(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771692
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】固形物及びスラリーの含水量を測定する低磁場NMR装置
(51)【国際特許分類】
G01R 33/30 20060101AFI20150813BHJP
G01R 33/381 20060101ALI20150813BHJP
G01R 33/389 20060101ALI20150813BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20150813BHJP
G01R 33/465 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
G01N24/02 510A
G01N24/06 510B
G01N24/06 530R
G01N24/08 510D
G01N24/08 510P
G01N24/08 510Q
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-526521(P2013-526521)
(86)(22)【出願日】2011年8月30日
(65)【公表番号】特表2013-536940(P2013-536940A)
(43)【公表日】2013年9月26日
(86)【国際出願番号】FI2011050753
(87)【国際公開番号】WO2012028785
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年8月25日
(31)【優先権主張番号】20105917
(32)【優先日】2010年8月31日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】511242421
【氏名又は名称】バルメット オートメーション オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルタネン,サミ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィイタネン,ヴェリ−ペッカ
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/041361(WO,A1)
【文献】
特開昭60−109207(JP,A)
【文献】
特開平10−054812(JP,A)
【文献】
特表2002−519628(JP,A)
【文献】
特開平09−019413(JP,A)
【文献】
国際公開第01/14847(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0112628(US,A1)
【文献】
Lisbeth G. Thygesen and Thomas Elder,"Moisture in Untreated, Acetylated, and Furfurylated Norway Spruce Monitored During Drying Below Fiber Saturation Using Time Domain NMR",Wood and fiber science,2009年 4月,Vol. 41, No. 2,p. 194-200
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00−24/14
G01R 33/20−33/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物及びスラリーなどのサンプルの含水量を測定する核磁気共鳴(NMR)装置であって、
主磁場を生成する手段と、
前記主磁場内のサンプル受容空間と、
前記サンプル受容空間内に配置されたサンプルに、前記主磁場によって定められる動作周波数で、測定可能なRF磁化を励起する手段と、
励起されたサンプルによって生成されるRF信号を測定する手段と、
前記RF信号に基づいて前記サンプルの相対的な含水量を決定する手段と、
を有し、
前記RF信号を測定する手段は、励起パルス後の所定のデッドタイムの後に、前記励起されたサンプルの前記RF信号を測定するように構成され、
前記サンプル受容空間は、0.5dm3以上の体積を有するサンプルを収容することが可能であり、且つ
前記主磁場を生成する手段は、400−2000kHzの動作周波数に対応する主磁場を生成するように適応された抵抗性電磁石を有する、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記電磁石はパッシブ冷却される、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
好ましくは強制空気循環により、前記電磁石はアクティブ冷却する手段、を更に有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
当該装置の前記動作周波数は400−950kHzである、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の装置。
【請求項5】
