特許第5771949号(P5771949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771949
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】アイソレーションダンパプーリ
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/36 20060101AFI20150813BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20150813BHJP
   F16F 15/167 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   F16H55/36 H
   F16F15/12 S
   F16F15/167 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-242889(P2010-242889)
(22)【出願日】2010年10月29日
(65)【公開番号】特開2012-92948(P2012-92948A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2013年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】川本 大右
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−071263(JP,A)
【文献】 特開2007−120611(JP,A)
【文献】 特開2001−248689(JP,A)
【文献】 実開平06−056553(JP,U)
【文献】 実開平02−124355(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16F 15/12
F16F 15/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトに連結されるハブと、
前記ハブに対して距離を隔てて設けられる慣性マスと、
前記ハブと前記慣性マスとを弾性的に連結し、前記ハブに伝わる捻り振動を吸収するトーショナル用ゴム弾性体と、
前記ハブに対して距離を隔てて設けられ、かつ、前記慣性マスに対して相対回転可能に設けられるプーリ本体と、
前記ハブと前記プーリ本体とを弾性的に連結し、前記ハブに伝わる回転変動を吸収する回転変動吸収用ゴム弾性体と、
を備え、
前記ハブまたは前記慣性マスと前記プーリ本体とのうち一方は、回転軸方向に突出するピンを有し、
前記ハブまたは前記慣性マスと前記プーリ本体とのうち他方は、前記ピンを収容し前記ピンに対して所定位相範囲の相対回転を許容する回転許容溝と、前記回転許容溝の両端に設けられる係止溝と、を備え、
前記係止溝は、前記ピンが相対的に前記所定位相範囲を超えて回転した場合に、前記ピンと前記係止溝との相対回転を規制し、かつ、前記ピンが前記係止溝から前記ピンの軸方向へ抜けることを規制するアイソレーションダンパプーリ。
【請求項2】
請求項1において、
前記係止溝は、前記回転許容溝の両端に設けられ、前記ピンに対して摩擦による係止により、前記ピンと前記係止溝との相対回転を規制し、かつ、前記ピンが前記係止溝から前記ピンの軸方向へ抜けることを規制する摩擦係止溝を備えるアイソレーションダンパプーリ。
【請求項3】
請求項2において、
前記ピンの外周面の横断面形状は、円形状に形成され、
前記摩擦係止溝の溝幅は、端部に行くにつれて前記ピンの外径に対して次第に小さくなるようにV字形状に形成されるアイソレーションダンパプーリ。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記ピンの基端部には、くびれ状凹部が形成され、
前記係止溝は、前記回転許容溝の両端に設けられ、前記ピンの前記くびれ状凹部に対して前記ピンの軸方向に係合して前記ピンが前記係止溝から前記ピンの軸方向へ抜けることを規制する抜け規制突起を備えるアイソレーションダンパプーリ。
【請求項5】
請求項2〜4の何れかにおいて、
前記係止溝は、前記摩擦係止溝のうち前記回転許容溝側に形成され、前記回転許容溝から前記摩擦係止溝への進入を許容し、かつ、前記摩擦係止溝から前記回転許容溝への戻り移動を規制する戻り規制突起を備えるアイソレーションダンパプーリ。
【請求項6】
請求項1において、
前記ピンの基端部には、くびれ状凹部が形成され、
