特許第5771883号(P5771883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771883
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20150813BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20150813BHJP
   C04B 35/583 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B23B27/14 B
   B23B27/20
   C04B35/58 103H
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-539672(P2012-539672)
(86)(22)【出願日】2011年10月7日
(86)【国際出願番号】JP2011073179
(87)【国際公開番号】WO2012053375
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-234589(P2010-234589)
(32)【優先日】2010年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真知子
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−272929(JP,A)
【文献】 特開2007−144615(JP,A)
【文献】 特表2008−528413(JP,A)
【文献】 特開平07−082031(JP,A)
【文献】 米国特許第05328875(US,A)
【文献】 特開平10−226575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 27/20
C04B 35/583
Science Direct
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素粒子と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体を少なくとも刃先に有する立方晶窒化硼素焼結体工具であって、
前記立方晶窒化硼素焼結体は、前記立方晶窒化硼素粒子を40〜70体積%含み、
前記結合相は、第1成分と第2成分とを含み、
前記第1成分は、TiCであり、
前記第2成分は、TiB2およびAlB2のいずれか一方または両方であり、
前記第1成分の(200)面のX線回折強度をI1、前記第2成分の(101)面のX線回折強度をI2とする場合、前記I1は、前記立方晶窒化硼素焼結体において前記立方晶窒化硼素粒子を除く全成分のX線回折強度中最大であり、かつ0.01≦I2/I1≦0.1を満たす、立方晶窒化硼素焼結体工具。
【請求項2】
前記第2成分の少なくとも一部は、前記立方晶窒化硼素粒子の表面と接触するように存在し、
前記立方晶窒化硼素粒子の表面に占める前記第2成分の占有率は、20〜70%であり、
前記結合相は、前記第2成分を1〜10体積%含む、請求項1記載の立方晶窒化硼素焼結体工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化硼素焼結体工具に関し、特に耐熱性および耐欠損性が高度に優れる立方晶窒化硼素焼結体工具に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素(以下「cBN」とも記す)焼結体工具に用いられるcBN焼結体は、従来の超硬工具に比して、化学的安定性、鉄との低親和性、および高硬度に優れるため、高能率で長寿命を達成できる材料と評価されている。このようなcBN焼結体工具を切削工具に適用した場合には、研削工具を大きく凌ぐ優れたフレキシビリティーを有し、かつ環境への負荷が小さい点等のメリットがある。このため、cBN焼結体工具は、鉄系難加工性材料の加工において従来工具を置換してきた。
【0003】
cBN焼結体は、高cBN含有率焼結体と低cBN含有率焼結体の2種の組成に大別される。前者は、cBN粒子の含有率が高く、cBN粒子同士が直接結合し、残部がCoやAlを主成分とする結合材で結合されたものである。後者は、cBN粒子の含有率が低いため、cBN粒子同士の接触率が少なく、Tiの窒化物(TiN)や炭化物(TiC)のような、鉄との親和性が低いセラミックスを介して結合されたものである。このような2種のcBN焼結体は、cBNの含有率の相違により、適用すべき切削加工の被削材が異なっている。以下、各cBN焼結体の好適な被削材を説明する。
【0004】
