特許第5771882号(P5771882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771882
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】表面被覆焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/90 20060101AFI20150813BHJP
   C04B 35/583 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150813BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   C04B41/90 B
   C04B35/58 103X
   C23C14/34 H
   B23B27/14 A
【請求項の数】26
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-522310(P2012-522310)
(86)(22)【出願日】2011年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2011062595
(87)【国際公開番号】WO2012056758
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-241940(P2010-241940)
(32)【優先日】2010年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】月原 望
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−144110(JP,A)
【文献】 特開平04−063607(JP,A)
【文献】 特開2005−330540(JP,A)
【文献】 特開平06−079503(JP,A)
【文献】 特開平05−195267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/90
B23B 27/14
C04B 35/583
C04B 37/00−37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素焼結体とその表面に形成された表面被覆層とを含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体は、20〜99.5体積%の立方晶窒化硼素と、結合材とを含み、
前記表面被覆層は、密着層と1層以上の硬質被膜層とを含み、
前記密着層は、少なくともWを含む金属層であり、前記立方晶窒化硼素焼結体の表面を被覆するように形成され、
前記硬質被膜層は、前記密着層を被覆するように形成され、
前記密着層は、アモルファス状態および/または平均粒径が5nm以下の超微粒子により構成され、かつ
前記密着層は、Co、Ni、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を、0.1〜20原子%含む、表面被覆焼結体。
【請求項2】
前記密着層は、TiまたはCrのいずれか一方または両方を、Wに対し原子比で0.1〜3含む、請求項1に記載の表面被覆焼結体。
【請求項3】
前記密着層は、1〜30nmの厚みを有する、請求項1または請求項2に記載の表面被覆焼結体。
【請求項4】
前記硬質被膜層は、−1.5〜+0.5GPaの応力を有する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体。
【請求項5】
前記硬質被膜層は、前記立方晶窒化硼素焼結体および前記密着層と接する最下層として第1被膜層を含み、
前記第1被膜層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物で構成される、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体。
【請求項6】
前記第1被膜層は、TiAlN、AlCrNおよびTiSiCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物またはその化合物を含む固溶体で構成されるか、あるいは前記化合物または前記固溶体を構成層とする超多層積層体で構成される、請求項5に記載の表面被覆焼結体。
【請求項7】
前記第1被膜層は、前記密着層との界面から20nm以内の領域が1〜20nmの粒径の柱状晶で構成されている、請求項5または請求項6に記載の表面被覆焼結体。
【請求項8】
前記硬質被膜層は、0.5〜20μmの厚みを有する、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体を超硬合金製の基材の刃先部に接合してなる、切削工具。
【請求項10】
前記基材は、超硬合金からなり、
前記超硬合金は、少なくともWCとCo、Ni、およびFeからなる群より選択される1種以上とを含む、請求項9に記載の切削工具。
【請求項11】
立方晶窒化硼素焼結体とその表面に形成された表面被覆層とを含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体は、20〜99.5体積%の立方晶窒化硼素と、結合材とを含み、
前記表面被覆層は、密着層と1層以上の硬質被膜層とを含み、
前記密着層は、少なくともWを含む金属層であり、前記立方晶窒化硼素焼結体の表面を被覆するように形成され、
前記硬質被膜層は、前記密着層を被覆するように形成され、
前記密着層は、アモルファス状態および/または平均粒径が5nm以下の超微粒子により構成され、かつ
前記密着層は、TiまたはCrのいずれか一方または両方を、Wに対し原子比で0.1〜3含む、表面被覆焼結体。
【請求項12】
前記密着層は、1〜30nmの厚みを有する、請求項11に記載の表面被覆焼結体。
【請求項13】
前記硬質被膜層は、−1.5〜+0.5GPaの応力を有する、請求項11または請求項12に記載の表面被覆焼結体。
【請求項14】
前記硬質被膜層は、前記立方晶窒化硼素焼結体および前記密着層と接する最下層として第1被膜層を含み、
前記第1被膜層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物で構成される、請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体。
【請求項15】
前記第1被膜層は、TiAlN、AlCrNおよびTiSiCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物またはその化合物を含む固溶体で構成されるか、あるいは前記化合物または前記固溶体を構成層とする超多層積層体で構成される、請求項14に記載の表面被覆焼結体。
【請求項16】
前記第1被膜層は、前記密着層との界面から20nm以内の領域が1〜20nmの粒径の柱状晶で構成されている、請求項14または請求項15に記載の表面被覆焼結体。
【請求項17】
前記硬質被膜層は、0.5〜20μmの厚みを有する、請求項11〜請求項16のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体。
【請求項18】
請求項11〜請求項17のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体を超硬合金製の基材の刃先部に接合してなる、切削工具。
【請求項19】
前記基材は、超硬合金からなり、
前記超硬合金は、少なくともWCとCo、Ni、およびFeからなる群より選択される1種以上とを含む、請求項18に記載の切削工具。
【請求項20】
立方晶窒化硼素焼結体とその表面に形成された表面被覆層とを含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体は、20〜99.5体積%の立方晶窒化硼素と、結合材とを含み、
前記表面被覆層は、密着層と1層以上の硬質被膜層とを含み、
前記密着層は、少なくともWを含む金属層であり、前記立方晶窒化硼素焼結体の表面を被覆するように形成され、
前記硬質被膜層は、前記密着層を被覆するように形成され、
前記密着層は、アモルファス状態および/または平均粒径が5nm以下の超微粒子により構成され、
前記硬質被膜層は、前記立方晶窒化硼素焼結体および前記密着層と接する最下層として第1被膜層を含み、
前記第1被膜層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物で構成され、かつ
前記第1被膜層は、前記密着層との界面から20nm以内の領域が1〜20nmの粒径の柱状晶で構成されている、表面被覆焼結体。
【請求項21】
前記密着層は、1〜30nmの厚みを有する、請求項20に記載の表面被覆焼結体。
【請求項22】
前記硬質被膜層は、−1.5〜+0.5GPaの応力を有する、請求項20または請求項21に記載の表面被覆焼結体。
【請求項23】
