg層に対してその場酸化処理(in-situ oxidation)を行ったのち、得られたMgO層の上に、0.4nm厚のMg層をスパッタ成膜することにより形成した。ここでの、その場酸化処理は、圧力1torr(=1.33322×10
2Pa)、酸素流量1.0標準リットル/分(slm)、処理時間100秒間という条件による自然酸化法である。また、10000[Oe](=10
7/4π[A/m])の印加磁場の下で、摂氏330度で1時間にわたってアニールを行った。このウェハのアニールを行った後の(001)MgO層の厚さは、約1.0nmであった。以下の式(4)に基づく臨界反転電流密度J
COP-AP,J
COAP-Pの値は、30ms,3ms,および300μsにおける反転電流密度J
C+,-を、τ
0=1nsのパルス(熱擾乱の試行周波数に対応)に外挿することにより得られたものである。
【0105】
Jc(τ)=J
CO[1−K
BT/K
uV・ln(τ/τ
0)] …(4)
なお、この式(4)において、K
uは磁気異方性エネルギー、Vはフリー層の体積、K
Bはボルツマン定数であり、lnは自然対数を示す。
【0106】
表1は、下部電極/NiCr4.5/MnPt15/Co
75Fe
252.3/Ru0.75/Co
40Fe
40B
202.1/Mg0.8(NOX)Mg0.4/Co
40Fe
40B
201.4/FeSiO
21.0/Co
40Fe
40B
200.6/Ru3.0という構造を有するMTJ素子の磁気特性を表すものである。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示したパラメータは、4Kビットアレイの中央値である。本出願人は、比較例に係るMTJ素子(面積抵抗RA=7.8)について、書き込み電圧VW(=650mV)を観測した。これは、エラーレートが10
-9以下の場合の書き込み電圧設計値(400mV未満)をはるかに上回る値となっている。また、ソフトブレークダウン(SBD)の3%〜4%という値は、高面密度製品に適用するには高過ぎる値である。上述したように、ソフトブレークダウンSBDが高いということは、MgO層に不完全性があることを意味している。一方、単一のCo
40Fe
40B
20からなるフリー層における緩和定数が0.002であるのに対し、FL1/NCC/FL2(=Co
40Fe
40B
201.4/FeSiO
21.0/Co
40Fe
40B
200.6)という構造を有するフリー層の緩和定数は0.001となっている。
【0109】
次に、本発明の実施の形態に基づき作製したMTJ素子(以下、実施例サンプルという。)を試験することにより、上記した比較例サンプルのMTJ素子に対する性能の向上を評価した。
【0110】
この実験では、次のようにしてMgO層を形成した。まず0.6nmの厚さの第1のMg層を成膜し、自然酸化処理(II)を行ったのち、0.3nmの厚さの第2のMg層を成膜する。そして、この上に酸素界面活性層を形成し、この酸素界面活性層の上に第3のMg層を成膜することにより、MgO層を形成した。ここでの酸化処理(II)は、圧力0.1torr(=1.33322×10Pa)、酸素流量30sccm(標準立方センチメートル毎分)、処理時間100秒間という条件での自然酸化法によるものである。また、より低い臨界反転電流密度J
COが得られるように、AP1層、FL2層およびFL2層の組成をいずれもCo
20Fe
60B
20に変更した。それ以外の他のMTJ素子の層と厚さとは、上述した比較例(表1)と同様である。そして、10000Oe(=10
7/4π[A/m])の印加磁場の下、摂氏330度で1時間にわたってアニールを行った。
【0111】
表2は、下部電極/NiCr4.5/MnPt15/Co
75Fe
252.3/Ru0.75/Co
20Fe
60B
202.1/Mg0.6−NOX(II)−Mg0.3/OSL/Mg0.3/Co
20Fe
60B
201.35/FeSiO
21.0/Co
20Fe
60B
200.55/Ru3.0という構造を有するMTJ素子の磁気特性を表すものである。
