(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クランクシャフトの回転に連動してカムシャフトの回転軸線上で回転するハウジングロータと、前記ハウジングロータの収容室に所定角度範囲において相対的に回転可能に収容されて前記収容室を進角室及び遅角室に二分すると共にカムシャフトと一体的に回転するベーンロータと、前記進角室に連通して作動油を通す進角通路と、前記遅角室に連通して作動油を通す遅角通路と、前記ベーンロータを前記ハウジングロータに対して前記所定角度範囲内の所定位置にロックすると共に作動油の油圧によりロックが解除されるロック機構を備え、カムシャフトにより開閉駆動される吸気バルブ又は排気バルブの開閉タイミングを変更するバブルタイミング変更装置であって、
前記ロック機構は、前記回転軸線に垂直な垂直面内で所定の揺動中心回りに揺動するべく前記ハウジングロータに支持されたロックバーと、前記ロックバーを前記ベーンロータのロック位置に向けて付勢する付勢バネを含み、
前記ロックバーは、その重心が、揺動範囲の全域においてロック状態を維持する向きに遠心力を生じさせるように位置付けられている、
ことを特徴とするバルブタイミング変更装置。
前記ロックバーは、その重心が、前記回転軸線を通る径方向において前記揺動中心よりも内側でかつ前記回転軸線と前記揺動中心を結ぶ直線上からロックする回転方向に所定量偏倚した領域の範囲内に位置するように形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング変更装置。
前記ハウジングロータは、前記収容室から隔てられて前記ロック機構を配置する隔離室を画定する隔離壁を有するハウジング部材と、前記隔離壁と協働して前記隔離室を画定するべく前記ハウジング部材に対して着脱自在に形成されたカバー部材を含み、
前記ロック機構は、前記隔離壁に設けられた貫通孔を通して前記ベーンロータと一体的に回転するように連結されたロックカムを含み、
前記ロックバーは、前記ロックカムに係合して前記ベーンロータをロックし、前記ロックカムから離脱して前記ベーンロータのロックを解除するように形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブタイミング変更装置。
前記ロックバーは、略L字をなす平板状に形成されて、その屈曲領域において前記ハウジングロータに設けられた支軸を通す被支持部と、前記被支持部から一方向に伸長して前記ロックカムに係合し得る係合側腕部と、前記被支持部から他方向に伸長して作動油の圧力を受ける受圧側腕部を有し、
前記ロックバーの重心は、前記被支持部の近傍に位置付けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載のバルブタイミング変更装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、構造の簡素化、装置の小型化、低コスト化等を図りつつ、最遅角位置と最進角位置との間の作動角を従来に比べて大きく設定することができ、ロック機構における遠心力の影響を防止してロック機構によるロック及びロック解除の動作を保証し、ベーンロータのバタツキ、ロック機構における打音や摩耗等を防止でき、エンジンの安定した始動性を確保できる、バルブタイミング変更装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のバルブタイミング変更装置は、クランクシャフトの回転に連動してカムシャフトの回転軸線上で回転するハウジングロータと、ハウジングロータの収容室に所定角度範囲において相対的に回転可能に収容されて収容室を進角室及び遅角室に二分すると共にカムシャフトと一体的に回転するベーンロータと、進角室に連通して作動油を通す進角通路と、遅角室に連通して作動油を通す遅角通路と、ベーンロータをハウジングロータに対して所定角度範囲内の所定位置にロックすると共に作動油の油圧によりロックが解除されるロック機構を備え、カムシャフトにより開閉駆動される吸気バルブ又は排気バルブの開閉タイミングを変更するバブルタイミング変更装置であって、上記ロック機構は、回転軸線に垂直な垂直面内で所定の揺動中心回りに揺動するべくハウジングロータに支持されたロックバーと、ロックバーをベーンロータのロック位置に向けて付勢する付勢バネを含み、ロックバーは、その重心が、揺動範囲の全域においてロック状態を維持する向きに遠心力を生じさせるように位置付けられている、構成となっている。