前記第1被膜層は、TiAlN、AlCrNおよびTiSiCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物またはその化合物を含む固溶体で構成されるか、あるいは前記化合物または前記固溶体を構成層とする超多層積層体で構成される、請求項20〜請求項22のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体。
【請求項24】
前記硬質被膜層は、0.5〜20μmの厚みを有する、請求項20〜請求項23のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体。
【請求項25】
請求項20〜請求項24のいずれか1項に記載の表面被覆焼結体を超硬合金製の基材の刃先部に接合してなる、切削工具。
【請求項26】
前記基材は、超硬合金からなり、
前記超硬合金は、少なくともWCとCo、Ni、およびFeからなる群より選択される1種以上とを含む、請求項25に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化硼素焼結体とその表面に形成された表面被覆層とを含む表面被覆焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より立方晶窒化硼素焼結体は高硬度を有することから、切削工具等の工具用の素材として広く利用されてきた。また、耐摩耗性の向上等を目的として、立方晶窒化硼素焼結体の表面に表面被覆層を形成することも知られている。
【0003】
たとえば、特開2005−047004号公報(特許文献1)には、立方晶窒化硼素焼結体の表面に4a、5a、6a族元素の窒化物や炭化物等の化合物からなる中間層を形成し、この中間層上にTiAlN等の被膜を形成した工具用複合高硬度材料が開示されている。また、特開2002−144110号公報(特許文献2)には、窒化硼素焼結体の表面に4a、5a、6a族元素から選ばれる少なくとも1つの元素からなる中間層を形成し、この中間層上に硬質被膜層を形成した表面被覆窒化硼素焼結体工具が開示されている。さらに、特開2000−129423号公報(特許文献3)には、基材上に4a、5a、6a族の金属からなる第1層を形成し、その第1層上にTiAlVN等からなる第2層を形成した硬質被膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−047004号公報
【特許文献2】特開2002−144110号公報
【特許文献3】特開2000−129423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
立方晶窒化硼素焼結体上に硬質被膜層を形成する場合、その硬質被膜層は靭性に劣る傾向を示す。特にその硬質被膜層に対して強い衝撃の負荷や変動する負荷がかかる場合、硬質被膜層が剥離することがあり工具寿命が短くなるという問題を有していた。
【0006】
このため、特許文献1〜3のように、硬質被膜層と基材(立方晶窒化硼素焼結体)との間に中間層を形成することにより、基材に対する硬質被膜層の密着性を向上させることが提案されている。
【0007】
特許文献1の場合、4a、5a、6a族元素の窒化物や炭化物等の化合物からなる中間層はTiAlN等の被膜(硬質被膜)よりも密着性が向上するとされている。しかし、該化合物は、金属結合性の化合物であるため、立方晶窒化硼素焼結体と化学結合が形成されにくい。このため、上記のように強い衝撃の負荷や変動する負荷がかけられる場合には、更なる密着性の向上が求められる。
【0008】
また、特許文献2の場合、中間層が特許文献1のような化合物ではなく、金属で構成される。これにより、この金属が立方晶窒化硼素焼結体および硬質被膜の両者に拡散し、その拡散部分において金属硼化物や金属窒化物等の固溶体を形成するため、特許文献1よりさらに強力な密着性が期待できる。しかし、かかる固溶体を用いても結局のところ、共有結合性の金属硼化物と金属窒化物との界面のように、結合性の異なる界面での化学結合が不十分である。このため、上記のように強い衝撃の負荷や変動する負荷がかけられる場合には更なる密着性の向上が求められる。
【0009】
一方、特許文献3は、特許文献2と同様に中間層として金属層を形成したものであるが、その目的は応力を緩和することにあるとされている。このような応力緩和は、硬質被膜が高い応力を有する場合にその効果が期待されるが、硬質被膜自体の応力が低い場合はその効果を期待することはできない。また基材の種類が何等特定されていないことから、立方晶窒化硼素焼結体を基材とする場合に、どのような効果が示されるのかは不明である。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、その目的とするところは表面被覆層に対し強い衝撃の負荷や変動する負荷がかけられるような場合でも十分な密着性を有する表面被覆層を立方晶窒化硼素焼結体上に形成した表面被覆焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、中間層として金属を用いる場合には、基材と硬質被膜層の結合の仲介、あるいは衝撃のある程度の緩和が期待できることから基材と硬質被膜層との密着性をある程度高める効果は期待できる。しかし、強い衝撃の負荷に対しては破壊されやすく、その原因が中間層の構成に関係するのではないかという知見を得た。そして、本発明者は、この知見に基づき、中間層の構成をさらに詳細に検討した結果、ついに本発明を完成させたものである。
【0012】
すなわち、本発明の表面被覆焼結体は、立方晶窒化硼素焼結体とその表面に形成された表面被覆層とを含み、該立方晶窒化硼素焼結体は、20〜99.5体積%の立方晶窒化硼素と、結合材とを含み、該表面被覆層は、密着層と1層以上の硬質被膜層とを含み、該密着層は、少なくともWを含む金属層であり、該立方晶窒化硼素焼結体の表面を被覆するように形成され、該硬質被膜層は、密着層を被覆するように形成され、該密着層は、アモルファス状態および/または平均粒径が5nm以下の超微粒子により構成されることを特徴とする。
【0013】
ここで、上記密着層は、TiまたはCrのいずれか一方または両方を、Wに対し原子比で0.1〜3含むことが好ましく、Co、Ni、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を、0.1〜20原子%含むことが好ましい。また、上記密着層は、1〜30nmの厚みを有することが好ましい。
【0014】
上記の硬質被膜層は、−1.5〜+0.5GPaの応力を有することが好ましく、上記立方晶窒化硼素焼結体および上記密着層と接する最下層として第1被膜層を含み、該第1被膜層は、元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物で構成されることが好ましい。
【0015】
上記の第1被膜層は、TiAlN、AlCrNおよびTiSiCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物またはその化合物を含む固溶体で構成されるか、あるいは該化合物または該固溶体を構成層とする超多層積層体で構成されることが好ましい。また、上記第1被膜層は、上記密着層との界面から20nm以内の領域が1〜20nmの粒径の柱状晶で構成されていることが好ましい。また、本発明の硬質被膜層は、0.5〜20μmの厚みを有することが好ましい。
【0016】
本発明は、上記のいずれかに記載の表面被覆焼結体を超硬合金製の基材の刃先部に接合してなる切削工具にも係る。上記の基材は、超硬合金からなり、該超硬合金は、少なくともWCとCo、Ni、およびFeからなる群より選択される1種以上とを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の表面被覆焼結体は、上記の構成を有することにより、立方晶窒化硼素焼結体と表面被覆層との密着性が優れるという極めて優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<表面被覆焼結体>
本発明の表面被覆焼結体は、立方晶窒化硼素焼結体とその表面に形成された表面被覆層とを含む。本発明の表面被覆焼結体において、表面被覆層は、立方晶窒化硼素焼結体の全表面を覆うように形成されていてもよいし、その一部の表面のみを覆うようにして形成されていてもよい。特に、後述のように、この表面被覆焼結体を基材に接合して用いる場合は、その基材との接合部に表面被覆層を形成する必要はない。
【0019】
<立方晶窒化硼素焼結体>
本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、20〜99.5体積%の立方晶窒化硼素と、結合材とを含む。本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、これら2成分を含む限り、不可避不純物を含め他の任意の成分を含んでいても差し支えない。
