【実施例】
【0022】
以下、図面に沿って、本発明の実施例を具体的に説明する。
<実施例1>
実施例1では、光コヒーレンストモグラフィー装置として、上記実施形態と同様の
図1に示されるOCT装置1が用いられ、被検物は、眼の眼底である。
【0023】
OCT装置1は、干渉光学系(OCT光学系)100と、演算制御部(CPU)70と、メモリ72、モニタ75、を含む。その他、OCT装置1には、図示無き、正面像観察系、固視標投影系が設けられる。
【0024】
OCT光学系100には、SS−OCT方式が用いられ、光源102として出射波長を時間的に高速で変化させる波長可変光源(波長走査型光源)が用いられ、検出器120として、例えば、第1受光素子120aと第2受光素子120bからなる平衡検出器(Balanced Detector)が設けられる。各受光素子は、受光部が一つのみからなるポイントセンサであって、例えば、アバランシェ・フォト・ダイオードが用いられる。
【0025】
光源102は、例えば、レーザ媒体、共振器、及び波長選択フィルタによって構成される。そして、波長選択フィルタとして、例えば、回折格子とポリゴンミラーの組み合わせ、ファブリー・ペローエタロンを用いたフィルタが挙げられる。
【0026】
本実施例では、瞬間輝線幅が短く、共振器長が短い光源としてAXSUN社のTUNABLE LASER が用いられる(例えば、λc=1060nm、Δλ=110nm、δλ=0.055nm、共振器長~14mm)。このような波長可変光源は、例えば、米国公開2009/0059971号に記載されている。
【0027】
OCT光学系100は、光源102から出射された光をカップラー(スプリッタ)104によって測定光(測定光)と参照光に分割する。サーキュレータ103は光源102からの光をカップラ104に導光し、カップラ104からの光を検出器120に導光する。
【0028】
OCT光学系100は、測定光学系106によって測定光を眼Eの眼底Efに導き,また、参照光を参照光学系110に導く。OCT光学系100は、眼底Efによって反射された測定光と,参照光との合成によって取得される干渉光を検出器(受光素子)120に受光させる。
【0029】
測定光学系106には、光ファイバー105、コリメータレンズ22、光遅延路300、フォーカスレンズ18、コリメータレンズ16、光スキャナ108、リレーレンズ11、対物レンズ10、が順次設けられている。コリメータレンズ22は、第1測定光S1と第2測定光S2を分離させるため、測定光学系106の光軸L1に対しレンズ22の光軸が傾斜した関係となるように配置されている。フォーカスレンズ18は、光軸方向に移動され、被検物に対するフォーカスを調整するために用いられる。
【0030】
光遅延路300は、光分割部材302、第1光反射部材304、第2光反射部材306、光結合部材308を備え、測定光を2つの光路に分割し、一方の測定光に対して他方の測定光の光路長を遅延させる。
【0031】
光分割部材302、光結合部材308には、ハーフミラー、偏光ビームスプリッタ等のビームスプリッタ、ダイクロイックミラーなどが用いられる。例えば、偏光ビームスプリッタを用いる場合、光分割部材320は、光源からの光をS偏光とP偏光に分割し、一方の偏光成分の光を透過させ、他方の偏光成分の光を反射する特性を持つ。光結合部材308は、S偏光とP偏光に分割された光を結合させる特性を持つ。第1光反射部材304、第2反射部材306として、例えば、全反射ミラー、プリズムなどの光学部材が用いられる。光遅延路300を形成する光学部材は、
図1のように互いに離れた光学配置であってもよいし、プリズム等により一体化された光学配置であってもよい。
【0032】
光分割部材302は、光源102からの光を2つの光に分割する。例えば、光分割部材302によって、光源102側から入射された光の一方が透過され、他方が反射される。第1光反射部材304、第2反射部材306は、光分割部材302によって分割された光の一方を反射し、光結合部材308に戻す。光結合部材308は、分割された光を結合させる。例えば、分割された光の一方が透過され、他方が反射され、これらの光は、眼底Ef側に進行される。
