特許第5771392号(P5771392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電解株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5771392-電解銅箔およびその製造方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771392
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】電解銅箔およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20150806BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20150806BHJP
   C25D 3/38 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   C25D1/04 311
   C25D1/00 311
   !C25D3/38 101
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-292686(P2010-292686)
(22)【出願日】2010年12月28日
(65)【公開番号】特開2012-140660(P2012-140660A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2013年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232014
【氏名又は名称】日本電解株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(74)【代理人】
【識別番号】100179154
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 真衣
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100184424
【弁理士】
【氏名又は名称】増屋 徹
(72)【発明者】
【氏名】小口 洋史
(72)【発明者】
【氏名】山口 智寛
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 利雄
【審査官】 向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−101267(JP,A)
【文献】 特開2004−162172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
JSTplus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩、(B)チオ尿素、(C)メルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩、(D)ポリアルキレングリコール及び(E)塩素イオンを添加剤として含有する硫酸酸性銅めっき液を電気分解することによって製造され、
電着終了後120分以内に、240℃で10分間加熱後、20℃において引張り強さ及び電気伝導性を測定したとき、引張り強さが650MPa以上で、電気伝導性が80%IACS以上であり、電着終了から168時間後に測定した20℃における引張り強さが、電着終了後120分以内に測定した20℃における引張り強さの90%以上であり、電着終了後120分以内に測定した20℃における伸び率が3%以上である電解銅箔。
【請求項2】
電着終了から168時間後に測定した20℃における引張り強さが700MPa以上である請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
(A)ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩、(B)チオ尿素、(C)メルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩、(D)ポリアルキレングリコール及び(E)塩素イオンを添加剤として含有する硫酸酸性銅めっき液を電気分解し、
電着終了後120分以内に、240℃で10分間加熱後、20℃において引張り強さ及び電気伝導性を測定したとき、引張り強さが650MPa以上で、電気伝導性が80%IACS以上であり、電着終了から168時間後に測定した20℃における引張り強さが、電着終了後120分以内に測定した20℃における引張り強さの90%以上であり、電着終了後120分以内に測定した20℃における伸び率が3%以上である電解銅箔を製造することを特徴とする電解銅箔の製造方法。
【請求項4】
上記製造される電解銅箔の電着終了から168時間後に測定した20℃における引張り強さが700MPa以上である請求項3に記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項5】
添加剤(A)であるジチオカルバミン酸誘導体又はその塩が、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表されるものである請求項3又は4に記載の電解銅箔の製造方法。
【化1】

[一般式(1)及び(2)中、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表し、一般式(2)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基を表す。]
【請求項6】
添加剤(A)であるジチオカルバミン酸誘導体又はその塩が、N,N−ジメチルジチオカルバミン酸、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸、N,N−ジプロピルジチオカルバミン酸、N,N−ジブチルジチオカルバミン酸、N,N−ジフェニルジチオカルバミン酸、N,N−ジメチルジチオカルバミルプロパンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3〜5のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項7】
