特許第5771861号(P5771861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5771861-車両用液圧ブレーキ装置 図000002
  • 特許5771861-車両用液圧ブレーキ装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771861
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】車両用液圧ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20150813BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B60T8/17 B
   B60T8/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-71503(P2012-71503)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-203119(P2013-203119A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】三輪 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】磯野 宏
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−001069(JP,A)
【文献】 特開2012−016984(JP,A)
【文献】 特開2010−000929(JP,A)
【文献】 特表2010−517840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/96
B60T 10/00−11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧の液圧源(10)から供給される液圧を調圧装置(11)でドライバーのブレーキ操作に応じた値、又は、電子制御装置(14)が設定した目標制動力を得るのに必要な圧力に調圧し、調圧後の液圧でマスタシリンダ(7)を作動させてブレーキ液圧を発生させ、そのブレーキ液圧をホイールシリンダ(8)に向けて供給する車両用液圧ブレーキ装置であって、
ブレーキ操作力を受けて前進する入力ピストン(4)と、この入力ピストン(4)の先端を臨ませた第1液室(C1)と、前記調圧後の液圧を導入して前記マスタシリンダ(7)のマスタピストン(7a)に加える第2液室(C2)と、前記第1液室、第2液室とともにハウジング(16)の内部に設けられる第3液室(C3)及び第4液室(C4)と、前記第1液室(C1)の液圧を反力ピストン(5a)の前面に受けてブレーキ操作量に応じた反力を前記入力ピストン(4)に加えるストロークシミュレータ(5)と、前記ハウジング(16)の内孔に液密に嵌合される、前記入力ピストン(4)を内部に配置した固定スリーブ(17)と、前記第3液室(C3)からの排出経路に設けられる第1電磁開閉弁(12)と、前記第4液室(C4)を選択的に密封・解放する常閉型の第2電磁開閉弁(13)とを有し、
前記マスタピストン(7a)の有底円筒部の後部開口の穴(H)に前記固定スリーブ(17)の先端側が摺動自在に挿入され、前記反力ピストン(5a)の内周と前記入力ピストン(4)の先端側外周との間に前記有底円筒部の底壁(Bw)を臨ませる前記第1液室(C1)が、前記固定スリーブ(17)の大径部の前面側に前記マスタピストン(7a)の後部大径部(7Ld)の背面を臨ませる前記第2液室(C2)が、前記マスタピストン(7a)の外周と前記ハウジング(16)の内孔との間に前記マスタピストンの後部大径部(7Ld)の前面を臨ませる前記第3液室(C3)が、前記固定スリーブ(17)の内側に液密かつ摺動自在に挿入された前記入力ピストン(4)の後部大径部と前記反力ピストン(5a)との間に前記第4液室(C4)がそれぞれ形成され、
前記第1電磁開閉弁(12)が閉弁した状態では前記第1液室(C1)と第3液室(C3)が連通し、ブレーキ操作がなされた状態で前記第1電磁開閉弁(12)を開弁させることで前記第1液室(C1)と第3液室(C3)の連通が遮断されて前記第1液室(C1)が密封されるように構成された車両用液圧ブレーキ装置。
