(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772327
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】高温ガス炉の炉心拘束機構
(51)【国際特許分類】
G21C 5/10 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
G21C5/10GDT
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-157386(P2011-157386)
(22)【出願日】2011年7月19日
(65)【公開番号】特開2013-24619(P2013-24619A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150441
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】辻 延昌
【審査官】
村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−014290(JP,A)
【文献】
特開昭57−001992(JP,A)
【文献】
特開昭57−182695(JP,A)
【文献】
特開昭61−065189(JP,A)
【文献】
米国特許第04673548(US,A)
【文献】
特開昭52−101383(JP,A)
【文献】
米国特許第04073685(US,A)
【文献】
実開昭63−012798(JP,U)
【文献】
特表2008−510133(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0253521(US,A1)
【文献】
特開昭59−077386(JP,A)
【文献】
米国特許第04596689(US,A)
【文献】
特開2003−013705(JP,A)
【文献】
実開平01−114158(JP,U)
【文献】
米国特許第02865828(US,A)
【文献】
米国特許第02998370(US,A)
【文献】
特公昭35−005738(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 1/07
G21C 5/00
G21C 5/08
G21C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温ガス炉の炉心周囲に配置された固定反射体ブロックを締付けるための炉心拘束機構であって、前記固定反射体ブロックの外周にセラミック長繊維材からなる円環状の拘束バンドを設けたことを特徴とする炉心拘束機構。
【請求項2】
請求項1に記載の炉心拘束機構において、
前記固定反射体ブロックを囲繞すると共に、その円周方向の所定の箇所に外方へ向けて突出する折り返し部が設けられた円環状の拘束バンドと、
方形状を呈する金具本体に、前記折り返し部の先端湾曲部分を収容する収容部と、この収容部に連通し前記折り返し部の脚部をその内面で両側から挟みこむにようにして挟持する挟持部とが形成され、前記挟持部を貫通する締結手段によって前記拘束バンドに固定される締付金具と、
圧力容器の内壁に配置されたコアバレルに固定される固定部と、前記締付金具の嵌合部と嵌合する嵌合凹部とを有し、前記嵌合凹部に嵌め込まれた締付金具を径方向および鉛直方向に移動可能に案内する一方、前記拘束バンドの円周方向の移動を阻止する連結具と、
を備える、
ことを特徴とする炉心拘束機構。
【請求項3】
請求項2に記載の炉心拘束機構において、
前記拘束バンドの複数個所に等間隔で前記折り返し部を設け、各折り返し部と対応させて前記締付金具及び前記連結具を配置するようにした、ことを特徴とする炉心拘束機構。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の炉心拘束機構において、前記セラミック長繊維材として炭素繊維材又はSiC材を用いた、ことを特徴とする炉心拘束機構。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の炉心拘束機構において、前記固定反射体ブロックの熱膨張率より小さい熱膨張率を有する前記セラミック長繊維材を用いた、ことを特徴とする炉心拘束機構。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の炉心拘束機構において、炉心ブロックの積層方向に沿って前記拘束バンドを複数段設置するようにした、ことを特徴とする炉心拘束機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の一型式である高温ガス炉(HTGR)の炉内構造に係り、特に固定反射体ブロックを締付ける炉心拘束機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高温ガス炉は、セラミックス(炭化ケイ素等)被覆の燃料と化学的に不活性なヘリウムガスを冷却材として使用し、高温の炉心にガスを通過させて加熱することで高温の熱エネルギーを取り出してガスタービンにより発電するものであるが、燃料及び鋼構造物に関する制限温度が原子炉の性能(出力・冷却材取出し温度)を制約する因子となっている。
【0003】
図3に高温ガス炉200の基本的な炉構造を示す。
高温ガス炉200の炉内構造物は、黒鉛製構造物と鋼構造物とで構成される。図示のように、内側反射体ブロック61、燃料ブロック62および外側反射体ブロック63からなる炉心は、正六角柱の黒鉛ブロックを積上げた構造である。固定反射体ブロック60は、炉心を取囲むように配置され、その内面形状は炉心の六角柱ブロックの積層配置に合致するように設計されている。
