(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
医薬品を研究・開発する過程では、医薬品の候補となる化合物を絞り込むスクリーニングが行われる。スクリーニングにおいては、例えば、細胞を投入した培養液を複数用意し、各培養液に、種々の条件を変更しつつ化合物を添加して、細胞を培養する。そして、細胞の培養状態に基づいて、医薬品の候補となる化合物を絞り込む。
【0003】
このようなスクリーニングにおいては、従来、試薬を用いて細胞の培養状態を評価していた。具体的には、細胞に試薬をかけて、細胞内の特定の分子と当該試薬とを化学反応させ、その光学的な変化を吸光測定することにより、細胞の培養状態を判定していた。しかしながら、この方法には、高価な試薬が必要となる上、化学反応に時間が掛かっていた。また、試薬により細胞壁が破壊されるため、同一の細胞について経時的な変化を観察することができなかった。
【0004】
また、近年では、より生体内に近い環境における医薬品の効用を調べるために、細胞を立体的に培養する三次元培養が行われている。このような三次元培養においては、複数の細胞が立体的に集合した細胞集塊(スフェロイド)の状態が、重要な観察対象となる。しかしながら、このような細胞集塊を観察する際にも、吸光測定を用いると、上記と同様に、高価な試薬が必要であり、化学反応に時間が掛かり、経時的な変化を観察できない、という問題があった。
【0005】
このため、近年では、試薬を用いることなく、細胞を高解像度で撮影することによって、細胞集塊の培養状態を観察する装置の開発が試みられている。当該装置では、培養用の複数の窪部を有するウェルプレートを、所定時間おきに撮影し、得られた撮影画像から窪部ごとの画像を切り出す。そして、切り出された画像を表示部に表示して、当該画像を比較・分析することにより、各窪部における細胞集塊の培養状態を評価する。
【0006】
細胞の画像を取得して画像処理を行う従来の装置については、例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
細胞集塊の培養状態を評価するときには、細胞集塊の体積が、重要な判断指標となる。このため、とりわけ近年では、細胞集塊の画像から、当該細胞集塊の体積を推定する技術の開発が進められている。細胞集塊の体積を推定するときには、例えば、画像内における細胞集塊の濃度を高さに換算し、換算後の高さと細胞集塊の面積とに基づいて、当該細胞集塊の体積を算出する。
【0009】
しかしながら、画像内におけるピクセルの濃度と細胞集塊の高さとの関係は、細胞の種類や培養条件により変動する。したがって、細胞集塊の体積を精度よく求めるためには、観察対象ごとに、ピクセルの濃度と細胞集塊の高さとの関係を、キャリブレーションにより調整することが好ましい。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、細胞集塊を含む画像から細胞集塊の体積を推定する処理の精度を向上させるキャリブレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、細胞集塊を含む画像から前記細胞集塊の体積を推定する処理の精度を向上させるキャリブレーション方法であって、a)少なくとも底部が透光性を有する窪部内に保持された細胞集塊の上側および下側の一方から他方へ向けて光を照射するとともに、前記細胞集塊の他方側に配置された撮像装置で前記光を受光することにより、前記細胞集塊を含む画像を取得する工程と、b)前記工程a)により取得された画像内における前記細胞集塊の濃度を測定する工程と、c)前記窪部内に保持された前記細胞集塊の断面情報を取得し、前記断面情報に基づいて前記細胞集塊の上下方向の高さを求める工程と、d)前記工程b)において測定された濃度と、前記工程c)において求められた高さとの関係を示すデータを取得する工程と、を含
み、前記工程c)では、1つの前記細胞集塊に対して、複数の前記断面情報を取得し、複数の前記断面情報に基づいて、前記細胞集塊の上下方向の高さを求める。
【0012】
本願の第2発明は、第1発明のキャリブレーション方法であって、前記工程c)では、前記窪部内に保持された前記細胞集塊の断面情報を、共焦点顕微鏡を用いて光学的に取得する。
【0013】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明のキャリブレーション方法であって、前記工程c)では、前記窪部内に保持された前記細胞集塊を固定化した後、前記細胞集塊を物理的に切断することにより、前記細胞集塊の断面情報を取得する。
【0014】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれかのキャリブレーション方法であって、前記工程a)より前に、前記窪部内の前記細胞集塊を、免疫染色により標識化する工程をさらに含む。
