【実施例】
【0046】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0047】
実施例1
1. 硫酸基転移酵素発現プラスミドの構築
ヒト由来硫酸基転移酵素は、cDNAライブラリーを鋳型として、両端に相補的な配列を有するプライマーを用いてPCR法によって増幅し構築した。酵母発現ベクターとしては自律複製型プラスミドであるpGYR(文献番号4)あるいは染色体組み込み型プラスミドであるpAUR101(TaKaRa)を用いた(
図1)。
【0048】
1-1.ヒト由来硫酸基転移酵素遺伝子の作成
ヒト肝臓及び肺のcDNAライブラリーを用いてPCR法によって5種のSULT遺伝子(SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)のクローニングを行った。cDNAライブラリーはPCR ready First Strand cDNA (Biochain 社)を用いた。
【0049】
DNAポリメラーゼとしてはKOD-plus-(TOYOBO)を用いた。反応液組成は製造業者の指示に従い、以下に示すプライマーと反応条件でPCRを行った。
1) SULT1A1
フォワード配列 : 配列番号 1
リバース配列 : 配列番号 2
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、40℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、50℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0050】
2) SULT1A3
フォワード配列 : 配列番号 3
リバース配列 : 配列番号 4
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、42℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、50℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0051】
3) SULT1B1
フォワード配列 : 配列番号 5
リバース配列 : 配列番号 6
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、37℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0052】
4) SULT1E1
フォワード配列 : 配列番号 7
リバース配列 : 配列番号 8
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、40℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、52℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0053】
5) SULT2A1
フォワード配列 : 配列番号 9
リバース配列 : 配列番号 10
PCR条件
変性 94℃ 2分
5サイクル 94℃ 15秒、42℃ 30秒、68℃1分45秒
30サイクル 94℃ 15秒、52℃ 30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃10分
【0054】
それぞれのPCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動した結果、目的サイズ(約0.9kb)に特異的な増幅がみられた。(以下、1%アガロースゲルでの電気泳動は、単に電気泳動と略称する)。PCR増幅溶液を電気泳動して、DNA断片をゲルから分離した後、TAクローニングキット(Target clone
TM-plus-,TOYOBO社)を用いてpTAベクターに挿入した。このクローニングされた遺伝子のシークエンスを行い遺伝子配列を解析したところ、配列番号11〜15に示した塩基配列(表1にGenBank Acc.No. を示す)であることを確認した。
【0055】
本遺伝子を発現ベクターにサブクローニングするために、部位特異的な変異導入によりアミノ酸配列を変えずに内部HindIIIサイトを欠失させた。変異導入は変異体作成キットQuick Change
TMを用いた。変異導入をおこなったクローンの塩基配列を解析し、目的以外の箇所に変異導入されていないことを確認した。
【0056】
1-2. 硫酸基転移酵素遺伝子発現ベクターの構築
1-2-1. 自律複製型酵母発現ベクターの構築
1-1で作成した硫酸基転移酵素断片を含むプラスミド約1μgを37℃で4時間、HindIII処理し、電気泳動後、遺伝子断片をゲルから切り出した。切り出したゲルからWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてインサート断片を調製した。
【0057】
酵母発現ベクターとして用いるpGYRを37℃で4時間HindIII処理し、電気泳動後、目的サイズ(約11kb)のバンドを切り出した。その後、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてベクター断片を調製した。
【0058】
