(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記目標値設定手段によって電流の目標値が0(零)から0(零)以外の値に変更された場合、及び電流の目標値が0(零)以外の値から0(零)に変更される場合に、前記誘起電圧算出手段に入力させる電圧値を、電圧検出値及び電圧推定値のうち電流の目標値の変更前に取得された値から変更後に取得された値に近づかせる電圧調整手段をさらに備え、
前記誘起電圧算出手段は、前記電圧調整手段によって調整された電圧値を用いて前記モータで発生する誘起電圧を算出することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、外乱オブザーバに入力される電圧値の取得方法としては、以下に示す2通りの方法が知られている。第1の方法は、公知のセンサ(電圧計)に基づきモータの端子間電圧(以下、「電圧検出値」ともいう。)を電圧検出値として検出する方法である。また、第2の方法は、モータに対する電力供給源であるバッテリの電圧(即ち、バッテリ電圧)に対しモータに入力される駆動信号のデューティ比(Duty比)を乗算することにより、モータの端子間電圧の推定値(以下、「電圧推定値」ともいう。)を算出する方法である。この電圧推定値は、電圧検出値よりも分解能が小さい。そのため、電圧推定値を用いて算出した誘起電圧の精度は、電圧検出値を用いて算出した誘起電圧の精度よりも高い。
【0007】
しかしながら、ブラシ付きのモータで発生する誘起電圧を算出する場合に、電圧推定値を用いると、以下に示す問題が発生する。すなわち、ブラシ付きのモータに対する目標電流値が「0(零)」である場合、モータに入力される駆動信号のデューティ比が「0(零)」に設定されるために、電圧推定値は算出できない。そのため、ブラシ付きのモータで誘起電圧を算出する場合には、一般的に、電圧検出値が用いられる。この場合、目標電流値の大きさに関係なく誘起電圧を算出できるものの、算出される誘起電圧の精度は電圧推定値を用いる場合よりも低下してしまう。
【0008】
こうした問題は、電動パワーステアリング装置以外の他の装置に搭載されるブラシ付きのモータで発生する誘起電圧を算出する際にも発生し得る。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。その目的は、ブラシ付きのモータに対する電流の目標値の大きさに関係なく該モータで発生する誘起電圧を算出できると共に、該誘起電圧の算出精度を向上させることができるモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、モータ制御装置にかかる請求項1に記載の発明は、モータに流す電流の目標値を設定する目標値設定手段と、前記モータの端子間電圧を電圧検出値として検出する電圧検出手段と、前記モータに対する電力供給源の電源電圧に基づき前記モータの端子間電圧を電圧推定値として算出する電圧算出手段と、前記目標値設定手段によって電流の目標値が0(零)以外の値に設定される場合には前記電圧算出手段によって算出された電圧推定値に基づいた電圧値を用いて前記モータで発生する誘起電圧を算出する一方、電流の目標値が0(零)に設定される場合には前記電圧検出手段によって検出された電圧検出値に基づいた電圧値を用いて前記モータで発生する誘起電圧を算出する誘起電圧算出手段と、を備えることを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、電流の目標値が0(零)である場合では、電圧推定値を算出できないため、電圧検出値に基づいた電圧値を用いてモータで発生する誘起電圧が算出される。一方、電流の目標値が0(零)ではない場合では、電圧推定値を算出できるため、電圧検出値よりも分解能の小さい電圧推定値に基づいた電圧値を用いてモータで発生する誘起電圧が算出される。そのため、電流の目標値の大きさに関係なくモータで発生する誘起電圧を算出できると共に、該誘起電圧の算出精度を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、前記目標値設定手段によって電流の目標値が0(零)から0(零)以外の値に変更された場合、及び電流の目標値が0(零)以外の値から0(零)に変更される場合に、前記誘起電圧算出手段に入力させる電圧値を、電圧検出値及び電圧推定値のうち電流の目標値の変更前に取得された値から変更後に取得された値に近づかせる電圧調整手段をさらに備え、前記誘起電圧算出手段は、前記電圧調整手段によって調整された電圧値を用いて前記モータで発生する誘起電圧を算出することを要旨とする。
