(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0011】
(実施形態1)
図1〜
図4に、トランスファ成形による樹脂モールド装置1の要部であるモールド金型2の断面を示す。この
図1〜
図4では、プランジャ18の軸で左右対称となるモールド金型2の片側(右側)を示している。また、
図1〜
図4では、ワークWがモールド金型2に供給されて樹脂モールドされるまでの動作状態を示している。
【0012】
まず、樹脂モールド装置1の動作を概略する。樹脂モールド装置1は、被成形品供給部(図示しない)からローダによりワークW(被成形品)をモールド金型2に供給する(
図1)。次いで、モールド金型2でワークWをクランプし(
図2)、キャビティ凹部11に溶融樹脂19aを完全に充填するまで注入する(
図3)。次いで、キャビティ凹部11の底部を浅くして、キャビティ凹部11で充填されている溶融樹脂19aを圧縮して樹脂モールドする(
図4)。次いで、型開きしたモールド金型2からアンローダによりワークW(成形品)を取り出して成形品収納部(図示しない)へ収納する。なお、
図1〜
図4に示すワークWは、配線基板上に複数の半導体チップがフリップチップ実装されたものである。
【0013】
次に、樹脂モールド装置1の構成について説明する。
図1に示すように、樹脂モールド装置1は、上下一対のワークWをクランプする上型3および下型4を有するモールド金型2を備えている。上型3を固定型とし、下型4を可動型とした場合、上型3に対して下型4が近接してモールド金型2が型閉じされ、上型3に対して下型4が離間してモールド金型2が型開きされる。なお、上型3を可動型、下型4を固定型としても良く、また両者を可動型としても良い。
【0014】
モールド金型2の上型3は、例えば合金工具鋼からなる部材(ブロック)が組み付けられて構成されている。具体的には、上型3は、上型ベース5と、上型チェイス6と、上型インサート7、上型キャビティインサート8と、上型可動クランパ9と、ストッパ10とを有して構成されている。このような部材で構成される上型3には、ワークWをクランプするクランプ面3aが形成されている。また、上型3には、キャビティ凹部11、ランナ12およびカル13が連通して形成されている。これらキャビティ凹部11、ランナ12およびカル13は、ワークWのクランプ時において内部空間C(
図2〜
図4参照)を形成する。
【0015】
下向き凹部状の上型チェイス6は、その底部側で上型ベース5に固定して組み付けられている。この上型チェイス6の凹部内に上型インサート7、上型キャビティインサート8、上型可動クランパ9が設けられる。また、上型チェイス6の凹部縁部にストッパ10が設けられる。
【0016】
また、上型インサート7は、上型チェイス6に固定して組み付けられている。また、上型可動クランパ9は、上型チェイス6の貫通孔に設けられたスプリング14を介して上型ベース5に対して弾発するように上下動可能に組み付けられている。この上型可動クランパ9では、上型キャビティインサート8を内包するような凹部、およびその底部で上型インサート7が設けられる貫通孔が形成されている。また、上型可動クランパ9では、その凹部縁部に上型3のクランプ面3aが形成されている。また、上型可動クランパ9では、クランプ面3aから凹んでキャビティ凹部11、ランナ12およびカル13が形成されている。
【0017】
上型キャビティインサート8は、上型インサート7に固定して組み付けられている。また、上型キャビティインサート8は、上型可動クランパ9の凹部に内包して設けられている。また、上型キャビティインサート8は、型開閉方向と直交方向(
図1〜
図4の左右方向)において上型インサート7より幅広となっている。このため、上型キャビティインサート8は、上下動する上型可動クランパ9の抜け止めとしての役割をしている。また、上型キャビティインサート8は、上型可動クランパ9とともに、キャビティ凹部11を形成する。なお、キャビティ凹部11の底部が上型キャビティインサート8で構成され、キャビティ凹部11の側部が上型可動クランパ9で構成される。
【0018】
モールド金型2の下型4は、例えば合金工具鋼からなる部材(ブロック)が組み付けられて構成されている。具体的には、下型4は、下型チェイス15と、下型インサート16と、ポット17と、プランジャ18とを有して構成されている。このような部材で構成される下型4には、ワークWをクランプするクランプ面4aが形成されている。