この構成によれば、ベーンロータ(カムシャフト)をハウジングロータに対して所定角度範囲内の所定位置にロックするロック機構が、カムシャフトの回転軸線に垂直な垂直面内で揺動するロックバー及びその付勢バネを含むため、従来のようにロックピンを収納した肉厚のベーンを、収容室内において始動時に中間位置に保持するようにすると、その始動時位置から進角方向へ位相調整のための制御角度を確保できなくなるが、本発明ではベーンに余分な厚さを必要としないため、最進角位置〜最遅角位置の間の位相調整角度を広く設定することができ、それ故に、必要に応じて幅広い位相制御を行うことができる。
特に、ロックバーは、その重心が揺動範囲の全域においてロック状態を維持する向きに遠心力を生じさせるように位置付けられているため、回転により生じた遠心力はロック状態を維持するように作用し、一方、作動油の油圧を作用させることで、ロックバーによるロック状態が解除され、ロック機構に所期の機能を確実に行わせることができる。
【0007】
上記構成において、ロックバーは、その重心が、回転軸線を通る径方向において揺動中心よりも内側でかつ回転軸線と揺動中心を結ぶ直線上からロックする回転方向に所定量偏倚した領域の範囲内に位置するように形成されている、構成を採用することができる。
この構成によれば、ロックバーの重心が上記のような範囲に位置付けられることにより、ロックバーには、遠心力による回転トルクが作用せず又は作用してもロックする方向に回転させるトルクが作用するため、ロックバーをそのロック位置に確実に維持することができる。
【0008】
上記構成において、ハウジングロータは、収容室から隔てられてロック機構を配置する隔離室を画定する隔離壁を有するハウジング部材と、隔離壁と協働して隔離室を画定するべくハウジング部材に対して着脱自在に形成されたカバー部材を含み、ロック機構は、隔離壁に設けられた貫通孔を通してベーンロータと一体的に回転するように連結されたロックカムを含み、ロックバーは、ロックカムに係合してベーンロータをロックし、ロックカムから離脱してベーンロータのロックを解除するように形成されている、構成を採用することができる。
この構成によれば、ロック機構を配置する隔離室が、ハウジング部材の隔離壁とハウジング部材に対して着脱自在なカバー部材により画定されるため、ハウジング部材の収容室内にベーンロータを組み込んだ状態で、ロック機構の組み付け作業又は取り外し作業を容易に行うことができ、又、エンジン始動時(クランキング時)には、ロックバーがロックカムをロックすることで、ベーンロータをハウジングロータに対して所定位置(中間位置)にロックし、エンジン始動後には、作動油圧によりロックバーによるロックを解除することができる。
すなわち、ロック機構によりベーンロータを所定位置(中間位置)に確実に維持することで、エンジンをより確実に始動させることができ、又、ロック機構がベーンロータを直接ロックしないため、ベーンロータのベーン部を薄くでき、設計の自由度、レイアウトの自由度が増加する。
【0009】
上記構成において、ロックバーは、略L字をなす平板状に形成されて、その屈曲領域においてハウジングロータに設けられた支軸を通す被支持部と、被支持部から一方向に伸長してロックカムに係合し得る係合側腕部と、被支持部から他方向に伸長して作動油の圧力を受ける受圧側腕部を有し、ロックバーの重心は、被支持部の近傍に位置付けられている、構成を採用することができる。
この構成によれば、ロックバーは、その被支持部が支軸により揺動自在に支持され、その係合側腕部がロックカムに係合してベーンロータをロックし、一方、受圧側腕部に作動油の油圧が作用して係合側腕部がロックカムから離脱することによりベーンロータのロックが解除される。
ここでは、被支持部の近傍すなわち支軸の近傍にロックバーの重心が位置付けられているため、揺動中心(支軸の中心)から重心までの距離を小さく設定でき、遠心力により回転トルクを小さくすることができ、それ故に、ロックバーの動作に対する遠心力の影響を極力小さくすることができる。
【0010】
上記構成において、ロックバーは、ベーンロータが進角側に回転するのを規制する進角ロックバーと、ベーンロータが遅角側に回転するのを規制する遅角ロックバーを含み、付勢バネは、進角ロックバーをロックカムに係合してロックするように付勢する進角規制バネと、遅角ロックバーをロックカムに係合してロックするように付勢する遅角規制バネを含む、構成を採用することができる。
この構成によれば、作動油の油圧が作用しない状態で、進角ロックバーは進角規制バネにより付勢されてロックカム(すなわちベーンロータ)が所定位置(中間位置)から進角側にずれるのを規制し、遅角ロックバーは遅角規制バネにより付勢されてロックカム(すなわちベーンロータ)が所定位置(中間位置)から遅角側にずれるのを規制するため、ベーンロータを所定位置(中間位置)に確実に位置決めすることができ、又、エンジン停止時に所定位置(中間位置)からずれていても、クランキング時の変動トルクと進角規制バネ及び遅角規制バネの付勢力により、ベーンロータを所定位置(中間位置)に復帰させることができる。
【0011】
