(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシステムでは、受信した電力が閾値を超えた時点を方位検出に用いるデータの基準時点としているが、瞬間的に入ってくるノイズが閾値よりも大きい場合には、そのノイズを検出した時点を、方位検出に用いるデータの基準時点としてしまうことがあり、方位検出用データ正しく受信できないことがあった。この結果、無線端末の方向を全く別の方向と誤認識してしまうという問題があった。
【0006】
一方、ノイズによる誤認識を抑制するためには、受信した電力が越えるべき閾値を高く設定することになるが、すると無線端末が遠方にあったり、人体などの障害物で遮られたりする状況では受信した電力が閾値を超えず、方位検出に用いるデータの基準時点を確定できず、無線端末の方向を捕らえることができないことが発生するため、方向探知は近距離に限定されるという問題があった。このように、無線端末の方位探知精度が悪かったり、方向探知距離が短かったりする状況であり、実用的に不十分であった。
【0007】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、精度のよい方位探知を、探知距離を低下させることなく行うことができる無線端末方位探知装置、および、その無線端末方位探知装置と無線端末とを備えた無線端末方位探知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その目的を達成するための請求項1記載の発明によれば、可変指向性アンテナの指向性を
所定の方位検出範囲内でステップ角ずつ逐次変化させ
、指向性を方位検出範囲内のステップ角毎のすべての方位に設定した場合には、再度、初期値から指向性を順次変化させる。また、指向性を逐次変化させている間にその可変指向性アンテナが受信した信号の受信信号強度を示す受信信号強度情報を記憶部に逐次記憶しておく。そして、受信完了判断手段により無線端末からの信号の受信完了が判断された時点を期間終了時点として、その期間終了時点から遡って無線端末が信号を送信している信号送信期間内であって、方位検出範囲の全部に渡り可変指向性アンテナの指向性が変化している期間の受信信号強度情報を記憶部から取得する。このように受信信号強度情報を取得する期間の基準を受信完了時点としており、受信完了の判断は瞬間的なノイズの影響を受けにくい。また受信完了となれば方向探知が可能となるため、探知可能距離は実用上十分に確保している。よって、誤った期間の受信信号強度情報を取得してしまうことが抑制され、その結果、探知距離を低下させることなく方位探知の精度が向上する。
【0009】
また、請求項2記載の発明では、可変指向性アンテナとは別に、無線端末からの電波を受信して無線通信回路に供給する通信用アンテナを備えている。また、その通信用アンテナが受信した信号の受信信号強度を検出する第2信号強度検出回路も備えている。そして、方位検出精度判断手段は、取得手段が取得した受信信号強度情報(すなわち、無線端末の信号送信期間内に可変指向性アンテナが受信した信号の強度を示す情報)に基づいて定まる第1電力値と、信号送信期間に第2検出回路が検出した受信信号強度に基づいて定まる第2電力値との比較に基づいて、方位検出手段による方位検出の精度を判断する。
【0010】
第1電力値がノイズや混信の影響を受けた値となっている場合には、第1電力値と第2電力値との違いが大きくなり、反対に、第1電力値がノイズや混信の影響を受けた値となっていない場合には第1電力値と第2電力値は近い値になる。よって、方位検出精度判断手段は、第1電力値と第2電力値との比較に基づいて方位検出の精度を判断できる。そして、このように方位検出精度判断手段を備えることで、たとえば、方位検出の精度が低いと判断した場合には、方位検出手段による方位検出結果を破棄することができる。また、方位検出手段が方位検出を行う前に方位検出精度の判断を行い、方位検出の精度が低いと判断した場合には方位検出を行わないようにしてもよい。
【0011】
なお、第1電力値と第2電力値との比較方法としては、たとえば、第1電力値と第2電力値との電力値差を算出し、この電力値差が予め設定された範囲内にある場合には方位検出の精度はよく、電力値差がその予め設定された範囲外であれば方位検出の精度が低いと判断する方法とすることができる。
【0012】