添加剤(C)であるメルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩が、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表されるものである請求項4〜6のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【化2】

[一般式(3)及び(4)中、R、R及びRは、各々独立に、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【請求項8】
添加剤(C)であるメルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩が、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、3,3′−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸)及びそれらのアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4〜7のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項9】
添加剤(D)であるポリアルキレングリコールの重量平均分子量が500〜100,000である請求項4〜8のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項10】
硫酸酸性銅めっき液中の添加剤(A)〜(E)の濃度が、
(A)ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩の濃度が10〜60mg/l、
(B)チオ尿素の濃度が7.5〜25mg/l、
(C)メルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩の濃度が40〜300mg/l、
(D)ポリアルキレングリコールの濃度が40〜400mg/l、
(E)塩素イオンの濃度が30〜100mg/l
である請求項4〜9のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項11】
硫酸酸性銅めっき液が、銅の濃度が硫酸銅五水和物換算で160〜350g/lで、遊離硫酸の濃度が50〜100g/lである硫酸−硫酸銅水溶液に、添加剤(A)〜(E)を添加して調製されたものである請求項4〜10のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長時間保管後及び加熱後も高強度で、電気伝導性に優れた電解銅箔とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解銅箔は、各種のプリント配線板やリチウム電池負極などに用いられてきたが、HDDの磁気ヘッドなど高強度を要求される用途には使用できず、ベリリウム銅やコルソン合金をはじめとする各種の高強度合金箔が使用されてきた。これは、電解銅箔が再結晶しやすく、初期特性として十分な高強度を示しても、加工時の熱履歴や経時変化により軟化してしまうためである。しかしながら、上記の合金箔には添加元素が障害となり、純銅に比べて電気伝導性が低い問題点がある。
【0003】
電解銅箔は、硫酸銅水溶液を電気分解し、銅を析出させることによって製造される。硫酸銅水溶液に各種の有機イオウ系化合物を添加することによって、高強度の電解銅箔を製造できることが知られている。たとえば、添加剤として3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸塩又は3,3′−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸塩)、チオ尿素などを用いた場合、得られる電解銅箔は製造直後には700MPaを超える引張り強さを示す。しかしながら、これらの一般的な添加剤では銅の再結晶性を抑制することができず、常温で急速に再結晶して、引張り強さは400MPa以下に低下する。
【0004】
特殊な添加剤の組み合わせにより再結晶性を抑制することが提案されている。特許文献1には、分子量250000〜1600000のヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンイミン、活性有機イオウ化合物のスルホン酸塩、アセチレングリコール及び塩素イオンを含有する硫酸銅水溶液を用いる電解銅箔の製造方法が開示されている。この特許文献1では、電着完了から20分以内に測定した25℃における抗張力と比較して、電着完了時点から300分経過時に測定した25℃における抗張力の低下率が10%以下であるとしているが、一般的な銅箔の保障期間が3ヶ月から6ヶ月であることに対して、十分であるとは言い難い。一方、特許文献2には、添加剤A:ベンゼン環とNを含む複素環とを備え、該複素環にはメルカプト基が結合している構造を有する化合物又はチオ尿素系化合物、添加剤B:活性硫黄化合物のスルホン酸塩、添加剤C:環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体を用いて、初期の引張り強さが70kgf/mm、180℃−60分間加熱後の引張り強さが初期の引張り強さに対して85%以上の電解銅箔を製造すること記載されている。しかしながら、ポリイミド樹脂などの高耐熱性樹脂を用いる用途での耐熱温度が十分ではなく、さらに高い耐熱温度の電解銅箔が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−339558号公報
【特許文献2】特開2008−101267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、長時間保管後も高強度を維持し、また、ポリイミド樹脂などの高耐熱性樹脂を用いる用途で要求される熱履歴によっても、十分な高強度を有し、かつ、電気伝導性が80%IACS以上の電解銅箔を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