【0012】
電圧推定値の算出タイミングと同一タイミングで電圧検出値を検出しても、電圧推定値と電圧検出値との間には差分が発生する。そのため、誘起電圧算出手段に入力させる電圧値が、電圧推定値及び電圧検出値の何れか一方(例えば、電圧推定値)から他方(例えば、電圧検出値)に変更されると、算出される誘起電圧が急激に変化するおそれがある。この場合、算出した誘起電圧に基づいたモータ制御が行われる場合に、その制御量が不自然に変化するおそれがある。
【0013】
そこで、本発明では、電流の目標値が0(零)から0(零)以外の値に変更された場合、誘起電圧算出手段に入力させる電圧値は、電流の目標値の変更前に検出された電圧検出値から変更後に算出された電流推定値に近づくように調整される。一方、電流の目標値が0(零)以外の値から0(零)に変更された場合、誘起電圧算出手段に入力させる電圧値は、電流の目標値の変更前に算出された電流推定値から変更後に検出された電圧検出値に近づくように調整される。その結果、電流の目標値の変化に伴う誘起電圧の算出結果の急激な変化を抑制することができ、ひいては算出した誘起電圧に基づいたモータ制御における制御量の不自然な変化を抑制することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のモータ制御装置において、前記電圧調整手段は、電圧検出値及び電圧推定値のうち電流の目標値の変更前に取得された値と変更後に取得された値との差分を求め、該差分が大きい場合には小さい場合よりも調整時間を長めに設定し、電流の目標値の変更後から前記調整時間の経過後に、前記誘起電圧算出手段に入力させる電圧値が電圧推定値及び電圧検出値のうち電流の目標値の変更後に取得された値となるように、前記誘起電圧算出手段に入力させる電圧値を徐々に変更することを要旨とする。
【0015】
なお、ここでいう「電流の目標値の変更」とは、電流の目標値が0(零)から0(零)以外の値に変更されること、及び電流の目標値が0(零)以外の値から0(零)に変更されることを示している。すなわち、ここでいう「電流の目標値の変更」には、電流の目標値が0(零)以外の第1の値から0(零)以外の第2の値に変更されることが含まれない。
【0016】
上記構成によれば、電流の目標値が0(零)から0(零)以外の値に変更された場合、誘起電圧算出手段に入力させる電圧値は、変更前に検出された電圧検出値から変更後に算出された電圧推定値に徐々に近づき、変更時点から調整時間の経過後には電圧推定値となる。一方、電流の目標値が0(零)以外の値から0(零)に変更された場合、誘起電圧算出手段に入力させる電圧値は、変更前に算出された電圧推定値から変更後に検出された電圧検出値に徐々に近づき、変更時点から調整時間の経過後には電圧検出値となる。したがって、電流の目標値の変化に伴う誘起電圧の急激な変化を抑制することができる。
【0017】
また、電動パワーステアリング装置にかかる請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載のモータ制御装置を備えることを要旨とする。
電動パワーステアリング装置では、運転手による操舵をモータで補助する必要がない場合には、モータに流す電流の目標値が0(零)に設定される。こうした場合であっても、運転手による操舵によって回転するモータで誘起電圧が発生する。本発明では、運転手による操舵をモータで補助する必要がない場合に該モータで発生した誘起電圧を算出することができる。また、運転手による操舵をモータで補助する場合には、モータに流す電流の目標値が0(零)以外の値に設定されるため、電圧推定値が算出可能となる。その結果、誘起電圧が精度の良く算出される。したがって、電流の目標値の大きさに関係なく、誘起電圧を用いた車両制御(特に、操舵制御)を電動パワーステアリング装置で行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を