当該装置の前記動作周波数は950−2000kHzである、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の装置。
【請求項6】
前記サンプルが前記サンプル受容空間内にある間に前記サンプルの質量を測定する手段を更に有し、前記サンプルの含水量を決定する手段は、前記サンプルの前記相対的な含水量を決定する際に前記サンプルの質量を使用するように適応される、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の装置。
【請求項7】
前記RF信号を測定する手段は、前記励起後の所定のデッドタイムの後に前記RF信号の測定を開始するように適応され、
前記サンプルの含水量を決定する手段は、測定された前記RF信号に基づいて、前記RF信号の値を励起パルスの時点まで外挿するように適応され、且つ前記サンプルの含水量を決定する際に、外挿された信号値を使用するように適応される、
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の装置。
【請求項8】
前記サンプル受容空間の容積は0.5−5dm3である、ことを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の装置。
【請求項9】
サンプルの含水量を測定するNMRベースの方法であって、
主磁場を生成し、
前記サンプルを前記主磁場に晒して前記サンプルに正味の磁化を生成し、
前記主磁場によって定められる動作周波数で前記サンプルに測定可能なRF磁化を励起し、
励起されたサンプルによって生成されるRF信号を測定し、且つ
前記RF信号に基づいて前記サンプルの含水量を決定する
ことを有し、
励起パルス後の所定のデッドタイムの後に、前記励起されたサンプルの前記RF信号を測定し、
0.5dm3以上の体積を有するサンプルを使用し、且つ
400−2000kHzの動作周波数に対応する主磁場を生成するように適応された抵抗性電磁石を用いて前記主磁場を生成する、
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記サンプルはバイオマスサンプルである、ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルは固形又はスラリー形態にある、ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
パッシブ冷却される電磁石と400−950kHzの動作周波数とを用いる、ことを特徴とする請求項9乃至11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
アクティブ冷却される電磁石と950−2000kHzの動作周波数とを用いる、ことを特徴とする請求項9乃至11の何れかに記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルがサンプル受容空間内にある間に前記サンプルの質量を測定し、且つ前記サンプルの質量に基づいて前記サンプルの含水量を決定する、ことを特徴とする請求項9乃至13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
前記励起後の所定のデッドタイムの後にのみ前記RF信号を測定し、
測定された前記RF信号に基づいて、励起パルスの時点でのRF信号値を推定し、且つ
前記サンプルの含水量を決定する際に、推定された前記RF信号値を使用する、
ことを特徴とする請求項9乃至14の何れかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(NMR)測定装置及び方法に関する。特に、本発明は、固形物及びスラリーの含水量を測定するNMR装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR測定は、静磁場(主磁場)を用いて、原子核の大集団に正味の磁化を与え、且つ、関心ある原子核及び主磁場の強さによって動作周波数(ラーモア周波数)が定められる無線周波数磁場(RF磁場)の無線周波数パルス(RFパルス)を用いて、上記正味の磁化を静磁場方向から逸らせることに基づく。NMR信号、すなわち、歳差運動をしながら徐々に主磁場と平行に戻るように緩和していく正味磁化によって受信RFコイルに誘起されるEMF(自由誘導減衰(Free Induction Decay;FID)として知られる)を測定することによって、逸らされた歳差運動をする正味磁化の緩和を検出することができる。緩和速度は、主磁場の均一性と測定対象物質の特性とによって決定される。
【0003】
NMRスペクトロスコピー又はリラクソメトリーを用いて、様々な材料サンプルの含水量を正確且つ迅速に測定することができる。NMRに基づく水分含有量測定装置の広範な使用は、主に高コストの測定装置によって妨げられてきた。特に、例えばバイオマス含水量測定などの数多くの用途において、望ましいサンプル体積は数デシリットル以上のオーダーであり、そのことが装置の寸法及びその他の仕様に実際的な制限を設けている。
【0004】
