特許第5771826号(P5771826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5771826シクロホスファゼン化合物、及びこれを用いた潤滑剤ならびに磁気ディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771826
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】シクロホスファゼン化合物、及びこれを用いた潤滑剤ならびに磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6593 20060101AFI20150813BHJP
   C08G 65/335 20060101ALI20150813BHJP
   C10M 105/74 20060101ALI20150813BHJP
   G11B 5/725 20060101ALI20150813BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20150813BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20150813BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20150813BHJP
【FI】
   C07F9/6593CSP
   C08G65/335
   C10M105/74
   G11B5/725
   C10N20:04
   C10N30:00 Z
   C10N40:18
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-512931(P2012-512931)
(86)(22)【出願日】2011年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2011060493
(87)【国際公開番号】WO2011136379
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2013年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-101122(P2010-101122)
(32)【優先日】2010年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100081536
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 巌
(72)【発明者】
【氏名】清水 豪
(72)【発明者】
【氏名】小林 永芳
【審査官】 爾見 武志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−509677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/6593
C08G 65/335
C10M 105/74
G11B 5/725
C10N 20/04
C10N 30/00
C10N 40/18
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるシクロホスファゼン化合物
式中nは2、3または4であり、RはC1〜4のフルオロアルキル基である。Rfは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−又は−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−である。x、y、zはそれぞれ、上記Rfを含むHOCH−Rf−CHOHで示されるフルオロポリエーテルの数平均分子量が500〜4000となる0または正の実数であり、該フルオロポリエーテルの分子量分布(PD)は1.0〜1.5である。
【請求項2】
nが3または4であり、x、y、zはそれぞれ、上記数平均分子量が1000〜3000となる0または正の実数である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
nが3であり、x、y、zはそれぞれ、上記数平均分子量が1800〜2200となる0または正の実数である請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
式(I)で表される化合物を含有する潤滑剤
式中nは2、3または4であり、RはC1〜4のフルオロアルキル基である。Rfは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−又は−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−である。x、y、zはそれぞれ、上記Rfを含むHOCH−Rf−CHOHで示されるフルオロポリエーテルの数平均分子量が500〜4000となる0または正の実数であり、該フルオロポリエーテルの分子量分布(PD)は1.0〜1.5である。