【0033】
光ファイバー105からの測定光は、光遅延路300に設けられた第1光路300a(基準光路)と第2光路300b(迂回光路)によって、第1測定光S1と第2測定光S2として生成される。第2測定光路300bは、第1測定光路300aより光路長が長いので、第2測定光S2は、第1測定光S1に対し光学的遅延(光路長差)が生じる。なお、測定光の反射によって眼底Efから取得される反射光においても、同様の遅延が生じる。
【0034】
上記構成において、光遅延路300を通過した第1測定光S1と第2測定光S2は、フォーカスレンズ18によって集光された後、コリメータレンズ16によって平行ビームに変換され、ガルバノミラー14とガルバノミラー12で構成される光スキャナ108によって反射方向が変えられる。そして、光スキャナ108によって偏向された光は、リレーレンズ11によって一旦集光された後、対物レンズ10によって平行ビームとなって眼Eに入射し、眼底Ef上に入射される。
【0035】
光スキャナ108は、眼底Ef上でXY方向(横断方向)に測定光を走査させる。光スキャナ108は、瞳孔と略共役な位置に配置される。光スキャナ108は、例えば、2つのガルバノミラー12、14であり、その反射角度が駆動機構50によって任意に調整される。
【0036】
光源102から出射された光束は、その反射(進行)方向が変化され、眼底上で任意の方向に走査される。光スキャナ108としては、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が用いられる。
【0037】
第1測定光S1の主光線と第2測定光S2の主光線は、瞳共役位置P(光スキャナ)において交差するため、瞳上で一旦交差した後、眼底Efに到達する。第1測定光S1と第2測定光S2は、走査方向に関して適宜間隔Δをおいて空間的に分離される。このようにして、走査方向に間隔Δをおいて、第1測定光S1と第2測定光S2からなる2つのプローブビームが形成される。
【0038】
制御部70は、光スキャナ108の駆動を制御することにより、眼底Efの深さ方向に対して垂直な方向(横断方向)に第1測定光S1と第2測定光S2を走査させる。制御部70は、走査ライン上において互いに分離された第1測定光S1と第2測定光S2が、眼底Ef上における走査ライン上において異なる点に同時に照射されるように、光スキャナ108の走査方向を調整する。
【0039】
第1測定光S1と第2測定光S2のそれぞれの眼底Efからの後方散乱光(反射光)は、対物レンズ10〜フォーカスレンズ18を経て、光遅延路300に達する。そして、後方散乱光は、光結合部材308によって2つに分割された後、光分割部材302によって結合された後、物体光として再びカップラー104に戻り、参照光と合波されて干渉する。
【0040】
参照光学系110は、眼底Efでの測定光の反射によって取得される反射光と合成される参照光を生成する。参照光学系110は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであっても良い。参照光学系110は、例えば、反射光学系(例えば、参照ミラー)によって形成され、カップラー104からの光を反射光学系により反射することにより再度カップラー104に戻し、検出器120に導く。他の例としては、参照光学系110は、透過光学系(例えば、光ファイバー)によって形成され、カップラー104からの光を戻さず透過させることにより検出器120へと導く。
【0041】
本装置は、測定光と参照光との光路長差を調整するためにOCT光学系100に配置された光学部材の少なくとも一部を光軸方向に移動させる。例えば、参照光学系110は、参照光路中の光学部材(例えば、参照ミラー111)を移動させることにより、測定光と参照光との光路長差を調整する構成を有する。例えば、駆動機構112の駆動によって参照ミラー111が光軸方向に移動される。光路長差を変更するための構成は、測定光学系106の測定光路中に配置されてもよい。測定光路中に配置された光学部材(例えば、光ファイバーの端部)が光軸方向に移動される。
【0042】
