特許第5772254号(P5772254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5772254-空気入りタイヤ 図000002
  • 特許5772254-空気入りタイヤ 図000003
  • 特許5772254-空気入りタイヤ 図000004
  • 特許5772254-空気入りタイヤ 図000005
  • 特許5772254-空気入りタイヤ 図000006
  • 特許5772254-空気入りタイヤ 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772254
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20150813BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20150813BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B60C9/18 K
   B60C9/22 G
   B60C9/20 G
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-127519(P2011-127519)
(22)【出願日】2011年6月7日
(65)【公開番号】特開2012-254665(P2012-254665A)
(43)【公開日】2012年12月27日
【審査請求日】2014年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】安田 龍司
【審査官】 梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−024104(JP,A)
【文献】 特開昭61−054305(JP,A)
【文献】 特開昭61−054304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18−9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカス層と、相互に異符号かつ絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有すると共に前記カーカス層のタイヤ径方向外側に積層されて配置される一対の交差ベルトと、絶対値で0[deg]以上20[deg]以下のベルト角度を有すると共にタイヤ赤道線を境界としたタイヤ左右の領域にそれぞれ配置される一対のエッジカバーとを備える空気入りタイヤであって、
絶対値で46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度を有する高角度ベルトと、一対の前記エッジカバーの間に配置される緩衝ゴムとを備え、且つ、
前記一対のエッジカバーが、前記一対の交差ベルトのうちタイヤ径方向内側にある交差ベルトと前記カーカス層との間に配置され、
前記高角度ベルトが、一方の前記エッジカバーから他方の前記エッジカバーまで延在すると共に、前記カーカス層と前記一対のエッジカバーとの間に配置され
前記緩衝ゴムの100[%]伸長時モジュラスMbと、前記高角度ベルトのベルトコートゴムの100[%]伸長時モジュラスMeとが、0.90≦Mb/Me≦1.10の関係を有し、
前記緩衝ゴムの配置領域におけるゴム材料の厚さH1と、前記エッジカバーの配置領域におけるゴム材料の厚さH2とが、1≦H1/H2≦12の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記高角度ベルトの両端部が、一対の前記エッジカバーのタイヤ幅方向外側の端部よりもタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記エッジカバーのタイヤ幅方向外側の端部から前記高角度ベルトのタイヤ幅方向外側の端部までの距離W1と、前記エッジカバーの幅Weとが、0.01≦W1/We≦0.5の関係を有する請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
カーカス層と、相互に異符号かつ絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有すると共に前記カーカス層のタイヤ径方向外側に積層されて配置される一対の交差ベルトと、絶対値で0[deg]以上20[deg]以下のベルト角度を有すると共にタイヤ赤道線を境界としたタイヤ左右の領域にそれぞれ配置される一対のエッジカバーとを備える空気入りタイヤであって、
絶対値で46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度を有する一対の高角度ベルトと、一対の前記エッジカバーの間に配置される緩衝ゴムとを備え、且つ、
前記一対のエッジカバーが、前記一対の交差ベルトのうちタイヤ径方向内側にある交差ベルトと前記カーカス層との間に配置され、
一方の前記高角度ベルトが、前記カーカス層と一方の前記エッジカバーとの間に配置されると共に、他方の前記高角度ベルトが、前記カーカス層と他方の前記エッジカバーとの間に配置され
前記緩衝ゴムの100[%]伸長時モジュラスMbと、前記高角度ベルトのベルトコートゴムの100[%]伸長時モジュラスMeとが、0.90≦Mb/Me≦1.10の関係を有し、
前記緩衝ゴムの配置領域におけるゴム材料の厚さH1’と、前記エッジカバーの配置領域におけるゴム材料の厚さH2とが、3≦H1’/H2≦20の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記一方の高角度ベルトの両端部が、前記一方のエッジカバーの両端部よりも前記エッジカバーの幅方向外側にあり、且つ、前記他方の高角度ベルトの両端部が、前記他方のエッジカバーの両端部よりも前記エッジカバーの幅方向外側にある請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記一方のエッジカバーの両端部から前記一方の高角度ベルトの両端部までの各距離W1、W2と、前記エッジカバーの幅Weとが、0.01≦W1/We≦0.5かつ0.01≦W2/We≦0.5の関係を有する請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
