特許第5771852号(P5771852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5771852熱電材料に伝熱量を低減し作業物質流は本来の熱電材料以上となる空間部分あるいは繋がった空間部分を含んだ熱電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771852
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】熱電材料に伝熱量を低減し作業物質流は本来の熱電材料以上となる空間部分あるいは繋がった空間部分を含んだ熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/32 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   H01L35/32 A
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-57202(P2011-57202)
(22)【出願日】2011年2月27日
(65)【公開番号】特開2012-178533(P2012-178533A)
(43)【公開日】2012年9月13日
【審査請求日】2012年9月2日
【審判番号】不服2013-17529(P2013-17529/J1)
【審判請求日】2013年8月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511067400
【氏名又は名称】馬淵 眞人
(72)【発明者】
【氏名】芦田 有
(72)【発明者】
【氏名】馬淵 眞人
【合議体】
【審判長】 松本 貢
【審判官】 小野田 誠
【審判官】 加藤 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−515924(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/099709(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電材料の端部とそれと対峙する材料表面との間乃至前記熱電材料を構成する熱電材料部内に、熱流乃至作業物質流の伝わるのを妨げる1つ以上の空間を備え、これら空間と接する熱電材料と同等乃至それ以上の作業物質流量があるが作業物質に起因する以外の熱伝量が殆ど無視できる距離以上の大きさであり、二つの異なる温度の熱源に挟まれた熱電材料の系に、この系外の電場、磁場等によって、この系内にさらなる温度勾配、作業物質濃度勾配、速度勾配等が生じ、それら勾配によって駆動される古典系作業物質と極低温で顕著になる量子系作業物質あるいは巨視的量子系作業物質を含めた外界作業物質粒子放出しやすい形状である空間部分を持つことにより空間部分がなく互いに接合した場合に比べ熱伝導率を低減しあるいは熱応力による損傷乃至素材イオンの拡散混入を低減すること、あるいは作業物質の端部への移動により発生した熱を利用することを特徴とする熱電変換素子。
【請求項2】
熱電材料の端部とそれと対峙する材料表面との間乃至前記熱電材料を構成する熱電材料部内に、熱流乃至作業物質流の伝わるのを殆ど妨げる広がりである1つ以上の空間を備え、これらの少なくとも1つの空間に1つ以上の細線で架橋することにより、この架橋した空間に接する熱電材料と同等乃至それ以上の作業物質流量があるが作業物質に起因する以外の熱伝量がフォノンの散乱によって小さくできる距離以上の細線の長さであり、空間部分がなく互いに接合した場合に比べ熱伝導率を低減しあるいは熱応力による損傷乃至素材イオンの拡散混入を低減することを特徴とする熱電変換素子。
【請求項3】
請求項1、請求項2記載の熱電変換素子において、これらの少なくとも1つの空間に熱電材料などの界面近傍に電磁波源あるいは放射線源を具備した空間をもために、これら線源を具備した空間と接する熱電材料と同等乃至それ以上の電流量があり、空間部分乃至架橋した空間部分がなく互いに接合した場合に比べ熱伝導率を低減することを特徴とする熱電変換素子。
【請求項4】
請求項1、請求項2、請求項3記載の熱電変換素子で空間部分乃至架橋した空間部分に接する表面に作業物質の導電性原子乃至分子を含む材料によりコーティング乃至厚みのある部材(以後簡略のために、コーティング乃至厚みのある部材をコーティング乃至部材と略す)を接合し、局部的な帯電乃至作業物質の滞留を防ぎ空間部分に接するコーティング乃至部材表面部分の振動を吸収する構造を具備することを特徴とする熱電変換素子。
【請求項5】
請求項1、請求項2、請求項3記載の熱電変換素子で空間部分乃至架橋した空間部分に接する表面に、原子間力が大きく、あるいは原子集団の共調した運勤により表面の振動を吸収する材料によりコーティング乃至部材を接合することで、空間部分に接するコーティング乃至部材表面の作業物質のエネルギー状態を変えて大きな作業物質流が流れても劣化しにくいこと特徴とする熱電変換素子。
【請求項6】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5記載の熱電変換素子乃至空間部分に可動部をもつ熱変換素子を用いたセグメント素子であることにより設計しやすいことを特徴とする熱電変換モジュールおよび、それらを内蔵する熱電変換システム。
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5に記載の熱電変換素子乃至請求項6に記載の熱電変換モジュールおよび、それらを内蔵する熱電変換システム。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギーと電気エネルギーとの変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換する発電システムに熱電材料を用いた熱電発電や、熱電子発電などがある。熱電材料を逆変換として用いると冷却システムに利用できる。伝熱量と電流量が関連して輸送される現象を利用する材料が熱電材料であり、熱輸送現象を担う作業物質として、系が古典力学で扱える場合の電子やホールなどの古典系作業物質や、おもに極低温になると量子効果が顕著になる場合の量子系作業物質がある。また、電流輸送現象も金属から絶縁物にいたる幅広い電気伝導度が利用される。伝熱量に比べて電荷の輸送量が多い材料が性能の良い熱電材料である。
【0003】
古典系作業物質の場合の電子やホールの熱電材料の性能は、通常、性能指数Zは
【数1】
で定義され、無次元性能指数ZT(Tは絶対温度)が大きな材料ほど熱電エネルギー変換効率が高い。ここで、Sはゼーベック係数と呼ばれる熱電能、熱伝導率κは作業物質の熱伝導成分κと格子による熱伝導成分κph成分の和、ρは作業物質の電気抵抗率である。温度を変化させないで大きいZTを得るためには、大きなS、小さなκ及び小さなρにすればいい。これら三つの熱電特性はいずれも作業物質の濃度の関数であり、その濃度が高くなるとSおよびρは小さくなり、κは大きくなる。半導体理論によると使用温度域によって最適な電子あるいはホール濃度が存在する。