【0015】
本願の第5発明は、第1発明から第3発明までのいずれかのキャリブレーション方法であって、前記工程c)より前に、前記窪部内の前記細胞集塊を、免疫染色により標識化する工程をさらに含む。
【0016】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれかのキャリブレーション方法であって、前記窪部内に複数の細胞集塊が保持され、前記工程b)では、前記画像内に含まれる複数の前記細胞集塊から選択された1つ以上の細胞集塊の濃度を測定し、前記工程c)では、前記1つ以上の細胞集塊の上下方向の高さを求める。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明〜第6発明によれば、画像内における細胞集塊の濃度と、断面情報に基づいて求められる細胞集塊の高さとの関係を示すデータを取得することにより、濃度を高さに換算する処理の精度を高めることができる。その結果、細胞集塊の体積を精度よく推定することができる。
【0018】
特に、本願の第2発明によれば、細胞集塊を破壊することなく、細胞集塊の断面情報を取得できる。
【0019】
特に、本願の第4発明によれば、免疫染色により、細胞集塊の視認性が向上する。これにより、画像内における細胞と他の部位との濃度差が大きくなる。したがって、濃度を高さに換算する処理の精度をより高めることができる。
【0020】
特に、本願の第5発明によれば、免疫染色により、細胞集塊の視認性が向上する。これにより、断面情報において、細胞の分布を認識し易くなる。したがって、細胞集塊の高さを、より容易に求めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
<1.画像取得装置の構成>
図1は、画像取得装置1にセットされるウェルプレート9の一例を示す斜視図である。ウェルプレート9は、複数の窪部91を有する略板状の試料容器である。ウェルプレート9の材料には、例えば、透明な樹脂が使用される。このため、各窪部91の少なくとも底部は、上下方向に光を透過する。
図1に示すように、複数の窪部91は、ウェルプレート9の上面に、規則的に配列されている。各窪部91内には、培養液92とともに、複数の細胞集塊(スフェロイド)93が保持される。また、各窪部91内の培養液92には、濃度や組成の異なる化合物が、それぞれ添加される。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態に係るキャリブレーション方法が適用される画像取得装置1の構成を、概念的に示した図である。この画像取得装置1は、ウェルプレート9内で培養される細胞集塊93の画像を取得する装置である。画像取得装置1は、例えば、医薬品の研究開発分野において、医薬品の候補となる化合物を絞り込むスクリーニング工程に、使用される。スクリーニング工程の担当者は、この画像取得装置1を用いて、各ウェルプレート9の画像データを取得する。そして、取得された画像データに基づいて、各窪部91内における細胞集塊93の培養状態を比較・分析することにより、培養液92に添加された化合物の効用を検証する。
【0025】
図2に示すように、本実施形態の画像取得装置1は、プレート保持部10、投光部20、撮像部30、表示部40、入力部50、およびコンピュータ60を備えている。プレート保持部10、投光部20、撮像部30、表示部40、および入力部50は、それぞれ、コンピュータ60と電気的に接続されている。
【0026】
プレート保持部10は、ウェルプレート9を保持する載置台である。ウェルプレート9は、底部が下側となる水平姿勢で、プレート保持部10にセットされる。投光部20および撮像部30は、プレート保持部10に保持されたウェルプレート9の上側および下側に、それぞれ配置されている。投光部20は、ウェルプレート9の上側から下方へ向けて、光を照射する。撮像部30は、例えば、レンズ等の光学系と、CCDやCMOS等の撮像素子とを有するラインセンサまたはエリアセンサにより実現される。
【0027】
また、画像取得装置1は、投光部20および撮像部30を横方向に移動させる駆動機構(図示省略)を有している。駆動機構は、例えば、モータと、モータの駆動力を伝達するボールねじ等の動力伝達機構とで、構成される。ウェルプレート9を撮影するときには、投光部20からウェルプレート9の一部分へ向けて光を照射しつつ、撮像部30が、ウェルプレート9の当該一部分を撮影する。そして、駆動機構を動作させることにより、ウェルプレート9に対して投光部20および撮像部30を横方向に相対移動させながら、同様の撮影を繰り返す。その結果、ウェルプレート9全体の撮影画像データD1が取得される。
【0028】
