特許第5772418号(P5772418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

特許5772418摺動式スプライン軸装置およびその製造方法
<>
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000002
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000003
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000004
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000005
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000006
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000007
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000008
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000009
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000010
  • 特許5772418-摺動式スプライン軸装置およびその製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772418
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】摺動式スプライン軸装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/06 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   F16D3/06 Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-196758(P2011-196758)
(22)【出願日】2011年9月9日
(65)【公開番号】特開2013-57381(P2013-57381A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2014年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】米山 展央
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−068623(JP,U)
【文献】 特開2009−035937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に雌スプラインを有する第一軸部材と、
前記雌スプラインに対して軸方向に摺動可能かつ周方向に移動規制されるように嵌合する雄スプラインを外周に有する第二軸部材と、
前記第二軸部材の軸方向一方端に取り付けられ、前記雌スプラインに対して軸方向に係合し、前記第二軸部材が前記第一軸部材に対して軸方向他方側へ抜けることを規制するストッパと、
を備える摺動式スプライン軸装置であって、
前記第一軸部材は、前記雌スプラインと、前記雌スプラインの前記軸方向他方側に形成され前記第二軸部材を挿入する第一開口部と、前記雌スプラインの前記軸方向一方側に形成され前記雌スプラインの溝底直径以上の内接円直径を有する空隙部と、を備え、
前記ストッパの外接円直径は、前記雌スプラインの内接円直径より大きく形成され、
前記ストッパは、前記第二軸部材より先に前記第一軸部材の前記第一開口部から挿入され前記雌スプラインの溝部を軸方向に通過して前記空隙部に配置され、かつ、前記空隙部において前記第一軸部材の中心軸に直交する軸回りに回転して前記雌スプラインに対して軸方向に係合する状態とされる摺動式スプライン軸装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第二軸部材に取り付けた状態における前記ストッパの軸方向長さは、前記雌スプラインのうち隣接する二つの丘部の間の第一溝部と、他の隣接する二つの丘部の間の第二溝部と、に入り込む仮想長方形の短辺以下に形成され、