測定光と参照光とが合成された干渉信号光は、カップラー104によって光ファイバー119a側の光路と光ファイバー119b側の光路に分岐される。第1受光素子120aは、光ファイバー119aを通過した干渉信号光を検出する。第2受光素子120bは、サーキュレータ103を介して光ファイバー119bを通過した干渉信号光を検出する。第1受光素子120a及び第2受光素子120bによって受光される干渉信号光は、それぞれ第1測定光S1に対応する干渉信号光と第2測定光S2に対応する干渉信号光とを含む。
【0043】
光源102により出射波長が変化されると、これに対応する干渉信号光が検出器120に受光され、結果的に、スペクトル干渉信号光として検出器120に受光される。検出器120から出力されたスペクトル干渉信号は、制御部70に取り込まれ、このスペクトル干渉信号に基づき、深さプロファイルが形成される。
【0044】
検出器120(平衡検出器)は、第1受光素子120aからの干渉信号と第2受光素子120bからの干渉信号との差分を得て、干渉信号に含まれる不要なノイズを削減する。制御部70は、光スキャナ108の駆動を制御し、眼底Ef上で測定光を横断方向に走査させる。制御部70は、各走査位置での深さプロファイルを順次並べることにより眼底断層画像を形成させる。
【0045】
図2は、眼底に対する走査位置の一例を示す図であり、ビームの分離方向に2つのビームが走査される例を示す図である。
図3は、
図2のようなデュアル走査によって取得された断層画像を示す図である。なお、フーリエ解析によって取得された断層画像データには、実像とミラーイメージが含まれるが、
図3は、実像のみを抽出した画像である。ここで、深さ位置Rは、測定光と参照光との光路長が一致する深さ位置であり、撮像領域G1は、深さ位置Rより後方の撮像領域に対応する。
【0046】
断層像Tには、第1断層像T1と第2断層像T2が形成され、第1断層像T1は、第1測定光S1と参照光との干渉によって形成された断層像であり、第2断層像T2は、第2測定光S2と参照光との干渉によって形成された断層像である。
【0047】
撮像領域G1において、第1測定光S1に基づく第1断層像T1が前方の領域に形成され、第2測定光S2に基づく第2断層像T2が後方の領域に形成される。このような深さ方向の撮像位置の差は、第1測定光S1と第2測定光S2との間の光路長差によって生じる。第1断層像T1と第2断層像T2は、走査方向上において眼底Ef上の照射位置が異なる状態で断層像が取得される。
【0048】
図3において、第1断層像T1上の点P1(z
1、t
1)と第2断層像T2上の点P2(z
2、t
2)は、深さ方向及び横方向に関して同一部位の関係にある。深さ方向における断層像のシフト量Δzは、第1測定光と第2測定光の間の光路差に対応し、予め既知である。例えば、ピクセル単位でシフト量Δzが算出される。z1=z2+Δzの関係が成り立つ。
【0049】
横方向における断層像のシフト量Δtは、第1測定光と第2測定光の間の照射ずれに対応し予め既知である。例えば、ピクセル単位でシフト量Δtが算出される。t2=t1+Δdtの関係が成り立つ。シフト量Δtは、光学シミュレーションにより求められる他、シフト量Δtは、画像処理により第1断層像と第2断層像のずれ量が算出される。
【0050】
制御部70は、第1断層像T1と第2断層像T2を用いて同一部位に対応する点での位相の変化量を求めることにより血管内における血液の移動速度を測定する。
【0051】
<位相の変化量、流速を求めるための演算式>
点P1(z
1、t
1)、点P2(z
2、t
2)上での位相Φ1(z
1、t
1)、Φ2(z
2、t
2)は、順に
【0052】
【数1】
と表される。
【数2】
は、スヘ゜クトルを波数kに関してFFTした複素散乱強度であり、
通常のOCT強度
【数3】
とは、
【数4】
の関係にある。なお、Imは複素数の虚部を、Reは複素数の実部をとることを表す。nはn=1~N-1とし、一つの点をN回のAscanで測定することを表している。
位相の変化ΔΦ(z,Δt)は
【数5】
となる。Φ
0はサンフ゜ル全体の動きや初期位相差を表す。
これから測定光と血流V(z)の角度をαとして、
