(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771919
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】転がり軸受を用いたターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
F02B 39/00 20060101AFI20150813BHJP
F02B 39/14 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
F02B39/00 M
F02B39/14 D
F02B39/14 B
F02B39/00 J
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-178685(P2010-178685)
(22)【出願日】2010年8月9日
(65)【公開番号】特開2012-36855(P2012-36855A)
(43)【公開日】2012年2月23日
【審査請求日】2013年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 達身
(72)【発明者】
【氏名】清水 政宏
【審査官】
中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−186934(JP,U)
【文献】
実開昭63−156432(JP,U)
【文献】
実公昭34−018312(JP,Y1)
【文献】
実開昭60−137128(JP,U)
【文献】
実開昭61−107935(JP,U)
【文献】
実開昭64−004830(JP,U)
【文献】
実開平03−122239(JP,U)
【文献】
実開平05−012632(JP,U)
【文献】
特開平10−205342(JP,A)
【文献】
特開2005−171796(JP,A)
【文献】
特開2008−106741(JP,A)
【文献】
特開2009−079628(JP,A)
【文献】
特開2010−138753(JP,A)
【文献】
実開昭60−043137(JP,U)
【文献】
実開平03−043534(JP,U)
【文献】
実開平03−110141(JP,U)
【文献】
特開2002−129967(JP,A)
【文献】
特開2002−250345(JP,A)
【文献】
特開2003−083342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00−41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンインペラとコンプレッサインペラを連結する回転軸と、
該回転軸を支持する1対の転がり軸受と、
該転がり軸受を内側に支持し外面が油膜を介してハウジングに内嵌されたダンパ部材と、
前記ハウジングに固定された蓋部材とを備え、
前記蓋部材は、前記ダンパ部材の軸方向端面に密着するダンパ抑え部と、前記回転軸の表面に沿ってオイルが軸方向外方に流出するのを防止するオイルシール部とを有し、
前記ダンパ抑え部とオイルシール部は上部及び側面で一体に連結され、その間に軸方向に間隔を隔てたオイル分離空間を有し、該オイル分離空間は下方で軸方向内方に開放されており、
前記ダンパ抑え部は、転がり軸受の端面から間隔G1を隔て下方に延びかつ前記間隔G1がベアリングハウジング内の前記ダンパ部材が挿入される部分の下端部と前記軸方向に重ならない仕切り部を有し、該仕切り部は下方で軸方向内方に開放されている、ことを特徴とする転がり軸受を用いたターボチャージャ。
【請求項2】
前記仕切り部の中間部を前記回転軸が貫通しており、
前記オイルシール部は、その中間部を前記回転軸が貫通し、貫通部にシールリングを有している、ことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受を用いたターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受を用いたターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機により密度を高めた空気を機関(エンジン)に供給することを過給(supercharging)といい、このうち排気エネルギにより圧縮機の駆動仕事をまかなうものを排気タービン過給機(exhaust gas turbocharger)と呼ぶ。
【0003】
