【課題を解決するための手段】
【0023】
請求項1は、
図1のように熱電材料10、11の熱流乃至
作業物質流が伝わる方向に伝熱を防げるように、サブマイクロメートルの空間12を配し、この空間12での作業物質流が左右の2つの熱電材料10、11での作業物質流と、ほとんど変えず
あるいはより大きな値を保ちつつ、格子振動・マグノン・スピン波といった擬粒子が存在することに起因する伝熱や、熱源による熱揺らぎ、そして低温での量子揺らぎを抑えることで熱電システムの効率を向上させることを特徴とする。
図1の空間12を造る2つの熱電材料10、11の端子間内の尖塔表面13から、対峙端子表面14間距離が尖塔表面13での絶対温度Tに依存した「距離」L
max(T)を超えると、空間12のフォノンによる熱伝達をほとんど無視できるようになる。なお、格子振動のL
max(T)に比べマグノンやスピン波などのL
max(T)は遥かに小さい。L
max(T)は、原子間力顕微鏡と測定表面間距離の実測測定範囲から得ることができる。一方、空間はサブマイクロ以下にすることによって、作業物質の空間電荷に制限されるのを回避することを可能とする。空間の大きさをサブマイクロメートルからL
max(T)に近づけることで、この部分の作業物質流をより大きくできる。以後、熱流乃至
作業物質流の伝わるのを防げるように1つ以上存在する上記構造を含んだ空間を空間部分と略する。熱電材料10,11のいずれか一方を熱電材料以外の
作業物質良導体にすることもできる。稼働時は空間部分の輻射エネルギー損失による熱エネルギーの伝導は空間部分の対峙端子間13,14の温度差と、対峙する面積に依存する。端子間13、14がL
max(T)より広いがサブマイクロメートルよりも狭いと、空間部分を挟む熱電材料間や熱電材料と電極間の温度差は数ケルビン程度のため殆ど損出は抑えられる。また空間12を真空にすることで、そこでの対流による伝熱を抑えられる。金属では熱伝導は古典系作業物質の熱伝導成分κ
cによるものがほとんどであるが、半導体になってくると、格子による熱伝導成分κ
ph成分が大きくなっていく。空間部分でのκ
cとκ
phの物理伝達現象の要因の違いを利用して、κ
phをゼロ
そしてκcを低減する工夫である。
κ
ph成分とκ
c成分が同じ場合には、フォノンによる熱伝導だけを抑えて他が変わらなくすると数1の性能指数は
容易に2倍になる。性能指数の良い熱電材料にκ
ph成分とκ
c成分が同程度のものが
ある。
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、本発明の原理に従った1つ以上の実施例を図示し、本明細書とともに、そのような実施例を模式的に説明するものである。発明の概念図では発明の本質を強調した説明になっている。【0024】
空間部分をいれることで、発電稼働時に空間部分が作業物質流を主に妨げる可能性がある。熱、電界、電磁波などを利用して作業物質は表面から放出される。
図1で作業物質が11から10の方向に移動するとき、空間部分では、熱電材料内13,14の熱などのエネルギーによる作業物質が励起することによって、あるいは尖塔表面13近傍で作業物質がそのポテンシャル障壁をトンネル透過することによって、作業物質が空間部分12に移り、対峙極14へと移動する。巨視的量子力学によると、空間部分界面13の作業物質のポテンシャル障壁をトンネル透過する確率は作業物質質量が大きくなれば成るほど指数関数的に小さくなるが、極低温で稼動するときは揺らぎが抑えられるのでL
max(T)がより小さくなり、13,14の端子間距離をより狭くできることで、作業物質質量が大きいイオンによる熱電変換素子も可能になる。半導体での電子とホールでは、一般にホールの質量が電子の質量の数倍である。その結果、ある程度空間12が離れるとp形半導体でもホールがトンネル透過するよりは電子がトンネル透過する。熱電材料11が半導体、尖塔13が金属であるときは、半導体11と尖塔13とは発電稼働時はオーミック接合、冷却稼働ではショットキー接合
であるほうがいい。【0025】
空間部分をいれることで、発電稼働時に空間部分が作業物質流を主に妨げる可能性がある。熱、電界、電磁波などを利用して作業物質は表面から放出される。