常温で再結晶することにより引張り強さが低下する銅箔について、引張り強さの経時変化を測定した結果を図1に示す。引張り強さは経時的に低下するが、次第に低下速度が減少し、電着終了後168時間以内に安定することを確認した。従って、電着終了から168時間後の引張り強さを評価することにより、3ヶ月程度の長期間保管後の引張り強さを保証できることが確認された。
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、硫酸酸性銅めっき液中に、添加剤として、(A)ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩、(B)チオ尿素、(C)メルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩が、(D)ポリアルキレングリコール及び(E)塩素イオンの五つの添加剤を存在させることにより、電着完了から168時間後の引張り強さが高く(例えば700MPa以上)、かつ、初期の引張り強さからの低下率が低く、240℃−10分間加熱後(以下、加熱後と表記することがある)における引張り強さが高い(例えば650MPa以上)であると共に、電気伝導性が80%IACS以上である電解銅箔の製造が可能となることを見出し、電解銅箔の製造方法に係る本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の電解銅箔及びその製造方法に関する。
(1)電着終了後120分以内に、240℃で10分間加熱後、20℃において引張り強さ及び電気伝導性を測定したとき、引張り強さが650MPa以上で、電気伝導性が80%IACS以上であり、電着終了から168時間後に測定した20℃における引張り強さが、電着終了後120分以内に測定した20℃における引張り強さの90%以上であり、電着終了後120分以内に測定した20℃における伸び率が3%以上である電解銅箔。
【0010】
(2)電着終了から168時間後に測定した20℃における引張り強さが700MPa以上である(1)に記載の電解銅箔。
【0011】
(3)(A)ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩、(B)チオ尿素、(C)メルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩、(D)ポリアルキレングリコール及び(E)塩素イオンを添加剤として含有する硫酸酸性銅めっき液を電気分解することを特徴とする(1)又は(2)に記載の電解銅箔の製造方法。
【0012】
(4)添加剤(A)であるジチオカルバミン酸誘導体又はその塩が、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表されるものである(3)に記載の電解銅箔の製造方法。
【化1】
[一般式(1)及び(2)中、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表し、一般式(2)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基を表す。]
【0013】
(5)添加剤(A)であるジチオカルバミン酸誘導体又はその塩が、N,N−ジメチルジチオカルバミン酸、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸、N,N−ジプロピルジチオカルバミン酸、N,N−ジブチルジチオカルバミン酸、N,N−ジフェニルジチオカルバミン酸、N,N−ジメチルジチオカルバミルプロパンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である(3)又は(4)に記載の電解銅箔の製造方法。
【0014】
(6)添加剤(C)であるメルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩が、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表されるものである(3)〜(5)いずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【化2】
[一般式(3)及び(4)中、R、R及びRは、各々独立に、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【0015】
(7)添加剤(C)であるメルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩が、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、3,3′−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸)及びそれらのアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である(3)〜(6)いずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【0016】
(8)添加剤(D)であるポリアルキレングリコールの重量平均分子量が500〜100,000である(3)〜(7)いずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【0017】
(9)硫酸酸性銅めっき液中の添加剤(A)〜(E)の濃度が、
(A)ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩の濃度が10〜60mg/l、
(B)チオ尿素の濃度が7.5〜25mg/l、
(C)メルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩の濃度が40〜300mg/l、
(D)ポリアルキレングリコールの濃度が40〜400mg/l、
(E)塩素イオンの濃度が30〜100mg/l
である(3)〜(8)いずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【0018】