【0112】
【表2】
【0113】
まず、飽和磁束密度Bs=0.6を得るため、Co
20Fe
60B
201.35/FeSiO
21.0/Co
20Fe
60B
200.55という構成を有するフリー層について試験を行った。表2に示す面積抵抗RAの目標値は、7〜8Ωμm
2である。同じ面積抵抗RAについてみると、ソフトブレークダウンSBD%は、本発明の実施の形態で説明したMgOトンネルバリア層39の新規な形成方法を用いたことにより、表1に示した実験結果と比較して一桁減少している。また、臨界反転電流密度J
COは、表2に示すものでは、1.2×10
6A/cm
2と大幅に減少している。ただし、保磁力Hcは17.5[Oe](=17.5×10
3/4π[A/m])と予想外に低くなっている。保磁力Hcは、デバイスに十分な熱安定性をもたらす上では、高いことが望ましい。さらに、書き込み電圧VWが351mVであることは、64Mbのデバイスの設計仕様に適合する一方、87mVの読み出し電圧VRは、設計上の要求よりも低い値である。
【0114】
次に、保磁力Hcと読み出し電圧VRとを改善するため、FL1層およびFL2層の厚さがMTJ素子の磁気特性に与える影響について検討した。表3に示す結果は、フリー層の全体的な厚さをほぼ一定に維持しつつ、FL1層の厚みを漸減させる一方、FL2層の厚みを漸増させたときの磁気特性への影響を示している。NCC層の厚さは一定の1.0nmに保った。他のMTJ素子の各層については、いずれも表2に示したものと同様に維持した。
【0115】
表3は、下部電極/NiCr4.5/MnPt15/Co
75Fe
252.3/Ru0.75/Co
20Fe
60B
202.1/Mg0.6−NOX(II)Mg0.3/OSL/Mg0.3/FL1/FeSiO
21.0/FL2/Ru3.0という構造を有するMTJ素子の磁気特性を表す。
【0116】
【表3】
【0117】
表3に示すように、Co
20Fe
60B
201.3/FeSiO
21.0/Co
20Fe
60B
201.0の構造を有するフリー層を備えたMTJ素子の面積抵抗RAは8.9であり、表2に示したMTJ素子(FL1層:1.35nm厚、FL2層:0.55nm厚)と比較して飛躍的に増加している。本出願人は、以前、1.25nm以下の厚さのCo
40Fe
40B
20からなるFL1層を有するフリー層を備えたMTJ素子は常磁性であることを発見したが、このことから、FL1層はグラニュラー膜であることがわかる。明らかに、1.3nmという膜厚のFL1層(表3の最上行)は、連続膜を形成し高い面積抵抗を発揮するには依然として十分な厚さではない。
【0118】
本出願人は、上記した各種実験の結果から以下の結論(1)〜(4)を得た。
(1)B−Hヒステリシスのプロット曲線から導かれる保磁力Hc(すなわち、Hc_at field)は、スピントランスファー効果に起因する。
(2)スピントルク磁化反転における保磁力Hc、臨界反転電流密度J
CO、および書き込み電圧VWは、FL1層(この場合では、CoFeB)により支配的に制御される。
(3)保磁力Hc、臨界反転電流密度J
CO、および書き込み電圧VWの大きさは、FL1層の厚さに比例する。
(4)データ保持の上では、B−Hヒステリシスのプロット曲線から導かれる保磁力Hc(Hc_at field)よりもむしろ残留保磁力Hc_remを用いるべきである。
なお、残留保磁力Hc_remは、以下のように測定される。平行(反平行)状態にする場合、(a)はじめに、高い強度のH(水平)磁場を印加することにより、フリー層の磁化の反平行(平行)状態への移行を開始する。(b)次に、反平行(平行)の磁化が残留した状態となるように、水平磁場を取り除く。(c)そして、反対方向に磁場を印加し、磁化がどのような磁場によって平行(反平行)状態に反転したかを観測する。その反転磁場が残留保磁力Hc_remに対応する。
【0119】
表4は、下部電極/NiCr4.5/MnPt15/Co
75Fe
252.3/Ru0.75/Co
20Fe
60B