前記ストッパは、前記第一溝部と前記第二溝部とを通過させて前記空隙部に配置される摺動式スプライン軸装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記ストッパは、前記雌スプラインの内接円直径より大きな外径の円板状に形成され、
前記ストッパの円板厚さは、前記仮想長方形の短辺以下に形成される摺動式スプライン軸装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記第一軸部材は、軸方向一方側に前記雄スプラインの外接円直径より小さな内接円直径の開口部であり、前記第二軸部材に前記ストッパを取り付けるために用いる第二開口部を有する摺動式スプライン軸装置。
【請求項5】
内周に雌スプラインを有する第一軸部材と、
前記雌スプラインに対して軸方向に摺動可能かつ周方向に移動規制されるように嵌合する雄スプラインを外周に有する第二軸部材と、
前記第二軸部材の軸方向一方端に取り付けられ、前記雌スプラインに対して軸方向に係合し、前記第二軸部材が前記第一軸部材に対して軸方向他方側へ抜けることを規制するストッパと、
を備える摺動式スプライン軸装置の製造方法であって、
前記第一軸部材は、前記雌スプラインと、前記雌スプラインの前記軸方向他方側に形成され前記第二軸部材を挿入する第一開口部と、前記雌スプラインの前記軸方向一方側に形成され前記雌スプラインの溝底直径以上の内接円直径を有する空隙部と、を備え、
前記ストッパの外接円直径は、前記雌スプラインの内接円直径より大きく形成され、
前記製造方法は、
前記ストッパを、前記第一軸部材の前記第一開口部から挿入して、前記雌スプラインの溝部を軸方向に通過して前記空隙部に配置するストッパ挿入工程と、
前記ストッパ挿入工程の後に、前記第二軸部材を前記第一開口部から挿入して、前記第一軸部材の前記雌スプラインと前記第二軸部材の前記雄スプラインとを嵌合させる第二軸部材挿入工程と、
前記ストッパを前記空隙部において前記第一軸部材の中心軸に直交する軸回りに回転して前記雌スプラインに対して軸方向に係合する状態にして、前記ストッパを前記第二軸部材の軸方向一方端に取り付けるストッパ取付工程と、
を備える摺動式スプライン軸装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式スプライン軸装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製造機械や自動車などの種々の機械装置において、軸方向に相対移動可能となるように摺動式スプライン軸装置が用いられている。つまり、第一軸部材の雌スプラインと第二軸部材の雄スプラインとが嵌合することによって、第一軸部材と第二軸部材とが軸方向に相対移動可能としている。さらに、雄スプラインが雌スプラインに嵌合した状態で、雄スプラインが雌スプラインから離脱することを防止するために、雄スプラインの先端にストッパを取り付けることがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、第一軸部材を軸方向に二分割して、当該二部材のそれぞれのフランジ部をボルトにより締結する構造が採用されることがある。この場合、次のように組み付けられる。第一軸部材の雌スプラインの部分に第二軸部材を挿入させ、その後に第二軸部材の先端にストッパを取り付け、その後に第一軸部材の他方部分を雌スプラインの部分にボルトにより締結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60-15410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の構造においては、第一軸部材を二部材に分割しなければならず、締結のためのフランジ部によって、外形が大型化するとともに質量が増加してしまう。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、第一軸部材にフランジ部を設けることなく、ストッパを取り付けることができる摺動式スプライン軸装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(摺動式スプライン軸装置)
