(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771549
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】フィルタエレメント
(51)【国際特許分類】
F01N 3/022 20060101AFI20150813BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20150813BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20150813BHJP
B01D 53/88 20060101ALI20150813BHJP
B01D 46/00 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
F01N3/02 301C
B01D39/20 DZAB
B01D53/86 100
B01D53/86 241
B01D53/88
B01D46/00 302
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-57688(P2012-57688)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189936(P2013-189936A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】坂下 俊
(72)【発明者】
【氏名】平川 敏弘
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−537741(JP,A)
【文献】
特表2011−509816(JP,A)
【文献】
特開2011−177612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38
B01D 39/00−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの排ガスを濾過するためのフィルタエレメントであって、流入面及び流出面並びに多数の流入通路及び多数の流出通路が設けられており、前記流入通路と前記流出通路とが多孔質材料から成る隔壁によって仕切られているフィルタエレメントにおいて、
すべての流入通路の横断面積がすべての流出通路の横断面積よりも大きく、前記流入通路の数が前記流出通路の数よりも多く、
前記フィルタエレメントの横断面が、正六角形の多数の流出通路と変形六角形の多数の流入通路から形成され、
前記正六角形の多数の流出通路は、第一の六角通路と、前記第一の六角通路に比べて断面積が小さい第二の六角通路から形成され、
前記第一の六角通路及び前記第二の六角通路の隔壁を介して接する外周側が、6つの前記変形六角形の流入通路により取り囲まれており、
前記第一の六角通路及び前記第二の六角通路が、規則的に配置されている、
フィルタエレメント。
【請求項2】
前記変形六角形の流入通路の断面は、前記第一の六角通路と隔壁を共有する2つの辺aと、前記第二の六角通路と隔壁を共有する1つの辺bと、これらの3つの辺(aとb)を、隣接する変形六角形の流入通路同士が隔壁を共有する3つの辺(cとd)が交互に繋がることで形成されている、請求項1に記載のフィルタエレメント。
【請求項3】
第一の六角通路の断面積(X)に対する第二の六角通路の断面積(Y)の比(Y/X)が、0.35以上、0.90以下である、請求項1又は2に記載のフィルタエレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、特にディーゼル機関からの排ガス処理に好適に用いることが出来るフィルタエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、特にディーゼル機関から排出される排ガス中には粒子状物質(PM)と灰分(Ash)が含まれている。ディーゼル機関等の排ガスからPMとAshを除去するために、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が用いられている。DPFは、多孔質の隔壁により仕切られた多数の互いに平行な流体流路よりなり、該流体流路の隣接する入口部と出口部を交互に目封止し、該流体流路の隔壁を排気ガスの濾過面としたハニカム構造のフィルタである。DPFを長期間使用すると、フィルタ内部にPMとAshが所定以上に堆積して、圧損が増大し、PMとAshの除去性能が低下し、フィルタとしての機能を発揮できなくなる。そこで、DPFを再生処理することが必要になる。DPFに堆積したPMは加熱燃焼による再生にて除去可能であるが、Ashについては、再生による燃焼消去ができず、実質的にDPFの入口セルに堆積させざるを得ない。
【0003】
Ashは、DPFの主に入口セルの終端から順にセル方向入口側に堆積していくが、Ashの堆積量が増すにつれて、実質的なフィルタ面積が減少し、圧損の急激な上昇に繋がる。圧損上昇を避けるため、入口セルを出口セルに比べて開口面積を大きくしたり、目封止パターンを工夫し、入口セルの数を増やすことにより、入口セルの容積を増やし、Ashをより多く堆積できるように工夫することも提案されている(特許文献1、2を参照)。
【0004】
