(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の高分子成形体は、内視鏡観察下で切除される生体組織を牽引するための重りとして機能するものであり、より具体的には、医療用牽引部材の構成要素として用いることで、その機能を発揮するものである。また、本発明は、該医療用牽引部材と生体組織を把持する把持部材とを有する医療用牽引具をも含むものである。
【0010】
本発明の高分子成形体は、その形状は特に限定されない。具体的には、球状(
図8)、回転楕円体状(
図9)、角丸四角形の回転体(面取り長方体)(
図10)、円柱状(
図11)、円錐状(図示せず)、多面体(図示せず)、立方体(図示せず)、直方体(図示せず)等を挙げることができるが、消化管内の狭窄部分を通過する際に、引っ掛からないように、角の少ない球状や、楕円状、多面体の形状が好ましい。高分子成形体の形状の加工方法は、特に限定されないが、例えば、マシンニングセンタを使用して切削することや、ハサミやナイフ等でカットすることで作製できる。また、高分子成形体を成形時に、任意の金型を使用して、任意の形状にすることができる。
【0011】
高分子成形体11の大きさは、最大の長さ部分が5〜100mmであることが好ましい。高分子成形体11の大きさが、5mm以上であると連結部材22で連結することが容易であり、また生体組織を牽引するのに十分な重さが得られる。一方、高分子成形体11の大きさが、100mm以下であれば、消化管内で牽引する場合に、消化管内で十分な空間が確保できる。以上の観点から、高分子成形体11の大きさは、7〜50mmであることがより好ましく、10〜30mmであることがさらに好ましい。
【0012】
本発明における高分子成形体11は、内視鏡内の鉗子口から導入するため、また、内視鏡を挿入する際に内視鏡先端に配置することによって、消化管内に導入する場合に消化管内に傷を付けないために、弾性を有することが好ましい。例えば、ゴム状の高分子成形体が好適に挙げられる。
しかしながら、弾性を有する高分子成形体は、必ずしも十分な弾性を有する物質からなる必要はなく、多孔質状や、中空状等の形状によって弾性構造を有していてもよい。さらには、表面部分や内部の局所的に前記弾性物質や弾性構造を配置することで、弾性体とすることもできる。
【0013】
本発明においては、高分子成形体の25%圧縮硬さは0.01〜50Nが好ましい。25%圧縮硬さが0.01N以上であれば消化管内壁に接触した際に形状を保つことができ、50N以下であれば消化管内を移動させる場合に、狭窄部分において十分に変形して、粘膜等の生体組織を傷つけることなく通過することができる。以上の観点から、高分子成形体の25%圧縮硬さは0.1〜20Nがより好ましく、0.5〜5Nがさらに好ましい。
25%圧縮硬さは次のようにして測定した。すなわち、得られたフィブロイン多孔質体を純水中に1日静置し完全に吸水させた後、その硬さを圧縮試験機で測定した。圧縮試験機は、(株)島津製作所製EZ Testを、ロードセルは10Nと50Nのものを、ロードプレートは直径8mmのものを使用した。多孔質体を1mm/minの速度で初期厚さの25%圧縮し、その時かかっている荷重(N)を読み取り25%圧縮硬さとした。
【0014】
本発明においては、高分子成形体の40%圧縮残留ひずみは1〜35%が好ましく、1〜20%がより好ましく、1〜10%がさらに好ましい。40%圧縮残留ひずみが35%以下であれば、消化管内の狭窄部分において変形しても十分な大きさに戻ることができる。
40%圧縮残留ひずみは次のようにして測定した。すなわち、得られたフィブロイン多孔質体(厚さ10mm、縦30mm×横60mm)を純水中に1日間静置し完全に吸水させた後、圧縮試験器で40%圧縮後、復元する厚みから測定した。圧縮試験機は、(株)島津製作所製EZ Testを、圧縮治具は直径8mmの円形のものを使用した。多孔質体を1mm/minの速度で初期厚さの40%圧縮後5分間維持し、圧縮状態を開放し、空気中、もしくは純水中で5分間静置し、多孔質体の厚み(D)を測定した。このときの厚みの変化から、次の式に従って圧縮残留ひずみを計算した。
圧縮残留ひずみ(%)=(10−D)×100/10
【0015】
本発明における高分子成形体は、上述のように、消化管内への導入時には、内視鏡内の鉗子口や、消化管内の狭い部分を通過するために、弾性体として機能し、その体積が変化することが重要である。一方、該高分子成形体は牽引部材として重りの役割があるので、消化管内への導入後に重りとして機能するためには、生体組織を牽引するだけの重さが必要である。この弾性体と、重りの機能を両立するためには、多孔質体であることが好ましい。すなわち、多孔質体を用いることで、消化管内への導入時には弾性を得ることができ、消化管内に導入後は、該多孔質体に吸水させることで、重さを容易に制御することができる。
【0016】
高分子成形体が多孔質の場合には、容易に重さを制御するために、高吸水率の多孔質体が好ましい。より具体的には、吸水率として、自重の200〜10000質量%の水分を吸収できることが好ましい。吸水率が200質量%以上であれば、多孔質体に十分な重さを付与することができ、10000質量%以下であれば、多孔質体を牽引部材として使用するのに十分な強度を得られることができる。以上の観点より、高分子成形体の吸水率は、400〜8000質量%がより好ましく、600〜6000質量%がさらに好ましい。
なお、多孔質体の吸水率は、次のように測定できる。多孔質体を30×30×18mmに成形し、測定試料とする。十分に乾燥した多孔質体の乾燥重量を測定する(Wa)。この多孔質体を潰れないように超純水中に浸漬して、全体に吸水させ、重さを測定する(Wb)。これらの値から多孔質体の吸水率を次式に従って算出する。
吸水率(%)=(Wb−Wa)×100/Wa
【0017】
