【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のハードディスク装置は、磁束による書込みを行っているため、情報書込み時の、書込みヘッドのコイルの抵抗等による消費電力が非常に大きい。
また、書込みには、コイルに流れる電流を高速に制御しなくてはならない。高密度記録を行おうとすると、コイルコアの磁化の向きを超高速に変更する必要があるが、反転には自ずと限界がある。
コイルから発生する最大磁束密度は、コイルコアの材質の飽和磁束密度で決まる。このため、もっとも大きな磁束密度を発生させるFe−Coを使用しても、最大磁束密度は、2.4T(テスラ)程度である。よって、通常のコイルを使用した場合には、超高密度記録に対応し得る、保磁力が極めて高い磁気記録膜を、NまたはSの極性で磁化することができない(書込みを行うことができない)。
また、従来のハードディスク装置の書込みヘッドは、微細なコイルやコイルコア等を含む複雑な構造をしているし、これが製造コストが高くなる原因となっている。また、磁気記録媒体は大量の貴金属元素を含むため、これも製造コストが高くなる原因となっている。
なお、現行の磁気記録媒体は厚い多層構造であるため、製造装置の規模が巨大化しているといった問題もある。
また、従来のハードディスク装置の磁気記録媒体に使用される貴金属元素の安定供給が、現状では保証されていない。
したがって、従来のハードディスク装置では、抜本的な低消費電力化、書込みの超高速化、記録情報の超高密度化、低価格化を図ることが容易ではない。また、従来のハードディスク装置では、磁気記録媒体の製造装置の巨大化は避けられないし、磁気記録媒体の安定供給を図ることにも限界がある。
【0005】
なお、特許文献1に記載の発明では、複数層からなる磁気記録材料層の一層にマルチフェロイック材料を使用し、データの書込み時に電界を、磁気記録材料に与える。これにより、当該磁気記録材料内の面外磁気異方性を低下させ、磁束を与えた際に容易に磁化反転させることができるため、磁気データ記憶装置の容量を増加させることができる。
特許文献1に記載の発明では、本発明と同様、マルチフェロイック材料を使用しているが、特許文献1に記載の発明は、データの書込みを磁気コイルで行うので、本発明とは直接の関係が無い。
【0006】
本発明の目的は、書込み素子により、基盤との間に電束を生成し、当該電束により、書込み動作ごとに前記基盤に形成した強磁性強誘電性物質層を特定の方向に磁化する電界書込み型磁気記録装置を提供することである。
本発明の他の目的は、磁気記録装置の、抜本的な低消費電力化、書込みの超高速化、記録情報の超高密度化、低価格化を図ること、および、磁気記録媒体の製造装置の巨大化を抑制し、磁気記録媒体の安定供給を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電界書込み型磁気記録装置は、以下を要旨とする。
〔1〕
強磁性強誘電性物質層を少なくとも1層含む磁気記録膜が基盤の表面に形成されている回転ディスクと、
前記基盤に対して電位を持つことで前記基盤との間に電束を生成する書込み電極を持ち電界により(磁界によらずに)情報の書込みを前記磁気記録膜に対して行う書込み素子と、
前記情報の書込み動作ごとに、前記書込み電極に複数の電位レベルのうちの1つの電位を選択して与える書込み回路と、
を備え、
前記書込み回路が前記書込み電極に与えた電位に応じて生成された前記電束により、前記強磁性強誘電性物質層を特定の方向に磁化する、
ことを特徴とする電界書込み型磁気記録装置。
【0008】
書込み回路は、2つの電位レベルのうちから1つの電位を選択して書込み電極に与えるように構成できる。この場合、〔6〕に明示するように、書込み回路は、書込み動作ごとに、2つの電位レベル(書込み電位レベル)、V
1,V
2を書込み電極に与えることができる。典型的には、V
2>0>V
1であるが、V
2>V
1>0または0>V
2>V
1であってもよい。
また、書込み回路は、3つ以上の電位レベルのうちから1つの電位を選択して書込み電極に与えることができる。たとえば、書込み回路は、4つの電位レベル(書込み電位レベル)、V
+2,V
+1,V
-1,V
-2(V
+2>V
+1>0>V
-1>V
-2)を書込み電極に与えることができる。電位レベルがV
+2のときはプラス方向(+方向)に大きな磁化M
M+で磁化し、電位レベルがV
+1のときはプラス方向(+方向)に小さな磁化M
m+で磁化する。また、電位レベルがV
-1のときはマイナス方向(−方向)に小さな磁化M
m-で磁化し、電位レベルがV
-2のときはマイナス方向(−方向)に大きな磁化M
M-で磁化することで、情報の書込みを行う。
なお、この例では、電位を生成する電界の向きと磁化の向きが平行(同方向)の場合を説明したが、電位を生成する電界の向きと磁化の向きが反平行(逆方向)となる場合もある。
強磁性強誘電性物質層は、いわゆるマルチフェロイック層である。強磁性強誘電性物質層が電束により磁化される「特定の方向」とは、典型的には、基盤の表面に垂直な二方向の何れかであるが、当該表面に平行な方向または傾斜した方向であってもよい。すなわち、磁化が基盤の表面に平行であることもあるし、平行な成分を持つこともある。本発明の電界書込み型磁気記録装置は、〔9〕において説明するように、磁気記録膜の磁化を読み取る読取り素子を備えることができ、この読取り素子が磁気記録膜の「特定の方向」の磁化を読み取ることができる。
