(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771576
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】液圧マスタシリンダ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60T 11/22 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
B60T11/22 C
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-165338(P2012-165338)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-24420(P2014-24420A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2014年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 武尊
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
実開平01−085176(JP,U)
【文献】
実開昭59−098101(JP,U)
【文献】
特開2001−116061(JP,A)
【文献】
特開昭59−023759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 10/00−11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ孔が形成されるシリンダボディ形成部の上部に、貯液室が形成されるリザーバ形成部を一体に鋳造したマスタシリンダ鋳造体を加工してシリンダ孔、リリーフポート及びサプライポートを形成した液圧マスタシリンダにおいて、前記マスタシリンダ鋳造体は、前記シリンダボディ形成部と前記リザーバ形成部との間に、前記サプライポート及び前記リリーフポートの上方を一体に覆うセパレータを装着可能な厚さを有し、且つ、中央部にシリンダ孔側に向けて凹状となり、セパレータの平面視外形より小さな形状の凹部を有する厚肉部が形成され、前記凹部には、該凹部の底板部に前記リリーフポートの上方を覆うプロテクタを装着するためのプロテクタ装着部が形成され、前記貯液室の底部に前記プロテクタを装着する際には、前記プロテクタ装着部に前記プロテクタを装着し、前記貯液室の底部に前記セパレータを装着する際には、前記凹部の側壁及び前記プロテクタ装着部を切削加工してセパレータ装着部を形成するとともに、該セパレータ装着部に前記セパレータを装着したことを特徴とする液圧マスタシリンダ。
【請求項2】
前記セパレータは、円筒状の取付部と、該取付部の上面を覆う覆い部とを有し、前記凹部は、前記取付部よりも小径で、且つ、シリンダ孔に向けて漸次小径となる断面円形状に形成されることを特徴とする請求項1記載の液圧マスタシリンダ。
【請求項3】
シリンダ孔が形成されるシリンダボディ形成部の上部に、貯液室が形成されるリザーバ形成部を一体に鋳造したマスタシリンダ鋳造体を加工してシリンダ孔、リリーフポート及びサプライポートを形成した液圧マスタシリンダの製造方法において、前記シリンダボディ形成部と前記リザーバ形成部との間に、前記サプライポート及び前記リリーフポートの上方を一体に覆うセパレータを装着可能な厚さを有し、且つ、中央部にシリンダ孔側に向けて凹状となり、セパレータの平面視外形より小さな形状の凹部を有する厚肉部と、前記リリーフポートの上方を覆うプロテクタを装着するためのプロテクタ装着部とを形成し、前記プロテクタを装着する際には、前記プロテクタ装着部に前記プロテクタを装着し、前記セパレータを取り付ける際には、前記凹部の側壁及び前記プロテクタ装着部を切削加工してセパレータ装着部を形成すると共に、該セパレータ装着部に、前記セパレータを装着することを特徴とする液圧マスタシリンダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造により形成された液圧マスタシリンダ及びその製造方法に係り、詳しくは、シリンダボディとリザーバとを一体に鋳造して形成したリザーバ一体型の液圧マスタシリンダ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダボディの上部にリザーバを一体に形成した液圧マスタシリンダでは、リザーバは、貯液室の上部口縁にダイヤフラムを介してキャップが被着され、シリンダ孔と貯液室とは、リリーフポートとサプライポートとで連通し、貯液室内の作動液をシリンダ孔に随時補給したり、シリンダ孔内の作動液を貯液室へ還流したりしている。