特許 5771411 乗員保護装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】5771411

(24)【登録日】2015年7月3日

(45)【発行日】2015年8月26日

(54)【発明の名称】乗員保護装置

(51)【国際特許分類】

   B60R 21/207 20060101AFI20150806BHJP

   B60R 21/02 20060101ALI20150806BHJP

   B60N 2/42 20060101ALI20150806BHJP

【ＦＩ】

   B60R21/207

   B60R21/02 L

   B60N2/42

【請求項の数】6

【全頁数】9

(21)【出願番号】特願2011-42269(P2011-42269)

(22)【出願日】2011年2月28日

(65)【公開番号】特開2012-179938(P2012-179938A)

(43)【公開日】2012年9月20日

【審査請求日】2013年11月22日

(73)【特許権者】

【識別番号】000005348

【氏名又は名称】富士重工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】110000383

【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】豊田 崇雄

【審査官】 永冨 宏之

(56)【参考文献】

【文献】 特開２００３−２３７５２２（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２００９−００６９１３（ＪＰ，Ａ）

【文献】 国際公開第２０１０／１３１３２２（ＷＯ，Ａ１）

【文献】 特表２００８−５２６６１９（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２０００−２０３３６９（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２００４−００９７９８（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】（Int.Cl.，ＤＢ名）

Ｂ６０Ｒ ２１／２０７

Ｂ６０Ｒ ２１／０２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

シート内部の車幅方向外側に設けられたエアバッグを備え、車両に衝撃力が作用する場合に、前記エアバッグを展開させることによって前記シートの乗員側の面を変形させて前記シートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させるようにした乗員保護装置において、
前記エアバッグが展開する力を受ける受け部が車幅方向外側の端部側に設けられ、前記エアバッグが展開することによって車幅方向中央部側に対して車幅方向外側が前記シートの乗員側方向に移動して前記シートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させる乗員移動板を備え、
前記乗員移動板は、車幅方向中央部側に対して車幅方向外側が屈曲可能な屈曲部、または、車幅方向中央部側を中心に車幅方向外側が回転自在に支持された支軸を有している
ことを特徴とする乗員保護装置。

【請求項2】

前記受け部は、展開する前記エアバッグの先端を受容可能な凹状に形成されている
ことを特徴とする請求項１記載の乗員保護装置。

【請求項3】

前記乗員移動板は、前記エアバッグが展開する力が前記受け部に伝達されると、前記受け部が前記シートの乗員側方向に移動することにより、前記シートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させる
ことを特徴とする請求項２記載の乗員保護装置。

【請求項4】

前記乗員移動板は、前記シートの側部に配設されたサイドサポートの内部に設けられている
ことを特徴とする請求項１乃至３のいずれかに記載の乗員保護装置。

【請求項5】

前記乗員移動板は、車幅方向中央部側の端部が前記サイドサポートの車幅方向中央部側の端部に位置している
ことを特徴とする請求項４記載の乗員保護装置。

【請求項6】

前記乗員移動板は、車幅方向中央部側の端部が着座した乗員の下方に位置している
ことを特徴とする請求項１乃至３のいずれかに記載の乗員保護装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、車両の衝突時における衝撃力から乗員を保護するための乗員保護装置に係り、特にシート内にエアバッグが設けられた乗員保護装置に関するものである。

【背景技術】

【0002】

従来、この種の乗員保護装置としては、シートの車両側壁側に設けられたエアバッグを備え、車両の衝突等の車両の側方に衝撃力が作用した場合に、エアバッグを展開させて車両側壁側のシートクッションを押し上げることによって、シートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させるものが知られている（例えば、特許文献１参照）。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開２００３−２３７５２２号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

前記乗員保護装置では、エアバッグを展開させてシートクッションを持ち上げている。シートクッションは発泡ウレタン等の軟質の素材から形成されているため、エアバッグを展開させても、シートクッションの表面の一部にしかエアバッグの展開する力が作用せず、シートに着座した乗員を確実に車幅方向中央部側に移動させることができない場合がある。