【請求項5】
nが3または4であり、x、y、zはそれぞれ、上記数平均分子量が1000〜3000となる0または正の実数である請求項4に記載の潤滑剤。
【請求項6】
nが3であり、x、y、zはそれぞれ、上記数平均分子量が1800〜2200となる0または正の実数である請求項4に記載の潤滑剤。
【請求項7】
支持体上に少なくとも記録層、保護層を形成し、その表面に潤滑層を有する磁気ディスクにおいて、該潤滑層が下記式(I)で表される化合物を含有する磁気ディスク
式中nは2、3または4であり、RはC1〜4のフルオロアルキル基である。Rfは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−又は−CFCFO(CFCFCFO)zCFCF−である。x、y、zはそれぞれ、上記Rfを含むHOCH−Rf−CHOHで示されるフルオロポリエーテルの数平均分子量が500〜4000となる0または正の実数であり、該フルオロポリエーテルの分子量分布(PD)は1.0〜1.5である。
【請求項8】
nが3または4であり、x、y、zはそれぞれ、上記数平均分子量が1000〜3000となる0または正の実数である請求項7に記載の磁気ディスク。
【請求項9】
nが3であり、x、y、zはそれぞれ、上記数平均分子量が1800〜2200となる0または正の実数である請求項7に記載の磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子中にシクロホスファゼン基と水酸基を有するシクロホスファゼン化合物、及びこれを用いた潤滑剤、ならびにこれを用いた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクの記録密度の増大に伴い、記録媒体である磁気ディスクと情報の記録・再生を行うヘッドとの距離は殆ど接触するまで狭くなっている。磁気ディスク表面にはヘッドとの接触・摺動の際の摩耗抑制や、ディスク表面の汚染防止等の目的で、炭素保護膜や潤滑剤被膜が設けられている。
炭素保護膜は、一般にスパッタ法やCVD法で製膜される。ディスクの表面保護は、炭素保護膜と、この上層に位置する潤滑剤被膜の両者で担うことになるため、炭素保護膜と潤滑剤との相互作用が重要である。
潤滑剤としては一般に官能基を有するフルオロポリエーテルが用いられている。官能基としては、水酸基やアミノ基、さらにはシクロホスファゼン基などがある。具体的には、下記式(II)において、n=3であり、Rfは、−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−で示される松村石油研究所製のPHOS FAROL A20H−TSなどがある(特許文献1)。
とくにホスファゼン基を有する潤滑剤は耐分解性に優れた材料であり、磁気ディスクの耐久性を向上させる材料として知られている(例えば特許文献2,3)。しかし特許文献2の潤滑剤はその請求項1の化合物において、nは1から5の整数とあるが、当該特許の製造方法では混合物しか得られず、潤滑性能は不十分である。また特許文献3の潤滑剤はシクロホスファゼン環におけるフルオロポリエーテル主鎖の置換数が1であるもので、後記の表1のとおりボンド率が悪い。
【特許文献1】WO2010/027096
【特許文献2】特開2000−260017
【特許文献3】特開2004−352999
【0003】
発明の概要
ディスクとヘッドとの距離が殆ど接触する条件において、耐分解性に優れるホスファゼン基を有する潤滑剤を利用する場合には、ヘッドへの移着を防止することが課題となる。これまで、この課題を解決する手段として、シクロホスファゼン基に複数のパーフルオロポリーテルを導入し、その末端に水酸基を付与することにより、炭素保護膜との吸着性を向上させる技術が提案されてきた(特許文献1)。しかし、特許文献1の潤滑剤は、水酸基に隣接するフッ素原子の立体的影響により潤滑剤の下地層である炭素保護膜の極性部位と強固な結合を形成できず、高速回転時に飛散してしまう可能性がある。
また、潤滑性能、保護層との密着性を改善するためにフルオロポリエーテルを有するホスファゼン化合物のフルオロポリエーテルの分子量分布(PD、重量平均分子量/数平均分子量)を調節することも有効である。
本発明の課題は、優れた潤滑性能を有し、ヘッドと接触しても分解しない安定した化合物で、かつ炭素保護膜との良好な吸着性を示す化合物およびこれを用いた潤滑剤ならびに磁気ディスクを提供することにある。
発明の開示
本発明は以下の発明に係る。
1.式(I)で表されるシクロホスファゼン化合物
式中nは2、3または4であり、mは1〜12の整数であり、RはC1〜4のフルオロアルキル基である。Rfは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−又は−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−である。x、y、zはそれぞれ、上記Rfを含むHOCH−Rf−CHOHで示されるフルオロポリエーテルの数平均分子量が500〜4000となる0または正の実数であり、該フルオロポリエーテルの分子量分布(PD)は1.0〜1.5である。