(請求項1)本発明に係る摺動式スプライン軸装置は、内周に雌スプラインを有する第一軸部材と、前記雌スプラインに対して軸方向に摺動可能かつ周方向に移動規制されるように嵌合する雄スプラインを外周に有する第二軸部材と、前記第二軸部材の軸方向一方端に取り付けられ、前記雌スプラインに対して軸方向に係合し、前記第二軸部材が前記第一軸部材に対して軸方向他方側へ抜けることを規制するストッパと、を備える摺動式スプライン軸装置であって、前記第一軸部材は、前記雌スプラインと、前記雌スプラインの前記軸方向他方側に形成され前記第二軸部材を挿入する第一開口部と、前記雌スプラインの前記軸方向一方側に形成され前記雌スプラインの溝底直径以上の内接円直径を有する空隙部と、を備え、前記ストッパの外接円直径は、前記雌スプラインの内接円直径より大きく形成され、前記ストッパは、前記第二軸部材より先に前記第一軸部材の前記第一開口部から挿入され前記雌スプラインの溝部を軸方向に通過して前記空隙部に配置され、かつ、前記空隙部において前記第一軸部材の中心軸に直交する軸回りに回転して前記雌スプラインに対して軸方向に係合する状態とされる。
【0007】
(請求項2)また、前記第二軸部材に取り付けた状態における前記ストッパの軸方向長さは、前記雌スプラインのうち隣接する二つの丘部の間の第一溝部と、他の隣接する二つの丘部の間の第二溝部と、に入り込む仮想長方形の短辺以下に形成され、前記ストッパは、前記第一溝部と前記第二溝部とを通過させて前記空隙部に配置されるようにしてもよい。
(請求項3)また、前記ストッパは、前記雌スプラインの内接円直径より大きな外径の円板状に形成され、前記ストッパの円板厚さは、前記仮想長方形の短辺以下に形成されるようにしてもよい。
(請求項4)また、前記第一軸部材は、軸方向一方側に前記雄スプラインの外接円直径より小さな内接円直径の開口部であり、前記第二軸部材に前記ストッパを取り付けるために用いる第二開口部を有するようにしてもよい。
【0008】
(摺動式スプライン軸装置の製造方法)
(請求項5)本発明に係る摺動式スプライン軸装置の製造方法は、内周に雌スプラインを有する第一軸部材と、前記雌スプラインに対して軸方向に摺動可能かつ周方向に移動規制されるように嵌合する雄スプラインを外周に有する第二軸部材と、前記第二軸部材の軸方向一方端に取り付けられ、前記雌スプラインに対して軸方向に係合し、前記第二軸部材が前記第一軸部材に対して軸方向他方側へ抜けることを規制するストッパと、を備える摺動式スプライン軸装置の製造方法であって、前記第一軸部材は、前記雌スプラインと、前記雌スプラインの前記軸方向他方側に形成され前記第二軸部材を挿入する第一開口部と、前記雌スプラインの前記軸方向一方側に形成され前記雌スプラインの溝底直径以上の内接円直径を有する空隙部と、を備え、前記ストッパの外接円直径は、前記雌スプラインの内接円直径より大きく形成され、前記製造方法は、前記ストッパを、前記第一軸部材の前記第一開口部から挿入して、前記雌スプラインの溝部を軸方向に通過して前記空隙部に配置するストッパ挿入工程と、前記ストッパ挿入工程の後に、前記第二軸部材を前記第一開口部から挿入して、前記第一軸部材の前記雌スプラインと前記第二軸部材の前記雄スプラインとを嵌合させる第二軸部材挿入工程と、前記ストッパを前記空隙部において前記第一軸部材の中心軸に直交する軸回りに回転して前記雌スプラインに対して軸方向に係合する状態にして、前記ストッパを前記第二軸部材の軸方向一方端に取り付けるストッパ取付工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
(請求項1)本発明によれば、ストッパは、第一軸部材の雌スプラインの軸方向他方側に位置する第一開口部から挿入されて、空隙部に配置されている。従って、第一軸部材の雌スプラインの軸方向一方側にストッパを配置するために、従来のように、第一軸部材を二分割する必要がない。そのため、従来において第一軸部材を二分割にするために必要であったフランジ部は、本発明における第一軸部材にとって不要なものとなる。従って、第一軸部材は、軸方向中央部においてフランジ部を有しないため、小型化および軽量化を図ることができる。
【0010】
ここで、ストッパを第一軸部材の第一開口部側、すなわち第二軸部材が挿入される側から挿入し、雌スプラインを通過して空隙部に配置している。しかし、空隙部に配置されたストッパは、第一軸部材の中心軸に直交する軸周りに回転することで、雌スプラインに対して軸方向に係合する状態とされている。このように、ストッパは、第一軸部材の中心軸に直交する軸回りの位相によって、雌スプラインを通過可能な状態になったり、雌スプラインに対して軸方向に係合する状態になったりする。そこで、空隙部にてストッパを雌スプラインに対して軸方向に係合する位相にして、第二軸部材の軸方向一方端にストッパを取り付けることで、ストッパによって、第二軸部材が第一軸部材から軸方向他方側へ抜けることを確実に防止できる。
【0011】
(請求項2)本発明のように、第二軸部材に取り付けた状態におけるストッパの軸方向長さを仮想長方形の短辺以下に形成することで、確実に、ストッパが雌スプラインを通過することができる。