前記係止溝は、
前記回転許容溝の両端に設けられ、前記ピンの前記くびれ状凹部に対して前記ピンの軸方向に係合して前記ピンが前記係止溝から前記ピンの軸方向へ抜けることを規制する抜け規制突起と、
前記抜け規制突起と前記回転許容溝との周方向境界に形成され、前記回転許容溝から前記抜け規制突起側への進入を許容し、かつ、前記抜け規制突起側から前記回転許容溝への戻り移動を規制する戻り規制突起と、
を備えるアイソレーションダンパプーリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーショナル用ゴム弾性体と回転変動吸収用ゴム弾性体を備えるアイソレーションダンパプーリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アイソレーションダンパプーリとして、例えば、実開平6−56553号公報(特許文献1)に記載されたものがある。アイソレーションダンパプーリは、トーショナル用ゴム弾性体と当該ゴム弾性体に連結されている慣性マスとの作用により、ハブに伝わる捻り振動を吸収することができる。さらに、回転変動吸収用ゴム弾性体は、ハブに回転変動が伝達された場合に、当該回転変動を吸収してプーリ本体へ伝達しないようにできる。そして、プーリ本体に接続される機器の不具合などにより、プーリ本体に過大なトルクが生じると、回転変動吸収用ゴム弾性体が捻れて破損するおそれがある。そのため、特許文献1においては、プーリ本体に円弧形状の長孔が設けられ、その長孔に対向する位置の慣性マスにストッパピンが設けられている。そして、過大なトルクが生じた場合に、ストッパピンが長孔の端部に止められて、ゴム弾性体が破損することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−56553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ストッパピンと長孔によりゴム弾性体が破損することを防止することはできるとされているが、仮にゴム弾性体が破損したとしても安全である必要がある。そして、特許文献1記載のアイソレーションダンパプーリにおいては、仮にゴム弾性体が破損したときには、プーリ本体がハブから脱落するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、仮にゴム弾性体が破損したとしても、プーリ本体がハブから脱落することを防止できるフェールセーフ機能を有するアイソレーションダンパプーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1)本発明のアイソレーションダンパプーリは、内燃機関のクランクシャフトに連結されるハブと、前記ハブに対して距離を隔てて設けられる慣性マスと、前記ハブと前記慣性マスとを弾性的に連結し、前記ハブに伝わる捻り振動を吸収するトーショナル用ゴム弾性体と、前記ハブに対して距離を隔てて設けられ、かつ、前記慣性マスに対して相対回転可能に設けられるプーリ本体と、前記ハブと前記プーリ本体とを弾性的に連結し、前記ハブに伝わる回転変動を吸収する回転変動吸収用ゴム弾性体と、を備える。そして、前記ハブまたは前記慣性マスと前記プーリ本体とのうち一方は、回転軸方向に突出するピンを有する。前記ハブまたは前記慣性マスと前記プーリ本体とのうち他方は、前記ピンを収容し前記ピンに対して所定位相範囲の相対回転を許容する回転許容溝と、前記回転許容溝の両端に設けられる係止溝とを備え、前記係止溝は、前記ピンが相対的に前記所定位相範囲を超えて回転した場合に、前記ピンと前記係止溝との相対回転を規制し、かつ、前記ピンが前記係止溝から前記ピンの軸方向へ抜けることを規制する。
【0007】
(請求項2)また、本発明のアイソレーションダンパプーリにおいて、前記係止溝は、前記回転許容溝の両端に設けられ、前記ピンに対して摩擦による係止により、前記ピンと前記係止溝との相対回転を規制し、かつ、前記ピンが前記係止溝から前記ピンの軸方向へ抜けることを規制する摩擦係止溝を備えるようにしてもよい。
【0008】
(請求項3)また、本発明のアイソレーションダンパプーリにおいて、前記ピンの外周面の横断面形状は、円形状に形成され、前記摩擦係止溝の溝幅は、端部に行くにつれて前記ピンの外径に対して次第に小さくなるようにV字形状に形成されるようにしてもよい。
【0009】