排気タービン過給機は、一般的に、軸受ユニットを挟んで配置された圧縮機(コンプレッサ)とタービンからなり、圧縮機はコンプレッサインペラを、タービンはタービンインペラをそれぞれ内蔵する。コンプレッサインペラとタービンインペラは、軸受ユニットで支持された連結軸(シャフト)で互いに連結されており、エンジンの排ガスでタービンインペラを回転駆動し、この回転力を連結軸によりコンプレッサインペラに伝達し、コンプレッサインペラで空気を圧縮してエンジンに過給するようになっている。
以下、排気タービン過給機を単に「ターボチャージャ」と呼ぶ。
【0004】
また、上述した連結軸を支持するために転がり軸受を用いたターボチャージャが、既に提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−205342号公報、「ボールベアリング式過給機軸受の潤滑構造」
【特許文献2】特開2008−106741号公報、「過給機」
【特許文献3】特開2009−79628号公報、「転がり軸受装置及びこれを用いた過給機」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
転がり軸受を用いたターボチャージャでは、転がり軸受を支持するダンパ部材が油膜(オイルフィルム)を介してハウジングに内挿され、ハウジングとダンパ部材の間に介在するオイルフィルムで回転軸の振動を抑制するようになっている。
またダンパ部材の軸方向移動を防止するために、ダンパ部材の軸方向端面に密着し、ハウジングに固定された蓋部材が用いられる。
【0007】
上述した特許文献1,2のターボチャージャでは、蓋部材はダンパ部材の軸方向移動を防止する「ダンパ抑え機能」のみを有しており、潤滑油(オイル)が軸方向外方に流出するのを防止する「オイルシール機能」がなかった。
また、上述した特許文献3のターボチャージャでは、ダンパ抑え機能とオイルシール機能の両方を備えているが、オイルシール性能が低く、タービン側又はコンプレッサ側にオイルが漏れ出す可能性があった。
【0008】
本発明は上述した従来の問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、ダンパ部材の軸方向移動を防止するダンパ抑え機能と、オイルが軸方向外方に流出するのを防止するオイルシール機能の両方を備え、かつオイルシール性能が高くタービン側又はコンプレッサ側へのオイルの漏れ出しを大幅に低減又は無くすことができ、さらに部品点数を減らし、組立てを簡易化できる転がり軸受を用いたターボチャージャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、タービンインペラとコンプレッサインペラを連結する回転軸と、
該回転軸を支持する1対の転がり軸受と、
該転がり軸受を内側に支持し外面が油膜を介してハウジングに内嵌されたダンパ部材と、
前記ハウジングに固定された蓋部材とを備え、
前記蓋部材は、前記ダンパ部材の軸方向端面に密着するダンパ抑え部と、前記回転軸の表面に沿ってオイルが軸方向外方に流出するのを防止するオイルシール部とを有し、
前記ダンパ抑え部とオイルシール部は上部及び側面で一体に連結され、その間に軸方向に間隔を隔てたオイル分離空間を有し、該オイル分離空間は下方で軸方向内方に開放されており、
前記ダンパ抑え部は、転がり軸受の端面から間隔
G1を隔て下方に延び
かつ前記間隔G1がベアリングハウジング内の前記ダンパ部材が挿入される部分の下端部と前記軸方向に重ならない仕切り部を有し、該仕切り部は下方で軸方向内方に開放されている、ことを特徴とする転がり軸受を用いたターボチャージャが提供される。
【0010】
本発明の実施形態によれば、前記
仕切り部の中間部を前記回転軸が貫通しており、
前記オイルシール部は、その中間部を前記回転軸が貫通し、
貫通部にシールリングを有している。
【発明の効果】
【0011】
上記本発明の構成によれば、蓋部材がダンパ部材の軸方向端面に密着するダンパ抑え部と、回転軸の表面に沿ってオイルが軸方向外方に流出するのを防止するオイルシール部とを有するので、ダンパ抑え部でダンパ部材の軸方向移動を防止することができ、オイルシール部でオイルが軸方向外方に流出するのを防止することができる。
【0012】
また、ダンパ抑え部とオイルシール部はその間に軸方向に間隔を隔てたオイル分離空間を有し、該オイル分離空間は下方で軸方向内方に開放されているので、オイル分離空間において回転軸の表面に沿って軸方向外方に流出するオイルを遠心力で回転軸から分離し、下方で軸方向内方に移動させることができ、タービン側又はコンプレッサ側へのオイルの漏れ出しを大幅に低減又は無くすことができる。
【0013】