また、消化管内で短時間に迅速に重さを制御するために、高分子成形体の吸水速度は十分に速いことが好ましい。本発明における吸水速度は、JISL 1907のバイレックス法に準拠したものであり、試験片の大きさを150×10mmとし、5枚を3分間静置したときの最長到達位置の長さと最短到達位置の長さを測定し、その5回の平均値を水高値とし、吸水速度の指標とする。より具体的には、水高値が5〜150mmであることが好ましい。水高値が5mm以上であれば、消化管内で迅速に重さの調整が可能である。以上の観点より、高分子成形体の水高値は10mm以上であることがより好ましく、20mm以上がさらに好ましい。
【0018】
また、本発明の高分子成形体は、吸水した水分を保持する保水率が高いことが好ましい。保水率が高いことで、牽引操作中に水分が流出することが無く、重さが変化しにくい。より具体的には、保水率が85〜100%であることが好ましい。保水率が85%以上であれば、牽引中に水分が流れ出して重さが変化し、手術に支障をきたす危険が少ない。以上の点から、高分子成形体の保水率は、87〜100%がより好ましく、90〜100%がさらに好ましい。
なお、保水率は次のように測定した。高分子多孔質体を60×30×20mmに成形し、測定試料とする。純水中に十分浸漬した多孔質体の重さを測定する(Wc)。これを再度純水中に十分浸漬し、表面を純水で濡らしたガラス製の平板(松浪ガラス製MSAコートマイクロスライドガラス、76×52mm)を45度傾けて設置し、
その上に一番広い面(60×30mm面)を下にして長尺方向を上下になるように載せ、10分間静置する。その後、多孔質体の重さを測定する(Wd)。
保水率(%)=100−(Wc−Wd)×100/(Wc)
【0019】
高分子成形体の組成としては、生体親和性のある高分子であることは重要である。例えば、シリコーン樹脂;ポリ乳酸;ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成高分子;シルクセリシン、シルクフィブロイン、カゼイン、ケラチン、コラーゲン、デンプン等のタンパク質;ヒアルロン酸、キトサン、セルロース等の多糖類などからなる高分子が挙げられるが、これに限定されない。これらのうち、手術用の縫合糸や、食品添加物として安全性が知られている、シルクフィブロインが好ましい。
【0020】
多孔質体の高分子成形体の例として、好適な材料であるシルクフィブロインを用いた多孔質体からなる高分子成形体(以下「シルク多孔質体」と称する。)について以下説明する。
本発明で好適に用いられるシルク多孔質体は、シルクフィブロイン及び必要に応じて、多孔質体化促進効果を有する添加剤を含有していてもよい。
【0021】
本発明において用いられるシルクフィブロインとしては、家蚕、野蚕、天蚕等の天然蚕やトランスジェニック蚕から産生されるものであればいずれでもよく、その製造方法も問わない。特に製造工程の簡便性から家蚕の繭から抽出されたものが好ましい。また、本発明においては、シルクフィブロインは水溶液として用いることが好ましく、シルクフィブロイン水溶液を得る方法としては公知のいかなる手法を用いてもよい。
例えば、シルクフィブロインは水への溶解性が低いため、高濃度の臭化リチウム水溶液にシルクフィブロインを溶解後、透析による脱塩を行って得る方法が好適に挙げられる。また、水溶液中のシルクフィブロインの濃度調整の方法としては、風乾による濃縮を経る手法が簡便で好ましい。
【0022】
本発明において、シルクフィブロインの配合量は、添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液中で0.1〜40質量%であることが好ましい。この範囲内であると、高分子成形体として、十分な強度を持った多孔質体を効率的に製造することができる。以上の観点から、シルクフィブロインの配合量は0.5〜20質量%であることがより好ましく、1〜12質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
次に、本発明において用いられる添加剤は、多孔質体化を促進させる効果を有するものであり、具体的には、有機溶剤、アミノ酸、脂肪族カルボン酸などが挙げられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
添加剤の配合量は、添加剤を配合したシルクフィブロイン水溶液中で0.01〜18質量%であることが好ましい。この範囲内であると、内視鏡観察下で切除される生体組織を牽引するための重りである本発明の高分子成形体として、十分な強度を持った多孔質体を効率的に製造することができる。以上の観点から、添加剤の配合量は0.1〜5質量%であることがより好ましい。また、同様の理由から、添加剤の配合量は、シルクフィブロイン100質量部に対して、1〜500質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましく、10〜30質量部であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明において用いられる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、グリセロール、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン、アセトン、アセトニトリル等が挙げられる。これらのうち、得られるシルク多孔質体の強度、及び添加剤の生体への安全性の点から、エタノールが好ましい。
【0025】
次に、本発明において用いられるアミノ酸としては、例えばバリン,ロイシン,イソロイシン,グリシン,アラニン,セリン,トレオニン,メチオニン等のモノアミノモノカルボン酸、アスパラギン酸,グルタミン酸等のモノアミノジカルボン酸(酸性アミノ酸)、グルタミン等のジアミノカルボン酸などの脂肪族アミノ酸;フェニルアラニン、チロシン等の芳香族アミノ酸;プロリン,ヒドロキシプロリン、トリプトファン等の複素環を有するアミノ酸などが挙げられ、中でも、形態や物性の調整が容易との観点から酸性アミノ酸や、ヒドロキシプロリン、セリン、トレオニン等のオキシアミノ酸が好ましい。