2.式(I)で表される化合物を含有する潤滑剤。
3.支持体上に少なくとも記録層、保護層を形成し、その表面に潤滑層を有する磁気ディスクにおいて、該潤滑層が式(I)で表される化合物を含有する磁気ディスク。
本発明の分子主鎖中にシクロホスファゼン基と分子末端にアルキルアルコール基を有するパーフルオロポリエーテル化合物は、優れた吸着性と潤滑剤分解抑制という2つの課題を同時に解決する潤滑剤を提供する。
発明を実施するための形態
潤滑剤の合成方法
式(I)で表される本発明の潤滑剤は、例えば片方の末端に水酸基を有しており、かつ他方の末端にアルキルアセタール基またはアルキルエステル基またはアルキルシリル基を有する直鎖フルオロポリエーテルと、フェノキシ基の置換したハロゲン化シクロホスファゼン化合物を反応させ、次いで加水分解することにより得られる。具体的には以下の方法により合成される。
(a)片方の末端に水酸基を有しており、かつ他方の末端にアルキルアセタール基またはアルキルエステル基またはアルキルシリル基を有する直鎖フルオロポリエーテルの合成
両末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテルと、水酸基と反応してアルキルアセタール基またはアルキルエステル基またはアルキルシリル基を形成する化合物を金属ナトリウムとともに混合して、加熱攪拌する。反応温度は20〜90℃、好ましくは50〜70℃である。反応時間は、20〜200時間、好ましくは110〜130時間である。パーフルオロポリエーテルに対して、アルキルアセタール基またはアルキルエステル基またはアルキルシリル基を形成する化合物を0.5〜2.0当量、金属ナトリウムを0.5〜4.0当量使用することが好ましい。その後、例えばカラムクロマトグラフィーによる精製を行い、片方の末端に水酸基を有しており、かつ他方の末端にアルキルアセタール基またはアルキルエステル基またはアルキルシリル基を有する直鎖フルオロポリエーテルを得る。
両末端に水酸基を有するフルオロポリエーテルとしては、例えばHOCH−Rf−CHOH、Rfは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−又は−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−で示される化合物を例示できる。このフルオロポリエーテルの数平均分子量は500〜4000、好ましくは1000〜3000、より好ましくは1800〜2200である。ここで数平均分子量は日本電子製JNM−ECX400による19F−NMRによって測定された値である。NMRの測定において、試料を溶媒へは希釈せず、試料そのものを測定に使用した。ケミカルシフトの基準は、フルオロポリエーテルの骨格構造の一部である既知のピークをもって代用した。
xは1〜33の実数であり、好ましくは1〜25であり、さらに好ましくは1〜18である。yは0〜60の実数であり、好ましくは0〜43であり、さらに好ましくは0〜31である。zは1〜23の実数であり、好ましくは4〜17、より好ましくは9〜12である。
上記HOCH−Rf−CHOHで示されるフルオロポリエーテルは、分子量分布を有する化合物であり、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(PD)として、1.0〜1.5であり、好ましくは1.0〜1.4であり、より好ましくは1.0〜1.3であり、特に好ましくは1.05〜1.2である。なお、当該分子量分布は、東ソー製HPLC−8220GPCを用いて、ポリマーラボラトリー製のカラム(PLgel Mixed E)、溶離液はHCFC系代替フロン、基準物資としては、無官能のパーフルオロポリエーテルを使用して得られる特性値である。
水酸基と反応してアルキルアセタール基またはアルキルエステル基またはアルキルシリル基を形成する化合物としては、
YC2mOCHOR
(Yはハロゲン原子、mは1〜12の整数、Rは炭素数1〜10のアルキル、ピリル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアラルキル基である)で示されるエーテル化合物、
YC2mOCOR
(Yはハロゲン原子、mは1〜12の整数、Rは、炭素数1〜10のアルキル、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアラルキル基である)で示されるエステル化合物、
YC2mOSi(R)(R)(R
(Yはハロゲン原子、mは1〜12の整数、R、R、Rは、同一又は異なって炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアラルキル基である)で示されるシラン化合物などを挙げることができる。