また、請求項3記載の発明では、方位検出手段は、方位検出精度判断手段による精度判断の前に方位を検出する。また、第2信号強度検出回路が検出した受信信号強度を、通信用アンテナの指向性を方位検出手段が検出した方位に向けた場合の受信信号強度に補正する受信信号強度補正手段をさらに備える。そして、方位検出精度判断手段は、可変指向性アンテナの指向性が方位検出手段が検出した方位に向いているときに第1信号強度検出回路が検出した受信信号強度に基づいて第1電力値を決定し、且つ、受信信号強度補正手段で補正した補正後の受信信号強度に基づいて定まる電力値を第2電力値として用いる。このようにすれば、第1電力値および第2電力値は、いずれも、アンテナの指向性が無線端末の方位を向いたときの電力値となるので、第1電力値および第2電力値の比較を精度よく行うことができ、結果として、方位検出の精度の判断をより正確に行うことができる。
【0013】
また、請求項4記載の発明は、無線端末方位探知装置と無線端末とを備えた無線端末方位探知システムに係る発明である。この発明において、無線端末方位探知装置は、指向性制御手段が可変指向性アンテナの指向性を方位検出範囲の全部に渡って変化させるのに要する時間に関連する指向性変化時間情報を無線端末に送信する。無線端末は、その指向性変化時間情報に基づいて信号の送信時間を決定する。
【0014】
このようにすれば、無線端末は、指向性変化時間情報に基づいて信号の送信時間を決定できることから、必要以上に長い送信時間の信号を送信する必要がなくなる。そのため、電池寿命を長くすることができる。
【0015】
なお、指向性変化時間情報には、可変指向性アンテナの指向性を方位検出範囲の全部に渡って変化させるのに要する時間(指向性変化時間)そのものが含まれるのはもちろんのこと、これ以外に、指向性を設定する回数や、単なる時間の長短というフラグも含まれる。指向性を設定する回数やフラグが含まれるのは、ある指向性から次の指向性に変化させるのに要する時間を予め無線端末が記憶していれば、指向性を設定するのに要する指向性変化時間が算出できるからである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に説明する実施形態は、無線端末として無線タグ10を備え、この無線タグ10の方位を探知する無線タグ方位探知システム1である。
【0018】
図1は、本実施形態の無線タグ方位探知システム1の構成を示すブロック図である。この
図1に示すように、無線タグ方位探知システム1は、無線タグ10とタグリーダ20とを備えている。
【0019】
無線タグ10は、図示しない内部に電池を備えており、この電池の電力により、周期的にデータを送信する。なお、無線タグ10は複数備えられていてもよい。
【0020】
タグリーダ20は特許請求の範囲の無線端末方位探知装置に相当するものである。このタグリーダ20は、可変指向性アンテナ210、アンテナ指向性制御回路220、通信用アンテナ230、タグ通信回路240、高精度RSSI検出回路250、アナログデジタルコンバータ260、制御回路270を備えている。
【0021】
可変指向性アンテナ210として、本実施形態では、公知の電子制御導波器アレーアンテナを用いており、1本の励振素子211と、その励振素子211を中心とする円周上に等間隔に設けられた6本の非励振素子212とを備えている。なお、図示しないが、この可変指向性アンテナ210は、公知の電子制御導波器アレーアンテナと同様に、接地導体を備えており、励振素子211、非励振素子212は、この接地導体の上に設けられている。また、励振素子211には、図示しない同軸ケーブルが接続されており、この同軸ケーブルにより、励振素子211が受信した電波を示す受信信号が高精度RSSI検出回路250に供給される。
【0022】
アンテナ指向性制御回路220は、電子制御導波器アレーアンテナの指向性制御に用いられる公知の可変リアクタンス回路を内部に有している。この可変リアクタンス回路は、例えば、バイアス電圧が印加されることによってリアクタンス値が変化する可変リアクタンス素子(例えば可変容量ダイオード)を含む回路である。アンテナ指向性制御回路220は、この可変リアクタンス素子のリアクタンス値を制御回路270から指示された指向性に基づいて定まるリアクタンス値とすることにより、可変指向性アンテナ210の指向性を変化させる。
【0023】