図1〜
図6に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3を備えている。このステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動がラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0020】
また、電動パワーステアリング装置1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御するモータ制御装置としてのECU11とを備えている。
【0021】
EPSアクチュエータ10は、ブラシ付きのモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータである。こうしたEPSアクチュエータ10は、モータ12の回転を減速機構13で減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与するようになっている。
【0022】
ECU11には、ステアリングシャフト3に伝達される操舵トルクτを検出するトルクセンサ14、車速Vsを検出する車速センサ15及びステアリング2の操舵角θsを検出するステアリングセンサ16が電気的に接続されている。そして、ECU11は、これらの各状態量に基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト力を演算し、これに相当するモータトルクを発生させるべく駆動信号SDをモータ12出力することにより、EPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する。
【0023】
次に、本実施形態のECU11について
図2を参照して説明する。
図2に示すように、ECU11は、図示しないCPU、ROM、RAM及び不揮発性メモリなどで構築されるマイクロコンピュータ20と、モータ12を駆動させるための駆動回路21とを備えている。マイクロコンピュータ20には、トルクセンサ14、車速センサ15及びステアリングセンサ16に加え、モータ12に流れる電流を検出するための電流センサ22と、モータ12の端子間電圧を検出するための電圧センサ23とが電気的に接続されている。
【0024】
駆動回路21は、スイッチング素子(例えば、FET(Field Effect Transistor))などの各種電子部品(図示略)を有している。そして、駆動回路21は、車両の電力供給源であるバッテリ24から電源電圧Vpsが印加され、マイクロコンピュータ20からの制御指令に基づいたデューティ比(Duty比)の駆動信号SDを生成してモータ12に出力する。
【0025】
マイクロコンピュータ20は、電流目標値設定部30、電流検出部31、偏差算出部32、PI制御部33、電源電圧取得部34、デューティ比設定部35、PWM制御部36、入力電圧設定部37、誘起電圧オブザーバ38及び回転速度算出部39を備えている。これら各機能部30〜39は、ハードウェア及びソフトウェアのうち少なくとも一方により実現されるものである。
【0026】
電流目標値設定部30は、トルクセンサ14によって検出された操舵トルクτと、車速センサ15によって検出された車速Vsとに基づき、モータ12に流す電流の目標値である電流目標値Itを設定する。例えば、電流目標値Itは、操舵トルクτが大きいほど大きな値に設定され、車速Vsが小さいほど大きな値に設定される。そして、電流目標値設定部30は、設定した電流目標値Itを偏差算出部32及び入力電圧設定部37に出力する。したがって、本実施形態では、電流目標値設定部30が、目標値設定手段として機能する。
【0027】
電流検出部31は、電流センサ22から出力された検出信号に基づきモータ12に流れる電流である電流検出値Ieを検出し、電流検出値Ieを偏差算出部32及び誘起電圧オブザーバ38に出力する。偏差算出部32は、入力された電流目標値Itと電流検出値Ieとの偏差Isubを算出し、偏差IsubをPI制御部33に出力する。PI制御部33は、入力された偏差Isubに基づいたPI演算処理を行い、モータ12の制御量を算出する。そして、PI制御部33は、制御量をデューティ比設定部35に出力する。なお、「PI」とは、「Proportional Integral」の略記である。