同様の観点で、酸性アミノ酸の中でもモノアミノジカルボン酸がより好ましく、アスパラギン酸及びグルタミン酸が特に好ましく、オキシアミノ酸の中でもヒドロキシプロリンがより好ましい。
なお、アミノ酸には、L型とD型の光学異性体があるが、本発明においては、L型とD型を用いた場合に、得られる多孔質体に違いが見られないため、どちらのアミノ酸を用いても良い。
これらのうち、得られるシルク多孔質体の強度の点から、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−ヒドロキシプロリンが好ましい。
【0026】
また、本発明において用いられる脂肪族カルボン酸としては、例えば、炭素数1〜6の飽和または不飽和のモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸を好ましく用いることができ、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、乳酸、アクリル酸、2−ブテン酸、3−ブテン酸等が挙げられる。また、本発明において用いられる脂肪族カルボン酸としては、pKaが、5.0以下のものが好ましく、3.0〜5.0のものがより好ましく、3.5〜5.0のものがさらに好ましい。
これらのうち、得られるシルク多孔質体の強度、及び添加剤の生体への安全性の点から、乳酸、コハク酸、及び酢酸が特に好ましい。
【0027】
本発明において用いる添加剤は、シルクフィブロイン水溶液に添加する際に行う撹拌や加熱などを原因とした、シルクフィブロインの析出を防止する観点から、水溶液として用いることが好ましい。本発明において水に対する溶解度が低い添加剤を用いる場合には、加熱した水に添加剤を添加して溶解させ、その後30℃以下に冷却した添加剤の水溶液を用いることが好ましい。冷却の過程で、添加剤が析出した場合には、ろ過などの方法で除去することが好ましい。上記の観点から、本発明において用いられる添加剤としては、水溶性添加剤を用いることが好ましい。
【0028】
本発明の高分子成形体として用いられるシルク多孔質体は、例えば、シルクフィブロイン水溶液に、必要に応じて、添加剤の水溶液を添加混合して、容器に流し込み、凍結させ、次いで融解することによって、得ることができる。
ここで、添加剤の配合量は上述のとおりであり、凍結温度としては、添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液が凍結する温度であれば特に制限されないが、−1〜−40℃程度が好ましく、−5〜−40℃程度がより好ましく、−10〜−30℃がさらに好ましい。
凍結時間としては、添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液が十分に凍結し、かつ凍結状態を一定時間保持できるよう、2時間以上であることが好ましく、4時間以上であることがさらに好ましい。
凍結の方法としては、添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液を一気に凍結温度まで下げて凍結してもよいが、凍結の前に添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液を一旦、4〜―9℃程度、好ましくは0〜―5℃程度で30分以上保持して反応容器内を均一にしてから、凍結温度まで下げて凍結した方が均一な構造のシルク多孔質体を得る上で好ましい。さらに、この保持する温度を−1〜―9℃程度、好ましくは−1℃〜−5℃程度にした場合には、シルクフィブロイン水溶液が、凍結の前に過冷却状態となる温度(過冷却温度)になり、より均一な構造のシルク多孔質体を得ることができる。また、この過冷却温度に保持する時間を調整すること、過冷却温度から凍結温度に下げるまでの温度勾配を調整すること等により、さらに均一な構造のシルク多孔質体をえることができるほか、多孔質体の構造や強度をある程度制御することが可能である。
【0029】
次に、凍結したシルクフィブロイン水溶液を融解することによってシルク多孔質体を得ることができる。融解の方法としては、特に制限はなく、自然融解や恒温槽での保管等が挙げられる。
【0030】
得られたシルク多孔質体に含まれる添加剤の濃度を、シルク多孔質体製造後に調整する方法としては、例えば、シルク多孔質体を、純水中に浸漬して透析することが最も簡便な方法として挙げられる。あるいは、添加剤が室温で液体の場合には、凍結乾燥することによって、添加剤と水分を同時に除去することが可能である。
また、シルク多孔質体製造後に、水分濃度を調整する方法としては、例えば、シルク多孔質体を乾燥して水分を蒸発させる方法が挙げられる。乾燥の方法としては、自然乾燥、凍結乾燥、加熱乾燥などが挙げられるが、乾燥時の収縮が抑えられるという観点からは、凍結乾燥が好ましい。
【0031】
本発明の高分子成形体として用いられるシルク多孔質体は、スポンジ状の構造を有しており、通常この多孔質体には凍結乾燥等により水除去を行わなければ水が含まれ、含水状態で柔軟性のある構造物である。
また、本発明のシルク多孔質体中の細孔の大きさ(細孔直径)は、10〜300μm程度であり、シルクフィブロインと添加剤の混合比や、上記ように凍結する際の冷却プロセスの条件を調整することである程度制御でき、用途に応じて決定される。
【0032】
次に、本発明の医療用牽引部材について説明する。本発明の医療用牽引部材は、重りとして機能する高分子成形体を少なくとも1つ有している。また、本発明の医療用牽引部材は、第1の連結部材、第2の連結部材及び第3の連結部材のいずれかを少なくとも1つ有することが好ましい。本明細書において、高分子成形体と生体組織とを直接に連結する連結部材、又は生体組織を把持するための把持部材を通じて間接的に高分子成形体と生体組織とを連結する態様における高分子成形体と把持部材とを連結するための連結部材を「第1の連結部材」と称する。また、高分子成形体と内視鏡とを連結する部材を「第2の連結部材」と称し、複数の高分子成形体間を連結する連結部材を「第3の連結部材」と称する。また、単に「連結部材」と記載する場合は、第1〜第3の連結部材のすべてを意味し、これらに共通の事項であることを意味する。