202.1/Mg0.6−NOX(II)Mg0.3/OSL/Mg0.3/FL1/FeSiO
21.0/FL2/Ru3.0という構造を有するMTJ素子の磁気特性を表すものである。
【0120】
【表4】
【0121】
表4は、上記表2および表3に示したアルカネウェハから得られた残留保磁力Hc_remを示す。この表4に示した実験においても、NCC層の厚さは一定の1.0nmに保った。表4の第1行に示すMTJ素子の残留保磁力Hc_remは70[Oe](=7×10
4/4π[A/m])であり、依然として100[Oe](=10
5/4π[A/m])という設計値に満たない。第2行目に示すCo
20Fe
60B
201.35/FeSiO
21.0/Co
20Fe
60B
200.55という構造のフリー層を有するMTJ素子の場合、残留保磁力Hc_remは設計値100[Oe](=10
5/4π[A/m])よりも高く、書き込み電圧VWは400mV未満である一方、読み出し電圧VRは依然として設計値に満たない87mVである。第3行目のサンプルのように、厚いFL1層を用いて飽和磁束密度Bsを0.65に増加させると、読み出し電圧VRは大幅に増加した。ただし、臨界反転電流密度J
COも若干増加した。表4の下2行は、いずれも同じフリー層の組成を示しているが、若干異なる自然酸化法の処理条件を用いてMgO層を形成したものであり、異なる面積抵抗値RAを得ている。
【0122】
次に、残留保磁力Hc_rem、書き込み電圧VW、および臨界反転電流密度J
COの各パラメータがFL1層の厚さによって支配的に調整され、また飽和磁束密度BsがFL1層の厚さとFL2層の厚さとの相互補完関係に依存することから、FL1層の厚さを1.45nmに固定し、FL2層の厚さを0.55nmから1.0nmまで変化させたときの効果を調べるための実験を行った。
【0123】
表5は、下部電極/NiCr4.5/MnPt15/Co
75Fe
252.3/Ru0.75/Co
20Fe
60B
202.1/Mg0.6−NOX(II)Mg0.3/OSL/Mg0.3/Co
20Fe
60B
201.45/FeSiO
21.0/FL2/Ru3.0という構造を有するMTJ素子の磁気特性を表すものである。
【0124】
【表5】
【0125】
表5に示す実験結果から、以下の(1)〜(3)が明らかとなった。
(1)FL1層の厚さを固定した場合、FL2層の厚さを増すことにより、飽和磁束密度Bsと残留保磁力Hc_remとを増加させることができる。
(2)FL1層の厚さを固定した場合、飽和磁束密度Bsが変化しても面積抵抗RAおよび書き込み電圧VWはその影響を比較的受けない。
(3)読み出し電圧VRおよび臨界反転電流密度J
COは、FL2層の厚さが増すに伴い増加する。
【0126】
STT−RAMビットセルが不揮発性メモリ用途で継続性(viability)を有するためには、その熱安定性が極めて重要となる。近年、パルス幅の対数値対反転電流の関係式を直線の式にフィットさせることにより、個々のビットから、STT−RAMの熱安定性Ebを定めることが慣習的に行われている。ナノ電流チャネル(NCC)層を有するフリー層では、スピン電流がナノ導電チャネルのみを通過するため、多量のジュール熱が発生する。その結果、このジュール熱がSTT−RAMの熱安定性を示す関数(Eb=Ku・V/k
B・T)を著しく低下させてしまう可能性がある。温度Tが高いと、磁気異方性エネルギーKuが低下するからである。表2に示したMTJ素子の熱安定性Ebは30であり、予想外に低くなっている。
【0127】
実用途のための熱安定性(Eb)を評価するための最も単純な方法は、シャーロック(Sharrock)法を用いることである。この方法によれば、(電流が流れていない)スタンバイ状態における熱安定性が直接得られ、その結果、データの最大保持時間が得られる。保存の際の熱安定性Ebは、常温における残留磁化に対応している。本出願人は、HDK(磁化場減衰)試験を用いて、各種のCoFeB/FeSiO