【0019】
上向き凹部状の下型チェイス15は、その底部側で図示しない下型ベースに固定して組み付けられている。この下型チェイス15では、その底部の中央部でポット17が設けられる貫通孔が形成されている。また、下型チェイス15の凹部縁部にストッパ10と当接する当接面15aが形成されている。
【0020】
また、筒状のポット17は、下型チェイス15の貫通孔に固定して組み付けられている。このポット17内には、上下動可能にプランジャ18が設けられ、そのプランジャ18の先端面とポット17の内壁面で形成された空間に樹脂19(例えば、樹脂タブレット)が供給される(
図1参照)。このポット17の空間は、ワークWのクランプ時において内部空間C(
図2参照)を形成する。また、下型インサート16は、下型チェイス15の凹部内に固定して組み付けられている。この下型インサート16では、下型4のクランプ面4aが形成されており、そのクランプ面4aにワークWが載置される。
【0021】
このような上型3および下型4で構成されるモールド金型2は、上型3に設けられた超音波振動部21、22を備えている。また、モールド金型2は、上型
3および下型
4がワークWをクランプして形成される内部空間Cに設けられた伝搬部23を備えている。この伝搬部23は、超音波振動部21、22と接続され、内部空間C内の溶融樹脂19aへ超音波振動部21、22の振動を伝搬するものである。
【0022】
ここで、上型3における超音波振動部21、22の配置を明解にするために、
図5にクランプ面3a(説明を明解にするためにハッチングを付している)側からみた上型3の平面図を示す。なお、
図5中のA−A線に対応するモールド金型2の断面として、
図1〜
図4が示されている。また、
図5では、カル13との位置関係を明解にするために下型4に設けられるポット17も合わせて示している。
【0023】
図5では、1つのキャビティ凹部11の底部に3つの超音波振動部21が設けられている。具体的には、キャビティ凹部11の中央部およびランナ12(ゲート)側と反対側のコーナ部にそれぞれ超音波振動部21が設けられている。また、
図5では、1つのキャビティ凹部11に対して3つのカル13が設けられているが、それぞれに3つの超音波振動部22が設けられている。このように超音波振動部21、22は、溶融樹脂19aが内部空間Cで入りにくい箇所に設けられている。
【0024】
超音波振動部21としては、例えば、超音波振動子(以下、超音波振動子21ともいう)が用いられる。前述したように、上型3には、内部空間C(
図2〜
図4)を構成するキャビティ凹部11が形成されている。また、このキャビティ凹部11の底部に通じる貫通孔8aが上型キャビティインサート8に形成されている。この上型キャビティインサート8の貫通孔8a内に超音波振動子21が設けられている。また、上型インサート7、上型チェイス6および上型ベース5には、貫通孔8aに通じる貫通孔が形成されており、この貫通孔内に超音波振動子21とモールド金型2の外部の制御部(図示せず)とを接続する接続部24が設けられている。
【0025】
超音波振動部22としては、例えば、超音波振動子(以下、超音波振動子22ともいう)が用いられる。前述したように、内部空間C(
図2〜
図4)を構成するカル13が形成されている。また、このカル13に通じる貫通孔9aが上型可動クランパ9に形成されている。この上型可動クランパ9の貫通孔9a内に超音波振動子22が設けられている。また、上型チェイス6および上型ベース5には、貫通孔9aに通じる貫通孔が形成されており、この貫通孔内に超音波振動子22とモールド金型2の外部の制御部(図示せず)とを接続する接続部25が設けられている。
【0026】
伝搬部23としては、例えば、フィルム(以下、フィルム23ともいう)が用いられる。フィルム23は、モールド金型2の加熱温度に耐えられる耐熱性、柔軟性および伸展性を有するフィルム材(例えば、厚さが50μm程度のPTFEなどのフッ素系樹脂フィルム)からなる。このようなフィルム23が、キャビティ凹部11の内側などに沿って上型3のクランプ面3aに張設されている。
【0027】
このフィルム23で、キャビティ凹部11の底部に開口する貫通孔8aおよびカル13に開口する貫通孔9aは覆われている。また、これら貫通孔8a、9aのそれぞれには超音波振動子21、22が設けられている。このため、超音波振動子21、22は、例えば、