一対の前記交差ベルトのうちタイヤ径方向内側にある交差ベルトと、前記高角度ベルトとが、相互に同符号のベルト角度を有する請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
タイヤ赤道線から前記エッジカバーのタイヤ幅方向外側の端部までの距離D1およびタイヤ幅方向内側の端部までの距離D2と、前記カーカス層の最大幅Wcとが、0.275≦D1/Wc≦0.35かつ0.10≦D2/Wc≦0.25の関係を有する請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、トレッド部の径成長差を低減しつつベルトエッジセパレーションの発生を抑制できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
高負荷で使用される重荷重用ラジアルタイヤでは、高い内圧が付与されるため、トレッド部センター領域とショルダー領域との径成長差が大きくなり易い。このため、従来の空気入りタイヤでは、かかるトレッド部の径成長差を低減するために、タイヤ赤道線を境界としたタイヤ左右の領域に、一対のエッジカバー(周方向補強層)が配置されている。そして、これらのエッジカバーのタガ効果により、トレッド部センター領域とショルダー領域との径成長差が低減されている。かかる構成を採用する従来の空気入りタイヤとして、特許文献1〜4に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−106152号公報
【特許文献2】特開2007−137172号公報
【特許文献3】特開2008−24105号公報
【特許文献4】特表2010−517856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的な空気入りタイヤでは、ベルトエッジセパレーションの発生を抑制して、タイヤの耐久性能を向上させるべき要請もある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、トレッド部の径成長差を低減しつつベルトエッジセパレーションの発生を抑制できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、カーカス層と、相互に異符号かつ絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有すると共に前記カーカス層のタイヤ径方向外側に積層されて配置される一対の交差ベルトと、絶対値で0[deg]以上20[deg]以下のベルト角度を有すると共にタイヤ赤道線を境界としたタイヤ左右の領域にそれぞれ配置される一対のエッジカバーとを備える空気入りタイヤであって、絶対値で46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度を有する高角度ベルトと、一対の前記エッジカバーの間に配置される緩衝ゴムとを備え、且つ、前記一対のエッジカバーが、前記一対の交差ベルトのうちタイヤ径方向内側にある交差ベルトと前記カーカス層との間に配置され、前記高角度ベルトが、一方の前記エッジカバーから他方の前記エッジカバーまで延在すると共に、前記カーカス層と前記一対のエッジカバーとの間に配置され、前記緩衝ゴムの100[%]伸長時モジュラスMbと、前記高角度ベルトのベルトコートゴムの100[%]伸長時モジュラスMeとが、0.90≦Mb/Me≦1.10の関係を有し、前記緩衝ゴムの配置領域におけるゴム材料の厚さH1と、前記エッジカバーの配置領域におけるゴム材料の厚さH2とが、1≦H1/H2≦12の関係を有することを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、前記高角度ベルトの両端部が、一対の前記エッジカバーのタイヤ幅方向外側の端部よりもタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されることが好ましい。
【0008】
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、前記エッジカバーのタイヤ幅方向外側の端部から前記高角度ベルトのタイヤ幅方向外側の端部までの距離W1と、前記エッジカバーの幅Weとが、0.01≦W1/We≦0.5の関係を有することが好ましい。
【0010】
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、カーカス層と、相互に異符号かつ絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有すると共に前記カーカス層のタイヤ径方向外側に積層されて配置される一対の交差ベルトと、絶対値で0[deg]以上20[deg]以下のベルト角度を有すると共にタイヤ赤道線を境界としたタイヤ左右の領域にそれぞれ配置される一対のエッジカバーとを備える空気入りタイヤであって、絶対値で46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度を有する一対の高角度ベルトと、一対の前記エッジカバーの間に配置される緩衝ゴムとを備え、且つ、前記一対のエッジカバーが、前記一対の交差ベルトのうちタイヤ径方向内側にある交差ベルトと前記カーカス層との間に配置され、一方の前記高角度ベルトが、前記カーカス層と一方の前記エッジカバーとの間に配置されると共に、他方の前記高角度ベルトが、前記カーカス層と他方の前記エッジカバーとの間に配置され、前記緩衝ゴムの100[%]伸長時モジュラスMbと、前記高角度ベルトのベルトコートゴムの100[%]伸長時モジュラスMeとが、0.90≦Mb/Me≦1.10の関係を有し、前記緩衝ゴムの配置領域におけるゴム材料の厚さH1’と、前記エッジカバーの配置領域におけるゴム材料の厚さH2とが、3≦H1’/H2≦20の関係を有することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、前記一方の高角度ベルトの両端部が、前記一方のエッジカバーの両端部よりも前記エッジカバーの幅方向外側にあり、且つ、前記他方の高角度ベルトの両端部が、前記他方のエッジカバーの両端部よりも前記エッジカバーの幅方向外側にあることが好ましい。