上記構成において、進角通路は、進角ロックバー及び遅角ロックバーのロックを解除するべく作動油の油圧を導くように形成され、遅角通路は、進角通路を通して導かれた作動油の油圧によりロックが解除された後に遅角ロックバーのみのロックの解除を維持するべく作動油の油圧を導くように形成されている、構成を採用することができる。
この構成によれば、仮に遅角通路を通して作動油の油圧が導かれても、進角通路を通して作動油の油圧が導かれない限り遅角ロックバーのロックは解除されないため、エンジンの始動時においてこの装置が制御可能な状態になるまでハウジングロータに対するベーンロータの位相を所定位置(中間位置)に保持することができ、それ故にエンジンの安定した始動性を確保することができる。
【0012】
上記構成において、遅角通路は、回転軸線の方向において開口する開口部を画定し、遅角ロックバーの受圧側腕部は、回転軸線の方向において対面する主面により、遅角通路の開口部を開閉するように形成されている、構成を採用することができる。
この構成によれば、ロックバーの揺動動作のみにより、遅角通路の開閉を行うことができるため、部品点数を少なくして、構造の簡素化等を達成することができる。
【発明の効果】
【0013】
上記構成をなすバルブタイミング変更装置によれば、構造の簡素化、装置の小型化、低コスト化等を達成しつつ、最遅角位置と最進角位置との間の作動角を従来に比べて大きく設定することができ、ロック機構における遠心力の影響を防止してロック機構によるロック及びロック解除の動作を保証し、ベーンロータのバタツキ、ロック機構における打音や摩耗等を防止でき、エンジンの安定した始動性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
このバルブタイミング変更装置は、
図1ないし
図3に示すように、カムシャフト10に着脱自在に固定され得るベーンロータ20、カムシャフト10の回転軸線S1上で回転すると共にベーンロータ20を相対的に回転可能に収容しかつベーンロータ20と協働して進角室30a及び遅角室30bを画定するハウジングロータ30、ベーンロータ20をハウジングロータ30に対して所定位置(中間位置)にロックするべくハウジングロータ30の隔離室に配置されるロック機構40(ロックカム41、進角ロックバー42、進角規制バネ43、遅角ロックバー44、遅角規制バネ45)、ベーンロータ20をカムシャフト10に締結するセンタボルト50、ロック機構40に含まれるロックカム41を所定位置(中間位置)に戻すようにアシストするアシスト機構60、作動油(潤滑油)の流れを制御する油圧制御系OCS等を備えている。
尚、カムシャフト10は、エンジンの吸気バルブ又は排気バルブをカム作用により開閉駆動するものであり、ハウジングロータ30は、チェーン等を介してクランクシャフトの回転に連動し、クランクシャフトの回転駆動力を、ベーンロータ20を介してカムシャフト10に伝達するものである。
【0016】
カムシャフト10は、
図1ないし
図3に示すように、エンジンのシリンダヘッド(不図示)に形成された軸受B(
図2参照)により回転軸線S1回りに回転可能に(
図1において矢印CR方向に回転するように)支持され、軸受Bにより支持されるジャーナル部11、ハウジングロータ30を回動自在に支持する円筒部12、進角室30a及び進角ロックバー42に対する作動油の供給及び排出を行う進角通路13、遅角室30b及び遅角ロックバー44に対する作動油の供給及び排出を行う遅角通路14、センタボルト50を締結する雌ネジ部15等を備えている。
【0017】
ベーンロータ20は、
図1ないし
図5に示すように、4つのベーン部21、4つのベーン部21を等間隔で一体的に保持するハブ部22、ハブ部22に形成されセンタボルト50が通される貫通孔23、進角室30aに対する作動油の供給及び排出のために進角通路13から分岐して形成された進角室通路24、遅角室30bに対する作動油の供給及び排出のために遅角通路14から分岐して形成された遅角室通路25、ベーン部21の先端に形成された溝部に嵌め込まれたシール部材26等を備え、ロックカム41と一緒にセンタボルト50を用いてカムシャフト10に締結され、カムシャフト10と一体的に回転するようになっている。
【0018】
ハウジングロータ30は、クランクシャフトの回転に連動してカムシャフト10の回転軸線S1上で回転可能に支持され、
図1ないし
図3に示すように、ハウジング部材31、ハウジング部材31の背面側に結合されるスプロケット部材32、ハウジング部材31の前面側に結合されるカバー部材33により構成されており、ベーンロータ20を所定角度範囲(最進角位置と最遅角位置の間の角度範囲)において相対的に回転可能に収容する(収容室を画定する)と共にロック機構40を収容し(隔離室を画定し)、収容されたベーンロータ20(のベーン部21)により進角室30a及び遅角室30bに二分されるように形成されている。