炭素数1〜10のアルキルとしては、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル基等を挙げることができる。
炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、イソプロピルフェニル基等を挙げることができる。
炭素数6〜10のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、トリルメチル基、イソプロピルフェニルエチル基等を挙げることができる。
具体的には例えば、2−クロロエチルメトキシメチルエーテル、2−ブロモエチルメトキシメチルエーテル、2−クロロエチルエトキシメチルエーテル、2−ブロモエチルエトキシメチルエーテル、2−(2−クロロエトキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、2−(2−ブロモエトキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、2−クロロエチルベンジルオキシメチルエーテル、2−ブロモエチルベンジルオキシメチルエーテル、酢酸2−クロロエチル、酢酸2−ブロモエチル、安息香酸2−クロロエチル、安息香酸2−ブロモエチル、2−クロロエチルトリメチルシリルエーテル、2−ブロモエチルトリメチルシリルエーテル、2−クロロエチルトリイソプロピルシリルエーテル、2−ブロモエチルトリイソプロピルシリルエーテル、2−クロロエチルt−ブチルジメチルシリルエーテル、2−ブロモエチルt−ブチルジメチルシリルエーテル、4−クロロブチルメトキシメチルエーテル、4−ブロモブチルメトキシメチルエーテル、4−クロロブチルエトキシメチルエーテル、4−ブロモブチルエトキシメチルエーテル、2−(4−クロロブトキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、2−(4−ブロモブトキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、4−クロロブチルベンジルオキシメチルエーテル、4−ブロモブチルベンジルオキシメチルエーテル、酢酸4−クロロブチル、酢酸4−ブロモブチル、安息香酸4−クロロブチル、安息香酸4−ブロモブチル、4−クロロブチルトリメチルシリルエーテル、4−ブロモブチルトリメチルシリルエーテル、4−クロロブチルトリイソプロピルシリルエーテル、4−ブロモブチルトリイソプロピルシリルエーテル、4−クロロブチルt−ブチルジメチルシリルエーテル、4−ブロモブチルt−ブチルジメチルシリルエーテル、6−クロロヘキシルメトキシメチルエーテル、6−ブロモヘキシルメトキシメチルエーテル、6−クロロヘキシルエトキシメチルエーテル、6−ブロモヘキシルエトキシメチルエーテル、2−(6−クロロヘキシルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、2−(6−ブロモヘキシルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、6−クロロヘキシルベンジルオキシメチルエーテル、6−ブロモヘキシルベンジルオキシメチルエーテル、酢酸6−クロロヘキシル、酢酸6−ブロモヘキシル、安息香酸6−クロロヘキシル、安息香酸6−ブロモヘキシル、6−クロロヘキシルトリメチルシリルエーテル、6−ブロモヘキシルトリメチルシリルエーテル、6−クロロヘキシルトリイソプロピルシリルエーテル、6−ブロモヘキシルトリイソプロピルシリルエーテル、6−クロロヘキシルt−ブチルジメチルシリルエーテル、6−ブロモヘキシルt−ブチルジメチルシリルエーテル、8−クロロオクチルメトキシメチルエーテル、8−ブロモオクチルメトキシメチルエーテル、8−クロロオクチルエトキシメチルエーテル、8−ブロモオクチルエトキシメチルエーテル、2−(8−クロロオクチルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、2−(8−ブロモオクチルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、8−クロロオクチルベンジルオキシメチルエーテル、8−ブロモオクチルベンジルオキシメチルエーテル、酢酸8−クロロオクチル、酢酸8−ブロモオクチル、安息香酸8−クロロオクチル、安息香酸8−ブロモオクチル、8−クロロオクチルトリメチルシリルエーテル、8−ブロモオクチルトリメチルシリルエーテル、8−クロロオクチルトリイソプロピルシリルエーテル、8−ブロモオクチルトリイソプロピルシリルエーテル、8−クロロオクチルt−ブチルジメチルシリルエーテル、8−ブロモオクチルt−ブチルジメチルシリルエーテル、12−クロロドデシルメトキシメチルエーテル、12−ブロモドデシルメトキシメチルエーテル、12−クロロドデシルエトキシメチルエーテル、12−ブロモドデシルエトキシメチルエーテル、2−(12−クロロドデシルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、2−(12−ブロモドデシルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン、12−クロロドデシルベンジルオキシメチルエーテル、12−ブロモドデシルベンジルオキシメチルエーテル、酢酸12−クロロドデシル、酢酸12−ブロモドデシル、安息香酸12−クロロドデシル、安息香酸12−ブロモドデシル、12−クロロドデシルトリメチルシリルエーテル、12−ブロモドデシルトリメチルシリルエーテル、12−クロロドデシルトリイソプロピルシリルエーテル、12−ブロモドデシルトリイソプロピルシリルエーテル、12−クロロドデシルt−ブチルジメチルシリルエーテル、12−ブロモドデシルt−ブチルジメチルシリルエーテルなどを挙げることができる。
(b)本発明の潤滑剤の合成
上記(a)で得られるフルオロポリエーテルと、(RCO)6−n−(P)−Xで表されるハロゲン原子をn個有するシクロホスファゼンを、ナトリウムなどのアルカリ金属とともに加熱攪拌する。nは2または3または4であり、それぞれシクロホスファゼン材料の純度は80%以上であり、好ましくは90%以上である。反応温度は30〜100℃、好ましくは50〜80℃である。反応時間は、20〜100時間、好ましくは50〜80時間である。ハロゲン原子に対して、上記(a)で得られるパーフルオロポリエーテルを0.5〜3.0当量、アルカリ金属を0.5〜3.0当量使用するのが好ましい。反応は溶剤中で行ってもよい。その後、例えば脱水する。さらにその後、パーフルオロポリエーテルの片方の末端に残存しているアセタール基またはエステル基またはシリル基を加水分解反応などにより脱保護(アセタール基またはエステル基またはシリル基の脱離反応)した後に、カラムクロマトグラフィー、超臨界抽出法などにより分画し、目的とする単独の化合物がフラクションとして得られる。
(RCO)6−n−(P)−Xで表されるシクロホスファゼンの置換基におけるRは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基であり、例えば、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブチル基等を例示できる。Rの置換位置については、オルト位、メタ位、パラ位のいずれでも良い。
(RCO)6−n−(P)−Xで表されるハロゲン原子をn個有するシクロホスファゼンにおいて、Xは、例えば塩素、臭素、沃素を例示できる。
本発明の潤滑剤を磁気ディスクに用いる場合には、nは2、または3、または4が好ましく、より好ましくはnは3または4であり、さらに好ましくはnは3であり、mは1〜12が好ましく、より好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4である。
本発明の化合物を磁気ディスク表面に塗布するには、化合物を溶剤に希釈して塗布する方法が好ましい。溶剤としては、例えば3M製PF−5060、PF−5080、HFE−7100,HFE−7200、HFE−7300、DuPont製Vertrel−XF等が挙げられる。希釈後の化合物の濃度は1wt%以下、好ましくは0.001〜0.1wt%である。
本発明の化合物を単独使用する以外にも、例えばSolvay Solexis製のFomblin ZdolやZtetraol、Zdol TX、AM、ダイキン工業製のDemnum、Dupont製のKrytoxなどと任意の比率で混合して使用することもできる。
本発明の化合物は、磁気ディスク装置内の磁気ディスクとヘッドの低スペーシング化を実現し、さらに摺動耐久性を向上させるための潤滑剤としての用途が挙げられる。また、本発明の化合物は、分子末端の水酸基による炭素保護膜に存在する極性部位との相互作用、加えて分子鎖中の芳香族基による炭素保護膜に存在する炭素の不飽和結合との相互作用を形成することを特徴とする。従って、磁気ディスク以外にも炭素保護膜を有する磁気ヘッドや、光磁気記録装置、磁気テープ等や、プラスチックなどの有機材料の表面保護膜、さらにはSi、SiC、SiOなどの無機材料の表面保護膜としても応用できる。
図1に本発明の磁気ディスク断面の模式図を示す。本発明の磁気ディスクは、まず支持体1上に少なくとも1層以上の記録層2、その上に保護層3、更にその上に本発明の潤滑剤を含有する潤滑層4を最外層として有する構成である。支持体としてはアルミニウム合金、ガラス等のセラミックス、ポリカーボネート等が挙げられる。
磁気ディスクの記録層である磁性層の構成材料としては鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素を中心として、これにクロム、白金、タンタル等を加えた合金、又はそれらの酸化物が挙げられる。これらはメッキ法、或いはスパッタ法等で形成される。保護層の材料はカーボン、SiC、SiO等が挙げられる。これらはスパッタ法、或いはCVD法で形成される。