本発明に用いられる連結部材の形状としては、糸状の細長い形状の物が好適に使用できる。例えば、高分子成形体を手術用縫合糸であるシルク糸やナイロン等の連結部材で連結することが好ましい。
上述の第1の連結部材、第2及び第3の連結部材は、互いに同質の材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。また、第1〜第3の連結部材は、一本のシルク糸等の共通部材で連結されていてもよいし、それぞれが独立に連結部材を形成していてもよい。
【0033】
本発明の医療用牽引部材について、
図12〜24を用いて説明する。本発明の医療用牽引部材は、内視鏡観察下で切除される生体組織を牽引するための重りである高分子成形体を少なくとも1つ有している。
図12は一つの高分子成形体を有する例で、
図13〜24は複数の高分子成形体を有する例である。また、
図12〜15及び
図20〜24は球状の高分子成形体を有する例、
図16及び17は回転楕円体状の高分子成形体を有する例、
図18は立方体の高分子成形体を有する例、
図19は円柱状の高分子成形体を有する例である。
【0034】
本発明の医療用牽引部材1は
図12に示すように、球状の高分子成形体11を有し、高分子成形体11と生体組織とを直接又は間接的に連結するための第1の連結部材、又は高分子成形体11と内視鏡とを直接又は間接的に連結するための第2の連結部材、を少なくとも1つ有することが好ましい。
図12に示す連結部材22は、第1の連結部材としても、第2の連結部材としても、両者を兼用する第1及び第2の連結部材としても用いることができる。該連結部材22を第1の連結部材として用いる場合、高分子成形体11と生体組織を把持するための把持部材とを連結する連結部材として用いることもできる。
また、本発明の医療用牽引部材は、2つ以上の高分子成形体を有していてもよく、通常、
図13〜24に示されるように、高分子成形体11間を第3の連結部材22により連結して使用する。
図13及び
図14は、それぞれ高分子成形体11を2つ及び3つ有する場合の態様を示す図であり、さらに、
図15〜24は、高分子成形体11を4つ有する場合の態様を示すものである。
図13〜24に示される第3の連結部材22は、第1の連結部材と兼用する「第1及び第3の連結部材」として用いてもよいし、第2の連結部材と兼用する「第2及び第3の連結部材」して用いてもよいし、三者を兼用する「第1、第2及び第3の連結部材」として用いることもできる。
【0035】
本発明における連結部材22は、牽引部材から高分子成形体11が脱落するのを防止する機構(脱落防止機構)を有していてもよい。例えば、高分子成形体の後ろ又は前後に、高分子成形体を止めるために、止め部21としての結び目、ワッシャー24、止め具等を入れることができる。止め部21の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン、ナイロン等のプラスチックス、チタン、ステンレス等の金属、絹糸、絹フィブロイン、絹セリシン、プルラン、ゼラチン、キトサン、デンプン、セルロース、アルギン酸等の生体由来材料が挙げられる。止め具としては、結び目に棒状や円形、球形の成形体等を配置することができる。
例えば、
図32に示すように、フィブロイン多孔質体からなる球状の高分子成形体11の中心に、縫合糸からなる連結部材22を通し、止め部21としてワッシャー24と結び目を配置して、高分子成形体11の脱落を防止し、その上部には、連結部位23を2個配置することができる。
高分子成形体には、連結部材22を通すために、貫通口を設けることができる。貫通口は、円筒形が好ましいが、連結部材22を通すことができる形状であればよい。円筒形は、高分子成形体に貫通口を作製するだけでも使用することができるが、円筒形の筒25を配置することができる。筒25を配置することで、連結部材22による高分子成形体の破損を防止することができる。筒25の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン、ナイロン等のプラスチックス、チタン、ステンレス等の金属、絹糸、絹フィブロイン、絹セリシン、プルラン、ゼラチン、キトサン、デンプン、セルロース、アルギン酸等の生体由来材料が挙げられる。
例えば、
図33に示すように、フィブロイン多孔質体からなる球状の高分子成形体11の中心に、筒25を通し、高分子成形体の破損を防止することができる。
【0036】
本発明の医療用牽引部材は連結部位を有することが好ましい。連結部位は、生体組織に直接又は鉗子等の把持部材によって連結できる構造であれば特に制限はなく、ひも状、ループ状、フック状の様々の形状のものを使用可能であるが、連結部位を有することが好ましい。
【0037】
本発明の医療用牽引部材における連結部材22は、一端にループ状(輪状)又はフック状の形状部分を1つ又は複数有していてもよく、ループ状の形状部分及びフック状の形状部分の両方を有していてもよい。これらの形状部分は、高分子成形体11と生体組織とを直接又は間接的に連結するための連結部位、又は高分子成形体11と内視鏡とを連結するための連結部位として用いることができる。なお、連結部位が複数ある場合には、それぞれ同一のものでも異なるものでもよい。
【0038】
上述の連結部位は、その少なくとも一つを、生体組織と直接又は間接的に連結するための連結部位と、内視鏡とを連結するための連結部位の両方として用いることもできる。例えば、手術部位まで運ぶまでは内視鏡との連結部位として使用し、その後、内視鏡から取り外して、生体組織とを直接又は間接的に連結するための連結部位として使用することができる。また、複数の連結部位を有する場合、そのうちの少なくとも一つを内視鏡との連結部位として使用し、別の一つ以上を、生体組織と直接又は間接的に連結するための連結部位として使用することができる。
また、本発明における連結部材22は、脱落防止機構とループ状の形状部分及びフック状の形状部分の両方を有していてもよい。
