(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電池の異常時には、電池を速やかに安全化するために大電流で放電し、電池のエネルギーを外部に放出することが必要であるが、特許文献1〜4のような技術では、以下の観点から難しい。
【0011】
特許文献1のような技術では、板状の正極端子と板状の負極端子とにより絶縁層を挟み込んだ構造であるため、振動などの衝撃を与えられた場合に絶縁層が外れて予期せぬ短絡が起こることは否定できず、耐振動性や耐衝撃性の点で問題がある。また、この短絡機構は、正極端子および負極端子に外部から付勢力を与えられることを前提としており、絶縁層が溶融しても外部からの付勢力のために絶縁層の融解物が介在し、抵抗値が低減しにくい構成となっている。このため、この構成では、確実に短絡させて放電させることが難しい。また、特許文献1のような技術では短絡機構(短絡素子)の短絡時の抵抗値の安定性および再現性の問題があるため、電池の異常時に緊急的に放電させることは難しい。
【0012】
また、特許文献2のNTC素子を利用する技術では、通常使用時も微小電流が流れ続けるため電池システムとしての自己放電量が大きくなりこのましくない。
【0013】
同じく特許文献2のバイメタルスイッチを利用する技術では、バイメタルスイッチにより正極端子と負極端子とを短絡させるため、短絡する箇所が構造的に一点となる。しかし、バイメタルスイッチでは、上述のように短絡する箇所が構造的に一点となるため大電流を流すことが難しく、短絡性能を確保することが困難である。バイメタルスイッチの短絡する箇所の面積を大きくし電池の安全化を図ろうとすると、バイメタルスイッチを大きくする必要があり、生産コストが増加してしまうといった問題がある。さらに、バイメタルスイッチの場合には、元々接触していない部分が、温度上昇があってスイッチ部分が変形し接触する事により短絡する。つまり、耐振動性や耐衝撃性が求められる用途においては、安定した絶縁性能を得ることは難しく、短絡素子の信頼性にも問題があると考えられる。
【0014】
また、特許文献3および特許文献4のような技術では、正極と負極とを短絡させる部位が小さい。つまり、正極と負極とが短絡された場合の、短絡経路における抵抗が十分に小さくない。このため、短絡箇所から大電流で放電を行うことは難しく、大電流を流そうとすると短絡箇所の部位を大きくする必要があり好ましくない。
【0015】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、電池に異常が発生して電池内部の温度が過度に上昇した場合に、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることのできる電池短絡素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る電池短絡素子は、第一電極と第二電極とを有する電池に接続される電池短絡素子であって、前記第一電極側に電気的に接続される第一電気伝導体と、前記第二電極側に電気的に接続される第二電気伝導体と、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体との間に配置される絶縁体と、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体との間に配置される低融点合金層と、を有する短絡層と、を備え、前記短絡層は、所定温度未満において前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを絶縁し、所定温度以上において、少なくとも前記低融点合金層の一部または全部が融解することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させる。
【0017】
これによれば、短絡層が、電流を導通させることが可能な低融点合金層と、電流を導通させない絶縁体とにより構成されており、低融点合金層が所定温度以上において一部または全部が融解することにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを直接的または間接的に短絡させる。つまり、低融点合金層が融解し、融解した低融点合金が絶縁体に予め設けられる開口または絶縁体が変形することにより生じる隙間に入り込むことにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを導通状態とさせる。
【0018】
このため、短絡領域において第一電気伝導体と第二電気伝導体とを低融点合金層が融解することにより電気的に接続することができる。また、第一電気伝導体と第二電気伝導体とは箔状部材または板状部材からなるため、短絡領域を容易に大きくすることができる。これにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される箇所を多くすることができ、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。また、短絡領域の調整が容易であるため、短絡時の短絡素子の抵抗を制御することが可能となる。さらに、一旦短絡が始まると、短絡点から発生するジュール熱により短絡面積が逐次的に拡大していくため、確実かつ安定した短絡性能を得ることができる。
【0019】
また、好ましくは、前記絶縁体は、開口が形成されており、前記短絡層は、前記低融点合金層が融解して前記絶縁体の前記開口に流入することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させる。
【0020】
これによれば、絶縁体には開口が形成されており、低融点合金層が融解して絶縁体の開口に流入することにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させる。このため、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される部分を多くすることができ、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
【0021】
また、前記短絡層は、前記低融点合金層が融解し、かつ、前記絶縁体の一部または全部が変形することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させることもできる。
【0022】
これによれば、絶縁体の一部または全部が変形することにより、絶縁体に融解した低融点合金層が流入する隙間(開口)が生じる。このため、短絡層は、所定温度以上となった場合に、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを効率よく短絡させることができる。これにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される部分を多くすることができ、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
【0023】
また、好ましくは、前記短絡層は、前記絶縁体と前記低融点合金層とが積層されることにより成る。
【0024】
また、前記短絡層は、前記低融点合金層が前記絶縁体によりコーティングされることにより成ってもよい。
【0025】
また、好ましくは、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とは、箔状部材または板状部材から成る。