その濃度に対して熱電性能をよくするには
1)電子あるいはホール濃度を高くしρを小さくする
2)Wiedemann−Franzの法則よりκ∝1/ρであることからκphを小さくする
3)電子あるいはホールの有効質量の大きな材料系でSを大きくする
の3通りが考えられる。
上記の無次元性能指数は古典系作業物質の伝熱量と電流量に関する熱平衡輸送理論を用いて導出されている。この理論は量子系作業物質にも拡張できる。
【0004】
熱電材料としてはゼーベック係数Sが大きく、熱伝導率κが絶縁体のように小さく、しかも電気抵抗率ρが金属のように低いことが望ましい。このような特徴はPhonon Glass Electron Crystalとして表現され、格子振動に対してはガラスのように乱れた物質として振る舞い、電子あるいはホールに対しては結晶のように振る舞う高移動度物質を目指している。このような材料は古典系作業物質濃度が高く、縮退状態化合物やこれらの固溶体の中から見出されるが、格子振動による熱伝導成分κphを小さくすることが熱電材料の性能を上げることにつながる。
【0005】
非特許文献1によるとBiTeでは、フォノンの平均自由行程よりも長さが短くなると、その方向にはフォノンは弾道的に伝導する。細線での伝熱は熱伝方向を細線の長さ方向を取ると、細線の長さとそれと垂直方向である肉厚と、フォノンの平均自由行程との大小関係によって特徴づけられる。長さや肉厚がフォノンの平均自由行程よりも長い場合には熱伝導はフーリエ法則に従い、拡散的フォノンである。太さがフォノンの平均自由行程より短いときには、フォノンは肉厚方向に対しては弾道的フォノン伝導するが細線の表面粗さによるフォノン散乱のために拡散的フォノン伝導で特徴づけられる値よりも熱伝導が小さくなってしまう。長さがフォノンの平均自由行程より短いときには、表面粗さに影響を受けないと弾道的なフォノン伝導により、拡散的フォノン伝導で特徴づけられるものより長さ方向の熱伝導が大きくなる。一方非特許文献2ではナノチューブに対して非平衡分子動力学を用いて太さ方向の伝熱量に対する依存性を評価している。1シートからなるナノチューブでは表面粗さが減少し室温では1.6μmまで長さ方向に弾道的なフォノン伝導の影響がある。その結果拡散的フォノン伝導で特徴づけられる値より熱伝導が大きい。一方、電気伝導度は導電材料の空間次元が小さい場合や、それが層状に重なった場合は、電子が移動するときに横切る断面積が微小であれば、狭い方向に流れる電流を担う電子の許されるエネルギー状態間隔が大きく電子の散乱が起こりにくくなり、電子の状態密度が空間次元によって変化し電気伝導がよくなる。低次元になると熱電材料の性能指数が改善されることを利用するものにナノ薄膜・超格子・ナノワイヤーなどの熱電材料がある。
【0006】
現在利用されている熱電材料には、ビスマス・テルル系、シリサイド系化合物などの金属間化合物がある。また新たな熱電材料として層状コバルト酸化物、クラスレート化合物などのかご状型のものや、強相関電子を利用したものがある。PbTe系化合物の最高使用温度は950K程度であるが、n型PbTeは不純物ドープによる電子濃度が5×1025−3のとき、約450K最高性能指数が1.7×10−3−1を持ち、電子濃度を増やすと徐々に最高性能指数が比例して減り、7×1025−3では、約800Kでは最高性能指数が1.2×10−3−1となる。PbTe系化合物は低温端温度が300で高温端温度が950Kである広い温度域をもつ。
【0007】
電子が電極間の空間に移動することを使う発電方法に熱電子発電がある。この発電方法は、高温電極のエミッタから電子が熱エネルギーによって放出される熱電子放出現象を利用している。熱電子発電では空間電荷制限のため、電子がエミッタから放出するのを空間の電荷が阻害する可能性があるが、これを防ぐ方法には、セシウムを用いる方法と、電極間隔を数マイクロメートルまで狭くする方法がある。セシウムは電極間の空間電荷制限を防ぐために使用され、あるいは起電力を高めるためにエミッタの仕事関数とコレクタの仕事関数との差を大きくしているが、電極間で電子同士あるいは電子とセシウムとの弾性・非弾性衝突により電子のエネルギーが失われる。電極間距離を0.1mmにした宇宙用のものがある。
【0008】
熱流は許すが電流を流さないような絶縁膜あるいは空間をもち、発電に使用するために熱電材料を用いたものに、輻射伝熱型熱電変換システムがある。n型とp型の半導体を対にしてモジュールにしこれら絶縁膜あるいは空間が高温側壁か低温側壁のどちらかに接している。このモジュールでは電気回路は熱電材料や電極などに直接接続し離れていない。
【0009】
熱流や電流がお互いに平行で、それらの流れる方向にそれらの流れを妨げるように空間を配した熱電材料を用いたシステムに、特許文献1、特許文献2の冷却システムがある。これらのシステムでは、外部に電源があるのでその電圧を大きくすれば、空間を電流が流れ、半導体中を熱も移動することになる。
【0010】
多結晶体を用いて化学組成を変えることなく熱電材料の性能指数を向上させるものに特許文献3のメカニカルアロイング法を用いるのもがある。また特許文献4ではバインダーにポリビニル・アルコールを使った鉄シリサイド粉体をプレス後、加熱してポリビニル・アルコールを取り除くそれまでの方法に対して、ゾルゲル法や乾式成膜法により作製したアモルファス構造の膜にすることで製作コストの低減を狙っている。特許文献5では放電プラズマ焼結して再結晶化を防いでいる。
【0011】
電気伝導度を損なうことなく熱伝導度を小さくさせて性能指数を上げるために、非特許文献3では、BiSbTeの結晶をアルゴン中で数十ナノメートルに砕いてからホット・プレスして固めている。結晶間の「アモルファスと結晶の中間的な構造」を低コストで作製し40%の改良でZT=1.4している。特許文献6では熱流を防いで電流を流すために、結晶同士の界面にガラス層からなる粒界層が実質的に存在しないようにして格子振動を防ぐ工夫を行った熱電材料に100ナノメートル以下の多結晶を利用している。ここでは、かご状構造の熱電材料を用いてエアロゾルデポジション法による常温衝撃固化現象で基板上に構成している。
【0012】
物体間の空間をどのように作業物質が移動するかは作業物質のポテンシャルによって決まる。その空間に接する表面近傍では電気鏡像効果によりそのポテンシャルが低くなる。そのポテンシャルは、シミュレーションによって、あるいは非特許文献4ように解析的に求められる。
【0013】