従来技術(例えば、非特許文献1)は、NMRベースの含水量測定では、理に適った回復時間、すなわち、送信RFパルスに続く受信回路のデッドタイムを維持するために、5MHzから6MHzの最低動作周波数が使用されるべきであることを示唆している。これは、比較的高い主磁場(>125mT)の使用を必要とする。高い磁場はまた、測定可能な信号振幅を高める。他の従来技術(非特許文献2)はまた、NMR信号によって受信コイルに誘起される起電力が基本的に主磁場強度の二乗に比例することを教示している。しかしながら、このような大きさの磁場強度の使用は、例えば、装置コスト、電力消費及び磁石質量を増大させる。さらに、高い磁場では温度変化及び主磁場の不均一効果が有意となり、装置設計を更に複雑化してしまう。また、例えば装置外側の寄生磁場に関して、安全性の観点も、高い磁場内では一層意味を帯びてくる。これらの観点は、望ましいサンプル体積が大きい場合に際立ったものとなる。非特許文献3は、20MHzの動作周波数を生じさせる0.47Tの主磁場でウッドチップ(木質チップ)の含水量を測定可能なことを提示している。可能なサンプル体積(“良磁場”体積)はたったの10ml未満であるが、使用される永久磁石の重さは68kgである。従来技術のその他の例には、例えば非特許文献4に提示されるような、0.5Tの主磁場且つ小さいサンプル体積での溶出試験における含水量分析がある。
【0005】
また、より低い周波数及び磁場強度を用いる試みが為されてきた。例えば、非特許文献4は、20mlの鉱石及び泡のサンプル内のオイル及び水の含有量を決定するために、1MHz Corespec1000(登録商標)(永久磁石によって24mTの主磁場が生成される)を使用している。
【0006】
以上にて参照した従来技術においてのように、必要な磁場強度を、永久磁石を用いて、小さいサンプル体積にわたって、良好な均一性で生成することは比較的容易である。しかしながら、多くの用途では、サンプリングの規格及び例えばバイオマスサンプルなどの一般的に大きい小片寸法のため、大きいサンプル体積が要求される。しかしながら、以上にて参照した装置設計は、必要な大きさまで拡大される場合に製造が高価且つ困難になるため、大きいサンプル体積を測定することに適していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Remote Automatic On-Line Sensor;Final Report、Quantum magnetics Inc
【非特許文献2】The British Journal of Radiology、71(1998)、704-707
【非特許文献3】Barale,P.J.他、「The Use of a Permanent Magnet for Water Content Measurements of Wood Chips」、IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY、第12巻、第1号、2002年3月
【非特許文献4】Butler James他、「Using low-field MRI to improve tablet dissolution testing」、Tablets&Capsules、2010年1月
【非特許文献5】Kantzas,A.他、「LOW FIELD NMR APPLICATIONS IN OIL SANDS MINING AND EXTRACTION」、International Symposium of the Society of Core Analysts、カナダ、トロント、2005年8月21-25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの目的は、大きいサンプル体積(0.5リットル又はそれ以上)の測定に適した新たなNMRベース含水量測定装置及び方法を提供することである。特に、装置を提供することが狙いである。更なる1つの目的は、軽量であるように設計されることが可能な装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも0.5リットルの測定体積と400−2000kHzの低い動作周波数とを使用するという概念に基づく。これらは、本発明によって、抵抗性の電磁石を用いて達成可能なことが判明したものである。より具体的には、本発明は独立請求項にて規定される。
【0010】
一実施形態によれば、装置は、
少なくとも0.5dm
3の体積を有するサンプルを収容することが可能なサンプル受容空間と、
サンプル受容空間全体に10−40mTの磁場強度で主磁場を生成する抵抗性電磁石と、
サンプル受容空間内に配置されたサンプルに、主磁場によって定まるラーモア周波数で、測定可能な歳差運動する横断磁化を励起するRFコイルと、
好ましくは励起に使用されるのと同じRFコイルを用いて、励起されたサンプルによって生成されるRF信号を測定する手段と、
該RF信号に基づいてサンプルの含水量を決定する計算ユニットと、
を有する。
【0011】
方法は、
少なくとも0.5dm
3の体積を有するサンプル全体に抵抗的に主磁場を生成し、
サンプルを主磁場に晒してサンプルに正味の磁化を生成し、
400−2000kHzの動作周波数でサンプルに測定可能なRF磁化を励起し、
励起されたサンプルによって生成されるRF信号を測定し、且つ
該RF信号に基づいてサンプルの含水量を決定する
ことを有する。
