【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の搬送車押し上げ装置は上記課題を解決するために、天井又は天井近傍位置に敷設される軌道に沿って搬送車が走行する搬送システムにおいて、前記搬送車を前記軌道の坂道軌道部に沿って坂上側に押し上げる搬送車押し上げ装置であって、前記坂道軌道部に沿って延在するように設けられたガイドレールと、前記ガイドレールに沿ってスライド可能なスライド部と、前記スライド部に所定の押し上げ力を伝達し、該スライド部を前記ガイドレールに沿って坂道軌道部の坂上側に押し上げる押し上げ力伝達手段と
、前記所定の押し上げ力が伝達されない状態であっても、前記スライド部が前記ガイドレールの所定位置より坂下側に下降するのを防止する下降防止手段とを備え、前記スライド部は、
スライド方向と直交し且つ水平な軸線周りに回動可能とされると共に、重心が前記軸線よりも坂下側を向いた位置とされており、前記所定の押し上げ力が伝達されない状態では前記搬送車と干渉しない位置となり、前記所定の押し上げ力が伝達される状態では前記搬送車と当接して前記搬送車を坂上側に押し上げ
、前記下降防止手段は、前記ガイドレールの下側に配置され鋸状の刃部が複数形成された鋸状部材、及び前記スライド部に形成され該スライド部の坂下側が下方に向いて回動した場合に刃部に係止される係止部を有している。
【0007】
本発明の搬送車押し上げ装置が設けられる搬送システムによれば、天井又は天井近傍位置に敷設された軌道を搬送車が走行することで、例えばFOUPやレチクル等の被搬送物が搬送される。搬送車は、例えば軌道を走行する走行部と、該走行部に取り付けられた搬送部とを備えている。搬送部は、例えば被搬送物を把持する把持部を備えており、被搬送物の積載時には、把持部に把持された被搬送物が搬送部の収容空間に収容される。収容空間は、例えば下方側に向けて開口したコの字状の搬送部における内部の空間として規定されている。
【0008】
本発明に係る軌道は、少なくとも部分的に坂道軌道部を有している。即ち、水平方向で見た場合に、高さの異なる2つの軌道を接続する傾斜した部分が存在している。そして、本発明の搬送車押し上げ装置は、上述した坂道軌道部に沿って延在するように設けられたガイドレールと、該ガイドレールに沿ってスライド可能なスライド部とを備えている。即ち、スライド部は、ガイドレールに案内されることで、坂道軌道部分に沿う方向にスライド可能とされている。尚、ガイドレールは、坂道軌道部の全てに対応するように設けられることが好ましいが、部分的に設けられる場合であっても、後述する本発明の効果は相応に得られる。
【0009】
本発明の搬送車押し上げ装置は更に、スライド部に所定の押し上げ力を伝達する押し上げ力伝達手段を備えている。尚、ここでの「所定の押し上げ力」とは、坂道軌道部で停止した搬送車を坂道軌道部の坂上側に押し上げるための力であり、典型的には搬送システムを管理する作業員等によって装置外部から加えられる。スライド部は、所定の押し上げ力が伝達されると、ガイドレールに沿って坂道軌道部の坂上側に押し上げられる。
【0010】
ここで特に、上述したスライド部は、押し上げ力伝達手段によって所定の押し上げ力が伝達されない状態では、搬送車と干渉しない位置とされる。即ち、搬送車が坂道軌道部で走行不能になっておらず通常通り走行可能な場合には、搬送車の走行を妨げないような位置に退避される。一方で、押し上げ力伝達手段によって所定の押し上げ力が伝達される状態では搬送車と当接するような位置とされる。即ち、搬送車が坂道軌道部で走行不能になっており、坂道軌道部の坂上側に押し上げようとする場合には、搬送車に対して所定の押し上げ力を伝達可能な状態とされる。スライド部は、所定の押し上げ力が伝達されることで坂道軌道部の坂上側に押し上げられるため、スライド部が当接した搬送車は、スライド部と共に坂道軌道部の坂上側に押し上げられる。坂道軌道部の坂上側に押し上げられた搬送車は、他の搬送車の走行を妨げないような位置へと離脱させられる。
【0011】
本発明では、上述したように、搬送車の押し上げが求められる場合と、搬送車を押し上げる必要のない場合とで、スライド部が互いに異なる位置に存在することになる。よって、通常の搬送における搬送効率を悪化させることなく、必要に応じて好適に搬送車の押し上げを実現できる。また、スライド部は坂道軌道部に沿ったガイドレールに案内されるため、搬送車をより簡単な動作で押し上げることが可能となる。
【0012】
坂道軌道部で走行停止した搬送車は、坂道軌道部以外(即ち、平坦な箇所)で走行停止した搬送車と比べて、搬送軌道から離脱させることが困難である。具体的には、坂道を押し上げる力が加わる分、搬送車を動かすためにより大きな力が求められ、力を加える方向も坂道軌道部に沿った方向であることが求められる。このような搬送車の押し上げ作業は、坂道軌道部が比較的短い場合や傾斜が緩やかな場合には、さほど問題とはならないが、坂道軌道部が比較的長い場合や傾斜が急な場合には、極めて大きな問題となる。よって、坂道軌道部において好適な搬送車の押し上げを実現できる本発明は、実践上極めて有効であるといえる。
【0013】
本発明の搬送車押し上げ装置の一態様では、前記ガイドレールは、前記搬送車よりも下側に配置されており、前記スライド部は、前記ガイドレールに沿ってスライドする第1スライド部、及び該第1スライド部から前記搬送車に当接する上側位置に突出可能とされた第2スライド部を有しており、前記押し上げ力伝達手段は、前記坂道軌道部の坂上側から延在し前記第1スライド部に連結された第1の引き上げ部材、及び前記坂道軌道部の坂上側から延在し前記第2スライド部に連結された長尺状の第2の引き上げ部材を有しており、前記第1の引き上げ部材は、