2/CoFeBというフリー層構造を有する複数のMTJ素子の熱安定性Eb(保存時)を測定した。その結果、HDK試験による熱安定性Ebは、STTの熱安定性Ebの値と比較して約2倍から3倍高いことを発見した。したがって、各実施例において作製したMTJ素子について、より適切なHDK試験を用いて測定した熱安定性Ebは、60から90の範囲にあり、64MbのSTT−RAMの設計値を満たす値となっている。
【0128】
次に、書き込み動作時の熱アシスト効果を調べるために、CoFeB1.4/FeSiO/CoFeB0.6という構造のフリー層を有する一連のナノマグネット(MTJ素子)について、そのFeSiO層の厚さを0.6nm〜0.9nmの範囲(本出願人による測定尺度に基づく)で変化させて試験を行った。なお、本出願人による測定尺度で0.8nm厚を有するNCC(FeSiO)層は、HR−TEM装置を用いて測定した場合の1.0nm厚に等しい。理論上、ナノマグネットにおけるNCC層の厚さが大きくなるにつれて、より多くのジュール熱がFeSiO層に生じ、これによりフリー層の磁化反転がアシストされることになる。
【0129】
実験の一例として、次の組成を有するMTJ素子の積層構造を、アラクネウェハ上に形成した。
【0130】
BE/NiCr4.5/MnPt15/CoFe2.0/Ru0.75/CoFeB1.5/CoFe0.6/MgO/CoFeB1.4/FeSiO(0.6,0.7,0.8,0.9)/CoFeB0.6/Ru3.0/MnPt/Ta
【0131】
この積層構造を成膜したのち、そのウェハに対し、10000[Oe](=10
7/4π[A/m])の印加磁場の下、摂氏265度で2時間にわたってアニールを行った。
他の実験では、上記積層構造を有するMTJ素子を、SiO
2/Siウェハ上に形成(ショートループにより形成)したのち、10000[Oe](=10
7/4π[A/m])の印加磁場の下、摂氏330度で1時間にわたってアニールした。その結果、アラクネウェハ上に形成されたMTJ素子の面積抵抗RAは約14Ωμm
2であり、Siウェハ上に形成された場合の面積抵抗RAは、約5Ωμm
2であることを本出願人は見出した。
【0132】
図9は、約55nm×210nmの大きさのナノマグネットを有するアラクネウェハを測定した結果得られた磁気性能パラメータをプロットした図である。このプロット図は、NCC層の厚さが0.6nmから0.9nmにわたって増加するに伴い、面積抵抗RAが増加すると共に抵抗変化率dR/Rが減少することを示している。
【0133】
図10は、
図9に示した磁気性能パラメータに加え、共分散Rp_cov(線61)をプロットした図であり、NCC層の厚さが増加するに伴い、共分散Rp_covが増加することを示している。この結果は、0.6nm厚のNCC層(FeSiO)では、0.9nm厚のNCC層(FeSiO)と比較して、より多くのナノ導電チャネルが機能していることを意味していると解釈できる。
【0134】
図11は、上記の実験において得られた、NCC層の厚さと反転電圧Vcとの関係を示すプロット図である。図中、Vcは反転電圧を示し、Vb(Vbd)はMgOトンネルバリア層の絶縁破壊電圧を示している。また、Vc
+(線63)は、平行(P:Parallel)状態から反平行(AP:Anti-parallel)状態へ反転したときの反転電圧を示し、Vc
-(線62)は反平行状態から平行状態へ反転したときの反転電圧を示している。パルス幅は100nsであり、フリー層のFL1層およびFL2層はいずれもCo
40Fe
40B
20の組成を有する。このMTJ素子は、アラクネウェハ上に形成されたものであり、面積抵抗RAは約14Ωμm
2である。
図11に示すように、NCC層の厚さが0.6nm(NCC0.6)から0.9nm(NCC0.9)にかけて増加するに伴い、反転電圧Vcが減少している。図中のy軸は、反転電圧をmV単位で示している。
【0135】