【0012】
サンプルは、典型的に固形又はスラリー形態をしたバイオマスサンプルとし得る。
【0013】
一実施形態によれば、主磁場を生成するために、パッシブ冷却式の電磁石が使用され、動作周波数は好ましくは、生成される熱の量が十分低いようにするため、400−950kHzにされる。
【0014】
一実施形態によれば、アクティブ冷却式の電磁石が使用され、それにより動作周波数が950−2000kHz程度に高くされ得る。
【0015】
一実施形態によれば、サンプルがサンプル受容空間内にある間にサンプルの質量が測定され、サンプルの相対的な含水量が、サンプルの質量に部分的に基づいて決定される。
【0016】
一実施形態によれば、測定エレクトロニクスが励起パルスから回復するよう、RF信号は、励起後の所定のデッドタイムの後にのみ測定される。励起パルスの時点で想定されるRF信号値が、測定されたRF信号に基づいて外挿によって推定され、この推定されたRF信号値が、サンプルの含水量を決定する際に使用される。このような測定シーケンス及び信号処理アルゴリズムを用いることにより、従来技術で予期されるのとは対照的に、大きい測定体積及び低い磁場(低いラーモア周波数)を用いることができる。乾燥したバイオマスサンプル内の密に結合された水をも測定する能力が害されないことは本発明の1つの利点である。この問題については、「Water in Foods and Biological Materials」、R.R.Raun、P.L.Chen、CRC Press、1998年を参照することができる。
【0017】
典型的に、上述のデッドタイムは30−200μsである。
【0018】
装置の好適な動作周波数は400−1700kHzである。
【0019】
本発明は有意な利点を提供する。第1に、永久磁石又は超電導磁石に基づくNMR装置と比較して小さく且つコスト効率が良いように装置を設計することができる。第2に、サンプル内の含水量を決定する能力を維持しながら、小規模な装置の測定容積がデシリットル域まで拡大される。故に、例えば、バイオマス及びバイオ燃料の含水量を簡便に測定することができる。
【0020】
なお、小さいサンプル体積の場合には、典型的にコイルの抵抗が低く、故に、コイルの電力消散も低いレベルであるので、主コイルの温度は制限要因ではない。しかしながら、0.5dm
3以上の体積の場合、この動作範囲が望ましい。コイルの温度が許容可能なレベルに留まるからである。
【0021】
低い主磁場、ひいては、低い周波数を使用することができることによって得られる更なる利点は、
低い電力消費、
低い磁石温度、
小さい磁石質量、
磁場の温度依存性がない、あるいは低いこと、
シムコイルなしで均一な磁場を生成するために電磁石を使用することができること、
安全なレベルの寄生磁場、
より緩い、磁場に対する相対的均一性要求
より低コストの増幅器、AD変換器、電源など
である。
【0022】
要約すれば、よりコスト効率的で且つ軽量な、安全に使用可能な装置を製造することができる。
【0023】
好適な一実施形態によれば、測定システムは、統合されたサンプル質量測定手段を有する。好ましくは、NMR装置のサンプル受容空間内、すなわち、NMR信号測定位置にサンプルがある間に、サンプルの重さが測定され得る。測定されたサンプル重量が、外挿されたNMR信号とともに、サンプルの含水量の決定に使用される。
【0024】
用語“サンプル受容空間”は、特に、10−40mTの磁場強度と、1000ppmより良好な、好ましくは250ppmより良好な磁場均一性とを有する主磁場内のゾーン(区画)を意味する。典型的に、サンプルがサンプル受容空間内に配置されるようにサンプル容器を保持する保持手段が主磁石内に設けられる。主コイルの形状に応じて、サンプル受容空間は様々な形状を有することができる。
【0025】
用語“抵抗性電磁石”は、典型的に、装置の動作温度(典型的には室温)において、超電導状態ではなく、抵抗状態にある金属導体で巻かれたコイルを表す。
【0026】
本発明の更なる利点及び実施形態が、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明にて議論される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る測定システムを示す図である。
【
図2a】典型的なNMR信号をその緩和時間とともにグラフ的に示す図である。
【
図2b】本発明の一実施形態に従ったNMR信号の外挿をグラフとして示す図である。
【
図3】本発明に従った典型的なパルスシーケンスを示す図である。
【
図4】アルミニウムコイル電磁石の温度/電力vs.共鳴周波数カーブを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
一実施形態に係る測定システムを