【0039】
図12〜19に示す例では、連結部材22の一方の一端に脱落防止機構としての止め部21を有し、他方の一端にループ状の形状部分23を有している。
図20に示す例では、連結部材22の一方の一端に脱落防止機構としての止め部21を有し、他方の一端にフック状の形状部分23を有している。
図21に示す例では、連結部材22の中間部分に脱落防止機構としての止め部21を有し、両端にループ状の形状部分23を有している。
図21に示すように、両端に連結部位としてのループ状の形状部分23を有する場合には、両方の連結部位を異なる2箇所の切除粘膜に、固定された2つの鉗子等の把持部材に連結することで、より大きな腫瘍を切除する場合にも広範囲な視野を確保することができる。さらには、複数の連結部位23を有していてもよいし(
図22〜
図24参照)、分岐した連結部位23を有していてもよい(
図23及び
図24参照)。
図22及び23に示す例では、連結部材22の一方の一端に脱落防止機構としての止め部21を有し、他方の一端にループ状の形状部分23を複数(2個)有している。
図22に示す例では2個のループ状の形状部分が連続して形成され、
図23に示す例では2個のループ状の形状部分が分岐して形成されている。
図24に示す例では、連結部材22の一方の一端に脱落防止機構としての止め部21を有し、他方の一端にループ状の形状部分23とフック状の形状部分23が分岐して形成されている。
【0040】
高分子成形体が複数ある態様では、高分子成形体間の連結部材22(第3の連結部材)又は末端の結び目(止め部21)を切断することで、任意の重さに調整することができる。例えば、
図15において、末端の結び目(止め部21)部分又はその前を切断することによって、右端の高分子成形体11のみを脱落させることができ、高分子成形体3つ分の重りとすることが容易にできる。高分子成形体の間の結び目は、1つ以上とすることができる。例えば、2つ以上の複数である場合、高分子成形体間の連結部材22に結び目(止め部21)等の脱落防止機構を有していれば、高分子成形体間の脱落防止機構の後ろを切断することで、前方の高分子成形体が外れることはないので好ましい。例えば、
図15において、中間の結び目(止め部21)部分又はその前を切断することで、前方の高分子成形体同士が連結部から外れず止まったままで両者の切断が完了し、両者の切り離しが簡単にできるという利点を有する。また、高分子成形体間の脱落防止機構がある程度の大きさでその中間を切断しても脱落防止機能を有する場合、又は中間の結び目(止め部)等の脱落防止機構が複数あってその中間を切断する場合、切断部前後の高分子成形体が外れることなく、それぞれを別々に重りとして生体組織を牽引するための重りとして使用することもできる。
【0041】
次に、連結部材の太さは、直径0.01〜3mmであることが好ましい。直径が0.01mm以上であると、消化管内の狭い部分を通過する際に、牽引具が引っ掛かった場合でも切断されない強度を有することができ、3mm以下であれば、消化管内において鉗子等で連結部材を切断することができるために、重さの調整や取り外し等が簡便になる。以上の観点から、連結部材22の太さは、直径0.1〜2mmであることがより好ましく、0.2〜1.5mmがさらに好ましい。
【0042】
連結部材の素材としては、生体親和性のある物質であることが好ましい。例えば、シリコーン樹脂;ポリ乳酸;ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリグリコネート等の合成高分子;シルク、カゼイン、ケラチン、コラーゲン、デンプン等のタンパク質;ヒアルロン酸、キトサン、セルロース等多糖類等が挙げられるが、これに限定されるのもではない。
【0043】
本発明の医療用牽引部材の長さとしては、高分子成形体と連結部材を含む全体の長さが10〜200mmで有ることが好ましい。該長さが10mm以上であれば、生体組織を牽引する場合に術野を遮ることなく用いることができる。一方、該長さが200mm以下であれば、消化管内への導入や取扱いがし易い。以上の観点から、牽引部材の長さは、20〜150mmがより好ましく、50〜100mmがさらに好ましい。なお、牽引部材の長さは、牽引部材の2つの端を直線上に伸ばしたときに、一番長い長さになる2つの端の長さをいう。
【0044】
医療用牽引部材の回収を忘れた場合に、手術後にX線で探知できるように、高分子成形体と連結部材に造影糸や造影体を内蔵させてもよい。また、多孔質体からなる高分子成形体を用いる場合、その多孔質体に造影糸や造影体を内包させることもできる。また、高分子成形体の周囲に造影糸を配置させることもできる。連結部材と造影糸を撚ることで容易に適用することができる。
【0045】
本発明の医療用牽引部材は、
図26に示すように、高分子成形体11と内視鏡61とを直接又は間接的に連結するための第2の連結部材71を少なくとも1つ有することが好ましい。すなわち、第2の連結部材71によって、内視鏡61と内視鏡の先端アタッチメント62で連結されていることが好ましい。
【0046】
次に、本発明の医療用牽引具について説明する。本発明の医療用牽引具は、少なくとも、上述の医療用牽引部材と、病変部の粘膜等の生体組織に取り付けるための鉗子やクリップ等である把持部材とからなる。例えば、本発明の医療用牽引具は、
図25に示すように、医療用牽引部材が、連結部材22の連結部位(ループ状の形状部分)23を介して、把持部材31と直接連結されたものである。
ここで、把持部材とは、生体組織を把持する機能がある部材であれば特に限定はなく、例えば、鉗子やクリップ等が挙げられる。把持部材を構成する素材は、鉄やチタン、ステンレス、銅等の金属や、プラスチックス等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0047】