インサート断片とpGYR-HindIIIベクター断片の濃度を電気泳動で確認後、それらのモル比が3:1〜10:1程度になるように混合し、等量のDNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)のsolution Iを加え、16℃、1時間反応を行った。その後、大腸菌JM109株にヒートショック法を用いてトランスフォーメーションを行い、LBプレート(アンピシリン50μg/ml含有)に展開した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、それらを鋳型としてコロニーPCRを行った。DNAポリメラーゼは、Ex Taq(登録商標) DNAポリメラーゼを用いた。プライマーはYGAP-Pプライマー(5'-aatgacaccgtgtggtgatcttcaagg-3')(配列番号24)と上記に示したSULTリバースプライマー(配列番号2, 4, 6, 8, あるいは10)をそれぞれ用いた。以下の条件でPCRを行った。
【0059】
PCR条件
変性 98℃5分
30サイクル 94℃ 30秒、50℃ 30秒、72℃ 2分30秒
最終伸長 72℃4分
【0060】
PCR後、電気泳動を行い、予想サイズ(約1.5kb)に特異的な増幅がみられるクローンを数個得た。得られた大腸菌コロニーを5mlのLB培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後アルカリSDS法を用いてプラスミドを抽出した。そして、その一部を37℃で1時間、HindII処理し、電気泳動をしてインサートの導入を再度確認し、硫酸基酵素遺伝子を含む酵母発現ベクター(pGYR/SULT)を得た。
【0061】
1-2-2. 染色体組み込み型酵母発現ベクターの構築
1-2-1で作成した硫酸基転移酵素断片を含む発現プラスミド(pGYR/SULT)約1μgを37℃で4時間、NotI処理し、電気泳動後、酵母発現プロモーター及びターミネーター領域を含む遺伝子断片(約2kb)をゲルから切り出した。切り出したゲルからWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてインサート断片を調製した。
【0062】
自律複製型酵母発現ベクターpAUR101(TaKaRa)に上記で得られたNotI断片を挿入するために、部位特異的な変異導入によりマルチクローニングサイトにNotI制限酵素配列(GCGGCCGC)をマルチクローニングサイト領域に導入した。変異導入は変異体作成キットQuick Change
TMを用いた。変異導入をおこなったクローンの塩基配列を解析し、目的以外の箇所に変異導入されていないことを確認した(pAUR-N)。酵母発現ベクターとして用いるpAUR-Nを37℃で4時間NotI処理し、電気泳動後、目的サイズ(約7kb)のバンドを切り出した。その後、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてベクター断片を調製した。
【0063】
インサート断片とpAUR-NotIベクター断片の濃度を電気泳動で確認後、それらのモル比が3:1〜10:1程度になるように混合し、等量のDNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)のsolution Iを加え、16℃、1時間反応を行った。その後、大腸菌JM109株にヒートショック法を用いてトランスフォーメーションを行い、LBプレート(アンピシリン50μg/ml含有)に展開した。得られた大腸菌コロニーを5mlのLB培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後アルカリSDS法を用いてプラスミドを抽出した。そして、その一部を37℃で1時間、NotI処理し、電気泳動をしてインサートの導入を再度確認し、硫酸基転移酵素を含む酵母発現ベクター(pAUR/SULT)を得た。
【0064】
実施例2
2. 硫酸基転移酵素を発現する酵母形質転換体の作成
2-1. 酵母への発現用プラスミドの形質転換
発現酵母には、酵母(Saccharomyces cerevisiae)AH22株を用いた。AH22株は、L-ヒスチジンとL-ロイシン以外は全ての必須アミノ酸を生合成することが出来る。pGYRはL-ロイシン合成遺伝子(LEU2)を持つため、培地にL-ヒスチジンを添加するとプラスミドを持った酵母のみが増殖できる。また、pAURは抗生物質であるAureobasdin A耐性遺伝子を有しており、Aureobasidin A存在下で形質転換体を選択することが可能である。発現用コンストラクトを酵母AH22株に塩化リチウム法により形質転換した。以下に形質転換の詳細なプロトコールを示す。
【0065】
<材料>
YPD培地:1%酵母抽出物、2%ポリペプトン、2%グルコース
SDプレート:2%グルコース、0.67%N-base w/o アミノ酸、1.5%寒天、20μg/ml L-ヒスチジン、0.2M LiCl: 10ml(フィルター滅菌)、1M LiCl: 10ml(フィルター滅菌)
70%(w/v) PEG 4000: 10ml(溶解後、10mlにメスアップ)
【0066】
<方法>
30℃で培養したS.cerevisiae AH22株1.0x10
7細胞を使用し、卓上遠心機で13,000rpm、4分遠心を行い、上清を除いた。ペレットを0.2M LiClで洗浄した(少しボルテックスにかけた)。卓上遠心機で13,000rpm、4分遠心を行い、上清を完全に取り除いた。ペレットを1M LiCl 20μlにピペッティングにより懸濁した。DNA(プラスミド)溶液10μl(0.5〜1μgのプラスミドを含有)を加えた。70%(w/v) PEG 4000を30μl加え、ピペッティングによりよく混合した。40℃で30分間インキュベートした。滅菌水140μlを加えてpGYRベクターの場合にはSDプレート、またはpAURベクターの場合には0.5μg/ml Aureobasidin A を含むYPDプレートに展開し、30℃にてインキュベートした。プレート上で30℃、3日間培養し、3〜5mm程度の大きさのコロニーを数十個得た。また、pGYR及びpAURの同時形質転換体の場合は、0.5μg/ml Aureobasidin A を含むSDプレートに展開し、30℃にてインキュベートした。プレート上で30℃、5日間培養し、3〜5mm程度の大きさのコロニーを数個得た。