【0020】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、多数の立方晶窒化硼素粒子により構成され、結合材は各立方晶窒化硼素粒子を結合する作用を有するものである。このような結合材としては、特に限定されるものではなく、たとえば以下のような組成を有するものを選択できる。
組成1:元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物。
組成2:上記化合物を含む固溶体。
組成3:Co、W、Ni、Al等の金属単体。
組成4:Co、W、Ni、Al等を含む化合物。
組成5:上記組成1の化合物とCo、W、Ni、Al等とを含む固溶体。
組成6:上記組成1の化合物に対しさらにCo、W、Ni、Al等を含む化合物。
【0021】
このような結合材の含有量は、通常、立方晶窒化硼素焼結体中において、立方晶窒化硼素以外の残部を占めるものとなる。従来は、立方晶窒化硼素焼結体および密着層の界面で、それぞれを構成する元素が互いに拡散し合うことにより、これらの界面での密着性を高めていたため、かかる界面での元素拡散を誘起するWを結合材に含むことが不可欠であった。一方、本発明は、密着層の結晶構造さえ満たせば、立方晶窒化硼素焼結体と表面被覆層との密着性が高められるため、必ずしも立方晶窒化硼素焼結体と密着層との界面での元素拡散を発生させなくてもよい。したがって、本発明は、従来のように結合材にWを含まなくても、それにWを含む場合と同等の効果を得ることができる。もちろん結合相にWを含んでいても差し支えないことは言うまでもない。
【0022】
なお、立方晶窒化硼素焼結体を構成する立方晶窒化硼素粒子は、通常0.2〜10μm程度の平均粒径を有するが、粒径に分布が存在する場合は粒径の大きいものを表面側(表面被覆層と接する側)に配置することが好ましい。これにより、後述の密着層とより強力に密着することができるためである。
【0023】
なお、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径は、焼結体の断面の光学顕微鏡観察あるいはSEM(走査型電子顕微鏡)観察により測定することができる。
【0024】
<表面被覆層>
本発明の表面被覆層は、密着層と1層以上の硬質被膜層とを含む。これらの層を含む限り、他の任意の層が含まれていても差し支えない。
【0025】
本発明の表面被覆層の構成は、まず密着層が立方晶窒化硼素焼結体の表面を被覆するように形成される。密着層は、立方晶窒化硼素焼結体の全表面を覆うように形成されていてもよいし、その一部の表面のみを覆うようにして形成されていてもよい。その密着層上を硬質被膜層が被覆する構成となっている。なお、密着層により被覆されていない部分の立方晶窒化硼素焼結体上に、密着層を介さず硬質被膜層が形成されている部分があっても差し支えない。
【0026】
このような表面被覆層は、主として立方晶窒化硼素焼結体の耐摩耗性を向上させることを目的として形成される。以下、各層について説明する。
【0027】
<密着層>
本発明の密着層は、少なくともWを含む金属層であり、該立方晶窒化硼素焼結体の表面を被覆するように形成される。本発明の密着層をアモルファス状態および/または平均粒径が5nm以下の超微粒子とすることにより、耐熱性、強度、および靭性を高度に兼ね備え、以って立方晶窒化硼素焼結体と表面被覆層とを極めて強力に密着することができるという優れた効果を示す。
【0028】
ここで、上記「金属層」とは、該層を構成する主成分が金属単体であることを意味し、「立方晶窒化硼素焼結体の表面」とは、表面被覆層の構成成分が立方晶窒化硼素焼結体中に拡散している場合にはその拡散部分を含むものとする。
【0029】
密着層に含まれるWは、比較的高融点の金属材料であり、当該表面被覆焼結体に高温が適用される場合(たとえば表面被覆焼結体を切削工具に用いるような場合においてその切削加工時の刃先部分等)でも軟化の割合が小さい。また、Wは、立方晶窒化硼素焼結体を構成する立方晶窒化硼素粒子と高い密着性を有するとともに、硬質被膜層とも高い密着性を有する。このため、当該密着層が少なくともWを含むことにより、当該表面被覆層は極めて優れた靭性を有したものとなる。Wがこのように優れた効果を示すのは、Wが共有結合性でかつ絶縁性の立方晶窒化硼素と化学結合を形成することができ、また金属結合性で導電性の硬質被膜層とも化学結合を形成することができるためであると考えられる。
【0030】
<密着層の状態>
本発明の密着層は、アモルファス状態および/または平均粒径が5nm以下の超微粒子により構成されることを特徴とする。そして、本発明の密着層は、これら両者の混合相となることがより好ましい。
【0031】
通常、結合性または導電性の異なる材料間では、直接化学結合を形成することができず、その界面は密着性に乏しくなる。また、ミキシングにより、そのような材料間の界面で元素の混合した化合物を形成することもあるが、本発明の場合、表面被覆層に含まれる金属成分の硼化物または窒硼化物がそのような化合物として形成されることになる。しかし、そのような硼化物または窒硼化物は脆性材料であり、しかも結局のところ共有結合性の絶縁性材料または金属結合性の導電性材料が形成されるため、本質的に界面の密着性を向上させることはできないと考えられる。
【0032】
ところが本発明の密着層に含まれるWは、金属結合性で導電性の金属であるが、遷移金属の中でも最も電子数が多い元素の一つであることから、種々の電子配置をとることができ、共有結合性材料とも化学結合を形成する可能性が考えられる。そこで、密着層(特にW)をアモルファス状態とするかまたは平均粒径が5nm以下の超微粒子により構成すると、特異な電子構造をとることにより共有結合的な成分と金属結合的な成分とを生じ、共有結合性材料である立方晶窒化硼素と、金属結合性で導電性の硬質被膜層との両者に対して強固な化学結合を形成させることが可能となることが本発明者の研究により明らかとなったのである。
【0033】
ここで、平均粒径が5nmを超えると、粒子表面のみが上記の電子構造となることから、密着層全体に占める上記の好適な状態の割合が減少し、大部分が通常の金属結合性のWとなってしまう。このため、立方晶窒化硼素との化学結合の密度が低下する。一方、この平均粒径は小さくなればなるほど好ましいため、特に下限値を規定する必要はないが、平均粒径が0.5nm未満になると本質的にアモルファス状態と区別がつかなくなる。
【0034】
なお、Wの一部が立方晶窒化硼素と混合しても構わないが、主相はアモルファス状態であるか上記のような超微粒子により構成されるW金属であることが好ましい。
【0035】
このように密着層が上記のような状態を有することにより、密着層自体の強度、硬度、靭性といった機械的特性が向上するため、この点からも特に優れた密着層となる。
【0036】
しかし一方、密着層全体がアモルファス状態であると、組織が一様となるため強度に劣る場合がある。また、密着層全体が上記のような超微粒子のみで構成されると、超微粒子の粒界に隙間ができることがあり、強度および靭性に劣る場合がある。このため、密着層をこれら両者の混合相とすることが特に好ましく、これにより超微粒子間の隙間をアモルファス相が埋めることにより、あるいはアモルファス相の母相の中に超微粒子が存在することにより、強度、靭性に特に優れた密着層となる。
【0037】
また、当該密着層において、立方晶窒化硼素焼結体側にアモルファス状態の多い密着層を形成することにより、より密着性に優れた密着層となる。
【0038】
なお、このような密着層の状態は、透過型電子顕微鏡(TEM)/エネルギ分散型X線分光分析(EDS)により、密着層の透過電子線回折を測定することにより判別することができる。この場合、透過電子線回折像にハロー成分が含まれる場合はアモルファス状態(アモルファス相)が存在することを示し、回折パターンが存在する場合は超微粒子が含まれることを示し、両方が観測される場合はこれら両者の混合相であることを示す。また、超微粒子の粒径は、高倍率のTEM像により確認することができ、10個以上の粒子の粒径を測定し、その平均をとることにより平均粒径を求めることができる。
【0039】
<密着層の組成>
本発明の密着層は、Wを0.05〜95原子%含むことが好ましい。Wを含むことにより、上記のように優れた効果を得ることができるからである。ここで、Wの含有量が0.05原子%未満の場合は、上記の優れた効果を十分に得られない場合がある。また、Wの効果は、わずかな異元素の混入により促進されるため、95原子%以下とすることが好ましい。ここで異元素とは、酸素、炭素、窒素、硼素などの軽元素、IVa族元素、Va族元素、VIa族元素などの遷移金属、Co、Fe、Niなどの鉄族金属、Y、Al、Siなどを挙げることができる。なお、Wの含有量が95原子%を超えると、Wが結晶化し、粗粒化しやすいという不都合を有する場合がある。Wのより好ましい含有量は、5〜70原子%である。
【0040】
また、上記密着層は、TiまたはCrのいずれか一方または両方を、Wに対し原子比で0.1〜3含むことが好ましい。より好ましくは、原子比で0.8〜2.5である。TiとCrの両者を含む場合は、両者合計の原子比が上記範囲に含まれるものとする。