強磁性強誘電性物質層としては、電界をかけることにより磁化が変化する、強磁性強誘電性の物質であれば、どのような物質を用いてもよい。
たとえば、強磁性強誘電性物質層として、単一の層で、電界により磁化が変化する強磁性強誘電性物質を用いることもできるし、強磁性材料の層と強誘電性の層との積層体を用いることもできる。ただし、強磁性材料の層と強誘電性の層との積層体を強磁性強誘電性物質層として用いる場合には、記録速度が著しく低下することがある。このようなことから、単一の層で、電界により磁化が変化する強磁性強誘電性の物質が好ましく使用される。
強磁性強誘電性物質層の構成材料として、たとえば、下記の一般式(1)で示される強磁性強誘電性物質を用いることができる。
(A
xB
1-x)
l(M
yN
1-y)
mO
n ・・・(1)
(1)式中、A及びBは、それぞれ、Bi,La,Tb,Pb,Y,Cr,Co,Ba,Lu,YbまたはEuのいずれかの元素を表す。
MおよびNは、それぞれ、Fe,Mn,Ni,Ti,Cr,CoまたはVのいずれかの元素を表す。
xは0〜1の実数を表し、yは0〜1の実数を表す。
l(アルファベットのエル)は1〜3の整数を表し、mは1〜3の整数を表し、nは3〜6の整数を表す。
具体的には、電界により磁化が変化する既知の強磁性強誘電性材料として、BiMnO
3,TbMnO
3,TbMn
2O
5,YMnO
3,EuTiO
3,CoCr
2O
4,Cr
2O
3,BiMn
0.5Ni
0.5O
3,BiFe
0.5Cr
0.5O
3,La
0.1Bi
0.9MnO
3,La
1-xBi
xNi
0.5Mn
0.5O
3,Bi
1-xBa
xFeO
3等を用いることができる。
【0009】
〔2〕
前記基盤を構成する基体が導電体からなること、
または、
前記基盤を構成する基体が絶縁体または半導体からなり前記基体の前記磁気記録膜との間に導電層が形成されていること、
を特徴とする〔1〕に記載の電界書込み型磁気記録装置。
【0010】
前記基体として使用される導電体は、たとえばアルミニウム等の金属である。
また、前記基体として使用される絶縁体は、たとえばガラスであり、前記基体として使用される半導体は、たとえばシリコンである。
【0011】
〔3〕
前記磁気記録膜は、前記電束の拡散を抑制するための導電性の電束拡散抑制層を少なくとも1層含むことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の電界書込み型磁気記録装置。
【0012】
回転ディスクの表面には、通常、保護膜(たとえば、ダイヤモンドライクカーボンからなる)が形成されており、磁気記録膜は前記保護膜により保護される。
ただし、本発明では、保護膜が前記電束拡散抑制層としての機能を奏することは妨げない。
【0013】
〔4〕
前記磁気記録膜は、導電性または絶縁性の強磁性層を少なくとも1層含むことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の電界書込み型磁気記録装置。
【0014】
強磁性層は、強磁性強誘電性物質層からの磁化情報の読取りに際しての補助として使用されるし、強磁性強誘電性物質層に記録した磁気情報が消失することを防止することができる。
強磁性層が、導電性であるときは、当該強磁性層は電束拡散抑制層としても機能することもできる。逆に、電束拡散抑制層が強磁性層からなるときは、当該電束拡散抑制層は強磁性層としても機能する(強磁性強誘電性物質層からの磁化情報の読取りに際しての補助として使用され、強磁性強誘電性物質層に記録した磁気情報が消失することを防止する)ことができる。
【0015】
〔5〕
前記強磁性強誘電性物質層が1層であり、前記電束の拡散を抑制するための導電性の電束拡散抑制層と、導電性または絶縁性の強磁性層とをそれぞれ少なくとも1層含むこと、
または、
前記強磁性強誘電性物質層を複数層含むとともに、
前記電束の拡散を抑制するための導電性の電束拡散抑制層および導電性または絶縁性の強磁性層をそれぞれ少なくとも1層含むこと、
を特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の電界書込み型磁気記録装置。
【0016】
〔6〕
前記書込み回路は、前記書込み動作ごとに、正負の2つの電位レベルのうち何れかの電位を前記書込み素子に与える、
ことを特徴とする〔1〕から〔5〕の何れか1項に記載の電界書込み型磁気記録装置。
【0017】
〔7〕
前記書込み素子は、複数の書込み電極を備え、
前記書込み回路は、前記書込み動作ごとに、前記複数の書込み電極のそれぞれに、複数の電位レベルのうちの1つの電位を前記書込み素子に与える、
ことを特徴とする〔1〕から〔5〕の何れかに記載の電界書込み型磁気記録装置。
【0018】
〔8〕
前記書込み素子が、前記回転ディスクの表面上を前記回転ディスクの径方向に移動できるように構成されていることを特徴とする〔1〕から〔5〕の何れか1項に記載の電界書込み型磁気記録装置。
【0019】
〔9〕
さらに、前記磁気記録膜の磁化状態を読み取る読取り素子を備えたことを特徴とする〔1〕から〔8〕の何れかに記載の電界書込み型磁気記録装置。
【0020】
「磁気記録膜の磁化状態」は、典型的には、「磁気記録膜の磁化方向」または/および「磁気記録膜の磁化の大きさ」である。
読取り素子は、磁気記録膜に保持された磁化状態を情報として読み取ることができる。