【0012】
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、前記一方のエッジカバーの両端部から前記一方の高角度ベルトの両端部までの各距離W1、W2と、前記エッジカバーの幅Weとが、0.01≦W1/We≦0.5かつ0.01≦W2/We≦0.5の関係を有することが好ましい。
【0014】
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、一対の前記交差ベルトのうちタイヤ径方向内側にある交差ベルトと、前記高角度ベルトとが、相互に同符号のベルト角度を有することが好ましい。
【0015】
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、タイヤ赤道線から前記エッジカバーのタイヤ幅方向外側の端部までの距離D1およびタイヤ幅方向内側の端部までの距離D2と、前記カーカス層の最大幅Wcとが、0.275≦D1/Wc≦0.35かつ0.10≦D2/Wc≦0.25の関係を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明にかかる空気入りタイヤでは、カーカス層とエッジカバーとの間に、中間的なベルト角度を有する高角度ベルトが配置されるので、タイヤ転動時におけるエッジカバーの周辺のゴム材料の歪みが低減される。これにより、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制されて、タイヤの耐偏摩耗性能が向上する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載した空気入りタイヤのベルト層を示す拡大図である。
図3図3は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図4図4は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
図5図5は、従来例の空気入りタイヤを示す説明図である。
図6図6は、比較例1の空気入りタイヤを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0019】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。図2は、図1に記載した空気入りタイヤのベルト層を示す拡大図である。
【0020】
この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16とを備える(図1参照)。
【0021】
一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、ローアーフィラー121およびアッパーフィラー122から成り、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。カーカス層13は、単層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。ベルト層14は、積層された複数のベルトプライ141〜145から成り、カーカス層13のタイヤ径方向外周に配置される。トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。
【0022】
また、カーカス層13は、スチールあるいは有機繊維材(例えば、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で85[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの繊維方向の傾斜角)を有する。
【0023】
また、ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143と、一対のエッジカバー144、144とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される(図2参照)。
【0024】
一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有し、好ましくは、10[deg]以上30[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対して相互に異なる方向への傾斜角)を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ここでは、タイヤ径方向内側に位置する交差ベルト141を内径側交差ベルトと呼び、タイヤ径方向外側に位置する交差ベルト142を外径側交差ベルトと呼ぶ。なお、3枚以上の交差ベルトが積層されて配置されても良い(図示省略)。
【0025】
ベルトカバー143は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有する。このベルトカバーのベルト角度は、通常、外径側交差ベルト142のベルト角度と同一に設定される。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0026】
一対のエッジカバー(周方向補強層)144R、144Lは、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で0[deg]以上20[deg]以下のベルト角度を有し、好ましくは、0[deg]以上5[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対のエッジカバー144R、144Lは、カーカス層13と一対の交差ベルト141、142(タイヤ径方向内側にある交差ベルト141)との間であってタイヤ赤道線CLを境界としたタイヤ左右の領域に、それぞれ分離して配置される。これらのエッジカバー144R、144Lがタイヤ左右の領域に配置されてタガ効果を発揮することにより、トレッド部センター領域とショルダー領域との径成長差が低減される。これにより、タイヤの耐偏摩耗性能が向上する。