【0005】

本発明の目的とするところは、エアバッグの展開する力によって確実に乗員を車幅方向中央部側に移動させることのできる乗員保護装置を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明は、前記目的を達成するために、シート内部の車幅方向外側に設けられたエアバッグを備え、車両に衝撃力が作用する場合に、前記エアバッグを展開させることによって前記シートの乗員側の面を変形させて前記シートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させるようにした乗員保護装置において、前記エア バッグが展開する力を受ける受け部が車幅方向外側の端部側に設けられ、前記エアバッグが展開することによって車幅方向中央部側に対して車幅方向外側が前記 シートの乗員側方向に移動して前記シートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させる乗員移動板を備え、前記乗員移動板は、車幅方向中央部側に対して車幅方向外側が屈曲可能な屈曲部、または、車幅方向中央部側を中心に車幅方向外側が回転自在に支持された支軸を有している。

【0007】

これにより、展開するエアバッグの先端が乗員移動板の受け部に接触すると、乗員移動板が、乗員移動板の車幅方向中央部側に対して車幅方向外側が乗員側の方向に移動することから、エアバッグが展開する力が乗員移動板を介してシートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させる力に変換される。

【0008】

また、請求項２に記載の発明は、前記受け部は、展開する前記エアバッグの先端を受容可能な凹状に形成されていることを特徴とする。
また、請求項３に記載の発明は、前記乗員移動板は、前記エアバッグが展開する力が前記受け部に伝達されると、前記受け部が前記シートの乗員側方向に移動することにより、前記シートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させることを特徴とする。
また、請求項４に記載の発明は、前記乗員移動板は、前記シートの側部に配設されたサイドサポートの内部に設けられていることを特徴とする。
また、請求項５に記載の発明は、前記乗員移動板は、車幅方向中央部側の端部が前記サイドサポートの車幅方向中央部側の端部に位置していることを特徴とする。
また、請求項６に記載の発明は、前記乗員移動板は、車幅方向中央部側の端部が着座した乗員の下方に位置していることを特徴とする。

【発明の効果】

【0009】

本発明によれば、エアバッグが展開する力を、乗員移動板を介してシートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させる力に変換することができるので、エアバッグが展開する力によってシートに着座した乗員を確実に車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【図面の簡単な説明】

【0010】

【図1】本発明の第１実施形態を示す乗員保護装置の概略図である。

【図2】エアバッグが展開した状態を示す乗員保護装置の概略図である。

【図3】本発明の第２実施形態を示す乗員保護装置の概略図である。

【図4】本発明の第３実施形態を示す乗員保護装置の概略図である。

【図5】エアバッグが展開した状態を示す乗員保護装置の概略図である。

【図6】その他の例を示す乗員保護装置の概略図である。

【図7】その他の例においてエアバッグが展開した状態を示す乗員保護装置の概略図である。

【発明を実施するための形態】

【0011】

図１および図２は、本発明の第１実施形態を示すものである。

【0012】

本発明の乗員保護装置は、図１に示す車両１のシート１０に適用されるものである。

【0013】

シート１０は、乗員Ｍが着座するためのシートクッション１１と、シートクッション１１の後端側から上方に延びるように設けられ、乗員Ｍの背面部を受けるためのシートバック１２と、シートバック１２の上端部に設けられ、乗員Ｍの頭部を受けるためのヘッドレスト１３と、を有している。シートクッション１１およびシートバック１２の車幅方向両側には、シート１０に着座した乗員Ｍの車幅方向の移動を規制するためのサイドサポート１１ａ，１２ａが設けられている。

【0014】

乗員保護装置２０は、シートクッション１１の車両１の側壁１ａ側のサイドサポート１１ａ内のクッション材１１ｂに埋設されている。乗員保護装置２０は、エアバッグ２１と、エアバッグ２１を展開させるためのインフレータ２２と、展開するエアバッグ２１によって車幅方向中央部側の端部を中心に車幅方向側壁１ａ側の端部が上方に移動するように回転させ、シートに着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させるための乗員移動板２３と、を備えている。