【請求項2】
前記マスタピストン(7a)の前記第3液室(C3)の液圧を受ける受圧面の面積と前記第1液室(C1)の液圧を受ける受圧面の面積を等しくした請求項1に記載の車両用液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
前記固定スリーブ(17)の先端外周と前記マスタピストン(7a)の有底円筒部の内周との間を液密にシールする第1シール部材(18)と、その第1シール部材(18)よりも後方において前記固定スリーブ(17)を貫通して当該固定スリーブの先端側小径部(17s)の外周と内周を連通させる連通ポート(19)と、その連通ポート(19)よりも後方において前記反力ピストン(5a)の外周と固定スリーブ(17)の内周との間を液密にシールする第2シール部材(20)を設け、前記第3液室(C3)の液圧が解放されたときに前記第2シール部材(20)が前記反力ピストン(5a)とともに変位して前記連通ポート(19)を介した前記第1液室(C1)と第3液室(C3)の連通を遮断するようにした請求項1又は2に記載の車両用液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
前記ストロークシミュレータ(5)を、前記入力ピストン(4)の先端側外周と前記固定スリーブ(17)の内周との間に液密、かつ、摺動自在に嵌めて入力ピストン(4)に対する前方への相対移動をストッパ(4b)で規制した前記反力ピストン(5a)と、その反力ピストン(5a)の後方において入力ピストン(4)の外周に摺動自在に嵌める浮動リテーナ(5b)と、その浮動リテーナ(5b)と前記反力ピストン(5a)との間及びその浮動リテーナ(5b)と前記固定スリーブ(17)の内側に液密に挿入された前記入力ピストン(4)の後部大径部(4Ld)との間にそれぞれ設けるコイルスプリング(5c、5d)とで構成した請求項1〜3のいずれかに記載の車両用液圧ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用液圧ブレーキ装置、詳しくは、回生協調ブレーキや自動ブレーキを実行可能な構造において、良好な操作フィーリング(いわゆるペダルフィーリング)を確保することを可能にしたブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧の液圧源から供給される液圧を調圧装置によってドライバーのブレーキ操作に応じた値や、電子制御装置がドライバーのブレーキ操作とは無関係に設定した値に調圧し、調圧後の液圧でマスタシリンダのマスタピストンの作動を助勢してブレーキ液圧を発生させることのできるバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置が、例えば、下記特許文献1に開示されている。
【0003】
同文献の図3に記載されたブレーキ装置は、ブレーキ操作力を受けて前進する入力ピストンと、高圧の液圧源から供給される液圧を、目標制動力を得るのに必要な圧力に調圧して第3圧力室(ブースト室)に送り込む調圧装置(調圧手段)と、調圧後の液圧でマスタピストン(中間ピストン)を駆動してブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダを有している。
【0004】
前記入力ピストンは、マスタピストンの後端に開口した孔に軸方向摺動自在に挿入されており、その入力ピストンの先端をマスタピストンの内部に設けられたリリーフ室に臨ませている。また、マスタピストンの後端を前記第3圧力室に臨ませ、マスタピストン内の前記リリーフ室と前記第3圧力室との間を、マスタピストンの孔の内周面と入力ピストンの外周との間に介在した高圧シールでシールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の図3に記載されたブレーキ装置は、調圧装置によって調圧された液圧が第3圧力室に導入されると、マスタシリンダのマスタピストンがその圧力を背面に受けて前進する。このとき、マスタピストンと入力ピストンとの間に介在した高圧シールよる摺動抵抗によって入力ピストンがマスタピストンに引きずられ、そのために、ブレーキペダルに加わるブレーキの操作反力がブレーキ操作量と対応しないものになってブレーキの操作フィーリングが悪化する。