表面の周りを囲む空間の作業物質のポテンシャル障壁を、熱・電磁波などのエネルギーによる作業物質のポテンシャル越え乃至トンネルによって通り抜けることによって、表面から作業物質を空間に移動させることができる。熱電子放出ではRichardson−Dushmanの式で仕事関数と放出電流は関係づけられている。電界電子放出では、トンネル透過による電流はFowler Nordheimの式などで電界強度と関係づけることができる。トンネル確率・熱・電磁波などにより空間内の作業物質の放出量が決まる。レーザー照射をおこなうとレーザー照射量によって作業物質の放出量がきまる。電流密度が1×1010A/mを超えると空間内の電荷量が大きくなり、電流が空間電荷で制限を受け性能指数が悪くなる(非特許文献5)。空間内の電流は端子間距離が短いほど効率がよくなる。
【0014】
放射線のエネルギーを利用して電力に変換するものとして原子力電池がある。これには原子核崩壊に伴う熱を利用するものとしないものに分けられる。熱を利用するものには熱電変換方式や熱イオン変換方式などがある。熱を利用しないものには放射線を半導体のpn接合に照射して起電力を得るものがある。
【0015】
放射性同位元素を使った熱電発電では、段落0035で説明するように放射性同位元素が自然崩壊の過程における放射粒子線を利用し放射性同位元素を含む部位の崩壊熱あるいは放射粒子線の捕集部でそのとき発生した熱エネルギーを使って熱電発電を行っている。
【0016】
熱電材料を接合してモジュールに組み立てるには、接合する必要がある。接合する方法は、はんだ接合法・熱パルス法(熱プラズマ溶射法)・物理蒸着法・溶接法・電気めっき法(化学蒸着法)・加圧接触法・拡散接合法・厚膜焼成法(接合集合化法)などがある。はんだ接合法では、使用中のはんだ材料の拡散のために劣化が起こる。厚膜焼成法では、接合界面に於いて不純物や酸素の混入などにより物理的欠陥が生じやすい。また接合するため、その接合界面において熱応力が発生し熱電材料の耐久年数に大きく影響する。
【0017】
熱電材料を用いたシステムは、使用する温度領域や熱量にあわせて、熱電材料の種類・形状・大きさや、その周りの断熱材の種類・厚みを選ぶことで最適化されている。空冷フィン、ファン付き空冷フィン、あるいは水冷などを用いて放熱を行い、そのほかの構造物との熱のやり取りも考慮しなければならない。そして、熱電材料はグリース・接着・はんだづけによって、電極・構造物に取り付けられている。また、はんだの電気化学的溶出がないように、あるいは請求項1で記載するようにグリース・接着剤などの拡散がないように、システム内のモジュール内部への湿気侵入防止のために、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などでシールしている。こういったグリースやシール材によってモジュールの低温部と高温部間の熱伝導が生じて性能が下がっている。
【0018】
熱電材料を用いたモジュールに、電極対の間に一対のp型n型という極性の異なる熱電材料が挟まれたπ型のものがある。モジュール内部抵抗Rmodと熱伝導度κmodは、これらの熱電材料対の断面積や長さに依存する。モジュール性能指数Zmod
【数5】
となる。
modκmodを形状因子(直方体形状の熱電材料の断面積/長さ)とπ型の数を成績係数Φ(=Q/P 冷却稼動、=Q/P 発電稼動)の向上によるジュール熱発生と外界への熱放出による非可逆過程による損出の低減。ここで、QとQはそれぞれ低熱源と高熱源からの吸収熱量、Pは電気的仕事を表す。また、絶縁体にセラミックス基盤が用いられるモジュールとセラミック基盤のない(スケルトンタイプ)ものがある。熱源間温度差や基盤の大きさによるがセラミックス基盤では高熱源と低熱源に挟まれた熱電モジュールに生じる熱応力が、スケルトンタイプより大きくなる。また、熱源と絶縁体、絶縁体と電極、電極と熱電材料、複数の異種熱電材料の接合からなるセグメント異種熱電材料、組成比や不純物濃度の最適化を温度分割し、熱流が直列になるように積重ねて一つの素子にするセグメント素子等の界面に生じる熱応力に対する耐久性の向上による耐熱サイクル性の改善が行われている。
【0019】
ある熱源に接触する絶縁体皮膜された電極板とそれと異なる熱源に接触する面が絶縁体で皮膜された電極板の対がある。この電極対の間にπ型モジュールを単位にシステムが構成される。例えば、発電稼動で出力電流を上げるために、複数のπ型モジュールの足部分の極性がそれぞれ同じ熱電材料になるように一枚の皮膜された電極板上に並ぶ並列配列あるいは出力電圧を上げるために、π型モジュールを上下に反転し極性の異なる対同士が一枚の皮膜された電極板に並ぶ直列配列、またこれらの複合した配列がある。このように複数のπ型モジュールは熱源、電極そして極性の異なる熱電材料の複数の対から組み立てられている。モジュールの性能を向上させるに熱電材料対の性能指数を変えることが必要である。このとき各π型の足の熱電材料対の断面積と長さがそれぞれ違う。熱電システムは、ある熱源から熱量Qinを取得し、それを熱電モジュールに与え、熱量は熱電材料中を流れて放熱量Qoutとしてもう一方の熱源へと放出される。この間に電気的仕事Pが外界に作用する。すなわち、
【数6】
(+はゼーベック効果による発電動作、−はペルチェ効果による冷却動作)
なるエネルギー収支バランスが生じる。システム効率ηは
【数7】
である。ηを最大化するには
1)使用するモジュールの能力と目標性能とをバランスさせる。
2)モジュール単体の性能を適当な経済性で最大発揮できるようにする。
を考慮に入れる。
例えば、発電稼動のシステム効率ηgen
【数8】
である。モジュール内部抵抗RMODと外部仕事する際の抵抗Rの比m=R/RMODについて、ηgenを最大にするmになるように最適化する。最大効率ηmaxは温度条件と熱電材料の物性値すなわち性能指数のみによって決まることが知られている。また、冷却稼動のシステム効率ηre
【数9】
で表される。ηreを最大にするmになるように最適化する。その結果、Rに流れる作業物質流が最小化されPが最小になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】US2005/0016575A1
【特許文献2】特開2009−21593
【特許文献3】特開平9−55542
【特許文献4】特開平10−27927
【特許文献5】特開平10−41554
【特許文献6】特開2007−246326
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Phys.Rev.B47,(1993)16631
【非特許文献2】Jpn.J.Appl.Phys.,47(2008)2005
【非特許文献3】Poudel,B.et al.,“High−Thermoelectric Performance of Nanostructured Bismuth Antimony Telluride Bulk Alloys,”Science,vol.320,no.5876,pp.634−638,May 2008.