(請求項3)本発明のように、円板状のストッパの円板厚さを仮想長方形の短辺以下に形成することで、確実に、ストッパは雌スプラインを通過できる。そして、空隙部において円板状のストッパを第一軸部材の中心軸に直交する軸回りに回転させることで、円板状のストッパは、雌スプラインの全ての丘部に対して軸方向に係合する状態となる。従って、ストッパによる係止力を大きくすることができる。
【0012】
(請求項4)本発明によれば、空隙部において、ストッパを第二軸部材に取り付けている。そこで、第一軸部材の軸方向一方側に第二開口部を設けることで、当該第二開口部を利用してストッパを第二軸部材に取り付けることができる。
【0013】
(請求項5)本発明によれば、上述した摺動式スプライン軸装置に係る発明と同様に、第一軸部材がフランジ部を有しないため、摺動式スプライン軸装置の小型化および軽量化を図ることができる。さらに、空隙部にてストッパを雌スプラインに対して軸方向に係合する位相にして、第二軸部材の軸方向一方端にストッパを取り付けることで、ストッパによって、第二軸部材が第一軸部材から軸方向他方側へ抜けることを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態における摺動式スプライン軸装置の軸方向断面図である。
図2図1のA−A切断部端面の拡大図である。
図3図1のB−B切断部端面の拡大図である。
図4図1の第一軸部材の軸方向断面図である。
図5図4のC−C切断部端面図の拡大図である。二点鎖線は、雌スプラインのうち第一溝部と第二溝部とに入り込む仮想長方形を示す。
図6】ストッパを雌スプラインにて通過させる状態(図8のS1)を示す摺動式スプライン軸装置の軸方向断面図である。
図7図7のD−D切断部端面の拡大図である。
図8図1の摺動式スプライン軸装置の製造方法を示すフローチャートである。
図9図8のS2の状態を示す摺動式スプライン軸装置の軸方向断面図である。
図10図9のE−E断面図の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の摺動式スプライン軸装置およびその製造方法を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の摺動式スプライン軸装置について、図1図3を参照して説明する。
【0016】
摺動式スプライン軸装置は、例えば、圧延機や自動車のプロペラシャフトなどに適用され、両端のヨークを軸方向に相対移動可能に構成されたユニバーサルジョイントを例にあげる。摺動式スプライン軸装置は、第一軸部材10と、第二軸部材20と、ストッパ30と、蓋部材40とを備えて構成される。
【0017】
第一軸部材10は、ヨーク部11と、ヨーク部11の軸方向他方側に一体的に形成された筒部12とを備える。第一軸部材10の詳細構成について説明するために、図4および図5を参照する。第一軸部材10のヨーク部11は、他部材(図示せず)に対して角度を付与した状態で連結されるユニバーサルジョイントの一部を構成する。このヨーク部11は、軸方向一方側に開口するU字形状に形成されている。
【0018】
第一軸部材10の筒部12は、ほぼ円筒形状に形成されている。この筒部12の内周には、雌スプライン12aが形成されている。筒部12の雌スプライン12aの軸方向他方側には、雌スプライン12aの溝底直径以上の内径を有する円形の第一開口部12bが形成されている。そして、雌スプライン12aのうち、ストッパ30の一端側を通過させる第一溝部61(隣接する二つの丘部の間)と、ストッパ30の他端側を通過させる第二溝部62(隣接する二つの丘部の間)とに入り込む仮想長方形100を設定する。この仮想長方形100の短辺は、W1である。ここで、図5において、第一溝部61と第二溝部62とは、中心軸に対称の位置として示しているが、これに限られず、中心軸に対称でない位置とすることもできる。この仮想長方形100は、ストッパ30の形状を決定するために用いる。
【0019】
また、筒部12において、雌スプライン12aの軸方向一方側には、雌スプライン12aの溝底直径以上の内接円直径の円筒形状の空隙部12cが形成されている。さらに、筒部12の軸方向一方端、すなわち、ヨーク部11の底部には、空隙部12cと外部とを軸方向に貫通する第二開口部12dが形成されている。第二開口部12dの内径は、雌スプライン12aの内接円直径よりも小さい。この第二開口部12dは、空隙部12cにおいてストッパ30を第二軸部材20の軸方向一方端に取り付けるために、取り付け作業穴として用いる。なお、筒部12は、雌スプライン12aの部分と、ヨーク部11に一体形成された空隙部12cの部分とを別体に形成した後に、溶接などにより結合されている。これは、雌スプライン12aの加工を容易に行うためである。