図3に示すように内部空間Cに注入された溶融樹脂19aに対してフィルム23を介して超音波振動を加える(加振する)ことができる。また、貫通孔8a、9aをフィルム23で覆う(塞ぐ)ことで、溶融樹脂19aがそれらに入り込むのを防止することができる。
【0028】
このように、溶融樹脂19aに振動を伝搬するフィルム23(伝搬部)と、超音波振動を発生する超音波振動子21、22(超音波振動部)とを備えたモールド金型2では、内部空間Cの隅々まで溶融樹脂19aを行き渡らせる(流動させる)ことができる。また、溶融樹脂19aに加振することにより、溶融樹脂19a内のエアを追い出すこともできる。したがって、本実施形態におけるモールド金型2によれば、樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。
【0029】
また、本実施形態では、超音波振動部21、22からの振動を溶融樹脂19aに直接加えられるように伝搬部23としてフィルムを用いているので、伝搬ロスを抑えて超音波振動部21、22から溶融樹脂19aに振動を加えることができる。また、本実施形態では、特に、内部空間Cにおいてキャビティ凹部11の底部から超音波振部21から溶融樹脂19aに振動を加えることができるので、成形品が形成されるキャビティ凹部11内の隅々まで溶融樹脂19aを行き渡らせる(流動させる)ことができる。したがって、より樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。
【0030】
次に、本実施形態におけるワークWに対する樹脂モールド方法、すなわちモールド金型2を備えた樹脂モールド装置1の動作について
図1〜
図4を参照して説明する。
【0031】
まず、
図1に示すように、モールド金型2が型開きした状態で搬入されたワークWを、下型4の下型インサート16に載置する。また、上型3のクランプ面3aにはフィルム23を吸着して、下型4のポット17には樹脂19(樹脂タブレット)を供給する。
【0032】
続いて、上型3と下型4を近接させて型閉じを開始し、
図2に示すように、フィルム23を介して上型可動クランパ9をワークWに当接して、上型3と下型4とでワークWをクランプする。これにより、ワークWにはスプリング14の抵抗力(付勢力)にバランスされた所定のクランプ力(第1クランプ力)が加わる。また、モールド金型2がワークWをクランプして内部空間Cが形成される。このときワークWは、上型3の上型キャビティインサート8が成形品の厚さ寸法より所定厚だけ後退した退避位置を保ったまま上型可動クランパ9によりクランプされる。
【0033】
続いて、
図3に示すように、ワークWに第1クランプ力を加えたまま、溶融した樹脂19(溶融樹脂19a)をキャビティ凹部11へ圧送し、所定の樹脂圧(第1樹脂圧)でキャビティ凹部11内を充填する。具体的には、プランジャ18を上動させて溶融樹脂19aを圧送し、カル13、ランナ12を通じてキャビティ凹部11内へ溶融樹脂19aを充填する。
【0034】
本実施形態では、ポット17、カル13、ランナ12およびキャビティ凹部11で形成される樹脂路(内部空間C)に設けられたフィルム23を介して超音波振動子21、22により溶融樹脂19aに超音波振動を加えながら溶融樹脂19aを圧送しているので、内部空間Cの隅々まで溶融樹脂19aを行き渡らせる(流動させる)ことができる。特に、樹脂路(内部空間C)の起点側のカル13で、超音波振動子22によって溶融樹脂19aを振動させることができるので、終点側のキャビティ凹部11へ流動性良く注入することができる。また、キャビティ凹部11で、超音波振動子21によって溶融樹脂19aを振動させることができるので、例えば配線基板と半導体チップとの際を含めて、キャビティ凹部11内の隅々まで溶融樹脂19aを行き渡らせることができる。
【0035】
続いて、下型4を更に上動させると、
図4に示すように、上型可動クランパ9が、スプリング14を押し縮めて上型チェイス6と接触すると共に、ストッパ10と下型チェイス15(当接面15a)が突き当たり、下型4の上動が停止する。このとき、第1保圧より樹脂圧が上昇して第2保圧(成形圧)となり、キャビティ凹部11内の溶融樹脂19a(余剰樹脂)がカル13およびポット17側へ押し出される。この余剰樹脂によりプランジャ18が押し戻されて下動する。
【0036】