【0007】
そこで、この発明は、特許文献1が提案しているようなバイワイヤ式の車両用ブレーキ装置における操作フィーリングの悪化の問題を解消することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明においては、高圧の液圧源から供給される液圧を調圧装置でドライバーのブレーキ操作に応じた値、又は、電子制御装置が設定した目標制動力を得るのに必要な圧力に調圧し、調圧後の液圧でマスタシリンダを作動させてブレーキ液圧を発生させ、そのブレーキ液圧をホイールシリンダに向けて供給するバイワイヤ式の車両用液圧ブレーキ装置を以下の通りに構成する。
即ち、ブレーキ操作力を受けて前進する入力ピストンと、この入力ピストンの先端を臨ませた第1液室(第1反力室)と、前記調圧後の液圧を導入して前記マスタシリンダのマスタピストンに加える第2液室(ブースト室)と、前記第1液室、第2液室とともにハウジングの内部に設けられる第3液室(第2反力室)及び第4液室と、前記第1液室の液圧を反力ピストンの前面に受けてブレーキ操作量に応じた反力を前記入力ピストンに加えるストロークシミュレータと、前記ハウジングの内孔に液密に嵌合される、前記入力ピストンを内部に配置した固定スリーブと、前記第3液室からの排出経路に設けられる第1電磁開閉弁と、前記第4液室を選択的に密封・解放する常閉型の第2電磁開閉弁とを有し、
前記マスタピストンの有底円筒部の後部開口の穴に前記固定スリーブの先端側が摺動自在に挿入され、前記反力ピストンの内周と前記入力ピストンの先端側外周との間に前記有底円筒部の底を臨ませる前記第1液室が、前記固定スリーブの大径部の前面側に前記マスタピストンの後部大径部の背面を臨ませる前記第2液室が、前記マスタピストンの外周と前記ハウジングの内孔との間に前記マスタピストンの後部大径部の前面を臨ませる前記第3液室が、前記固定スリーブの内側に液密かつ摺動自在に挿入された前記入力ピストンの後部大径部と前記反力ピストンとの間に前記第4液室がそれぞれ形成され、
前記第1電磁開閉弁が閉弁した状態では前記第1液室と第3液室が連通し、前記第2液室に導入される液圧が最大圧に達した状態からブレーキ操作がさらになされたときに前記第1電磁開閉弁を開弁することでその連通が遮断されて前記第1液室が密封されるようにした。
【0009】
マスタピストンは、第3液室の液圧を受ける受圧面の面積と第1液室の液圧を受ける受圧面の面積を等しくしてそのマスタピストンの前進に伴う第3液室の容積減少量と第1液室の容積増加量が等しくなるようにしておくのがよい。
【0010】
この車両用液圧ブレーキ装置は、前記固定スリーブの先端外周と前記マスタピストンの有底円筒部の内周との間を液密にシールする第1シール部材と、その第1シール部材よりも後方において前記固定スリーブを貫通して当該固定スリーブの先端側小径部の外周と内周を連通させる連通ポートと、その連通ポートよりも後方において前記反力ピストンの外周と固定スリーブの内周との間を液密にシールする第2シール部材を設け、前記第3液室の液圧が解放されたときに前記第2シール部材が前記反力ピストンとともに変位して前記第2シール部材が前記連通ポートを介した前記第1液室と第3液室の連通を遮断する構造にすると好ましい。
【0011】
また、前記ストロークシミュレータを、前記入力ピストンの先端側外周と前記固定スリーブの内周との間に液密、かつ、摺動自在に嵌めて入力ピストンに対する前方への相対移動をストッパで規制した前記反力ピストンと、その反力ピストンの後方において入力ピストンの外周に摺動自在に嵌める浮動リテーナと、その浮動リテーナと前記反力ピストンとの間及びその浮動リテーナと前記固定スリーブの内側に液密に挿入された前記入力ピストンの後部大径部との間にそれぞれ設けるコイルスプリングとで構成するのも好ましい。
【0012】
なお、この発明の車両用液圧ブレーキ装置には、電子制御装置からの指令に基づいてホイールシリンダの液圧を調整する減圧用電磁弁と増圧用電磁弁の組み込まれたESC制御も実行可能なABSユニットを含ませることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の車両用液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダが第2液室に導入される液圧(助勢圧)を受けて入力ピストンから切り離された状態で作動するバイワイヤ式であるので、回生協調ブレーキや自動ブレーキを実行することができる。
