【実施例1】
【0012】
以下、第1の実施例である超音波診断装置および弾性評価方法を、
図1のブロック図、
図2の機能説明図、
図3の評価位置の設定方法を説明する図、
図4の弾性評価方法の処理工程を説明するための図、
図5のトラックパルスの送信位置を説明する図等を用いて説明する。本実施例は、被検体に超音波を送受信する探触子11と、探触子11を介して、第1の超音波を被検体に送信して被検体内でせん断波を発生させると共に、第2の超音波を被検体に送受信させる制御部12とを備え、制御部12は、第2の超音波に基づいて、被検体内で発生したせん断波の第1の到達時間と第2の到達時間とを計測し、第1の到達時間と第2の到達時間の時間差に基づいて、せん断波の伝搬速度を計測する速度計測部22を有する構成の超音波診断装置の実施例である。
【0013】
また、本実施例は、探触子11から第1の超音波を前記被検体に送信して、被検体内でせん断波を発生させ、第2の超音波を被検体に送受信し、第2の超音波に基づいて、被検体内で発生したせん断波の第1の到達時間と第2の到達時間とを計測し、第1の到達時間と第2の到達時間の時間差に基づいて、せん断波の伝搬速度を計測することにより被検体の弾性評価を行う方法の実施例である。
【0014】
尚、本発明の内容は使用する探触子を特に限定しないが、本実施例では口径部が生体側に凸型に湾曲したコンベックス型の探触子を利用する場合を想定して説明を行なう。
【0015】
まず、
図1を用いて本実施例で利用する高周波(RF)データおよび画像データの生成に関わる超音波診断装置の構成について説明する。
図1に示すように、超音波診断装置10は、制御部12と超音波送受信部13と表示部15を備える。制御部12は、処理部である中央処理部(CPU)7と記憶部であるメモリ8からなる制御ユニット9と、データ処理部14からなる。制御部12の制御ユニット9の制御に基づき、送信パルス用の電気信号が超音波送受信部13で生成される。超音波送受信部13で生成された送信パルス用の電気信号が、D/A変換器によりアナログ信号に変換後、生体等の被検体の表面に接地させた探触子11に送られる。探触子11に入力された電気信号は内部に設置されたセラミック素子にて、電気信号から音響信号に変換され、被検体内に送信される。送信は複数のセラミック素子で行ない、被検体内の所定の深度で集束するように、各素子には所定の時間遅延が掛けられる。
【0016】
被検体内を伝播する過程で反射した音響信号は再び探触子11にて受信され、送信時とは逆に電気信号に変換され、超音波送受信部13内部の切替スイッチよりA/D変換器に送られ、デジタル信号に変換される。超音波送受信部13では、複数の素子で受信した信号に対して、送信時に掛けた時間遅延を考慮した整相加算などの加算処理が行なわれ、減衰補正等の処理がなされた後、複素のRFデータとして制御部12内のデータ処理部14に送られる。
【0017】
データ処理部14は、所定のプログラムの実行等により実現可能な、画像データ生成部16と、後で
図2を用いて詳述する弾性評価部17を備える。データ処理部14が超音波送受信部13から取得したRFデータは、最終的に表示される画像データのうち、超音波の送受信方向に沿った特定の1ラインの要素データとなる。被検体に対する超音波の送受信を、探触子11を構成するセラミック素子の配列方向に順次切り替えて実施することにより、2次元の画像データを構成する全てのRFデータが取得され、メモリに蓄積される。
【0018】
取得、蓄積されたRFデータは、データ処理部14の画像データ生成部16により2次元の画像データに変換される。具体的には、ゲイン制御、対数圧縮、包絡線検波、スキャンコンバージョンなど、普及している超音波診断装置で一般的に用いられている画像生成処理である。画像データ生成部16で生成された画像データは表示部15に表示される。この制御部9のデータ処理部14も、処理部であるCPUとプログラムやデータを記憶するメモリで構成できる。更に、このCPUやメモリとして、上述した制御ユニット9のCPU7とメモリ8を用いることも可能である。
【0019】
次に、
図2の機能説明図、
図3の模式図、および
図4のフローチャート他を利用して、本実施例のデータ処理部14の弾性評価部17において実施される弾性評価機能について説明する。