引っ張られることで前記第1スライド部及び前記第2スライド部を一体的に坂上側に上昇させ、前記第2の引き上げ部材は、
引っ張られることで前記第2スライド部を前記第1スライド部から前記上側位置へと突出させる。
【0014】
この態様によれば、ガイドレールが搬送車よりも下側に配置されているため、ガイドレールに案内されるスライド部も、搬送車より下側に位置することになる。そして、本態様に係るスライド部には特に、ガイドレールに沿ってスライドする第1スライド部、及び該第1スライド部から搬送車に当接する上側位置に突出可能とされた第2スライド部が有されている。
【0015】
本態様に係る押し上げ力伝達手段には、坂道軌道部の坂上側から延在し第1スライド部に連結された第1の引き上げ部材、及び坂道軌道部の坂上側から延在し第2スライド部に連結された長尺状の第2の引き上げ部材が有されている。第1の引き上げ部材は、引き上げられることで第1スライド部及び第2スライド部を一体的に坂上側に上昇させる。一方、第2の引き上げ部材は、引き上げられることで第2スライド部を第1スライド部から上側位置(即ち、搬送車と当接する位置)へと突出させる。
【0016】
上述した構成では、搬送車を押し上げる際、先ず第1の引き上げ部材が引き上げられることによって、第1スライド部及び第2スライド部が対象となる搬送車の位置までスライドされる。続いて、第2部材が引き上げられることによって、第2スライド部が上側位置へと突出される。そして、第2スライド部が搬送車に当接した後は、再び第1スライド部及び第2スライド部が坂上側にスライドされる。これにより、第2スライド部と当接している搬送車も同様に坂上側に押し上げられる。
【0017】
本態様では、スライド部のガイドレールに沿った移動動作と、搬送車と当接するための突出動作とを別々に行えるため、例えば複数の搬送車が連なって走行不能となった場合等に、対象とする搬送車の押し上げ動作を速やかに行うことができる。
【0018】
本発明の搬送車押し上げ装置の他の態様では、前記所定の押し上げ力が伝達されない状態であっても、前記スライド部が前記ガイドレールの所定位置より坂下側に下降するのを防止する下降防止手段を更に備える。
【0019】
この態様によれば、搬送車の押し上げ作業中において、スライド部に所定の押し上げ力が伝達されなくなった場合(例えば、作業者が押し上げ力伝達手段から手を離した場合や、作業者が途中で休憩したい場合)でも、搬送車の坂下側への下降が制限される。このため、搬送車を所定位置まで押し上げておけば、押し上げ作業を所定位置から再開することができる。従って、搬送車の押し上げ作業の効率を向上させることができる。尚、本態様に係る「所定位置」は、一のガイドレールに対して複数設定されていてもよい。
【0020】
上述した下降防止手段を備える態様では、前記スライド部は、スライド方向と直交し且つ水平な軸線周りに回動可能とされると共に、重心が前記軸線よりも坂下側を向いた位置とされており、前記下降防止手段は、前記ガイドレールの下側に配置され鋸状の刃部が複数形成された鋸状部材、及び前記スライド部に形成され該スライド部の坂下側が下方に向いて回動した場合に刃部に係止される係止部を有している。
【0021】
この構成によれば、スライド部は、スライド方向と直交し且つ水平な軸線周りに回動可能に支持される。尚、ここでの「直交」及び「水平」とは、完全な直交及び水平を含むほか、直交及び水平とみなせるまでに近い値を含む広い概念である。また、スライド部の重心は、スライド部が回動可能とされた軸線よりも坂下側を向いた位置とされているため、スライド部へ何ら力を加えない場合は、スライド部は坂下側が下方に向いて回動した状態となる。
【0022】
他方、下降防止手段には、ガイドレールの下側に配置され鋸状の刃部が複数形成された鋸状部材、及びスライド部に形成された係止部が有されている。このため、スライド部の坂下側が下方に向いて回動した場合(即ち、スライド部に所定の押し上げ力が伝達されない場合)には、係止部が鋸状の刃部に係止され、坂下側への下降が制限される。一方で、スライド部の坂下側が下方に向いて回動しない場合(即ち、スライド部に所定の押し上げ力が伝達される場合)には、係止部と鋸状の刃部は互いに干渉せず、スライド可能となったスライド部は好適に押し上げられる。
【0023】
上述した構成よれば、比較的簡単な構成で下降防止手段を実現でき、スライド部に所定の押し上げ力が伝達されなくなった場合の下降を確実に防止できる。また、スライド部に所定の押し上げ力が伝達される場合には、下降防止手段が自動的に機能しない状態とされるため、好適に押し上げ作業を進めることができる。
【0024】
本発明の搬送車押し上げ装置の他の態様では、前記スライド部は、前記搬送車に当接する部分に弾性体を有している。
【0025】
この態様によれば、弾性体によってスライド部と搬送車との当接時の衝撃が緩和される。従って、搬送車の破損や傷つきを的確に抑制することができる。尚、弾性体は、スライド部における搬送車に当接する部分の全てを覆うように設けられる必要はなく、部分的に設けられている場合であっても相応に効果を発揮できる。
【0026】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。