(請求項4)また、本発明のアイソレーションダンパプーリにおいて、前記ピンの基端部には、くびれ状凹部が形成され、前記係止溝は、前記回転許容溝の両端に設けられ、前記ピンの前記くびれ状凹部に対して前記ピンの軸方向に係合して前記ピンが前記係止溝から前記ピンの軸方向へ抜けることを規制する抜け規制突起を備えるようにしてもよい。
【0010】
(請求項5)また、本発明のアイソレーションダンパプーリにおいて、前記係止溝は、前記摩擦係止溝のうち前記回転許容溝側に形成され、前記回転許容溝から前記摩擦係止溝への進入を許容し、かつ、前記摩擦係止溝から前記回転許容溝への戻り移動を規制する戻り規制突起を備えるようにしてもよい。
【0011】
(請求項6)また、本発明のアイソレーションダンパプーリにおいて、前記ピンの基端部には、くびれ状凹部が形成され、前記係止溝は、前記回転許容溝の両端に設けられ、前記ピンの前記くびれ状凹部に対して前記ピンの軸方向に係合して前記ピンが前記係止溝から前記ピンの軸方向へ抜けることを規制する抜け規制突起と、前記抜け規制突起と前記回転許容溝との周方向境界に形成され、前記回転許容溝から前記抜け規制突起側への進入を許容し、かつ、前記抜け規制突起側から前記回転許容溝への戻り移動を規制する戻り規制突起とを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
(請求項1)本発明によれば、回転変動吸収用ゴム弾性体に過大なトルクが発生した場合には、係止溝によって、ピンと係止溝との相対回転を規制すると共にピンが係止溝からピンの軸方向へ抜けることを規制している。これにより、回転変動吸収用ゴム弾性体に過大なトルクが発生し、仮に回転変動吸収用ゴム弾性体が破損したとしても、プーリ本体がハブから脱落することを防止できる。

【0013】
ところで、回転変動を吸収するためには、回転変動吸収用ゴム弾性体の共振周波数を低くすることが求められる。つまり、回転変動吸収用ゴム弾性体の共振周波数帯を低くするには、柔らかくすることになり、ゴム弾性体の強度を低下させることにつながる。しかし、上記のとおり、本発明によれば、プーリ本体がハブから脱落しないようにすることを目的として、回転変動吸収用ゴム弾性体の強度を高くする必要がない。そのため、回転変動吸収用ゴム弾性体は、回転変動の吸収機能を確実に発揮できるような共振周波数に調整することができる。
【0014】
(請求項2)本発明によれば、係止溝を摩擦係止による構成としたことにより、容易な形状によりピンを係止できる。
(請求項3)本発明によれば、確実に摩擦係止できる。
【0015】
(請求項4)本発明によれば、くびれ状凹部と抜け規制突起により物理的にピンの抜け防止が可能となる。
(請求項5)本発明によれば、ハブとプーリ本体との相対回転によってピンが戻り規制突起を超えて摩擦係止溝へ移動した後には、ピンは摩擦係止溝から回転許容溝の方へ移動することが規制される。従って、ピンが摩擦係止溝に係止された状態を維持することができる。
【0016】
(請求項6)本発明によれば、くびれ状凹部と抜け規制突起により物理的にピンの抜け防止が可能となる。さらに、ハブとプーリ本体との相対回転によってピンが戻り規制突起を超えて係止溝へ移動した後には、ピンは係止溝から回転許容溝の方へ移動することが規制される。従って、ピンが係止溝に係止された状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第一実施形態におけるアイソレーションダンパプーリの軸方向断面図である。ただし、中心軸から片側のみについて図示する。
図2図1の右側(軸方向)から見た部分的な図である。
図3】第二実施形態におけるアイソレーションダンパプーリの軸方向断面図であり、図5のA−A断面図である。
図4】第二実施形態におけるアイソレーションダンパプーリの軸方向断面図であり、図5のB−B断面図である。
図5図3の右側(軸方向)から見た部分的な図である。
図6】第三実施形態におけるアイソレーションダンパプーリの軸方向から見た部分的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のアイソレーションダンパプーリを具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
<第一実施形態>
(アイソレーションダンパプーリの全体構造説明)
第一実施形態のアイソレーションダンパプーリの全体構造について、図1を参照して説明する。アイソレーションダンパプーリ1は、例えば自動車の内燃機関のクランクシャフト(回転軸)に連結され、かつ、外周にポリVベルトを懸架して使用される。そして、内燃機関によるクランクシャフトの回転駆動力を、ポリVベルトを介して自動車に搭載されている各種の補機類、例えば、オルタネータ、ウォータポンプ、クーラコンプレッサ等に伝達して、これらの補機類を駆動する。