さらに、ダンパ抑え部とオイルシール部は上部及び側面で一体に連結された一体部品であり、ダンパ抑え部とオイルシール部を分離構造とした場合と比較して部品点数を減らし、組立てを簡易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明によるターボチャージャの全体構成図である。
【
図4】本発明によるターボチャージャの別の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施例を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明によるターボチャージャの全体構成図である。
この図において、本発明のターボチャージャ10は、回転軸12、コンプレッサインペラ14、およびハウジングを備える。ハウジングは、この例では、ベアリングハウジング16、タービンハウジング18、及びコンプレッサハウジング20からなる。
なお、この例において、回転軸12のコンプレッサ側には中空円筒形の軸スリーブ13が液密に嵌めこまれており、一体的に回転するようになっている。以下、特に区別しない限り、軸スリーブ13を含めて回転軸12と呼ぶ。
【0017】
回転軸12は、タービンインペラ11を一端(図で左端)に有する。この例において、タービンインペラ11は回転軸12に一体的に形成されているが、本発明はこれに限定されず、タービンインペラ11を別に取り付ける構成であってもよい。
【0018】
コンプレッサインペラ14は、回転軸12の他端(図で右端)に軸端ナット15により一体で回転するように連結されている。
なお、回転軸12とコンプレッサインペラ14の連結の形態は、この例に限定されず、軸端ナット15を使用しない形態であってもよい。
【0019】
ベアリングハウジング16は、回転軸12を1対の転がり軸受17で回転可能に支持する。
【0020】
タービンハウジング18は、タービンインペラ11を回転可能に囲み、かつベアリングハウジング16に連結されている。
【0021】
コンプレッサハウジング20は、コンプレッサインペラ14を回転可能に囲み、かつベアリングハウジング16に連結されている
【0022】
上述した構成により、エンジンの排ガスでタービンインペラ11を回転駆動し、この回転力を回転軸12を介してコンプレッサインペラ14に伝達し、コンプレッサインペラ14で空気を圧縮してエンジンに過給することができる。
【0023】
また
図1において、本発明のターボチャージャ10は、さらに、モータロータ22およびモータステータ24を備える。
モータロータ22は、電動機の回転子であり、モータステータ24は、電動機の固定子である。モータロータ22とモータステータ24によりブラシレスの交流電動機が構成される。
【0024】
図2は、
図1の主要部拡大図であり、
図3は本発明による蓋部材の断面の斜視図である。なお、
図3では、蓋部材を半分に切断して示している。
【0025】
図2に示すように、本発明のターボチャージャ10は、ダンパ部材32と蓋部材34を備える。
【0026】
ダンパ部材32は、全体として中空円筒形の部材であり、1対の転がり軸受17を内側に支持し、外面が油膜を介してハウジング(この例ではベアリングハウジング16)に内嵌されている。
転がり軸受17は、この例ではボールベアリングであるが、その他の形式の転がり軸受であってもよい。
【0027】
蓋部材34は、ハウジング(この例ではベアリングハウジング16)にボルト31等で固定されている。
図2及び
図3に示すように、蓋部材34は、ダンパ抑え部35とオイルシール部36とからなり、ダンパ抑え部35とオイルシール部36は上部及び側面で一体に連結されている。
【0028】
ダンパ抑え部35は、ダンパ部材32の軸方向端面(この例ではコンプレッサ側端面)に密着し、ダンパ部材32の軸方向移動を防止するようになっている。
また、ダンパ抑え部35は、転がり軸受17の端面(この例では右端面)から間隔G1を隔て下方に延びる仕切り部35aを有する。この仕切り部35aは下方で軸方向内方に開放されており、その中間部を回転軸12(及び軸スリーブ13)が貫通している。
【0029】
上述した構成により、転がり軸受17の端面(この例では右端面)から流出したオイルがオイル分離空間37に流入するのを防止し、上述した間隔G1を介して仕切り部35aの下方に流下させ、軸方向内方に流出することができる。
【0030】
図2及び
図3に示すように、ダンパ抑え部35とオイルシール部36はその間に軸方向に間隔を隔てたオイル分離空間37を有する。オイル分離空間37は下方で軸方向内方に開放されている。