【非特許文献4】Jpn.J.Appl.Phys.48,098006(2009)
【非特許文献5】Appl.Phys.33,2917(1962)
【非特許文献6】J.−P.Fleurial,G.J.Snyder,J.A.Herman,P.H.Giauque,W.M.Phillips,M.A.Ryan,P.Shakkottai,E.A.Kolawa and M.A.Nicolet:18th International Conference on Thermoelectrics(1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
熱電材料には熱伝導度が絶縁体のように小さく、しかも電気抵抗が金属のように低いことが望ましいが、電気抵抗率と熱伝導率は相互依存している。その結果、良い熱電材料を開発するには苦労を必要とする。空間あるいは細線で空間を架橋することにより熱電システムの効率をさらに向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
請求項1は、図1のように熱電材料10、11の熱流乃至作業物質流が伝わる方向に伝熱を防げるように、サブマイクロメートルの空間12を配し、この空間12での作業物質流が左右の2つの熱電材料10、11での作業物質流と、ほとんど変えずあるいはより大きな値を保ちつつ、格子振動・マグノン・スピン波といった擬粒子が存在することに起因する伝熱や、熱源による熱揺らぎ、そして低温での量子揺らぎを抑えることで熱電システムの効率を向上させることを特徴とする。図1の空間12を造る2つの熱電材料10、11の端子間内の尖塔表面13から、対峙端子表面14間距離が尖塔表面13での絶対温度Tに依存した「距離」Lmax(T)を超えると、空間12のフォノンによる熱伝達をほとんど無視できるようになる。なお、格子振動のLmax(T)に比べマグノンやスピン波などのLmax(T)は遥かに小さい。Lmax(T)は、原子間力顕微鏡と測定表面間距離の実測測定範囲から得ることができる。一方、空間はサブマイクロ以下にすることによって、作業物質の空間電荷に制限されるのを回避することを可能とする。空間の大きさをサブマイクロメートルからLmax(T)に近づけることで、この部分の作業物質流をより大きくできる。以後、熱流乃至作業物質流の伝わるのを防げるように1つ以上存在する上記構造を含んだ空間を空間部分と略する。熱電材料10,11のいずれか一方を熱電材料以外の作業物質良導体にすることもできる。稼働時は空間部分の輻射エネルギー損失による熱エネルギーの伝導は空間部分の対峙端子間13,14の温度差と、対峙する面積に依存する。端子間13、14がLmax(T)より広いがサブマイクロメートルよりも狭いと、空間部分を挟む熱電材料間や熱電材料と電極間の温度差は数ケルビン程度のため殆ど損出は抑えられる。また空間12を真空にすることで、そこでの対流による伝熱を抑えられる。金属では熱伝導は古典系作業物質の熱伝導成分κによるものがほとんどであるが、半導体になってくると、格子による熱伝導成分κph成分が大きくなっていく。空間部分でのκとκphの物理伝達現象の要因の違いを利用して、κphをゼロそしてκを低減する工夫である。
κph成分とκ成分が同じ場合には、フォノンによる熱伝導だけを抑えて他が変わらなくすると数1の性能指数は容易に2倍になる。性能指数の良い熱電材料にκph成分とκ成分が同程度のものがある。
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、本発明の原理に従った1つ以上の実施例を図示し、本明細書とともに、そのような実施例を模式的に説明するものである。発明の概念図では発明の本質を強調した説明になっている。
【0024】
空間部分をいれることで、発電稼働時に空間部分が作業物質流を主に妨げる可能性がある。熱、電界、電磁波などを利用して作業物質は表面から放出される。図1で作業物質が11から10の方向に移動するとき、空間部分では、熱電材料内13,14の熱などのエネルギーによる作業物質が励起することによって、あるいは尖塔表面13近傍で作業物質がそのポテンシャル障壁をトンネル透過することによって、作業物質が空間部分12に移り、対峙極14へと移動する。巨視的量子力学によると、空間部分界面13の作業物質のポテンシャル障壁をトンネル透過する確率は作業物質質量が大きくなれば成るほど指数関数的に小さくなるが、極低温で稼動するときは揺らぎが抑えられるのでLmax(T)がより小さくなり、13,14の端子間距離をより狭くできることで、作業物質質量が大きいイオンによる熱電変換素子も可能になる。半導体での電子とホールでは、一般にホールの質量が電子の質量の数倍である。その結果、ある程度空間12が離れるとp形半導体でもホールがトンネル透過するよりは電子がトンネル透過する。熱電材料11が半導体、尖塔13が金属であるときは、半導体11と尖塔13とは発電稼働時はオーミック接合、冷却稼働ではショットキー接合であるほうがいい。
【0025】
空間部分をいれることで、発電稼働時に空間部分が作業物質流を主に妨げる可能性がある。熱、電界、電磁波などを利用して作業物質は表面から放出される。図1で作業物質が11から10の方向に移動するとき、空間部分では、熱電材料内13,14の熱などのエネルギーによる作業物質が励起することによって、あるいは尖塔表面13近傍で作業物質がそのポテンシャル障壁をトンネル透過することによって、作業物質が空間部分12に移り、対峙極14へと移動する。巨視的量子力学によると、空間部分界面13の作業物質のポテンシャル障壁をトンネル透過する確率は作業物質質量が大きくなれば成るほど指数関数的に小さくなるが、極低温で稼動するときは揺らぎが抑えられるのでLmax(T)がより小さくなり、13,14の端子間距離をより狭くできることで、作業物質質量が大きいイオンによる熱電変換素子も可能になる。半導体での電子とホールでは、一般にホールの質量が電子の質量の数倍である。その結果、ある程度空間12が離れるとp形半導体でもホールがトンネル透過するよりは電子がトンネル透過する。熱電材料11が半導体、尖塔13が金属であるときは、半導体11と尖塔13とは発電稼働時はオーミック接合、冷却稼働ではショットキー接合であるほうがいい。