続いて、キャビティ凹部11内に充填されている溶融樹脂19aを加熱硬化することで、ワークWが樹脂モールドされる。その後、上型可動クランパ9がワークWをクランプしたまま下型4を僅かに下動させて上型キャビティインサート8のみを退避位置へ移動させることにより成形品を離型させる。このとき、超音波振動部21、22を振動させることで、成形品の離型を促進することもできる。次いで、下型4を更に下動させて型開きを行なうと、上型可動クランパ9がワークWより離間型開きした後、ワークW(成形品)を下型4より取り出し、必要に応じてクリーニングされて1回分の成形動作が終了する。
【0037】
(実施形態2)
前記実施形態1では、トランスファ成形による樹脂モールド装置1に用いられるモールド金型2に本発明を適用した場合について説明した。これに限らず、
図6〜
図8に示すような圧縮成形による樹脂モールド装置31に用いられるモールド金型32に本発明を適用しても良い。
図6〜
図8に、圧縮成形による樹脂モールド装置31の要部であるモールド金型32の断面を示す。なお、
図6〜
図8に示すワークWは、配線基板上に複数の半導体チップがワイヤボンディング実装されたものである。
【0038】
図6に示す樹脂モールド装置31の構成について説明する。
図6に示すように、樹脂モールド装置31は、上下に対向して設けられ、ワークWをクランプする上型33(一方の金型)および下型34(他方の金型)を有するモールド金型32を備えている。
【0039】
モールド金型32の上型33は、例えば合金工具鋼からなる部材(ブロック)が組み付けられて構成されている。具体的には、上型33は、ベース35と、チェイス36と、段付きガイド37と、段付きインサート38とを有して構成されている。このような部材で構成される上型33には、ワークWをクランプするクランプ面33aが形成されている。
【0040】
チェイス36は、ベース35下に固定して組み付けられている。また、段付きガイド37は、チェイス36下であってチェイス36の外周部に固定して組み付けられている。また、段付きインサート38は、段付きガイド37でガイドされてチェイス36の中央部に固定して組み付けられている。
【0041】
段付きガイド37には、内側(段付きインサード38側)に突起するような段部37aが形成されている。また、段付きインサート38には、外側(段付きガイド37側)に段部38bが形成されている。このため、段付きインサート38の段部38bと、段付きガイド37の段部37aとが係合することによって、段付きインサート38は、段付きガイド37で支持される。
【0042】
段付きインサート38には、下型34側にワークWを吸着保持する吸着面38a(クランプ面33a)が形成されている。また、段付きインサート38には吸着面38aに通じるエア吸引路38cが形成されている。このエア吸引路38cは、モールド金型32外で設けられているエアを吸引する装置(図示せず)と接続されている。また、段付きインサート38とチェイス36との間にはリング状のシール部材39(例えば、Oリング)が挿入されており、エア吸引路38cの気密性を確保するようになっている。このため、エア吸引装置が作動すると、エア吸引路38cなどを介してワークWが段付きインサート38の吸着面38aに吸着保持されることとなる。
【0043】
モールド金型32の下型34は、例えば合金工具鋼からなる部材(ブロック)が組み付けられて構成されている。具体的には、下型34は、ベース40と、チェイス41と、キャビティインサート42と、可動クランパ43とを有して構成されている。このような部材で構成される下型34には、ワークWをクランプするクランプ面34aが形成されている。
【0044】
チェイス41は、ベース40上に固定して組み付けられている。また、可動クランパ43は、チェイス41の外周凹部に設けられたスプリング44を介してチェイス41に対して弾発するように上下動可能に組み付けられている。この可動クランパ43では、キャビティインサート42が設けられる貫通孔43aが形成されている。また、可動クランパ43では、上型33側の縁部にクランプ面34aが形成されている。また、可動クランパ43では、クランプ面34aから凹んでキャビティ凹部45が形成されている。
【0045】
また、キャビティインサート42は、チェイス41の中央部に固定して組み付けられている。キャビティインサート42は、可動クランパ43の貫通孔43aに内包して設けられている。
【0046】