このような液圧マスタシリンダでは、リザーバのサプライポートの周囲に、リリーフポートの上方を覆うプロテクタを取り付けたものや(例えば、特許文献1参照。)、リザーバ内で発生した気泡がシリンダ孔内に流入するのを防止するために、サプライポートとリリーフポートの上方を一体に覆うセパレータを取り付けたものがあった(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−85177号公報
【特許文献2】実開昭59−98101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の液圧マスタシリンダでは、リザーバにプロテクタを用いる場合と、セパレータを用いる場合とでは、貯液室の底部の形状が異なることから、個別の鋳造型を用いて、それぞれ形状の異なるマスタシリンダ鋳造体を形成しなければならなかった。
【0005】
そこで本発明は、一つのマスタシリンダ鋳造体を用いて、リザーバに、プロテクタやセパレータを配置することができる液圧マスタシリンダ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の液圧マスタシリンダは、シリンダ孔が形成されるシリンダボディ形成部の上部に、貯液室が形成されるリザーバ形成部を一体に鋳造したマスタシリンダ鋳造体を加工してシリンダ孔、リリーフポート及びサプライポートを形成した液圧マスタシリンダにおいて、前記マスタシリンダ鋳造体は、前記シリンダボディ形成部と前記リザーバ形成部との間に、前記サプライポート及び前記リリーフポートの上方を一体に覆うセパレータを装着可能な厚さを有し、且つ、中央部にシリンダ孔側に向けて凹状となり、セパレータの平面視外形より小さな形状の凹部を有する厚肉部が形成され、前記凹部には、該凹部の底板部に前記リリーフポートの上方を覆うプロテクタを装着するためのプロテクタ装着部が形成され、前記貯液室の底部に前記プロテクタを装着する際には、前記プロテクタ装着部に前記プロテクタを装着し、前記貯液室の底部に前記セパレータを装着する際には、前記凹部の側壁及び前記プロテクタ装着部を切削加工してセパレータ装着部を形成するとともに、該セパレータ装着部に前記セパレータを装着したことを特徴としている。
【0007】
また、前記セパレータは、円筒状の取付部と、該取付部の上面を覆う覆い部とを有し、前記凹部は、前記取付部よりも小径で、且つ、シリンダ孔に向けて漸次小径となる断面円形状に形成されると好ましい。
【0008】
さらに、本発明の液圧マスタシリンダの製造方法は、シリンダ孔が形成されるシリンダボディ形成部の上部に、貯液室が形成されるリザーバ形成部を一体に鋳造したマスタシリンダ鋳造体を加工してシリンダ孔、リリーフポート及びサプライポートを形成した液圧マスタシリンダの製造方法において、前記シリンダボディ形成部と前記リザーバ形成部との間に、前記サプライポート及び前記リリーフポートの上方を一体に覆うセパレータを装着可能な厚さを有し、且つ、中央部にシリンダ孔側に向けて凹状となり、セパレータの平面視外形より小さな形状の凹部を有する厚肉部と、前記リリーフポートの上方を覆うプロテクタを装着するためのプロテクタ装着部とを形成し、前記プロテクタを装着する際には、前記プロテクタ装着部に前記プロテクタを装着し、前記セパレータを取り付ける際には、前記凹部の側壁及び前記プロテクタ装着部を切削加工してセパレータ装着部を形成すると共に、該セパレータ装着部に、前記セパレータを装着することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液圧マスタシリンダによれば、プロテクタを装着させるプロテクタ装着部を備えたマスタシリンダ鋳造体を、簡単に加工することにより、セパレータ装着部を形成して、セパレータを装着させることができ、一つのマスタシリンダ鋳造体を、プロテクタ装着用とセパレータ装着用とに用いることができ、マスタシリンダ鋳造体の汎用性を向上させ、コストの低減化を図ることができる。