【0004】
冷却材ヘリウムガスは二重管構造のクロスダクト70の外管70aから原子炉圧力容器40内に流入し、固定反射体ブロック60に設けた流路孔により炉側部を上昇して炉上部の空間に達した後、下降流となって燃料ブロック62に設けた多数の流路孔を流れる。炉心を通過し、加熱された高温のヘリウムガスは、高温プレナム80に集められ、クロスダクト70の内管70bから圧力容器40の外へ取り出される。
【0005】
このような構造においては、固定反射体ブロック60と燃料ブロック62に設けた多数の流路孔で形成される本来の主要な流路F1の他に、隣接する黒鉛製の各ブロック間に必然的に生じる隙間によって形成される冷却材ヘリウムガスの流れるバイパス流路F2が多数存在する。このバイパス流路F2は、直接炉心の冷却に寄与する流れではないために結果として有効流量を低下させ、燃料温度を上昇させてしまうだけでなく、バイパス流路F2を通じて炉心の外側に設置されるコアバレル(金属円筒)50や圧力容器40等の鋼構造物を加熱する流れも生じてしまうことになる。
【0006】
通常、鋼製であるコアバレル50の熱膨張率は、その内側に設置される黒鉛製の各ブロックの熱膨張率より3倍程度以上大きく、原子炉運転時にはコアバレル50の方が熱膨張量が大きくなってバイパス流路F2を形成するブロック相互間の隙間はより広がる傾向となるため、高温ガス炉200の性能を低下させる重大な原因になっている。従来の高温ガス炉200では、黒鉛製の各ブロック間の隙間をなくし、バイパス流路F2を経由した漏れ流れを抑制することが困難であるが故に、出力(冷却材取出し温度)を制限せざるを得ないという状況にあった。
【0007】
例えば、わが国最初の高温ガス炉である高温工学試験研究炉(HTTR)では、黒鉛製ブロック間の隙間を抑制する手段として金属製の拘束バンドを有する炉心拘束機構を固定反射体ブロック60の外側に設置し、隣接する固定反射体相互間を炉心拘束機構の締付力によって一体化して隙間を無くすことにより高い有効流量を確保して世界最高の冷却材取出し温度(950℃)を達成したが、高温クリープによって炉心拘束機構の締付力が顕著に低下しないように冷却材入口温度を400℃以下に低く設定している。
【0008】
その他、高温ガス炉の炉心拘束機構としては、複数の金属製のユニットを連結してなる拘束バンドを用いたもの(特許文献1)や、金属のセグメントと繊維強化セラミックのセグメントを交互に連結してなる拘束バンドを用いたもの(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−1992号
【特許文献2】特表2008−510133号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最近の原子炉の高性能化に伴い、高温ガス炉200では発電効率を向上させるために冷却材入口温度を600℃近くにまで上昇させることが求められている。原子炉寿命期間中を通じて安定して締付力を与え続けることの可能な炉心拘束機構が実現できれば、高い出力を確保しながら950℃を超える冷却材取出し温度を達成できる。
【0011】
しかしながら、このような高性能な高温ガス炉においては、冷却材入口温度が400℃程度に留まる従来の炉と異なり、炉心拘束機構が600℃近い高温環境下で使用されることになるので、金属製の拘束バンドでは高温でのクリープの進行のため対応することができない。
【0012】
本発明は上記の問題点に鑑みなされたもので、600℃に近い高温環境下においてもクリープに起因する締付力の低下を引き起すこと無く、原子炉寿命期間中に渡って安定して固定反射体ブロック60に締付力を与えつづけることのできる、耐熱性に優れた高温ガス炉の炉心拘束機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、高温ガス炉の炉心周囲に配置された固定反射体ブロックを締付けるための炉心拘束機構であって、前記固定反射体ブロックの外周にセラミック長繊維材からなる円環状の拘束バンドを設けたことを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の炉心拘束機構において、前記固定反射体ブロックを囲繞すると共に、その円周方向の所定の箇所に外方へ向けて突出する折
り返し部が設けられた円環状の拘束バンドと、方形状を呈する金具本体に、前記折り返し部の先端湾曲部分を収容する収容部と、この収容部に連通し前記折り返し部の脚部をその内面で両側から挟みこむにようにして挟持する挟持部とが形成され、前記挟持部を貫通する締結手段によって前記拘束バンドに固定される締付金具と、圧力容器の内壁に配置されたコアバレルに固定される固定部と、前記締付金具の嵌合部と嵌合する嵌合凹部とを有し、前記嵌合凹部に嵌め込まれた締付金具を径方向および鉛直方向に移動可能に案内する一方、前記拘束バンドの円周方向の移動を阻止する連結具と、を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項
3の発明は、請求項
2に記載の炉心拘束機構において、
前記拘束バンドの複数個所に等間隔で前記折り返し部を設け、各折り返し部と対応させて前記締付金具及び前記連結具を配置するようにしたことを特徴とする。
【0016】
請求項
4の発明は、請求項1
乃至請求項3の何れか一項に記載の炉心拘束機構において、前記セラミック長繊維材として炭素繊維材又はS
iC材を用いたことを特徴とする。
請求項
5の発明は、請求項1乃至請求項