【0020】
第二軸部材20は、第一軸部材10に対して軸方向に摺動可能であり、かつ、回転規制される。第二軸部材20は、ヨーク部21と、ヨーク部21の軸方向一方側に一体的に形成された軸部22とを備える。ヨーク部21は、他部材(図示せず)に対して角度を付与した状態で連結されるユニバーサルジョイントの一部を構成する。このヨーク部21は、軸方向他方側に開口するU字形状に形成されている。
【0021】
第二軸部材20の軸部22は、ほぼ円柱形状に形成されている。この軸部22の外周には、雄スプライン22aが形成されている。雄スプライン22aは、第一軸部材10の雌スプライン12aに対して軸方向に摺動可能であり、かつ、周方向に移動規制されるようにスプライン嵌合する。従って、図2に示すように、第二軸部材20の雄スプライン22aの丘部(径方向外側に突出する部位)が、第一軸部材10の雌スプライン12aの溝部(隣接する二つの丘部の間)に嵌り込んでいる。
【0022】
そして、雄スプライン22aの軸方向長さは、雌スプライン12aの軸方向長さより長く形成されている。そのため、雄スプライン22aの軸方向一方端は、雌スプライン12aの軸方向一方端位置を通過して空隙部12cに到達している。
【0023】
ストッパ30は、図1図3図6図7に示すように、円板状に形成されている。このストッパ30の外径は、第一軸部材10の雌スプライン12aの溝底径より僅かに小さく、かつ、雌スプライン12aの内接円直径より大きく形成されている。また、ストッパ30の外周側の円板厚さ(円板の軸方向幅)T1(図7に示す)は、図5に示す仮想長方形100の短辺W1以下に形成されている。なお、仮想長方形100が入り込む第一溝部61と第二溝部62が軸対称である場合には、ストッパ30の外周側の円板厚さT1は、雌スプライン12aの溝幅以下となる。そして、ストッパ30の外周縁は、中心軸直交方向から見て、外方に突出する湾曲凸状に形成されている。
【0024】
このストッパ30の中心には、軸方向に貫通するボルト挿通穴30aが形成されている。また、ストッパ30の径方向中央付近には、軸方向に貫通するボルト挿通穴30bが、周方向に複数箇所形成されている。そして、ストッパ30は、第一軸部材10の空隙部12cにおいて、第二軸部材20の軸方向一方端に、複数の締結部材としてのボルト51,52により取り付けられている。そして、図3に示すように、ストッパ30を第二軸部材20に取り付けた状態において、ストッパ30の外周側は、第一軸部材10の雌スプライン12aのそれぞれの丘部に対して、軸方向に係合する。従って、ストッパ30は、第二軸部材20が第一軸部材10に対して軸方向他方側へ抜けることを規制することができる。
【0025】
蓋部材40は、円板状に形成されており、軸方向に貫通する複数のボルト挿通穴が形成されている。この蓋部材40は、第一軸部材10の第二開口部12dを閉塞するように、第二開口部12dの軸方向一方側に取り付けられる。
【0026】
(摺動式スプライン軸装置の製造方法)
上述した摺動式スプライン軸装置の製造方法(組立方法)について、図8のフローチャートを主として用い、適宜、図1図7、および図9図10を参照しながら説明する。図8のS1に示すように、第二軸部材20より先にストッパ30を第一開口部12bから挿入して、このストッパ30を雌スプライン12aの溝部を軸方向に通過して空隙部12cに配置する(ストッパ挿入工程)。このストッパ挿入工程において、ストッパ30が雌スプライン12aを通過している状態は、図6および図7に示す。
【0027】
図6および図7に示すように、ストッパ30の中心軸を、第一軸部材10の中心軸に対して直交する状態とする。そして、ストッパ30の外周側が雌スプライン12aの第一溝部61と第二溝部62とを通過するように、ストッパ30を挿入する。ここで、ストッパ30の円板厚みT1(図7に示す)は、雌スプライン12aの第一溝部61および第二溝部62に入り込む仮想長方形100(図5に示す)の短辺W1以下である。従って、ストッパ30は、第一溝部61および第二溝部62を通過可能となる。
【0028】