図1で作業物質が11から10の方向に移動するとき、空間部分では、熱電材料内13,14の熱などのエネルギーによる作業物質が励起することによって、あるいは尖塔表面13近傍で作業物質がそのポテンシャル障壁をトンネル透過することによって、作業物質が空間部分12に移り、対峙極14へと移動する。巨視的量子力学によると、空間部分界面13の作業物質のポテンシャル障壁をトンネル透過する確率は作業物質質量が大きくなれば成るほど指数関数的に小さくなるが、極低温で稼動するときは揺らぎが抑えられるのでL
max(T)がより小さくなり、13,14の端子間距離をより狭くできることで、作業物質質量が大きいイオンによる熱電変換素子も可能になる。半導体での電子とホールでは、一般にホールの質量が電子の質量の数倍である。その結果、ある程度空間12が離れるとp形半導体でもホールがトンネル透過するよりは電子がトンネル透過する。熱電材料11が半導体、尖塔13が金属であるときは、半導体11と尖塔13とは発電稼働時はオーミック接合、冷却稼働ではショットキー接合であるほうがいい。
【0026】
空間部分に電圧が印加されると、尖塔の高さが高く、表面13、14の端子間距離がLmax(T)に大きいほうから近づけたり、図1の尖塔表面13の凸先端部で曲率半径が小さかったりすれば電界が大きくなり、作業物質である荷電粒子の尖塔表面13近傍での作業物質のポテンシャル障壁の高さと厚さが大きく低減する。最大電界は尖塔表面13の凸先端部近傍であり、熱電材料11と尖塔表面13の接合面から尖塔表面13の凸先端までの高さと凸先端部の曲率半径に依存する増強因子βを用いるとその最大電界E凸はE凸=βEsとなる。ここで、Esは熱電変換素子の作業物質放出表面13が平板のときの平板近傍電界である。作業物質がトンネル透過するにはこの値が109[V/m]より大きい必要がある。尖塔表面13の曲率半径を小さくし、尖塔の高さを高くし、表面13、14の端子間距離を短くすることで電界を高めることができる。電流は尖塔先端の表面近傍の電界や作業物質放出面積に依存し、作業物質の種類や作業物質の熱励起放出・作業物質の電界放出・作業物質の光放出などの放出方法によってあるいは空間12での空間電荷分布にしたがって流れる。【0026】
図1の空間12に与えられた電圧では空間部分に生じる電界の強さを必要な値まで大きくできない場合、あるいは作業物質流が小さい場合は、図2のように作業物質である荷電粒子受取端子表面22の形状を、作業物質である荷電粒子放出尖塔表面24を囲むように変形することで、最大電界E凸の値は変形する前より高まりそこでの荷電粒子放出する面積部分は増加する。またその他の尖った部位の電界が最大になる可能性もでてくる。その結果、荷電粒子放出量が増える。このように、表面22,24の形状を変化させることにより、作業物質である荷電粒子の電界放出による空間23での作業物質流が空間を挟む熱伝導材料20,21のいずれかの作業物質流に出来るだけ近づけ、あるいはより良くすることで、数1の性能指数を向上させることを可能とする。作業物質流量が小さい場合に図3のよう複数の尖塔構造30,31,32にし、並列にすることで作業物質流量を増やすことができる。【0027】
図1の熱電材料10、11の温度勾配によって発生した電圧を、空間12での作業物質の移動に利用することで、外部に電源などを設置することなく、空間12に作業物質を流すための電界による力が発生する。尖塔部分が熱電材料であれば、その部分でも電圧を得るごとができ、数1の性能指数が大きくなる。10、11間が広いときには尖塔部分も高くなり、その部分での温度差も大きくなることから、多くの起電力を生じさせるように数十ナノメートル長程度の微結晶体の集合体からなる熱電材料、あるいは熱電材料の空間次元の制御を含めた素材形状やそれらの集合体などを尖塔の部分に用いれば最大電界E
凸がその部分に熱電材料を用いない場合より大きくなり、空間部分の作業物質流が増え数1の性能指数を更に改善できる。尖塔部分の熱電材料の空間次元は、1次元(
図4a)あるいは2次元(
図4b,c)あるいは層状(
図5)にすることができる。
【0028】
作業物質は、
図1の空間12中を移動しているとき、物質中10を移動しているとき、物質中11を移動しているとき、対峙表面13に存在しているとき、対峙表面14に存在しているときで位置エネルギー・運動エネルギーが異なっている。また作業物質の種類自体も変わる可能性もある。作業物質が11から10の方向に移動する場合、表面13から出る作業物質は熱電材料11から熱を奪う。一方、作業物質が空間12を移動して受取対峙端子14に結合したときには、空間12での作業物質のエネルギーと物質10での作業物質のエネルギーとの差が、熱などのエネルギーとして放出される。このとき発生される熱エネルギーを使い熱電材料10の起電力を大きくすることができる。