【0027】
[高角度ベルト]
また、ベルト層14は、高角度ベルト145を有する(図2参照)。高角度ベルト145は、スチールから成る複数のベルトコードを圧延加工して成り、絶対値で46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度を有する。また、高角度ベルト145は、一方のエッジカバー144Rから他方のエッジカバー144Lまで延在すると共に、カーカス層13と一対のエッジカバー144R、144Lとの間に配置される。
【0028】
例えば、この実施の形態では、幅広かつ単一の高角度ベルト145が、カーカス層13の外周に巻き廻されて配置されている。また、この高角度ベルト145の外周に、一対のエッジカバー144R、144Lがそれぞれ巻き廻されて配置されている。そして、これらのエッジカバー144R、144Lの外周に、一対の交差ベルト141、142が巻き廻されて配置されている。したがって、高角度ベルト145が、カーカス層13と一対のエッジカバー144R、144Lとの間に挟み込まれて配置されている。
【0029】
かかる構成では、カーカス層13とエッジカバー144R、144Lとの間に、中間的なベルト角度を有する高角度ベルト145が配置される。すなわち、タイヤ径方向内側から順に、85[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度を有するカーカス層13、46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度を有する高角度ベルト145、0[deg]以上20[deg]以下のベルト角度を有するエッジカバー144R、144Lが積層されて配置される。すると、カーカス層とエッジカバーとが隣接する構成と比較して、隣接する部材間の角度差(カーカス層13のカーカス角度と高角度ベルト145のベルト角度との差、および、高角度ベルト145のベルト角度とエッジカバー144R、144Lのベルト角度との差)が小さい。これにより、タイヤ転動時におけるエッジカバー144R、144Lの周辺のゴム材料の歪みが低減されて、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制される。
【0030】
また、この空気入りタイヤ1では、高角度ベルト145の両端部が、一対のエッジカバー144R、144Lのタイヤ幅方向外側の端部よりもタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される(図2参照)。
【0031】
例えば、この実施の形態では、高角度ベルト145と一対のエッジカバー144R、144Lとがタイヤ赤道線CLを中心として左右対称に配置され、また、高角度ベルト145のタイヤ幅方向外側の端部間の距離T1と、一対のエッジカバー144R、144Lのタイヤ幅方向外側の端部間の距離S1とが、T1>S1の関係を有している。これにより、高角度ベルト145が左右のエッジカバー144R、144Lの全域に渡って配置され、各エッジカバー144R、144Lが高角度ベルト145からタイヤ幅方向外側にはみ出していない。
【0032】
かかる構成では、カーカス層13とエッジカバー144R、144Lとが隣接しないので、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制される。また、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部とが相互に位置をずらして配置されるので、タイヤ転動時における応力集中が緩和される。これにより、ベルトエッジセパレーションの発生が効果的に抑制される。
【0033】
また、上記の構成では、エッジカバー144R(144L)のタイヤ幅方向外側の端部から高角度ベルト145のタイヤ幅方向外側の端部までの距離W1と、エッジカバー144R(144L)の幅Weとが、0.01≦W1/We≦0.5の関係を有することが好ましい(図2参照)。これにより、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部との距離W1が適正化されて、ベルトエッジセパレーションの発生が効果的に抑制される。
【0034】
また、内径側交差ベルト141と高角度ベルト145とが、相互に同符号のベルト角度を有することが好ましい(図示省略)。すなわち、内径側交差ベルト141のベルトコードの繊維方向と、高角度ベルト145のベルトコードの繊維方向とがタイヤ周方向に対して同一方向に傾斜する。かかる構成では、内径側交差ベルトと高角度ベルトとが相互に異符号のベルト角度を有する構成と比較して、内径側交差ベルト141と高角度ベルト145とのベルト角度の差が小さい。これにより、タイヤ転動時における周辺のゴム材料の歪み(特に、エッジカバー144R(144L)からタイヤ幅方向にはみ出した高角度ベルト145の端部付近におけるゴム材料の歪み)が低減されて、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制される。
【0035】
また、タイヤ赤道線CLからエッジカバー144R(144L)のタイヤ幅方向外側の端部までの距離D1およびタイヤ幅方向内側の端部までの距離D2と、カーカス層13の最大幅Wcとが、0.275≦D1/Wc≦0.35かつ0.10≦D2/Wc≦0.25の関係を有することが好ましい(図1および図2参照)。
【0036】
例えば、この実施の形態では、一対のエッジカバー144R、144Lが、同一の幅Weを有し、タイヤ赤道線CLを中心として左右対称に配置されている。したがって、エッジカバー144R、144Lの幅Weと、カーカス層13の最大幅Wcとが、0.025≦We/Wc≦0.250の関係を有している。また、左右のエッジカバー144R、144Lのタイヤ幅方向外側の端部間の距離S1およびタイヤ幅方向内側の端部間の距離S2と、カーカス層13の最大幅Wcとが、0.55≦S1/Wc≦0.70かつ0.20≦S2/Wc≦0.50の関係を有している。