(10)硫酸酸性銅めっき液が、銅の濃度が硫酸銅五水和物換算で160〜350g/lで、遊離硫酸の濃度が50〜100g/lである硫酸−硫酸銅水溶液に、添加剤(A)〜(E)を添加して調製されたものである(3)〜(9)いずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電解銅箔は、高強度で高導電率であることから、HDDの磁気ヘッドなどの高強度を必要とされる用途や小型化・薄肉化が進むその他の電子部品、さらにはリチウムイオン電池用負極の集電体などに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】電解銅箔の常温放置時間と引張り強さの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、電解銅箔とは、銅イオンを含有する銅めっき液を電気分解することにより電極面に銅を析出させて(電着)得られる銅箔を意味する。電解銅箔の厚みには特に制限はないが、通常、3〜175μmであることが好ましく、6〜70μmであることがより好ましい。
【0022】
本発明の電解銅箔は、電着終了後120分以内に、240℃で10分間加熱後、20℃において引張り強さ(以下、加熱後引張り強さと呼ぶことがある。)及び電気伝導性(以下、加熱後電気伝導性と呼ぶことがある。)を測定したとき、加熱後引張り強さが650MPa以上で、加熱後電気伝導性が80%IACS以上であり、電着終了から168時間後に測定した20℃における引張り強さ(以下、放置後引張り強さと呼ぶことがある。)が、電着終了後120分以内に測定した20℃における引張り強さ(以下、初期引張り強さと呼ぶことがある。)の90%以上であり、電着終了後120分以内に測定した20℃における伸び率が3%以上であることを特徴とする。
【0023】
上記の加熱後引張り強さの測定においては、電解銅箔の240℃−10分間の加熱と、20℃における引張り強さの測定の両方を、電着終了後120分以内に行う。また、上記の加熱後電気伝導性の測定においても、電解銅箔の240℃−10分間の加熱と、20℃における電気伝導性の測定の両方を、電着終了後120分以内に行う。本発明における電気伝導性とは、IACS: International Annealed Copper Standard (国際焼きなまし銅線標準)という名の"標準焼きなまし銅線" の電気伝導率(0.5800×10S/m)を100%とした場合の、それに対する電解銅箔の電気伝導率の%値としての比較値を意味し、%IACSで表記する。
【0024】
上記の放置後引張り強さは、得られた電解銅箔を常温(15〜30℃、以下同様。)で放置し、電着終了から168時間後に20℃において測定する。また、上記の初期引張り強さは、電着終了後120分以内に、常温環境保管していた電解銅箔を20℃において測定する。
【0025】
本発明の電解銅箔の上記の放置後引張り強さは、上記初期引張り強さの90%以上であるが、92.5%以上であることが好ましい。
本発明の電解銅箔の上記加熱後電気伝導性は、80%IACS以上であるが、81%IACS以上であることが好ましい。
【0026】
なお、本発明の電解銅箔の上記放置後引張り強さは、700MPa以上であることが好ましく、710MPa以上であることがより好ましい。また、本発明の電解銅箔の上記初期引張り強さは、700MPa以上であることが好ましく、730MPa以上であることがより好ましい。
【0027】
本発明の電解銅箔は、電着終了後120分以内に測定した20℃における伸び率が、3%以上である。この伸び率が3%未満であると、電解銅箔が破れやすく、取り扱いが困難である。なお、測定前の電解銅箔は、常温環境で保管されたものである。
【0028】
本発明の電解銅箔は、その製造方法に特に制限はないが、例えば、下記に示す製造方法により好適に製造することができる。
本発明の電解銅箔の製造方法は、(A)ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩、(B)チオ尿素、(C)メルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩、(D)ポリアルキレングリコール及び(E)塩素イオンの五つの添加剤を含有する硫酸酸性銅めっき液を電気分解することを特徴とする。
なお、本発明において、「硫酸酸性銅めっき液が添加剤(A)〜(E)を含有する」とは、硫酸酸性銅めっき液に添加剤(A)〜(E)が添加されていることを意味し、「硫酸酸性銅メッキ液中の添加剤(A)〜(E)の濃度」とは、硫酸酸性銅めっき液1リットルあたりの、添加された添加剤(A)〜(E)各々の重量(mg)を意味する。
【0029】
本発明の製造方法に用いられる硫酸酸性銅めっき液は、例えば、通常の電解銅箔の製造に用いられる硫酸−硫酸銅水溶液(添加剤を含まない硫酸−硫酸銅水溶液)に、添加剤(A)〜(E)を添加することにより調製することができる。硫酸−硫酸銅水溶液の銅濃度及び硫酸濃度は、通常の電解銅箔の製造に用いられる濃度範囲と同様であればよく、特に制限はない。好ましくは、銅濃度が硫酸銅五水和物として160〜350g/l、より好ましくは240〜310g/l、遊離硫酸濃度が50〜100g/l、より好ましくは70〜90g/lである。硫酸−硫酸銅水溶液は、試薬硫酸銅と硫酸とを所定の割合で純水に溶解するか、又は、銅線くず、銅紛などの金属銅を硫酸水溶液に溶解して調製することができる。この硫酸−硫酸銅水溶液に所定の添加剤(A)〜(E)を添加することにより、硫酸酸性銅めっき液を調製する。銅の電解析出によって硫酸酸性銅めっき液中の銅濃度が減少した場合には、例えば、硫酸酸性銅めっき液に酸素の存在下で金属銅を溶解させることで、硫酸酸性銅めっき液を再生することができる。
【0030】
本発明に用いる添加剤(A)は、ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩であり、例えば下記一般式(1)及び下記一般式(2)で表されるものが挙げられ、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩の一般式(1)
【化1】
[一般式(1)中、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【0032】
ジチオカルバミン酸誘導体又はその塩の一般式(2)
【化2】
[一般式(2)中、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基を表し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【0033】
