【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明者は、まず、
図4(a)に示すタービンインペラを従来例に係るもの、
図4(b)に示すタービンインペラを比較例1に係るもの、
図5(a)に示すタービンインペラを比較例2に係るもの、及び
図5(b)に示すタービンインペラを発明例に係るものをそれぞれ解析対象として特定する。ここで、従来例に係るタービンインペラは、各タービン動翼の前縁の翼厚がハブ部側(ホイール側)からチップ部側(シュラウド側)にかけて略均一になっており、具体的には、各タービン動翼の前縁の翼厚は0.5mmである。比較例1に係るタービンインペラは、各タービン動翼の前縁の翼厚がチップ部側からハブ部側にかけて漸次厚くなっており、具体的には、各タービン動翼の前縁のチップ部の翼厚は0.5mm、各タービン動翼の前縁のハブ部の翼厚は2.0mm、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比(翼厚比又は比率)は4.0である。比較例2に係るタービンインペラは、各タービン動翼の前縁の翼厚がチップ部側からハブ部側にかけて漸次厚くなっており、具体的には、各タービン動翼の前縁のチップ部の翼厚は0.5mm、各タービン動翼の前縁のハブ部の翼厚は3.0mm、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比は6.0である。発明例に係るタービンインペラは、各タービン動翼の前縁の翼厚がミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなっており、具体的には、各タービン動翼の前縁のチップ部の翼厚は0.5mm、各タービン動翼の前縁のミーン部の翼厚は0.5mm、各タービン動翼の前縁のハブ部の翼厚は2.0mm、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比は4.0である。なお、従来例、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラにおいて、タービン動翼の前縁における流れ方向に沿った断面形状は半円形状(曲がり形状の一例)になっており、タービン動翼の前縁の翼厚とは、タービン動翼の前縁における半円形状を除いた部位の翼厚のことをいう。
【0011】
そして、タービン動翼に対するガスの相対流入角を70度(この場合、インシデンスも70度)に設定した上で、ラジアルタービンの運転中における従来例、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラ内のガスの相対マッハ数分布についてCFD(Computational Fluid Dynamics)解析を行い、そのCFD解析結果として、ガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れの遅い領域をまとめると、
図6(a)(b)(c)〜
図9(a)(b)(c)に示すようになる。なお、
図6(a)(b)(c)は、従来例に係るタービンインペラ内のハブ部近傍(0.1スパン)、ミーン部(0.5スパン)、及びチップ部近傍(0.9スパン)におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図(径方向外側から見た図)、
図7(a)(b)(c)は、比較例1に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図、
図8(a)(b)(c)は、比較例2に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図、
図9(a)(b)(c)は、発明例に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図である。
【0012】
CFD解析結果によれば、
図6(a)、
図7(a)、
図8(a)、及び
図9(a)に示すように、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラの場合には、従来例に係るタービンインペラの場合に比べて、ハブ部近傍においてガスの流れの極めて遅い領域、換言すれば、ガスの剥離領域を低減することができることが判明した。また、
図6(b)(c)、
図7(b)(c)、
図8(a)(b)、及び
図9(a)(b)に示すように、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラの場合にも、従来例に係るタービンインペラの場合と同程度に、ミーン部及びチップ部近傍においてガスの流れの極めて遅い領域等が生じることが判明した。つまり、各タービンインペラの前縁の翼厚をミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くすることによって、タービンインペラ内のハブ部近傍におけるガスの剥離領域を低減できると共に、各タービンインペラの前縁の翼厚をミーン部側からチップ部側にかけて漸次厚くしても、タービンインペラ内のミーン部及びチップ部近傍におけるガスの剥離領域を十分に低減できないということが判明した。
【0013】
なお、図示していないが、タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比が3.0〜5.0の範囲内で、発明例に係るタービンインペラと同様に、各タービン動翼の前縁の翼厚がミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなるようにした他の発明例に係るタービンインペラの場合においても、発明例に係るタービンインペラの場合と同様のCFD解析結果を得ることができた。
【0014】
続いて、ラジアルタービンの運転中における従来例、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラのタービン動翼の応力分布についてFEM(Finite Element Method)解析を行い、そのFEM解析結果として、タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比とタービン動翼の最大応力(背面及び腹面の最大応力)との関係をまとめると、
図10に示すようになる。なお、
図10は、タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比とタービン動翼の最大応力との関係を示す図であって、タービン動翼の最大応力は無次元化されている。
【0015】
FEM解析結果によれば、発明例に係るタービンインペラの場合及び前記他の発明例に係るタービンインペラの場合には、従来例に係るタービンインペラの場合と同様に、タービン動翼の背面及び腹面の最大応力が基準の許容最大応力を越えることがないことが判明した。一方、比較例1及び比較例2に係るタービンインペラの場合には、タービン動翼の背面及び腹面の最大応力が基準の許容最大応力を越えることが判明した。ここで、基準の許容最大応力とは、経験的又は試験的に許容できると認められかつタービン動翼に発生する最大応力のことをいう。
【0016】
本願の発明者は、前述の解析結果に基づいて、各タービン動翼の前縁の翼厚をミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなるようにし、かつ各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比を適正な範囲に設定した場合には、ラジアルタービンの運転中に各タービン動翼に発生する応力が基準の許容最大応力を越えることなく、タービン動翼に対するガスの流相対入角とタービン動翼の入口メタル角(前縁の翼角)の差であるインシデンスが増大しても、各タービン動翼の前縁近傍におけるガスの剥離を十分に抑制できるという、新規な知見を得ることができ、本発明を完成するに至った。ここで、適正な範囲とは、3.0〜5.0の範囲のことをいう。
【0017】
第1の本発明
は、ガスの圧力エネルギーを利用して回転力を発生させるラジアルタービンであって、内側にシュラウドを有したタービンハウジングと、前記タービンハウジング内に回転可能に設けられ、軸心周りに回転可能なホイール、及び前記ホイールの外周面に間隔を置いて設けられかつ先端縁が前記タービンハウジングの前記シュラウドに沿うように延びた複数枚のタービン動翼を備えたタービンインペラと、を具備し
、各タービン動翼の前縁におけるガスの流れ方向に沿った断面形状は、曲がり形状になっており、各タービン動翼の前縁における前記曲がり形状を除いた部位の翼厚は、チップ部側からミーン部側にかけて略均一でかつミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなって
おり、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の
前記翼厚に対するハブ部の
前記翼厚の比が3.0〜5.0に設定されている
。
【0018】
なお、前記ラジアルタービンは、車両用過給機、ガスタービン等に用いられる。また、「タービンハウジングのシュラウド」とは、例えば可変ノズルユニットのシュラウドリング等、前記タービンハウジングの一部に相当する部材の内壁を含む意である。
【0019】
第1の本発明
によると
、ガス
を前記タービンインペラの入口側から出口側へ流通させる。これにより、ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させることができる。
【0020】
各タービン動翼の前縁の翼厚がミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなってあって、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比(翼厚比)が3.0〜5.0に設定されているため、前述の新規な知見を適用すると、前記ラジアルタービンの運転中に、各タービン動翼に発生する応力が基準の許容最大応力を越えることなく、前記タービン動翼に対するガスの相対流入角が大きくなっても、前記タービン動翼の前縁近傍におけるガスの剥離を十分に抑制することができる。
【0021】
第2の本発明
は、エンジン側に供給される空気を過給する過給機において、第1の特徴からなるラジアルタービンを具備したことを要旨とする。
【0022】
第2の
本発明によると、第1の
本発明による作用と同様の作用を奏する。