このような上型33および下型34で構成されるモールド金型32は、下型34に設けられた超音波振動部46を備えている。また、モールド金型32は、上型33および下型34がワークWをクランプして形成される内部空間Cに設けられた伝搬部47を備えている。この伝搬部47は、超音波振動部46と接続され、内部空間C内の溶融した樹脂48へ超音波振動部46の振動を伝搬するものである。なお、モールド金型32においても、
図5を参照して説明したように、超音波振動部46は内部空間Cに対して溶融した樹脂48が充填し難い箇所に設けられる。
【0047】
超音波振動部46としては、例えば、超音波振動子(以下、超音波振動子46ともいう)が用いられる。前述したように、下型34には、内部空間Cを構成するキャビティ凹部45が形成されている。このキャビティ凹部45の底部に通じる貫通孔42aがキャビティインサート42に形成されている。このキャビティインサート42の貫通孔42a内に超音波振動子46が設けられている。また、チェイス41およびベース40には、貫通孔42aに通じる貫通孔が形成されており、この貫通孔内に超音波振動子46とモールド金型32の外部の制御部(図示せず)とを接続する接続部49が設けられている。
【0048】
伝搬部47としては、例えば、フィルム(以下、フィルム47ともいう)が用いられる。フィルム47は、モールド金型32の加熱温度に耐えられる耐熱性、柔軟性および伸展性を有するフィルム材(例えば、厚さが50μm程度のPTFEなどのフッ素系樹脂フィルム)からなる。このようなフィルム47が、キャビティ凹部45の内側などに沿って下型34のクランプ面34aに張設されている。
【0049】
このフィルム47で、キャビティ凹部45の底部に開口する貫通孔42aは覆われている。また、貫通孔42aには超音波振動子46が設けられている。このため、超音波振動子46は、内部空間Cに供給された溶融した樹脂48に対してフィルム47を介して超音波振動を加える(加振する)ことができる。また、貫通孔42aをフィルム47で覆う(塞ぐ)ことで、溶融した樹脂48が入り込むのを防止することができる。
【0050】
このように、溶融した樹脂48に振動を伝搬するフィルム47(伝搬部)と、超音波振動を発生する超音波振動子46(超音波振動部)とを備えたモールド金型32では、内部空間Cの隅々まで溶融した樹脂48を行き渡らせる(流動させる)ことができる。また、溶融した樹脂48に加振することにより、溶融した樹脂48内のエアを追い出すこともできる。したがって、本実施形態におけるモールド金型32によれば、前記実施形態1で説明した場合と同様に、樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。
【0051】
次に、
図6に示す樹脂モールド装置31の樹脂モールド動作を概略する。まず、型開きしたモールド金型32の上型33にワークWを吸着させる。また、キャビティ凹部45内に、成形品を構成する樹脂量分の樹脂48を供給する。このとき、モールド金型32が内蔵されたヒータ(図示しない)により所定の温度で予め加熱されているので、供給された樹脂48は溶融する。この樹脂48としては例えば液状樹脂が用いられる。なお、樹脂48として粉末樹脂、顆粒樹脂であっても良い。
【0052】
次いで、上型33および下型34を近接させてモールド金型32の型閉じを行う。これによりワークWがクランプしてキャビティ凹部45内を充填する(
図6に示す状態)。次いで、可動クランパ43とチェイス41とが当接するまで、更にモールド金型32の型閉じを行うことで、可動クランパ43に対してキャビティインサート42が相対的に上動することで、キャビティ凹部45内で溶融した樹脂48が押圧される。
【0053】
本実施形態では、キャビティ凹部45で形成される内部空間Cに設けられたフィルム47を介して超音波振動子46により溶融した樹脂48に超音波振動を加えながら溶融した樹脂48を押圧しているので、内部空間Cの隅々まで溶融した樹脂48を行き渡らせる(流動させる)ことができる。
【0054】
次いで、モールド金型32を樹脂モールド温度に加熱することによって溶融した樹脂48を硬化(キュア)させる。その後、下型34を下動させて型開きを行ない、可動クランパ43がワークWより離間型開きした後、ワークW(成形品)を上型33より取り出し、必要に応じてクリーニングされて1回分の成形動作が終了する。
【0055】
なお、