一般式(1)及び(2)で表される化合物としては、例えば、N,N−ジメチルジチオカルバミン酸、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸、N,N−ジプロピルジチオカルバミン酸、N,N−ジブチルジチオカルバミン酸、N,N−ジフェニルジチオカルバミン酸、N,N−ジメチルジチオカルバミルプロパンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩などがあるが、これらに限られるものではない。
【0034】
N,N−ジメチルジチオカルバミン酸又はその塩
【化3】
[式中、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【0035】
N,N−ジエチルジチオカルバミン酸又はその塩
【化4】
[式中、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【0036】
N,N−ジフェニルジチオカルバミン酸又はその塩
【化5】
[式中、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【0037】
N,N−ジメチルジチオカルバミルプロパンスルホン酸又はその塩
【化6】
[式中、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
アルカリ金属原子としては、通常、ナトリウム又はカリウムが好ましい。
【0038】
添加剤(A)であるジチオカルバミン酸誘導体又はその塩の添加量は、硫酸酸性銅めっき液中の添加剤(A)の濃度が10〜60mg/lとなる量であることが好ましい。添加剤(A)の濃度が10mg/l未満であると、本発明の電解銅箔に必要とされる所定の特性が得られず、60mg/lを超えると、ポーラスなめっきとなり、やはり所定の特性が得られない。
【0039】
添加剤(B)は、チオ尿素である。添加剤(B)の添加量は、硫酸酸性銅めっき液中の添加剤(B)の濃度が7.5〜25mg/lとなる量であることが好ましい。添加剤(B)の濃度が7.5mg/l未満であると、本発明の電解銅箔に必要とされる所定の特性が得られず、25mg/lを超えると、ポーラスなめっきとなり、やはり所定の特性が得られない。
【0040】
添加剤(C)は、メルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩であり、例えば、下記一般式(3)及び(4)で表される化合物が挙げられ、1種類単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化7】
[一般式(3)及び(4)中、R、R及びRは、各々独立に、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【0041】
上記一般式(3)及び(4)で表される化合物としては、例えば、下記一般式で表される3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、3,3′−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸)及びそれらのアルカリ金属塩などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸又はその塩
【化8】
[式中、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【0043】
3,3′−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸)又はその塩
【化9】
[式中、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
アルカリ金属原子としては、ナトリウム又はカリウムが好ましい。
【0044】
添加剤(C)であるメルカプト基を有する水溶性イオウ化合物又はその誘導体又はそれらの塩の添加量は、硫酸酸性銅めっき液中の添加剤(C)の濃度が40〜300mg/lとなる量であることが好ましい。添加剤(C)の濃度が40mg/l未満であると、ポーラスなめっきとなり、均一なメッキ被膜とならず、300mg/lを超えると、本発明の電解銅箔に必要とされる所定の特性が得られない。
【0045】
本発明に用いられる添加剤(D)はポリアルキレングリコールであり、例えば、ポリ(C〜C−アルキレングリコール)が挙げられ、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体のいずれも好適に用いることができる。ポリアルキレングリコールの分子量は、重量平均分子量(ポリスチレンを基準としたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定した換算置)で500〜100000であることが好ましく、1000〜10000であることがより好ましい。分子量が大き過ぎると、めっき表面にピットを生じやすく、分子量が小さすぎると、所望の特性が得られない。
【0046】
添加剤(D)であるポリアルキレングリコールの添加量は、硫酸酸性銅めっき液中の添加剤(D)の濃度が40〜400mg/lとなる量であることが好ましい。添加剤(D)の濃度が40mg/l未満である場合、及び、400mg/lを超える場合には、本発明の電解銅箔に必要とされる所定の特性が得られない。
【0047】
添加剤(E)は、塩素イオンである。塩素イオン供給源としては、例えば、塩酸、塩化ナトリウム等を用いることができる。添加剤(E)である塩素イオンの添加量は、硫酸酸性銅めっき液中の添加剤(E)の濃度が、塩素イオン濃度として30〜100mg/lとなる量であることが好ましい。添加剤(E)の濃度が30mg/l未満であると、ポーラスなめっきとなり、100mg/lを超えると、電解銅箔の加熱後引張り強さ及び放置後引張り強さが本発明の電解銅箔に必要とされる所定の値より低くなる。
【0048】