【0019】
ハウジング部材31は、
図1ないし
図5、
図13に示すように、円筒壁31a、隔離壁31b、隔離壁31bの中央に設けられた貫通孔31c、隔離壁31bの背面側において中心に向かって突出する4つの軸受部31d、各々の軸受部31dの間及び中央部に画定されてベーンロータ20を収容する凹部31e、隔離壁31bの前面側に形成されてロック機構を収容する凹部31f、進角ロックバー42及び遅角ロックバー44に対する作動油の供給及び排出のために進角通路13から分岐して形成された両ロックバー用通路31g、遅角ロックバー44に対する作動油の供給及び排出のために遅角通路14から分岐して形成された遅角ロックバー用通路31h、開口部31h´、支軸31i,31j、受け部31k,31k´、ストッパ壁31o,31p、アシスト機構60を収容する凹部31q等を備えている。
【0020】
両ロックバー用通路31gは、
図6ないし
図8に示すように、凹部31fに開口すると共に進角ロックバー42及び遅角ロックバー44(の受圧側腕部)の側面に油圧を導くと共にそれぞれのロック状態を解除する方向に油圧が作用するように形成されている。
遅角ロックバー用通路31hは、
図6ないし
図8に示すように、凹部31fに開口すると共に遅角ロックバー44の主面(回転軸線S1方向に向かう平面)に油圧を導いて、両ロックバー用通路31gから導かれた油圧により所定角度だけロック状態を解除する向きに遅角ロックバー44が回転(移動)したとき、遅角ロックバー44の主面による閉塞状態から開放されて、油圧を遅角ロックバー44(の受圧側腕部)の側面に導くと共にそのロック状態を解除する方向に油圧が作用するように(すなわち、凹部31fの表面を削って形成された凹状の長溝状の開口部31h´に繋がるように)形成されている。
【0021】
スプロケット部材32は、
図1ないし
図3に示すように、クランクシャフトの回転駆動力を伝達するチェーンが巻回されるスプロケット32a、カムシャフト10の円筒部12に回動自在に嵌合される内周面32b、ベーンロータ20の背面が摺動自在に接触する前面32c、進角ロックバー42及び遅角ロックバー44に対する作動油の供給及び排出のために進角通路13から分岐して形成された両ロックバー用通路32d、遅角ロックバー44に対する作動油の供給及び排出のために遅角通路14から分岐して形成された遅角ロックバー用通路32e等を備えている。
【0022】
両ロックバー用通路32dは、
図13ないし
図15に示すように、周方向に伸長する円弧状の通路及び径方向に伸長する通路により画定されており、ベーンロータ20が最進角位置と最遅角位置との間を相対的に回転する間中、進角通路13と両ロックバー用通路31gとを連通させるように形成されている。
遅角ロックバー用通路32eは、
図13ないし
図15に示すように、周方向に伸長する円弧状の通路及び径方向に伸長する通路により画定されており、ベーンロータ20が最進角位置と最遅角位置との間を相対的に回転する間中、遅角通路14と遅角ロックバー用通路31hとを連通させるように形成されている。
【0023】
上記のように、進角通路13が両ロックバー用通路31g,32dと進角室通路24とに分岐して形成され、かつ、遅角通路14が遅角ロックバー用通路31h,32eと遅角室通路25とに分岐して形成されているため、ロック解除時の応答性が良く、進角室30a及び遅角室30b内の作動油の影響を受けることなくロック機構40を円滑に作動させることができる。また、両ロックバー用通路31g,32d及び遅角ロックバー用通路31h,32eは、ハウジング部材31及びスプロケット部材32により画定されているため、カムシャフト10、スプロケット部材32、及びハウジング部材31に対して、それぞれ簡単な穴開け加工や溝加工等を施すことにより、両ロックバー用通路31g,32e及び遅角ロックバー用通路31h,32eを容易に形成することができる。
【0024】
カバー部材33は、
図1ないし
図3に示すように、センタボルト50を通す円孔33a等を有し、ハウジング部材31に対して着脱自在に形成されている。
そして、ハウジング部材31、スプロケット部材32、及びカバー部材33は、ボルト等を用いて締結されるようになっている。
また、カバー部材33がハウジング部材31に結合されることにより、ロック機構40を配置する隔離室が画定されるようになっている。
【0025】
ロック機構40は、
図1、
図6ないし
図8に示すように、ロックカム41、進角ロックバー42、進角規制バネ43、遅角ロックバー44、遅角規制バネ45により構成されており、ベーンロータ20を、ハウジングロータ30に対して相対的に回動可能な所定角度範囲内(最進角位置と最遅角位置との間)の所定位置(中間位置)にロックするように形成されている。