図6で示したモールド金型32では、キャビティ凹部45の底部に対して複数箇所に超音波振動部46を設けたが、
図7に示すようにキャビティ凹部45の底部全体に超音波振動部46を設けても良い。また、
図6で示したモールド金型32では、下型34にキャビティ凹部45を設けたが、構成部材を上下で組み替えて、
図8に示すように上型33にキャビティ凹部45を設けても良い。
【0056】
(実施形態3)
前記実施形態1では、伝搬部としてフィルムを用いた場合について説明した。本実施形態では、伝搬部として金型部材の肉薄部(薄板)を用いる場合について説明する。
図9〜
図12に、伝搬部として薄板を用いた樹脂モールド装置51の要部であるモールド金型52の断面を示す。
【0057】
図9に示す樹脂モールド装置51の構成について説明する。
図9に示すように、樹脂モールド装置51は、上下に対向して設けられ、ワークWをクランプする上型53(一方の金型)および下型54(他方の金型)を有するモールド金型52を備えている。
【0058】
モールド金型52の上型53は、例えば合金工具鋼からなる部材(ブロック)が組み付けられて構成されている。具体的には、上型53は、センターブロック55と、上型インサート56(キャビティインサート)と、エンドブロック57とを有して構成されている。このような部材で構成される上型53には、ワークWをクランプするクランプ面53aが形成されている。また、上型53には、キャビティ凹部58、ランナ59およびカル60が連通して形成されている。これらキャビティ凹部58、ランナ59およびカル60は、モールド金型52の型閉じにより内部空間を形成する。
【0059】
センターブロック55、上型インサート56およびエンドブロック57は、図示しないチェイスの同一平面上に固定して組み付けられる。
図9に示すように、中央部にセンターブロック55、外周部にエンドブロック57が設けられ、それらの間に上型インサート56が設けられている。
【0060】
モールド金型52の下型54は、例えば合金工具鋼からなる部材(ブロック)が組み付けられて構成されている。具体的には、下型54は、チェイス61と、センターブロック62と、下型インサート63と、エンドブロック64と、ポット65と、プランジャ66とを有して構成されている。このような部材で構成される下型54には、ワークWをクランプするクランプ面54aが形成されている。
【0061】
チェイス61には、中央部でポット65の一部が設けられる貫通孔が形成されている。また、センターブロック62には、中央部でポット65の一部(端部)が設けられる貫通孔が形成されている。このため、ポット65の一部がチェイス61の貫通孔に挿入された後、ポット65の端部にセンターブロック62の貫通孔が嵌め込まれて、ポット65が固定して組み付けられている。このポット65内には、上下動可能なプランジャ66が設けられ、そのプランジャ66の先端面とポット65の内壁面で形成された空間に樹脂69(例えば、樹脂タブレット)が供給される。このポット65の空間は、モールド金型52の型閉じにより内部空間を形成する。
【0062】
また、センターブロック62、下型インサート63およびエンドブロック64は、チェイス61の同一平面上に固定して組み付けられている。チェイス61の中央部にセンターブロック62、外周部にエンドブロック64が設けられ、それらの間に下型インサート63が設けられている。この下型インサート63では、下型54のクランプ面54aが形成され、そのクランプ面54aにワークWが載置され、上型インサート56とでワークWがクランプされる。
【0063】
このような上型53および下型54で構成されるモールド金型52は、上型53に設けられた超音波振動部67を備えている。また、モールド金型52は、上型53および下型54がワークWをクランプして形成される内部空間に設けられる伝搬部68を備えている。この伝搬部68は、超音波振動部67と接続され、内部空間内の溶融した樹脂へ超音波振動部67の振動を伝搬するものである。なお、
図9に示すプランジャ66の軸線方向(1点鎖線で示す)から左側では、キャビティ凹部58の底部中央部に1つの超音波振動部67が設けられる場合を示し、その右側では、キャビティ凹部58の底部の外周部に複数の超音波振動部67が設けられる場合を示している。
【0064】