次に、本発明の医療用牽引部材及び医療用牽引具を消化管内に導入するための方法としては、本発明の高分子成形体が多孔質体の場合、鉗子口の直径より小さな直径に変形させて、内視鏡の鉗子口を通して、消化管内に導入する。消化管内に導入後、弾性体のため元の形状に戻ることができる。その後、消化管内で牽引部材に水分を含ませることで任意の重さに調整することができる。もしくは、内視鏡を消化管内に導入する際に、内視鏡先端部に取り付けて、消化管内に導入することができる。ただし、導入方法は、これに限定されるものではない。例えば、
図26に示すように、本発明の医療用牽引部材を、第2の連結部材71の部分で内視鏡61の先端アタッチメント62に取り付けた状態で、消化管内に導入することができる。
【0048】
本発明の医療用牽引部材及び医療用牽引具を鉗子口の直径より小さな直径にする方法としては、例えば、鉗子口に導入することで医療用牽引部材及び医療用牽引具自体を変形させる方法、筒の内部に本発明の医療用牽引部材及び医療用牽引具を内包させて、鉗子口から筒を導入し、消化管内で筒から牽引部材を取り出す方法、本発明の医療用牽引部材及び医療用牽引具に水溶性の物質を用いて、圧縮し、固定することで、鉗子口の直径より小さな直径の形状にする方法等が挙げられる。これ以外の方法も適用でき、記載の方法に限定されるものではない。筒の形状は、円筒形が好ましいが、これに限定されるものではない。筒の直径は、1〜4mmが好ましいが、鉗子口を通過する直径であればよい。この筒は、水溶性であっても、不溶性であっても良い。水溶性の筒であれば、消化管へ導入後、水や生理食塩水等を注水することで、牽引具を取り出すことができる。また、不溶性の筒であれば、鉗子等で筒から牽引具を押し出すことで使用することができる。
上述の圧縮・固定や、水溶性の筒の製造に用いられる水溶性の物質としては、人体に無害であって、多孔質体の形状を保持し得る程度の強度を有するものであれば得に限定されないが、例えば、アルギン酸、プルラン、デンプン、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、キチン、キトサン、ポリグルタミン酸、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
例えば、
図34に示すように、フィブロイン多孔質体からなる球状の高分子成形体11を、チューブ26中に圧縮して配置する。消化管内でこのチューブ26から高分子成形体11を取り出して、水を注水することで牽引部材として使用することができる。
他の鉗子口の直径より小さな直径にする方法としては、多孔質体からなるシート状の高分子成形体で、吸水性高分子等の吸水により体積膨張する物質を包むこともできる。吸水性高分子を内包するシート状の高分子成形体を筒状にして、内視鏡の鉗子口より消化管内部に導入し、粘膜端に把持した後に、水を吸水させることで、体積を膨張させることができる。シート両端を閉じることで、球状に膨らみ、重りとして機能させることができる。吸水性高分子としては、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等の合成高分子や、ポリグルタミン酸等のポリアミン、ポリアルギン酸、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース等の多糖類等を使用することができる。
例えば、
図35に示すように、シート状のフィブロイン多孔質体を筒状に丸めた高分子成形体11の内部に吸水性高分子27の粉末を配置し、上下を縫合糸等で縛り、連結部位23と止め部21を配置する。これを消化管内に導入後、注水することでフィブロイン多孔質体を通して、内部の吸水性高分子に吸水させて、膨張することで牽引部材として使用することができる。
【0049】
次に、本発明の医療用牽引部材及び医療用牽引具をESDで使用する形態について、
図27〜30を用いて説明する。
図27は、本発明の医療用牽引部材をESDでの使用形態を示す模式図である。ESDの処置において、病変部51周辺をマーキング後、局注剤を注入することで病変部51を隆起させて、病変部51周囲を粘膜52のみカットする。その後、粘膜下層54をナイフでカットすることで病変部51を剥離していく。ここで、一部病変部51を剥離させた後に、剥離部分に鉗子31を取り付ける。その鉗子31に本発明の医療用牽引部材の連結部材23を固定する。重力によって医療用牽引部材が病変部51を引きはがす方向に、本発明の医療用牽引部材を任意の位置に配置することができる。もしくは、患者の体位を変えることで、本発明の医療用牽引部材を任意の位置に配置することができる(
図28参照)。病変部51周囲の粘膜52のカットを開始する前に、剥離する部分に鉗子31及び本発明の医療用牽引部材を取り付けてもよい。
本発明の医療用牽引部材の使用により、病変部51下部の粘膜下層54が、病変部51に視野を妨げられることなく観察することができるようになる。さらに、粘膜下層54の切断が進むと、病変部51は医療用牽引部材に牽引される形で捲られていく。この様に、本発明の医療用牽引部材を用いることで、病変部51に処置野を遮られることなく、安全且つ迅速に処置を行うことができる。
【0050】
また、本発明の医療用牽引具をESDで使用する形態について、
図29及び
図30に示した。本発明の医療用牽引部材の連結部材の連結部分23と、把持部材としての鉗子31とが初めから連結されており、鉗子31で病変部51を把持することで使用できる。他の基本的な使用方法は、
図27及び28にて説明したのと同様である。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
以下、製造例1〜8に、本発明の高分子成形体に用いられる多孔質体の製造例を示す。
【0052】
製造例1
シルクフィブロイン水溶液は、フィブロイン粉末(KBセーレン社製、商品名:「SlikpowderIM」)を9M臭化リチウム水溶液に溶解し、遠心分離で不溶物を除去したのち、超純水に対して透析を繰り返すことによって得た。得られたシルクフィブロイン水溶液を透析チューブ中で風乾し濃縮した。この濃縮液に乳酸水溶液を添加し、シルクフィブロイン濃度が5質量%、乳酸濃度が2質量%であるシルクフィブロイン溶液を調製した。