【0020】
図2において、
図1と同一の符号は同一のものを示す。外部入力部18は、術者が評価位置の座標情報を入力するものである。データ処理部14は、制御部12の制御に従い、或いはそれ自身で弾性評価部17を実現する。弾性評価部17は、術者により指定された評価位置にて放射圧を発生させ、伝搬するせん断波を利用して弾性を評価するものである。同図に示すように、弾性評価部17は、超音波送受信部13に対して、それぞれプッシュパルス条件、トラックパルス条件を設定するバースト波制御部19、パルス波制御部20を備える。また、超音波送受信部13から得たRFデータを用いて、変位情報を生成する変位計測部21、この変位情報から速度情報を生成する速度計測部22、得られた速度情報に基づき、弾性評価結果として弾性情報を得る。
【0021】
評価位置の指定は、表示部15に表示される被検体を含む画像データに対して、装置本体に備わるマウスやトラックボール等の外部入力部18を利用して、術者が座標情報を入力する形で行なわれる。例えば
図3の模式図のような形態で、術者が画像データ26内の被検体24の所望の位置の座標情報をポインタ25で指定することにより、画像データ26内における評価位置27の座標(x
0、z
0)が確定する。ここでは直交座標系23を想定し、xは横方向、zは縦方向を表わす。前述のように、弾性情報はせん断波の伝搬により得られる結果である。つまり、弾性の評価には、一定の領域が必要となる。したがって、評価位置27(x
0、z
0)は放射力を発生させるプッシュ位置28の座標であり、せん断波が伝搬する原点位置の座標でもある。
【0022】
確定した座標情報はデータ処理部14に送られ、
図4の工程1で、内部に備わる弾性評価部17に入力される。続いて、工程2では、バースト波制御部19により、入力された座標データに基づき、第1の超音波、すなわちプッシュパルスであるバースト波の送波条件が確定される。生体への影響がなく、効果的にせん断波を発生させる送波条件は、概ねFナンバ=1〜2(口径の幅を焦点深度で割った値)の集束条件が適当であり、強度およびバースト長として強度は0.1〜1kW/cm
2、バースト長は100〜1000μsの範囲が適している。ここで口径の幅は、実際には駆動するセラミック素子の範囲であり、素子間隔の離散的な値を取る。そして理想的な焦点領域を形成するため、各素子への印加電圧には口径重み(アポダイゼーション)が掛けられる。プッシュパルスの送信方向は、被検体の深度方向であるため、その送波条件である送信角度は零となる。
【0023】
好適には口径の中心から隅にかけて重みを減らすことにより、回折の影響による焦点領域の乱れを抑制する。但し、口径重みは強度を低下させる短所もあるため、評価位置が深部で減衰の影響が大きい場合には、領域形成よりも強度を優先させ、口径重みを軽くする場合もある。また、送信周波数は探触子11の感度帯域の中心周波数近傍とするのが効果的である。第1の超音波として機能する、プッシュパルスであるバースト波の送波条件は直ちに超音波送受信部13に送られ、探触子11を介して生体内に照射される。
【0024】
続いて、工程3ではパルス波制御部20により、第2の超音波、すなわちトラックパルスの送波条件が確定される。周波数、波数、Fナンバなどの音響パラメータは画像データを生成する時の条件とほぼ同じとなる。検査対象が腹部の場合、周波数は1〜5MHz、波数は1〜3波、Fナンバは1〜2の条件が利用される。前述のように、第2の超音波として機能するトラックパルスは、せん断波の伝搬に伴う組織の変位を計測するために送受信するパルス波である。せん断波は伝搬に伴い急激に減衰する。そのため第2の超音波、すなわちトラックパルスの送信方向、送信角度は極めて重要な送波条件となる。このパルス波制御部20において、弾性評価を実施する座標情報と想定するせん断波速度に基づき、トラックパルスの送信方向が確定する。また、本実施例のパルス波制御部20において、トラックパルスの送信は特定の送信方向にのみ行ない、つまり計測地点をただ1つ設ける。
【0025】
図5を利用して、本実施例における第1の超音波であるプッシュパルス、第2の超音波であるトラックパルスの送信方向、送信角度の設定方法を説明する。
図5には、曲率Rの探触子11、プッシュ位置28(x