伝搬部68としては、上型53のクランプ面53a側で形成された上型インサート56(上型53)の肉薄部(以下、肉薄部68ともいう)が用いられる。この肉薄部68は、例えば、上型インサート56の一方の面(クランプ面53a)とは反対側の面からキャビティ凹部58の底部に向かって(厚さ方向に)孔56aを形成し、貫通する手前で所定厚が残存するようにしたものである。
【0065】
また、超音波振動部67としては、例えば、超音波振動子(以下、超音波振動子67ともいう)が用いられる。この超音波振動子67は、上型53のキャビティ凹部58の底部で形成された肉薄部68に通じる孔56aに設けられている。このため、超音波振動子67は、内部空間に供給された溶融した樹脂69に対して肉薄部68を介して超音波振動を加える(加振する)ことができる。
【0066】
このように、溶融した樹脂69に振動を伝搬する肉薄部68(伝搬部)と、超音波振動を発生する超音波振動子67(超音波振動部)とを備えたモールド金型52では、内部空間の隅々まで溶融した樹脂69を行き渡らせる(流動させる)ことができる。また、溶融した樹脂69に加振することにより、溶融した樹脂69内のエアを追い出すこともできる。したがって、本実施形態におけるモールド金型52によれば、前記実施形態1で説明した場合と同様に、樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。
【0067】
なお、
図9で示したモールド金型52では、キャビティ凹部58の底部に超音波振動部67を設けたが、
図10に示すように、内部空間を構成するカル60に形成された伝搬部68に通じるセンターブロック55の孔55a内に設けられても良い。また、
図9、
図10で示したモールド金型52では、上型52のみキャビティ凹部58を設けたが、
図11、
図12に示すように、下型54にもキャビティ凹部58を設けても良い。なお、肉薄部68(伝搬部)は必ずしも設ける必要は無く、超音波振動部67が直接キャビティ凹部58に表面段差を設けないように露出しても良い。
【0068】
(実施形態4)
前記実施形態1、3では、キャビティ凹部の底部や、カルに超音波振動部を設けた場合について説明した。本実施形態では、
図13に示すように、
図9で示したモールド金型52を基に、ランナ59に超音波振動部70(以下、超音波振動子70ともいう)を設ける場合について説明する。
【0069】
上型53には、上型53および下型54がワークWをクランプして形成される内部空間を構成するランナ59が形成されている。また、このランナ59に通じる貫通孔55bがセンターブロック55に形成されている。このセンターブロック55の貫通孔55b内に超音波振動子70が設けられている。また、この超音波振動子70と接続され、溶融した樹脂69へ超音波振動を伝搬する伝搬部として、フィルム23が上型53のクランプ面53aに張設されている。このような超音波振動子70およびフィルム23を用いることで、前記実施形態1で説明した場合と同様に、樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。
【0070】
また、
図13に示すように、プランジャ66の軸線方向(1点鎖線で示す)から左側では上型53のみに超音波振動子70を設けているが、その右側に示すように、上型53の超音波振動子70の他に下型54にも超音波振動子71を設けても良い。この超音波振動子71は、内部空間を構成するランナ59に形成された伝搬部72に通じるセンターブロック62の孔62a内に設けられる。この伝搬部72は、超音波振動子71と接続され、溶融した樹脂69へ超音波振動を伝搬するように、センターブロック62の肉薄部に形成されている。このように上型53および下型54のそれぞれに超音波振動部70、71を設けることで、より樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。
【0071】
(実施形態5)
本実施形態では、
図14に示すように、
図9で示したモールド金型51を基に、伝搬部として固定エジェクタピン73およびそれに接続される超音波振動部74(以下、超音波振動子74ともいう)を用いる場合について説明する。なお、固定エジェクタピン73は、成形品の樹脂表面にロット番号などを付すのに用いられるものである。
【0072】
上型53には、上型53および下型54がワークWをクランプして形成される内部空間を構成するキャビティ凹部58が形成されている。また、このキャビティ凹部58の樹脂流入側の底部に通じる貫通孔56bが上型インサート56に形成されている。この上型インサート56の貫通孔56bに固定エジェクタピン73が、キャビティ凹部58内へ突出するように挿入されて設けられている。