なお、投光部20は、ウェルプレート9内に保持された細胞集塊93に対して、光を照射するものであればよい。したがって、投光部20の光源自体は、ウェルプレート9の上方から外れた位置に配置され、ミラー等の光学系を介して、ウェルプレート9に光が照射される構成であってもよい。また、投光部20がウェルプレート9の下方に配置され、撮像部30が、ウェルプレート9の上方に配置されていてもよい。
【0029】
表示部40は、画像取得装置1の画像処理に関わる種々の情報(後述する窪部画像データD2等)を表示するための部位である。表示部40には、例えば、液晶ディスプレイが使用される。入力部50は、コンピュータ60に対して種々のコマンドを入力するための部位である。入力部50には、例えば、キーボードやマウスが使用される。画像取得装置1のユーザは、表示部40を確認しながら、入力部50を操作して、種々のコマンドをコンピュータ60に入力できる。
【0030】
なお、表示部40の機能と、入力部50の機能との双方が、タッチパネル式のディスプレイなどの単一のデバイスにより、実現されていてもよい。
【0031】
コンピュータ60は、画像取得装置1の上記各部を動作制御する制御部としての機能と、取得された画像データに基づいて細胞集塊93の体積を推定する画像処理部としての機能と、の双方を有する。コンピュータ60は、CPUやメモリを有し、予め設定されたコンピュータプログラム651、入力信号、および種々のデータに従って、CPUが動作することにより、上述した駆動機構、投光部20、および撮像部30の動作を制御する。これにより、画像取得装置1におけるウェルプレート9の撮影が実行される。
【0032】
また、
図2において概念的に示したように、本実施形態のコンピュータ60は、画像切り出し部61、オブジェクト抽出部62、濃度測定部63、推定体積算出部64、および記憶部65を有している。画像切り出し部61、オブジェクト抽出部62、濃度測定部63、および推定体積算出部64の各機能は、コンピュータ60のCPUが、記憶部65に記憶されたコンピュータプログラム651を参照しつつ演算処理を行うことにより、実現される。
【0033】
記憶部65は、画像取得装置1において取り扱われる種々のデータを記憶する部位である。記憶部65は、例えば、ハードディスクドライブやRAM等の記憶装置により実現される。記憶部65は、
図2のように、コンピュータ60を構成するハードウエアの一部であってもよく、あるいは、コンピュータ60に接続された外付けの記憶装置であってもよい。
【0034】
記憶部65には、上述したコンピュータプログラム651が記憶されている。また、本実施形態の記憶部65には、後述する体積推定処理の実行時に参照される相関データ652が、記憶されている。相関データ652は、画像データ内における細胞集塊93の濃度と、細胞集塊93の高さとの関係を、書き換え可能なデータとして保持している。
【0035】
<2.体積推定処理について>
図3は、画像取得装置1において、観察対象となる細胞集塊93の体積を推定する処理の流れを示したフローチャートである。
図3の処理は、コンピュータ60が、入力部50からの入力信号、コンピュータプログラム651、および相関データ652を参照しながら、画像切り出し部61、オブジェクト抽出部62、濃度測定部63、および推定体積算出部64を動作させることにより、実行される。以下、
図2および
図3を参照しつつ、当該処理の流れについて説明する。
【0036】
細胞集塊93の体積を推定するときには、まず、ウェルプレート9を撮影して、撮影画像データD1を取得する(ステップS11)。すなわち、投光部20からウェルプレート9の一部分へ向けて光を照射しつつ、撮像部30が、当該光を受光する。これにより、ウェルプレート9の当該一部分が撮影される。そして、投光部20および撮像部30を横方向に移動させながら、同様の撮影を繰り返す。その結果、ウェルプレート9全体の撮影画像データD1が取得される。
【0037】
撮像部30において撮影画像データD1が取得されると、当該撮影画像データD1は、コンピュータ60内の画像切り出し部61に入力される。画像切り出し部61は、撮影画像データD1から、窪部91ごとの画像データ(以下、「窪部画像データD2」と称する)を切り出す(ステップS12)。
【0038】
切り出された各窪部画像データD2は、表示部40に表示される。
図4は、表示部40に表示される窪部画像データD2の例を示した図である。
図4の例では、1つの窪部画像データD2内に、複数の細胞集塊93の画像が含まれている。ただし、1つの窪部画像データD2内に含まれる細胞集塊93の数は、1つのみであってもよい。投光部20から照射される光の強度は、細胞集塊93を通過する際に減衰する。このため、窪部画像データD2内における各細胞集塊93の濃度は、窪部画像データD2内の細胞集塊93の無い他の部分の濃度よりも高い。
【0039】