【0026】
空間部分に電圧が印加されると、尖塔の高さが高く、表面13、14の端子間距離がLmax(T)に大きいほうから近づけたり、図1の尖塔表面13の凸先端部で曲率半径が小さかったりすれば電界が大きくなり、作業物質である荷電粒子の尖塔表面13近傍での作業物質のポテンシャル障壁の高さと厚さが大きく低減する。最大電界は尖塔表面13の凸先端部近傍であり、熱電材料11と尖塔表面13の接合面から尖塔表面13の凸先端までの高さと凸先端部の曲率半径に依存する増強因子βを用いるとその最大電界EはE=βEとなる。ここで、Eは熱電変換素子の作業物質放出表面13が平板のときの平板近傍電界である。作業物質がトンネル透過するにはこの値が10[V/m]より大きい必要がある。尖塔表面13の曲率半径を小さくし、尖塔の高さを高くし、表面13、14の端子間距離を短くすることで電界を高めることができる。電流は尖塔先端の表面近傍の電界や作業物質放出面積に依存し、作業物質の種類や作業物質の熱励起放出・作業物質の電界放出・作業物質の光放出などの放出方法によってあるいは空間12での空間電荷分布にしたがって流れる。
【0026】
図1の空間12に与えられた電圧では空間部分に生じる電界の強さを必要な値まで大きくできない場合、あるいは作業物質流が小さい場合は、図2のように作業物質である荷電粒子受取端子表面22の形状を、作業物質である荷電粒子放出尖塔表面24を囲むように変形することで、最大電界Eの値は変形する前より高まりそこでの荷電粒子放出する面積部分は増加する。またその他の尖った部位の電界が最大になる可能性もでてくる。その結果、荷電粒子放出量が増える。このように、表面22,24の形状を変化させることにより、作業物質である荷電粒子の電界放出による空間23での作業物質流が空間を挟む熱伝導材料20,21のいずれかの作業物質流に出来るだけ近づけ、あるいはより良くすることで、数1の性能指数を向上させることを可能とする。作業物質流量が小さい場合に図3のよう複数の尖塔構造30,31,32にし、並列にすることで作業物質流量を増やすことができる。
【0027】
図1の熱電材料10、11の温度勾配によって発生した電圧を、空間12での作業物質の移動に利用することで、外部に電源などを設置することなく、空間12に作業物質を流すための電界による力が発生する。尖塔部分が熱電材料であれば、その部分でも電圧を得るごとができ、数1の性能指数が大きくなる。10、11間が広いときには尖塔部分も高くなり、その部分での温度差も大きくなることから、多くの起電力を生じさせるように数十ナノメートル長程度の微結晶体の集合体からなる熱電材料、あるいは熱電材料の空間次元の制御を含めた素材形状やそれらの集合体などを尖塔の部分に用いれば最大電界Eがその部分に熱電材料を用いない場合より大きくなり、空間部分の作業物質流が増え数1の性能指数を更に改善できる。尖塔部分の熱電材料の空間次元は、1次元(図4a)あるいは2次元(図4b,c)あるいは層状(図5)にすることができる。
【0028】
作業物質は、図1の空間12中を移動しているとき、物質中10を移動しているとき、物質中11を移動しているとき、対峙表面13に存在しているとき、対峙表面14に存在しているときで位置エネルギー・運動エネルギーが異なっている。また作業物質の種類自体も変わる可能性もある。作業物質が11から10の方向に移動する場合、表面13から出る作業物質は熱電材料11から熱を奪う。一方、作業物質が空間12を移動して受取対峙端子14に結合したときには、空間12での作業物質のエネルギーと物質10での作業物質のエネルギーとの差が、熱などのエネルギーとして放出される。このとき発生される熱エネルギーを使い熱電材料10の起電力を大きくすることができる。
【0029】
図1の空間12を移動する作業物質が熱電材料表面あるいは電極表面を通過する際に、この作業物質がもつエネルギーがトンネル透過時のトンネル摩擦により表面近傍の表面作業物質状態へ散逸し、材料部分内の伝導する作業物質濃度が増加し作業物質流が多くなる。材料内や材料間の空間を移動する作業物質はその移動する方向に運動量を持っている。一方、対峙表面のエネルギー状態を変化させ作業物質の対峙面内に進入する際の摩擦エネルギー損出が少なくして、この運動量を利用することにより、さらに電流量を大きくすることができる。
【0030】
空間12があると、異種固体接合界面を透過する拡散固体原子の拡散が少なくなり、特に、高温部での熱電材料と電極間での相互の固体原子拡散が少なくなり、熱変換素子の内部抵抗Rが小さい上、耐久年数が向上する。冷却稼働時のように熱電変換素子の内部抵抗Rを小さくなるので消費電力が低減できるだけでなく、使用する電源に交流成分Iacが含まれるとRのためにR(Iac/2だけ吸熱量が低下する。このため印加する直流電源は交流成分の含有率であるリップル率が同じ電源では効率が上がる。
【0031】