0、z
0)にて発生する放射力F、そこから方位方向に伝搬するせん断波30が模式的に示されている。また、放射力Fが作用する深度方向の幅をd(z1〜z2)、第2の超音波であるトラックパルスの送信方向と、探触子11の中心軸である深度方向、言い換えるなら放射力Fの作用方向とがなす角度をθ
n(θ
n≠0)とし、図示するように深度方向の幅dの範囲で形成される直角三角形の底辺をx
n、斜辺をd'とする。トラックパルスの送信方向29は探触子を構成する素子幅の単位で離散的に切り替わるため、添え字のnは駆動素子の中心位置、つまりトラックパルスの送信方向を示す。この図から、x
nは各度情報であるθ
nを用いて、
図6の数式1の正接として表わされる。先に説明した通り、プッシュパルス条件、トラックパルス条件は、弾性評価部17のバースト波制御部19、パルス波制御部20から超音波送受信部13に入力される。上記の送信方向の角度θ
nが零でないことは、制御部12が、第2の超音波の送信方向を、第1の超音波の送信方向と異ならせるよう制御しているということができる。
【0026】
図2のバースト波制御部19によってプッシュパルス条件が設定された第1の超音波であるプッシュパルスの放射力により発生したせん断波30は、組織を深度方向(z方向)に変位させながら、プッシュパルスの送信方向を軸にしてほぼ円筒波状に伝搬する。深さ方向の伝搬範囲は概ね放射力が作用するdとなる。したがって、超音波送受信部13からのRFデータを用いて、パルス波制御部20によってトラックパルス条件が設定されたトラックパルスの送信方向にて、変位計測部21が変位計測を実施する場合、プッシュ位置から伝搬するせん断波30は、最初に深度z
1にて計測され、続いて深度z
2にて計測される。したがって、z
1およびz
2におけるせん断波30の第1、第2の到来時間を計測すれば、その時間差Δtと距離x
nから、速度計測部22はせん断波速度V
sを算出できる。
【0027】
すなわち、制御部12は、第1の到達時間と第2の到達時間が計測される、被検体内の深度を異ならせるよう制御する。また制御部12は、第1の到達時間を計測する被検体内の深度に比較し、第2の到達時間を計測する被検体内の深度を深くするよう制御しているということができる。
【0028】
超音波送受信部13によるトラックパルスを形成するパルス群の送受信は、一定の繰返し時間(Pulse reputation time : PRT)で行なわれる。したがって、このPRTが変位計測における時間分解能となる。このことから、時間差Δtを計測する上では、
図6の数式2の条件を満たす必要があり、この式は同時にx
nが満たすべき条件を示している。ここでVsは組織のせん断波速度であるから、計測の際には予め対象とする速度範囲を想定する必要がある。例えば肝臓組織の線維化を評価する場合、Vsの範囲は1〜5m/s程度になる。乳癌の場合には更に速度は高く、想定する最大速度は10m/sとなる。
【0029】
図6の数式1、および数式2から、トラックパルスの送信方向、送信角度θ
nは、
図6の数式3の条件を満たす形で設定される。せん断波は、伝搬する過程で減衰や散乱の影響を受けることから、この影響を最小限にするために数式3を満たす最小値が設定される。例えば、深度5cmの位置にて肝硬変(V
s=4m/s)を想定し、Fナンバ1のプッシュパルス(d=10mm)、PRT=0.25msのトラックパルスで計測する場合、トラックパルスの送信方向はθ
n =0.1radとなる。パルス波制御部20が設定する以上のトラックパルスの条件に基づき、
図1の超音波送受信部13から探触子11を介して所定の方向θ
n(θ
n≠0)に、一連のパルス群からなるトラックパルスが送信される(工程5)。
【0030】