【0041】
TiまたはCrのいずれか一方または両方を上記の原子比で含むことにより、機械的特性が向上する。なお、上記原子比が0.1未満では、このような機械的特性の向上を得ることができない場合があり、3を超えると硬くて脆い密着層となり機械的特性が劣化するという不都合を有する場合がある。
【0042】
さらに、本発明の密着層は、Co、Ni、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を、0.1〜20原子%含むことが好ましい。より好ましくは、1〜10原子%である。これらの元素を2種以上含む場合は、それらの合計が上記範囲内に含まれることが好ましい。
【0043】
このように、Co、Ni、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を加えることにより、Wによる化学結合の密度および機械的特性をより向上させることができる。これは、密着層をより効果的に上記のようなアモルファス状態または超微粒子組織とすることができ、また共有結合的な成分を増加させることができるためである。機械的特性の向上としては、特に密着層の靭性向上と、密着層の疲労的な破壊による剥離抑制を挙げることができる。
【0044】
なお、上記含有量が0.1原子%未満では、上記のような効果を得ることができず、20原子%を超えるとWの特性が失われる場合がある。
【0045】
このような密着層の組成は、透過型電子顕微鏡(TEM)/エネルギ分散型X線分光分析(EDS)により同定することができる。
【0046】
<密着層の厚み>
上記密着層は、1〜30nmの厚みを有することが好ましい。密着層の厚みをこの範囲とすることにより、密着層自体の強度が高く、また立方晶窒化硼素および硬質被膜層の両者に対して高い密着性(親和性)を有したものとなる。より好ましくは、2〜20nmである。
【0047】
密着層の厚みが1nm未満の場合、十分な共有結合または金属結合の化学成分を形成するための電子を供給できない場合がある。一方、密着層の厚みが30nmを超えると、密着層のWの金属としての強度が支配的となり、脆いかまたは軟らかくなるため好ましくない。
【0048】
このような密着層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)/エネルギ分散型X線分光分析(EDS)により同定することができる。
【0049】
<硬質被膜層>
本発明の表面被覆層は、1層以上の硬質被膜層を含み、当該硬質被膜層は、密着層を被覆するように形成される。そして、この硬質被膜層は、−1.5〜+0.5GPaの応力を有することが好ましい。より好ましくは、−1〜0GPaである。
【0050】
ここで、応力を示す数値として「+」の数値は引張応力を示し、「−」の数値は圧縮応力を示す。このような応力は、たとえばsin2ψ法等により測定することができる。
【0051】
硬質被膜層の応力が0.5GPaを超えると、強度および靭性が極端に低下し、切削工具として用いる場合に工具刃先のチッピング性が低下する(あるいは耐摩耗性が低下する)場合がある。また、該応力が−1.5GPa未満の場合は、硬質被膜層自体が自己破壊し、チッピングおよび剥離が発生し、耐摩耗性を向上することができなくなる(立方晶窒化硼素焼結体との密着性が低下する)場合がある。
【0052】
このような硬質被膜層は、1層以上の層により構成され、後述のようにそのうちの1層として第1被膜層を含むことが好ましい。このような硬質被膜層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物で構成されることが好ましい。これにより、優れた耐摩耗性を付与することができる。
【0053】
また、本発明の硬質被膜層は、0.5〜20μmの厚みを有することが好ましい。より好ましくは、0.75〜7μmである。該厚みが0.5μm未満である場合は十分に耐摩耗性を発揮できない場合があり、20μmを超えるとチッピングおよび剥離が生じやすい傾向を示す。
【0054】
<第1被膜層>
本発明の硬質被膜層は、密着層と接する最下層として第1被膜層を含み、該第1被膜層は、元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物で構成されることが好ましい。このような化合物としては、たとえばTiN、TiCN、TiB2、TiAlN、AlCrN、TiSiCN等を挙げることができる。なお、本発明において、化合物をTiCN等の化学式で表わす場合、特に断りのない限り従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、TiとCとNの原子比が1:1:1の場合を示すものではない。
【0055】
そして、当該第1被膜層は、特にTiAlN、AlCrNおよびTiSiCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物またはその化合物を含む固溶体で構成されるか、あるいは該化合物または該固溶体を構成層とする超多層積層体で構成されることが好ましい。
【0056】
第1被膜層が、上記のような構成を有することにより硬度が極めて高くなり、以って密着層および立方晶窒化硼素焼結体との機械的特性が一致し、これらとの間に高い密着性を得ることができる。このような第1被膜層は、導電性および金属結合性の被膜となるが、組成中にAlの窒化物またはSiの炭化物/窒化物およびその固溶体を含む場合、それらの化合物は共有結合性の結合を部分的に含むため、本発明の密着層が共有結合性および金属結合性の両方の結合を含むことと相俟って、第1被膜層と密着層とがより強い化学結合を有することから極めて高い密着性を得ることができる。
【0057】
一方、第1被膜層が超多層積層体で構成される場合は、密着層上に形成される初期の数層が密着層の影響を受け、より化学結合を形成しやすい電子構造に変化するため、密着層との間により高い密着力を得ることができる。ここで超多層積層体とは、上記の化合物または固溶体で構成される0.5〜20nm程度のナノメートル層が10〜5000層程度積層された積層体をいう。より好ましくは、2種以上の上記構成層が繰り返し積層される構造とすることが好適である。
【0058】
また、上記第1被膜層は、密着層との界面から20nm以内の領域(厚み方向の領域をいう)が1〜20nmの粒径の柱状晶で構成されていることが好ましい。これにより、密着層との構造的な整合性に優れることとなり、より高い密着性を得ることができる。
【0059】
ここで、上記柱状晶の粒径とは、柱状晶の直径を意味する。柱状晶であることは、高分解能SEMまたはTEM観察により確認することができ、その粒径もTEM観察により確認することができる。
【0060】
<用途>
本発明の表面被覆焼結体は、それ単独で用いることも可能であるが、たとえば超硬合金等で構成される基材に接合することにより、切削工具等として用いることができる。特に、本発明は、表面被覆焼結体を超硬合金製の基材の刃先部に接合してなる切削工具としての使用に適したものである。ここで、上記超硬合金とは、少なくともWCとCo、Ni、およびFeからなる群より選択される1種以上とを含むことが好ましい。
【0061】
<製造方法>
本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、超高圧焼結法等の従来公知の製法により得ることができる。また、表面被覆層は、たとえば下記のようにして立方晶窒化硼素焼結体上に形成することができる。
【0062】
すなわち、密着層は、それを構成する金属をスパッタリングにより、立方晶窒化硼素焼結体上に形成することができる。そして、硬質被膜層は、アーク放電式イオンプレーティング法またはスパッタリング法により形成することができる。アーク放電式イオンプレーティング法の場合は、硬質被膜層を構成することになる金属種の金属蒸発源と、CH4、N2、O2等の反応ガスを用いて、従来公知の条件を採用することにより硬質被膜層を形成することができる。また、スパッタリング法の場合は、硬質被膜層を構成することになる金属種の金属蒸発源と、CH4、N2、O2等の反応ガスと、Ar、Kr、Xe、He、Ne等のスパッタガスを用いて、従来公知の条件を採用することにより硬質被膜層を形成することができる。
【0063】
以上のようにして、本発明の表面被覆焼結体を製造することができる。そして、この表面被覆焼結体を、たとえば超硬合金製の基材に接合することにより切削工具を得る場合は、以下のようにして製造することができる。
【0064】
まず、超硬合金製の基材は、従来公知の焼結法と成形法により製造することができる。そして、その基材の適切な部位に、公知のロウ材を用いることにより公知の接合法で表面被覆焼結体を接合することにより、切削工具とすることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載において特に断らない限り、硬質被膜層とは第1被膜層を示すものとする。
【0066】
<実施例1〜8および比較例1>
超硬合金製の基材の刃先部分に立方晶窒化硼素焼結体を接合し、成形した後に被覆を実施することにより切削工具を作製した。