硬質粒子との擦れによって生じる機械的な摩耗や損傷が支配的な鉄系焼結部品の切削加工や、高速断続切削時の熱衝撃による損傷が支配的なねずみ鋳鉄の切削加工は、切り屑が分断されやすいため、切り屑によるせん断熱が発生しにくい。このような材料の切削加工においては、前者の高cBN含有率焼結体によって切削加工することが好適である。すなわち、ねずみ鋳鉄等の切削加工において、高cBN含有率焼結体は、cBNの優れた機械特性(高硬度、高強度、高靭性)と高熱伝導率とが功を奏し、抜群の安定性と長寿命とを達成する。
【0005】
その一方で、焼入鋼などの加工に高cBN含有率焼結体を適用すると、硬度が高く、かつ切り屑が連続するため、せん断熱が発生する。これにより高cBN含有率焼結体の刃先が高温に曝され、cBNと鉄との反応により摩耗の発達が速く、十分な工具寿命が得られない。
【0006】
したがって、焼入鋼の加工においては、低cBN含有率焼結体を用いることが好適である。すなわち、低cBN含有率焼結体は、高温下での鉄との親和性の低いTiNやTiCセラミックスからなる結合材を多量に有するため、特に高温時に優れた耐摩耗性を発揮し、従来工具に対し10倍〜数十倍の工具寿命を達成することができる。このような性質を有する低cBN含有率焼結体は、焼入鋼の切削市場を開拓してきた。
【0007】
ところで、近年、自動車産業においては、自動車の高性能化と軽量化の両立を狙い、一部の自動車メーカでは、薄肉の高強度鋳鉄材料を使用するケースが増えている。すなわちたとえば、シリンダブロックが片状黒鉛鋳鉄製からバーミキュラー鋳鉄製へ変更になったり、自動車の一部品であるディファレンシャルケースの材料がFCD450からFCD700へ変更になったりしている。ちなみに、FCDの末尾の3桁の数値は引っ張り強度を示し、数値が大きくなるほど高強度になることを意味する。このような材料の代替に伴い、高強度鋳鉄材料を高能率および高精度に加工できる工具の登場が待ち望まれている。
【0008】
従来の超硬工具やセラミックス工具を用いて、ダクタイル鋳鉄のような強度の高い材料を加工しても、200m/min以上の速度での加工は困難であった。また、従来のcBN焼結体工具を用いても、切削速度はせいぜい300〜400m/minに留まり、工具寿命も満足できるレベルではなかった。
【0009】
たとえば、特開平08−120391号公報(特許文献1)は、ダクタイル鋳鉄を長寿命に切削できるcBN焼結体の組成を開示している。すなわち、特許文献1においては、cBN焼結体の結合相を構成する主成分に、Hf、TiHf、周期律表のIVa族元素、Va族元素、およびVIa族元素(Tiを除く)のいずれかの炭窒化物を用いることにより、cBN焼結体の長寿命化を達成している。しかしながら、特許文献1のcBN焼結体も、最近の高速化および長寿命化の要求性能を満たすために、耐摩耗性のさらなる向上が求められている。
【0010】
また、特開2008−222485号公報(特許文献2)および国際公開第2007/057995明細書(特許文献3)においては、高cBN含有率焼結体にセラミックスコーティングを施した被覆複合焼結体が開示されている。しかしながら、いずれの被覆複合焼結体も母材であるcBN焼結体の耐摩耗性が十分ではなく、さらなる耐摩耗性の向上が望まれている。
【0011】
また、特開2000−044347号公報(特許文献4)および特開2000−044350号公報(特許文献5)においては、TiN、AlN等の金属窒化物層によってcBN粒子を被覆し、これと結合相を構成する材料とを焼結することにより得られるcBN焼結体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平08−120391号公報
【特許文献2】特開2008−222485号公報
【特許文献3】国際公開第2007/057995明細書
【特許文献4】特開2000−044347号公報
【特許文献5】特開2000−044350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の特許文献4および5に開示されるように、cBN焼結体の表面を金属窒化物層で被覆すると、cBN粒子同士の結合力が十分でないことに起因して、欠損が生じやすいという問題があった。本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、立方晶窒化硼素焼結体の耐熱性と耐欠損性とを高度に両立させることにより、立方晶窒化硼素焼結体工具の長寿命化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従来用いられているダクタイル鋳鉄加工用のcBN焼結体は、上述したように、cBNの含有率が半分強程度で、残りはTiの炭化物および炭窒化物と、Al化合物とを主成分として含む結合相で構成されるものであった。かかる結合相は、cBN焼結体を焼結する過程で生成されるTiB2やAlB2を微量に含有するものであった。