【0015】

エアバッグ２１は、高強度で耐熱性の高い繊維からなる袋状の部材からなり、シートクッション１１の乗員Ｍの面（上方）に向かって展開するように構成されている。

【0016】

インフレータ２２は、車両１の側部に設けられた図示しない衝撃検出センサによって所定以上の衝撃力が検出された場合に、火薬に着火してガスを発生させたり、圧力容器内の高圧ガスを放出させたりするものである。インフレータ２２から放出されたガスは、エアバッグ２１に供給されるように構成されている。

【0017】

乗員移動板２３は、金属や硬質樹脂からなる板状部材であり、サイドサポート１１ａの少なくとも後側を前後方向に延びるように形成されている。乗員移動板２３は、エアバッグ２１およびインフレータ２２の上方に設けられている。乗員移動板２３の車幅方向側壁１ａ側の下面には、展開するエアバッグ２１の先端部を受容可能な受け部２３ａが設けられている。受け部２３ａは、展開するエアバッグ２１の先端が導かれるようになだらかに凹む凹形状に形成されている。乗員移動板２３は、車幅方向中央部側の端部がサイドサポート１１ａの車幅方向中央部側の端部に位置している。

【0018】

以上のように構成された乗員保護装置において、車両１の側面に対して側方から所定以上の衝撃力が作用すると、インフレータ２２からエアバッグ２１に向かって高圧ガスが供給され、エアバッグ２１が展開される。

【0019】

このとき、エアバッグ２１は、図２に示すように、乗員移動板２３の受け部２３ａに接触して乗員移動板２３の車幅方向側壁１ａ側を上方に向かって押し上げる。乗員移動板２３は、車幅方向中央部側の端部を中心にして車幅方向側壁１ａ側の端部が上方に移動するように回転する。回転する乗員移動板２３は、サイドサポート１１ａ内のクッション材１１ｂおよびクッション材を覆う図示しないシートカバーを介して、車幅方向側壁１ａ側の端部がシート１０に着座した乗員Ｍの腰部に側方から接触する。これにより、シート１０に着座した乗員Ｍは、乗員移動板２３によって車幅方向中央部側に移動される。

【0020】

このように、本実施形態の乗員保護装置によれば、エアバッグ２１が展開する力を受ける受け部２３ａが車幅方向外側の端部側に設けられ、エアバッグ２１が展開することによって車幅方向中央部側に対して車幅方向外側がシート１０の乗員Ｍ側方向に移動してシート１０に着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させる乗員移動板２３を備えている。これにより、エアバッグ２１が展開する力を、乗員移動板２３を介してシート１０に着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させる力に変換することができるので、エアバッグ２１が展開する力によってシート１０に着座した乗員Ｍを確実に車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【0021】

また、受け部２３ａは、展開するエアバッグ２１の先端を受容可能な凹状に形成されている。これにより、展開するエアバッグ２１の先端を確実に受け部２３ａに接触させることができるので、より確実にシート１０に着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【0022】

また、乗員移動板２３は、サイドサポート１１ａの内部に設けられている。これにより、シート１０に着座した乗員Ｍの側面部に側方から乗員移動板２３を接触させることで乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させることができるので、乗員Ｍの姿勢を変化させることなく乗員Ｍを車幅方向中央部側に押出すことができる。

【0023】

また、乗員移動板２３は、車幅方向中央部側の端部がサイドサポート１１ａの車幅方向中央部側の端部に位置している。これにより、例えば、シートクッション１１の中央部分とサイドサポート１１ａとの間に乗員移動板２３の車幅方向中央部側の端部を支持することが可能となり、展開するエアバッグ２１によって確実に乗員移動板２３を回転させることで、より確実にシート１０に着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【0024】

図３は、本発明の第２実施形態を示すものである。尚、前記実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して示す。