【0014】
また、第2液室の圧力を受けるマスタピストンが入力ピストンから切り離されているため、高圧源から第2液室に液圧が導入されたときのマスタピストンとの間に設けたシール部材の摩擦力による入力ピストンの引きずりが起こらない。そのために、ブレーキ操作量に対する操作反力の変動が防止されてその操作反力の変動に起因した操作フィーリングの悪化の問題が生じない。
【0015】
また、電源系統の失陥時には第4液室が密封されてストロークシミュレータの圧縮が規制されるため、ストロークロスの増加が抑制される。
【0016】
さらに、正常な状態でマスタピストンが前進すると第3液室の容積が縮小されるが、このときは、第1液室の容積が拡大するので、第3液室から押し出されるブレーキ液は第1液室に取り込まれ、これにより、第1液室の液圧変動が防止され、このことも操作反力の安定化と操作フィーリングの改善に寄与する。
【0017】
また、正常な状態で制動が行われて高圧の液圧源から第2液室に導入される液圧がサーボ圧限界に達したときには、前記第1電磁開閉弁が開放され、前記第3液室及び第1液室内の液が外部に流出可能となり、前記反力ピストンが前記固定スリーブに対して前進することで前記第2シール部材が第1液室と第3液室の連通を遮断する。そのために第1液室が密封され、ドライバーによる操作入力が第1液室に封じ込められたブレーキ液を介して入力ピストンからマスタピストンに伝達される。これにより、サーボ圧限界後のドライバーによるブレーキペダルの踏み増しによってブレーキ液圧発生装置で発生させるブレーキ液圧を増圧させることも可能になる。
【0018】
例えば、制動時にフェード現象が発生するとパッドの摩擦係数が低下して制動効率が悪化する。従って、このようなときには、より高い制動力を発生させることが望まれる。また、より高い制動力を発生させることができれば、高液圧源のポンプや蓄圧器を小型化することも可能になる。この発明のブレーキ装置は、サーボ圧限界後のブレーキペダルの踏み増しによってブレーキ液圧を増大させることが可能であり、装置の信頼性向上や小型化に寄与できる。
【0019】
なお、マスタピストンについて、第3液室の液圧を受ける受圧面の面積と第1液室の液圧を受ける受圧面の面積を等しくしたものは、そのマスタピストンの前進に伴う第3液室の容積減少量と第1液室の容積増加量が等しくなる。そのために、第1液室に臨む反力ピストンの進退が抑制され、ストロークシミュレータの伸縮への影響が防止できるので、ブレーキ操作量に対する操作反力の変動の防止がより安定してなされ、より良い操作フィーリングが得られる。
【0020】
また、前記第3液室の液圧が解放されたときに前記第2シール部材が前記反力ピストンと共に変位して前記連通ポートを介した前記第1液室と第3液室の連通を遮断するものは、簡素で加工性にも優れる構造で、前記第1液室と第3液室を連通・遮断することができる。
【0021】
また、前記ストロークシミュレータを、前記入力ピストンの先端側外周と固定スリーブの先端側内周との間に液密かつ摺動自在に組み込む反力ピストンと、その反力ピストンの後方において入力ピストンの外周に嵌める浮動リテーナと、その浮動リテーナと前記反力ピストンとの間及びその浮動リテーナと前記入力ピストンの後部大径部との間にそれぞれ設けるコイルスプリングとで構成したものは、ストロークシミュレータがマスタシリンダの内部に組み込まれるため、装置の小型化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の車両用液圧ブレーキ装置の一例を示す断面図
図2図1の一部を拡大して示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の車両用液圧ブレーキ装置の実施の形態を、添付図面の図1及び図2に基づいて説明する。図1に示すように、例示の車両用液圧ブレーキ装置は、ブレーキペダル1と、そのブレーキペダル1を戻り方向に付勢する復帰スプリング2と、ブレーキペダル1に接続された入力ロッド3と、その入力ロッド3の先端に連結して入力ロッド3の前方に延びださせた入力ピストン4を有している。入力ピストン4の先端には、弾性体4aが固定されている。