図1に示す。参照符号119を付されたNMRユニットは、主磁石であるDC電磁石118と、主磁石118の内側に配置されるRFコイル120とを有している。主磁石118はDC電源126によって電力供給される。このシステムはまた、制御・データ収集コンピュータ102を有している。コンピュータ102は、制御信号・データ伝送チャネル134を介して、ADC・DACコンバータ106に接続されている。RFコイル120は、ADC/DAC106からの励起信号をRFコイル120に伝送することと、RFコイル120からのNMR信号をADC/DAC106に伝送することと、の双方に使用されるディレクショナル(向きを有する)スイッチ112に接続されている。励起信号132は、好適な電源108によって電力供給されるRFパワーアンプ110を介して送られ、NMR信号は、入力増幅器及びローパスフィルタ114、116を介して受信される。RFコイルの内側に配置されるサンプルの重さが、ロードセル(load cell)増幅器124を介してADC/DAC106に接続されたロードセル122を用いて測定される。システムのこれら別個のユニット群への電力は、全体電源102を用いて供給され、あるいは、上述のように、主磁石及びRF増幅器110に必要とされるのが通常の別個の電源を用いて供給される。
図1において、電源ライン(配線)は破線で引かれており、制御/データラインは鎖線で引かれている。RF送信/受信信号ライン及び質量重量信号ラインは実線で引かれている。
【0029】
上述のように、主磁石118は、プロトンの400−2000kHzのラーモア周波数に対応する磁場をサンプル内に生成するように適応される。実際には、磁場強度は、RFコイル120内のサンプル受容ゾーンにおいて、訳9−44mTにされるべきである。主磁石は好ましくは、サンプル受容ゾーンにおいて可能な限り均一な磁場を生成するように適応された巻線方式を有する電磁石である。一実施形態によれば、主磁石118はアルミニウムの導電体で巻かれる。
【0030】
主磁石は好ましくは、パッシブあるいはアクティブに冷却される抵抗性電磁石である。パッシブ冷却は、本明細書において、磁石材料からその周囲への自然放射、自然対流、自然伝導のみによって主磁石から熱が放散されることを意味する。アクティブ冷却は、例えば強制空気循環など、強制的な流体循環の形態を取り得る。
【0031】
NMR信号周波数は主磁場に正比例し、比例係数は磁気回転比である。一方、電磁石の磁場は、磁石コイルを流れる電流に正比例する。また、この電流を駆動するのに必要な電力は、コイルの抵抗に電流の二乗を乗算したものに比例する。実際には、コイル抵抗はコイル温度とともにほぼ線形に増加し、そして、コイル温度は電流の増加とともに上昇するので、コイルの電力消費は実際には、電流の二乗よりも急勾配な、電流の関数である。
【0032】
RFコイル120は、主磁場に垂直な磁場を生成するように適応される。RFコイル120はバードケージ型とし得る。RFコイル120の大きさは、少なくとも0.5dm
3、好ましくは0.5−5dm
3の体積を有するサンプルを収容するのに十分なものである。具体的には、RFコイルの内側のサンプル受容ゾーンは円筒形の形状とし得るが、その他の形状も可能である。
【0033】
NMRユニット119の内部又は外部に、サンプル重量計測装置122が配置され得る。好ましくは、これはNMRユニット119の下に配置され、好適な校正によって、あるいは計算的に、NMRユニットの死荷重が考慮される。
【0034】
湿度測定において、測定されるサンプル内に、主磁石によって、均一なDC磁場が生成される。そして、磁場とサンプル内の水素との相互作用が、サンプル内に小さい磁化を生じさせる。次に、
図2及び3を参照するに、サンプルは、RFコイルによる短く強い無線周波数(RF)励起パルス3に晒され、それにより水素原子核が励起される。後続ステップにて、典型的に数ミリ秒の時間にわたってRFコイルによってNMR信号が記録される。この時間中、サンプルはNMR緩和を経て元の磁化状態へと戻る。信号振幅10(
図2)は、サンプルの水分からの水素の総量に比例する。しかしながら、実際上の理由により、上記の記録は、励起パルス3の直後には開始されることができず、所定のデッドタイム(最初のRFパルス後数十マイクロ秒のオーダーであり、典型的に50−200ms)の後にのみ開始されることができる。しかしながら、水分含有量を定めるのはNMR信号の最大値であり、この最大値10は、デッドタイム後に記録されたNMR信号から外挿される。サンプル内の固形物のプロトンから生じるNMR信号は、<50マイクロ秒で減衰し、故に有利なことに、上述のように、サンプル内の水分を定めることに影響しない。
【0035】
要するに、好適な一実施形態によれば、NMR信号は、励起パルス後の所定時間のデッドタイム後に測定され、該デッドタイム後に測定された信号データを用いてゼロ時点(励起パルスの時点)まで信号を外挿するアルゴリズムが使用される。外挿された信号に基づき、サンプルの含水量が決定される。それ自体知られた外挿法を使用することができる。
【0036】
大抵、サンプルのT2すなわちスピン−スピン緩和時間によって、
図2に示すような信号の減衰が決定される。
【0037】
このNMR装置は特に、バイオマスの含水量を測定することに適している。測定されるサンプルが非常に乾燥しているとき(これは典型的に、20m%未満の含水量を意味する)、信号対雑音比は低く、これは、一連の測定回数を増やしてそれらの平均を取ることによって補償されることができる。これは、いともたやすく、長い測定時間をもたらしてしまう。連続測定間の時間に対する制限は、主として、時間因子T1すなわちスピン−格子緩和時間によって設定される。これは、逸らされた(デフレクトされた)平均磁化ベクトルがその元の値を回復するのに要する時間である。この回復は、プロトンから格子へのエネルギー消散によって実現される。完全なる緩和の前に励起パルスが印加されると、低下された信号振幅が観測されて、含水量と信号振幅との間の相関係数が変化するため、校正が妥当なものでなくなってしまう。