【0029】
図1の空間12を移動する作業物質が熱電材料表面あるいは電極表面を通過する際に、この作業物質がもつエネルギーがトンネル透過時のトンネル摩擦により表面近傍の表面作業物質状態へ散逸し、材料部分内の伝導する作業物質濃度が増加し作業物質流が多くなる。材料内や材料間の空間を移動する作業物質はその移動する方向に運動量を持っている。一方、対峙表面のエネルギー状態を変化させ作業物質の対峙面内に進入する際の摩擦エネルギー損出が少なくして、この運動量を利用することにより、さらに電流量を大きくすることができる。
【0030】
空間12があると、異種固体接合界面を透過する拡散固体原子の拡散が少なくなり、特に、高温部での熱電材料と電極間での相互の固体原子拡散が少なくなり、熱変換素子の内部抵抗R
iが小さい上、耐久年数が向上する。冷却稼働時のように熱電変換素子の内部抵抗R
iを小さくなるので消費電力が低減できるだけでなく、使用する電源に交流成分I
acが含まれるとR
iのためにR
i(I
ac)
2/2だけ吸熱量が低下する。このため印加する直流電源は交流成分の含有率であるリップル率が同じ電源では効率が上がる。
【0031】
請求項1は
図1の対峙端子対13、14が分離した空間部分の存在する熱電変換素子であるが、上記の方法を用いても作業物質が空間部分を移動しにくく、空間部分内の伝導する作業物質流が空間部分を挟む両端の熱伝導材料内の作業物質流に満たない場合がある。この場合には
図6のように
作業物質良導体で空間62を架橋することで、熱流を抑えた状態で、L
max(T)よりも長い部材を用いることで対峙する端面61から端面60への直接の格子振動による熱流を抑えて、分離しているときより大きな作業物質流を得ることが可能である。
図6で63として、数ナノメートルの径をもつ柱状(
図4a)あるいは、数ナノメートルの厚みをもつ筒状(
図4b)あるいは、
作業物質流の方向に対して垂直面の少なくとも一辺が、数ナノメートルの長さである板状(
図4c)の部材を使うと肉厚を表わす断面ではない表面でのフォノン散乱の影響が表面以外でのフォノン散乱の影響に比べて顕著になる。また、この場合作業物質流の方向以外で作業物質が散乱を受けにくい状態が存在することになり、表面が作業物質流の方向での作業物質の散乱にあまり影響を与えないほどの微小断面積であれば、作業物質流が大きくなる。
空間次元の影響が作業物質流に影響を与える。この断面積で、架橋部材内部の作業物質流が架橋部材を挟む両端の熱電材料の作業物質流より小さくなるときには、
作業物質良導体の断面積を大きくするか、複数の
作業物質良導体を用いる(以後、微細構造物で架橋した空間を
繋がった空間部分と略す)。数ナノメートルの肉厚の板状の部材(
図4b,c)では細い部材(
図4a)に比べて作業物質流が悪くなるが、三次元であるバルクに比べてはよくなる。請求項2では
図6のように熱電変換素子60、61の間62に細い伝導体小体63で対峙端子対が
繋がった空間部分を持つことにより性能指数を高めることを特徴とする。
【0032】
図4aあるいは、
図4で斜線をつけた断面方向から見て、
図4bを組み合わせて
図5aのような構成の円筒層状構造、あるいは
図4cを組み合せて
図5bのような構成の平板層状構造あるいは熱電材料中の作業物質流を、繋がった空間部分のない熱電材料より小さくしないだけの断面積をもつ細い柱状導体を以後、細線構造と略す。フォノンを散乱させるような界面をもつようにして作業物質の移動度の高い部分を層状にすることにより、熱の伝達を悪くし数1の性能指数を高めることができる。それに加えて、作業物質の移動度の高い隣接する部分に、径方向に作業物質が伝わらないだけの厚みを持つ作業物質の移動度の低い部分を介すことにより、細線構造全体としての作業物質流を高め数1の性能指数を高めることができる。細線63が短いとフォノンが弾道的となりそれによる熱伝導度が大きくなってしまい、性能指数が小さくなる。細線63が長い場合は、その部分に熱電材料を用いることにより、そこでの熱起電力により性能指数を上げることができる。