【0024】
また、ブレーキ操作量に応じた操作反力を発生させるストロークシミュレータ5とブレーキ液圧発生装置6と、タンデム型のマスタシリンダ7と、そのマスタシリンダで発生させたブレーキ液圧で作動して各車輪に制動力を加えるホイールシリンダ8と、マスタシリンダ7からホイールシリンダ8に供給されるブレーキ液圧を必要に応じて調整する、横すべり防止制御も可能なABSユニット9を有する。
【0025】
さらに、高圧の液圧源10と、その液圧源10から供給される液圧を、目標制動力を得るために必要な圧力に調整する調圧装置11と、2箇所の排出路を個別に開閉する電磁開閉弁12,13と、ブレーキの操作状況や車両の挙動を検出する既知の各種センサからの情報に基づいて目標制動力を設定し、調圧装置11に対して必要な調圧指令を出す電子制御装置(ECU)14を有している。電子制御装置14は、必要に応じてABSユニット9にも調圧指令を出す。15は、ブレーキ液圧発生装置6に付属させたリザーバである。
【0026】
マスタシリンダ7は、2個のマスタピストン(プライマリピストンとセカンダリピストン)7a、7bと、各ピストンを復帰させる復帰スプリング7cと、各ピストンの外周をシールするカップシール7dを備えており、マスタピストン7a、7bで圧力室PC1、PC2のブレーキ液を加圧してブレーキ液圧を発生させる。これは周知の構造のシリンダである。
【0027】
ABSユニット9は、ホイールシリンダ8の液圧を必要時に降圧させる減圧用電磁弁(図示せず)と、ホイールシリンダ8の液圧を必要時に昇圧させる増圧用電磁弁(これも図示せず)を備える周知の構造の調圧ユニットである。
【0028】
液圧源10も、モータに駆動されるポンプ10aと蓄圧器10bを組み合わせた周知の構造の液圧源である。
【0029】
調圧装置11は、パイロットライン11aを通してマスタシリンダの出力経路から導入されるパイロット圧を検知しながら、内部の弁体(図示せず)を電子制御装置14からの指令値の大きさに応じた液圧差を生じさせるべく調節し、液圧源10から供給される液圧を減圧制御によりドライバーの操作等に基づく要求液圧値に調圧して第2液室C2に供給する。これも周知の装置である。
【0030】
ストロークシミュレータ5とマスタシリンダ7は、直列に配置してブレーキ液圧発生装置6のハウジング16に組み込まれている。
【0031】
ハウジング16の内孔には、中間部を大径にした固定スリーブ17が組み込まれており、その固定スリーブ17の内側に入力ピストン4と、ストロークシミュレータ5が設けられている。
【0032】
ストロークシミュレータ5は、入力ピストンの先端側外周と固定スリーブ17の先端側内周との間に液密かつ摺動自在に組み込まれる反力ピストン5aと、その反力ピストン5aの後方において入力ピストン4の外周に摺動可能に嵌める浮動リテーナ5bと、その浮動リテーナ5bと反力ピストン5aとの間及びその浮動リテーナ5bと入力ピストン4の後部大径部4Ldとの間にそれぞれ設けるコイルスプリング5c、5dとで構成されている。
【0033】
反力ピストン5aは、入力ピストン4の外周に設けたストッパ4bで入力ピストン4に対する前方への相対移動が規制されている。ストッパ4bは反力ピストン5aに加わるスプリングの反力を受け止める。
【0034】
コイルスプリング5cのばね定数は、コイルスプリング5dのばね定数よりも小さい。従って、ブレーキペダル1が踏み込まれて入力ピストン4が前進すると、先ずコイルスプリング5cが圧縮され、その圧縮があるところまで進行した後にコイルスプリング5dが圧縮される。これにより、ブレーキペダル1の踏み込み量に対する反力の関係を扱い易い非線形な特性にすることで良好な操作性が得られる。
【0035】
固定スリーブ17の先端側は、マスタピストン7aの有底円筒部の後部開口の穴Hに摺動自在に挿入され、反力ピストン5aの内周と入力ピストン4の先端側外周との間に第1液室C1が設けられ、その第1液室C1にマスタピストンの有底円筒部の底壁Bwが臨んでいる。また、反力ピストン5aの先端と入力ピストン4の先端も前記底壁Bwに対向して第1液室C1に臨んでいる。
【0036】