通信用アンテナ230は、可変指向性アンテナ210とは別に設けられたアンテナであり、無線タグ10からの電波を受信して、受信した電波を示す受信信号をタグ通信回路240に供給する。
【0024】
タグ通信回路240は、特許請求の範囲の無線通信回路に相当するものであり、無線タグ10との間で無線通信を行う公知の回路を備えている。このタグ通信回路240は、図示していないが、符号部、変調部、増幅部、復調部、復号部、および、これらを制御する制御部を備えている。そして、無線タグ10からの信号を復調部、復号部で、復調・復号し、復号した符号に基づいて、無線タグ10からの信号の受信を完了したか否かを判断する。この判断は、より具体的には、例えば、所定の最終符号を検知したことにより受信完了と判断する。そして、受信完了と判断した場合には、その旨を示す信号を制御回路270に送る。
【0025】
また、タグ通信回路240は、図に示すようにRSSI検出回路241も備えている。このRSSI検出回路241は、通信用アンテナ230によって受信された受信信号の強度(RSSI)を検出する回路であり、タグ通信回路240と無線タグ10とがZigbee(登録商標)の通信規格により通信を行うようになっている場合には、タグ通信回路240には、RSSI検出回路241が実装されている。このRSSI検出回路241で検出されたRSSIは、図示しないアナログデジタルコンバータを介して制御回路270へ供給される。なお、以下では、次に説明する高精度RSSI検出回路250が検出するRSSIと区別するために、RSSI検出回路241で検出したRSSIを第2RSSIという。また、RSSI検出回路241は、特許請求の範囲の第2信号強度検出回路に相当する。
【0026】
高精度RSSI検出回路250は、可変指向性アンテナ210によって受信された受信信号のRSSI(以下、第1RSSI)を検出するものであり、特許請求の範囲の第1信号強度検出回路に相当する。また、第1RSSIは特許請求の範囲の受信信号強度情報に相当する。
【0027】
なお、この高精度RSSI検出回路250は、タグ通信回路240に備えられているRSSI検出回路241よりもノイズとして除去する信号レベルを高くしており、その結果、タグ通信回路240に備えられているものよりも高精度にRSSIを検出することができる。また、この高精度RSSI検出回路250は、無線タグ10から受信する受信信号からデータ成分を除去するためのアナログフィルタを備えており、検出する第1RSSIは、アナログフィルタを通過した後の値である。高精度RSSI検出回路250が検出する第1RSSIはアナログ値であり、高精度RSSI検出回路250は、検出した第1RSSIをアナログデジタルコンバータ260へ出力する。
【0028】
アナログデジタルコンバータ(以下、ADCという)260は、高精度RSSI検出回路250から供給された第1RSSIをデジタル値に変換して制御回路270へ出力する。
【0029】
制御回路270は、CPUを備えたコンピュータであり、他に、ROM、RAM等を備えている。この制御回路270は、タグ通信回路240、アンテナ指向性制御回路220の制御を行う。アンテナ指向性制御回路220に対する処理としては、アンテナ指向性制御回路220に対して、可変指向性アンテナ210の指向性を所定の周期で逐次指示して、可変指向性アンテナ210の指向性を方位検出範囲内で順次変化させる処理がある。この処理が、特許請求の範囲の指向性制御手段に相当する処理である。また、制御回路270は内部にバッファ271を備えており、このバッファ271の制御も行う。なお、制御回路270が行う処理は後にさらに詳述する。
【0030】
バッファ271は、特許請求の範囲の記憶部に相当するものであり、ADC260から供給される第1RSSIを記憶する。第1RSSIは一時的に記憶されていればよいので、バッファ271としてはRAMを用いることができるが、EEPROM等のROMを用いてもよい。前述の制御回路270は、バッファ271に、上記第1RSSIを、第1RSSIを示す受信信号を可変指向性アンテナ210が受信したときの可変指向性アンテナ210の指向性と対応付けて逐次記憶させる。
【0031】
図2は、可変指向性アンテナ210の指向性変化例を示す図である。この例では、0度〜330度まで30度毎に、12方位の指向性に変化している。また、