【0026】
ロックカム41は、センタボルト50によりベーンロータ20と一緒にカムシャフト10に締結されて上記所定角度範囲を回動すると共に進角ロックバー42及び遅角ロックバー44が離脱可能に係合し得るように形成されている。
【0027】
進角ロックバー42は、
図9(a),(b)に示すように、略L字をなす平板状に形成されて、その屈曲領域においてハウジング部材31に設けられて揺動中心としての揺動軸線S2を画定する支軸31iを通す被支持部42a、被支持部42aから一方向に伸長してロックカム41に係合し得る係合側腕部42b、被支持部42aから他方向に伸長して作動油の圧力を受ける受圧側腕部42cを備えている。
そして、進角ロックバー42は、支軸31iにより回転軸線S1に垂直な垂直面内において揺動自在に支持されると共に進角規制バネ43の一端部が係合側腕部42bに当接されてストッパ壁31oに当接するように反時計回りに回転付勢され、ストッパ壁31oに当接して反時計回りの回転が規制された状態で、ロックカム41に当接してロックカム41(すなわちベーンロータ20)が休止位置から進角側に回転するのを規制し、一方、両ロックバー用通路31g(32d)を通して供給された作動油の油圧が、
図11(a),(b)に示すように受圧側腕部42cの側面42c´に作用することにより、時計回りに回転させられてロックを解除するようになっている。
【0028】
ここで、進角ロックバー42は、
図9(a),(b)に示すように、その重心G1が、被支持部42aの近傍に位置付けられ、すなわち、回転軸線S1を通る径方向において揺動軸線S2よりも内側でかつ回転軸線S1と揺動軸線S2を結ぶ直線L1上からロックする回転方向(
図9(a),(b)において反時計回り)に所定量偏倚した領域の範囲内に位置するように形成されている。
すなわち、その重心G1が、揺動範囲の全域においてロック状態を維持する向きに遠心力を生じさせるように位置付けられている。
ここで、作動油の油圧による時計回りの回転トルクをT1、進角規制バネ43の付勢力による反時計回りの回転トルクをT2、遠心力による反時計回りの回転トルクをT3とすると、T1>T2+T3となるように設定されている。
特に、被支持部42aの近傍すなわち支軸31i(揺動軸線S2)の近傍に進角ロックバー42の重心G1が位置付けられているため、揺動軸線S2(支軸31iの中心)から重心G1までの距離を小さく設定でき、遠心力による回転トルクT3を小さくすることができ、それ故に、進角ロックバー42の動作に対する遠心力の影響を極力小さくすることができる。
したがって、ハウジングロータ30の回転により生じた遠心力は、進角ロックバー42によるロック状態を維持するように作用してロック状態が勝手に解除されるのを防止でき、一方、両ロックバー用通路31g(32d)を通して供給された作動油の油圧を作用させることで、進角ロックバー42によるロック状態が解除され、ロック機構に所期の機能を確実に行わせることができる。
【0029】
進角規制バネ43は、
図6ないし
図8に示すように、その一端がハウジング部材31の受け部31kに当接し、その他端が進角ロックバー42の係合側腕部42bの一部に当接して圧縮した状態に保持され、進角ロックバー42をロックカム41に係合してロックするように反時計回りに回転付勢している。
ここで、進角規制バネ43の付勢力は、作動油の油圧が作用して進角ロックバー42のロック状態を解除するときには、円滑な解除動作が行われるように設定されている。
【0030】
遅角ロックバー44は、
図10(a),(b)に示すように、略L字をなす平板状に形成されて、その屈曲領域においてハウジング部材31に設けられて揺動中心としての揺動軸線S3を画定する支軸31jを通す被支持部44a、被支持部44aから一方向に伸長してロックカム41に係合し得る係合側腕部44b、被支持部44aから他方向に伸長して作動油の圧力を受ける受圧側腕部44cを備えている。
そして、遅角ロックバー44は、支軸31jにより回転軸線S1に垂直な垂直面内において揺動自在に支持されると共に遅角規制バネ45の一端部が係合側腕部44bに当接されてストッパ壁31pに当接するように時計回りに回転付勢され、ストッパ壁31pに当接して時計回りの回転が規制された状態で、ロックカム41に当接してロックカム41(すなわちベーンロータ20)が休止位置から遅角側に回転するのを規制し、一方、両ロックバー用通路31g(32d)を通して供給された作動油の油圧が、
図12(a)に示すように受圧側腕部44cの側面44c´に作用することにより、反時計回りに回転させられてロックを解除し、
図10(b)に示すように所定角度回転したとき遅角ロックバー用通路31h(開口部31h´)が開放されることで、両ロックバー用通路31g(32d)から供給される作動油の油圧が作用しなくなっても、遅角ロックバー用通路31h(開口部31h´),32eを通して供給された作動油の油圧が、