【0067】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0068】
立方晶窒化硼素焼結体は、以下の表1のような立方晶窒化硼素の含有率(体積%)となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiCNおよびTiB2となるようにTiを使用)とを混合することにより、1450℃、5.5GPaの条件下で焼結することにより作製した(なお、原料粉末の配合割合は特に断りのない限り立方晶窒化硼素焼結体の組成比を反映するものとする。以下の各実施例において同じ)。
【0069】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、500℃に加熱し、Arイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを35原子%、Crを63原子%、Coを1原子%、Niを1原子%含む組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが5nmとなるまでの時間スパッタリングすることにより形成した(なお、ターゲットの組成は特に断りのない限り密着層の組成と一致する。以下の各実施例において同じ)。これにより密着層は、Crを、Wに対し原子比で1.8含むものとなった。上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより上記密着層の状態をアモルファス状態とした。
【0070】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成はTi0.85Si0.15Nとし、その膜組成となるように準備した金属蒸発源を陰極とし、N2を導入しながら、冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、厚みが2μmとなるまでの時間継続し、Ti0.85Si0.15Nである硬質被膜層を形成した。なお、バイアス電圧を−30V、圧力を4Pa、基材温度を600℃に調整することにより硬質被膜層の応力が−1.3GPaとなり、密着層との界面から20nm以内の領域が2nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0071】
このようにして、実施例1〜8および比較例1の切削工具を作製した。
<実施例101〜109>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0072】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0073】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が90体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がWの炭化物、W、Coの硼化物となるように、WC、W、Co、Bを使用)とを混合することにより、1500℃、5.5GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0074】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、500℃に加熱し、Arイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、TiとCrの組成比を2:1、Co、Fe、Niの組成比を5:1:1として、表2のようにW、Ti、Co、Ni、およびFeの原子比を変化させたターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが19nmとなるまでの時間スパッタリングすることにより形成した。なお、上記のスパッタリング時の温度を350℃に調節することにより上記密着層の状態を平均粒径が2.5nmの超微粒子で構成した。
【0075】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成はTi0.65Cr0.1Si0.25Nとし、その膜組成となるように準備した金属蒸発源を陰極とし、N2を導入しながら、冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、厚みが0.9μmとなるまでの時間継続し、Ti0.65Cr0.1Si0.25Nである硬質被膜層を形成した。なお、基材温度を600℃、圧力を4Pa、バイアス電圧を−30Vとすることにより硬質被膜層の応力は−0.7GPaであった。また、成膜初期の基材温度を500℃とすることにより、密着層との界面から20nm以内の領域が3nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0076】
このようにして、実施例101〜109の切削工具を作製した。
<実施例201〜207>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0077】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0078】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が75体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiN、TiB2、AlN、AlB2となるようにTiとAlを使用)とを混合し、1400℃、5.0GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0079】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、表3のようにW、Cr、およびCoの含有量を変化させた組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが11nmとなるまでの時間スパッタリングすることにより形成した。なお、上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより上記密着層の状態をアモルファス状態と平均粒径が1nmの超微粒子との混合相として構成した。
【0080】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成はTi0.5Al0.5Nとし、その膜組成となるように準備した蒸発源を陰極とした冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、厚みが3.5μmとなるまでの時間継続し、Ti0.5Al0.5Nである硬質被膜層を形成した。なお、硬質被膜層の応力は−1GPaであった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、密着層との界面から20nm以内の領域が4nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0081】
このようにして、実施例201〜207の切削工具を作製した。
<実施例301〜307>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0082】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0083】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が42体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiWN、WC、TiB2となるようにTiとWとCを使用)とを混合することにより、1350℃、5.5GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0084】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを33原子%とし、TiとCrとの比を1:1に固定し、Ti、Cr、およびNiの含有量を表4に示すように変化させた組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが2nmとなるまでの時間スパッタリングすることにより形成した。すなわち、密着層は、TiおよびCrをWに対し、表4に示す原子比で含むものとなった。なお、上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより、上記密着層の状態を平均粒径が3nmの超微粒子として構成した。