【0033】
細線構造はフォノンの平均自由行程よりも長いと熱伝導はフーリエ法則に従う。短く弾道的になると熱伝導が大きくなり効率がわるくなる。
図6で細線構造63と60または61との界面に格子不整合、不純物、格子欠陥をできる限り少なくすることで、そこでの作業物質流がその両側にある熱電材料60、61の作業物質流にできる限り近づけるかあるいはより良くすることができる。繋がった部分空間を挟む両端の熱電材料の作業物質流を凌駕する作業物質流が得られるように
図7のように複数の細線構造を空間に導入する。
【0034】
電流は、古典系作業物質あるいは量子系作業物質により伝えられる。熱は電力を生じさせるものに付随して伝えられたり、格子振動、輻射などによって伝えられたりする。空間部分が狭い場合、あるいは
空間部分が細線によって架橋された場合は極低温では量子系作業物質を利用することができる。
以後細線によって架橋された空間部分を繋がった空間部分と略する。磁場がある場合、ホール効果やネルンスト効果により、あるいはそれに作業物質の抵抗が加わり、熱流や電流や電圧が同じ方向を向かない。
格子振動に対してはLmax(T)以上の距離であり、作業物質流に対してはそれに付随する伝熱を妨げるように空間部分や繋がった空間部分を設けることにより熱電材料の性能指数を向上させる。
【0035】
光を含む電磁波や放射線を
図8の空間82に接し対峙する熱電材料81の界面に照射すると、そのエネルギーが作業物質に与えられる。これにより作業物質が高いエネルギー状態になり、空間部分への作業物質のポテンシャル障壁越えのエネルギーが小さくなる。
また作業物質のポテンシャルをトンネル透過するポテンシャル障壁の幅が小さくなる。あるいは表面上の飛び出しやすい作業物質の状態をとることができる。放射線源は、主に、作業物質の作業物質放出表面から作業物資受取表面への移動を助ける働きをする。請求項3は
図8の空間82を移動する作業物質や、
放出端子表面をもつ材料81や表面から空間82に出ようとする作業物質に空間82に配した電磁波供給部や放射線源から作業物質にエネルギーを与え、作業物質が空間82を伝導しやすくすることを可能とする。放射線源を作業物質の
放出端子乃至
放出端子81に対峙する熱電材料80表面部分に埋め込むこともできる。放射線源を作業物質放出端子81近傍に置いた場合あるいは埋め込んだ場合には、放射崩壊による熱を利用することができる。光を用いる場合には光ファイバー等を用いて空間部分内に導き作業物質放出面を照射する。あるいは空間部分での中心部分での対峙端子間距離が短く、外側で対峙端子間距離を長くすることで内部まで光が到達できるようになる。
図8において81を尖塔構造にすることで電界電子放出の効果を含めることもできる。
【0036】
空間部分あるいは繋がった空間部分を含む熱変換素子は作業物質の移動度が位置的・時間的に均一でなくなる。作業物質の持つ電荷の流入量と流出量が違う界面では、
作業物質の電荷の流入
あるいは流出が多く電荷が蓄積し、作業物質流を阻害する。また、作業物質の電荷が蓄積すると熱変換素子の劣化が起こる。請求項4は作業物質受取端子表面あるいは
放出端子表面に
作業物質良導体薄膜をコーティングすることでそれら表面に局部的に
存在する作業物質を拡散させる効果が得られることを特徴とする。
作業物質良導体薄膜のコーティングは、素子を強化することにより、あるいは熱の集中を防ぐことにより劣化の影響を少なくし、単位時間に得られるエネルギー量を増加させる。作業物質受取端子表面
あるいは放出端子表面を作業物質
良導体をコーティングすることにより作業物質受取端子表面あるいは
放出端子表面と熱電材料内部との
局在濃度差に基づいた端子内部への移動に対する作業物質のポテンシャル障壁を小さくし、あるいは作業物質の濃度が
過不足であることに基づく破壊を少なくすることができる。
【0037】
空間部分をもつ熱電変換素子では、作業物質の空間部分での移動にともない、空間内の
局所的な移動による衝撃や力学的破壊により
端子部分の劣化が起る。また、空間に気体、あるいは金属蒸気を封入
することで、気体分子との作業物質との間の衝突、作業物質の空間でのエネルギー状態を変化させる。請求項5は作業物質
放出表面透過後の