【0015】
本発明者らは、結合相を構成する成分の組成比率を変更し、摩耗速度と材料強度との相関を調査した結果、TiB2やAlB2等の硼化物の含有量が多いほど、材料強度を高められる傾向にあるが、その反面摩耗速度も速まる傾向にあることを突き止めた。さらに、TiCとTiB2またはAlB2とのX線回折の強度ピーク比を変化させたときの材料強度および摩耗速度の変化を調べたところ、材料強度と摩擦速度とは単純なトレードオフの関係にあるわけではなく、材料強度と耐摩耗性とが両立する状態が存在することを見い出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねることにより完成されたものである。
【0016】
すなわち、本発明の立方晶窒化硼素焼結体工具は、立方晶窒化硼素粒子と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体を少なくとも刃先に有するものであって、立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を40〜70体積%(40体積%以上70体積%以下、以下、特に断らない限り、同様の表記において同意)含み、該結合相は、第1成分と第2成分とを含み、第1成分は、TiCであり、第2成分は、TiB2およびAlB2のいずれか一方または両方であり、第1成分の(200)面のX線回折強度をI1、第2成分の(101)面のX線回折強度をI2とする場合、I1は、立方晶窒化硼素焼結体において立方晶窒化硼素粒子を除く全成分のX線回折強度中最大であり、かつ0.01≦I2/I1≦0.1を満たすことを特徴とする。
【0017】
第2成分の少なくとも一部は、立方晶窒化硼素粒子の表面と接触するように存在し、立方晶窒化硼素粒子の表面に占める第2成分の占有率は、20〜70%であり、結合相は、第2成分を1〜10体積%含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体工具は、上記の構成を有することにより、立方晶窒化硼素焼結体の耐熱性と耐欠損性とを高度に両立し、もって立方晶窒化硼素焼結体工具の長寿命化を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の立方晶窒化硼素焼結体工具の各構成についてさらに説明する。
<立方晶窒化硼素焼結体工具>
本発明のcBN焼結体工具は、cBN粒子と結合相とを含むcBN焼結体を少なくとも刃先に有するものである。すなわち、cBN焼結体のみによってcBN焼結体工具が構成されていてもよいし、超硬合金やサーメット等の基材の刃先に接合材を用いてcBN焼結体を接合してcBN焼結体工具が構成されていてもよい。また、cBN焼結体工具の表面を硬質セラミックス被覆層で覆っていてもよい。かかる硬質セラミックス被覆層は、従来公知の組成のものを用いることができる。なお、本発明において、「刃先」とは、被削材と接触する部分を意味する。
【0020】
本発明のcBN焼結体工具は、後述するcBN焼結体を用いることにより、耐熱性および耐欠損性を高度に両立させることができるため、ダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)、バーミキュラー鋳鉄(芋虫状黒鉛鋳鉄)の切削加工においても、たとえば400m/min以上の高速切削で切削加工でき、しかも長寿命化を実現することができる。
【0021】
本発明のcBN焼結体工具を切削加工の用途に用いる場合、旋削加工用やフライス加工用等として極めて有用に用いることができる。
【0022】
<立方晶窒化硼素焼結体>
本発明のcBN焼結体は、cBN粒子と結合相とを含むものであって、cBN粒子を40〜70体積%含むことを特徴とする。かかる体積比率でcBN粒子を含むことにより、cBN焼結体の強度と耐熱性とのバランスが優れたものとなり、耐熱性と耐欠損性とを高度に両立させることができる。cBN粒子が40体積%未満であると、難削なダクタイル鋳鉄の切削加工において、強度が足りず、耐欠損性が低下する。一方、70体積%を超えると、相対的に結合相の含有量が低下するため、耐熱性が低下し、切削加工の際に生じる熱によってcBNが反応し、摩耗が進行しやすくなる。かかるcBN粒子の体積比率は、50体積%以上65体積%以下であることがより好ましい。なお、本発明において、cBN焼結体は、cBN粒子と結合相との他に、さらに他の成分を含んでいてもよい。
【0023】
<立方晶窒化硼素粒子>