また、マスタピストン7aの後端部と固定スリーブ17の中間大径部前面との間に第2液室C2が設けられ、マスタピストン7aの外周とハウジング16の内孔との間にマスタピストン7aの後部大径部7Ldの前面を臨ませる第3液室C3が設けられ、さらに、固定スリーブ17の内側に入力ピストン4の後部大径部4Ldが液密かつ摺動自在に挿入され、その後部大径部4Ldと反力ピストン5aとの間に第4液室C4が設けられている。
【0037】
第2液室C2には、調圧装置11で調圧した液圧(助勢圧)が導入される。また、第4液室C4は、第2電磁開閉弁13によって選択的に密封・解放される。この第4液室C4が、常閉型の第2電磁開閉弁13によって密封されると、シミュレータのコイルスプリングがたわむことなくドライバーの操作力がマスタピストン7aに対して封入されたブレーキ液と反力ピストン5aを介して伝達され、従って、電気系統失陥時にも、ドライバーの操作力でマスタシリンダ7を作動させてブレーキ液圧を発生させることができる。
【0038】
第1液室C1と第3液室C3は、通常制動では連通した状態が保たれるようになっている。マスタピストン7aは、第3液室C3の液圧を受ける受圧面(後部大径部7Ldの前面)と第1液室C1の液圧を受ける受圧面(底壁Bwの壁面)の面積を等しくしてあり、そのマスタピストン7aの前進に伴う第3液室C3の容積減少量と第1液室C1の容積増加量が等しくなる。
【0039】
これにより、第1液室C1と第3液室C3が密封された状態でマスタピストン7aが前進したときに第1液室C1が負圧になって入力ピストン4が引っ張られるといった現象が起こらない。
【0040】
図2に示すように、マスタピストン7aの後部開口の穴Hに挿入された固定スリーブ17の先端外周とマスタピストン7aの有底円筒部の内周との間は、固定スリーブ17の先端外周のシール溝に収めた第1シール部材18によって液密にシールされている。
【0041】
その第1シール部材18よりも後方において、固定スリーブ17を厚み方向に貫通して同スリーブの先端側小径部17sの外周と内周を連通させる連通ポート19が固定スリーブ17に設けられている。なお、固定スリーブの先端側小径部17sの外周は、マスタピストン7aに設けたポート21を介して第3液室C3に連通している。
【0042】
また、その連通ポート19よりも後方に、反力ピストン5aの外周と固定スリーブ17の内周との間を液密にシールする第2シール部材20が設けられている。
【0043】
第2シール部材20によるシール部は、第1液室C1と第3液室C3が密封される通常制動時には、第1液室C1に封入されるブレーキ液によって反力ピストン5aの前進が阻止される(そのために、固定スリーブ17に対する反力ピストン5aの相対移動が起こらない)ことから、固定スリーブ先端側小径部17sの内外周の連通ポート19を介しての連通を維持する位置に保持される。
【0044】
また、第3液室C3の液圧が解放されると反力ピストン5aは前進移動が許容され、その反力ピストン5aが前進することで第2シール部材20によるシール部も前方に移動する。このとき、第2液室C2に導入される液圧がサーボ圧限界に達していたとすると、マスタピストン7aは既に大きく前進しており、このために、第2シール部材20によるシール部は、連通ポート19を通り越した位置まで動くことができる。
【0045】
これにより、第2シール部材20によって連通ポート19を介した固定スリーブ17の内外周の連通状態を切り換えることができ、その連通状態を断つことで、第1液室C1を密封してその第1液室C1に封入されたブレーキ液を介してドライバーが加えたブレーキ操作力を入力ピストン4と反力ピストン5aからマスタピストン7aに伝達することができる。
【0046】
このために、サーボ圧限界後にドライバーによるブレーキペダルの踏み増しがなされると、第2液室C2の液圧による推力にドライバーによるブレーキ操作力が加算された力でマスタシリンダ7が駆動され、そのマスタシリンダが発生させるブレーキ液圧が増圧されてサーボ圧限界時に得られる制動力よりも大きな制動力を得ることが可能になる。
【0047】
図1中Pの符合を入れた要素は、必要箇所の液圧を検出する圧力センサである。この圧力センサは、図示の装置では、マスタシリンダ7の出力圧を検出する位置と、第2液室C2の圧力を検出する位置及び液圧源10の圧力を検出する位置の3箇所に設けられている。
【0048】