放出表面内あるいは受取表面の作業物質励起による摩擦以外の熱電材料破壊を無くすためにその表面を他の物質でコーティングしたり他の物質を接合させたり、原子間結合力を大きくすることによって、あるいは原子集団で協調した動きをさせることで保護することを特徴とする。あるいは作業物質受取端子をかご型の熱電材料を用いることによって振動を吸収し劣化を防ぐことも可能である。
【0038】
熱電変換素子では、動作温度範囲にわたって、温度勾配に沿って不純物ドープによる電子濃度を連続的に制御した傾斜構造(FGM:Functionally Graded Material)にすることにより均一組成の熱電材料より性能指数を大きくすることが可能である。熱電変換素子を組み合せて使用する場合、使用目的によって性能の考え方が変わってくる。熱変換素子の電極などの金属部分も性能に影響を及ぼす。また、熱変換材料が空間部分を形成する場合、内部で対峙端面間距離の調整し空間部分の大きさを変えることで、あるいは表面形状を変えることで、作業物質の移動を容易にでき、また伝熱を小さくできる。請求項6は空間あるいは繋がった空間部分によりセグメント化されていることで、熱電材料あるいは電極材料の成分の拡散などによる性能の劣化の影響が少なく、接合による素子作成時の欠陥が無い状態で、システム構成が変更可能であることを特徴とする。
図9のように対峙端面間隔距離をアクチュエータで変化させることによって種々の温度領域に対応させることを可能とする。
【0039】
セグメント
化された熱電材料を組み合わせる方式では熱電システムの耐久性は熱電材料と電極部分の接合している部分やセグメント
間で生じる界面の使用時の温度分布、空間部分の熱膨張や熱源の熱揺らぎによる動作時の温度変化の影響による熱応力での疲労により決まる。また、このために熱電材料と電極間の接触抵抗が大きくなって、その結果、疲労亀裂のジュール熱による焼損が報告されている。空間部分を設けることによって、熱膨張による力学的な破損を防ぐことができる。対峙端子間はL
max(T)より大きくしてあるので、特に低温での量子揺らぎや、動作時の温度変化による界面の揺らぎでの熱応力による破壊や、作業物質以外の界面間移動による疲労破壊が抑えられる。
【0040】
高温部と低温部の温度差が広域であればあるほど熱変換素子内の空間部分の数は多くできる。一方、高温部と低温部の温度差が広域であるかどうかに関係なく、熱変換素子内の繋がった空間部分の数は多くすればするほど空間部分内の輻射エネルギー損出以外の付加損出が低減できる。
【0041】
高温部と低温部の温度差が広域である発電時稼動中の発電では、複数段空間部分を配すことにより、起電力を大きくすることができる。
図10のように複数セグメント化された熱電材料あるいは作業物質良導体により構成されているとする。このとき、
段落0038で述べたように熱電変換素子101表面にあるナノサイズの導体柱あるいはコイルの高さ、これらの作業物質放出面の曲率半径は作業物質の熱電材料のバルク状態密度からの変形や作業物質の移動に影響を与えるが、これらの値や、これら導体柱やコイルの作業物質放出表面積、空間部分端子間の最適距離およびセグメントの数は次のようにして決まる。空間部分端子間距離はサブマイクロメータでLmax(T)より大きい値から近づけることで、
図10の発電稼働を具体例として、下記のように作業物質流をより大きくできる。
1)空間部分端子間内の尖塔表面から対峙端子表面間距離がLmax(T)を超えると、この空間部分のフォノンによる熱伝達をほとんど無視できる。このLmax(T)は、
段落0023で述べたように尖塔表面と対峙端子を構成する原子間の力と関係があり原子間力顕微鏡と測定表面間距離の実測測定範囲から得ることができる。熱膨張や熱源の熱揺らぎ、特に低温では量子揺らぎを考慮することでLmax(T)を補正できる。
2)動作中の空間部分内の尖塔表面の近傍の増強電界強度は対峙端子間での電位差/距離に曲率を考慮に入れた比例係数βをかけて近似できる。あるいは、シミュレーションによって求められる。また対峙端子間の電位差は空間部分両端の熱電材料の起電力に影響を受ける。
3)作業物質の熱励起や低温での量子揺らぎやトンネル透過による作業物質の移動量は作業物質放出面積・方向に依存する。また
段落0005でも述べたように注入された端子でも、作業物質の移動の方向によって作業物質が注入された熱電材料バルクの作業物質の状態密度が注入前から変わり、その結果微視的な電気伝導度、熱伝導度に影響を与える。尖塔乃至尖塔に至る部位を細線にすることで、これらの