一方で、堆積したPMの再生を促進させるために、DPFに酸化触媒をコートするのが一般的であるが、特許文献2、3に記載された技術のように、セルの断面形状を六角などの鈍角とすることにより、セル内に触媒を均一にコートすることができる。その結果、隔壁交点部に触媒が偏堆積し、実質的に使われない触媒が多く残る四角セルなどの90°以下の交点を持つセルと比べ、貴金属が多く含まれる高価な触媒を節約することができる。
【0005】
また、特許文献2の
図11には、断面六角セルの触媒コート性とAsh堆積のキャパシティ増大の両立を目的としたハニカムフィルタが開示されている。すなわち、特許文献2の
図11に記載のハニカムフィルタによれば、1つの出口セルの周りに6つの入口セルを設けることで、ハニカム担体全体の入口セルの容積を出口セルの2倍にし、Ash堆積のキャパシティを増大させている。
【0006】
しかしながら、特許文献2においては、入口セル同士を共有する隔壁が存在することで、実質的に捕集に有効に作用する隔壁の数が減ることになる。つまり、有効GSA(入口セルと出口セルが共有する隔壁の総表面積を担体の体積で割った値)が下がり、圧損が上昇するという課題があった。
【0007】
さらに、特許文献3、4によれば、有効GSAを向上させるために、入口セルを変形させている。つまり、入口セル同士を共有する隔壁の長さを短くし、有効GSAを大きくしたフィルタ構造が記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献3、4に記載のフィルタ構造においては、有効GSAを大きくした結果、入口セルの総体積が減少し、特許文献2の技術に比べ、Ash堆積のキャパシティが減少するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−270969号公報
【特許文献2】特公平3−49608号公報
【特許文献3】特表2009−537741号公報
【特許文献4】特表2011−509816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、有効GSAの減少を抑え、圧損の上昇を抑えつつ、Ash堆積のキャパシティを向上させること、さらに加えて、再生限界の向上及び再生時の着火性向上による再生温度の低減を可能とするフィルタエレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明によれば、以下に示すフィルタエレメントが提供される。
【0012】
[1]内燃機関からの排ガスを濾過するためのフィルタエレメントであって、流入面及び流出面並びに多数の流入通路及び多数の流出通路が設けられており、前記流入通路と前記流出通路とが多孔質材料から成る隔壁によって仕切られているフィルタエレメントにおいて、
すべての流入通路の横断面積がすべての流出通路の横断面積よりも大きく、前記流入通路の数が前記流出通路の数よりも多く、
前記フィルタエレメントの横断面が、正六角形の多数の流出通路と変形六角形の多数の流入通路から形成され、
前記正六角形の多数の流出通路は、第一の六角通路と、前記第一の六角通路に比べて断面積が小さい第二の六角通路から形成され、
前記第一の六角通路及び前記第二の六角通路の隔壁を介して接する外周側が、6つの前記変形六角形の流入通路により取り囲まれており、
前記第一の六角通路及び前記第二の六角通路が、規則的に配置されている、
フィルタエレメント。
【0013】
[2]前記変形六角形の流入通路の断面は、前記第一の六角通路と隔壁を共有する2つの辺aと、前記第二の六角通路と隔壁を共有する1つの辺bと、これらの3つの辺(aとb)を、隣接する変形六角形の流入通路同士が隔壁を共有する3つの辺(cとd)が交互に繋がることで形成されている、前記[1]に記載のフィルタエレメント。
【0014】
[3]第一の六角通路の断面積(X)に対する第二の六角通路の断面積(Y)の比(Y/X)が、0.35以上、0.90以下である、前記[1]又は[2]に記載のフィルタエレメント。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフィルタエレメントによれば、有効GSAの減少を抑え、圧損の上昇を抑えつつ、Ash堆積のキャパシティを向上させ、さらに、再生限界の向上及び再生時の着火性向上により、再生温度を低減することができるという顕著な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るフィルタエレメントの一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係るフィルタエレメントの一実施形態を示す側面図で、排ガスの流入側(入口側)となる一方の端面を示す。
【
図3】
図2におけるa−a’,b−b’部分拡大図であり、二点鎖線で囲まれた部分が
図1において太字で示された部分である。
【
図4】本発明に係るフィルタエレメントの排ガス入口側端面の部分拡大図である。
【
図5】本発明に係るフィルタエレメントにおいて、大小2種類の正六角形の流出通路と変形六角形の流入通路の寸法A,B,Cを示す部分拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0018】
図1は、本発明に係るフィルタエレメントの一実施形態を示す斜視図である。また、
図2は、本発明に係るフィルタエレメントの一実施形態を示す側面図で、排ガスの流入側(入口側)となる一方の端面を示す。
図3は、
図2におけるa−a’,b−b’部分拡大図であり、二点鎖線で囲まれた部分が
図1において太字で示された部分である。