本発明のcBN焼結体に含まれるcBN粒子は、材料強度を高めるという観点から、その平均粒子径は小さいことが好ましく、6μm以下の平均粒子径であることが好ましい。また、cBN焼結体の靭性を損なわないようにするという観点から、cBN粒子の平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましい。このような材料強度および靭性のバランスの観点からは、cBN粒子の平均粒子径が1μm以上4μm以下であることがより好ましい。また、cBN粒子は、その表面を金属層で被覆されたものを用いることが好ましいが、この理由や金属層に関しては後述する。
【0024】
<結合相>
本発明において、結合相は、cBN粒子を結合する作用を示すものであって、第1成分と第2成分とを含むことを特徴とするものである。ここで、第1成分は、TiCであり、第2成分は、TiB2およびAlB2のいずれか一方もしくは両方である。
【0025】
そして、上記の第1成分の(200)面のX線回折強度をI1、第2成分の(101)面のX線回折強度をI2とすると、I1は、立方晶窒化硼素焼結体において立方晶窒化硼素粒子を除く全成分のX線回折強度中最大であり、かつ0.01≦I2/I1≦0.1を満たすことを特徴とする。このような特定のX線回折強度比で、第1成分と第2成分とを含有することにより、第1成分と第2成分との組成のバランスが良好なものとなり、耐熱性と耐欠損性とを大幅に向上させることができる。上記のX線回折強度は、0.02≦I2/I1≦0.05であることがより好ましい。I2/I1が0.01未満であると、cBN粒子同士の結合力を高めることができず、耐欠損性が低下する。一方、I2/I1が0.1を超えると、耐摩耗性に優れるTiCの含有量が相対的に低下するとともに、耐摩耗性に劣るTiB2およびAlB2の含有量が増加し、cBN焼結体の耐摩耗性が大幅に低下する。ちなみに、第2成分を構成するTiB2とAlB2とは、そのX線回折におけるピーク波長が極めて近似している。このため、第2成分の(101)面のX線回折強度I2は、TiB2に由来するものか、AlB2に由来するものかを特定しにくいが、いずれに由来するものであっても差し支えない。
【0026】
本発明において、結合相は、金属硼化物からなる第2成分を1〜10体積%含むことが好ましい。このような体積比率で第2成分を含むことにより、cBN粒子の結合力を高めるとともに、cBN焼結体の耐摩耗性を向上させることができる。このような第2成分は、3〜7体積%含むことがより好ましい。第2成分が1体積%未満であると、cBN粒子の結合が十分でない場合があり、強度が低下する。一方、10体積%を超えると、耐摩耗性が低下する。
【0027】
本発明において、第2成分は、cBN粒子と結合相との結合力を高めるというメリットがあるが、その反面、結合相中に多量に含むと、耐摩耗性が低下するというデメリットがある。したがって、cBN粒子の周辺のみに第2成分が局所的に高濃度に含まれることが好ましい。これによりcBN粒子の結合力を高めることができ、cBN焼結体の強度を高めることができる。cBN粒子の周囲に第2成分を局所的に配置するためには、cBN粒子の表面を予め第2成分を構成する金属の層(以下、「金属層」と記す)で被覆し、これと結合相を構成する原料粉末と混合して焼結することが好ましい。
【0028】
ここで、cBN粒子を被覆する金属層の組成としては、TiまたはAlのいずれか一方もしくは両方からなるものを用いることが好ましく、より好ましくはTiAlである。また、金属層は、cBN粒子の質量比に対し、1〜40質量%で被覆されていることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。
【0029】
本発明において、cBN粒子の表面に占める第2成分の占有率が20〜70%であることが好ましく、より好ましくは40〜60%である。かかる占有率を満たすことにより、cBN焼結体の耐摩耗性および耐欠損性をさらに向上させることができる。ここで、「占有率」は、cBN粒子の周囲に局所的に第2成分が含まれることを定量的に評価するためのものであり、以下のようにして算出する。
【0030】
まず、本発明のcBN焼結体をいずれか1の断面で切断したときの切断面をSEMで観察したときの10000倍の観察画像を1以上準備する。それらの観察画像に現われるcBN粒子のうちの粒子径が1μm以上の任意の20個を選定し、その外周の総和を算出する。次に、該20個のcBN粒子のそれぞれが第2成分と接触している部分の長さの総和を算出する。そして、第2成分と接触している部分の長さの総和を、cBN粒子の外周の総和で除した値の百分率をcBN粒子の表面に占める第2成分の占有率とする。
【0031】
上記占有率が20%未満であると、cBN粒子の結合力が低下するため好ましくなく、70%を超えると、相対的に第2成分以外の含有量が低下するため、耐熱性が低下する。これにより切削加工の際に生じる熱が増加し、cBN粒子が反応しやすくなり、摩耗が進行しやすくなる。
【0032】