【0020】
アイソレーションダンパプーリ1は、ハブ10に伝わる捻り振動を吸収する機能を有すると共に、ハブ10に伝わる回転変動を吸収する機能を有する。このアイソレーションダンパプーリ1は、図1に示すように、ハブ10と、慣性マス20と、トーショナル用ゴム弾性体30と、プーリ本体40と、回転変動吸収用ゴム弾性体50と、軸受60と、ストッパピン70とを備えて構成される。
【0021】
ハブ10は、金属製の円環状に形成され、アイソレーションダンパプーリ1における中心軸部分に配置される。ハブ10は、円筒形状のハブ内筒部11と、ハブ内筒部11の外周側に同心的に配置される円筒形状のハブ外筒部12と、ハブ内筒部11の一端(図1の左端)とハブ外筒部12の一端(図1の左端)とを連結する円盤形状のハブ連結部13とを備え、一体的に形成されている。つまり、ハブ10は、軸方向一方側(図1の右側)に開口する円形溝を有する形状に形成されている。ハブ外筒部12の外周面における軸方向中央部には、径方向外側に突出する環状突起12aが形成されている。ハブ内筒部11の内周側には、内燃機関のクランクシャフトが嵌合により固定されることで連結されている。つまり、ハブ10は、クランクシャフトと一体的に回転する。
【0022】
慣性マス20は、金属製の円環状に形成され、ハブ外筒部12に対して径方向外側に距離を隔てて同心的に設けられる。慣性マス20は、ハブ外筒部12の径方向外側に対向して配置される円筒形状のマス筒部21と、マス筒部の一端(図1の左端)から径方向外側に延びるフランジ部22とを備え、一体的に形成される。マス筒部21の内周面における軸方向中央部には、径方向外側に凹む凹状溝21aが形成されている。そして、マス筒部21の凹状溝21aは、ハブ外筒部12の環状突起12aに対向する位置に配置されている。
【0023】
トーショナル用ゴム弾性体30は、ハブ外筒部12の外周面と慣性マス20のマス筒部21の内周面とを弾性的に連結する。そして、ハブ10にクランクシャフトから捻り振動が伝達された場合には、伝達された捻り振動をトーショナル用ゴム弾性体30が吸収する。
【0024】
プーリ本体40は、金属製の円環状に形成され、ハブ10に対して距離を隔てて同心的に設けられ、かつ、慣性マス20に対して相対回転可能に設けられる。プーリ本体40は、ハブ外筒部12、慣性マス20のマス筒部21およびトーショナル用ゴム弾性体30の一部を収容する環状溝を形成している。プーリ本体40は、プーリ内筒部41と、プーリ外筒部42と、プーリ連結部43とを備え、一体的に形成されている。
【0025】
プーリ内筒部41は、円筒形状に形成され、ハブ内筒部11に対して径方向外側に大きく距離を隔てて設けられ、ハブ外筒部12に対して径方向内側に僅かに距離を隔てて設けられる。プーリ外筒部42は、筒状に形成され、プーリ内筒部41の外周側に同心的に配置され、慣性マス20のマス筒部21に対して径方向外側に僅かに距離を隔てて設けられる。プーリ外筒部42の外周面には、ポリVベルト(図示せず)が懸架されるV溝が軸方向に複数形成されている。プーリ連結部43は、円盤形状に形成され、プーリ内筒部41の一端(図1の右端)とプーリ外筒部42の一端(図1の右端)とを連結する。このプーリ連結部43には、周方向の一部分において円弧形状の長孔43aが形成されている。この長孔43aの詳細については後述する。
【0026】
回転変動吸収用ゴム弾性体50は、円筒形状に形成され、ハブ内筒部11の外周面とプーリ本体40のプーリ内筒部41の内周面とを弾性的に連結する。そして、ハブ10にクランクシャフトから回転変動が伝達された場合には、伝達された回転変動を回転変動吸収用ゴム弾性体50が吸収する。詳細には、回転変動吸収用ゴム弾性体50の外周面は、プーリ内筒部41の内周面に加硫接着により連結され、回転変動吸収用ゴム弾性体50の内周面は、補助筒金具51の外周面に加硫接着により連結されている。そして、補助筒金具51がハブ内筒部11の外周面に圧入により嵌合されることで、回転変動吸収用ゴム弾性体50がハブ内筒部11に連結される。また、回転変動吸収用ゴム弾性体50の径方向長さは、トーショナル用ゴム弾性体30の径方向長さに比べて十分に長くされている。これは、回転変動吸収用ゴム弾性体50に要求される共振周波数が低いため、回転方向に十分に柔らかくする必要があるためである。
【0027】