図2には、人300が例示されている。この人300が無線タグ10を携帯している場合、メインローブが30度の方位を向く指向性となっているときに、人300が携帯している無線タグ10から受信する電力が最も強くなる。
【0032】
図3は、
図2のように、30度方向に無線タグ10を携帯している人300がいる状態で、同図のように指向性を変化させたときの受信電力の変化を例示する図である。この
図3かわらも分かるように、30度方向に無線タグ10を携帯している人300がいる場合には、メインローブが30度方向を向いているときの受信電力が最大となる。よって、可変指向性アンテナ210の指向性を方位検出範囲内で順次変化させつつ、各指向性において可変指向性アンテナ210が受信する受信信号の電力値を比較することで、無線タグ10の方位を検出することができる。なお、方位検出範囲はこの例では360度であるが、必ずしも方位検出範囲は360度である必要はなく、たとえば180度など、方位検出範囲は無線タグ10の方位を検出したい範囲として任意に設定可能である。
【0033】
ところで、
図3の例のように受信電力が変化するのは、可変指向性アンテナ210の指向性が方位検出範囲内で変化している間中ずっと(すなわち、受信電力を取得している間中ずっと)、無線タグ10がデータを送信していることが必要となる。そこで、前述の特許文献1では、受信電力が閾値を超えた時点をデータの受信開始時とみなし、その時点を基準としてデータの取り込みを行うようにしている。しかしながら、ノイズが入った場合には、本当のデータの開始時点とは異なる時点を基準としてしまう恐れがある。そこで、本実施形態における方位探知処理では、無線タグ10からのデータの受信完了時点を基準としてRSSIを取得して無線タグ10の方位探知を行う。
【0034】
図4は、本実施形態において制御回路270が行う方位探知処理をフローチャートにて示す図である。この
図4に示す処理は、たとえば、無線タグ10が送信する電波を検知したことに基づいて開始し、無線タグ10からの電波を受信できている期間は、予め設定された周期毎に実行する。
【0035】
なお、この方位探知処理の事前処理として指向性方位設定回数Nが設定される。指向性方位設定回数Nは、可変指向性アンテナ210の指向性を設定する回数であり、方位検出範囲を指向性変化ステップ角(
図3の例では30度)で割った値である。この指向性方位設定回数Nの設定は、任意の時点でユーザが設定する。
【0036】
ステップS1では、事前処理にて設定されている指向性方向設定回数Nをタグリーダ20の周囲に送信する。無線タグ10は、タグリーダ20がある向きに指向性を設定し、その指向性おいて第1RSSIを検出するのに要する時間を予め記憶している。無線タグ10は、指向性方向設定回数Nを受信した場合、指向性方向設定回数Nに基づいて、タグリーダ20が指向性をN回変化させるのに要する時間(指向性変化時間)を算出する。そして、その算出した指向性変化時間に基づいて予め記憶された算出式を用いてデータ送信時間を算出する。この算出式は、指向性変化時間よりもデータ送信時間が短くならない範囲でできるだけデータ送信時間が短くなるように設定されており、たとえば、指向性変化時間+一定値をデータ送信時間として算出する。その後、このデータ送信時間の間、所定のデータをタグリーダ20へ送信する。
【0037】
説明をタグリーダ20に戻し、ステップS2以下を説明する。ステップS2では指向性変更制御を行う。この制御は具体的には、アンテナ指向性制御回路220に対して、指向性方位(メインローブの方位)を指示するものであり、初回の実行時には、指向性方位を初期値(たとえば0度方向)に向ける指示を行う。2回目移行の実行時には、その時点における指向性方位にステップ角(たとえば30度)を加えた角度に指向性方位を向ける指示を行う。
【0038】
続くステップS3では受信データを取得する。具体的には、高精度RSSI検出回路250から第1RSSIを取得する。続くステップS4では、ステップS3で取得した第1RSSIを、ステップS2で設定した指向性方位に対応付けてバッファ271に記憶する。
【0039】