現在、流通している潤滑層の厚さは30Å以下であるため、粘性が20℃で100mPa・s程度以上の潤滑剤をそのまま塗布したのでは膜厚が大きくなりすぎる恐れがある。そこで塗布の際は溶剤に溶解したものを用いる。本発明の化合物を潤滑剤として単独で使用する場合も、他の潤滑剤と混合して使用する場合も、溶剤に溶解した方が必要な膜厚に制御しやすい。但し、濃度は塗布方法・条件、混合割合等により異なる。本発明の潤滑剤の膜厚は、5〜15Åが好ましい。
下地層に対する潤滑剤の吸着を促進させるために、熱処理や紫外線処理を行うことができる。熱処理温度は、60〜150℃、好ましくは80〜150℃である。紫外線処理では、185nmと254nmの波長を主波長とする紫外線を用いるのが好ましい。
本発明の磁気ディスクは、ディスクを格納し、情報の記録・再生・消去を行うためのヘッドやディスクを回転するためのモーター等が装備されている磁気ディスクドライブとそのドライブを制御するための制御系からなる磁気ディスク装置に応用できる。磁気ディスク装置の記録方式としては、面内磁気記録、垂直磁気記録、熱アシスト磁気記録等が挙げられる。ディスクリートトラック型磁気ディスクやビットパターンド型磁気ディスクにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は本発明の磁気ディスクの構成を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0005】
1 支持体、2 記録層、3 保護層、4 潤滑層
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例および試験例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【実施例】
【0006】
実施例1
(m−CF−CO)−(P)−(O−CH−Rf−CHOCHCHOH)(潤滑剤1)の合成
Rfは−CFO(CFCFO)(CFO)CF−である。
アルゴン雰囲気下、ジトリフルオロメチルベンゼン(180g)、HO−CHCFO(CFCFO)(CFO)CFCH−OHで表わされるフルオロポリエーテル(数平均分子量1995、分子量分布1.09)90g、2−(2−ブロモエトキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン(18g)、金属ナトリウム(4g)を60℃で120時間攪拌した。その後、水洗、脱水し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、一方の末端に一つの水酸基を有し、もう一方の末端に2−(エトキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン基を有するパーフルオロポリエーテル(平均分子量2000)を30g得た。この化合物(30g)をジトリフルオロメチルベンゼン(60g)に溶解させ、金属ナトリウム(0.5g)とm−CF−(P)−Clで表される塩素原子を3個有するシクロホスファゼンを8g加えて、70℃で70時間攪拌した。その後、p−トルエンスルホン酸(20g)でアセタール基を室温で加水分解し、水洗、脱水した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的潤滑剤1を12g得た。
潤滑剤1は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.75g/cmであった。NMRを用いて行った潤滑剤1の同定結果を示す。
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−52.1ppm、−53.7ppm、−55.4ppm
〔56F,−OCO−〕,
δ=−64.1ppm
〔9F,(CO)−P−(OCHCF−)〕,
δ=−78.0ppm、−80.0ppm
〔6F,−CCHOCHCHH〕,
δ=−78.7ppm、−80.7ppm
〔6F,(CFO)−P−(OCH−)〕,
δ=−89.1ppm、−90.7ppm
〔118F,−OCO−〕
x=9.8 y=9.4
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.53〜3.82ppm
〔24H,−CFOCOH,(CFO)−P−(OCCF−)〕,
δ=4.61ppm
〔3H,−CFCHOCHCH〕,
δ=6.78〜7.35ppm
〔12H,(CFO)−P−(OCHCF−)
実施例2
(m−CF−CO)−(P)−(O−CH−Rf−CHOCHCHOH)(潤滑剤2)の合成
Rfは−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−である。
実施例1において用いたフルオロポリエーテルの代わりに、HO−CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH−OHで表わされるフルオロポリエーテル(数平均分子量1836、分子量分布1.17)を用いた以外は実施例1と同様にして、目的潤滑剤2を10g得た。