【0010】
さらに、セパレータは、円筒状の取付部と、該取付部の上面を覆う覆い部とを有し、凹部は、取付部よりも小径で、且つ、シリンダ軸線方向の断面が、シリンダ孔に向けて漸次小径となる円形状に形成されていることから、極力少ない加工で、マスタシリンダ鋳造体を、セパレータ用のマスタシリンダに加工することができる。
【0011】
また、本発明の液圧マスタシリンダの製造方法によれば、プロテクタを装着させるプロテクタ装着部を備えたマスタシリンダ鋳造体の凹部の側壁及びプロテクタ装着部を切削加工することにより、セパレータ装着部を形成することから、簡単な加工で、マスタシリンダ鋳造体をプロテクタ装着用から、セパレータ装着用にすることができ、マスタシリンダ鋳造体の汎用性を向上させ、コストの低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明の一形態例を示す基本的な加工を施したマスタシリンダ鋳造体の平面図である。
【
図3】プロテクタを含む各部品を取り付けた液圧マスタシリンダの断面正面図である。
【
図5】セパレータを含む各部品を取り付けた液圧マスタシリンダの断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1乃至
図5は、本発明の一形態例を示すもので、一つのマスタシリンダ鋳造体1で、
図3及び
図4に示されるように、リザーバ形成部2にプロテクタ3を装着した液圧マスタシリンダ21と、
図5に示されるように、リザーバ形成部2にセパレータ4を装着する液圧マスタシリンダ22とを形成することができるものとなっている。
【0014】
図1及び
図2は、基本的な加工を施したマスタシリンダ鋳造体1を示すもので、シリンダボディ形成部5の上部にリザーバ形成部2が一体に鋳造にて形成され、リザーバ形成部2とシリンダボディ形成部5との間に、サプライポート6a及びリリーフポート6bの上方を一体に覆う前記セパレータ4を装着可能な厚さを有し、且つ、中央部にシリンダ孔側に向けて凹状となり、セパレータ4の平面視外形より小さな形状の凹部2cを有する厚肉部7が形成されている。
【0015】
シリンダボディ形成部5の内部には、有底のシリンダ孔5aが一方を開口して設けられ、シリンダ孔5aの底部側にはユニオンボス部5bが突設され、該ユニオンボス部5bにユニオン孔5cが連結されている。シリンダ孔5aの開口部側には、パックミラーを取り付けるミラーボス部5dと、ハンドルバーに取り付けられる車体取付ブラケット5eと、操作レバーを連結するレバー取付腕5fとが突設され、ミラーボス部5dには、バックミラーを螺着する雌ねじ孔5gが、レバー取付椀5fには、レバー取付ボルトの挿通孔5hがそれぞれ形成されている。シリンダ孔5aは、ピストン8を挿通する小径部5iと、開口側に形成されると大径部5jと、大径部5jと小径部5iとの間に設けられる中径部5kとを備え、中径部5kにはクリップ装着溝5mが形成されている。
【0016】
リザーバ形成部2は、直方体状に形成され、貯液室2aの底部2bに、前記凹部2cが形成され、該凹部2cの底板部2dに、シリンダ孔5aと貯液室2aとを連通させる前記リリーフポート6bと前記サプライポート6aとが穿設加工されている。さらに、サプライポート6aの開口部の周囲には、リリーフポート6bの上方を覆う前記プロテクタ3を装着する円筒状のプロテクタ装着部2eが形成されている。また、凹部2cは、前記セパレータ4の円筒状の取付部4aよりも小径で、且つ、シリンダ孔5aに向けて漸次小径となる断面円形状に形成されている。
【0017】
次に、このマスタシリンダ鋳造体1に、プロテクタ3を含む各部品を取り付けた液圧マスタシリンダ21を
図3及び
図4に基づいて説明する。マスタシリンダ鋳造体1のシリンダ孔5aには、ピストン8が内挿される。ピストン8は、シリンダ孔底部側とシリンダ孔先端側にカップシール9a,9bが嵌着され、シリンダ孔底部側のカップシール9aとシリンダ孔5aの底壁5nとの間に液圧室10が画成されている。液圧室10のピストン8とシリンダ孔5aの底壁5nとの間には、リターンスプリング11が縮設され、ピストン8はリターンスプリング11によってシリンダ孔開口側に付勢されている。前記クリップ装着溝5mには、ピストン8を抜け止めするクリップ12が設けられている。ピストン8の先端部には、ピストン作動子13が当接しており、非作動時にシリンダ孔5aの開口部から突出するピストン8の突出部分と、前記クリップ12との間に、前記突出部分を覆うブーツ14が配設されている。