続くステップS5は、特許請求の範囲の受信完了判断手段に相当する処理であり、タグデータの受信が完了したか否かを判断する。この判断は、タグ通信回路240から受信完了を示す信号を取得したか否かにより行う。このステップS5の判断が否定判断である場合にはステップS2へ戻る。よって、タグデータの受信が完了したと判断するまでは、指向性をステップ角ずつ変化させつつ、受信データの取得、バッファリングを繰り返すことになり、指向性を方位検出範囲内のステップ角毎のすべての方位に設定した場合には、再度、初期値から指向性を順次変化させる。
【0040】
一方、ステップS5が肯定判断となった場合には、ステップS6へ進む。ステップS6は特許請求の範囲の取得手段に相当し、受信完了時点から遡って、指向性方向設定回数N個分の第1RSSIをバッファ271から取得する。このステップS6でバッファ271から取得する第1RSSIについて
図5を用いて説明する。
【0041】
図5は、横軸は時間軸であり、(A)はタグ送信電波およびその送信電波に応じて通信回路240が受信した受信データ、(B)は(A)と同じ時間において可変指向性アンテナ210が示している指向性方位、(C)は(A)、(B)と同じ時間において高精度RSSI検出回路250が検出した第1RSSIをそれぞれ示している。また、同図(D)は、各四角により、各指向性方位に対応した第1RSSIがバッファ271に記憶されていることを概念的に示している。なお、各四角において実際に記憶されている第1RSSIは、同図(C)に示されている第1RSSIのうち、
図4のステップS4においてバッファするタイミング毎の第1RSSIである。
【0042】
この
図5に示すように、t1時点において受信完了を判断した場合、そのt1時点を期間終了時点として、無線タグ10が電波を送信している期間となる、t1の直前から、可変指向性アンテナ210の指向性を方位検出範囲の1周分変化させるのに要する時間だけ遡るまでの期間をデータ取込期間とする。そして、その期間内の第1RSSIをバッファ271から取得する。従って、取得するデータ数はN個(ここでは12個)となる。なお、このデータ取込期間は、可変指向性アンテナ210の指向性が方位検出範囲を1周分変化している期間であるだけでなく、このデータ取込期間においては、無線タグ10は確実に電波送信を行っている。
【0043】
説明を
図4に戻し、ステップS6を実行したら、続くステップS7では、ステップS6で取得したデータを用いてタグ方位推定アルゴリズムを実行する。このタグ方位推定アルゴリズムは、たとえば、取得した第1RSSIのうち最も値の大きい第1RSSIを決定し、決定した第1RSSIに対応付けられている指向性方位を無線タグ10の存在する方位として推定するものである。
【0044】
続くステップS8では、可変指向性アンテナ210が受信した受信信号の電力値と、通信用アンテナ230が受信した受信信号の電力値との電力比較を実行する。この電力比較は、詳しくは
図6に示す処理を実行する。
【0045】
図6において、まず、ステップS81では、
図4のステップS6で取得した第1RSSIのうちのピーク値を決定する。この時点では、そのピーク値は単なるデジタル値であることから、続くステップS82では、ステップS81で決定した第1RSSIのピーク値を電力値に換算して第1電力値とする。換算には、予め記憶してある換算式あるいは換算表を用いる。
【0046】
続くステップS83では、タグ通信回路240で得られたデータ通信における第2RSSIを取得する。この第2RSSIは、ステップS81とは異なり、タグデータの受信時の信号強度を意味する。続くステップS84では、ステップS83で取得した第2RSSIを電力値に換算して第2電力値とする。換算には、ステップS82と同様に、予め記憶してある換算式あるいは換算表を用いるが、換算式、換算表は第1RSSIの換算用とは別に記憶してある第2RSSIの換算用のものを用いる。
【0047】
続くステップS85では、上記ステップS84で得た第2電力値に対して、通信用アンテナ230の指向性を無線タグ10の方位に向けた場合の電力値に補正する。以下、ここで補正した第2電力値を補正第2電力値という。補正には、方位毎に利得の偏りを補正する補正係数が定まるテーブルを予め用意しておき、このテーブルを用いる。また、無線タグ10の方位には、
図4のステップS7で推定した方位を用いる。このステップS85において補正を行うことにより、第1電力値、補正第2電力値ともに、それら2つの電力値を受信したアンテナ(可変指向性アンテナ210、通信用アンテナ230)の指向性を無線タグ10の方位に向けたときの電力値とすることができる。このステップS85の処理が特許請求の範囲の受信信号強度補正手段に相当する。