請求項1は図1の対峙端子対13、14が分離した空間部分の存在する熱電変換素子であるが、上記の方法を用いても作業物質が空間部分を移動しにくく、空間部分内の伝導する作業物質流が空間部分を挟む両端の熱伝導材料内の作業物質流に満たない場合がある。この場合には図6のように作業物質良導体で空間62を架橋することで、熱流を抑えた状態で、Lmax(T)よりも長い部材を用いることで対峙する端面61から端面60への直接の格子振動による熱流を抑えて、分離しているときより大きな作業物質流を得ることが可能である。図6で63として、数ナノメートルの径をもつ柱状(図4a)あるいは、数ナノメートルの厚みをもつ筒状(図4b)あるいは、作業物質流の方向に対して垂直面の少なくとも一辺が、数ナノメートルの長さである板状(図4c)の部材を使うと肉厚を表わす断面ではない表面でのフォノン散乱の影響が表面以外でのフォノン散乱の影響に比べて顕著になる。また、この場合作業物質流の方向以外で作業物質が散乱を受けにくい状態が存在することになり、表面が作業物質流の方向での作業物質の散乱にあまり影響を与えないほどの微小断面積であれば、作業物質流が大きくなる。空間次元の影響が作業物質流に影響を与える。この断面積で、架橋部材内部の作業物質流が架橋部材を挟む両端の熱電材料の作業物質流より小さくなるときには、作業物質良導体の断面積を大きくするか、複数の作業物質良導体を用いる(以後、微細構造物で架橋した空間を繋がった空間部分と略す)。数ナノメートルの肉厚の板状の部材(図4b,c)では細い部材(図4a)に比べて作業物質流が悪くなるが、三次元であるバルクに比べてはよくなる。請求項2では図6のように熱電変換素子60、61の間62に細い伝導体小体63で対峙端子対が繋がった空間部分を持つことにより性能指数を高めることを特徴とする。
【0032】
図4aあるいは、図4で斜線をつけた断面方向から見て、図4bを組み合わせて図5aのような構成の円筒層状構造、あるいは図4cを組み合せて図5bのような構成の平板層状構造あるいは熱電材料中の作業物質流を、繋がった空間部分のない熱電材料より小さくしないだけの断面積をもつ細い柱状導体を以後、細線構造と略す。フォノンを散乱させるような界面をもつようにして作業物質の移動度の高い部分を層状にすることにより、熱の伝達を悪くし数1の性能指数を高めることができる。それに加えて、作業物質の移動度の高い隣接する部分に、径方向に作業物質が伝わらないだけの厚みを持つ作業物質の移動度の低い部分を介すことにより、細線構造全体としての作業物質流を高め数1の性能指数を高めることができる。細線63が短いとフォノンが弾道的となりそれによる熱伝導度が大きくなってしまい、性能指数が小さくなる。細線63が長い場合は、その部分に熱電材料を用いることにより、そこでの熱起電力により性能指数を上げることができる。
【0033】
細線構造はフォノンの平均自由行程よりも長いと熱伝導はフーリエ法則に従う。短く弾道的になると熱伝導が大きくなり効率がわるくなる。図6で細線構造63と60または61との界面に格子不整合、不純物、格子欠陥をできる限り少なくすることで、そこでの作業物質流がその両側にある熱電材料60、61の作業物質流にできる限り近づけるかあるいはより良くすることができる。繋がった部分空間を挟む両端の熱電材料の作業物質流を凌駕する作業物質流が得られるように図7のように複数の細線構造を空間に導入する。
【0034】
電流は、古典系作業物質あるいは量子系作業物質により伝えられる。熱は電力を生じさせるものに付随して伝えられたり、格子振動、輻射などによって伝えられたりする。空間部分が狭い場合、あるいは空間部分が細線によって架橋された場合は極低温では量子系作業物質を利用することができる。以後細線によって架橋された空間部分を繋がった空間部分と略する。磁場がある場合、ホール効果やネルンスト効果により、あるいはそれに作業物質の抵抗が加わり、熱流や電流や電圧が同じ方向を向かない。格子振動に対してはLmax(T)以上の距離であり、作業物質流に対してはそれに付随する伝熱を妨げるように空間部分や繋がった空間部分を設けることにより熱電材料の性能指数を向上させる。
【0035】
光を含む電磁波や放射線を図8の空間82に接し対峙する熱電材料81の界面に照射すると、そのエネルギーが作業物質に与えられる。これにより作業物質が高いエネルギー状態になり、空間部分への作業物質のポテンシャル障壁越えのエネルギーが小さくなる。
また作業物質のポテンシャルをトンネル透過するポテンシャル障壁の幅が小さくなる。あるいは表面上の飛び出しやすい作業物質の状態をとることができる。放射線源は、主に、作業物質の作業物質放出表面から作業物資受取表面への移動を助ける働きをする。請求項3は図8の空間82を移動する作業物質や、放出端子表面をもつ材料81や表面から空間82に出ようとする作業物質に空間82に配した電磁波供給部や放射線源から作業物質にエネルギーを与え、作業物質が空間82を伝導しやすくすることを可能とする。放射線源を作業物質の放出端子乃至放出端子81に対峙する熱電材料80表面部分に埋め込むこともできる。放射線源を作業物質放出端子81近傍に置いた場合あるいは埋め込んだ場合には、放射崩壊による熱を利用することができる。光を用いる場合には光ファイバー等を用いて空間部分内に導き作業物質放出面を照射する。あるいは空間部分での中心部分での対峙端子間距離が短く、外側で対峙端子間距離を長くすることで内部まで光が到達できるようになる。図8において81を尖塔構造にすることで電界電子放出の効果を含めることもできる。
【0036】
空間部分あるいは繋がった空間部分を含む熱変換素子は作業物質の移動度が位置的・時間的に均一でなくなる。作業物質の持つ電荷の流入量と流出量が違う界面では、作業物質の電荷の流入あるいは流出が多く電荷が蓄積し、作業物質流を阻害する。また、作業物質の電荷が蓄積すると熱変換素子の劣化が起こる。請求項4は作業物質受取端子表面あるいは放出端子表面に作業物質良導体薄膜をコーティングすることでそれら表面に局部的に存在する作業物質を拡散させる効果が得られることを特徴とする。作業物質良導体薄膜のコーティングは、素子を強化することにより、あるいは熱の集中を防ぐことにより劣化の影響を少なくし、単位時間に得られるエネルギー量を増加させる。作業物質受取端子表面あるいは放出端子表面を作業物質良導体をコーティングすることにより作業物質受取端子表面あるいは放出端子表面と熱電材料内部との局在濃度差に基づいた端子内部への移動に対する作業物質のポテンシャル障壁を小さくし、あるいは作業物質の濃度が過不足であることに基づく破壊を少なくすることができる。