【0028】
電源電圧取得部34は、バッテリ24から駆動回路21に印加可能な電圧値である電源電圧Vpsを取得し、該電源電圧Vpsをデューティ比設定部35及び入力電圧設定部37に出力する。デューティ比設定部35は、入力された制御量及び電源電圧Vpsに基づき、モータ12に出力する駆動信号SDのデューティ比Dを設定し、デューティ比DをPWM制御部36及び入力電圧設定部37に出力する。PWM制御部36は、入力されたデューティ比Dに基づいて駆動回路21を制御する。すると、駆動回路21は、入力された制御指令に応じた駆動信号SDを生成してモータ12に出力する。
【0029】
入力電圧設定部37は、電圧検出手段としての電圧検出部50、電圧算出手段としての電圧算出部51、変更判定部52、及び電圧調整手段としての電圧調整部53を有している。電圧検出部50は、電圧センサ23から出力された検出信号に基づき端子間電圧の検出値である電圧検出値Vdを検出し、電圧検出値Vdを電圧調整部53に出力する。
【0030】
電圧算出部51は、デューティ比設定部35及び電源電圧取得部34から入力されるデューティ比D及び電源電圧Vpsに基づき、端子間電圧の推定値である電圧推定値Veを算出する。具体的には、電圧算出部51は、電源電圧Vpsとデューティ比Dとを乗算し、該乗算結果を電圧推定値Veとする。そして、電圧算出部51は、電圧推定値Veを電圧調整部53に出力する。
【0031】
変更判定部52には、電流目標値設定部30から電流目標値Itが入力される。そして、変更判定部52は、電流目標値Itが「0(零)」以外の値から「0(零)」に切り替ったか否かを判定すると共に、電流目標値Itが「0(零)」から「0(零)」以外の値に切り替ったか否かを判定する。そして、変更判定部52は、判定結果を電圧調整部53に出力する。なお、本実施形態では、電流目標値Itが「0(零)」以外の値から「0(零)」に切り替ったこと、及び電流目標値Itが「0(零)」から「0(零)」以外の値に切り替ったことを、「切り替わり判定が肯定になった」ともいう。
【0032】
電圧調整部53は、変更判定部52から入力された情報に基づいた端子間電圧(電圧値)Vtを誘起電圧オブザーバ38に出力する。すなわち、電圧調整部53は、電流目標値Itが「0(零)」で維持される場合には電圧検出値Vdを端子間電圧Vtとして出力し、電流目標値Itが「0(零)」以外の値で維持される場合には電圧推定値Veを端子間電圧Vtとして出力する。なお、「電流目標値Itが「0(零)」以外の値で維持される」とは、一定値(≠0(零))で維持される場合だけではなく、「0(零)」以外の第1の値から「0(零)」以外の第2の値に切り替った場合も含んでいる。
【0033】
また、電圧調整部53は、切り替わり判定が肯定である場合、電圧検出値Vd及び電圧推定値Veのうち何れか一方の値から他方の値に徐々に近づかせるように電圧値を調整する。そして、電圧調整部53は、調整後の電圧値を端子間電圧Vtとして出力する。
【0034】
図3には、切り替わり判定が肯定である場合の一例として、電流目標値Itが「0(零)」以外の値から「0(零)」になった場合の端子間電圧Vtの変化が示される。すなわち、
図3に示すように、電圧調整部53は、電流目標値Itが「0(零)」以外の値から「0(零)」になった場合、切り替わり判定が肯定になる前に算出された電圧推定値Veと、肯定になった時点で検出された電圧検出値Vdとの差分Vsub(=|Ve−Vd|)を算出する。また、電圧調整部53は、算出した差分Vsubが大きいほど長くなるように調整時間PTを設定する。そして、電圧調整部53は、設定した調整時間PTをかけて、切り替わり判定が肯定となる前に算出された電圧推定値Veから肯定になった後に検出された電圧検出値Vdに次第に近づくように、端子間電圧Vtを調整する。なお、本実施形態では、切り替わり判定が肯定になった場合における端子間電圧Vtの単位時間あたりの変化量は、差分Vsubの大きさに関係なく一定である。
【0035】