図8、
図12(b)に示すように受圧側腕部44cの側面44c´´に作用するだけで、ロックを解除した状態を維持するようになっている。
【0031】
ここで、遅角ロックバー44は、
図10(a),(b)に示すように、その重心G2が、被支持部44aの近傍に位置付けられ、すなわち、回転軸線S1を通る径方向において揺動軸線S3よりも内側でかつ回転軸線S1と揺動軸線S3を結ぶ直線L2上からロックする回転方向(
図10(a),(b)において時計回り)に所定量偏倚した領域の範囲内に位置するように形成されている。
すなわち、その重心G2が、揺動範囲の全域においてロック状態を維持する向きに遠心力を生じさせるように位置付けられている。
ここで、作動油の油圧による反時計回りの回転トルクをT1´、遅角規制バネ45の付勢力による時計回りの回転トルクをT2´、遠心力による時計回りの回転トルクをT3´とすると、T1´>T2´+T3´となるように設定されている。
特に、被支持部44aの近傍すなわち支軸31j(揺動軸線S3)の近傍に遅角ロックバー44の重心G2が位置付けられているため、揺動軸線S3(支軸31jの中心)から重心G2までの距離を小さく設定でき、遠心力による回転トルクT3´を小さくすることができ、それ故に、遅角ロックバー44の動作に対する遠心力の影響を極力小さくすることができる。
したがって、ハウジングロータ30の回転により生じた遠心力は、遅角ロックバー44によるロック状態を維持するように作用してロック状態が勝手に解除されるのを防止でき、一方、両ロックバー用通路31g(32d)を通して供給された作動油の油圧及び遅角ロックバー用通路31h(開口部31h´)を通して供給された作動油の油圧を作用させることで、遅角ロックバー44によるロック状態が解除され、ロック機構に所期の機能を確実に行わせることができる。
さらに、遅角ロックバー44の受圧側腕部44bは、回転軸線S1の方向において対面する主面により、遅角ロックバー用通路31hの開口部31h´を開閉するように形成されているため、遅角ロックバー44の揺動動作のみにより、遅角ロックバー用通路31h(遅角通路)の開閉を行うことができるため、部品点数を少なくして、構造の簡素化等を達成することができる。
【0032】
遅角規制バネ45は、
図6ないし
図8に示すように、その一端がハウジング部材31の受け部31k´に当接し、その他端が遅角ロックバー44の係合側腕部44bの一部に当接して圧縮した状態に保持され、遅角ロックバー44をロックカム41に係合してロックするように時計回りに回転付勢している。
ここで、遅角規制バネ45の付勢力は、作動油の油圧が作用して遅角ロックバー44のロック状態を解除するときには、円滑な解除動作が行われるように設定されている。
【0033】
上記構成をなすロック機構40によれば、ロックカム41及びベーンロータ20は、
図6及び
図13に示す状態で進角ロックバー42及び遅角ロックバー44によりロックされて所定位置(中間位置)に位置決めされ、
図7及び
図14に示す状態で進角ロックバー42及び遅角ロックバー44によるロックが共に解除されると共に時計回りに回転して一つのベーン部21が一つの軸受部31dに当接することで最進角位置に位置決めされ、
図8及び
図15に示す状態で遅角ロックバー44によるロックのみが解除されると共に反時計回りに回転して一つのベーン部21が一つの軸受部31dに当接することで最遅角位置に位置決めされるようになっている。
【0034】
センタボルト50は、
図1ないし
図3に示すように、中実の円柱状をなし、その先端側において雄ネジ部51を備えている。
そして、センタボルト50は、ベーンロータ20の貫通孔23に対して所定の環状隙間を画定するように通されると共に、その雄ネジ部51がカムシャフト10の雌ネジ部15に螺合されることで、ロックカム41及びベーンロータ20をカムシャフト10に一体的に締結するようになっている。
【0035】
アシスト機構60は、
図6ないし
図8に示すように、ハウジング部材31の凹部31qに配置されたプッシュ部材61及び付勢バネ62等を備え、ロックカム41(ベーンロータ20及びカムシャフト10)を最遅角位置側から中間位置に移動させるべく補助力を及ぼすように形成されている。
【0036】
油圧制御系OCSは、
図2及び
図3に示すように、シリンダヘッドCH等に嵌合して固定される油圧制御弁100、作動油を油圧制御弁100に向けて供給するポンプ70、ポンプから吐出される作動油を通す供給通路71、油圧制御弁100から排出される作動油を通すドレン通路72、油圧制御弁100と進角通路13とを接続して作動油を通す進角通路73、油圧制御弁100と遅角通路14とを接続して作動油を通す遅角通路74、油圧制御弁100の駆動を制御する制御手段(不図示)等により構成されている。