図1〜
図3において、Eは排ガス流入側端面を示している。10は本発明の一実施形態のフィルタエレメントを示しており、従来公知のフィルタエレメントと同様に、流入面12及び流出面14、並びに流入面12から流出面14まで延びる多数の流入通路(入口セル)16及び多数の流出通路(出口セル)18を備えている。流入通路16と流出通路18は、それぞれ多孔質材料から成る隔壁20によって仕切られて構成されている。そして、流出通路(出口セル)18は、ガス流入側端面Eにおいて目封止されている。一方、排ガス流出側端面Oにおいては、流入通路(入口セル)16が目封止されている。
【0019】
このフィルタエレメント10においては、すべての流入通路16の全横断面積(ガス流入側の開口面積)は、すべての流出通路18の全横断面積(ガス流出側の開口面積)よりも大きくなるように構成されている。そして、流入通路16の数は、流出通路18の数よりも多くなるように構成されている。
【0020】
本発明に係るフィルタエレメントの大きな特徴は、フィルタエレメント10の横断面が、正六角形の多数の流出通路18と変形六角形の多数の流入通路16から形成されていることである。そして、正六角形の多数の流出通路18は、断面積が大きな第一の六角通路(大正六角形セルとも称す。)18Aと、第一の六角通路18Aに比べて断面積が小さい第二の六角通路(小正六角形セルとも称す。)18Bの2種類から形成されている。第一の六角通路18Aは、横断面が、同じ長さの6つの辺xによって正六角形形状に形成されている通路(セル)である。第二の六角通路18Bは、横断面が、同じ長さの6つの辺yによって正六角形形状に形成されている通路(セル)である。多数の第一の六角通路18Aはそれぞれ同じ断面形状を有しており、多数の第二の六角通路18Bもそれぞれ同じ断面形状を有している。
【0021】
また、第一の六角通路(大正六角形セル)18A及び第二の六角通路(小正六角形セル)18Bのそれぞれの外周側は、隔壁20を介して、6つの変形六角形(断面形状)の流入通路(変形六角形セルとも称す。)16により取り囲まれている。ここで、それぞれの変形六角形の流入通路16は同じ断面形状を有している。なお、上記の第一の六角通路18A、第二の六角通路18B、および変形六角形の流入通路16の断面形状について、その角部は鋭角的に形成されている必要はなく、必要により、丸み形状に形成してもよい。このような丸み形状は、製造を容易にし、応力集中の緩和にも寄与するものである。また、隔壁20は、一のフィルタエレメント10において同一の厚さeを有するものである。そして、これら第一の六角通路(大正六角形セル)18A及び第二の六角通路(小正六角形セル)18Bが、変形六角形の流入通路(変形六角形セル)16とともに規則的に配置されている。
【0022】
図4には、大正六角形セル18A及び小正六角形セル18Bのそれぞれの周囲に、6つの変形六角形セル16が配置されている実施形態が示されている。変形六角形セル16は、その横断面において、1つの辺bは、隔壁20を介して、小正六角形セル18Bの1つの辺yに対して対向する位置にあるとともに、小正六角形セル18Bの上記1つの辺yと同じ長さに形成されている。変形六角形セル16の残りの辺のうち、2つの最長の辺aは、隔壁20を介して、それぞれ隣接する大正六角形セル18Aの辺xと同じ長さに形成されている。変形六角形セル16の残りの3つの辺(2つの辺cと1つの辺d)は、隔壁20を介して、それぞれ隣接する変形六角形セル16の辺(k、w、z)と同じ長さに形成されている。言い換えると、流出通路(出口セル)である小正六角形セル18Bは、周囲を取り囲む流入通路(入口セル)である6つの変形六角形セル16と隔壁20を共有している。また、流出通路(出口セル)である大正六角形セル18Aも、周囲を取り囲む流入通路(入口セル)である6つの変形六角形セル16と隔壁20を共有している。
【0023】
以上のように、入口セルである変形六角形セル16の断面は、大正六角形セル18Aと隔壁20を共有する辺aが2つ(最長)、小正六角形セル18Bと隔壁20を共有する辺bが1つある。辺aは、変形六角形セル16の断面を構成する辺の中で最も長い。変形六角形セル16の断面は、これらの計3辺(aとb)を、隣接する変形六角形セル16同士が隔壁20を共有する3つの辺(c、d)が交互に繋がることで形成されている。
【0024】
本発明のフィルタエレメントはこのように構成されているため、出口セルである大正六角形セル18Aと小正六角形セル18Bの大きさの関係上、入口セルである変形六角形セル16の隔壁表面である辺aに堆積するPM密度が高くなり、隔壁表面の辺bに堆積するPM密度は相対的に低くなる。さらに、2つの辺a同士の距離が辺aから辺bまでの距離に比べて相対的に近いため、セル単位で見た場合、PMの堆積に偏りができる。言い換えると、隔壁20の表面である2つの辺aに堆積するPMが多くなる。すると、PM堆積量が多い隔壁20の表面である2つの辺aに堆積しているPMが先に燃焼しやすくなる。したがって、本発明に係るフィルタエレメントによれば、断面形状が四角の四角セルや、特許文献2〜4に記載された従来技術のように、セル単位で見た場合に隔壁20の各辺に均一にPMが堆積している場合に比べ、着火しやすく、再生温度が低くでき、その結果、車両としての燃費向上が図れることになる。
【0025】