【0048】
続くステップS86では、ステップS82で得た第1電力値とステップS85で得た補正第2電力値との電力値差を算出する。電力値差は、第1電力値から補正第2電力値を引いてもよいし、逆に、補正第2電力値から第1電力値を引いてもよい、どちらにするかは予め設定されている。
【0049】
続くステップS87は、特許請求の範囲の方位検出精度判断手段に相当する処理であり、ステップS86で算出した電力値差が、予め設定されている下限値SLと上限値SHの間に入っているか否かを判断する。この判断が肯定判断であった場合には、
図6の電力比較処理を終了し
図4へ戻る。そして、ステップS9において、ステップS7で推定した方位を無線タグ10の存在方位として確定する。このステップS9およびステップS7が、特許請求の範囲の方位検出手段に相当する。
【0050】
一方、ステップS87の判断が否定判断である場合には、データ取得期間内の一部の期間に大きなノイズや混信があった可能性がある。そこで、ステップS87が否定判断となった場合には、
図4のステップS7で推定した推定結果を破棄し、
図4のステップS9へは進まずに方位探知処理を終了する。なお、ステップS87が肯定判断となった場合にも、また、否定判断となった場合にも、所定の周期が経過した後、
図4を最初から実行する。
【0051】
以上、説明した本実施形態によれば、可変指向性アンテナ210の指向性を方位検出範囲内で順次変化させている間、第1RSSIをバッファに271に逐次記憶する(ステップS4)。そして、タグデータの受信を完了したと判断した時点を期間終了時点として、その期間終了時点から遡って無線タグ10が信号を送信している信号送信期間であって、且つ、可変指向性アンテナ210の指向性が方位検出範囲の全部に渡って各1回ずつ変化した期間をデータ取込期間に決定する。そして、このデータ取込期間の第1RSSIをバッファ271から取得する(ステップS6)。このように第1RSSIを取得する期間の基準を受信完了時点としており、受信完了の判断は信号強度により行うのではないことから、ノイズの影響を受けにくい。しかも、タグ方位推定アルゴリズムを実行してタグ方位を推定するためには、受信完了となればよい、すなわち、受信完了と判断できるレベルの受信電力であればよい。よって、閾値をを高く設定してノイズの影響を抑える場合とは異なり、実用上十分な方位探知距離を確保できる。
【0052】
よって、誤った期間の第1RSSIを取得してしまうことが抑制され、その結果、方位探知距離を低下させることなく方位探知の精度が向上する。
【0053】
また、本実施形態では、可変指向性アンテナ210とは別に、無線タグ10からの電波を受信してタグ通信回路240に供給する通信用アンテナ230を備えるとともに、通信用アンテナ230が受信した信号のRSSI(第2RSSI)を検出するRSSI検出回路241も備えている。そして、第1RSSIのピーク値を電力値に換算した第1電力値と、タグデータ受信完了時点においてRSSI検出回路241が検出した第2RSSIを電力値に換算した補正第2電力値とを比較して、ステップS7で推定した方位の精度を判断している(ステップS87)。そして、精度が低いと判断した場合には、方位推定結果を破棄している。これにより、誤った方位を探知してしまうことが減少する結果、より方位探知の精度が向上する。
【0054】
しかも、第1電力値および補正第2電力値は、いずれも、アンテナの指向性が無線タグ10の方位を向いたときの電力値であるので、電力値の比較を精度よく行うことができ、結果として、方位検出の精度の判断をより正確に行うことができる。
【0055】
また、本実施形態では、無線タグ10は、タグリーダ20から送信される指向性方向設定回数Nに基づいてデータ送信時間を決定しているので、必要以上に長い送信時間のデータを送信する必要がなくなる。そのため、電池寿命を長くすることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0057】
前述の実施形態では、指向性方位設定回数Nが12である例を説明したが、Nは12である必要はなく、たとえば、方位検出範囲が0度〜180度である場合は、指向性方位設定回数Nを7(0度、30度、…、180度)にすることができる。また指向性変化ステップ角を60度とする場合には、指向性方位設定回数Nを6とすることができる。