図7に、本実施例の装置における弾性評価部17のバースト波制御部19、パルス波制御部20が設定した、第1の超音波であるプッシュパルスと、第2の超音波であるトラックパルスの送信シーケンスの一例を示す。トリガ信号31は、工程1にて評価位置の座標が入力されると、直ちに制御部12の制御ユニット9からデータ処理部14に送られる電気信号である。このトリガ信号31の入力と同時に、弾性評価部17のバースト波制御部19、パルス波制御部20において、第1の超音波のプッシュパルス条件、第2の超音波のトラックパルス条件が決定され、これらの条件に基づき超音波送受信部13から、第1の超音波であるバースト長Tのプッシュパルス32が送信され、続いて第2の超音波であるトラックパルス33を構成する一連のパルス群が所定のPRTで送受信される。トラックパルス33はトリガ信号31の入力と同時に、つまりプッシュパルス32と同時に送受信を開始してもよい。この場合、プッシュパルス32の照射中は雑音が受信されるため変位計測は困難であるが、照射の前後のRFデータを確実に取得できる利点がある。
【0031】
図7に示したように、トリガ信号31入力、第1の超音波である、1回のプッシュパルス32送信、第2の超音波である、複数個のパルス群からなるトラックパルス33の送受信の一連のシーケンスにより、
図2の変位計測部21で変位情報を得、速度計測部22において、この変位情報からせん断波速度の計測結果が算出される。そして、この
図7に示したトリガ信号31、プッシュパルス32、及びトラックパルス33からなる一連のシーケンスを複数回繰り返すことで、複数の計測結果が得られ、それら複数の計測結果の標準偏差などの統計値を算出し、計測精度を示すひとつの情報として表示部15に表示することも可能である。この精度は、
図11の説明の際に例示する。
【0032】
トラックパルス33の送信により取得される生体からの反射信号は、探触子11を介して超音波送受信部13に送られ、上述した通り複素のRFデータが生成される。
図2に示すように、RFデータはデータ処理部14の変位計測部21に入力され、
図4の工程6として、せん断波の伝搬に伴う組織変位が計測され、変位情報を得る。変位計測部21の変位計測機能は、PRTの時間間隔で取得したRFデータ間による複素相関演算により実施される。この場合、単位時間における変位として粒子速度が算出される。プッシュパルスの送波前のRFデータを基準に、変位の絶対値を算出する方式もあるが、粒子速度は、探触子の振れや生体組織の自然な動きに伴う低周波成分を除去し、せん断波を高感度に計測する効果がある。そこで本実施例においては、変位計測部21においては粒子速度を用いて変位情報を得る。また、本実施例の変位計測部21においては、変位計測を実施する空間的な範囲は、バースト波制御部19において定められるプッシュパルスの送波条件に基づいて確定し、また、時間的な範囲は、パルス波制御20において定められるトラックパルスの送波条件に基づき、確定する。
【0033】
演算は取得した全てのRFデータに対して行なわれ、算出された変位情報に基づいて、工程7として速度計測部22にてせん断波の速度が計測され、速度情報が決定される。そして、工程8において、速度計測部22にて決定された速度情報に基づき弾性評価結果として弾性情報が得られる。
【0034】
図8に、本実施例において、変位計測部21で得られる変位データ、変位情報の一例を示す。すなわち、トラックパルスの送信方向における変位計測の結果として、変位情報である、正側の変位34、負側の変位35の一例を示す。同図において、縦軸は深度方向の距離、横軸は時間である。ここで、時間的に先行して現れる正側の変位34に着目すると、
図5に示す直角三角形の上端(座標:z
1、到来時間:t
1)から下端(座標:z
2、到来時間:t
2)に掛けて到来時間が遅れている様子が判る。本実施例における変位計測はトラックパルスの送信方向に沿って実施されるため、
図8のグラフ縦軸においてz
1-z
2の距離はdとなる。上端および下端の座標(z
1,z
2)は、プッシュ位置と伝搬範囲dから、z
1=z
0-d/2, z
2=z
0+d/2となる。本実施例においては、z
1およびz
2におけるせん断波の到来時間を算出する方法は、変位の最大値または最小値を利用する方法である。
【0035】
図9に、
図8の深度z
1とz
2における変位データの1次元プロファイルである変位計測結果36、37を示す。正の変位34に注目して各変位プロファイルの最大値を取る時間を計測することで、各深度におけるせん断波の到来時間(t
1,t
2)が算出される。この到来時間(t
1,t
2)を算出する際に利用する変位プロファイルの特徴量としては、他にも最小値、最大値と最小値の中間値など、変位プロファイルから一意に決定される指標であれば、特に限定されない。計測した到来時間(t