一方、電流目標値Itが「0(零)」から「0(零)」以外の値になった場合、電圧調整部53は、切り替わり判定が肯定になる前に検出された電圧検出値Vdと、肯定になった時点で算出された電圧推定値Veとの差分Vsubを算出する。また、電圧調整部53は、差分Vsubが大きいほど長くなるように調整時間PTを設定する。そして、電圧調整部53は、設定した調整時間PTをかけて、切り替わり判定が肯定になる前に検出された電圧検出値Vdから肯定になった後に算出された電圧推定値Veに次第に近づくように、端子間電圧Vtを調整する。
【0036】
誘起電圧オブザーバ38は、モータ12で発生する誘起電圧E(「逆起電圧」ともいう。)を外乱として算出する外乱オブザーバである。こうした誘起電圧オブザーバ38は、入力電圧設定部37及び電流検出部31から入力された端子間電圧Vt及び電流検出値Ieに基づき、モータ12で発生する誘起電圧E(「逆起電圧」ともいう。)を算出する。したがって、本実施形態では、誘起電圧オブザーバ38が、誘起電圧算出手段として機能する。なお、誘起電圧オブザーバ38の具体的な構成については後述する。
【0037】
回転速度算出部39は、入力された誘起電圧Eを用い、モータ12の回転速度ωを算出する。例えば、回転速度ωは、以下に示す関係式(式1)に基づき算出される。したがって、本実施形態では、回転速度算出部39が、回転速度算出手段として機能する。
【0038】
【数1】
ただし、Ke…逆起電圧定数
次に、誘起電圧オブザーバ38について
図4を参照して説明する。
【0039】
図4に示すように、誘起電圧オブザーバ38は、以下に示す関係式(式2)〜(式6)で表される。
【0040】
【数2】
ただし、Ts…演算周期、G…オブザーバゲイン、ξ…内部状態を表す変数、n…演算周期の番号、R…モータの抵抗値、L…モータのインダクタンス
次に、本実施形態のECU11が実行する各種制御処理ルーチンのうち、モータ12の回転速度ωを取得するための回転速度取得処理ルーチンについて
図5及び
図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0041】
さて、回転速度取得処理ルーチンは、車両の図示しないイグニッションスイッチがオンである間、予め設定された所定周期毎に実行される。そして、回転速度取得処理ルーチンにおいて、ステップS10では、ECU11は、このタイミングで検出された電流目標値Itを取得する。次のステップS11において、ECU11は、ステップS10で取得された電流目標値Itが「0(零)」であるか否かを判定する。そして、ECU11は、電流目標値Itが「0(零)」である場合(YES)にはその処理を次のステップS12の処理に移行し、電流目標値Itが「0(零)」ではない場合(NO)にはその処理を後述するステップS20の処理に移行する。
【0042】
ステップS12において、ECU11は、目標値フラグFLG1がオンであるか否かを判定する。この目標値フラグFLG1は、電流目標値Itが「0(零)」である場合にはオフにセットされる一方、電流目標値Itが「0(零)」以外の値である場合にはオンにセットされるフラグである。そして、目標値フラグFLG1がオフである場合(ステップS12:NO)、ECU11は、電流目標値Itが「0(零)」で維持されているため、このタイミングで検出された電圧検出値Vdを端子間電圧Vtとする(ステップS13)。その後、ECU11は、その処理を後述するステップS28に移行する。
【0043】
一方、目標値フラグFLG1がオンである場合(ステップS12:YES)、ECU11は、電流目標値Itが「0(零)」以外の値から「0(零)」に切り替ったため、その処理を次のステップS14に移行する。そして、ステップS14において、ECU11は、前回のタイミングで算出された電圧推定値Veと、今回のタイミングで検出された電圧検出値Vdとの差分Vsubを算出する。続いて、ステップS15において、ECU11は、調整時間PTを、ステップS14で算出された差分Vsubが大きいほど長めに設定する(
図3参照)。
【0044】
次のステップS16において、ECU11は、電流目標値Itが「0(零)」以外の値から「0(零)」に切り替った時点からの経過時間T1と、ステップS15で設定された調整時間PTとに基づいた電圧調整値Vaを算出する。例えば、ECU11(電圧調整部53)は、以下に示す関係式(式7)に基づき電圧調整値Vaを算出する。