【0038】
低い磁場及び低いラーモア周波数は、従来技術に基づいて予期され得るものより遙かに小さい質量、電力消費及びコストを有する大きいサンプル体積の測定システムの構築を可能にする。
【0039】
一実施形態によれば、RF信号は、測定エレクトロニクスが励起パルスから回復するよう、励起パルス後の所定のデッドタイムの後にのみ測定される。含水量の最も正確な見積もりを得るために、励起パルスの時点に想定されるRF信号値が、測定されたRF信号に基づいて外挿される。これは、
図2a及び2bに示す原理に従って行われ得る。
【0040】
図2bを参照するに、自由誘導減衰信号の振幅23は、元の90°励起パルス21と比較して非常に小さい。深刻な干渉なくデータを記録するために、励起パルス、並びにそれが測定電子回路に誘起するノイズ及びリンギング22が害のないレベルまで減衰するまで待機するか、あるいはその他の方法で、t=t1以降に記録されたデータのみを使用するかが必要である。
【0041】
自由誘導減衰信号の減衰は有利なことに、指数関数:
【数1】
又はガウス関数:
【数2】
によって記述され得る。t1−t0>50μsと仮定すると(これは概して、2MHz未満のラーモア周波数で動作するNMR装置にあてはまる)、固形物から生じる信号は検出可能でなく、サンプルの含水量は、t=t0時点の外挿された振幅A0に比例する。スピン−スピン緩和時間T2は物質及びその含水量に強く依存するので、t=t1時点の振幅値を直接用いて含水量を決定することはできない。
【0042】
A0の値を見出すためには、t>t1に記録された信号振幅の包絡線24を、有利にはt>t1のデータに上述の関数をフィッティングすることによって、t0まで遡るように数学的に外挿することが必要である。
【0043】
なお、このような長いデッドタイムに関する問題は、サンプル体積が小さい場合には、特に、従来技術においてのように高いラーモア周波数と組み合わされる場合には発生しない。何故なら、小さいサンプルを励起するのに必要なRFパワーは低く、望ましくない過渡応答及びリンギングを含めて励起パルスを短くすることができ、それにより、受信器のデッドタイムも非常に短くなるからである。また、小さいサンプルでは、仮にその増幅率が高い場合であっても、RFコイルのインダクタンスを低く保つことができ、回路のデッドタイムを最小化する助けとなる。しかしながら、大きいサンプル体積の場合には、デッドタイムは不可避的に有意なファクタとなり、これが簡単に上述したアルゴリズムを用いて考慮され得る。当然ながら、RFコイルのQ値を有意に低下させることによってデッドタイムを短縮することはできるが、そうすることは信号対雑音比を許容できないレベルまで低下させることになる。
【0044】
本発明の発明者によって見出されたことには、周波数範囲の上限は、パッシブ冷却あるいは空冷される電磁石の熱的な制約から生じる。6kgのアルミニウム導体を有するパッシブ冷却式磁石の場合、950kHzを超えるラーモア周波数に対応する18mTを超える磁場が、サンプル及びユーザの双方にとって許容可能な値を超える磁石表面温度を生じさせる。表1に、ガイドラインEN563に従った高温面の温度限界値を確立する人間工学データをリストアップする。強制空冷は、使用可能な磁場/周波数範囲を約35mT/1700−2000kHzまで延ばし得る。
【0045】
【表1】
なお、この温度の観点は小サンプル体積の装置には関係しない。何故なら、永久磁石を使用することができ、あるいは必要な主磁石内の電流密度がかなり低くなり、低い熱放散となるからである。
【0046】
一方、低い側の周波数限界は、2つの異なる現象によって設定される。第1に、検出される信号振幅は磁場強度の二乗にほぼ比例する。故に、ラーモア周波数が低くなると、S/N比が急に低下する。S/N比は、本発明の場合のように低いラーモア周波数をもたらす低磁場で乾いたサンプルの含水量を測定するときの重要な問題である。第2に、励起後のデッドタイムは基本的にラーモア周波数に反比例する。周波数が1/2に低下すると、エレクトロニクス及びRFコイルが励起パルスから回復するのに要する時間が2倍(基本的に同じ減衰サイクル数)になり、密に結合した水を有するサンプルのスピン−格子緩和時定数を何倍も超え、故に、測定範囲を湿った燃料に制限してしまう。デッドタイムの問題は、励起/受信コイルの大きいインダクタンス、ひいては、遅い回復をもたらす大きいサンプル体積が必要とされることによって悪化される。400kHzの下限周波数より下では、実用目的にとってデッドタイムが過度に長くなり、信号の外挿の正確さ、ひいては、測定の精度が害される。
【0047】
水分含有量を水質量と総質量との比として表現することができるように、システムに重量計測装置を統合することが好ましい。これは、従来技術においては典型的に、サンプル内の固形物から発せられるNMR信号をも測定することによって達成されてきた。それはあまり正確でない方法であるとともに、本発明で使用される低い周波数で実現することは不可能である。