1,t
2)と方位方向の距離(x
n)からせん断波速度Vsが、
図6の式4に基づき算出される。
【0036】
図10に、変位データ、変位情報から到来時間(t
1,t
2)を算出する別の方法を示す。到来時間(t
1,t
2)を算出する別の方法として、計測に利用する範囲(z
1 〜z
2)に複数の計測点を設けて例えば最大値を利用して各計測点における到来時間を算出する。算出した複数の距離と到来時間の組み合わせを利用して、
図10に示すように1次元の近似直線を算出する。この近似直線とz=z
1およびz=z
2の交点から到来時間(t
1,t
2)を算出することができる。
【0037】
先に述べた様に、本実施例においては、
図4の最後の工程8において、組織の弾性情報が評価される。ここでは、組織の弾性情報は、歪、せん断波速度、縦波速度、ヤング率、剛性率、体積弾性率、ポアソン比、粘性率など、物質の変形や流動に関する物性値全般を指している。実施例1では組織の弾性情報として、せん断波速度に関して詳細を述べたが、計測した変位から歪に換算してもよく、またせん断波を周波数解析することにより粘性等の情報を得ることも可能である。
【0038】
図11に本実施例の表示部15における表示形態の一例を示す。この表示部15は、画像データ、あるいはせん断波の伝搬速度を表示したり、また後で説明する、変位情報である変位データと重心等を表示するために用いられる。すなわち、評価した弾性情報は表示部15に送られ、評価結果として、
図3で説明した画像データ26、
図8に示した変位情報と共に術者に提示される。
図11に見るように、被検体と弾性情報の評価位置を示す画像データ26と共に、
図8で説明した変位情報を示す変位計測結果40、精度(±7%)を含むせん断波速度やヤング率などの弾性情報の評価結果39が表示される。この精度は、先に説明した通り、同一箇所、同一角度で
図7のシーケンスを繰り返すことにより複数回計測した結果の標準偏差などの統計値であり、一般的に利用される評価方法で算出される。弾性情報の評価結果39中のヤング率は、上述の通り、E = 3ρVs
2(E:ヤング率,ρ:密度,Vs:せん断波速度)により、せん断波速度から導出される弾性情報である。
【0039】
以上説明した実施例1においては、使用する探触子をコンベックス型に限定して説明を記載したが、本実施例の本質はせん断波の伝搬方向とトラックパルスの送受信方向に、角度情報に従い所定の角度を設けることにあり、使用する探触子の種類を特に限定しない。例えばリニア型の探触子であっても、トラックパルスの送受信方向を、角度情報に従い所定の角度方向に電子的に制御して変更することで、同じ装置構成と同じ処理工程にて弾性評価が可能である。
【0040】
以上説明した実施例1の装置、あるいは方法により、せん断波の速度計測に必要な波面の伝搬距離を短くし、波面乱れの影響の低減が期待できる。また、計測位置を単一化することによる時間分解能の向上が期待できる。更に、計測精度と再現性を両立したせん断波速度の計測方法が確立し、高い診断能を持つ超音波診断装置が実現可能となる。
【実施例2】
【0041】
続いて、第2の実施例の超音波診断装置、及び弾性評価方法について説明する。本実施例は、被検体に超音波を送受信する探触子11と、探触子11を介して、第1の超音波を被検体に送信して被検体内でせん断波を発生させると共に、第2の超音波を被検体に送受信させる制御部12とを備え、制御部12は、第2の超音波に基づいて、被検体内を分割した複数の分割領域において、第2の超音波によって得られる変位データそれぞれについて、計測位置と到来時間に基づき、複数の分割領域を示す特徴点41、42を算出し、算出した複数の分割領域を示す特徴点を用いて、発生したせん断波の第1の到達時間と第2の到達時間とを計測し、第1の到達時間と第2の到達時間の時間差に基づいて、せん断波の伝搬速度を計測する速度計測部22を備える構成の超音波診断装置の実施例である。
【0042】
また、本実施例は、探触子から第1の超音波を被検体に送信して、被検体内の複数の分割領域でせん断波を発生させると共に、第2の超音波を被検体に送受信し、第2の超音波によって得られる分割領域での変位データそれぞれについて、計測位置と到来時間に基づき、分割領域を示す特徴点を算出し、これら複数の分割領域を示す特徴点を用いて、せん断波の伝搬速度を算出して被検体の弾性評価を行う方法の実施例である。