さらに、隔壁20の表面である2つの辺aに堆積したPMが燃焼し始めた後、隔壁表面の辺bに堆積しているPMが燃焼し始めるので、セル内での燃焼に時間差が発生する。よって、従来技術のように、入口セル内のPMが同時に燃える場合よりも再生温度を低くすることができる。結果としてPM堆積限界量を向上することができ、車両としての燃費向上が図れることになる。
【0026】
本発明に係るフィルタエレメントにおいて、第一の六角通路18Aの断面積(X)に対する第二の六角通路18Bの断面積(Y)の比(Y/X)は、0.35以上、0.90以下が好ましく、0.40以上、0.80以下がさらに好ましい。この比(Y/X)が上記範囲外のときには、有効GSAの減少抑制、圧損の上昇抑制、Ash堆積のキャパシティ向上、および再生限界の向上及びPM再生の着火性向上によるPM再生温度の低減という効果のうちのいずれかが多少減殺することがある。
【0027】
本発明に係るフィルタエレメントにおいて、上記した構成要件の特徴以外については、従来公知の構造や構成材料、および製造方法を適用することができる。例えば、フィルタエレメントの基材を構成する材料としては、特に限定されず、コージェライト、炭化珪素(SiC)、ジルコニア、窒化珪素(Si
3N
4)、アルミニウムチタネートなどを用いることが出来る。目封止材も基材と同様の材料を用いることができる。また、目封止材は、フィルタエレメントの基材との熱膨張差を小さくするため、フィルタエレメントの基材と同じ材料を用いることが好ましい。
【0028】
隔壁の厚さ(リブ厚)は、100〜2000μm(0.1〜2.0mm)であることが好ましく、200〜1000μmであることがより好ましく、300〜700μmであることが更に好ましい。隔壁の厚さが100μm未満であると、強度が不足して耐熱衝撃性が低下する場合がある。一方、隔壁の厚さが2000μmを超えると、圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。
【0029】
セル密度は、20〜600cpsi(3.1〜93セル/cm
2)であることが好ましく、50〜400cpsi(7.8〜62セル/cm
2)であることがより好ましく、100〜300cpsi(15.5〜46.5セル/cm
2)であることが更に好ましい。セル密度が20cpsi(3.1セル/cm
2)未満であると、フィルタとしての有効面積が不足して、PMの捕集効率が悪くなる場合がある。一方、セル密度が600cpsi(93セル/cm
2)を超えると、圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。なお、「cpsi」は「cells per square inch」の略であり、1平方インチ当りのセル数を表す単位である。例えば10cpsiは、約1.55セル/cm
2である。
【0030】
隔壁の気孔率は、25〜75%であることが好ましく、30〜65%であることがより好ましく、35〜65%であることが更に好ましい。気孔率が25%未満であると、圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。一方、隔壁の気孔率が75%を超えると、フィルタエレメントの強度が低くなりすぎる場合がある。
【0031】
隔壁の平均気孔径(細孔径)は、6〜35μmであることが好ましく、7〜30μmであることがより好ましく、7〜25μmであることが更に好ましい。隔壁の平均気孔径が6μm未満であると、圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。一方、平均気孔径が35μmを超えると、フィルタエレメントの強度が低くなりすぎる場合がある。
【0032】
フィルタエレメントの形状は特に限定されず、例えば、端面が円形の筒状(円筒形状)、端面がオーバル形状の筒状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の筒状等の形状とすることができる。
【0033】
フィルタエレメントを作製する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、まず、前記のような材料に、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のバインダー、造孔材、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、可塑性の坏土を得る。次いで、この坏土を、所定のハニカム形状となるように押出成形する。次に、得られたハニカム状の成形体(ハニカム成形体)を、マイクロ波、熱風等によって乾燥した後、焼成する。焼成は、セルに目封止部を形成する前に行ってもよいし、セルに目封止部を形成した後で、目封止部の焼成と一緒に行うようにしてもよい。
【0034】
通路(セル)に目封止を施す方法にも、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、まず、前記のような方法で作製したフィルタエレメントの端面にシートを貼り付ける。次いで、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開ける。次に、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止材の構成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、フィルタエレメントの端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの端部内に目封止用スラリーを充填する。こうして充填した目封止用スラリーを乾燥した後、焼成して硬化させるより、目封止部が形成される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