軸受60は、ハブ外筒部12の内周面とプーリ内筒部41の外周面との間に介在され、ハブ10に対してプーリ本体40が回転可能となるように支持している。
【0028】
ストッパピン70は、慣性マス20のマス筒部21のうちプーリ連結部43側の端面(図1の右端面)から回転軸方向(図1の右側)に突出するように、マス筒部21の一端面に固定されている。このストッパピン70は、円柱形状に形成されている。ストッパピン70は、プーリ連結部43に形成されている長孔43aに挿入され、長孔43aに対して相対的な回転を許容されている。
【0029】
(プーリ本体のプーリ連結部に形成されている長孔の詳細形状)
プーリ本体40のプーリ連結部43には、円弧形状の長孔43aが形成されている。この長孔43aの詳細形状について、図2を参照して説明する。長孔43aは、円弧形状の回転許容溝81と、回転許容溝81の円弧両端に位置する摩擦係止溝82,83とを備えている。
【0030】
回転許容溝81は、ストッパピン70を収容しており、ストッパピン70に対して所定位相範囲θの相対回転を許容する。詳細には、回転許容溝81は、径方向幅が同一幅の円弧形状に形成されている。ここで、回転許容溝81の径方向幅の中央における円弧半径は、ストッパピン70におけるアイソレーションダンパプーリ1の回転中心からの距離とほぼ同程度としている。また、回転許容溝81の径方向幅は、ストッパピン70の直径より大きく設定されている。さらに、回転許容溝81の円弧形状の位相範囲は、上述した所定位相範囲θに一致させている。
【0031】
この所定位相範囲θとは、プーリ本体40が慣性マス20に対して相対回転した場合に、回転変動吸収用ゴム弾性体50の許容範囲となる範囲である。つまり、プーリ本体40と慣性マス20との相対回転が所定位相範囲θ内の使用であれば、回転変動吸収用ゴム弾性体50の許容範囲に入るということになる。従って、正常状態であれば、プーリ本体40と慣性マス20との相対回転の位相範囲は、所定位相範囲θ内となる。
【0032】
ここで、図1,2において、回転許容溝81は、プーリ連結部43に対して軸方向に貫通する孔として示しているが、貫通孔に限られるものではなく、慣性マス20側に開口する底付き凹部としてもよい。回転許容溝81の用語の意味は、両者を含む意味で用いている。
【0033】
摩擦係止溝82,83は、回転許容溝81の円弧両端に位置する。例えば、接続される補機の異常によりプーリ本体40に大きなトルクが発生するおそれがある。このような場合には、プーリ本体40が慣性マス20に対する相対回転量が大きくなる。そうすると、回転変動吸収用ゴム弾性体50には、大きなトルクがかかることになる。そして、摩擦係止溝82,83は、この状態を防止するために作用する。
【0034】
摩擦係止溝82,83は、プーリ本体40に大きなトルクが発生した場合に、ストッパピン70が所定位相範囲θを超えて回転した場合に、ストッパピン70と当接して、ストッパピン70との相対回転を規制している。摩擦係止溝82,83の溝幅は、端部に行くにつれてストッパピン70の外径に対して次第に小さくなるようにV字形状に形成されている。
【0035】
従って、プーリ本体40が慣性マス20に対して大きく相対回転して、ストッパピン70が摩擦係止溝82,83に当接すると、ストッパピン70に対して摩擦による係止によりストッパピン70との相対回転を規制しかつストッパピン70の抜けを規制することになる。
【0036】
このように、長孔43aの両端に上述したような摩擦係止溝82,83を形成することにより、プーリ本体40に異常に大きなトルクが発生した場合に、ストッパピン70と摩擦係止溝82,83とを摩擦により係止することができる。従って、係止された後には、プーリ本体40は、慣性マス20と一体的となり、ハブ10に対してもほぼ一体的な状態となる。その結果、プーリ本体40に異常に大きなトルクが発生したとしても、回転変動吸収用ゴム弾性体50には、過大なトルクが作用することなく、破損することを防止できる。
【0037】
仮に、回転変動吸収用ゴム弾性体50に過大なトルクが発生したとしても、そのときには、摩擦係止溝82,83によって、ストッパピン70との相対回転を規制すると共にストッパピン70の抜けを規制している。これにより、回転変動吸収用ゴム弾性体50に過大なトルクが発生し、仮に回転変動吸収用ゴム弾性体50が破損したとしても、プーリ本体40がハブ10から脱落することを防止できる。
【0038】