【0043】
本実施例の特徴は、伝搬に伴うせん断波の波面の散乱等の影響をより軽減することを可能とする点にある。すなわち、領域を示す特徴点、せん断波の波面を捉える特徴量として、重心等を利用することにより波面の散乱等の影響を軽減する実施例である。本実施例において、被検体の検査対象を複数の領域に分割し、各領域において第2の超音波であるトラックパルスによって得られる変位データを用いて分割領域を示す特徴点として算出し、複数の分割領域を示す特徴点間における到来時間の差に基づき、せん断波の伝搬速度を算出して弾性評価を行う。
【0044】
なお、本実施例においては、
図1に示した探触子および超音波診断装置で構成される装置の全体構成、
図2に示す各機能構成と情報の流れ、
図4の工程1から工程6に示した、第1の超音波であるプッシュパルスの送信から変位計測に至る処理内容は、実施例1と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0045】
図12に、実施例2において利用する変位データ、変位情報の一例を示した。すなわち、分割領域を示す特徴点、言い換えるなら波面を捉える特徴量として、分割された各領域の重心を算出し、これら重心を利用し、到来時間を計測する例を模式的に示した。本実施例の速度計測においては、
図12に示す変位の計測結果である変位データから、正側または負側のみを抽出し、この2次元波面を剛体として捉える。すなわち、変位を重量に置き換えて波面の重心に着目することにより、例え波面が乱れた場合においても安定して到来時間を計測でき、伝搬に伴うせん断波の波面の散乱等の影響を軽減することを可能とする。以下、
図12中の正側の変位を抽出した場合について説明する。
【0046】
図13に本実施例の処理工程の一例を示す。まず工程21にて被検体の検査対象を、領域分割する。分割領域の数は特に限定しないが、例えば
図12に示すように計測位置を中心(z=z
0)に上下に2分割する方法が最も簡易な領域分割である。続いて工程22では、計測に利用する全範囲(z
1〜z
2)において、深度毎の変位最大値と到来時間を算出する。次に、工程22にて計測した最大変位と到来時間を利用して、分割した上部波面と下部波面それぞれの領域を示す特徴点である重心41、42を算出する(工程23)。領域を示す特徴点の一例である重心41、42の計算は
図6の数式5で行なう。数式5において、(d、u
d、t
d)は深度、最大変位、到来時間を示す。
【0047】
図14には、波面を剛体として捉え、この波面を捉える特徴量、すなわち領域を示す特徴点として重心を計算する場合の模式図を示す。深度d
1からd
nまでn点の各深度にて最大変位44(u
d)と到来時間t
dを計測する。この計測結果を
図6の数式5に代入することで、重心位置が求まる。各領域における重心41、42を求めた後、
図12に示すように各重心41、42を結ぶ近似直線43が最小二乗法等の一般的に知られるフィッティング方式により算出され(工程24)、この近似直線43と(z
1、z
2)との交点から到来時間(t
1、t
2)が算出される(工程25)。
【0048】
領域を示す特徴点として重心を利用する本実施例によれば、せん断波の伝搬過程で生じる散乱等の影響により波面が乱れる場合、または局所的に変位が消失する場合であっても、波面全体を包括的に捉えた到来時間の算出が可能であり、計測精度が向上する。
【0049】
また、本実施例の弾性評価方法では、到来時間の算出において変位の大きさを考慮しており、信頼性が高い高感度な変位計測結果に重み付けをした算出結果である。したがって、領域を2分割でなく3つ以上に領域分割し、算出した3つ以上の重心のうち、例えば値が大きい上位数点の結果のみを利用してフィッティング処理を実施することで、より高い精度での計測が実現する。
以上の処理により、分割領域の重心を用いて到来時間が算出された後は、実施例1と同様にせん断波速度の算出がなされ、弾性評価により求めた弾性に関する情報が表示部15に送られ、術者に提示される。
【0050】