【0026】
また、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とは、前記短絡層を介して積層された状態で巻回されることにより形成されてもよい。
【0027】
また、好ましくは、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とは、前記短絡層を介して積層された状態で蛇腹状に折りたたまれることにより形成される。
【0028】
また、好ましくは、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とは、円筒形状の部材から成り、前記第一電気伝導体および前記第二電気伝導体の一方が他方の内側に重なりあって配置される。
【0029】
また、好ましくは、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体との内で内側に配置される円筒形状の部材は、板状の金属部材が円筒形状の部材の中心軸を囲うように丸められることにより形成される。
【0030】
また、前記短絡層は、前記低融点合金層が、前記短絡領域の内の一部である第一短絡領域に配置され、融点が第一温度である第一低融点合金層と、前記短絡領域の内の前記第一短絡領域とは異なる領域である第二短絡領域に配置され、融点が前記第一温度とは異なる第二温度である第二低融点合金層と、から成ってもよい。
【0031】
これによれば、低融点合金層は、融点が異なる2種類の低融点合金が短絡領域を分割した領域に配置される。つまり、第一温度において融解する第一低融点合金層と、第二温度において融解する第二低融点合金層とが、短絡領域において並んで配置される。このため、温度に応じて第一電気伝導体と第二電気伝導体とが短絡する面積を調整することができる。つまり、温度に応じて第一電気伝導体と第二電気伝導体とが短絡することにより流れる電流の量を段階的に調整することができる。これにより、温度が高い場合には素早く大きな電流を流すことにより安定的に放電させ、温度が低い場合には最低限短絡させて小さい電流を流すことにより必要以上に放電しないように放電量を抑えることができる。
【0032】
また、本発明の一形態にかかる電池短絡システムは、上記に記載の電池短絡素子と、前記電池の異常を判断する異常判断部と、前記短絡層の温度を上昇させる加熱部と、前記電池が異常であると前記異常判断部により判断された場合に、前記加熱部に加熱を行わせる加熱指示部と、を備える。
【0033】
これによれば、異常判断部により電池が異常であると判断された場合に、加熱指示回路は、加熱部に短絡層を加熱させる。このように、異常時における電池の温度上昇にかかる熱を利用すること無く、加熱部に加熱させることにより短絡層の温度を上昇させるため、短絡層を配置する位置を電池近傍とする必要がない。このため、短絡層を配置する位置を、電池近傍ではない位置などに自由に設定できる。このように短絡層の位置を自由に設定できるため、外部からの熱の影響が少ない環境に短絡層を配置することができる。
【0034】
また、加熱部による発熱を利用して低融点金属を融解させるため、例えば、外部からの熱の影響を受け難い程度の高い融点である低融点金属を採用して、採用した低融点金属の融点よりも高い温度に加熱することにより任意のタイミングで短絡層の低融点金属を融解させて正極と負極とを短絡させることができる。
【0035】
これにより、外部からの熱による影響により、電池の異常を誤検知して、電池に異常が生じていない場合であっても、電池の正極と負極とを短絡させることを防ぐことができる。
【0036】
また、前記異常判断部は、前記電池の温度を検出する温度検出部を有し、前記温度検出部により検出された前記電池の温度が異常温度以上になった場合に前記電池が異常であると判断してもよい。
【0037】
また、前記異常判断部は、前記電池の温度を検出する温度検出部と、前記電池の単位時間あたりの温度の変化度を検出する温度変化検出部とを有し、前記温度検出部により検出された前記電池の温度が異常温度以上になり、かつ、前記温度変化検出部により検出された前記電池の単位時間あたりの温度の変化度が所定の変化度以上になった場合に、前記電池が異常であると判断してもよい。
【0038】
また、前記異常判断部は、前記電池の筐体の変形量を検出する変形量検出部を有し、前記変形量検出部により検出された前記電池の変形量が所定の変形量以上になった場合に前記電池が異常であると判断してもよい。
【0039】
また、前記異常判断部は、前記電池の筐体の変形量を検出する変形量検出部と、単位時間あたりの前記電池の筐体の変形量である変形速度を検出する変形速度検出部とを有し、前記変形量検出部により検出された前記電池の筐体の変形量が所定の変形量以上になり、かつ、前記変形速度検出部により検出された前記電池の変形速度が所定の変形速度以上になった場合に前記電池が異常であると判断してもよい。
【0040】
また、本発明は、このような電池短絡素子または電池短絡システムとして実現できるだけでなく、電池短絡素子または電池短絡システムを第一電極側と第二電極側とに配置した電池として実現することもできる。さらに、本発明は、複数の電池が接続されて成る電池モジュールと、電池モジュールの第一電極側と第二電極側とを接続する電池短絡素子または電池短絡システムとから成る電池システムとして実現することもできる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る電池短絡素子によれば、電池に異常が発生して電池内部の温度が過度に上昇した場合にのみ、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本願発明の実施の形態における電池短絡素子について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、本願発明に係る電池短絡素子の一例を示したものに過ぎない。したがって本願発明は、以下の実施の形態を参考に請求の範囲の文言によって範囲が画定されるものであり、以下の実施の形態のみに限定されるものではない。
【0044】
(実施の形態1)
図1は、電池短絡素子を含む電池の概観を模式的に示す斜視図である。
図2は、筐体の壁部の一部を省略して電池の内部を模式的に示す斜視図である。
【0045】
これらの図に示すように、電池100は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる蓄電池であり、より具体的には、非水電解液電池(例えばリチウムイオン電池)等である。電池100は、発電要素101と、筐体102と、電極端子103である第一電極としての正極端子131および第二電極としての負極端子132と、集電部材104である正極集電部材141および負極集電部材142と、電池短絡素子10とを備えている。
【0046】
電池短絡素子10は、
図3に示すように、正極接続部材11と、負極接続部材12と、短絡素子部材13とにより構成される。
図3は、電池短絡素子10の構成を示す斜視図である。
【0047】
正極接続部材11は、電池100の正極端子131と短絡素子部材13とを接続する板状の金属部材である。つまり、正極接続部材11は、正極端子131から短絡素子部材13まで伸びる長方形状の板状部材である。負極接続部材12は、電池100の負極端子132と短絡素子部材13とを接続する板状の金属部材である。つまり、負極接続部材12は、負極端子132から短絡素子部材13まで延びる長方形状の板状部材である。正極接続部材11および負極接続部材12は、金属部材であり、本実施の形態では熱伝導性が高く、電気伝導性にも優れるアルミニウムから成る。