【0025】

この乗員保護装置２０は、第１実施形態と同様の受け部２４ａが車幅方向側壁１ａ側に設けられ、車幅方向中央部側の端部がシートクッション１１のフレーム１１ｃに支軸２４ｂを介して回転自在に支持された乗員移動板２４を備えている。

【0026】

以上のように構成された乗員保護装置において、エアバッグ２１が展開されると、乗員移動板２４は、支軸２４ｂを中心にして車幅方向側壁１ａ側の端部が上方に移動するように回転する。回転する乗員移動板２４は、第１実施形態と同様に、車幅方向側壁１ａ側の端部がシート１０に着座した乗員Ｍの腰部に側方から接触する。これにより、シート１０に着座した乗員Ｍは、乗員移動板２４によって車幅方向中央部側に移動される。

【0027】

このように、本実施形態の乗員保護装置によれば、第１実施形態と同様に、エアバッグ２１が展開する力を、乗員移動板２４を介してシート１０に着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させる力に変換することができるので、エアバッグ２１が展開する力によってシート１０に着座した乗員Ｍを確実に車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【0028】

また、乗員移動板２４は、車幅方向中央部側に対して車幅方向外側が回転可能な支軸２４ｂを有している。これにより、展開するエアバッグ２１によって乗員移動板２４を確実に回転させることができるので、より確実にシート１０に着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【0029】

図４および図５は、本発明の第３実施形態を示すものである。尚、前記実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して示す。

【0030】

この乗員保護装置２０は、第１実施形態と同様の受け部２５ａが車幅方向側壁１ａ側に設けられ、車幅方向中央部側の端部が着座した乗員Ｍの下方に位置している乗員移動板２５を備えている。

【0031】

以上のように構成された乗員保護装置において、エアバッグ２１が展開されると、乗員移動板２５は、車幅方向中央部側の端部を中心にして車幅方向側壁１ａ側の端部が上方に移動するように回転する。回転する乗員移動板２５は、クッション材１１ｂおよびクッション材１１ｂを覆う図示しないシートカバーを介して、シート１０に着座した乗員Ｍの車幅方向側壁１ａ側を持ち上げる。これにより、シート１０に着座した乗員Ｍは、乗員移動板２５によって車幅方向中央部側に倒されるように、車幅方向中央部側に移動される。

【0032】

このように、本実施形態の乗員保護装置によれば、前記実施形態と同様に、エアバッグ２１が展開する力を、乗員移動板２３を介してシート１０に着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させる力に変換することができるので、エアバッグ２１が展開する力によってシート１０に着座した乗員Ｍを確実に車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【0033】

また、車幅方向中央部側の端部が着座した乗員Ｍの下方に位置している乗員移動板２５を備えている。これにより、エアバッグ２１が展開した時に、シート１０に着座した乗員Ｍを、乗員移動板２５によって車幅方向中央部側に倒すように、車幅方向中央部側に移動させることができ、確実に乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【0034】

尚、前記実施形態では、乗員保護装置を、シートクッション１１内に設けたものを示したが、例えば図６および図７に示すように、シートバック１２内に設けるようにしても、第１乃至第３実施形態と同様に、エアバッグ２１が展開する力によってシート１０に着座した乗員Ｍを車幅方向中央部側に移動させることが可能となる。

【0035】

また、前記第２実施形態では、支軸２４ｂを介してシートクッション１１のフレーム１１ｃに支持された乗員移動板２４を示したが、例えば、支軸２４ｂの代わりにエアバッグ２１の展開する力によって屈曲可能な屈曲部が設けられた乗員移動板２４をフレーム１１ｃに固定し、エアバッグ２１が展開する際に、屈曲部を中心に乗員移動板２４を回転させるようにしてもよい。

【符号の説明】

【0036】

１０…シート、１１…シートクッション、１１ａ…サイドサポート、１１ｃ…フレーム、１２…シートバック、１２ａ…サイドサポート、２０…乗員保護装置、２１…エアバッグ、２３…乗員移動板、２３ａ…受け部、２４…乗員移動板、２４ａ…受け部、２４ｂ…支軸、２５…乗員移動板。

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】