【0018】
リザーバ形成部2は、前記プロテクタ装着部2eに、プロテクタ3が装着され、上部口縁にダイヤフラム15とダイヤフラムプレート16とを介してキャップ17が被着され、キャップ17とダイヤフラムプレート16とダイヤフラム15とは、取付ボルト18によって、リザーバ形成部2の上部口縁に一体に取り付けられる。
【0019】
プロテクタ3は、プロテクタ装着部2eに取り付けられる取付部3aと、取付部3aから上方に立ち上ると共に、リリーフポート6bの上方に延出して、リリーフポート6bを覆う覆い部3bとを備えている。取付部3aは円板状に形成され、中央に、サプライポート6aと貯液室2aとを連通させる液通孔3cが形成されると共に、外周に、円筒状に形成された前記プロテクタ装着部2eの内周壁に係合する3つの爪片3dが周方向に等間隔に形成されている。
【0020】
次に、マスタシリンダ鋳造体1に、セパレータ4を含む各部品を取り付けた液圧マスタシリンダ22を、
図1及び
図5に基づいて説明する。
【0021】
セパレータ4は、リザーバ内で発生した気泡がシリンダ孔内に流入するのを防止するために設けられるもので、サプライポート6aとリリーフポート6bの周囲を囲んで取り付けられる円筒状の取付部4aと、取付部4aの上面を覆う覆い部4bとを備え、覆い部4bには、サプライポート6a及びリリーフポート6bと貯液室2aとを連通させる液通孔4cが形成されている。
【0022】
マスタシリンダ鋳造体1は、
図1の想像線Aに示されるように、凹部2cの側壁2fをセパレータ4の取付部4aの外周に対応した径に切削加工され、さらに、凹部2cの底板部2d及びプロテクタ装着部2eを平面状に切削加工することにより、
図4に示されるように、セパレータ装着部2gが形成され、該セパレータ装着部2gにセパレータ4の取付部4aを圧入して取り付けられる。
【0023】
このように、本形態例のマスタシリンダ鋳造体1では、そのままの状態では、リザーバ内にプロテクタ3を装着させることができ、また、簡単な加工をすることにより、リザーバ内にセパレータ4を装着させることができ、マスタシリンダ鋳造体1の汎用性を向上させ、コストの低減化を図ることができる。さらに、セパレータ4は、円筒状の取付部4aと、該取付部4aの上面を覆う覆い部4bとを有し、凹部2cは、取付部4aよりも小径で、且つ、シリンダ孔5aに向けて漸次小径となる断面円形状に形成されていることから、極力少ない切削加工で、マスタシリンダ鋳造体1を、セパレータ4を装着させる液圧マスタシリンダ22とすることができる。また、リザーバ形成部2の凹部2cとプロテクタ装着部2eとは、マスタシリンダ鋳造体1を鋳造されるときに、一体に形成することができ、製造コストの低減化を図ることができる。
【0024】
尚、本発明のマスタシリンダ鋳造体は上述の形態例に限らず、セパレータの取付部の形状は任意であり、リザーバに形成する凹部も、セパレータの取付部より小さければ、どのような形状でも差し支えない。また、リザーバ一体型の液圧マスタシリンダで、鋳造により形成されるものであれば、どのような形態のものでも適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1…マスタシリンダ鋳造体、2…リザーバ形成部、2a…貯液室、2b…底部、2c…凹部、2d…底板部、2e…プロテクタ装着部、2f…側壁、2g…セパレータ装着部、3…プロテクタ、3a…取付部、3b…覆い部、3c…液通孔、3d…爪片、4…セパレータ、4a…取付部、4b…覆い部、4c…液通孔、5…シリンダボディ形成部、5a…シリンダ孔、5b…ユニオンボス部、5c…ユニオン孔、5d…ミラーボス部、5e…車体取付ブラケット、5f…レバー取付腕、5g…雌ねじ孔、5h…挿通孔、5i…小径孔、5j…大径孔、5k…中径孔、5m…クリップ装着溝、5n…底壁、6a…サプライポート、6b…リリーフポート、7…厚肉部、8…ピストン、9a,9b…カップシール、10…液圧室、11…リターンスプリング、12…クリップ、13…ピストン作動子、14…ブーツ、15…ダイヤフラム、16…ダイヤフラムプレート、17…キャップ、18…取付ボルト、21,22…液圧マスタシリンダ