続いて、図8のS2に示すように、空隙部12cにおいて、ストッパ30を第一軸部材10の中心軸に直交する軸回りに90°回転して、ストッパ30の中心軸と第一軸部材10の中心軸とが一致する状態にする(S2、ストッパ回転工程)。ストッパ30の回転は、作業者の手によって行ってもよいし、治具を用いて行ってもよいし、ストッパ30の自重を利用してもよい。ここで、ストッパ30の外周縁は、中心軸直交方向から見て外方に突出する湾曲凸状に形成されている。従って、ストッパ30は、空隙部12cの壁面に引っ掛かることなく回転できる。
【0029】
続いて、図8のS3に示すように、ストッパ30の次に、第二軸部材20を、第一軸部材10の第一開口部12b側から挿入する。そして、第二軸部材20の雄スプライン22aが第一軸部材10の雌スプライン12aに嵌合される(第二軸部材挿入工程)。ここで、この時点においては、第二軸部材20の軸方向一方端が空隙部12cに位置する状態となるまで、第二軸部材20を第一軸部材10の軸方向一方側に挿入しておく。
【0030】
続いて、図1および図3に示すように、第二開口部12dを利用して、ボルト51,52を締結する。このようにして、図8のS4に示すように、空隙部12cにおいて、第二軸部材20の軸方向一方端にストッパ30を取り付けることができる(ストッパ取付工程)。ここで、ストッパ30は、円板状であるため、ストッパ30の外周側が雌スプライン12aの丘部に対して軸方向に係合する。従って、第二軸部材20は、第一軸部材10に対して軸方向他方側へ抜けることを規制されている。続いて、図8のS5に示すように、第一軸部材10の第二開口部12dに蓋部材40を取り付けて、完成する(蓋部材取付工程)。
【0031】
(効果)
本実施形態によれば、ストッパ30は、第一軸部材10の第一開口部12bから挿入されて、空隙部12cに配置されている。従って、第一軸部材10の雌スプライン12aの軸方向一方側にストッパ30を配置するために、従来のように、第一軸部材10を二分割する必要がない。そのため、従来において第一軸部材10を二分割にするために必要であったフランジ部は、第一軸部材10にとって不要なものとなる。従って、第一軸部材10は、軸方向中央部においてフランジ部を有しないため、小型化および軽量化を図ることができる。
【0032】
ここで、ストッパ30を第一軸部材10の第一開口部12b側、すなわち第二軸部材20が挿入される側から挿入し、雌スプライン12aを通過して空隙部12cに配置している。しかし、空隙部12cに配置されたストッパ30は、第一軸部材10の中心軸に直交する軸周りに回転することで、雌スプライン12aに対して軸方向に係合する状態とされている。このように、ストッパ30は、第一軸部材10の中心軸に直交する軸回りの位相によって、雌スプライン12aを通過可能な状態になったり、雌スプライン12aに対して軸方向に係合する状態になったりする。そこで、空隙部12cにてストッパ30を雌スプライン12aに対して軸方向に係合する位相にして、第二軸部材20の軸方向一方端にストッパ30を取り付けることで、ストッパ30によって、第二軸部材20が第一軸部材10から軸方向他方側へ抜けることを確実に防止できる。
【0033】
また、円板状のストッパ30の円板厚さT1を仮想長方形100の短辺W1以下に形成することで、確実に、ストッパ30は雌スプライン12aを通過できる。そして、空隙部12cにおいて円板状のストッパ30を第一軸部材10の中心軸に直交する軸回りに回転させることで、円板状のストッパ30は、雌スプライン12aの全ての丘部に対して軸方向に係合する状態となる。従って、ストッパ30による係止力を大きくすることができる。
【0034】
ここで、空隙部12cにおいて、ストッパ30を第二軸部材20に取り付けている。そこで、第一軸部材10の軸方向一方側に第二開口部12dを設けることで、当該第二開口部12dを利用してストッパ30を第二軸部材20に容易に取り付けることができる。
【0035】
<その他>
上記実施形態において、ストッパ30は円板状としたがこれに限られるものではない。ストッパ30が雌スプライン12aを通過可能な形状であると共に、空隙部12cにてストッパ30を第一軸部材10の中心軸に直交する軸回りに回転させた状態で、ストッパ30が雌スプライン12aの丘部に対して係合する形状であればよい。例えば、円板状の一部を切り欠いた形状、例えば小判型などとすることもできる。
【符号の説明】
【0036】
10:第一軸部材、 12a:雌スプライン、 12b:第一開口部、 12c:空隙部、 12d:第二開口部、 20:第二軸部材、 22a:雄スプライン、 30:ストッパ、 61:第一溝部、 62:第二溝部、 100:仮想長方形、 W1:仮想長方形の短辺、 T1:ストッパの円板厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10