【0058】
図7は、指向性変化ステップ角を60度として指向性方位設定回数Nが6である場合にバッファ271から取得する第1RSSIを説明する図である。指向性方位設定回数Nが6であることから、取得データも6個となる。この場合、指向性変化に要する時間が同じであれば、方位検出範囲の全範囲を指向性が変化する時間は前述の実施形態の半分となる。また、無線タグ10は、指向性方位設定回数Nに基づいてデータ送信時間を決定していることから、指向性方位設定回数Nが12である場合よりもデータ送信時間が短くなる。よって、電池寿命が長くなる。
【0059】
また、
図5や
図7の例とは異なり、タグリーダ20がN方位をスキャンする速度を速くすることによっても、無線タグ10のデータ送信時間の必要時間を短くすることができる。この場合、可変指向性アンテナの指向性を方位検出範囲の全部に渡って変化させるのに要する時間に関連する指向性変化時間情報として、ステップS1でタグに送信するデータである「指向性方位設定回数N」の値を小さくすることにより、タグの送信時間を短くさせることが出来る。
【0060】
また、前述の実施形態では、第2電力値を、通信用アンテナ230の指向性を無線タグ10の方位に向けた場合の電力値に補正した補正第2電力値を算出しており、この補正第2電力値を第1電力値と比較していた。しかし、通信用アンテナ230として無指向性のアンテナを用いる場合には、補正第2電力値を算出せずに、第2電力値を第1電力値と比較してもよい。また、無指向性アンテナを用いなくても、指向性の偏りが許容できるアンテナを用いる場合にも、補正第2電力値を算出せずに、第2電力値を第1電力値と比較してもよい。さらに、この電力比較を行わず、ステップS7で推定した方位をそのまま最終的な方位としてもよい。この場合であっても、従来よりは精度よく方位を推定することができる。
【0061】
また、高精度RSSI検出回路250はアナログフィルタを備えず、そのアナログフィルタと同様の機能のデジタルフィルタを制御回路270が備えていても良い。また、タグリーダ20が指向性方位設定回数Nを送信することに代えて、指向性をN回変化させるのに要する時間を送信するようにしてもよい。
【0062】
また、タグリーダ20は、指向性方位設定回数Nや指向性をN回変化させる時間などの指向性変化時間情報を送信せず、無線タグ10に、予めデータ送信時間を記憶させておいてもよい。このデータ送信時間は1種類のみでもよいが2種類以上でもよい。例として2種類の場合を説明する。無線タグ10には、予め、タグリーダ20が指向性をN回変化させるのに要する2種類の時間にそれぞれ対応した2種類のデータ送信時間を記憶させておく。そして、タグリーダ20は、指向性をN回変化させる時間がその2種類のうちの長い側であるか短い側であるかを送信する。このようにすれば、時間の長短を区別できる情報を指向性変化時間情報として送信すればよいことから、指向性変化時間情報としてタグリーダ20は1ビットのフラグを送信するだけでよい。無線タグ10は、この1ビットのフラグを受信した場合、そのフラグの内容に基づいて、予め記憶している2種類のデータ送信時間から1つのデータ送信時間を選択することになる。
【0063】
また、バッファ271に、受信信号強度情報として、第1RSSIに代えて、それに対応する第1電力値を記憶しておいてもよい。また、無線タグ10は、タグリーダ20からの要求に応じて信号を送信するセミパッシブ型でもよい。また、タグリーダ20が周期的にリクエスト信号を送信し、無線タグ10がこのリクエスト信号を受信した場合に、応答信号を返信し、タグリーダ20は応答信号を受信した場合に、前述の
図4の処理を開始するようにしてもよい。
【0064】
また、受信データとして、第1RSSIに加えて、第2RSSIを逐次記憶しておき、電力比較において、第2電力値として、ステップS2〜S4の繰り返しにおいて記憶した第2RSSSIの平均値に基づいて定まる電力値を用いてもよい。
【0065】
また、通信用アンテナ230を備えず、タグ通信回路240も可変指向性アンテナ210を用いて無線タグ10からの電波を受信するようにしてもよい。なお、この場合、可変指向性アンテナ210が受信した信号を高精度RSSI検出回路250とタグ通信回路240へ分配する分配回路を備えて信号を分配して、データ受信とRSSI測定とを行う。