【0037】
かかる構成では、エッジカバー144R、144Lの配置が適正化されるので、エッジカバー144R、144Lによるタガ効果が向上する。これにより、トレッド部の径成長差が低減される。
【0038】
なお、上記の構成では、一対のエッジカバー144R、144Lが、タイヤ赤道線CLを中心として左右対称に配置されても良いし(図2参照)、左右非対称に配置されても良い(図示省略)。また、エッジカバー144R(144L)のタイヤ幅方向外側の端部の位置(距離D1)が内径側交差ベルト141の端部よりもタイヤ幅方向内側にあることが、好ましい(図2参照)。
【0039】
また、空気入りタイヤ1が、緩衝ゴム17を備える(図2参照)。この緩衝ゴム17は、一対のエッジカバー144R、144Lの間に配置される。また、緩衝ゴム17の100[%]伸長時モジュラスMbと、高角度ベルト145のベルトコートゴムの100[%]伸長時モジュラスMeとが、0.90≦Mb/Me≦1.10の関係を有する。また、緩衝ゴム17の配置領域におけるゴム材料の厚さH1と、エッジカバー144R(144L)の配置領域におけるゴム材料の厚さH2とが、1≦H1/H2≦12の関係を有する。
【0040】
例えば、この実施の形態では、緩衝ゴム17と、周辺部材(カーカス層13、内径側交差ベルト141、エッジカバー144R、144Lおよび高角度ベルト145)のコートゴムとが同一のゴム材料から構成されている。また、緩衝ゴム17が、内径側交差ベルト141と、高角度ベルト145と、一対のエッジカバー144R、144Lとに囲まれる領域を埋めて配置されている。
【0041】
かかる構成では、一対のエッジカバーの間に他の周方向補強層が配置される構成(図示省略)と比較して、トレッド部センター領域の径成長が許容される。これにより、トレッド部センター領域と、径成長し易いトレッド部ショルダー領域との径成長差が低減される。
【0042】
なお、モジュラスMb、Meは、JIS K6251(3号ダンベル使用)に従った室温での引張試験により測定される。また、緩衝ゴム17の配置領域におけるゴム材料の厚さH1は、内径側交差ベルト141のベルトコードと、高角度ベルト145のベルトコードとの間のタイヤ径方向の平均距離として測定される。また、エッジカバー144R(144L)の配置領域におけるゴム材料の厚さH2は、内径側交差ベルト141のベルトコードと、エッジカバー144R(144L)のベルトコードとの間のタイヤ径方向の平均距離として測定される。
【0043】
[変形例]
図3は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。同図において、図1の空気入りタイヤ1と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0044】
図1の空気入りタイヤ1では、幅広かつ単一の高角度ベルト145がカーカス層13の外周に配置され、この高角度ベルト145の外周に、一対のエッジカバー144R、144Lがそれぞれ配置されている(図2参照)。
【0045】
これに対して、図3の変形例では、空気入りタイヤ1が、左右一対の高角度ベルト145R、145Lを備える。また、これらの高角度ベルト145R、145Lが、絶対値で46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度をそれぞれ有する。また、一方の高角度ベルト145Rが、カーカス層13と一方のエッジカバー144Rとの間に配置され、他方の高角度ベルト145Lが、カーカス層13と他方のエッジカバー144Lとの間に配置される。したがって、図2における高角度ベルト145が、分割構造(中抜き構造)を有し、左右のエッジカバー144R、144Lに対応してそれぞれ設置される。
【0046】
例えば、この実施の形態では、左右のエッジカバー144R、144Lよりも幅広な一対の高角度ベルト145R、145Lが、カーカス層13の外周に巻き廻されて配置されている。また、これらの高角度ベルト145R、145Lの外周に、一対のエッジカバー144R、144Lがそれぞれ巻き廻されて配置されている。また、これらのエッジカバー144R、144Lの外周に、一対の交差ベルト141、142が巻き廻されて配置されている。また、左右の高角度ベルト145R、145Lが、タイヤ幅方向に所定の距離T2を隔てて配置されている。
【0047】
かかる構成では、カーカス層13とエッジカバー144R(144L)との間に、中間的なベルト角度を有する高角度ベルト145R(145L)が配置されることにより、タイヤ転動時におけるエッジカバー144R、144Lの周辺のゴム材料の歪みが低減される。これにより、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制される。また、高角度ベルト145が分割構造を有するので、高角度ベルト145が単一構造を有する構成(図示省略)と比較して、トレッド部センター領域の径成長が許容される。これにより、トレッド部センター領域とショルダー領域との径成長差が低減される。
【0048】
また、図3の変形例では、一方の高角度ベルト145Rの両端部が、対応するエッジカバー144Rの両端部よりもエッジカバー144Rの幅方向外側にある。また、他方の高角度ベルト145Lの両端部が、対応するエッジカバー144Lの両端部よりもエッジカバー144Lの幅方向外側にある。
【0049】