【数6】
と求められる。上式では横方向に平均を取っているが、光軸方向に平均してもよい。角度αは、通常の散乱強度OCT像から別途血管の方向を求めればよい。
【0053】
なお、以上の説明においては、測定光を2つのビームに分割する構成としたが、これに限定されず、3つ以上のビームを用いるようにしてもよい。
【0054】
上記ドップラ計測モードと、断層像を撮影する通常撮影モードとが切換えられるようにしてもよい。モード切換スイッチによって、通常撮影モードに設定されると、制御部70は、光スキャナ108を制御し、第1測定光と第2測定光との分離方向とは異なる方向(好ましくは分離方向に対する直交方向)に関して眼底Ef上で各測定光を走査させる(
図4参照)。
【0055】
2つの測定光によって眼底上の走査領域が分けられ、異なる走査領域に対応する断層像がそれぞれ取得されるため、(
図5参照)所望する複数の走査領域の断層像をスムーズに取得できる。本手法によれば、必要に応じ、簡単な構成で、複数の断層像を同時に取得することも可能である。
【0056】
例えば、制御部70は、眼底上の互いに異なる部分において、各測定光を二次元的に走査させることにより、3次元断層像をスムーズに取得できる。例えば、第1測定光S1は、眼底Ef上の矩形領域D1において二次元的に走査され、第2測定光S2は、眼底Ef上の矩形領域D2において二次元的に走査される。
【0057】
<実施例2>
図6は実施例2の構成を示す図である。なお、
図1と同じ番号を付した構成については、
図1と同様の構成・機能を有する。
図6において、光遅延路300は、カップラー310と、第1光ファイバー105a、第2光ファイバー105b、を備える。カップラー310は、測定光路中に設けられ、光源102からの測定光を基準光路300a(第1測定光路)と迂回光路300b(第2測定光路)に分割する。これにより、測定光は、カップラ310によって第1測定光S1と第2測定光S2に分割され、第1測定光は、第1光ファイバー105a、第1コリメータレンズ22aを介して、フォーカスレンズ18に入射され、第2測定光は、第2光ファイバー105b、第2コリメータレンズ22bを介して、フォーカスレンズ18に入射される。
【0058】
図6において、第1光ファイバー105aと第2光ファイバー105bの長さは、同じ長さである。そして、第1光ファイバー105aの眼E側の端部及び第1コリメータレンズ22aと、第2光ファイバー105aの眼E側の端部及び第2コリメータレンズ22bが、光軸方向に関して異なる位置に配置されている。このため、第2測定光は、第1測定光S1に対し、空気中において光学的遅延(光路長差が生じる)。これにより、
図3、
図5に示すように、第1測定光S1に対応する断層像T1と、第2測定光S2に対応する断層像T2とが、深さ方向に異なる領域に取得される。それ以降の光線の進行については、
図1と同様であるため、説明を省略する。
【0059】
第1測定光S1と第2測定光S2を空間的に分離させる場合、光分離素子として、ウォーラストンプリズムを用いるようにしてもよい。ウォーラストンプリズムは、2つに接合されたプリズムからなる偏光プリズムであり、垂直に入射した光は、2つのプリズムによって互いに直交する偏光状態に分離され、違った方向に射出される。
【0060】
光遅延路300によって形成される光路長差が可変であってもよい。例えば、
図1の構成では、光分割部材302と光結合部材308に対し、第1光反射部材304と第2光反射部材306との光学距離が調整される。また、
図6の構成では、光軸方向に関する第1光ファイバと第2光ファイバーとの相対位置が調整されるようにしてもよい。
【0061】
以上の説明においては、SS−OCTを例にとって説明したが、これに限定されず、SD−OCT(スペクトラルドメインOCT)においても、上記技術手法の適用は可能である。SD−OCTは、光源として広帯域光源(低コヒーレント光源)、検出器として一つのスペクトロメータ(例えば、グレーティングとラインセンサ)を用いる。この場合、深さ方向の撮像範囲を確保するため、解像度の高いスペクトロメータを用いることが好ましい。