コージェライトを構成する材料(タルク、アルミナ、カオリンを所定量混合したもの)にバインダー、分散剤、水等を加えて混練し、成形用の坏土を得た。この坏土を用いて、押出成形によりハニカム状の成形体(ハニカム成形体)を得、これを乾燥後、所定の温度及び時間にて焼成し、次いで
図1〜3に示すパターンで端面に目封止を施して、表1に示す各種構造のフィルタエレメントを作製した。
【0037】
フィルタエレメントのセル構造としては、隔壁の厚さ(リブ厚)を12mil(0.3mm)、セル密度(セル数)を300cpsi(46.5セル/cm
2)とし、目封止深さを4mmとした。フィルタエレメントの端面形状は円形で、その寸法は、直径が5.66インチ(143.8mm)、長さが6インチ(152.4mm)で、端面の面積は16232mm
2であった。また、各実施例及び比較例のフィルタエレメントについて、大正六角形セル18A、小正六角形セル18B及び変形六角形セルの寸法A,B,C(
図5を参照)、大正六角形セル18Aの断面積(X)、小正六角形セル18Bの断面積(Y)、その比(Y/X)、フィルタエレメントを構成するハニカム担体当りの入口セル総面積を表1に示す。なお、比較例1のフィルタエレメントは、特表2009−537741号公報(特許文献3)の
図3に示す実施形態に対応したものであり、比較例2のフィルタエレメントは、セルの断面形状が正六角形のものである。
【0038】
(評価)
1.Ashキャパシティ比:
フィルタエレメントのAshキャパシティ(入口セル総面積に対応)についての評価は、比較例1のAshキャパシティ比を基準(1.00)として、その他の実施例及び比較例のフィルタエレメントについて、Ashキャパシティ比が1.5%以上向上した場合を○、3.0%以上向上した場合を◎、1.5%未満の場合を×とした。結果を表2に示す。
【0039】
2.有効GSA
有効GSAは、入口セルと出口セルが共有する隔壁の総表面積をフィルタエレメント(担体)の体積で割った値である。有効GSAの評価は、比較例1の有効GSAの数値を基準として、その他の実施例及び比較例のフィルタエレメントについて、有効GSA比を求めた。結果を表2に示す。
【0040】
3.圧力損失
圧力損失の評価は、フィルタエレメントの有効GSA比に基づいて行った。比較例1の有効GSA比を基準(1.00)としたとき、その他の実施例及び比較例のフィルタエレメントの有効GSA比が10%未満の減少の場合を◎、10%以上20%未満の減少の場合を○、20%以上減少の場合を×とした。結果を表2に示す。
【0041】
4.PM着火温度とDPF最高温度
表1に示す各種構造のフィルタエレメント(DPF)に5g/Lの煤を堆積させ、その後、再生(PMの燃焼)を行い、その際の着火温度とDPF内部の最高温度を確認した。先ず、得られたフィルタエレメント(DPF)の外周に、保持材としてセラミック製非熱膨張性マットを巻き、ステンレス鋼(SUS409)製のキャニング用缶体に押し込んで、キャニング構造体とした。その後、ディーゼル燃料(軽油)の燃焼により発生させたPMを含む燃焼ガスを、DPFの一方の端面(流入面)より流入させ、他方の端面(流出面)より流出させることによって、PMをDPF内に堆積させた。そして、一旦、室温(25℃)まで冷却した後、DPFの流入面より、680℃の燃焼ガスを流入させ、PMが燃焼することによりDPFの圧力損失が低下したときに、燃焼ガスの流量を減少させることによって、PMを急燃焼させ、その際のPM着火温度とDPF内部の最高温度を測定した。PM着火温度については、比較例1の測定結果を基準として、5℃未満の低減の場合を×、5℃以上10℃未満の低減の場合を○、10℃以上の低減の場合を◎とした。DPFの最高温度については、比較例1の測定結果を基準として、10℃未満の低減の場合を×、10℃以上20℃未満の低減の場合を○、20℃以上の低減の場合を◎とした。結果を表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
(考察)
表1及び表2に示すように、本発明のフィルタエレメントによれば、有効GSAの減少を所定程度に抑制し、圧力損失の上昇も抑制しながら、Ash堆積のキャパシティを向上させることができる。さらに、本発明のフィルタエレメントによれば、PM着火温度を従来技術に比べて低くできたことから、PM再生温度を低減することができ、しかも再生時の最高温度を低減できて再生限界を向上することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のフィルタエレメントは、例えば、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関から排出されるスート等の粒子状物質(PM)と灰分(Ash)を捕集するためのフィルタとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10:フィルタエレメント、12:流入面、14:流出面、16:流入通路(変形六角形セル)、18:流出通路、18A:第一の六角通路(大正六角形セル)、18B:第二の六角通路(小正六角形セル)、20:隔壁、E:排ガス流入側端面、O:排ガス流出側端面。