【0073】
固定エジェクタピン73には、キャビティ凹部58側とは反対側で超音波振動子74が接続されている。これにより、超音波振動子74が、固定エジェクタピン73を介して溶融した樹脂69に超音波振動を加えることができる。このような超音波振動子74および固定エジェクタピン73を用いることで、樹脂の流動性を高め、前記実施形態1で説明した場合と同様に、樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。
【0074】
(実施形態6)
本実施形態では、
図15および
図16に示すように、
図9で示したモールド金型51を基に、伝搬部としてポット65およびそれに接続される超音波振動部75、76(以下、超音波振動子75、76ともいう)を用いる場合について説明する。
【0075】
下型54には、上型53および下型54がワークWをクランプして形成される内部空間を構成し、樹脂69が供給される筒状のポット65が設けられている。
図15に示すポット65にはその外周面で超音波振動子75が接続されている。また、
図16に示すポット65にはカル60側とは反対側で超音波振動子76が接続されている。これにより、超音波振動子75、76が、ポット65を介して溶融した樹脂69に超音波振動を加えることができる。このような超音波振動子75、76およびポット65を用いることで、樹脂の流動性を高め、前記実施形態1で説明した場合と同様に、樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。
【0076】
(実施形態7)
本実施形態では、伝搬部として溶融した樹脂を押圧するプランジャを用いる場合について説明する。
図17に、伝搬部としてプランジャを用いた樹脂モールド装置81のモールド金型82の断面を示す。
【0077】
図17に示すように、樹脂モールド装置81は、上下に対向して設けられ、ワークWをクランプする上型83(一方の金型)および下型84(他方の金型)を有するモールド金型82を備えている。上型83は、固定プラテン85に固定されている。また、下型84は、可動プラテン86に搭載されている。この可動プラテン86は、図示しない型締め機構およびモータにより上下動することで、下型84も上下動する。これにより、モールド金型82は、上型83と下型84とが近接して型閉じされ、離間して型開きされる。なお、下型84に作用する荷重を計測するために、ロードセルユニット87が可動プラテン86側に設けられている。
【0078】
この下型84には、上型83および下型84がワークをクランプして形成される内部空間を構成し、樹脂が供給される筒状のポット88が複数設けられている。これら複数のポット88のそれぞれに挿入される複数のプランジャ89を有するマルチプランジャユニット90が、可動プラテン86側に設けられている。可動プラテン86には、マルチプランジャユニット90が抜き挿しできるような通し孔が形成されており、この通し孔を通してマルチプランジャユニット90が設けられている。
【0079】
マルチプランジャユニット90は、可動プラテン86とは別駆動のトランスファモータを用いて上下動可能なトランスファプレート91上に設けられている。このトランスファプレート91には、ベアリングユニット92が周囲に設けられた上下動可能なネジ軸93の一端が接続されている。このネジ軸93の他端はプーリ94と螺合されており、このプーリ94でトランスファモータ(図示せず)に連動したベルト95が張設されている。すなわち、トランスファモータが回転することによりベルト95およびプーリ94を介してネジ軸93が上下動することで、マルチプランジャユニット90が上下動する。
【0080】
本実施形態では、このマルチプランジャユニット90に超音波振動部96(以下、超音波振動子96ともいう)を設けている。この超音波振動子96は、マルチプランジャユニット90が有する複数のプランジャ89を伝搬部として用いて、溶融した樹脂に超音波振動を加えるものである。このようなマルチプランジャユニット90および超音波振動子96を用いることで、樹脂の流動性を高め、前記実施形態1で説明した場合と同様に、樹脂の未充填や樹脂表面のフローマークを防止でき、成形品の成形品質を向上することができる。