【0037】
次に、上記バルブタイミング変更装置の動作について、
図2及び
図3、
図6ないし
図8、
図13ないし
図15を参照しつつ説明する。
エンジンが運転者の意思により停止される場合、イグニッションスイッチが切られた後の所定時間に亘り、油圧制御弁100は、進角室30a及び遅角室30bの作動油を共に排出するべく駆動制御されるドレンモードが選択され、進角室30aの作動油は、進角通路73→ドレン通路72を経て排出され、遅角室30bの作動油は、遅角通路74→ドレン通路72を経て排出される。
【0038】
そして、
図6に示すように、両ロックバー用通路31g,32d及び遅角ロックバー用通路31h,32eから作動油が排出されて油圧が作用しなくなるため、アシスト機構60(の付勢バネ62)の付勢力及び進角規制バネ43及び遅角規制バネ45の付勢力により、ロックカム41が所定位置としての中間位置に位置決めされて進角ロックバー42及び遅角ロックバー44によりロックされ、又、ベーンロータ20が、
図13に示すように、最進角位置と最遅角位置の間の中間位置に位置決めされる。この中間位置は、エンジンの始動が開始(クランキング)されると、円滑な始動が行なえるバルブタイミングに設定されている。尚、運転者の意思に反してエンスト等によりエンジンが停止した場合は、そのことを制御手段が判断して、イグニッションスイッチが切られた場合と同様に所定時間に亘り、上記同様のドレンモードが選択される。
そして、所定時間に亘る通電が終了すると、油圧制御弁100は、進角室30aの作動油を排出しかつ遅角室30bに作動油を供給可能な遅角モードに移行した状態にて維持される。
【0039】
このように、エンジンを停止するべくイグニッションスイッチが切られ後又はエンストによりエンジンが停止した後の所定時間に亘り、ドレンモードにするように油圧制御弁100を駆動することにより、ハウジングロータ30に対するベーンロータ20の位置を予め設定されたエンジン始動に最適な所定の中間位置に確実に位置付け、次のエンジン始動を円滑に行わせることができる。
【0040】
エンジンの始動時には、既に、ベーンロータ20(ロックカム41)が中間位置にロックされた状態にあり、又、油圧制御弁100は遅角モードが選択されている。尚、ベーンロータ20(ロックカム41)が中間位置からずれてロックされていない場合は、遅角ロックバー44及び進角ロックバー42が遅角規制バネ45及び進角規制バネ43によりそれぞれロック側に向けて常時回転付勢されており、又、クランキングにより生じる変動トルクにより、自動的に中間位置に移動してロックされる。
【0041】
したがって、エンジンが始動のためにクランキングされると、進角室30aの作動油は、進角通路73→ドレン通路72を経て排出される状態のまま、ポンプ70→供給通路71→遅角通路74を経て、遅角室30bに作動油が供給される。
尚、両ロックバー用通路31gの作動油は、進角通路73→ドレン通路72を経て排出される状態にあり、遅角ロックバー用通路31h(開口部31h´)は、
図6に示すように、遅角ロックバー44の主面により閉塞されているため、作動油の油圧は遅角ロックバー44のロックを解除する方向に作用せず、進角ロックバー42及び遅角ロックバー44は共にロックカム41(ベーンロータ20)を中間位置にロックした状態にある。
【0042】
すなわち、ロック機構40によるロックが維持された状態で、油圧制御弁100は、遅角モードが選択されているため、その駆動源が断線等により作動しない場合であっても、エンジン始動により作動油が供給されることで、ハウジングロータ30、ベーンロータ20等を含む機構における摺動部、ロック機構40、その他の機構等の異常摩耗、部品の破損等を防止でき、又、ベーンロータ20は中間位置において遅角側へ作動油の油圧により回転付勢されるためそのバタツキ等を防止できる。また、ベーンロータ20(カムシャフト10)が中間位置に位置決めされているため、円滑にエンジンを始動させることができる。
【0043】
エンジンが始動すると、油圧制御弁100が適宜切り替えられて、ベーンロータ20(カムシャフト10)が中間位置から進角側へ(進角モード)又は遅角側へ(遅角モード)、さらには所定の角度位置に保持される(保持モード)ように位相制御が行われる。
例えば、進角側へ位相を変更する場合は、油圧制御弁100が切り替えられて、遅角室30bの作動油を排出しかつ進角室30aに作動油を供給する進角モードが選択される。
この進角モードでは、ポンプ70→供給通路71→進角通路73を経て、進角室30aに作動油が供給されると共に、