このシルクフィブロイン溶液をアルミ板で作製した型(内側サイズ;80mm×40mm×4mm)に流し込み、低温恒温槽(EYELA社製NCB−3300)に入れて凍結保存した。
凍結は、予め低温恒温槽を−5℃に冷却しておいて低温恒温槽中にシルクフィブロイン溶液を入れた型を投入して2時間保持し、その後、冷却速度3℃/hで槽内が−20℃になるまで5時間かけて冷却した後、−20℃で5時間保持した。凍結した試料を自然解凍で室温に戻してから、型から取り出し、超純水に浸漬し、超純水を1日2回、3日間交換することによって、使用した乳酸を除去した。
得られたシルクフィブロイン多孔質体の力学的特性として、前述の方法により、25%圧縮硬さを測定した。この圧縮硬さを表1に示す。なお、測定結果は、作製した多孔質体の任意の5箇所、及び異なる日に作製した多孔質体の任意の5箇所、計10箇所について測定を行った平均値(±標準偏差)を示している。
また、同様に作製したシルク多孔質体(60mm×30mm×20mm)から40%圧縮残留ひずみ用サンプル(厚さ10mm、縦30mm×横60mm)を切り出し、40%圧縮残留ひずみを測定した。その結果を表2に示す。
【0053】
また、得られたシルク多孔質体の構造を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。走査型電子顕微鏡は、Philips社製XL30−FEGを使用して、低真空無蒸着モード、加速電圧10kVで測定を行った。なお、シルク多孔質体の構造は、多孔質体の表面ではなく、多孔質体を切断して露出させた内部を観察した。得られた多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真を
図1に示す。
また、同様に作製したシルク多孔質体(60mm×30mm×20mm)の保水率を測定した。その結果を第2表に示す。さらに、該シルク多孔質体の吸水率を測定したところ、1300%であった。
【0054】
製造例2
製造例1において、乳酸をエタノールに代えたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を
図2に示す。さらに、製造例1と同様にして測定した保水率を第2表に示す。
【0055】
製造例3
製造例1において、乳酸をコハク酸に代えたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を
図3に示す。さらに、製造例1と同様にして測定した保水率を第2表に示す。
【0056】
製造例4
製造例1において、乳酸を酢酸に代えたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を
図4に示す。さらに、製造例1と同様にして測定した40%圧縮残留ひずみ及び保水率を第2表に示す。
【0057】
製造例5
製造例1において、乳酸をL−アスパラギン酸に代えて、その添加量を1質量%としたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を
図5に示す。
【0058】
製造例6
製造例1において、乳酸をL−グルタミン酸に代えて、その添加量を1質量%としたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を
図6に示す。さらに、製造例1と同様にして測定した保水率を第2表に示す。
【0059】
製造例7
製造例1において、乳酸をL−ヒドロキシプロリンに代えて、その添加量を1質量%としたこと以外は製造例1と同様にしてシルク多孔質体を得た。製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。また、製造例1と同様にして測定した走査型電子顕微鏡写真を
図7に示す。
【0060】
参考例1
市販のコラーゲンシート(コグニス社製「ポリモイストマスク」)を用い、該コラーゲンシートを10枚重ねて、製造例1と同様に評価した25%圧縮硬さを第1表に示す。
【0061】
参考例2
市販のポリウレタンスポンジ(住友スリーエム社製)を用い、測定用サンプル(60mm×30mm×20mm)を切り出し、保水率を測定した。その結果を第2表に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
製造例8
アルミ板で作製した型のサイズを130mm×80mm×12mm(内側サイズ)としたこと以外、製造例1と同様にして、シルク多孔質体を製造した。
本発明の高分子成形体の安全性に関する非臨床試験の一環として、皮膚一次刺激性試験及び皮膚感作性試験を行った。なお、本試験は、「申請資料の信頼性の基準」(薬事法施行規則第43号)を基準として、「医療用具の製造(輸入)承認申請に必要な生物学的安全性試験の基本的考え方について」(2003年2月13日付医薬審発第0213001号)と、「生物学的安全性試験の基本的考え方に関する参考資料について」(2003年3月19日付医療機器審査No.36)に従い行った。
製造例8により製造されたシルク多孔質体を5mm×5mm×5mmのサイズに切り出して試験片とした。
【0065】
製造例9
製造例1と同様にして、シルク多孔質体を製造した。シルク多孔質体を含水後に凍結し、マシンニングセンタ(オークマ社製)を用いて、直径1.8mmの球状に切削し、高分子成形体とした。これを圧縮して、内径3mmのチューブに導入し、1%ポリグルタミン酸(日本ポリグル社製)水溶液をチューブ内に導入し、乾燥させた。乾燥後、チューブを取り除き、圧縮・固定品を得た。圧縮・固定品に注水することで、元の大きさの高分子成形体を得た。
【0066】
製造例10
アルミ板で作製した型のサイズを130mm×80mm×12mm(内側サイズ)としたこと以外、製造例1と同様にして、シルク多孔質体を製造した。このシルク多孔質体をシート状に1mm厚でスライスした。このシートを5cm角にカットし、中心部分にポリグルタミン酸架橋物の粉末(日本ポリグル社製)を0.2gを配置した。このシートをナイロン製の縫合糸(2−0号)(日腸工業社製)を中心に筒状に巻き、上下を縫合糸で結び、牽引部材(直径2〜3mm)とした。