例えば、この実施の形態では、一対の高角度ベルト145R、145Lが同一幅を有し、また、一対の高角度ベルト145R、145Lと、一対のエッジカバー144R、144Lとがタイヤ赤道線CLを中心として左右対称に配置されている。また、左右の高角度ベルト145R、145Lのタイヤ幅方向外側の端部間の距離T1と、左右のエッジカバー144R、144Lのタイヤ幅方向外側の端部間の距離S1とが、T1>S1の関係を有している。また、左右の高角度ベルト145R、145Lのタイヤ幅方向内側の端部間の距離T2と、左右のエッジカバー144R、144Lのタイヤ幅方向内側の端部間の距離S2とが、T2<S2の関係を有している。これにより、左右の高角度ベルト145R、145Lが各エッジカバー144R、144Lの全域に渡ってそれぞれ配置され、各エッジカバー144R、144Lが高角度ベルト145R、145Lの幅方向外側にはみ出していない。
【0050】
かかる構成では、エッジカバー144R(144L)の下層に高角度ベルト145R(145L)が配置されるので、エッジカバー144R(144L)とカーカス層13とが隣接しない。これにより、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制される。また、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部とが相互に位置をずらして配置されるので、タイヤ転動時における応力集中が緩和される。これにより、ベルトエッジセパレーションの発生が効果的に抑制される。
【0051】
なお、上記の構成では、一対のエッジカバー144R、144Lおよび一対の高角度ベルト145R、145Lが、タイヤ赤道線CLを中心として左右対称に配置されても良いし(図3参照)、左右非対称に配置されても良い(図示省略)。また、エッジカバー144R(144L)のタイヤ幅方向外側の端部の位置(距離D1)が内径側交差ベルト141の端部よりもタイヤ幅方向内側にあることが、好ましい(図3参照)。また、エッジカバー144R(144L)のタイヤ幅方向内側の端部の位置(距離D2)が、タイヤ赤道線CLよりもタイヤ幅方向外側にあることが、好ましい。
【0052】
また、上記の構成では、一方のエッジカバー144R(144L)の両端部から対応する一方の高角度ベルト145R(145L)の両端部までの各距離W1、W2と、エッジカバー144R(144L)の幅Weとが、0.01≦W1/We≦0.5かつ0.01≦W2/We≦0.5の関係を有することが好ましい(図3参照)。これにより、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部との距離W1が適正化されて、ベルトエッジセパレーションの発生が効果的に抑制される。
【0053】
また、内径側交差ベルト141と左右の高角度ベルト145R、145Lとが、相互に同符号のベルト角度を有することが好ましい(図示省略)。これにより、タイヤ転動時における周辺のゴム材料の歪みが低減されて、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制される。
【0054】
また、緩衝ゴム17が、一対のエッジカバー144R、144Lの間に配置される(図3参照)。具体的には、緩衝ゴム17が、カーカス層13と、内径側交差ベルト141と、一対のエッジカバー144R、144Lと、一対の高角度ベルト145R、145Lとに囲まれる領域を埋めて配置される。これにより、トレッド部センター領域と、径成長し易いトレッド部ショルダー領域との径成長差が低減される。
【0055】
なお、図3の変形例では、緩衝ゴム17の配置領域におけるゴム材料の厚さH1’と、エッジカバー144R(144L)の配置領域におけるゴム材料の厚さH2とが、3≦H1’/H2≦20の関係を有する。また、緩衝ゴム17の配置領域におけるゴム材料の厚さH1’が、内径側交差ベルト141のベルトコードと、カーカス層13のカーカスコードとの間のタイヤ径方向の平均距離として測定される。
【0056】
[測定条件]
なお、この空気入りタイヤ1において、寸法S2、S1、T1、T2、W1、W2、Wc、Weは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に無負荷状態とされたときのタイヤ幅方向の距離として測定される。
【0057】
ここで、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0058】
[適用対象]
なお、この空気入りタイヤ1は、長距離輸送用のトラック、バスなどのステア軸に装着される重荷重用ラジアルタイヤに適用される。また、空気入りタイヤ1は、特に、70[%]の扁平率を有する重荷重用ラジアルタイヤに適用される。
【0059】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、カーカス層13と、相互に異符号かつ絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有すると共にカーカス層13のタイヤ径方向外側に積層されて配置される一対の交差ベルト141、142と、絶対値で0[deg]以上20[deg]以下のベルト角度を有すると共にタイヤ赤道線CLを境界としたタイヤ左右の領域にそれぞれ配置される一対のエッジカバー144R、144Lとを備える(図2参照)。また、空気入りタイヤ1は、絶対値で46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度を有する高角度ベルト145を備える。また、一対のエッジカバー144R、144Lが、一対の交差ベルト141、142のうちタイヤ径方向内側にある交差ベルト141とカーカス層13との間に配置される。また、高角度ベルト145が、一方のエッジカバー144Rから他方のエッジカバー144Lまで延在すると共に、カーカス層13と一対のエッジカバー144R、144Lとの間に配置される。
【0060】
かかる構成では、カーカス層13とエッジカバー144R、144Lとの間に、中間的なベルト角度を有する高角度ベルト145が配置されるので、タイヤ転動時におけるエッジカバー144R、144Lの周辺のゴム材料の歪みが低減される。これにより、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制されて、タイヤの耐偏摩耗性能が向上する利点がある。
【0061】