また、結合相は、第1成分および第2成分のみからなるものであってもよいし、第1成分および第2成分以外に、さらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、従来公知の成分が含まれ、たとえば周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、およびAlからなる群より選択される一種以上の元素と、窒素、炭素、および硼素からなる群より選ばれる一種以上の元素との化合物(ただし、TIC、TiB2、およびAlB2を除く)、または該化合物の相互固溶体のうちの1種以上からなるものを用いることができる。
【0033】
<cBN焼結体の製造方法>
本発明に用いられるcBN焼結体は、以下のようにして作製する。まず、cBN粒子の表面に、TiまたはAlのいずれか一方もしくは両方からなる金属層を被覆することが好ましい。このような金属層は、たとえばRFスパッタリングPVDによって成膜される。かかる金属層で被覆したcBN粒子と、結合相を構成する原料粉末とを超高圧装置に導入した上で、これらの混合粉末を超高圧焼結することにより、cBN焼結体を作製する。このようにcBN粒子を焼結させる前に、その表面を金属層で被覆することにより、焼結後にcBN粒子の周囲に、第2成分(TiB2またはAlB2)が局所的に配置されることになり、もってcBN粒子と結合相との結合力を高めることができる。
【0034】
従来は、cBN粒子の表面を金属窒化物層で覆った上で、これを結合相の原料粉末と混合し焼結を行なっていた。一見すると、従来のcBN粒子を金属窒化物層で被覆する技術は、本発明のcBN粒子を金属層で被覆する技術と共通する技術思想に見えるかもしれないが、cBN粒子に含まれる硼素の拡散性の観点からは、金属窒化物層と金属層とは全く逆の性質を示すものである。すなわち、本発明は、cBN粒子を構成する硼素が結合相中(特に、第2成分を構成するよう)に拡散することを促進すべく、cBN粒子の表面を金属層で覆うものであるが、従来技術のような金属窒化物層による被覆は、cBN粒子から硼素が拡散するのを阻害するために覆うものである。このため、従来技術から、この発明の構成(すなわち、金属層で被覆すること)を容易に導き出すことはできない。
【0035】
上記の超高圧焼結時の圧力は、5.5GPa以上7GPa以下であることが好ましい。また、超高圧焼結時の温度は、1200℃以上1500℃以下であることが好ましく、超高圧焼結の処理に要する時間は5分以上30分以下であることが好ましい。なお、超高圧焼結後のcBN粒子の体積比は、原料粉末混合時のcBN粒子の体積比に比して、2〜3質量%程度低下した値となる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
以下のようにして、cBN焼結体工具を作製した。まず、平均粒子径3μmのcBN粒子の表面に、RFスパッタリングPVD装置を用いて、TiAlからなる金属層を被覆した。上記のスパッタリングの条件は、2kW/hの電力で、アルゴンガスを14.0ccmで流しながら、チャンバの回転数を18Hzとして、8時間半行なうことにより、cBN粒子の表面に対する質量比が、15質量%となるように被覆した。
【0038】
そして、その金属層の最表面に、極薄膜のTiAlNからなる保護層を被覆した。かかる保護層の被覆条件は、14.0ccmのアルゴンガスと、7.0ccmの窒素ガスとを流しながら、上記の金属層の成膜と同一の電力およびチャンバの回転数で30分間成膜した。
【0039】
次に、平均粒子径1μmのTiC粉末と平均粒子径4μmのAl粉末とを粉砕して、これらを質量比で、TiC:Al=95:5となるように混合し、真空中で1200℃、30分間熱処理して化合物を得た。この化合物を直径6mmの超硬合金製ボールメディアを用いてボールミル粉砕法により均一に粉砕し、結合相を構成する原料粉末を得た。
【0040】
次に、表1の「cBN含有率」に示す組成となるように、金属層で被覆したcBN粒子と、結合相を構成する原料粉末とを配合し、直径3mmの窒化硼素製ボールメディアを用いてボールミル混合法により均一に混合した。そして、これらの混合粉末を超硬合金製支持板に積層して、Mo製カプセルに充填後、超高圧装置を用いて、圧力5.5GPa、温度1400℃で30分間焼結することにより、cBN焼結体を得た。
【0041】
<実施例2〜7、比較例1〜4>
実施例1のcBN焼結体工具に対し、cBN含有率、金属層の被覆量、および結合相を構成する原料粉末の組成および質量比を表1のように変えたことが異なる他は、実施例1と同様の方法により実施例2〜7、比較例1〜4のcBN焼結体工具を作製した。特に、金属相の被覆量においては、後述する表1の「I2/I1」に示す値となるように、その質量比を調整した。たとえば、実施例2においては、cBN焼結体に含まれるcBN粒子の体積比率を60体積%とし、cBN粒子の表面を被覆する金属層の被覆量を10質量%とし、残部の結合相を構成する原料粉末を97質量%のTiCと3質量%のAlとにしたことを示す。なお、実施例2のcBN焼結体工具に対し、金属層を被覆していないcBN粒子を用いたことを除いては、実施例2と同一の方法によって、比較例3のcBN焼結体工具を作製した。