また、回転変動を吸収するためには、回転変動吸収用ゴム弾性体50の共振周波数を低くすることが求められる。つまり、回転変動吸収用ゴム弾性体50の共振周波数帯を低くするには、回転方向に柔らかくすることになり、回転変動吸収用ゴム弾性体50の強度を低下させることにつながる。しかし、上記のとおり、プーリ本体40がハブ10から脱落しないようにすることを目的として、回転変動吸収用ゴム弾性体50の強度を高くする必要がない。そのため、回転変動吸収用ゴム弾性体50は、回転変動の吸収機能を確実に発揮できるような共振周波数に調整することができる。
【0039】
<第二実施形態>
第二実施形態の長孔143aとストッパピン170について、図3図5を参照して説明する。なお、第二実施形態においては、長孔143aとストッパピン170以外の構成は、第一実施形態と同一であるため同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
図3に示すように、ストッパピン170は、慣性マス20のマス筒部21のうちプーリ連結部43側の端面(図1の右端面)から回転軸方向(図1の右側)に突出するように、マス筒部21の一端面に固定されている。このストッパピン170は、全体としてはほぼ円柱形状に形成されており、基端部にくびれ状凹部171が形成されている。ストッパピン170は、プーリ連結部43に形成されている長孔143aに挿入され、長孔143aに対して相対的な回転を許容されている。
【0041】
長孔143aは、円弧形状の回転許容溝81(第一実施形態の回転許容溝81と同一形状)と、回転許容溝81の円弧両端に位置する係止溝110,120とを備えている。係止溝110,120は、第一実施形態の摩擦係止溝82,83と同様に、回転変動吸収用ゴム弾性体50に過大なトルクがかかることを防止する作用を有する。
【0042】
係止溝110,120は、係止溝本体部111,121と、抜け規制突起112,122と、戻り規制突起113,123とを備える。係止溝本体部111,121は、第一実施形態の摩擦係止溝82,83と同形状である。すなわち、係止溝本体部111,121の溝幅は、端部に行くにつれてストッパピン170の円柱外径に対して次第に小さくなるようにV字形状に形成されている。
【0043】
抜け規制突起112,122は、係止溝本体部111,121のうち慣性マス20側から溝内側に突出形成されている。本実施形態においては、抜け規制突起112,122は、係止溝本体部111,121のうち径方向外側(図3の上側)に設けている。また、抜け規制突起112,122は、係止溝本体部111,121の周方向全体に亘って設けられている。この抜け規制突起112,122の軸方向幅は、ストッパピン170のくびれ状凹部171の凹幅よりも狭く形成され、ストッパピン170が係止溝110,120に位置する状態においてくびれ状凹部171に係合する位置に形成されている。つまり、プーリ本体40に大きなトルクが発生した場合に、ストッパピン170が所定位相範囲θを超えて回転した場合に、ストッパピン170のくびれ状凹部171が、抜け規制突起112,122に係合され、ストッパピン170の突出方向(軸方向)へのストッパピン170の係止溝110,120からの抜けを規制している。
【0044】
戻り規制突起113,123は、係止溝本体部111,121のうち回転許容溝81側に、係止溝本体部111,121から溝内側に突出形成されている。本実施形態においては、戻り規制突起113,123は、係止溝本体部111,121のうち径方向外側と径方向内側の両方に設けている。この戻り規制突起113,123の開口幅は、ストッパピン170の円柱外径より僅かに小さく形成されている。
【0045】
つまり、ストッパピン170がある程度大きな速度で回転許容溝81から戻り規制突起113,123に到達すると、ストッパピン170または戻り規制突起113,123が僅かに弾性変形することにより、係止溝本体部111,121側への進入を許容する。一方、ストッパピン170が係止溝本体部111,121に進入した後においては、ストッパピン170の係止溝本体部111,121に対する相対回転速度は、相対的に小さい。そのため、仮に、係止溝本体部111,121から回転許容溝81側へ戻ろうとしたとしても、ストッパピン170および戻り規制突起113,123は弾性変形せずに、戻り移動を規制する。
【0046】
本実施形態によれば、係止溝本体部111,121により、第一実施形態の摩擦係止溝82,83と同様に、ストッパピン170を摩擦により係止することができる。さらに、本実施形態によれば、ストッパピン170が係止溝本体部111,121に進入した状態において、ストッパピン170のくびれ状凹部171が、抜け規制突起112,122に対して軸方向に係合している。これにより、ストッパピン170の係止溝110,120に対する軸方向の抜けに対して、摩擦力に加えて物理的な係合により規制されている。