【0085】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成はTi0.2Al0.7Cr0.05Si0.05Nとし、その膜組成となるように準備した蒸発源を陰極とした冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、厚みが2.2μmとなるまでの時間継続し、Ti0.2Al0.7Cr0.05Si0.05Nである硬質被膜層を形成した。なお、硬質被膜層の応力は−1.2GPaであった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、密着層との界面から20nm以内の領域が1.1nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0086】
このようにして、実施例301〜307の切削工具を作製した。
<実施例401〜409>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0087】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0088】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が65体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiZrCN、TiB2、AlN、AlB2となるようにTiとZrCとAlを使用)とを混合することにより、1400℃、5.5GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0089】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを80原子%、Crを12原子%、Coを8原子%となるような組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが表5の厚みとなるようにスパッタリングの時間を調整することにより形成した。これにより密着層は、Crを、Wに対し原子比で0.15含むものとなった。なお、上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより上記密着層の状態をアモルファス状態と平均粒径が0.7nmの超微粒子との混合相として構成した。
【0090】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成はTi0.4Al0.6NとAl0.6Cr0.3Si0.1Nとが交互に800層ずつ積層した超多層積層体とし、Ti0.4Al0.6とAl0.6Cr0.3Si0.1との2種類の蒸発源を同時に放電させ、各蒸発源間を通過するように焼結体工具を回転させることで作製した。成膜時間は、硬質被膜層の厚みが4μmとなるまでの時間継続した。なお、バイアス電圧を−50Vから0Vに50kHzで変化させるパルスバイアスとすることにより硬質被膜層の応力は+0.4GPaであった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、密着層との界面から20nm以内の領域が10nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0091】
このようにして、実施例401〜409の切削工具を作製した。
<実施例501〜506および比較例501>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0092】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0093】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が80体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiN、TiB2、AlN、AlB2、Si34となるようにTiとAlとSiを使用)とを混合することにより、1450℃、5.5GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0094】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを47原子%、Crを51.7原子%、Coを1.3原子%という組成となるように、WとCoはスパッタリング法により、Crはアーク放電式イオンプレーティング法により同時に蒸着することで形成した。形成時間は密着層の厚みが9nmとなるまでの時間継続した。これにより密着層は、Crを、Wに対し原子比で1.1含むものとなった。なお、上記のスパッタリング法およびアーク放電式イオンプレーティング法の条件を基材温度を350℃〜650℃、バイアス電圧を−50V〜−500Vというように調節することにより上記密着層の状態を表6のように変化させた。
【0095】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成はAl0.65Ti0.3Si0.050.050.95としてその膜組成となるように準備し、N2とCH4とを導入しながら、圧力を1.3Paとし、蒸発源を陰極とした冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、厚みが4.5μmとなるまでの時間継続し、Al0.65Ti0.3Si0.050.050.95である硬質被膜層を形成した。なお、バイアス電圧を−50Vから0Vに50kHzで変化させるパルスバイアスとすることにより硬質被膜層の応力を−0.2GPaとした。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、密着層との界面から20nm以内の領域が1.5nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0096】
このようにして、実施例501〜506および比較例501の切削工具を作製した。
<実施例601〜607>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0097】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0098】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が50体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiC、Al23、TiB2となるようにTiとAlとを使用)とを混合することにより、1450℃、6.0GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0099】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを65原子%、Feを33原子%という組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが15nmとなるまでの時間スパッタリングすることにより形成した。なお、上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより上記密着層の状態をアモルファス状態と平均粒径が4.5nmの超微粒子との混合相として構成した。
【0100】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成は、Ti0.93Si0.07NとTi0.5Al0.3Cr0.1Si0.1Nとが交互に315層ずつ積層した超多層積層体とし、Ti0.93Si0.07とTi0.5Al0.3Cr0.1Si0.1との2種類の蒸発源を同時に放電させ、各蒸発源間を通過するように焼結体工具を回転させることで硬質被膜層を形成した。成膜時間は、硬質被膜層の厚みが6.3μmとなるまでの時間継続した。なお、バイアス電圧を調整することにより硬質被膜層は表7に示す応力となった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、密着層との界面から20nm以内の領域が15nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0101】
このようにして、実施例601〜607の切削工具を作製した。
<実施例701〜708>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0102】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0103】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が97体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がAl、AlNおよびAlB2となるようにAlを使用)とを混合することにより、1450℃、6.0GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0104】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを91原子%、Tiを9原子%含む組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが27nmとなるまでの時間スパッタリングすることにより形成した。これにより密着層は、Tiを、Wに対し原子比で0.1含むものとなった。なお、上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより上記密着層の状態をアモルファス状態とした。