伝導度が変化し、性能指数がよくなる。空間部分の作業物質受取端面が上記2を満たすように空間形状や空間部分端子間距離を最適化して熱電材料の作業物質流に近づける。このような工夫により
段落0005でも述べたようにスムーズで効率的な作業物質の空間移動が可能となる。
4)一つの尖塔では熱電材料バルク以上の作業物質流が得られないときは、
図2のように複数の尖塔を配すことにより作業物質流を大きくすることができる。複数の尖塔が電子放出端子表面に密にあると上記2のβの効果が大きく低減される。電界電子放出による作業物質流が分割される前の両端にある熱電材料の作業物質流以上になるか、あるいはできるだけ近づけるように電子放出端子表面の尖塔密度を含めて最適化する。このようにして適切な空間部分端子間距離が定まる。
温度差が広域であるために、分割される前の両端にある熱電材料の作業物質流以上になるか、空間部分内の増強電界強度による電界電子放出による作業物質流れが熱電材料バルクの作業物質流量以上になるか、あるいはできるだけ近づけるように電子放出端子表面の尖塔密度を含めて最適化できるならば、以上の1から4の工夫を他の空間部分に適応する。上記の結果、1個以上の電極端子表面の形状を含めて最適化された空間部分により、対峙端子間温度差による輻射放出エネルギー損失以外の付加損出を大きく低減できる。高温部と低温部の温度差が狭域である発電稼動がある場合は、空間部分端子間距離の最適化ができない。この場合は
図6の繋がった空間部分を用いる。冷却の場合は必要なだけの電圧・電流を印加する。上記のように製造されれば、熱電材料の性能指数が最高であっても、熱変換素子の性能指数は大きく改善される。また冷却稼働は発電稼働の可逆過程なので、冷却稼働でもこのように製造された熱変換素子の効率は大きく改善される。
【0042】
図10に示された熱電材料群は必ずしも図示された順序で、しかも全てを用いて熱変換素子に作製される必要はない。また、二組の極性の違う熱変換素子からなるπ型モジュールのように、他の熱電材料群に依存しない熱電材料群は、他の熱電材料群と並行して独立した形態でπ型モジュールが作製されてもよい。さらに、複数のπ型モジュールが直列あるいは並列、または直列と並列の混成したπ型モジュール群となる集合でシステムに実装される。直列あるいは並列、または直列と並列の混成したπ型モジュールで実装の数多くの組み合わせを例として説明したが、明らかなように、π型モジュール以外の熱変換素子からなる組み合わせからなるモジュールも本発明の範囲及び精神に従って意図される。
【0043】
図9のように熱電材料90と91あるいは熱電材料と
端子を移動させる代わりに、熱電材料90と
の間で作業物質が散乱されにくく、しかも作業物質を放出する対峙端面91の尖塔の放出面積より
大きくしかもそれに相似形状またはそれを囲む形状をもつ微小な作業物質の良伝導体94が作業物質の放出面に平行に移動するのをこの95に配置したアクチュエータは助ける。稼働開始時に交流を重畳することによって、空間部分92あるいは、アクチュエータが駆動する面94と電極表面90との間93がコンデンサーの役割を果たすことにより空間部分にかかる電圧を高い状態にすることができる。その結果、その高電圧を初動動作のトリガーとして利用できる。また、多段にすることでCR発振やCL発振を利用することで稼働時に目的とする空間部分にかかる電圧を高い状態にすることができる。
【0045】
本発明の原理に従った熱電材料の性能指数の最大化や最適化されたπ型モジュールやシステム実施形態についての以上の説明は、熱電材料、π型モジュールやシステムの最適化の例示及び説明を提供するものであり、網羅的なものでも、本発明の範囲を開示されたシステム実施形態そのものに限定するものでもない。以上の教示により変更及び変形が可能であり、あるいは、本発明の様々なシステム実施形態の実施から変更及び変形が得られる。明らかなように、請求項に係る発明に従った空間部分あるいは繋がった空間部分を持つ熱電材料より熱変換素子を実現する方法、π型モジュール及び/又はシステムを提供することには、数多くの実施形態が採用され得る。【0046】
本出願の説明に使用された如何なるアクチュエータ、π型モジュールそしてシステム、特に断らない限り、本発明に決定的に重要な、あるいは不可欠なものとして解されるべきではない。