【0048】
以下、
図4A、
図4B、
図4Cおよび
図4Dを用いて電池短絡素子10について説明する。
図4Aは、巻回構造とする前の過程における電池短絡素子の構成を示す図である。
図4Bは、巻回構造とする前の過程における積層された各構成要素の断面図である。
図4Cは、絶縁体フィルムの外観図である。
図4Dは、巻回構造の電池短絡素子の外観図である。
図4Eは、正極接続部材または負極接続部材の長手方向に直交する面における巻回構造の短絡素子部材13の断面図である。
【0049】
短絡素子部材13は、
図4Aに示すように、短絡層20と、第一電気伝導体15と、第二電気伝導体16とから成る。第一電気伝導体15および第二電気伝導体16は、長方形の箔状の金属部材であり、本実施の形態ではアルミニウムから成る。第一電気伝導体15の1辺の全てにおいて、正極接続部材11が接続されており、第一電気伝導体15は正極接続部材11により正極端子131に電気的に接続される。第二電気伝導体16の1辺の全てにおいて、負極接続部材12が接続されており、第二電気伝導体16は負極接続部材12により負極端子132に電気的に接続される。
【0050】
なお、正極接続部材11が第一電気伝導体15に接続される箇所は第一電気伝導体15の1辺の全てでなくとも電気的に接続されていればよく、当該1辺の一部であってもよい。これと同様に、負極接続部材12についても、第二電気伝導体16に接続される箇所は第二電気伝導体16の1辺の全てでなくとも電気的に接続されていればよく、当該1辺の一部であってもよい。
【0051】
短絡素子部材13は、積層された状態では
図4Bに示すように、1層目の短絡層20と、第一電気伝導体15と、2層目の短絡層20と、第二電気伝導体16とが順に積層されている。短絡層20はまた、低融点合金層21と絶縁体フィルム22とを有し、1枚の絶縁体フィルム22が2層の低融点合金層21により挟まれて積層された状態となっている。つまり、短絡層20は、3層構造となっている。なお、
図4Aでは、短絡層20として1層として図示しており、詳細な構成は省略している。
【0052】
低融点合金層21は、融点が70〜250℃の合金が好ましく、さらに言えば、70から150℃の合金がこのましい。例えば、すず(Sn)または鉛(Pb)を含む低融点はんだである。なお、低融点合金層21に使用される合金としては、150℃以上のものであってもよく、例えば融点が200℃の合金であっても効果がある。また、低融点合金層21は、低融点合金にフラックス剤を混合させておく、または、低融点合金層21が接触する層(以下、「接触層」とする。)である絶縁体フィルム22、または、第一電気伝導体15および第二電気伝導体16に予め塗布しておくことが好ましい。このように、フラックス剤を使用することにより、低融点合金層21と、接触層との濡れ性が向上し、容易に接触層の表面に低融点合金層21を層状に塗布することができる。なお、フラックス剤としては、例えば有機酸、アミン類、ハロゲン化物等の少なくとも一種を活性剤として含有するロジンベースのフラックス剤を利用することができる。
【0053】
絶縁体フィルム22は、薄膜状の絶縁体であり複数の開口hが形成される。絶縁体フィルム22は、融点が150℃以上の材質が好ましく、例えばシリコンゴムやテフロン(登録商標)樹脂などである。絶縁体フィルム22はまた、低融点合金層21の合金に対して濡れ性があるシリコンゴムが好ましい。なお、絶縁体フィルム22の融点は低融点金属層21の融点よりも高いことが好ましい。例えば、絶縁体フィルム22の材質が低融点合金層21と同様の融点である70〜250℃の場合は、その融点未満の温度で変形(特に収縮)することにより、不要な短絡を起こすことになり、好ましくない。絶縁体フィルム22は、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16との絶縁を実質的に為している部材であるため、短絡を意図する温度未満の場合には両者を確実に絶縁し、短絡を意図する温度以上となった場合に両者を確実に短絡させることが好ましい。つまり、絶縁体フィルム22は、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを確実に絶縁した状態で、より薄く開口hの面積の割合が大きいことが好ましい。開口hの面積の割合を大きくするためには、開口hの数を増やすことと、一つの開口hの大きさを大きくすることが考えられる。なお、ここでは絶縁体フィルム22として開口hを有する絶縁性シートを示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、絶縁性かつ多孔性を有するものであればよく、絶縁性材料から構成されたネットやメッシュ多孔体(つまり網状の材料)などを用いることができる。
【0054】
短絡層20は、
図4Aに示すように、2つ折りの状態で2つ折りの間に第一電気伝導体15の全体が挟まれる。このように第一電気伝導体15を短絡層20で挟み込んだものの外側に第二電気伝導体16を配置することにより、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが短絡層20を介して積層された状態としている。短絡層20は、上述したように、絶縁体フィルム22を低融点合金層21で挟みこんだ3層構造の層である。このため、短絡層20を介して第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを積層することにより、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とは短絡層20の絶縁体フィルム22により絶縁されていることになる。なお、短絡層20として絶縁体フィルム22の両面に予め低融点合金層21を備えた構成を
図4Aで説明しているが、これに限るものではなく、低融点合金層21は、第一電気伝導体15または第二電気伝導体16に備えた状態で積層される形態であってもよい。また、本発明においては、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とにクリップなどにより付勢力をかけることで、低融点金属が融解時により安定した短絡状態を得ることができる。
【0055】
そして、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが短絡層20を介して積層された状態で、短絡素子部材13は、正極接続部材11および負極接続部材12を中心に、かつ、短絡層20が外側に、なるように1巻き以上巻き込むように巻回されることにより形成される。
【0056】
また、短絡層20は、短絡素子部材13として構成される際に、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16との間であって、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが重なり合う領域(以下、「短絡領域」とする。)に少なくとも配置される。このように短絡層20を配置することにより、短絡素子部材13内部において第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とは絶縁体フィルム22により電気的に絶縁された状態となる。
【0057】