また、この空気入りタイヤ1では、高角度ベルト145の両端部が、一対のエッジカバー144R、144Lのタイヤ幅方向外側の端部よりもタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置される(図2参照)。かかる構成では、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部とが相互に位置をずらして配置されるので、ベルトエッジセパレーションの発生が効果的に抑制される利点がある。
【0062】
また、この空気入りタイヤ1では、エッジカバー144R(144L)のタイヤ幅方向外側の端部から高角度ベルト145のタイヤ幅方向外側の端部までの距離W1と、エッジカバー144R(144L)の幅Weとが、0.01≦W1/We≦0.5の関係を有する(図2参照)。これにより、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部との距離W1が適正化されて、ベルトエッジセパレーションの発生が効果的に抑制される利点がある。例えば、W1/We<0.01となると、エッジカバーの端部と高角度ベルトの端部とが近づいて、ベルトエッジセパレーションが発生し易くなるため、好ましくない。また、0.5<W1/Weとなると、エッジカバーの目的であるショルダー部のセパレーションを抑える事ができないため、好ましくない。
【0063】
また、この空気入りタイヤ1は、一対のエッジカバー144R、144Lの間に配置される緩衝ゴム17を備える(図2参照)。また、緩衝ゴム17の100[%]伸長時モジュラスMbと、高角度ベルト145のベルトコートゴムの100[%]伸長時モジュラスMeとが、0.90≦Mb/Me≦1.10の関係を有する。また、緩衝ゴム17の配置領域におけるゴム材料の厚さH1と、エッジカバー144R(144L)の配置領域におけるゴム材料の厚さH2とが、1≦H1/H2≦12の関係を有する。かかる構成では、緩衝ゴム17により、トレッド部センター領域の径成長が許容される。これにより、トレッド部の径成長差が低減される利点がある。
【0064】
また、この発明にかかる空気入りタイヤ1は、絶対値で46[deg]以上80[deg]以下のベルト角度を有する一対の高角度ベルト145R、145Lを備える(図3参照)。また、一方の高角度ベルト145Rが、カーカス層13と一方のエッジカバー144Rとの間に配置され、他方の高角度ベルト145Lが、カーカス層13と他方のエッジカバー144Lとの間に配置される。かかる構成では、カーカス層13とエッジカバー144R、144Lとの間に、中間的なベルト角度を有する高角度ベルト145R、145Lがそれぞれ配置されることにより、タイヤ転動時におけるエッジカバー144R、144Lの周辺のゴム材料の歪みが低減される。これにより、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制される利点がある。また、高角度ベルト145が分割構造を有するので、トレッド部センター領域の径成長が許容される。これにより、トレッド部の径成長差が低減される利点がある。
【0065】
また、この空気入りタイヤ1では、一方の高角度ベルト145Rの両端部が、対応するエッジカバー144Rの両端部よりもエッジカバー144Rの幅方向外側にある(図3参照)。また、他方の高角度ベルト145Lの両端部が、対応するエッジカバー144Lの両端部よりもエッジカバー144Lの幅方向外側にある。かかる構成では、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部とが相互に位置をずらして配置されるので、ベルトエッジセパレーションの発生が効果的に抑制される利点がある。
【0066】
また、この空気入りタイヤ1では、一方のエッジカバー144R(144L)の両端部から対応する一方の高角度ベルト145R(145L)の両端部までの各距離W1、W2と、エッジカバー144R(144L)の幅Weとが、0.01≦W1/We≦0.5かつ0.01≦W2/We≦0.5の関係を有する(図3参照)。これにより、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部との距離W1が適正化されて、ベルトエッジセパレーションの発生が効果的に抑制される利点がある。例えば、W1/We<0.01あるいはW2/We<0.01となると、エッジカバーの端部と高角度ベルトの端部とが近づいて、ベルトエッジセパレーションが発生し易くなるため、好ましくない。また、0.5<W1/Weあるいは0.5<W2/Weとなると、センター側とショルダー側との径成長差が大きくなり偏摩耗が発生しやすくなるため、好ましくない。
【0067】
また、この空気入りタイヤ1は、一対のエッジカバー144R、144Lの間に配置される緩衝ゴム17を備える(図3参照)。また、緩衝ゴム17の100[%]伸長時モジュラスMbと、高角度ベルト145のベルトコートゴムの100[%]伸長時モジュラスMeとが、0.90≦Mb/Me≦1.10の関係を有する。また、緩衝ゴム17の配置領域におけるゴム材料の厚さH1’と、エッジカバー144R(144L)の配置領域におけるゴム材料の厚さH2とが、3≦H1’/H2≦20の関係を有する。かかる構成では、緩衝ゴム17により、トレッド部センター領域の径成長が許容される。これにより、トレッド部の径成長差が低減される利点がある。
【0068】
また、この空気入りタイヤ1では、内径側交差ベルト141と高角度ベルト145とが、相互に同符号のベルト角度を有する。これにより、タイヤ転動時における周辺のゴム材料の歪みが低減されて、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制される利点がある。
【0069】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ赤道線CLからエッジカバー144R(144L)のタイヤ幅方向外側の端部までの距離D1およびタイヤ幅方向内側の端部までの距離D2と、カーカス層13の最大幅Wcとが、0.275≦D1/Wc≦0.35かつ0.10≦D2/Wc≦0.25の関係を有する(図1図3参照)。かかる構成では、エッジカバー144R、144Lの配置が適正化されるので、エッジカバー144R、144Lによるタガ効果が向上する。これにより、トレッド部の径成長差が適正に低減される。例えば、D2/Wc<0.10となると、エッジカバーがタイヤ赤道線に近づきすぎて、センター部の径成長が抑えられ過ぎるため、好ましくない。