上述したように、本発明の実施の形態および実施例に記載した厚さの値は、本出願人による測定尺度に基づいたものであり、したがって、例えば、本出願人による測定尺度では0.8nmであるNCC層の厚さは、HR−TEM層を用いて測定した場合、1.0nmの実厚さとなる。以上の実験結果から、MTJ素子のNCC層が薄くなるにつれて、抵抗変化率dR/Rはより増加し(より好ましくなる)、共分散Rp_covはより減少することを本出願人は見出した。一方、NCC層の厚さが増加するに伴って、反転電圧Vc(臨界反転電流密度Jc)は減少する。このことから、CoFeBのみからなるMTJ素子と比較した場合の、CoFeB/NCC/CoFeB構成のMTJ素子における反転電圧Vc(臨界反転電流密度Jc)の減少は、「熱アシスト」モードを用いた書き込みに起因するものであると結論付けることができる。
【0136】
表6は、上記第1の実施の形態に係る単一NCC層構造のMTJ素子と、上記他の実施の形態に係る二重NCC構造のMTJ素子とを比較すべく、それぞれについての最適構成における磁気特性を示したものである。表6において、単一NCC層構造のMTJ素子(第1行目)と、二重NCC構造のMTJ素子(第2行目)とは、いずれも55nm×210nmの楕円状のナノマグネットを含んでいる。
【0137】
この表6からわかるように、二重NCC構造のMTJ素子では、単一NCC層構造のMTJ素子と比べて臨界反転電流密度J
COは高いものの、飽和磁束密度Bsおよび残留保磁力Hc_remもまた高くなっている。したがって、例えば、高密度STT−RAM等における、ナノマグネットの寸法が55nm×150nm程度の、より小さいMTJ素子に対しては、二重NCC構造を有するMTJ素子の方がより実現性が高いと本出願人は考える。さらに、高度な設計においてナノマグネット(MTJ素子)の寸法がさらに小さくなると、臨界反転電流密度J
COも同様に減少することとなる。
【0138】
表6は、下部電極/NiCr4.5/MnPt15/Co
75Fe
252.3/Ru0.75/Co
20Fe
60B
202.1/Mg0.6−NOX(II)Mg0.3/OSL/Mg0.3/NCCフリー層/Ru3.0/Ta/ハードマスク層という構造を有するMTJ素子の磁気特性を表すものである。
【0139】
【表6】
【0140】
以上のように、保磁力Hc、書き込み電圧VW、読み出し電圧VR、および熱安定性Eb(保存時)のそれぞれについて求められる性能の目標値を同時に達成することにより、STT−RAMデバイス用の従来のMTJ素子と比較して、全般的な性能の改善が可能であることを実証した。また、(dR/R)/Rp_covは約20である。また、本出願人による単一NCCフリー層構造の臨界反転電流密度J
COは約1.2×10
6A/cm
2であり、これは、今日まで報告されている臨界反転電流密度J
COの値としては最も低いものであると考えられる。これらの性能の向上は、主として、上述した酸素界面活性層(OSL)を含む改良されたMgOトンネルバリア層と、従来用いられてきたものよりもコバルト(Co)含有量が低く鉄(Fe)含有量が高いCoFeBの組成とを用いることにより実現されたものである。また、重要な点として、上述した低い圧力および低いパワーによるスパッタ成膜法によってCoFeB層を成膜するようにした点があげられる。
【0141】
本発明の実施の形態の他の利点として、ソフトブレークダウンSBDの割合(パーセント)が低いことが挙げられる。このことは、本発明の実施の形態で説明したMgO層の作製方法を用いたことにより、より均一なMgOトンネルバリア層が形成されることを意味する。上記のような改善は、現在のところ、64Mb級のSTT−RAM技術の実現を目的としたものであるが、本発明の各実施の形態および実施例で説明したMTJ素子の各種改善点は、256Mb級のSTT−RAMデバイスやそれ以上の高い面密度のデバイスにおいて今後予測される、65nmテクノロジーノードや45nmテクノロジーノードに基づくデバイスの開発を促進させる上でも有益であると思われる。
【0142】
本発明について、その好適な実施の形態および実施例を参照して具体的に説明したが、当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形式的な変更および詳細な変更をなし得ることを理解することができよう。