そして、短絡層20は、所定温度(本実施の形態では70〜150℃のいずれかであって、低融点合金層21の融点)以上になると、低融点合金層21が融解し、絶縁体フィルム22の開口hに流入することにより、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを短絡させる。このとき、短絡素子部材13の抵抗値(Ω)は、短絡前に比べて9桁以上低下する。つまり、短絡素子部材13は、通常時は電池の自己放電を小さくするために実質的に絶縁状態であることが必要であり、このましくは1MΩ以上の高抵抗であることが必要である。一方、短絡素子部材13は、短絡状態においては、電池を急速に放電させ電池内のエネルギーを放出させることが必要であるため、低抵抗で端子間を短絡させることが必要である。この短絡時の抵抗は10〜100mΩ程度であることがのぞましい。このように、短絡前後の短絡素子の抵抗変化を9桁以上とすることにより、通常時の自己放電を小さくでき、かつ、短絡時の電池の放電を急速に行うことができる。
【0058】
本実施の携帯における短絡素子部材13によれば、短絡層20が、電流を導通させることが可能な低融点合金層21と、電流を導通させない絶縁体フィルム22とにより構成されており、少なくとも低融点合金層21が所定温度以上において一部または全部が融解することにより、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを直接的に短絡させる。つまり、低融点合金層21が融解し、融解した低融点合金が絶縁体フィルム22に予め設けられる開口hに入り込むことにより、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを導通状態とさせる。
【0059】
このため、短絡領域の複数箇所において第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを低融点合金層21が融解することにより電気的に接続することができる。また、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とは箔状部材から成るため、短絡領域を容易に大きくすることができる。これにより、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16との電気的に接続される箇所を多くすることができ、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子131と負極端子132とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。また、短絡領域の面積の調整が容易であるため、短絡時の短絡素子の抵抗を制御することが可能となる。さらに、一旦短絡が始まると、短絡点から発生するジュール熱により短絡面積が逐次的に拡大していくため、確実かつ安定した短絡性能を得ることができる。
【0060】
また、本実施の形態における短絡素子部材13は、短絡層20に第一電気伝導体15が挟まれた状態で、第二電気伝導体16と積層されて、巻回されて成るこのため、短絡素子部材13の巻回構造の中心側部分が外側に広がろうとする復元力によって、短絡素子部材13の外側の部分と中心側の部分とが近づこうとする。つまり、第一電気伝導体15と、第二電気伝導体16との間には、互いに近づくような付勢力が働いている。このような状態で、絶縁体フィルムが変形すると、さらに確実に第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを短絡させることができる。また、短絡素子部材13を巻回構造とすることにより、後述する積層構造や折りたたみ構造の短絡素子部材よりも耐震性および耐衝撃性が優れたものすることができる。
【0061】
また、本実施の形態における短絡素子部材13は、正極接続部材11および負極接続部材12を中心にして、第一電気伝導体15、第二電気伝導体16、および短絡層20を巻き込んだ巻回構造としている。このように、電池100からの熱を伝導する正極接続部材11および負極接続部材12を短絡素子部材13の中心に配置することにより、短絡素子部材13における正極接続部材11および負極接続部材12からの放熱を防ぐことができる。このため、電池100から異常な熱が発生した場合に、短絡素子部材13に伝わった熱が放熱されることを軽減でき、確実に短絡層20に伝えることができる。これにより、より確実に短絡素子部材13の内部において、電池100において異常が発生したことを検知して、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを短絡させることができる。
【0062】
本実施の形態における短絡素子部材13は、長方形状の第一電気伝導体15と第二電気伝導体16との間に、同じく長方形状の低融点合金層21および絶縁体フィルム22を配置することにより、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを絶縁している。このため、第一電気伝導体15、第二電気伝導体16、および短絡層20の面積(つまり、接触する面積)を調整することにより、絶縁状態における抵抗値と、短絡状態を想定した抵抗値とを容易に調整することができる。このため、電池100の容量の大きさに応じて、最適な抵抗値をもつ短絡素子部材13を製造することが容易となる。
【0063】
このように、本実施の形態における電池短絡素子10は、所定温度以上になると、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを確実に短絡させることができるため、電池100が過充電時などに異常な温度になった場合に、充電電流を逃がしつつ、電池のエネルギーを安全に放出させることができる。
【0064】
(実施の形態1の変形例)
(1)
上記実施の形態1では、短絡層20は、1層の絶縁体フィルム22を2層の低融点合金層21が挟み込むように積層された3層構造であるが、これに限らない。例えば、
図5に示すように、低融点合金層21を絶縁体コーティング22Aにより包み込むようにコーティングすることにより、短絡層20aを構成してもよい。つまり、上記実施の形態の短絡層20とは逆に、短絡層20aは、低融点合金層21の表面に絶縁体としての絶縁体コーティング22Aにより挟みこんだ状態となる。なお、この場合の絶縁体コーティング22Aは、絶縁塗布剤、蝋材、熱収縮フィルム、電気絶縁性の塗料などの材料を採用することが考えられる。
【0065】
より具体的には、絶縁体塗布剤の一例としては、エポキシ系、ウレタン系、シリコン系、アクリル系、またはテフロン(登録商標)系の樹脂がある。この場合に、短絡層20aは所定温度以上になると、低融点合金層21が融解することにより低融点合金層21にコーティングされている絶縁体コーティング22A(絶縁体塗布剤)が断裂および崩壊し、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを低融点合金層21が電気的に接続することにより短絡させる。
【0066】
蝋材の一例としては、パラフィン系ワックスがある。この場合に、短絡層20aは所定温度以上になると、低融点合金層21が融解し、さらに絶縁体コーティング22A(ろう材)が、低融点合金層21が融解した後または同時に融解することにより生じた隙間から溶融した合金がしみ出すことにより第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを低融点合金層21が電気的に接続することにより短絡させる。
【0067】