【0067】
2-2. 硫酸基転移酵素タンパク質の酵母内での発現の確認
実施例2-1で得られた形質転換体について、それぞれの菌体内でタンパク質が機能的に発現されているかどうかを、ウエスタンブロット法によって確認した。
【0068】
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体をZymolyase処理にした後に、ヒト硫酸基転移酵素抗体を用いたウエスタンブロット法により解析した(
図2)。
【0069】
酵母内発現硫酸基転移酵素タンパクの発現を確かめるために、SULT1A1,SULT1E1,SULT2A1形質転換体の酵母抽出液タンパクのウエスタンブロット解析を行った。パネル(A):SULT1A1抗体、パネル(B):SULT2A1抗体、パネル(C):SULT1E1抗体。それぞれのレーン1はヒト肝臓サイトゾルタンパク、レーン2:コントロール酵母(AH22:pGYR)、レーン3:SULT発現酵母(pGYR/SULT)を示す。
それぞれのパネルにおいてヒト肝臓(レーン1)で見られるSULTに対応するバンド(レーン3)が各形質転換体酵母より検出されたことより、酵母におけるSULTタンパクの発現が確認された。
【0070】
実施例3
3. 酵母形質転換体を用いた硫酸抱合体の製造
【0071】
3-1. 静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造
硫酸基転移酵素を発現した酵母静止菌体における硫酸抱合体の生成を確かめるために、形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む適当な緩衝溶液に懸濁し、抱合化基質として0.1−1mM 7ヒドロキシクマリンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。それぞれの代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II (内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:320nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、10%アセトニトリル(4分間)、10-70%アセトニトリル直線濃度勾配(6分間)の後、70-10%アセトニトリル(2分間)、10%アセトニトリル(3分間)
【0072】
3-1-1. 硫酸基転移酵素発現酵母における抱合体生成
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成を確かめた。
【0073】
図3に示すように、コントロール酵母と比較してSULT遺伝子を導入した酵母菌体においては基質である7ヒドロキシクマリン(7HC)が減少するとともに溶出時間1.7分付近に新たなピークが検出された。このピークは硫酸抱合体の標準品である7硫酸化クマリン(7SC)と同一の溶出時間を示し、硫酸抱合体特異的な加水分解酵素であるサルファターゼ処理によって消失したことより、添加した7HCが酵母発現SULTによって菌体内にて7SCに変換されたものと確認された。
【0074】
3-1-2. SULT発現株における抱合体産生の硫酸アンモニウム濃度の影響
SULT発現酵母株(AH22: pAUR/SULT1A1,1E1,2A1,)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成における硫酸アンモニウム濃度を調べた(
図4)。
【0075】
図4に示されるように、添加した硫酸アンモニウム濃度に依存して抱合体の産生量は増加し、1%の濃度でほぼ最大変換を示した。さらに、生成した抱合体の培地と菌体への分布を調べると、90%以上の抱合体が培地中に分泌されていることがわかった。
3-1-3. SULT1E1発現株における抱合体産生の時間変化
実施例3-1-2でもっとも変換効率の高かった同時発現酵母株(AH22: pAUR/SULT1E1)における7ヒドロキシクマリン抱合体の生成の時間依存性を調べた(
図5)。
【0076】
図5に示されるように、加えた基質(1mM 7HC:△)は反応時間に依存して減少し、抱合体(7SC:○)は直線的に増加してゆき、4時間経過後には加えた基質の90%以上が抱合体へ変換されることが示された。
【0077】
3-2. 静止菌体を用いたケルセチン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1) におけるケルセチン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む0.1Mリン酸緩衝溶液(pH7.4)に懸濁し、抱合化基質として0.5mM ケルセチンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。ケルセチン抱合体のHPLCによる分析条件は以下のとおりである。カラム:Wako社製 WakoPack Navi C-30-5(内径3.0mm × 長さ150mm)、検出波長:370nm、流速:0.4ml/min、カラム温度:37℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.5% リン酸を含む)、18 %アセトニトリル(10分間)、18-55%アセトニトリル直線濃度勾配(10分間)の後、55%アセトニトリル(5 分間)
【0078】
結果を
図6に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるケルセチン抱合体の生成を確かめたところ、SULT1A3とSULT1E1の2種に関して高い抱合能が見られた。