【0047】
さらに、ストッパピン170が係止溝本体部111,121に進入した状態において、ストッパピン170に対して回転許容溝81側へ戻る力が作用したとしても、ストッパピン170は、戻り規制突起113,123により係止溝本体部111,121側から回転許容溝81側への戻り移動を規制されている。従って、ストッパピン170は、係止溝本体部111,121に摩擦係止された状態が維持される。
【0048】
このように、長孔143aの両端に上述したような係止溝本体部111,121、抜け規制突起112,122および戻り規制突起113,123を形成することにより、プーリ本体40に異常に大きなトルクが発生した場合に、ストッパピン170と係止溝110,120に係止される。従って、係止された後には、プーリ本体40は、慣性マス20と一体的となり、ハブ10に対してもほぼ一体的な状態となる。その結果、プーリ本体40に異常に大きなトルクが発生したとしても、回転変動吸収用ゴム弾性体50には、過大なトルクが作用することなく、破損することを防止できる。
【0049】
仮に、回転変動吸収用ゴム弾性体50に過大なトルクが発生したとしても、そのときには、係止溝110,120によって、ストッパピン170との相対回転を規制すると共にストッパピン170の抜けを規制している。これにより、回転変動吸収用ゴム弾性体50に過大なトルクが発生し、仮に回転変動吸収用ゴム弾性体50が破損したとしても、プーリ本体40がハブ10から脱落することを防止できる。
【0050】
<第三実施形態>
第三実施形態の長孔243aについて、図6を参照して説明する。本実施形態の長孔243aは、係止溝本体部211,221と、抜け規制突起112,122と、戻り規制突起113,123とを備えている。ここで、本実施形態の長孔243aの係止溝本体部211,221は、第二実施形態の長孔143aにおける係止溝本体部111,121が相違する。また、本実施形態の抜け規制突起112,122および戻り規制突起113,123は、第二実施形態と同一である。
【0051】
係止溝本体部211,221は、溝幅が次第に小さくなるV字形状ではなく、回転許容溝81と同幅で僅かな位相範囲を形成され、係止溝本体部211,221の端部が、当該幅を直径とする円弧形状に形成されている。つまり、係止溝本体部211,221は、第二実施形態のようにストッパピン170に対して摩擦により係止するものではない。
【0052】
このような構成において、ストッパピン170が係止溝本体部211,221に進入すると、抜け規制突起112,122によりストッパピン170が係止溝本体部211,221からの抜けを規制する。さらに、戻り規制突起113,123により、ストッパピン170は回転許容溝81側への戻り移動が規制されている。従って、ストッパピン170が係止溝本体部211,221に進入した後において、ストッパピン170は、係止溝本体部211,221に位置し続けることになる。これにより、第二実施形態と実質的に同様の効果を奏する。
【0053】
<その他>
上記実施形態においては、ストッパピン70を慣性マス20のマス筒部21に固定し、長孔をプーリ本体40のプーリ連結部43に形成した。この他に、ストッパピン70をハブ外筒部12の一端面に固定し、長孔43aをプーリ本体40のプーリ連結部43に形成することもできる。また、ストッパピン70を固定する部材と長孔43aを形成する部材とを入れ替えることもできる。
【符号の説明】
【0054】
1:アイソレーションダンパプーリ
10:ハブ、 11:ハブ内筒部、 12:ハブ外筒部、 12a:環状突起
13:ハブ連結部
20:慣性マス、 21:マス筒部、 21a:凹状溝、 22:フランジ部
30:トーショナル用ゴム弾性体
40:プーリ本体、 41:プーリ内筒部、 42:プーリ外筒部
43:プーリ連結部、 43a,143a,243a:長孔
50:回転変動吸収用ゴム弾性体、 51:補助筒金具
60:軸受、 70:ストッパピン
81:回転許容溝、 82,83:摩擦係止溝
110,120:係止溝、 111,121:係止溝本体部
112,122:抜け規制突起、 113,123:戻り規制突起
170:ストッパピン、 171:くびれ状凹部
211,221:係止溝本体部
θ:所定位相範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6