熱収縮フィルムの一例としては、ポリスチレン系またはポリエステル系のフィルムがある。この場合に、短絡層20aは所定温度以上になると、絶縁体コーティング22A(熱収縮フィルム)が熱収縮することにより、絶縁体コーティング22Aに隙間が生じる。同時に、短絡層20aにおいては、低融点合金層21が融解していることから、絶縁体コーティング22Aに生じた隙間に融解した低融点合金層21が流入し、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを低融点合金層21が電気的に接続することにより短絡させる。
【0068】
電気絶縁性の塗料の場合には、短絡層20aは、絶縁体塗布剤の場合と同様に作用して、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを短絡させる。
【0069】
変形例(1)の短絡素子部材13によれば、絶縁体コーティング22Aの一部または全部が変形することにより、絶縁体コーティング22Aに融解した低融点合金層21が流入可能な隙間が絶縁体コーティング22Aに生じる。このため、短絡層は、所定温度以上となった場合に、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とを効率よく短絡させることができる。これにより、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16との電気的に接続される箇所を多くすることができ、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。また、変形例(1)のような絶縁体コーティング22Aにより低融点合金層21をコーティングして短絡層20aを構成する場合、上記実施の形態の短絡層20よりも安価に製造可能である。
【0070】
(2)
上記実施の形態1では、短絡層20は、低融点合金層21が1種類の合金により成るが、複数種類の合金により構成してもよい。例えば、
図6は、4種類の異なる融点の低融点合金により構成される低融点合金層21Aを有する短絡層20bの一例を示す断面図である。
図6に示すように、低融点合金層21Aは、第一低融点合金層21a、第二低融点合金層21b、第三低融点合金層21cおよび第四低融点合金層21dの4種類の異なる融点を有する低融点合金から成る。ここで、第一低融点合金層21aの低融点合金の融点は第一温度であり、第二低融点合金層21bの低融点合金の融点は第二温度であり、第三低融点合金層21cの低融点合金の融点は第三温度であり、第四低融点合金層21dの低融点合金の融点は第四温度である。そして、第二温度は第一温度より大きく、第三温度は第二温度より大きく、第四温度は第三温度より大きい関係にある。また、もちろん
図7に示すように、
図6に示す低融点合金層21Aを絶縁体コーティング22Aによりコーティングした形態のものであってもよい。
【0071】
これによれば、低融点合金層21Aは、融点が異なる4種類の低融点合金が短絡領域を分割した領域に配置される。つまり、第一温度において融解する第一低融点合金層21aと、第二温度において融解する第二低融点合金層21bと、第三温度において融解する第三低融点合金層21cと、第四温度において融解する第四低融点合金層21dとが、短絡領域において並んで配置される。このため、温度に応じて第一電気伝導体と第二電気伝導体とが短絡する面積を段階的に調整することができる。つまり、温度が高温になる程、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが短絡層20bにより短絡される面積が段階的に増加するため、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが短絡することにより流れる電流の量を段階的に増加させることができる。これにより、温度上昇が大きい場合には素早く大きな電流を流すことにより安定的に放電させ、温度上昇が小さい場合には最低限短絡させて小さい電流を流すことにより必要以上に放電しないように放電量を抑えることができる。
【0072】
(3)
上記実施の形態1では、特に言及していないが、短絡素子部材13は、
図8のように負極側に配置されるように構成してもよい。つまり、第二電気伝導体16と負極端子132との第二距離は、第一電気伝導体15と正極端子131との第一距離よりも短い。なお、この場合の第一距離は、第一電気伝導体15と正極端子131とを電気的(または熱的)に接続する物質における距離であり、本実施の形態では正極接続部材11の長さである。このことは、第二距離についても同じことが言え、第二距離は、第二電気伝導体16と負極端子132とを電気的(または熱的)に接続する物質における距離であり、本実施の形態では負極接続部材12の長さである。電池100において、負極端子132は正極端子131よりも熱伝導性の大きい銅で構成されることが多い。このような場合には特に、電池100において発生した熱は負極端子から効率良く伝わるため、短絡素子部材13を正極端子より負極端子に近づけて配置することにより、正極接続部材11または負極接続部材12において放出される熱による温度低下の影響がほとんどなくなる。このため、短絡素子部材13は、より早く、正確に電池100において異常な熱が発生していることを検知して、電池100の正極端子と負極端子とを短絡させることができる。
【0073】
また、第二電気伝導体16と負極端子132との距離を第一電気伝導体15と正極端子131との距離よりも近づける事に限定されない。例えば、負極端子132に接続される第二電気伝導体16を素早く高温にするために、負極接続部材12の熱伝導性を高めてもよい。具体的には、負極接続部材12の素材を銅にすることにより、負極接続部材12の熱伝導率を正極接続部材11の熱伝導率よりも大きくするような構成としてもよい。なお、この場合には、電池100に生じた熱を第二電気伝導体16へ伝えて、第二電気伝導体16の温度を上げることにより、短絡層20が所定温度以上にすることが目的である。このため、第二電気伝導体16と負極端子132とを接続する負極接続部材12には、第二電気伝導体16以外の部分への熱の放出を避けるために断熱処理または遮熱処理を行うこともできる。
【0074】
(4)
上記実施の形態1では、特に言及していないが、短絡素子部材13は、その外側が樹脂部材(ラミネートなどの類を含む)で覆われて構成されてもよい。このように、短絡素子部材13が構成されることにより、短絡素子部材13は、外側に配置される短絡層20の辺を留めなくともよい。つまり、短絡素子部材13の外側に樹脂部材をかぶせることにより、短絡素子部材13の中心から働く復元力を利用して抑えつけることが容易にできる。また、短絡素子部材13の全体を覆うため第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが予期せずに短絡することを確実に防ぐことができる。
【0075】
(5)
上記実施の形態1では、短絡素子部材13は、第一電気伝導体15と、第二電気伝導体16と、短絡層20とが積層されて巻きつけられて巻回構造を形成しているが巻回構造に限定されない。
【0076】
例えば、
図9Aおよび
図9Bに示すように、複数の(3枚の)第一電気伝導体15と、複数の(3枚の)第二電気伝導体16とを複数の短絡層20を介して交互に積層させた短絡素子部材13aとしてもよい。なお、
図9Aは、積層構造の短絡素子部材13aの外観図であり、