【0079】
3-3. 静止菌体を用いたアセトアミノフェン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるアセトアミノフェン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として10mMアセトアミノフェンを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II(内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:260nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、2%アセトニトリル(4分間)、2-60 %アセトニトリル直線濃度勾配(4分間)の後、60-2%アセトニトリル(2分間)、2%アセトニトリル(2分間)
【0080】
結果を
図7に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるアセトアミノフェン抱合体の生成を確かめたところ、いずれの分子種においても抱合能がみられたが、中でもSULT1A1が最も高い変換効率を示した。
【0081】
3-4.静止菌体を用いたステロイド抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)におけるステロイド抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として1mMエストロンまたはエストラジオールを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II(内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:280nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、25%アセトニトリル(4分間)、25-80%アセトニトリル直線濃度勾配(6分間)の後、80-25%アセトニトリル(2分間)、25%アセトニトリル(3分間)
【0082】
結果を
図8に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における(A)エストロン及び(B)エストラジオール抱合体の生成を確かめたところ、いずれの基質に関してもSULT1A3とSULT1E1が高い抱合能を示した。
【0083】
3-5. 静止菌体を用いた1-ヒドロキシピレン抱合体の製造
ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株 (AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における1-ヒドロキシピレン抱合体の生成を確かめた。
形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコース溶液に懸濁し、抱合化基質として1mMエストロンまたはエストラジオールを添加した。30℃の条件下で24時間シントウ培養をおこない、培養液に2.5倍容のクロロホルム:メタノール=3:1を添加し、激しく攪拌した後、上層の水相と下層の有機相を回収し、有機相は減圧乾固し、アセトニトリルに溶解した。代謝物を超高速液体クロマトグラフィーにより分析した。条件は以下のとおりである。カラム:Nacalai Tesque社製 2.5C18-MS-II (内径2.0mm × 長さ100mm)、検出波長:333nm、流速:0.5ml/min、カラム温度:45℃、溶出条件:水/アセトニトリル系(0.1%TFAを含む)、25%アセトニトリル(4分間)、25-70%アセトニトリル直線濃度勾配(4分間)の後、70-25%アセトニトリル(2分間)、25%アセトニトリル(2分間)
【0084】
結果を
図9に示す。ヒト由来硫酸基転移酵素発現酵母株(AH22: pGYR/SULT1A1,1A3,1B1,1E1及び2A1)における1-ヒドロキシピレン抱合体の生成を確かめたところ、いずれの分子種においても抱合能がみられたが、中でもSULT1B1が最も高い変換効率を示した。
【0085】
3-4.シトクロムP450を含む同時発現株の静止菌体を用いた7ヒドロキシクマリン抱合体の製造
生体内で生じる抱合体の多くは、その前段階としてシトクロムP450によるモノオキシゲナーゼ反応を受け、抱合化をうける官能基としてはたらく水酸基の導入を受ける。肝細胞においては、7エトキシクマリンを基質として、シトクロムP450による水酸化反応による水酸化体生成、引き続いて硫酸基転移酵素による抱合化が観測される(非特許文献5)。このP450と硫酸基転移酵素の連続的な変換反応を酵母菌体内で可能にするために、pAUR/humanSULT1A1及びpGYR/ratCYP1A2の発現ベクターを同時に形質転換した酵母株を作成した。形質転換体を選択培地で24時間30℃で培養し、得られた酵母菌体を1%硫酸アンモニウム、8%グルコースを含む溶液に懸濁し、抱合化基質として1mM 7エトキシクマリンを添加した。30℃の条件下で12時間シントウ培養をおこない、培養液に生成される水酸化体及び抱合体生成を調べた(
図10)。
【0086】
図10に示されるように、添加した7エトキシクマリン(ピーク3:7EC)はP450(CYP1A2)により3位水酸化をうけ、3ヒドロキシ7エトキシクマリン(ピーク2:溶出時間7.9分)に変換された後、SULTによって硫酸抱合を受けて抱合体(ピーク1:溶出時間6.7分)に変換された。したがって、シトクロムP450を含むSULT同時発現菌体は抱合化基質の前駆体から直接抱合体を調製する系として有用である。