4の何れか一項に記載の炉心拘束機構において、前記固定反射体ブロックの熱膨張率より小さい熱膨張率を有する前記セラミック長繊維材を用いたことを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の炉心拘束機構において、炉心ブロックの積層方向に沿って前記拘束バンドを複数段設置するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炉心拘束機構を耐熱性及び可撓性に優れたセラミック長繊維材からなる1本の円環状の拘束バンドを用いた簡素な構造のものとしたことにより、高温ガス炉の隣接する固定反射体ブロック相互間の隙間を長期間に渡って厳しく制限することが出来、バイパス流れを低減して炉心燃料を冷却する冷却材の有効流量割合を増加させることが可能になるので、高温ガス炉の熱出力を向上させることができる。また、炉心の外側に設置されるコアバレルや圧力容器等の鋼構造物がバイパス流れによって加熱されることも無くなり、より一層の安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る炉心拘束機構の構成を示す図である。
【
図2】炉心拘束機構の主要部分の詳細を説明するための図である。
【
図3】
図3は従来の高温ガス炉の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1に本発明の実施形態に係る炉心拘束機構100を適用した高温ガス炉の部分断面を示す。図示のように、炉心拘束機構100は、内側反射体ブロック61、燃料ブロック62および外側反射体ブロック63からなる炉心64の外側に設けられた固定反射体ブロック60と、高温ガス炉の圧力容器40の内壁面に沿って設けられたコアバレル50との間に配置される。
【0021】
この炉心拘束機構100は、図示のように、高温ガス炉の炉心周囲に配置された固定反射体ブロック60を外側から締付けるためのものであって、セラミック長繊維材からなる円環状の拘束バンド10と、鋼製の締付金具20および連結具30を備えている。
【0022】
拘束バンド10は、黒鉛構造物の直径より僅かに大きい内径を有する1本の円環状のバンドであり、固定反射体ブロック60を囲繞すると共に、その円周方向の4箇所に等間隔で外方へ向けて突出する折
り返し部11が設けられている。これらの各折り返し部11は、
図2に示す湾曲部12と脚部13とを有している。なお、本実施形態では、拘束バンド10に、炭素繊維材又はS
iC材などのセラミック長繊維材を用いている。
【0023】
本発明の要部構造について
図2により詳細に説明する。
締付金具20は、方形状を呈する金具本体を有し、この金具本体には、拘束バンド10の折り返し部11先端の湾曲部12を収容する収容部21と、この収容部21に連通する幅狭の溝として形成され、拘束バンド10の折り返し部11の脚部13をその内面で両側から挟みこむにようにして挟持する挟持部22とが設けられている。
【0024】
さらに、締付金具20の挟持部22には拘束バンド10の幅方向に沿って複数(例えば5つ)の貫通穴が設けられており、各貫通穴に挿通される締結ボルト25とナット24からなる締結手段によって、所定の突出量を保った状態で拘束バンド10は締付金具20に固定される。このとき、拘束バンド10には突出量に応じた張力が生じ、固定反射体ブロック60は拘束バンド10で締付けられることになる。
【0025】
そして、連結具30は、圧力容器40の内壁に配置されたコアバレル50に溶接などによって固定される固定部31と、この固定部31とその両側から延びる一対の側壁32とで形成された炉心側に向けて開口する嵌合凹部33とを有している。この嵌合凹部33は、締付金具20の幅寸法にほぼ等しい幅を持ち、締付金具20の係合部23と嵌合するようになっている。これにより、連結具30は、嵌合凹部33に嵌め込まれた締付金具20を径方向および鉛直方向に移動可能に案内する一方、拘束バンド10の円周方向の移動を阻止する。従って、拘束バンド10に締付けられた炉内構造物は、円周方向の動きだけが制限されることになる。即ち、締付金具20と連結具30は径方向と鉛直方向に対してフリーになっているので、炉心拘束機構100は、固定反射体ブロック60とコアバレル50の相対的熱膨張差を吸収することが出来、また、地震時においても確実に締付力を付与し固定反射体ブロック60間に隙間を生じさせることがない。
【0026】
上述のような本実施形態に係る炉心拘束機構100によれば、セラミックス長繊維材製の円環状の拘束バンド10を用い、その円周方向の複数箇所に外方へ向けて突出する折
り返し部11を設け、折り返し部11の突出量を調整しつつ締付金具20で固定することによって拘束バンド10に張力を付与する構成としているので、高い耐熱性と組み付け作業性を有する。また、構造的にも簡素であり、長期に渡って安定して固定反射体ブロックに締付力を与えつづけることができる。
【0027】
なお、締付金具20は金属材料製であっても長さが短く、さらに連結具30の嵌合凹部33に嵌め込まれるように一体化されて十分な剛性を確保できるので、クリープの問題を生じる恐れはない。
【0028】
なお、拘束バンド10を、黒鉛製の固定反射体ブロック60より熱膨張率の小さいセラミック長繊維材(例えば、炭素繊維材)で製作するようにすれば、拘束バンド10と固定反射体ブロック60との熱膨張差を利用して、室温据付時から高温の運転時に移行する際に締付力を増加させ、原子炉運転時に必要な締付力がかかるようにすることも出来る。
【符号の説明】
【0029】
10:拘束バンド、 11:折り返し部、 12:湾曲部、 13:脚部、
20:締付金具、 21:収容部、 22:挟持部、 30:連結具、 31:固定部、 32:側壁部、 33:嵌合凹部、 40:圧力容器、 50:コアバレル、
60:固定反射体ブロック、 80:高温プレナム、 100:炉心拘束機構、
200:高温ガス炉。