【0045】
【数3】
ECU11は、ステップS16で算出された電圧調整値Vaを端子間電圧Vtとし(ステップS17)、上記経過時間T1が調整時間PTと一致するか否かを判定する(ステップS18)。そして、経過時間T1が調整時間PTと一致しない場合(ステップS18:NO)、ECU11は、その処理を後述するステップS28に移行する。一方、経過時間T1が調整時間PTと一致する場合(ステップS18:YES)、ECU11は、目標値フラグFLG1をオフにセットし(ステップS19)、その処理を後述するステップS28に移行する。
【0046】
その一方で、上記ステップS11の判定結果が否定(NO)である場合、ステップS20において、ECU11は、目標値フラグFLG1がオンであるか否かを判定する。目標値フラグFLG1がオンである場合(ステップS20:YES)、ECU11は、電流目標値Itが「0(零)」以外の値で維持されているため、このタイミングで算出された電圧推定値Veを端子間電圧Vtとする(ステップS21)。その後、ECU11は、その処理を後述するステップS28に移行する。
【0047】
一方、目標値フラグFLG1がオフである場合(ステップS20:NO)、ECU11は、電流目標値Itが「0(零)」から「0(零)」以外の値に切り替ったため、その処理を次のステップS22に移行する。そして、ステップS22において、ECU11は、前回のタイミングで検出された電圧検出値Vdと、今回のタイミングで算出された電圧推定値Veとの差分Vsubを算出する。次のステップS23において、ECU11は、調整時間PTを、ステップS14で算出された差分Vsubが大きいほど長めに設定する。
【0048】
次のステップS24において、ECU11は、電流目標値Itが「0(零)」から「0(零)」以外の値に切り替った時点からの経過時間T2と、ステップS23で設定された調整時間PTとに基づいた電圧調整値Vaを算出する。例えば、ECU11(電圧調整部53)は、以下に示す関係式(式8)に基づき電圧調整値Vaを算出する。
【0049】
【数4】
ECU11は、ステップS24で算出された電圧調整値Vaを端子間電圧Vtとし(ステップS25)、上記経過時間T2が調整時間PTと一致するか否かを判定する(ステップS26)。そして、経過時間T2が調整時間PT未満である場合(ステップS26:NO)、ECU11は、その処理を後述するステップS28に移行する。一方、経過時間T2が調整時間PTと一致する場合(ステップS26:YES)、ECU11は、目標値フラグFLG1をオンにセットし(ステップS27)、その処理を次のステップS28に移行する。
【0050】
ステップS28において、ECU11は、ステップS13,S17,S21,S25の何れかのステップで設定された端子間電圧Vtと、このタイミングで検出された電流検出値Ieとを上記関係式(式2)〜(式6)に代入して誘起電圧Eを算出する。次のステップS29において、ECU11は、ステップS28で算出された誘起電圧Eを上記関係式(式1)に代入してモータ12の回転速度ωを算出し、その後、回転速度取得処理ルーチンを一旦終了する。
【0051】
次に、モータ12で発生する誘起電圧Eを算出する際の作用について、上記切り替え判定が肯定になった際の作用を中心に説明する。
さて、電流目標値Itが「0(零)」以外の値である場合、電圧検出値Vdよりも分解能が小さい電圧推定値Veが誘起電圧オブザーバ38に入力される。すると、電圧推定値Veと電流検出値Ieとに基づきモータ12で発生する誘起電圧Eが算出され、該誘起電圧Eに基づきモータ12の回転速度ωが算出される。
【0052】
しかし、例えば、トルクセンサ14によって検出される操舵トルクτが「0(零)」になるなどして電流目標値Itが「0(零)」になると、モータ12に入力される駆動信号SDのデューティ比Dが「0(零)」に設定される。この場合、電圧推定値Veが算出不能となる。このように電流目標値Itが「0(零)」となる状況下であっても、運転手がステアリング2を操舵すると、モータ12では操舵量に応じた誘起電圧が発生する。この場合、モータ12の実際の端子間電圧は「0(零)」以外の値となる。つまり、電流目標値Itが「0(零)」である場合、電圧推定値Veは実際の端子間電圧とは全く異なる値を示すおそれがある。よって、電流目標値Itが「0(零)」である場合、誘起電圧Eの算出には電圧推定値Veは使用できない。