図15に本実施例における表示形態の一例を示す。表示部15の表示画面は、組織形状や計測位置を示す画像データ26、
図12に示したせん断波の変位データと重心などの変位計測結果45、せん断波速度等の数値を示す評価結果46から構成される。解析方法は本画面上で修正でき、例えば重心を算出する分割領域等は装置に供えられている、
図2に示したキーボード等の外部入力部18で数値を入力することにより実行され、即座にせん断波計測結果および評価結果に反映することができる。また、実施例1同様、
図7に示す送波シーケンスを複数回繰り返すことにより、同一計測位置において複数回の計測が実行された場合、実施例1同様、結果の精度である標準偏差(±7%)などの統計値が評価結果に表示される。また、フィッティング処理の際に、サンプル点と近似直線との誤差を算出することで、波面の乱れの程度を定量的に評価できるため、計測の信頼度を示す指標を設けて、数値表示することも高精度な計測を実施する上で効果的である。信頼度を示す指標としては、フィッティングに利用した重心の値も効果的である。
【0051】
図16は、本実施例の方式、構成により重心を利用することの効果を説明するための図である。同図は
図12と同様に、深度方向の距離と各深度における変位の時間変化を図式化したものである。第2の超音波であるトラックパルスの経路に対して平行にせん断波が到来する場合、全ての深度で到来時間は同じになる。しかしながら、
図16の上部に示すように、散乱による波面の乱れが発生すると、深度毎の到来時間の計測結果に誤差が発生するだけでなく、深度によっては波面が消失し、到来時間が計測されない。これに対し、
図16の下部に示すように、波面を破線47で示すように一つの領域として包括的に捉える本実施例の場合、波面の乱れの影響を軽減した計測が実現する。例え波面が消失する深度が発生した場合でも、その変位(剛体での質量)は周囲に比べて充分低い値であり、本実施例で利用する領域を示す特徴点である重心の位置に与える影響は軽微である。
【0052】
図15の評価結果46中に示した信頼度に関しては、例えば、ゲルファントム等を利用して、予め送波条件と媒質の硬さに対応する変位や重心の値を参照値として計測し、装置本体の制御部12内のメモリ等に記憶させておけば、この数値と計測結果の比率により、計測結果が理想条件から如何に離れているかを評価することが可能となる。
【0053】
以上説明した実施例2においても、使用する探触子をコンベックス型に限定して説明を記載したが、本実施例の本質は波面を剛体的に捉え、その重心位置を波面計測の特徴量として計測することにある。したがって、使用する探触子は特に限定されない。例えばリニア型の探触子であっても、トラックパルスの送受信方向を所定の角度方向に電子的に制御して変更することで、同じ装置構成と同じ処理工程にて弾性評価が可能である。
【0054】
また、せん断波の伝搬方向に複数の変位計測位置を設定する場合でも、本実施例の重心を利用する方式は適用できる。計測位置を複数設ける場合、変位計測の結果も計測位置の数だけ得られる。各結果に対して重心を波面を捉える特徴量、領域をしめす特徴点として算出することで、各計測位置における波面の到来時間が算出され、せん断波速度の計測が実施される。
【0055】
以上説明した実施例2では、波面を捉える特徴量、あるいは領域を示す特徴点として重心を利用する場合を説明したが、例えば、波面の最小値、最大値、中間値、平均値、2階微分処理による変曲点等、波面の位置を一意に決める特徴量であれば、上述の実施例で説明した波面を捉える特徴量、領域を示す特徴点としての処理が可能である。本実施例によれば、伝搬に伴うせん断波の波面の散乱等の影響をより軽減することを可能とする超音波診断装置、及び弾性評価方法を提供することが可能となる。
【0056】
以上詳述した本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。更に、上述した各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成し、各機能をプログラムの実行により実現する例を説明したが、それらの一部又は全部を例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いことは言うまでもない。