潤滑剤2は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.79g/cmであった。NMRを用いて行った潤滑剤2の同定結果を示す。
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−129.7ppmとする。)
δ=−83.7ppm
〔118F,−CCFO−〕,
δ=−86.3ppm
〔6F,(CFO)−P−(OCHCF−)〕,
δ=−86.7ppm
〔6F,−CCFCHOCHOCHCHOH〕,
δ=−124.4ppm
〔6F,−CFCHOCHOCHCHOH〕,
δ=−124.8ppm
〔6F,(CFO)−P−(OCHCF−)〕,
δ=−129.7ppm
〔59F,−CFCFO−〕,
z=9.8
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=3.72〜4.19ppm
〔24H,−CFCFOCOH,(CFO)−P−(OCCFCF−)〕,
δ=4.34ppm
〔3H,−CFCFCHOCHCH〕,
δ=6.83〜7.31ppm
〔12H,(CFO)−P−(OCHCFCF−)
実施例3
(m−CF−CO)−(P)−(O−CH−Rf−CHOCHCHCHCHOH)(潤滑剤3)の合成
Rfは−CFO(CFCFO)(CFO)CF−である。
実施例1において用いた2−(2−ブロモエトキシ)テトラヒドロ−2H−ピランの代わりに、2−(4−ブロモブトキシ)テトラヒドロ−2H−ピランを用いた以外は実施例1と同様にして、目的潤滑剤3を11g得た。
潤滑剤3は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.80g/cmであった。NMRを用いて行った潤滑剤3の同定結果を示す。
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−125.8ppmとする。)
δ=−52.1ppm、−53.7ppm、−55.4ppm
〔58F,−OCO−〕,
δ=−64.1ppm
〔9F,(CO)−P−(OCHCF−)〕,
δ=−78.0ppm、−80.0ppm
〔6F,−CCHOCHCHCHCHOH〕,
δ=−78.7ppm、−80.7ppm
〔6F,(CFO)−P−(OCH−)〕,
δ=−89.1ppm、−90.7ppm
〔113F,−OCO−〕
x=9.4 y=9.6
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=1.53〜2.07ppm
〔12H,−CFCHOCHCHOH〕
δ=3.53〜3.82ppm
〔24H,−CFOCCHCHOH,(CFO)−P−(OCCF−)〕,
δ=5.04ppm
〔3H,−CFCHOCHCHCHCH〕,
δ=6.78〜7.35ppm
〔12H,(CFO)−P−(OCHCF−)
実施例4
(m−CF−CO)−(P)−(O−CH−Rf−CHOCHCHCHCHOH)(潤滑剤4)の合成
Rfは−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−である。
実施例1において用いたフルオロポリエーテルの代わりに、HO−CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH−OHで表わされるフルオロポリエーテル(数平均分子量1836、分子量分布1.17)を用い、且つ2−(2−ブロモエトキシ)テトラヒドロ−2H−ピランの代わりに、2−(4−ブロモブトキシ)テトラヒドロ−2H−ピランを用いた以外は実施例1と同様にして、目的潤滑剤4を9g得た。
潤滑剤4は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.82g/cmであった。NMRを用いて行った潤滑剤4の同定結果を示す。
19F−NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFOを−129.7ppmとする。)
δ=−83.7ppm
〔114F,−CCFO−〕,
δ=−86.3ppm
〔6F,(CFO)−P−(OCHCF−)〕,
δ=−86.7ppm
〔6F,−CCFCHOCHCHCHCHOH〕,
δ=−124.4ppm
〔6F,−CFCHOCHCHCHCHOH〕,
δ=−124.8ppm
〔6F,(CFO)−P−(OCHCF−)〕,
δ=−129.7ppm
〔57F,−CFCFO−〕,
z=9.5
H−NMR(溶媒:なし、基準物質:DO)
δ=1.34〜1.70ppm
〔12H,−CFCFCHOCHCHOH〕
δ=3.72〜4.19ppm
〔24H,−CFCFOCCHCHOH,(CFO)−P−(OCCFCF−)〕,
δ=4.34ppm
〔3H,−CFCFCHOCHCHCHCH〕,