【0053】
そこで、本実施形態では、電流目標値Itが「0(零)」になった場合には、端子間電圧の検出値である電圧検出値Vdに基づいた値が誘起電圧オブザーバ38に入力され、当該値を用いて誘起電圧Eが算出される。この電圧検出値Vdは、電圧推定値Veよりも分解能が大きいというデメリットを有する一方で、電流目標値Itの大きさに関係なく検出可能というメリットを有している。そのため、本実施形態のECU11では、電流目標値Itの大きさに関係なく、誘起電圧Eが算出される。
【0054】
しかも、電流目標値Itが「0(零)」になった直後では、端子間電圧Vtは、電流目標値Itが「0(零)」になる直前で算出された電圧推定値Veから、電流目標値Itが「0(零)」になった後に検出された電圧検出値Vdに徐々に近づくように調整される(
図3参照)。そのため、誘起電圧Eの算出に用いる電圧値の切り替えに伴う誘起電圧Eの不必要な急激な変化が抑制され、ひいてはモータ12の回転速度ωが不必要に急激に変化することが抑制される。したがって、算出された回転速度ωを用いた操舵制御の制御量の不必要な急激な変化が抑制され、運転手によるステアリング2の操舵感が向上する。
【0055】
その後、誘起電圧オブザーバ38に入力される端子間電圧Vtが電圧検出値Vdと一致するようになると、電流目標値Itが「0(零)」で維持される間、誘起電圧オブザーバ38では、電圧検出値Vdを用いてモータ12で発生する誘起電圧Eが算出される。また、回転速度算出部39では、誘起電圧オブザーバ38で算出された誘起電圧Eに基づきモータ12の回転速度ωが算出される。
【0056】
この状態で、例えば、トルクセンサ14によって検出される操舵トルクτが大きくなるなどして電流目標値Itが「0(零)」以外の値になると、モータ12に入力される駆動信号SDのデューティ比Dが「0(零)」以外の値になる。すると、電圧推定値Veが算出可能となるため、電圧検出値Vdよりも分解能の小さい電圧推定値Veに基づいた値が誘起電圧オブザーバ38に入力されるようになる。その結果、電圧推定値Veに基づいた値を用いて誘起電圧Eが算出される。
【0057】
しかも、電流目標値Itが「0(零)」から「0(零)」以外の値になった直後では、端子間電圧Vtは、電流目標値Itが「0(零)」以外の値になる直前で検出された電圧検出値Vdから、電流目標値Itが「0(零)」以外の値になった後に算出された電圧推定値Veに徐々に近づくように調整される。そのため、誘起電圧Eの算出に用いる電圧値の切り替えに伴う誘起電圧Eの不必要な急激な変化が抑制され、ひいてはモータ12の回転速度ωの不必要に急激に変化が抑制される。したがって、算出された回転速度ωを用いた操舵制御の制御量の不必要な急激な変化が抑制され、運転手によるステアリング2の操舵感が向上する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)電流目標値Itの大きさによって、誘起電圧Eの算出に、電圧検出値Vdを用いるのか電圧推定値Veを用いるのかが判断される。そのため、モータ12がブラシ付きのモータであったとしても、端子間電圧Vtとして電圧推定値Veをできる限り利用できるので、誘起電圧Eの算出精度を向上させることができる。
【0059】
(2)その一方で、電流目標値Itが「0(零)」である場合には、電圧推定値Veを算出できないため、電圧検出値Vdに基づいた値を端子間電圧Vtとして誘起電圧Eが算出される。そのため、本実施形態では、電流目標値Itの大きさに関係なく、誘起電圧Eを算出することができる。
【0060】
(3)電流目標値Itが「0(零)」から「0(零)」以外の値に変更される場合、端子間電圧Vtは、電流目標値Itが「0(零)」以外の値に変更される前に検出された電圧検出値Vdから、変更後に算出された電圧推定値Veに近づくように調整される。一方、電流目標値Itが「0(零)」以外の値から「0(零)」に変更される場合、端子間電圧Vtは、電流目標値Itが「0(零)」に変更される前に算出された電圧推定値Veから、変更後に検出された電圧検出値Vdに近づくように調整される。その結果、電流目標値Itの変化に伴う誘起電圧Eの算出結果の急激な変化を抑制することができる。そのため、算出した誘起電圧Eに基づいたモータ制御における制御量の不自然な変化を抑制することができる。