【0037】
空間部分をもつ熱電変換素子では、作業物質の空間部分での移動にともない、空間内の局所的な移動による衝撃や力学的破壊により端子部分の劣化が起る。また、空間に気体、あるいは金属蒸気を封入することで、気体分子との作業物質との間の衝突、作業物質の空間でのエネルギー状態を変化させる。請求項5は作業物質放出表面透過後の放出表面内あるいは受取表面の作業物質励起による摩擦以外の熱電材料破壊を無くすためにその表面を他の物質でコーティングしたり他の物質を接合させたり、原子間結合力を大きくすることによって、あるいは原子集団で協調した動きをさせることで保護することを特徴とする。あるいは作業物質受取端子をかご型の熱電材料を用いることによって振動を吸収し劣化を防ぐことも可能である。
【0038】
熱電変換素子では、動作温度範囲にわたって、温度勾配に沿って不純物ドープによる電子濃度を連続的に制御した傾斜構造(FGM:Functionally Graded Material)にすることにより均一組成の熱電材料より性能指数を大きくすることが可能である。熱電変換素子を組み合せて使用する場合、使用目的によって性能の考え方が変わってくる。熱変換素子の電極などの金属部分も性能に影響を及ぼす。また、熱変換材料が空間部分を形成する場合、内部で対峙端面間距離の調整し空間部分の大きさを変えることで、あるいは表面形状を変えることで、作業物質の移動を容易にでき、また伝熱を小さくできる。請求項6は空間あるいは繋がった空間部分によりセグメント化されていることで、熱電材料あるいは電極材料の成分の拡散などによる性能の劣化の影響が少なく、接合による素子作成時の欠陥が無い状態で、システム構成が変更可能であることを特徴とする。図9のように対峙端面間隔距離をアクチュエータで変化させることによって種々の温度領域に対応させることを可能とする。
【0039】
セグメント化された熱電材料を組み合わせる方式では熱電システムの耐久性は熱電材料と電極部分の接合している部分やセグメントで生じる界面の使用時の温度分布、空間部分の熱膨張や熱源の熱揺らぎによる動作時の温度変化の影響による熱応力での疲労により決まる。また、このために熱電材料と電極間の接触抵抗が大きくなって、その結果、疲労亀裂のジュール熱による焼損が報告されている。空間部分を設けることによって、熱膨張による力学的な破損を防ぐことができる。対峙端子間はLmax(T)より大きくしてあるので、特に低温での量子揺らぎや、動作時の温度変化による界面の揺らぎでの熱応力による破壊や、作業物質以外の界面間移動による疲労破壊が抑えられる。
【0040】
高温部と低温部の温度差が広域であればあるほど熱変換素子内の空間部分の数は多くできる。一方、高温部と低温部の温度差が広域であるかどうかに関係なく、熱変換素子内の繋がった空間部分の数は多くすればするほど空間部分内の輻射エネルギー損出以外の付加損出が低減できる。
【0041】
高温部と低温部の温度差が広域である発電時稼動中の発電では、複数段空間部分を配すことにより、起電力を大きくすることができる。図10のように複数セグメント化された熱電材料あるいは作業物質良導体により構成されているとする。このとき、段落0038で述べたように熱電変換素子101表面にあるナノサイズの導体柱あるいはコイルの高さ、これらの作業物質放出面の曲率半径は作業物質の熱電材料のバルク状態密度からの変形や作業物質の移動に影響を与えるが、これらの値や、これら導体柱やコイルの作業物質放出表面積、空間部分端子間の最適距離およびセグメントの数は次のようにして決まる。空間部分端子間距離はサブマイクロメータでLmax(T)より大きい値から近づけることで、図10の発電稼働を具体例として、下記のように作業物質流をより大きくできる。
1)空間部分端子間内の尖塔表面から対峙端子表面間距離がLmax(T)を超えると、この空間部分のフォノンによる熱伝達をほとんど無視できる。このLmax(T)は、落0023で述べたように尖塔表面と対峙端子を構成する原子間の力と関係があり原子間力顕微鏡と測定表面間距離の実測測定範囲から得ることができる。熱膨張や熱源の熱揺らぎ、特に低温では量子揺らぎを考慮することでLmax(T)を補正できる。
2)動作中の空間部分内の尖塔表面の近傍の増強電界強度は対峙端子間での電位差/距離に曲率を考慮に入れた比例係数βをかけて近似できる。あるいは、シミュレーションによって求められる。また対峙端子間の電位差は空間部分両端の熱電材料の起電力に影響を受ける。
3)作業物質の熱励起や低温での量子揺らぎやトンネル透過による作業物質の移動量は作業物質放出面積・方向に依存する。また段落0005でも述べたように注入された端子でも、作業物質の移動の方向によって作業物質が注入された熱電材料バルクの作業物質の状態密度が注入前から変わり、その結果微視的な電気伝導度、熱伝導度に影響を与える。尖塔乃至尖塔に至る部位を細線にすることで、これらの伝導度が変化し、性能指数がよくなる。空間部分の作業物質受取端面が上記2を満たすように空間形状や空間部分端子間距離を最適化して熱電材料の作業物質流に近づける。このような工夫により段落0005でも述べたようにスムーズで効率的な作業物質の空間移動が可能となる。
4)一つの尖塔では熱電材料バルク以上の作業物質流が得られないときは、図2のように複数の尖塔を配すことにより作業物質流を大きくすることができる。複数の尖塔が電子放出端子表面に密にあると上記2のβの効果が大きく低減される。電界電子放出による作業物質流が分割される前の両端にある熱電材料の作業物質流以上になるか、あるいはできるだけ近づけるように電子放出端子表面の尖塔密度を含めて最適化する。このようにして適切な空間部分端子間距離が定まる。