この構成により、オイルがオイル分離空間37に流入した場合でも、回転軸12(又は軸スリーブ13)の表面に沿って軸方向外方に流出するオイルを遠心力で回転軸12から分離し、下方で軸方向内方に移動させることができる。
【0031】
また、
図2において、上述したオイル分離空間37に位置する軸スリーブ13の外周に、凹溝13bが設けられている。この構成により、軸スリーブ13の表面に沿うオイルの移動を凹溝13bで防止し、オイルを遠心力で回転軸12から容易に分離できるようになっている。
【0032】
オイルシール部36は、その中間部を回転軸12(又は軸スリーブ13)が貫通し、その貫通部にシールリング38を有している。
シールリング38は、この例では2連のスナップリングであり、オイルシール部36の貫通孔内面36aに外方に付勢して取り付けられている。
【0033】
また、軸スリーブ13の外面には、前記2連のスナップリングを収納する円周溝13aが設けられ、この円周溝13aにスナップリングを嵌めた後に、貫通孔内面36aに軸スリーブ13を挿入することにより、スナップリングをオイルシール部36の貫通孔内面36aに外方に付勢して取り付けるようになっている。
【0034】
なお、シールリング38はスナップリングに限定されず、オイルシールやラビリンスシールであってもよい。
【0035】
この構成により、オイルシール部36により、オイル分離空間37を通してオイルがオイルシール部36に流入した場合でも、回転軸12(又は軸スリーブ13)の表面に沿ってオイルが軸方向外方に流出するシールリング38で防止することができる。
【0036】
図4は、本発明によるターボチャージャの別の全体構成図であり、通常の過給機に本発明を適用した場合の構成図である。
すなわち、本発明の適用対象は、電動機付過給機(モータロータ22とモータステータ24を備えるもの)には限定されず、電動機を備えていない通常の過給機を含む。
また、上述した電動機付過給機の場合、オイルシール部36の外面形状は先細りになっているが、これはモータの巻き線部分の空間を確保するためであり、通常の過給機の場合は、そのような形状にする必要が無いので、
図4のようになっている。
その他の構成は、
図1〜
図3と同様である。
【0037】
上述した本発明の構成によれば、蓋部材34がダンパ部材32の軸方向端面に密着するダンパ抑え部35と、回転軸12の表面に沿ってオイルが軸方向外方に流出するのを防止するオイルシール部36とを有するので、ダンパ抑え部35でダンパ部材32の軸方向移動を防止することができ、オイルシール部36でオイルが軸方向外方に流出するのを防止することができる。
【0038】
特に、仕切り部35aにより、転がり軸受17の端面(この例では右端面)から流出したオイルがオイル分離空間37に流入するのを防止し、オイルの大部分を上述した間隔G1を介して仕切り部35aの下方に流下させ、軸方向内方に流出することができる。
また、仕切り部35aを通してオイルがオイル分離空間37に流入した場合でも、回転軸12(又は軸スリーブ13)の表面に沿って軸方向外方に流出するオイルを遠心力で回転軸12から分離し、下方で軸方向内方に移動させることができる。
さらに、オイルシール部36により、オイル分離空間37を通してオイルがオイルシール部36に流入した場合でも、回転軸12(又は軸スリーブ13)の表面に沿ってオイルが軸方向外方に流出するのシールリング38で防止することができる。
【0039】
従って本発明の構成により、タービン側又はコンプレッサ側へのオイルの漏れ出しを、間隔G1、オイル分離空間37及びシールリング38の3段階のシール機構により、大幅に低減又は無くすことができる。
【0040】
さらに、ダンパ抑え部35とオイルシール部36は上部及び側面で一体に連結された一体部品であり、ダンパ抑え部35とオイルシール部36を分離構造とした場合と比較して部品点数を減らし、組立てを簡易化できる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
10 ターボチャージャ、11 タービンインペラ、
12 回転軸、13 軸スリーブ、13a 円周溝、13b 凹溝、
14 コンプレッサインペラ、15 軸端ナット、
16 ベアリングハウジング、17 転がり軸受、
18 タービンハウジング、20 コンプレッサハウジング、
22 モータロータ、24 モータステータ、
31 ボルト、32 ダンパ部材、34 蓋部材、
35 ダンパ抑え部、35a 仕切り部、
36 オイルシール部、36a 貫通孔内面、
37 オイル分離空間、38 シールリング