牽引部材を取り出し、注水することで、直径約1.5cmに膨潤した。
【0067】
(皮膚一次刺激性試験)
製造例8により製造されたシルク多孔質体の生理食塩液抽出液及びゴマ油液抽出物をウサギに塗布し、局所皮膚刺激性の有無について検討した。具体的には、製造例8により製造されたシルク多孔質体から切り出された上記試験片に生理食塩液又はゴマ抽を加え、オートクレーブ内で120℃、1時間の条件で抽出し、各試験液とした。また、抽出溶媒(生理食塩液又はゴマ油液)のみを同様な条件で処理し、対象液とした。投与は、1溶媒あたり雄ウサギ6匹を用い、1匹につき、試験液及び対象液をそれぞれ背部の無傷皮膚、擦過傷皮膚に0.5mLずつ投与した。
生理食塩液抽出による試験液では、6例中3例で投与後1時間からごく軽度または軽微な紅斑が認められた。この紅斑は対象液である生理食塩液でもみられ、対象液と同等であった。なお、一次刺激性指数は0.3であり、「無視できる程度の刺激性」と判断された。
ゴマ油液による抽出液では、6例中4例で投与後1時間からごく軽度な紅斑が認められた。この紅斑は対象液であるゴマ油液でもみられ、対象液と同等であった。なお、一次刺激性指数は0.1であり、「無視できる程度の刺激性」と判断された。
【0068】
(皮膚感作性試験)
Maximization Test法により、製造例1により製造されたシルク多孔質体のメタノール抽出液について、雄性モルモット10匹を用いて、モルモット皮膚に対する感作性の有無を検討した。
皮膚感作性試験前に、適切な抽出溶媒を決めるために、アセトンとメタノールを用いて抽出率を算出した。その結果、アセトンよりもメタノールの方が高い抽出率を示したために、皮膚感作性試験に用いる抽出溶媒をメタノールとした。
製造例8により製造されたシルク多孔質体から切り出された上記試験片に、メタノール10mLを加え、室温で恒温浸とう培養機を用いて抽出した。抽出は24時間以上行った。対照群として、オリーブ油で感作する陰性対照群、及び1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンで感作する陽性対照群を設けた。各対照群の動物数はそれぞれ5匹とした。
試験液投与群及び陰性対照群とも、抽出液の6.25、12.5、25、50、100%液並びにアセトンで惹起した結果、惹起後24、48及び72時間のいずれの観察時期においても皮膚反応は見られなかった。
一方、陽性対照群では、0.1%1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンの惹起により、5例全例で惹起後、24,48及び72時間後に明らかな陽性反応が認められた。
この試験結果から、製造例8により製造されたシルク多孔質体には、皮膚感作性を示す物質は存在しないと判断された。
このように、製造例8により製造されたシルク多孔質体は、「無視できる程度の皮膚刺激性」と「皮膚感作性を示す物質は存在しない」ことにより、安全性が高く内視鏡観察下で切除される生体組織を牽引するための重りである本発明の高分子成形体として好適に使用できることが確認された。
【0069】
実施例1
製造例1において、アルミ板のサイズを、内側サイズ;40mm×40mm×20mmに変更したこと以外は製造例1同様にして、シルクフィブロイン多孔質体を作製した。この多孔質体を用いて、一辺が1.5cmの立方体を切り出し、はさみで球形に成形し、本発明の高分子成形体を得た。
次に、840デニールのシルク糸(生糸)を4本束ねた連結部材で、縫い針により2つの球状高分子成形体を貫通させることで連結した。各高分子成形体の間に結び目(止め部)を作製し、縫合糸を切断した場合に、一方の高分子成形体のみが外れるようにした。さらに、縫合糸の一端を直径約1cmのループ状に結び結合部位とし、本発明の医療用牽引部材を得た。
該医療用牽引部材を用い、生体ブタを被検体として胃内のESD手術に適用した(
図31参照)。
図31は、生豚胃内でのESD手術を示す写真である。中央の丸い塊2つが本発明のシルク多孔質体であり、上部粘膜に取り付けられている。以下、
図27を参照しながら、詳細に説明する。
【0070】
連結部材の一端であるループ状の部分を、内視鏡(オリンパス工業製Q260)の先端に装着した、ディスポーサブル先端アタッチメント(オリンパス、D−201−11804)の孔にナイロン糸で装着し、フレキシブルオーバーチューブ(秋田住友ベーク、MD−48518)を装着した生体ブタの口より注意深く胃内へ挿入した。胃体部の粘膜下層に内視鏡用局注針を用いて生理食塩水10mlを局注して、人工的に直径約2cmの隆起を作り腫瘍病変に見立てた。その病変の一端へプレカッティングナイフ(オリンパス、KD−10Q−1)を用いてESDの要領で粘膜切開を加え、その切れた粘膜の一端に、胃内で挟鉗子(オリンパス、FS-5L-1)を用いて内視鏡から切離した牽引素材を、回転式クリップ(オリンパス、HX−610−090SC)で固定した。
このとき、
図27に示すように、腫瘍粘膜の一端から連結部材が垂れ下がったような形態になった。内視鏡先端から生理食塩水を高分子成形体にかけて、吸水させることで重さを調製した。その後、順次粘膜下層をナイフで剥離していくが、連結部材がその都度粘膜を牽引し、切除部位が視野を覆わなかった。病変部位の粘膜下層を全て剥離した後、牽引部材とクリップで連結された切除病変を内視鏡下に把持し、口から取り出すことで手術が完了した。手術時間は、約7分であった。今回の手術では用いなかったが、切除病変が5cm、10cmと大きい場合には、切除病変の回収用に、回収用のネットやスネア、3脚などの回収用部材を用いてもよい。
【0071】
比較例1
実施例1と同様な大きさの粘膜を、従来の牽引部材を使用する以外は実施例1同様に、生体ブタへESD手術を行った。粘膜が視野を遮ることが多く、視野の確保に時間を要した。手術時間は約30分であった。