図9Bは、正極接続部材または負極接続部材の長手方向に沿っておりかつ短手方向に直交する面における積層構造の短絡素子部材13aの断面図である。なお、この場合に、積層される複数の第一電気伝導体15は、正極側接続部分41により導通された状態とされ、正極側接続部分41が正極接続部材11と接続される。これにより、複数の第一電気伝導体15は、正極端子131と接続される。同様にして、積層される複数の第二電気伝導体16は、負極側接続部分42により導通された状態とされ、負極側接続部分42が負極接続部材12と接続される。これにより、複数の第二電気伝導体16は、負極端子132と接続される。なお、正極側接続部分41および負極側接続部分42は、金属部材であり、第一電気伝導体15および第二電気伝導体16と同様の材料から成る。
【0077】
また、例えば、
図10Aおよび
図10Bに示すように、1枚の箔状の第一電気伝導体15と、1枚の箔状の第二電気伝導体16とを1層の短絡層20を介して積層し、積層した状態で蛇腹状に折りたたむことにより、挟込部分を形成してもよい。なお、
図10Aは、折りたたみ構造の短絡素子部材13bの外観図であり、
図10Bは、正極接続部材または負極接続部材の長手方向に直交する面における折りたたみ構造の短絡素子部材13bの断面図である。なお、この場合に、第一電気伝導体15の1辺には正極接続部材11が接続され、第二電気伝導体16の1辺には負極接続部材12が接続される。
【0078】
図9Aおよび
図9B、または、
図10Aおよび
図10Bのように、短絡素子部材を構成するようにしても、箔状部材および薄膜状部材を積層させて短絡素子部材を構成しているため、短絡層20が所定温度以上となって低融点合金層21が融解した場合に、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが接触する面積を大きくすることができ確実に短絡させることができる。また、上記実施形態と同様に、第一電気伝導体15が、短絡層20を介して第二電気伝導体16によって挟みこまれる。このため、短絡層20(特に絶縁体フィルム22)が振動などの衝撃によって外れることを防ぐことができる。このため、意図しない条件において第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが短絡することを防ぐことができる。
【0079】
(6)
上記実施の形態1の電池短絡素子10は、正極接続部材11および負極接続部材12が板状の金属部材であるが、板状に限らずに、
図11A、
図11Bおよび
図11Cに示すように円筒形状の金属部材であっても良い。
図11Aは、円筒形状の金属部材を正極接続部材11aおよび負極接続部材12aとして採用した電池短絡素子10cの外観図である。
図11Bは、電池短絡素子10cの円筒の中心軸に垂直な面における断面図である。
図11Cは、電池短絡素子10cの円筒の中心軸に沿う面における断面図である。
【0080】
これらの図に示すように、正極接続部材11aおよび負極接続部材12aは、円筒状の金属部材であり、正極接続部材11aの内側に負極接続部材12aが配置される。正極接続部材11aと負極接続部材12aとの間には、両者の円筒形状に沿うように層状に低融点合金層21Bおよび絶縁体層22Bが積層される。なお、
図11Bおよび
図11Cでは、低融点合金層21Bの内側に絶縁体層22Bが積層されているが、絶縁体層22Bの内側に低融点合金層21Bが積層される形態であってもよい。また、同様に、正極接続部材11aの内側に負極接続部材12aが配置されているが、負極接続部材12aの内側に正極接続部材11aが配置されていてもよい。つまり、短絡層20dとしての低融点合金層21Bおよび絶縁体層22Bは、正極接続部材11aと負極接続部材12aとの間に積層され、かつ、短絡層20dが両者に接触した状態で構成されていればよい。
【0081】
このように、正極接続部材11aおよび負極接続部材12aを円筒形状の金属部材により構成することにより、低融点合金層21Bが融解した場合であっても、融解した低融点合金が流れ出すことを防ぐことができる。このため、電池100に異常が生じた際に、確実に正極接続部材11aと負極接続部材12aとを短絡させることができる。
【0082】
また、
図11Bに示すように、正極接続部材11aの内側に配置される負極接続部材12aは、断面形状が連続した円形であるが、これに限らずに、例えば、
図12Aに示す電池短絡素子10dとして、内側に配置される負極接続部材12bが板状の金属部材を円筒形状の部材の中心軸を囲うように丸められることにより形成されるように構成してもよい。また、絶縁体層22Bの代わりに板状の絶縁体層22Cを円筒形状の部材の中心軸を囲うように丸めることにより形成してもよい。この場合、絶縁体層22Cは、上記低融点合金層21Bとの組み合わせによる短絡層20eを形成する。なお、上記負極接続部材12bおよび絶縁体層22C以外の電池短絡素子10dを構成する構成要素である、正極接続部材11aおよび低融点合金層21Bについては、上記の電池短絡素子10cの構成要素と同様の構成である。
【0083】
さらに、
図12Bに示すように、
図12Aに示す電池短絡素子10dにおいて、正極接続部材11aの内側に配置される負極接続部材12bおよび絶縁体層22Cの代わりに、板状の部材を丸めてその一部が重なった状態の円筒形状の負極接続部材12cおよび絶縁体層22Dを採用した電池短絡素子10eとしてもよい。この場合、絶縁体層22Dは、上記低融点金属層21Bとの組み合わせによる短絡層20fを形成する。なお、上記負極接続部材12cおよび絶縁体層22D以外の電池短絡素子10dを構成する構成要素である、正極接続部材11aおよび低融点合金層21Bについては、上記の電池短絡素子10cの構成要素と同様の構成である。
【0084】
また、板状の部材を丸めて円筒形状にする部材は、少なくとも最も内側に配置される部材(変形例(6)では負極接続部材)であればよい。さらに、
図12Aおよび
図12Bに示すような電池短絡素子10d、10eのような形態が採用される場合に、最も外側に配置される部材(変形例(6)では正極接続部材)は、その軸断面が連続した円形状である必要がある。また、正極接続部材11aの内側に配置されるすべての部材が板状の部材を丸めることにより円筒形状の部材を構成するような形態としてもよい。また、正極接続部材11aの内側に配置される部材について、その複数が板状の部材を丸めることにより円筒形状の部材を構成する形態が採用される場合には、最も内側に配置される部材から連続して隣り合う部材の複数全てが板状の部材を丸めることにより円筒形状の部材を構成する必要がある。すなわち、板状の部材を丸めることにより形成された円筒部材が、軸断面が連続した円形状である円筒部材によって挟まれるような構成は取らない。また、
図12Aおよび
図12Bに示す、電池短絡素子10d、10eは、正極接続部材11aの内側に負極接続部材12b、12cが配置されているが、正極接続部材と負極接続部材との正負極の接続先を入れ替えて正極接続部材と負極接続部材との役割を逆にしてもよい。
【0085】
このように、電池短絡素子10d、10eは、内側に配置される部材が板状の部材を丸めることにより円筒形状の部材を形成しているため、内側から外側に配置される円筒形状の部材に対して復元力による圧力をかけることができる。つまり、内側に配置される円筒形状の部材の外径は、外側に配置される円筒形状の部材の内径よりも少し大きい状態で挿入されることにより形成される。これにより、正極接続部材と負極接続部材との間の短絡層に圧力を掛けることができ、電池に異常が発生して低融点金属層が融解した場合にスムーズに電池を短絡させることができる。