マスタシリンダ7の出力圧を検出するセンサと液圧源10の圧力を検出するセンサの検出値を比較するなどで第2液室C2に導入される液圧がサーボ圧限界に達したか否かを知ることができる。サーボ圧限界に達したことを検知したら、第1電磁開閉弁12を開弁させて第3液室C3の液圧を解放する。これにより、前述したような作用によりサーボ圧限界時に得られる制動力よりも大きな制動力を発生させることが可能になる。
【0049】
以上の通りに構成した図1の車両用液圧ブレーキ装置は、液圧源10の液圧による助勢力がサーボ圧限界以下であるとき、例えば、フェードが発生していない通常のブレーキや回生協調ブレーキが実行されるときには、ブレーキペダル1が踏み込まれたとき、第1電磁開閉弁12が閉弁しており、また、第2電磁開閉弁13は開弁されている。これにより、第1液室C1と第3液室C3が連通した状態で封鎖され、第4液室C4はリザーバ15に解放されている。
【0050】
この状況下で調圧装置11によってブレーキ操作量に応じた値となるように調圧された液圧源10からの液圧が第2液室C2に導入され、その導入液圧でマスタピストン7aが前進して{第3液室C3の液圧によるピストン反力は第1液室C1の液圧によるピストン推力と相殺されてゼロになる}マスタシリンダ7が作動し、圧力室PC1、PC2にブレーキ液圧が発生する。
【0051】
マスタピストン7aが前進すると第3液室C3の容積が縮小するが、第3液室C3に連通している第1液室C1に第3液室C3の容積縮小量と同量の容積拡大が生じるため、第3液室C3内のブレーキ液は第1液室C1に逃げ、これにより、マスタピストン7aの前進につられて反力ピストン5aが前進することなく原位置が維持されるので、ストロークシミュレータによるペダル反力に影響を与えることなく通常ブレーキや回生協調ブレーキをかけることができる。
【0052】
このように、マスタシリンダ7が入力ピストン4から切り離された状態で制動が行われるので、液圧源10から第2液室C2に液圧が導入されたときのマスタピストン7aによる入力ピストン4の引きずりが起こらない。また、マスタピストン7aの移動に伴う第3液室C3の容積縮小量と第1液室C1の容積拡大量が等しくなるようにして第3液室C3と第1液室C1を連通させているため、ブレーキペダルに加わる操作反力がブレーキ操作量と対応したものになってブレーキの操作フィーリングが良くなる。
【0053】
また、第1電磁開閉弁12を開弁させて第3液室C3の液圧を解放すると、反力ピストン5aが前進し、その反力ピストン5aに装着した第2シール部材20が前方に移動する。このとき、第2液室C2に導入される液圧がサーボ圧限界に達したなら、マスタピストン7aは既に大きく前進しているため、第2シール部材20によるシール部は連通ポート19を通り越した位置まで動き、連通ポート19による固定スリーブ17の内外周の連通が遮断される。
【0054】
これにより、第1液室C1を密封してその第1液室C1に封入されたブレーキ液を介してドライバーが加えたブレーキ操作力を入力ピストン4からマスタピストン7に伝達することができる。
【0055】
このために、サーボ圧限界後のドライバーによるブレーキペダルの踏み増しでブレーキ液圧が増圧され、サーボ圧限界時に得られる制動力よりも大きな制動力を得ることが可能になる。
【0056】
また、電気系統失陥時には、第2電磁開閉弁13が閉じているため、ブレーキ操作力が入力ピストン4から反力ピストン5aと第1液室C1に封入されたブレーキ液を介してマスタピストン7aに伝達されるため、ブレーキペダルのストロークロスが小さく抑えられ、安全性も確保される。
【符号の説明】
【0057】
1 ブレーキペダル
2 復帰スプリング
3 入力ロッド
4 入力ピストン
4a 弾性体
4b ストッパ
4Ld 後部大径部
5 ストロークシミュレータ
5a 反力ピストン
5b 浮動リテーナ
5c、5d コイルスプリング
7 マスタシリンダ
7a マスタピストン
7Ld 後部大径部
H 後部開口の穴
Bw 底壁
8 ホイールシリンダ
9 ABSユニット
10 液圧源
11 調圧装置
11a パイロットライン
12 第1電磁開閉弁
13 第2電磁開閉弁
14 電子制御装置
15 リザーバ
16 ハウジング
17 固定スリーブ
17s 先端側小径部
18 第1シール部材
19 連通ポート
20 第2シール部材
C1〜C4 第1液室〜第4液室
P 圧力センサ
図1
図2