次に、オブジェクト抽出部62が、窪部画像データD2から、細胞集塊93に相当するオブジェクト930を抽出する処理を行う(ステップS13)。オブジェクト930を抽出する処理は、例えば、窪部画像データD2から、予め設定された閾値よりも高い濃度を有するピクセルを、抽出することにより行われる。なお、オブジェクト930の抽出に用いられる濃度の閾値は、抽出結果の適否に応じて、変更入力できるようになっていてもよい。
【0040】
図5は、オブジェクト930抽出後に表示部40に表示される窪部画像データD2の例を示した図である。
図5の例では、抽出されたオブジェクト930の輪郭が、太い実線で強調表示されている。これにより、オブジェクト930と他の部位とが、視覚的に容易に区別できるようになっている。
【0041】
続いて、窪部画像データD2内における各オブジェクト930の濃度を測定する(ステップS14)。
図6は、1つのオブジェクト930を拡大して示した図である。
図6中に網点で表したように、オブジェクト930は、光の透過量に応じた濃度分布を有している。すなわち、細胞集塊93の高さが低い部分については、光の透過量が多くなるため、濃度が比較的薄くなる。また、細胞集塊93の高さが高い部分については、光の透過量が少なくなるため、濃度が比較的濃くなる。
【0042】
ステップS14では、濃度測定部63が、オブジェクト930を構成する各ピクセルの濃度を測定する。これにより、当該オブジェクト930の濃度分布を示す濃度データD3が得られる。また、濃度測定部63は、窪部画像データD2内に含まれる複数のオブジェクト930のそれぞれについて、同様に濃度データD3を取得する。
【0043】
その後、得られた濃度データD3に基づいて、各オブジェクト930の体積を推定する(ステップS15)。ここでは、まず、推定体積算出部64が、記憶部65から相関データ652を読み出す。
図7は、相関データ652の例を示した図である。
図7に示すように、相関データ652には、複数の濃度と、各濃度に対応する高さとの対応関係が、規定されている。すなわち、
図7の左欄に示された濃度と、
図7の右欄に示された高さとが、それぞれ対応付けられている。
【0044】
推定体積算出部64は、相関データ652に応じた換算式を用いて、濃度データD3に含まれる複数の濃度を、高さに換算する。これにより、各細胞集塊93の高さ分布の情報が得られる。そして、オブジェクト930を構成する各ピクセルの面積と高さとを積算することにより、ピクセル毎の体積を求め、それらを加算することにより、当該オブジェクト930から推定される細胞集塊93の体積を求める。
【0045】
なお、
図7に例示した相関データ652は、濃度と高さとが1対1に対応したテーブルデータの形式であったが、相関データ652は、濃度を高さに換算するための情報であれば、他の形式であってもよい。
【0046】
<3.キャリブレーション処理について>
続いて、上述した体積推定処理の精度を向上させるためのキャリブレーション処理について、説明する。
図8は、キャリブレーション処理の流れを示すフローチャートである。
【0047】
図8に示すように、キャリブレーション処理を行うときには、まず、画像取得装置1において、撮影画像データD1の取得(ステップS21)、窪部画像データD2の切り出し(ステップS22)、およびオブジェクト930の抽出(ステップS23)の各処理を行う。このステップS21〜S23の処理は、上述したステップS11〜S13の処理と同様であるため、重複説明を省略する。
【0048】
次に、窪部画像データD2に含まれる複数のオブジェクト930から、キャリブレーションに用いる1つ以上のオブジェクト930を選択する(ステップS24)。オブジェクト930の選択は、画像取得装置1のユーザが、表示部40に表示された窪部画像データD2を確認しながら、入力部50を操作することにより行ってもよく、あるいは、コンピュータ60が、コンピュータプログラム651に基づいて自動的に行ってもよい。
【0049】
オブジェクト930が選択されると、続いて、当該オブジェクト930の濃度が測定される(ステップS25)。ここでは、濃度測定部63が、オブジェクト930を構成する各ピクセルの濃度を測定する。これにより、当該オブジェクト930の濃度分布を示す濃度データD3が得られる。また、選択されたオブジェクト930が複数ある場合は、濃度測定部63は、複数のオブジェクト930のそれぞれについて、同様に濃度データD3を取得する。
【0050】
次に、画像取得装置1のユーザは、プレート保持部10からウェルプレート9を取り出し、取り出されたウェルプレート9を、共焦点顕微鏡2にセットする。すなわち、
図9に示すように、画像取得装置1から共焦点顕微鏡2へ、ウェルプレート9を移載する(ステップS26)。そして、上述したステップS24において選択されたオブジェクト930に相当する細胞集塊93を、共焦点顕微鏡2で観察する。
【0051】
共焦点顕微鏡2は、ピンホールを有する光学系を用いることによって、焦点位置から外れた位置で反射した光を除去し、焦点位置において反射した光70のみを検出することで、焦点位置の画像を鮮明に観察することができる顕微鏡である。また、共焦点顕微鏡2では、光路上のレンズの位置をずらすことで、焦点位置を変化させることができる。このため、