【0086】
(7)
上記実施の形態1の電池短絡素子10は、所定温度として70〜250℃で低融点合金層21が融解して第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが短絡しているが、例えば、電池に使用するセパレータのシャットダウン温度以下であることが好ましい。これにより、電池100が電池セパレータによりシャットダウンする以前に電池短絡素子10が短絡することにより電池100を放電させることができる。このため、より安全に電池100のエネルギーを放出させることができる。
【0087】
また、上記全ての形態の電池短絡素子10(本発明の請求項1〜10)では、電池短絡素子自体が熱を感知して作動することが必要であるため、電池の近傍に配置することがのぞましく、また電池内の温度に応じて温度上昇が生じやすい電極端子近傍への設置がのぞましい。
【0088】
また、本発明においては、第一電気伝導体と第二電気伝導体とに付勢力をかけることにより、低融点金属が融解時により安定した短絡状態を得ることができる。
【0089】
上記実施の形態の電池短絡素子10では、特に言及していないが、さらに、短絡素子部材13の表面に外部の空気への放熱を促す伝熱フィンを設けてもよい。これにより、短絡素子部材13に伝導してきた熱を放熱することができるため、電池100が過熱することを防止することができる。なお、この構成は、正極接続部材11または負極接続部材12とは離れた位置に設けることが好ましい。なぜなら、正極接続部材11または負極接続部材12の近くに伝熱フィンを設けると、電池100に異常が発生したときに生じる熱を短絡層20に伝えることができず、電池短絡素子10を迅速に作動させることが困難に成るからである。その一方で、伝熱フィンを正極接続部材11もしくは負極接続部材12とは離れた位置に設ける、または、正極接続部材11および負極接続部材12を短絡素子部材13の中心に配置することにより、電池100の異常による発熱を効率よく放熱することができる。
【0090】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図13は、本発明の実施の形態2に係る電池短絡システムを含む電池の外観を模式的に示す斜視図である。
【0091】
図13に示すように、電池200は、
図1に示された実施の形態1における電池短絡素子10に代えて、電池短絡システム110を備える。電池200の、電池短絡システム110以外の構成は、実施の形態1における電池100の構成と同様であるので説明を省略する。
【0092】
電池短絡システム110は、円柱形の短絡作動部120と、異常判断回路121と、正極端子131に接続される正極リード線11bおよび負極端子に接続される負極リード線12bとから成る。
【0093】
図14(a)は短絡作動部120の円柱の中心軸に垂直な面における断面図であり、
図14(b)は短絡作動部120の中心軸に沿う面における断面図である。
図15は、電池短絡システムの機能ブロック図である。
【0094】
短絡作動部120は、短絡素子部材113と、ヒータ30と、断熱部材40と、加熱指示回路31と、加熱温度センサ32とにより構成される。
【0095】
短絡素子部材113は、正極端子131に正極リード線11bにより電気的に接続される第一電気伝導体15と、負極端子132に負極リード線12bにより電気的に接続される第二電気伝導体16と、第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とに挟み込まれる短絡層20とから構成される。つまり、正極リード線11b、負極リード線12bおよび短絡素子部材113は、組み合わされることにより実施の形態1の電池短絡素子10と同様に機能する。なお、第一電気伝導体15、第二電気伝導体16、および短絡層20は、実施の形態1において説明した同様の文言および符号のものと材料および機能が同一であるので詳細な説明は省略する。また、短絡層20の代わりに実施の形態1の変形例(1)で説明した短絡層20aを採用してもよい。
【0096】
ヒータ30は、短絡素子部材113を囲う円筒形状であり、例えばコイル状に繰り返し巻回した電熱線により構成される。ヒータ30は、電流が流されることによりジュール熱を発生し、流される電流が大きいほど多くの熱を発生する。
【0097】
断熱部材40は、ヒータ30の外表面の外側に配置される円筒形の部材であり、外部の熱を遮断する。断熱部材40は、外部からの熱が短絡素子部材113に影響することを防ぐ。具体的には、断熱部材40は、外部からの熱により短絡素子部材113が短絡することを防ぐ。
【0098】
加熱指示回路31は、異常判断回路121より電池に異常があることを示す信号を受信した場合に、加熱温度センサ32が検出した検出値に基づいて、ヒータ30の加熱量の制御を行う。
【0099】
加熱温度センサ32は、短絡素子部材113の温度を検出する温度センサであり、例えばサーミスタから成る。加熱温度センサ32は、ヒータ30の内部であって短絡素子部材113に接触した状態で配置され、短絡素子部材113の温度を検出する。
【0100】
異常判断回路121は、異常判断部として機能し、電池に異常があると判断した場合に、その旨を知らせる信号を加熱指示回路31に送信する。異常判断回路121は、電池温度センサ122を有し、電池温度センサ122により検出された電池の温度が異常温度以上になった場合に電池200が異常であると判断する。なお、ここでいう「異常温度」は、予め出荷時に電池200に対応して設定される温度であり、電池200に異常が発生したと推定される温度である。
【0101】
電池温度センサ122は、電池200の温度を検出する温度センサであり、例えばサーミスタから成る。電池温度センサ122は、電池200の筐体102の外側に接触した状態で配置され、電池200の筐体102の温度を検出する。なお、電池温度センサ122の配置される位置は、上述に限らずに、筐体102の内部であってもよい。
【0102】
加熱指示回路31は、加熱指示テーブル31aを有しており、ヒータ30が所定の温度になるように加熱温度センサ32が検出する温度に基づいて、フィードバック制御する。
【0103】
これによれば、異常判断回路121により電池が異常であると判断された場合に、加熱指示回路31は、ヒータ30に通電を開始し、ヒータ30に短絡層20を加熱させる。このように、異常時における電池200の温度上昇にかかる熱を利用すること無く、ヒータ30に加熱させることにより短絡層20の温度を上昇させるため、短絡層20を配置する位置を電池200と接触する位置に配置する必要がない。このため、短絡層20を配置する位置を、電池200に接触しない位置などに自由に設定できる。このように短絡層20の位置を自由に設定できるため、外部からの熱の影響が少ない環境に短絡層20を配置することができる。
【0104】
また、ヒータ30による発熱を利用して低融点合金21を融解させるため、例えば、外部からの熱の影響を受け難い程度の高い融点である低融点合金を採用して、採用した低融点金属の融点よりも高い温度に加熱することにより任意のタイミングで短絡層20の低融点金属21を融解させて正極と負極とを短絡させることができる。
【0105】
これにより、外部からの熱による影響により、電池の異常を誤検知して、電池に異常が生じていない場合であっても、電池の正極と負極とを短絡させることを防ぐことができる。
【0106】
(実施の形態2の変形例)
(1)