【実施例】
【0070】
図4は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。図5は、従来例の空気入りタイヤを示す説明図である。図6は、比較例1の空気入りタイヤを示す説明図である。図5および図6は、カーカス層およびベルト層の構成を模式的に示している。
【0071】
この性能試験では、相互に異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)径成長差抑制性能および(2)耐久性能に関する評価が行われた(図4参照)。これらの性能試験では、タイヤサイズ315/60R22.5の空気入りタイヤがリムサイズ22.5×9.00のリムに組み付けられ、この空気入りタイヤに空気圧900[kPa]および荷重34.81[kN]が付与される。
【0072】
(1)径成長差抑制性能に関する評価では、室内ドラム試験機が用いられ、速度45[km/h]の試験条件下にて1万[km]を走行した後に、周方向主溝の溝底におけるタイヤ周長が測定される。そして、この測定結果に基づいて、トレッド部センター領域とショルダー領域との径成長差(ショルダー領域の径成長量/センター領域の径成長量)が算出されて、比較例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、100に近いほどトレッド部の径成長差が小さく、好ましい。なお、評価が90以上110以下であれば、トレッド部の径成長差が適正に抑制されているといえる。
【0073】
(2)耐久性能に関する評価では、室内ドラム試験機が用いられ、速度45[km/h]の試験条件下にてタイヤが破損(ベルトエッジセパレーションが発生)したときの走行距離が測定される。そして、この測定結果に基づいて、比較例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0074】
実施例1の空気入りタイヤ1は、図1および図2に記載した構成を有し、タイヤ径方向内側から順に、カーカス層13、高角度ベルト145、エッジカバー144R(144L)、内径側交差ベルト141、外径側交差ベルト142およびベルトカバー143が積層されて配置される。また、左右のエッジカバー144R、144Lのタイヤ幅方向外側の端部間の距離S1がS1=200[mm]であり、タイヤ幅方向内側の端部間の距離S2がS2=100[mm]である。このため、左右のエッジカバー144R、144Lの幅WeがWe=50[mm]となっている。また、カーカス層13の最大幅WcがWc=295[mm]である。また、内径側交差ベルト141の幅が265[mm]である。また、実施例2の空気入りタイヤ1は、図3に記載した構成を有し、実施例1の空気入りタイヤ1と比較して、高角度ベルト145が分割構造を有する点で相異する。また、実施例3〜10は、実施例1の空気入りタイヤ1の変形例である。
【0075】
従来例の空気入りタイヤ100は、図5に記載した構成を有し、タイヤ径方向内側から順に、カーカス層101、内径側交差ベルト102、エッジカバー105、外径側交差ベルト103およびベルトカバー104が積層されて配置される。したがって、エッジカバー105が、交差ベルトを構成する内径側交差ベルト102と外径側交差ベルト103との間に挟み込まれて配置される。また、高角度ベルトが設置されていない。
【0076】
比較例1の空気入りタイヤ110は、図6に記載した構成を有し、タイヤ径方向内側から順に、カーカス層101、エッジカバー105、内径側交差ベルト102、外径側交差ベルト103およびベルトカバー104が積層されて配置される。したがって、エッジカバー105が、カーカス層101と内径側交差ベルト102との間に挟み込まれて配置される。また、高角度ベルトが設置されていない。
【0077】
試験結果に示すように、実施例1〜10の空気入りタイヤ1では、高角度ベルト145の配置により、トレッド部の径成長差を抑制しつつベルトエッジセパレーションの発生を抑制できることが分かる(図4参照)。また、実施例1、2を比較すると、高角度ベルト145が分割構造を有することにより、トレッド部の径成長差を抑制できることが分かる。また、実施例2〜4を比較すると、高角度ベルト145のベルト角度が適正化されることにより、径成長差が小さくなり、耐久性能が向上することが分かる。また、実施例2、5を比較すると、内径側交差ベルト141と高角度ベルト145とが相互に同符号のベルト角度を有することより、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制されることが分かる。
【0078】
また、実施例2、6、7を比較すると、エッジカバー144R(144L)の端部と高角度ベルト145の端部との距離W1が適正化されることにより、ベルトエッジセパレーションの発生が抑制されることが分かる。また、実施例2、8、9を比較すると、エッジカバー144R、144Lの配置が適正化されることにより、トレッド部の径成長差が適正に低減されることが分かる。また、実施例2、10を比較すると、一対のエッジカバー144R、144Lの間の緩衝ゴム17のモジュラスMbが適正化されることにより、トレッド部の径成長差が低減されることが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 空気入りタイヤ、11 ビードコア、12 ビードフィラー、121 ローアーフィラー、122 アッパーフィラー、13 カーカス層、14 ベルト層、141 内径側交差ベルト、142 外径側交差ベルト、143 ベルトカバー、144、144R、144L エッジカバー、145、145R、145L 高角度ベルト、15 トレッドゴム、16 サイドウォールゴム、17 緩衝ゴム
図1
図2
図3
図4
図5
図6