δ=6.83〜7.31ppm
〔12H,(CFO)−P−(OCHCFCF−)
試験例1 ボンド率の測定
実施例1〜4で合成した潤滑剤1〜4を、それぞれDuPont製Vertrel−XFに溶解する。この溶液中の潤滑剤の濃度は0.05重量%である。直径3.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた。その後150℃の恒温槽に10分間この磁気ディスクを入れ、ディスク表面に対する潤滑剤の吸着を促進させる。この後、Fourier Transform Infrared Spectrometer(FT−IR)でディスク上の化合物の平均膜厚を測定する。この膜厚をfÅとする。次に、このディスクをVertrel−XF中に10分間浸漬し、速度10mm/sで引き上げた後、室温下で静置して溶媒を揮発させる。この後、ディスク上に残った化合物の平均膜厚をFT−IRで測定する。この膜厚をbÅとする。ディスクとの吸着性の強弱を示す指標として、一般に用いられているボンド率を採用した。ボンド率は、下記式で表される。
ボンド率(%)=100×b/f
試験例2 高速回転下ディスク上での潤滑剤保持特性の評価
実施例1〜4で合成した潤滑剤1〜4を、それぞれDuPont製Vertrel−XFに溶解する。この溶液中の潤滑剤の濃度は0.05重量%である。直径3.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた。この後、FT−IRでディスク上の化合物の平均膜厚を測定する。この膜厚hÅとする。次に、温度60〜70℃、湿度60〜70RH%の環境下、15000rpmで潤滑剤を塗布した磁気ディスクを2週間高速回転させる。この後、磁気ディスク上に残った化合物の平均膜厚をFT−IRで測定する。この膜厚をcÅとする。高速回転下での磁気ディスクとの吸着性の強弱を示す指標として、潤滑剤保持率を下記式より算出した。
潤滑剤保持率(%)=100×c/h
試験例3 酸化アルミニウムに対する耐分解性の評価
潤滑剤1〜4に、それぞれ20重量%のAlを入れ、強く振とうしたのち超音波でさらに良く混合することにより、耐分解性評価用の試料を調製する。耐分解性の評価は、熱分析装置(TG/TDA)を用いて、250℃で100分間加熱した後の潤滑剤の重量減少率を測定することにより行なった。試料は20mg、測定は窒素雰囲気下で行なった。また比較のため、Alを添加せず、潤滑剤そのものを20mg使用し、同様の熱分析を行った。
また比較のため、下記式(II)において、n=1である潤滑剤5、n=3である潤滑剤6を使用した。さらに HOCHCH(OH)CHO−Rf−OCHCH(OH)CHOHで示されるパーフルオロポリエーテルの両末端にそれぞれ2つの水酸基を有する潤滑剤7を使用した。
潤滑剤5において、Rはm−CFであり、Rfは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−である。xは9.1、yは8.9である。分子量分布は1.05である。潤滑剤6において、Rはm−CFであり、Rfは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−である。xは9.4、yは9.1である。分子量分布は1.18である。潤滑剤7において、Rfは、−CFO(CFCFO)(CFO)CF−である。xは9.8、yは9.7である。分子量分布は1.20である。
試験例1〜3の結果を表1に示す。これらの結果から、本発明の潤滑剤1〜4は潤滑剤5〜7に比べて磁気ディスクと強い吸着力で結合することを確認できた。高速回転下においては、本発明の潤滑剤1〜4は潤滑剤5〜6に比べてディスク上での保持率が高く、潤滑剤7に対しては同等の保持率であることを確認できた。また、酸化アルミニウムに対する耐分解性においては、分子中にシクロホスファゼン基を含む本発明の潤滑剤1〜4とともに潤滑剤5〜6が良好な耐分解性を有していることがわかった。以上の結果より、本発明の分子中にシクロホスファゼン基とアルキルアルコール基を有するフルオロポリエーテル潤滑剤は、耐分解性と高吸着性を両立できることを確認できた。
【表1】
実施例 磁気ディスクの作製
潤滑剤1〜4を、それぞれDuPont製Vertrel−XFに溶解する。この溶液の濃度は0.05重量%である。直径3.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた。その後150℃で10分間乾燥し、塗布された化合物の膜厚をFT−IRで測定した。
結果を表2に示す。これらの結果から、高い吸着性と耐分解性を両立する本発明の化合物を有する磁気ディスクを作製できることが確認された。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明の分子主鎖中にシクロホスファゼン基と分子末端にアルキルアルコール基を有するパーフルオロポリエーテル化合物は、優れた吸着性と潤滑剤分解抑制という2つの課題を同時に解決する潤滑剤を提供する。
図1