温度差が広域であるために、分割される前の両端にある熱電材料の作業物質流以上になるか、空間部分内の増強電界強度による電界電子放出による作業物質流れが熱電材料バルクの作業物質流量以上になるか、あるいはできるだけ近づけるように電子放出端子表面の尖塔密度を含めて最適化できるならば、以上の1から4の工夫を他の空間部分に適応する。上記の結果、1個以上の電極端子表面の形状を含めて最適化された空間部分により、対峙端子間温度差による輻射放出エネルギー損失以外の付加損出を大きく低減できる。高温部と低温部の温度差が狭域である発電稼動がある場合は、空間部分端子間距離の最適化ができない。この場合は図6の繋がった空間部分を用いる。冷却の場合は必要なだけの電圧・電流を印加する。上記のように製造されれば、熱電材料の性能指数が最高であっても、熱変換素子の性能指数は大きく改善される。また冷却稼働は発電稼働の可逆過程なので、冷却稼働でもこのように製造された熱変換素子の効率は大きく改善される。
【0042】
図10に示された熱電材料群は必ずしも図示された順序で、しかも全てを用いて熱変換素子に作製される必要はない。また、二組の極性の違う熱変換素子からなるπ型モジュールのように、他の熱電材料群に依存しない熱電材料群は、他の熱電材料群と並行して独立した形態でπ型モジュールが作製されてもよい。さらに、複数のπ型モジュールが直列あるいは並列、または直列と並列の混成したπ型モジュール群となる集合でシステムに実装される。直列あるいは並列、または直列と並列の混成したπ型モジュールで実装の数多くの組み合わせを例として説明したが、明らかなように、π型モジュール以外の熱変換素子からなる組み合わせからなるモジュールも本発明の範囲及び精神に従って意図される。
【0043】
図9のように熱電材料90と91あるいは熱電材料と端子を移動させる代わりに、熱電材料90との間で作業物質が散乱されにくく、しかも作業物質を放出する対峙端面91の尖塔の放出面積より大きくしかもそれに相似形状またはそれを囲む形状をもつ微小な作業物質の良伝導体94が作業物質の放出面に平行に移動するのをこの95に配置したアクチュエータは助ける。稼働開始時に交流を重畳することによって、空間部分92あるいは、アクチュエータが駆動する面94と電極表面90との間93がコンデンサーの役割を果たすことにより空間部分にかかる電圧を高い状態にすることができる。その結果、その高電圧を初動動作のトリガーとして利用できる。また、多段にすることでCR発振やCL発振を利用することで稼働時に目的とする空間部分にかかる電圧を高い状態にすることができる。
【0045】
本発明の原理に従った熱電材料の性能指数の最大化や最適化されたπ型モジュールやシステム実施形態についての以上の説明は、熱電材料、π型モジュールやシステムの最適化の例示及び説明を提供するものであり、網羅的なものでも、本発明の範囲を開示されたシステム実施形態そのものに限定するものでもない。以上の教示により変更及び変形が可能であり、あるいは、本発明の様々なシステム実施形態の実施から変更及び変形が得られる。明らかなように、請求項に係る発明に従った空間部分あるいは繋がった空間部分を持つ熱電材料より熱変換素子を実現する方法、π型モジュール及び/又はシステムを提供することには、数多くの実施形態が採用され得る。
【0046】
本出願の説明に使用された如何なるアクチュエータ、π型モジュールそしてシステム、特に断らない限り、本発明に決定的に重要な、あるいは不可欠なものとして解されるべきではない。
【発明の効果】
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】熱電変換素子の尖塔端子を含む空間部分の図。
図2】熱電変換素子の尖塔端子とそれを囲む端子を含む空間部分の図。
図3】熱電変換素子の尖塔構造を複数持つ空間部分の図。
図4】肉厚の断面積が微細な柱構造図。(a)は円柱。(b)は中空筒。(c)は直方体。
図5】層状構造をもつ架橋部材の肉厚断面図。(a)は円柱。(b)は直方体。
図6】熱電変換素子の繋がった空間部分の図。
図7】熱電変換素子で複数の架橋部材をもつ繋がった空間部分の図。
図8】熱電変換素子の空間部分の図。
図9】作業物質放出端面と相似形状をもつアクチエータで動作する作業物流のある空間部分の図。
図10】熱電変換素子の多段にセグメント化された空間部分の図。
【発明を実施するための形態】
【符号の説明】
【0048】
10 作業物質受取端子表面をもつ熱電材料または作業物質良導体
11 作業物質放射端子表面をもつ熱電材料または作業物質良導体
12 空間
13 作業物質放出端子の尖塔表面
14 作業物質受取端子表面
20 作業物質受取端子表面をもつ熱電材料または作業物質良導体
21 作業物質放射端子表面をもつ熱電材料または作業物質良導体
22 空間
23 作業物質放出端子の尖塔表面
24 作業物質受取端子表面
30、31、32 尖塔構造
60 熱電材料
61 熱電材料または作業物質良導体
62 空間
63 作業物質良導体である架橋部材
70 作業物質受取端子表面をもつ熱電材料または作業物質良導体
71 作業物質放射端子表面をもつ熱電材料または作業物質良導体
72 空間作業物質良導体
73 複数の架橋部材
80 作業物質受取端子表面をもつ熱電材料または作業物質良導体
81 作業物質放射端子表面をもつ熱電材料または作業物質良導体
82 空間
90、91 熱電材料または作業物質良導体
92 空間
93 相似形状をもつ面と電極表面との間の空間
94 相似形状をもつ面
95 相似形状をもつ面と電極表面との間を保持し、作業物質が流れるようにする材料
100、101、102 熱電材料または作業物質良導体のセグメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10