【0105】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成はTi0.5Al0.5CNとし、その膜組成となるように準備した蒸発源を陰極とした冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、厚みが表8に記載した厚みとなるように時間を調整し、Ti0.5Al0.5CNからなる硬質被膜層を形成した。なお、バイアス電圧を−50Vから0Vに50kHzで変化させるパルスバイアスとすることにより硬質被膜層の応力が−0.1GPaとなった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、密着層との界面から20nm以内の領域が19nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0106】
このようにして、実施例701〜708の切削工具を作製した。
<実施例801〜806>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0107】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0108】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が70体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiCN、TiB2、AlN、AlB2となるようにTiとAlを使用)とを混合することにより、1350℃、6.0GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0109】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、ArとXeとを同流量比で3.0Paとなるように導入し、−1000Vのバイアス電圧を基材にかけて、エッチングを行なうとともに、その超硬合金成分が、立方晶窒化硼素焼結体の刃先に、厚みが8nmとなるように堆積させた。Wを82原子%、Coを10原子%、Niを5原子%、Feを3原子%となるような組成の超硬台金を準備した。上記の堆積時の温度を300℃に調節することにより、上記密着層の状態をアモルファス状態と平均粒径が2.2nmの超微粒子との混合相として構成した。
【0110】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の組成はAl0.7Cr0.3NとTi0.4Al0.55Si0.05Nとが交互に1層ずつ積層した超多層積層体とし、Al0.7Cr0.3とTi0.4Al0.55Si0.05との2種類の蒸発源を同時に放電させ、各蒸発源間を通過するように焼結体工具を回転させることで作製した。成膜時間は、硬質被膜層の厚みが12μmとなるまでの時間継続した。なお、バイアス電圧を−50Vから0Vに50kHzで変化させるパルスバイアスとすることにより硬質被膜層の応力は+1.5GPaであった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、密着層との界面から20nm以内の領域の柱状晶の粒径を表9のように変更した。
【0111】
このようにして、実施例801〜806の切削工具を作製した。
<実施例901>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0112】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0113】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が68体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiCN、TiB2、AlN、AlB2、WCとなるようにTiAl2とWを使用)とを混合することにより、1300℃、6.0GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0114】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを42原子%、Crを42原子%、Coを16原子%となるような組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが12nmとなるようにスパッタリングの時間を調整することにより形成した。なお、上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより上記密着層の状態をアモルファス状態と平均粒径が1.2nmの超微粒子との混合相として構成した。
【0115】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の構成は、Ti0.4Al0.6Nからなる厚み0.3μmの第1被膜層と、その第1被膜層上にTi0.5Cr0.45Si0.05Nからなる厚み3.2μmの層(以下「第2被膜層」という)とした。具体的には、このような膜組成となるように準備した蒸発源を陰極とした冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、上記の厚みとなるように成膜時間を調整した。なお、バイアス電圧を−100Vから0Vに100kHzで変化させるパルスバイアスとすることにより硬質被膜層の応力は−0.7GPaであった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、第1被膜層において密着層との界面から20nm以内の領域が4nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0116】
このようにして、実施例901の切削工具を作製した。
<実施例902>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0117】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0118】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が55体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiCN、TiB2、AlN、AlB2、WCとなるようにTiとAlとWを使用)とを混合することにより、1300℃、6GMPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0119】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを21原子%、Tiを63原子%、Coを16原子%となるようなW−Co組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが9nmとなるようにスパッタリングの時間を調整することにより形成した。ただし、密着層をスパッタリング法で形成しながらアーク放電式イオンプレーティング法でTiを蒸発させ、上記のような組成の密着層を形成した。なお、上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより上記密着層の状態をアモルファス状態と平均粒径が1.3nmの超微粒子との混合相として構成した。
【0120】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の構成は、Ti0.2Al0.7Si0.1Nからなる厚み0.7μmの第1被膜層と、その第1被膜層上にTi0.92Si0.080.20.8からなる厚み1.3μmの層(以下「第2被膜層」という)とした。具体的には、このような膜組成となるように準備した蒸発源を陰極とした冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、上記の厚みとなるように成膜時間を調整した。なお、バイアス電圧を−50Vから0Vに50kHzで変化させるパルスバイアスとすることにより硬質被膜層の応力は−0.5GPaであった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、第1被膜層において密着層との界面から20nm以内の領域が2.5nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0121】