図10に示すように、細胞集塊93の複数の断面931について、細胞の分布を観察することができる。すなわち、1つの細胞集塊93に対して、複数の断面情報を光学的に取得することができる(ステップS27)。
【0052】
複数の断面情報が得られると、それらの断面情報から、細胞集塊93全体の立体的な細胞の分布を、精度よく知ることができる。したがって、細胞集塊93の各位置における上下方向の高さを、精度よく求めることができる。その結果、
図9中に概念的に示したように、細胞集塊93の高さ分布を示す高さデータD4を取得することができる(ステップS28)。
【0053】
高さデータD4を取得した後、画像取得装置1のユーザは、当該高さデータD4を、画像取得装置1のコンピュータ60に入力する。高さデータD4は、ユーザが入力部50を操作することにより入力されてもよく、ネットワークを介して共焦点顕微鏡2から画像取得装置1へ転送されてもよい。
【0054】
これにより、画像取得装置1は、濃度データD3と、当該濃度データD3に対応する高さデータD4とを、取得したこととなる。画像取得装置1のコンピュータ60は、記憶部65に記憶された相関データ652に、濃度データD3および高さデータD4の情報を追加する(ステップS29)。これにより、相関データ652に、新たな濃度と高さとの関係を示す情報が追加される。その結果、窪部画像データ内の細胞集塊93の濃度を細胞集塊83の高さに換算するための情報である相関データ652が、較正される。
【0055】
このように、本実施形態のキャリブレーション処理によれば、窪部画像データD2内における細胞集塊93の濃度と、断面情報に基づいて求められる細胞集塊93の高さとの関係を示す情報を取得する。そして、当該情報を相関データ652に追加する。これにより、濃度を高さに換算する処理の精度を高めることができる。その結果、細胞集塊93の体積を精度よく推定することができる。
【0056】
特に、観察対象となる細胞集塊93の種類や培養条件ごとに、キャリブレーション処理を行って、相関データ652を更新すれば、より精度の高い推定を行うことができる。
【0057】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0058】
上記の実施形態では、共焦点顕微鏡2を用いて細胞集塊93の断面情報を光学的に取得した。このようにすれば、細胞集塊93を破壊することなく、細胞集塊93の断面情報を取得できる。しかしながら、他の方法により、細胞集塊93の断面情報を取得してもよい。例えば、窪部91内に保持された細胞集塊93を、凍結またはパラフィン包埋した後、
図11のように、当該細胞集塊93を、物理的に切断することによって、複数の薄片932を形成してもよい。細胞集塊93の切断は、例えば、ミクロトームにより行えばよい。そして、各薄片932を顕微鏡で観察することによって、細胞集塊93の断面情報を取得してもよい。
【0059】
また、画像取得装置1における撮影前または断面情報の取得前に、窪部91内の細胞集塊93を、蛍光色素または酵素を用いた免疫染色により標識化してもよい。例えば、細胞内の特定の分子と結合する蛍光タンパク質を細胞内に導入することによって、観察対象となる細胞集塊93を蛍光標識してもよい。また、細胞内の特定のタンパク質と結合する酵素を用いて、観察対象となる細胞集塊93に対して、酵素抗体法に基づく免疫染色を施してもよい。
【0060】
免疫染色を行えば、細胞集塊93の視認性が向上する。特に、画像取得装置1における撮影より前に、免疫染色を行えば、窪部画像データD2における細胞集塊93と他の部位との濃度差が大きくなる。したがって、濃度を高さに換算する処理の精度をより高めることができる。また、断面情報を取得する前に、免疫染色を行えば、断面における、細胞の分布を認識し易くなる。したがって、細胞集塊の高さを、より容易に求めることができる。
【0061】
また、上記実施形態のキャリブレーション処理では、画像取得装置1で濃度データD3を取得した後に、共焦点顕微鏡2で高さデータD4を取得していたが、これとは逆に、共焦点顕微鏡2で高さデータD4を取得した後に、画像取得装置1で濃度データD3を取得してもよい。すなわち、まず、
図8のステップS27〜S28を行い、次に、共焦点顕微鏡2から画像取得装置1へウェルプレート9を移載し、その後、ステップS21〜S25を行い、最後に、ステップS29を行ってもよい。
【0062】
また、ウェルプレート9に含まれる窪部91の数は、
図1の例と相違していてもよい。また、各窪部91の形状は、
図1のように上面視において円形であってもよく、矩形等の他の形状であってもよい。
【0063】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。