【0042】
<実施例8>
以下のようにして、cBN焼結体工具を作製した。まず、平均粒子径2μmのcBN粒子に対し、RFスパッタリングPVD装置を用いて、15質量%のTiAlからなる金属層を被覆した。次に、平均粒子径1.5μmのTiC粉末と平均粒子径3μmのAl粉末とを質量比で、TiC:Al=95:5となるように混合し、真空中で1200℃、30分間熱処理して化合物を得た。この化合物を直径6mmの超硬合金製ボールメディアを用いてボールミル粉砕法により均一に粉砕し、結合相を構成する原料粉末を得た。
【0043】
次に、表1の「cBN含有率」に示す組成となるように、金属層で被覆したcBN粒子と、被覆していないcBN粒子と、結合相を構成する原料粉末とを質量比で、12:50:38となるように配合し、直径3mmの窒化硼素製ボールメディアを用いてボールミル混合法により均一に混合した。そして、これらの混合粉末を超硬合金製支持板に積層して、Mo製カプセルに充填後、超高圧装置を用いて、圧力5.5GPa、温度1400℃で30分間焼結することにより、cBN焼結体を得た。
【0044】
<実施例9〜12>
実施例8のcBN焼結体工具に対し、金属層で被覆したcBN粒子と、被覆していないcBN粒子との混合比を表2のように変えたことが異なる他は、実施例8と同様の方法により実施例9〜12のcBN焼結体工具を作製した。このようにcBN粒子の混合比を変えることにより、後述の表3の「第2成分含有率」および「占有率」に示すように、実施例9〜12のcBN焼結体の第2成分の体積比および占有率が調整された。
【0045】
このようにして作製された各実施例のcBN焼結体工具は、立方晶窒化硼素粒子と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体を少なくとも刃先に有するものであって、立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を40〜70体積%含み、該結合相は、第1成分と第2成分とを含み、第1成分は、TiCであり、第2成分は、TiB2およびAlB2のいずれか一方または両方であり、第1成分の(200)面のX線回折強度をI1、第2成分の(101)面のX線回折強度をI2とする場合、I1は、立方晶窒化硼素焼結体において立方晶窒化硼素粒子を除く全成分のX線回折強度中最大であり、かつ0.01≦I2/I1≦0.1を満たすものである。
【0046】
<比較例5>
市販されているcBN焼結体(製品名:BX930(株式会社タンガロイ製))を用いた。
【0047】
<比較例6>
市販されているcBN焼結体(製品名:MB710(三菱マテリアル株式会社製))を用いた。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
<cBN焼結体の評価>
各実施例および各比較例のcBN焼結体に対し、「X線回折強度の比I2/I1」、「cBN含有率」、「占有率」、および「cBN焼結体を構成する化合物」を以下のようにして算出した。
【0052】
(X線回折強度の比I2/I1
各実施例および各比較例のcBN焼結体に対し、X線回折装置(製品名:SmartLab−2D−PILATUS(株式会社リガク製))を用いて、X線回折測定を行なうことにより、第1成分の(200)面のX線回折強度I1、および第2成分の(101)面のX線回折強度I2を測定した。そして、これらの比I2/I1を表1および表3の「I2/I1」の欄に示した。
【0053】
(cBN含有率)
表1および表3の「cBN含有率」は、cBN焼結体に含まれるcBN粒子の体積比を示すものであり、以下のようにして算出した。まず、各実施例および各比較例で作製されたcBN焼結体を鏡面研磨し、任意の領域のcBN焼結体組織を電子顕微鏡にて5000倍で反射電子像を撮影したところ、黒色領域と灰色領域と白色領域が観察された。その観察画像を付属のEDX(エネルギー分散型X線分析)で観察することにより、黒色領域はcBN粒子、灰色領域と白色領域は結合相であることを推定した。
【0054】
次に、上記で撮影された5000倍の写真に対し画像処理ソフトを用いて2値化処理を施し、同写真のcBN粒子が占める領域(黒色領域)の合計面積を算出し、その写真中のcBN焼結体に占める黒色領域の割合の百分率を、cBN粒子の体積%として表1および表3に記載した。
【0055】
(占有率)