図7に示すように、両ロックバー用通路31g,32dを通して進角ロックバー42及び遅角ロックバー44に作動油の油圧が供給されてロックが解除され、さらに、遅角ロックバー44が所定角度だけ回転した時点で遅角ロックバー用通路31hが開放されその油圧が遅角ロックバー44をロック解除の状態に維持する。一方、遅角通路74→ドレン通路72を経て、遅角室30bから作動油が排出される。これにより、
図14に示すように、ベーンロータ20を進角側へ移動させて位相を変更することができる。
【0044】
また、ベーンロータ20を所定の最進角位置と最遅角位置との間の所定の位相角度に保持する場合には、油圧制御弁100が切り替えられて、進角室30a及び遅角室30bに作動油を供給する保持モード(ポンプモード)が選択される。
この保持モードでは、ポンプ70→供給通路71→進角通路73を経て進角室30aに作動油が供給され、ポンプ70→供給通路71→遅角通路74を経て遅角室30bに作動油が供給され、又、両ロックバー用通路31g,32dを通して進角ロックバー42及び遅角ロックバー44に作動油の油圧が供給されてロックが解除され、さらに、遅角ロックバー44が所定角度だけ回転した時点で遅角ロックバー用通路31hが開放されその油圧が遅角ロックバー44をロック解除の状態に維持する。すなわち、進角室30a及び遅角室30bに作用する油圧により、ベーンロータ20を所定の中間位相に保持することができる。
【0045】
一方、遅角側へ位相を変更する場合は、油圧制御弁100が始動時の中間位置から進角モード又は保持モード(ポンプモード)に一旦切り替えられた後に、遅角室30bに作動油を供給しかつ進角室30aの作動油を排出する遅角モードが選択される。
この遅角モードでは、一旦切り替えられた進角モード又は保持モード(ポンプモード)において作用した油圧により、
図8に示すように、遅角ロックバー44によるロックが解除されて維持された状態にあり、この状態で、進角室30aの作動油は、進角通路73→ドレン通路72を経て排出され、ポンプ70→供給通路71→遅角通路74を経て、遅角室30bに作動油が供給される。これにより、
図15に示すように、ベーンロータ20を遅角側へ移動させて位相を変更することができる。
【0046】
上記のように、進角通路13(両ロックバー用通路31g,32d)を通して作動油の油圧が導かれない限り遅角ロックバー44のロックは解除されないため、エンジンの始動時において完爆するまでハウジングロータ30に対するベーンロータ20の位相を中間位置に保持することができ、それ故にエンジンの安定した始動性を確保することができる。
また、エンジンの始動時にロック機構40によるロックが維持された状態で遅角モードが選択されるため、エンジンの始動時におけるクランキングにより作動油が供給されることで、ハウジングロータ30、ベーンロータ20等における摺動部、ロック機構40、その他の機構等の異常摩耗、部品の破損等を防止することができ、又、ベーンロータ20を遅角側に回転付勢できるため、そのバタツキ及び打音等の発生を防止することができる。
さらに、進角ロックバー42及び遅角ロックバー44は、その重心G1,G2が揺動範囲の全域においてロック状態を維持する向きに遠心力を生じさせるように位置付けられているため、回転により生じた遠心力はロック状態を維持するように作用して、遠心力により勝手にロック状態が解除されるのを防止でき、一方、作動油の油圧を作用させることで、ロックバーによるロック状態が解除され、ロック機構に所期の機能を確実に行わせることができる。
【0047】
上記実施形態においては、クランクシャフトの回転力を伝達するスプロケット32aを備えたハウジングロータ30を示したが、これに限定されるものではなく、クランクシャフトの回転駆動力を伝達する手段がその他の構造をなすもの(例えば、歯付きタイミングベルト等)であれば、その構造に合ったもの(歯付きプーリ等)を備えたハウジングロータを採用することができる。
上記実施形態においては、ロック機構として、ロックカム41、進角ロックバー42、進角規制バネ43、遅角ロックバー44、遅角規制バネ45を採用した場合を示したが、これに限定されるものではなく、回転軸線S1に垂直な垂直面内で揺動して所定位置(中間位置)にロックし得るロックバーを備えたものであればその他のロック機構を採用してもよい。
上記実施形態においては、進角ロックバー42及び遅角ロックバー44を揺動自在に支持するべくハウジング部材31から突出した支軸31i,31jを採用したが、これに限定されるものではなく、ハウジング部材に軸受穴を設け、進角ロックバー及び遅角ロックバーに対して軸受穴に嵌合される支軸を設けた構成を採用してもよい。
上記実施形態においては、保持モードにおいて、進角室30a及び遅角室30bに作動油が供給されるポンプモードが採用された場合を示したが、これに限定されるものではなく、進角室30a及び遅角室30bに対する作動油の流れを遮断するクローズモードが採用されてもよい。