このようにして、実施例902の切削工具を作製した。
<実施例903>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0122】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0123】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が50体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiCN、TiB2、AlN、AlB2、WCとなるようにTiNとAlNとWを使用)とを混合することにより、1300℃、5.0GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0124】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成した。密着層は、Wを75原子%、Niを25原子%となるような組成のターゲットを準備し、Arを導入しながら1Pa、スパッタ電力5kWの条件で、厚みが5nmとなるようにスパッタリングの時間を調整することにより形成した。なお、上記のスパッタリング時の温度を300℃に調節することにより上記密着層の状態をアモルファス状態と平均粒径が1.1nmの超微粒子との混合相として構成した。
【0125】
次いで、上記の密着層上にアーク放電式イオンプレーティング法により硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の構成は、Ti0.7Zr0.1Si0.2Nからなる厚み0.5μmの第1被膜層と、その第1被膜層上にTi0.7Zr0.1Si0.2NとAl0.7Ti0.3Nとが交互に積層した超多層積層体からなる厚み1μmの層(以下「第2被膜層」という)とした。具体的には、第1被膜層は、上記のような膜組成となるように準備した蒸発源を陰極とした冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、上記の厚みとなるように成膜時間を調整した。第2被膜層は、Ti0.7Zr0.1Si0.2とAl0.7Ti0.3との2種類の蒸発源を同時に放電させ、各蒸発源間を通過するように焼結体工具を回転させることで作製した。なお、バイアス電圧を−150Vから0Vに200kHzで変化させるパルスバイアスとすることにより硬質被膜層の応力が−1.1GPaとなった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、第1被膜層において密着層との界面から20nm以内の領域が1.8nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0126】
このようにして、実施例903の切削工具を作製した。
<比較例901>
超硬合金製の基材の刃先部に表面被覆焼結体を接合することにより切削工具を作製した。
【0127】
超硬合金製の基材としては、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先部分(コーナー部分)に後述のようにして作製される立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合し、接合体の外周および上下面を研削し、刃先にネガランド(幅150μm、角度25°)形状を作製した(以下、これを焼結体工具と呼ぶ)。
【0128】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有率が45体積%となるように立方晶窒化硼素粉末と結合材用原料粉末(結合材の組成がTiCN、TiB2、AlN、AlB2、WCとなるようにTiとAlとWを使用)とを混合することにより、1350℃、5GPaの条件下で焼結することにより作製した。
【0129】
そして、この焼結体工具を成膜装置内に投入し、真空引きを行なった後、620℃に加熱し、Xeイオンによりエッチングを行なった。その後、同成膜装置内で立方晶窒化硼素焼結体上に密着層を形成することなく、アーク放電式イオンプレーティング法により直接硬質被膜層を形成した。硬質被膜層の構成は、Ti0.5Al0.5Nからなる厚み3μmの層とした。具体的には、このような膜組成となるように準備した蒸発源を陰極とした冷陰極アーク放電により蒸発およびイオン化し、上記の厚みとなるように成膜時間を調整した。なお、バイアス電圧を−150Vから0Vに50kHzで変化させるパルスバイアスとすることにより硬質被膜層の応力は−1GPaであった。また、成膜初期の基材温度を600℃とすることにより、硬質被膜層において密着層との界面から20nm以内の領域が10nmの粒径の柱状晶で構成されていた。
【0130】
このようにして、比較例901の切削工具を作製した。
<測定条件>
上記の実施例および比較例における数値は以下のようにして測定した。
【0131】
<表面被覆層の測定>
密着層の厚み、組成、結晶性および超微粒子の平均粒径を含む状態評価(組織評価)は、次のようにして測定した。すなわち、まず立方晶窒化硼素焼結体と表面被覆層とを含む一断面をFIB(Focused Ion Beam)法により形成した。次いで、その断面において、立方晶窒化硼素焼結体と密着層との界面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)/エネルギ分散型X線分光分析(EDS)により観察した。
【0132】
そして、「STEM観察」、「EDS分析」、「電子線回折」から、それぞれ「厚み」、「組成」、「状態」、硬質被膜層(第1被膜層)における密着層との界面から20nm以内の領域の柱状晶の粒径を測定した。また、硬質被膜層の厚みや組成等も上記の密着層と同様にして求めた。
【0133】
なお、EDS分析は、試料をイオンビーム加工により厚み100nm程度に調整し、STEMの電子ビーム径を1nmφとして測定した。この場合、電子ビームは、密着層のコントラストまたはWのコントラストが他の金属元素成分(硬質被膜層を構成する金属元素を含む)やBに比較して最大となるように入射角を調整した。
【0134】
また、密着層に凹凸があるために、密着層の組成を観察した際に硬質被膜層の元素や立方晶窒化硼素焼結体の元素が検出されることがある。また、密着層または硬質被膜層を形成する際に、成膜種のエネルギを制御することによって、密着層と立方晶窒化硼素焼結体または硬質被膜層をミキシングさせることもできるが、その場合でも上記のような分析結果となる。このような場合も含めて検出された結果を密着層の組成とした。
【0135】
なお、SEMの組成像ではWを含む密着層が特に高い明度を持つ層として観察されるので、簡易的には、この明るい層の有無で判断することもできる。
【0136】
<評価方法>
上記で得た実施例および比較例の切削工具を用いて以下の切削条件により切削試験を2種行なった。切削試験Aは硬質被膜層の密着性、耐摩耗性とチッピングの集積による欠損を主に評価でき、切削試験Bは硬質被膜層の密着性、耐摩耗性とともに比較的大きな欠けによる耐欠損性を評価できる。両試験とも、逃げ面摩耗量(Vb)が0.2mmとなるまでに要する時間(切削時間)を工具寿命とし、時間が長くなるほど立方晶窒化硼素焼結体と表面被覆層との密着性が優れること(すなわち耐摩耗性と靭性の両者に優れること)を示す。その結果を表1〜10に示す。なお、表中、「剥離・欠損」とは、切削試験の途中で表面被覆層が剥離したり、切削工具が欠損し、切削時間を測定できなかったことを示す。
【0137】
<切削試験A(軽断続試験)>
切削速度:V=120m/min.
送 り:f=0.3mm/rev.
切り込み:d=0.3mm
湿式乾式:乾式(Dry)
被削材 :SCM435浸炭材(HRC62)であって、黒皮付きの丸棒。
【0138】
<切削試験B(強断続試験)>
切削速度:V=200m/min.
送 り:f=0.15mm/rev.
切り込み:d=2.0mm
湿式乾式:乾式(Dry)
被削材 :SUJ2(HRC60)であって、長手方向に伸びる6つの溝を有する丸棒。
【0139】
【表1】
【0140】
【表2】
【0141】
【表3】
【0142】
【表4】
【0143】
【表5】
【0144】
【表6】
【0145】
【表7】
【0146】
【表8】
【0147】
【表9】
【0148】
【表10】
【0149】
表1〜10より明らかなように、本発明の実施例は比較例に比し、明らかに工具寿命が延長されていることが確認できた。すなわち、本発明の表面被覆焼結体は、立方晶窒化硼素焼結体と表面被覆層との密着性に優れ、耐摩耗性と靭性の両者に優れることを確認することができた。
【0150】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0151】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。