表3の「占有率」は、立方晶窒化硼素粒子の表面に占める第2成分の割合を示すものであり、上記と同様の方法で撮影した10000倍の観察画像を用いて、以下のように算出した。まず、1μm以上の粒子径のcBN粒子を20個選定し、その外周の総和を算出した。次に、cBN粒子の外周のうち、第2成分と接触している部分の長さの総和を算出した。そして、第2成分と接触している部分の長さの総和を、cBN粒子の外周の総和で除することにより、cBN粒子の表面に占める第2成分の占有率(%)を算出した。この結果を表3に示す。
【0056】
ちなみに、上記の10000倍の観察画像において、cBN粒子の体積比が高いcBN焼結体は、1枚の観察画像で10個以上のcBN粒子が観察され、cBN粒子の体積比が低いcBN焼結体は、1枚の観察画像から5個以下のcBN粒子が観察されたが、いずれの実施例および比較例においても一律に20個の1μm以上の粒子径のcBN粒子を対象に占有率を算出できるように、複数枚の観察画像を準備した。
【0057】
(cBN焼結体を構成する化合物)
各実施例および各比較例のcBN焼結体を構成する化合物は、cBN焼結体を鏡面研磨した面の任意の領域を電子顕微鏡にて50000倍で写真撮影し、付属のEDXにより、各種元素の重なり状態とX線回折測定の化合物同定結果に基づいて推定した。このようにして測定したEDXの組成分析の結果を表1および表3の「cBN焼結体を構成する化合物」の欄に示した。
【0058】
<切削試験>
超硬合金製の基材として、形状がISO CNMA120408である超硬合金(K10相当)を準備し、その刃先に各実施例および各比較例の立方晶窒化硼素焼結体(形状:頂角が80°でありそれを挟む両辺が各2.5mmの二等辺三角形を底面とする厚みが2mmの三角柱状のもの)を、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いることにより接合した。
【0059】
実施例1〜7および比較例1〜4においては、下記の切削試験1の条件で損傷幅が0.2mmを超えるまで切削加工を行なった。また、実施例8〜12および比較例5、6においては、下記の切削試験2の条件で損傷幅が0.2mmを超えるまで切削加工を行なった。そして、切削試験1および2のいずれにおいても、損傷幅が0.2mmを超えた時点を工具寿命とし、それまでの切削距離(km)を表1および表3の「工具寿命」の欄に示した。なお、損傷幅とは、摩耗幅または欠損幅を意味し、その長さが長いものほど、工具寿命が長いことを示している。また、工具寿命に至ったときの損傷形態(「摩耗」または「欠損」のいずれか)を表1および表3の「損傷形態」の欄に示した。
【0060】
(切削試験1)
被削材 :FCD450(硬度:160HB、外周部にV溝が付いた丸棒の外形切削)
切削条件:切削速度 Vc=400m/min.
送り量 f=0.2mm/rev.
切り込み量 ap=0.2mm
湿式切削
(切削試験2)
被削材 :FCD700(硬度:260HB、外周部にV溝が付いた丸棒の外形切削)
切削条件:切削速度 Vc=400m/min.
送り量 f=0.2mm/rev.
切り込み量 ap=0.2mm
湿式切削
表1および表3の「工具寿命」の結果から明らかなように、実施例1〜12の本発明に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、比較例1〜6の立方晶窒化硼素焼結体工具に比し、工具寿命を長寿命化したものであることが明らかである。
【0061】
実施例1〜12において、工具寿命が向上した理由は、主として第1成分の(200)面のX線回折強度I1、および第2成分の(101)面のX線回折強度I2との比I2/I1が0.01以上0.1以下であったことにより、耐熱性および耐欠損性を高度に両立したことによるものと考えられる。
【0062】
比較例1のcBN焼結体が欠損によって損傷した理由は、cBN粒子の含有率が本発明の規定する下限値(30体積%)を大幅に下回る10体積%であったことによるものと考えられる。比較例2において、工具寿命が短かった理由は、cBN粒子の含有率が本発明の規定する上限値(70体積%)を上回る85体積%であったことによるものと考えられる。
【0063】
比較例3において、欠損によって損傷した理由は、X線回折強度の回折ピーク比I2/I1が本発明の規定する下限値(0.01)を下回る0であったことによるものと考えられる。また、比較例4において、工具寿命が短かった理由は、X線回折強度の回折ピーク比I2/I1が本発明の規定する上限値(0.1)を上回る0.42であったことによるものと考えられる。
【0064】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0065】
今回開示された実施の形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。