次に、本発明の電解銅箔の製造方法に用いられる製造装置及びめっき条件について説明する。本発明では、通常の電解銅箔の製造に用いる製造装置を使用することができる。一例をあげれば、半円筒状に湾曲した酸化イリジウムコーティングを施したチタン板からなる陽極と、チタン製回転陰極とを、硫酸酸性銅めっき液に浸漬し、両極間に直流電流を通電し、回転陰極上に析出した電解銅箔を連続的に巻き取る方法がある。酸性硫酸銅めっき液の液温は40℃〜60℃が好ましい。液温が40℃より低いと、得られる電解銅箔の加熱後引張り強さが所定の値とならなくなる傾向があり、60℃より高いと、製造装置の樹脂部材が損傷を受けやすい。また、電流密度は30A/dm2〜50A/dmとすることが好ましい。電流密度が50A/dmより高いと、得られる電解銅箔の加熱後引張り強さが所定の値とならなくなる傾向があり、30A/dmより低いと生産性が悪く、実用的でない。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1〜13、比較例1〜18、及び、参考例1〜3]
実施例1〜13及び比較例1〜18においては、硫酸銅五水和物濃度280g/l、遊離硫酸濃度90g/lに調整した基本溶液(硫酸−硫酸銅水溶液)に、添加剤を添加し、得られた溶液を硫酸酸性銅めっき液として用いた。参考例1及び2は、特許文献1に記載された方法に従って電解銅箔を作製した例であり、参考例3は、特許文献2に記載された方法に従って電解銅箔を作製した例である。参考例1及び2(特許文献1)については、基本溶液中の硫酸銅五水和物濃度を280g/l、遊離硫酸濃度を100g/lとし、参考例3(特許文献2)については、基本溶液中の銅濃度を80g/l、遊離硫酸濃度を140g/lとした。また、添加剤の種類と添加量について、実施例及び比較例は表1に、参考例は表2に示した。
【0051】
チタン製回転陰極(直径:48mm、実効面積:1.0dm)の表面を#2000研磨紙で研磨した。陽極には酸化イリジウムコーティングしたチタン製の円筒状不溶性陽極(φ140mm、実効面積4.0dm)を用いた。めっき液の液温を50℃とし、電流密度40A/dm、回転数300rpmでめっきし、厚さ15μmの電解銅箔を製造した。実施例及び比較例では、電解処理を連続して行い、めっき2枚目の電解銅箔を評価サンプルとし、参考例は特許文献1及び2の記載に準じた。すなわち、特に記載がない参考例1及び参考例2はめっき1枚目、参考例3はめっき3枚目を電解銅箔の評価サンプルとして、その機械特性及び電気特性を評価し、結果を表3に示した。
また、実施例1、比較例1及び比較例18で得られた電解銅箔を長時間常温で放置した時の20℃における引張り強さの経時変化を測定し、図1に示した。
【0052】
[評価方法]
初期引張り強さ: 常温環境におかれていた電解銅箔を、電着終了から120分以内に20℃における引張り強さ測定に供した。
放置後引張り強さ: 電解銅箔を常温環境で保管し、電着終了から168時間後に、20℃における引張り強さ測定に供した。
加熱後引張り強さ: 常温環境におかれていた電解銅箔を、電着終了から120分以内に、240℃で10分間加熱し、20℃における引張り強さ測定に供した。
加熱後電気伝導性: 常温環境におかれていた電解銅箔を、電着終了から120分以内に、240℃で10分間加熱し、20℃における電気伝導率測定に供し、%IACS値を求めた。
伸び率: 常温環境におかれていた電解銅箔を、電着終了から120分以内に、20℃における伸び率測定に供した。
【0053】
上記の評価において、引張り強さと伸び率の測定は、JIS C6515に準じて万能引張り試験器を用いて行った。電気伝導性は、JIS C6515及びIEC60249−1に準じて、デジタルマルチメータを用いた四端子法で測定した。
【0054】
【表1】
A1:N,N−ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム
A2:N,N−ジメチルジチオカルバミルプロパンスルホン酸ナトリウム
添加剤(B):チオ尿素
C1:3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム
C2:3,3′−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸)二ナトリウム
添加剤(D):ポリエチレングリコール 重量平均分子量1000
【0055】
【表2】
1) アセチレングリコール(エアープロダクツ社製、商品名:サーフィノール465)
2) 2−メルカプト−5−ベンズイミダゾールスルホン酸ナトリウム
C1:3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム
C2:3,3′−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸)二ナトリウム
P1:ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業製、商品名:HECダイセル SP600)
P2:ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業製、商品名:HECダイセル SP400)
P3:ポリエチレンイミン(日本触媒製エポミン P−1000)
P4:ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(センカ製,商品名:ユニセンス FPA100L)
【0056】
【表3】
【0057】
実施例の電解銅箔は、加熱後引張り強さが650MPa〜730MPaであり、加熱後電気伝導性は81%IACS〜88%IACSであった。一方、比較例の電解銅箔は、ポーラスなめっきが多く、ほとんどがめっき皮膜として剥離できないため、測定不可能であった。測定可能なサンプルに関しては、加熱後引張り強さが320MPa〜650MPaであり、電気伝導性は81%IACS〜98%IACSであった。
【0058】
また、実施例の電解銅箔は、初期、すなわち電着終了から60分以内に測定した伸び率が3.0%〜3.8%であり、電着終了から168時間後の引張り強さは710MPa〜770MPaであり、初期引張り強さに対する放置後引張り強さの維持率も92.6%〜102.7%と高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上記のようにして得られた電解銅箔は、高い引張り強さと耐熱性、さらには高い電気伝導性を併せ持ち、銅以外の金属成分を含まない。従って、プリント配線板用銅箔やリチウムイオン電池用負極の集電体として好適に用いることができる。
図1