【0061】
(4)上記切り替え判定が肯定になった場合には、肯定になる前に取得された第1の電圧値(例えば、電圧検出値Vd)と、肯定になった時点で取得された第2の電圧値(例えば、電圧推定値Ve)との差分Vsubが算出される。また、差分Vsubが大きいほど、調整時間PTが長い時間に設定される。そして、上記切り替え判定が肯定になった時点から調整時間PTをかけて、第1の電圧値から第2の電圧値に徐々に近づくように端子間電圧Vtが調整される。したがって、電流目標値Itの変化に伴う誘起電圧Eの急激な変化を抑制することができる。
【0062】
(5)そして、本実施形態では、算出した誘起電圧Eに基づきモータ12の回転速度ωが算出される。つまり、電流目標値Itの大きさに関係なく、回転速度ωを算出することができ、ひいては回転速度ωを用いたモータ制御を適切に行うことができる。
【0063】
(6)電動パワーステアリング装置1では、運転手によるステアリング2の操舵をモータ12で補助する必要がない場合には、モータ12に対する電流目標値Itが「0(零)」に設定される。こうした場合であっても、運転手による操舵によってモータ12の図示しないロータが回転し、誘起電圧Eが発生する。本実施形態では、運転手による操舵をモータ12で補助する必要がない場合には、電圧検出値Vdを用いることにより、運転手によるステアリング2の操舵などに起因してモータ12で発生した誘起電圧Eを算出することができる。また、運転手による操舵をモータ12で補助する場合には、電圧推定値Veを利用するため、誘起電圧Eを精度の良く算出することができる。そのため、電流目標値Itの大きさに関係なく、誘起電圧Eを用いた車両制御(特に、操舵制御)を電動パワーステアリング装置1で行うことが可能となる。
【0064】
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、上記切り替え判定が肯定になったことで算出された差分Vsubに基づき、端子間電圧の単位時間あたりの変化量を、差分Vsubが大きい場合には小さい場合よりも大きな値に設定してもよい。この場合、調整時間PTを、差分Vsubの大きさに関係なく一定値としてもよい。
【0065】
・実施形態において、入力電圧設定部37は、電流目標値Itが「0(零)」である場合には電圧検出値Vdを端子間電圧Vtとして出力し、電流目標値Itが「0(零)」以外の値である場合には電圧推定値Veを端子間電圧Vtとして出力してもよい。
【0066】
この場合、ECU11には、入力電圧設定部37から入力された端子間電圧Vtに対してフィルタ処理を施し、該フィルタ処理後の電圧値を誘起電圧オブザーバ38に出力するフィルタ部を機能部としてさらに設けてもよい。
【0067】
・本発明のモータ制御装置を、レゾルバなどのようにモータの回転速度を検出するためのセンサを有する電動パワーステアリング装置に備えてもよい。この場合、センサの故障が検知された場合に、ECU11による
図5及び
図6に示す回転速度取得処理ルーチンの実行によって、モータ12の回転速度ωを算出させるようにしてもよい。
【0068】
・本発明の電動パワーステアリング装置を、ピニオン型及びラックアシスト型の電動パワーステアリング装置に具体化してもよい。ラックアシスト型としては、モータの出力がラック軸と平行となるように配置された所謂ラックパラレル型、モータの出力がラック軸と斜交するように配置されたラッククロス型などが挙げられる。
【0069】
・本発明のモータ制御装置を、ブラシ付きのモータを搭載した電子機器であれば電動パワーステアリング装置1以外の他の電子機器(例えば、電動自転車)に設けてもよい。
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
【0070】
(イ)前記誘起電圧算出手段によって算出された誘起電圧を用い、前記モータの回転速度を算出する回転速度算出手段をさらに備えることを特徴とする。
上記構成によれば、電流の目標値の大きさに関係なく、モータの回転速度を算出することができ、ひいては回転速度を用いたモータ制御を適切に行うことができる。