上記実施の形態2における電池短絡システム110では、異常判断回路121は電池温度センサ122を有しており、電池の温度を検出することにより電池の異常を判断しているが、これに限らない。
【0107】
例えば、
図16に示す電池短絡システム110aの異常判断回路121aのように、異常判断回路121aが、電池温度センサ122aの他にさらに、温度変化検出部123aを有する構成であってもよい。なお、電池短絡システム110aは、異常判断回路121a以外のヒータ30、加熱指示回路31、加熱テーブル31a、加熱温度センサ32および短絡素子部材113は、上記実施の形態2の電池短絡システム110と同様であるため説明を省略する。また、電池温度センサ122aについても、上記実施の形態2の電池短絡システム110の電池温度センサ122と同様であるため説明を省略する。
【0108】
温度変化検出部123aは、電池200の単位時間あたりの温度の変化度を検出する。具体的には、温度変化検出部123aは電池温度センサ122aにより検出された温度を所定時間毎に取得することにより、温度の変化速度を検出する。
【0109】
異常判断回路121aは、電池温度センサ122aにより検出された電池200の温度が異常温度以上になり、かつ、電池200の単位時間あたりの温度の変化度が所定の変化度(つまり温度上昇速度)以上になった場合に電池200が異常であると判断する。
【0110】
このように、異常判断回路121aは、電池200の温度が異常温度に達したことだけでなく、電池200の温度上昇速度に達したか否かについても、電池200の異常の判断材料としているため、例えば外気温度が影響することによる温度上昇を電池200の異常と判断するような電池200の異常の誤検知を低減させることができる。このため、電池200に異常がない場合に、短絡素子部材113を短絡させることを防ぐことができ無駄に電池200がエネルギーを放出することを防ぐことができる。
【0111】
(2)
また、例えば、
図17に示す電池短絡システム110bの異常判断回路121bのように、実施の形態2の異常判断回路121の電池温度センサ122の代わりに電池200の筐体102の変形量を検出する変形量検出部としてのひずみゲージ122bを利用してもよい。なお、電池短絡システム110bは、異常判断回路121b以外のヒータ30、加熱指示回路31、加熱テーブル31a、加熱温度センサ32および短絡素子部材113は、上記実施の形態2の電池短絡システム110と同様であるため説明を省略する。これは、電池200に異常が生じる場合には、電池200の筐体102内部の圧力が上昇し筐体102が膨張することがあることに基づいている。
【0112】
これにより、実施の形態2の電池短絡システム110と同等の効果を得ることができる。なお、変形量検出部は、ひずみゲージ122bに限らずに、例えば、筐体102の内部の発電要素101、集電体104などから筐体102に対して加えられる圧力を検出する感圧センサ筐体102の内側に設けることにより実現(電池200の筐体102の変形量を検出)してもよい。
【0113】
(3)
また、例えば、
図18に示す電池短絡システム110cの異常判断回路121cのように、異常判断回路121cが、ひずみゲージ122bの他にさらに、変形速度検出部123cを有する構成であってもよい。なお、電池短絡システム110cは、異常判断回路121c以外のヒータ30、加熱指示回路31、加熱テーブル31a、加熱温度センサ32および短絡素子部材113は、上記実施の形態2の電池短絡システム110と同様であるため説明を省略する。また、ひずみゲージ122cについても、上記実施の形態2の変形例(2)の電池短絡システム110bのひずみゲージ122cと同様であるため説明を省略する。
【0114】
変形速度検出部123cは、単位時間あたりの電池200の筐体102の変形量である変形速度を検出する。具体的には、変形速度検出部123cは、ひずみゲージ122cにより検出された筐体102の変形量を所定時間毎に取得することにより、単位時間あたりの電池200の筐体102の変形量である変形速度を検出する。
【0115】
異常判断回路121cは、ひずみゲージ122cにより検出された電池200の筐体102の変形量が所定の変形量以上になり、かつ、変形速度検出部123cにより検出された電池200の変形速度が所定の変形速度以上になった場合に電池200が異常であると判断する。
【0116】
このように、異常判断回路121cは、電池200の筐体102の変形量が所定の変形量に達したことだけでなく、電池200の変形速度に達したか否かについても、電池200の異常の判断材料としているため、例えば外気温度が影響することによる変形量の増加を電池200の異常と判断するような電池200の異常の誤検知を低減させることができる。このため、電池200に異常がない場合に、短絡素子部材113を短絡させることを防ぐことができ無駄に電池200がエネルギーを放出することを防ぐことができる。
【0117】
(4)
上記実施の形態2の短絡作動部120内部の短絡素子部材113を構成する短絡層20は、1種類の低融点合金層21から成るが、この短絡層20を採用することに限らない。例えば、実施の形態1の変形例(2)で説明したような、種類の異なる融点を有する複数種類の低融点合金を有する、短絡層20bまたは短絡層20cを採用してもよい。
図19は、短絡層20cを採用した場合の短絡作動部120aを示す図である。ここでは、短絡層20bを採用する場合の図は省略する。
【0118】
短絡作動部120a内部の短絡層20cに融点の異なる複数の低融点金属を使用すると、例えば、異常判断回路121に段階的に電池の異常を判断させて、加熱指示回路31がヒータ30の温度を異常の度合に応じて段階的に制御することにより、短絡素子部材113の短絡層20cによって短絡される第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが電気的に接続される領域を段階的に増加させることができる。つまり、電池200の温度に応じて第一電気伝導体15と第二電気伝導体16とが短絡することにより流れる電流の量を段階的に調整することができる。これにより、温度上昇速度が大きい場合には素早く大きな電流を流すことにより安定的に放電させ、温度上昇速度が小さい場合には最低限短絡させて小さい電流を流すことにより必要以上に放電しないように放電量を抑えることができる。
【0119】
(5)
上記実施の形態2の電池温度センサ122としては、サーミスタを採用しているが、これに限らずに、例えば、融点の異なる複数の低融点金属が採用されている短絡層20bまたは短絡層20cを採用した電池短絡素子を採用してもよい。
【0120】
(他の実施の形態)
(1)
上記実施の形態の電池短絡素子10では、第一電気伝導体15および第二電気伝導体16はアルミニウムから成るが、これに限らずに、熱伝導性が高いものであればよい。例えば、第一電気伝導体15および第二電気伝導体16の少なくともどちらか一方が、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス、および他の金属材料の中から選択できる。また、同様に、正極接続部材11および負極接続部材12はアルミニウムから成るが、これに限らずに、熱伝導性が高いものであればよい。例えば、正極接続部材11および負極接続部材12の少なくともどちらか一方が、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス、および他の金属材料の中から選択できるいずれかであればよい。
【0121】
(2)
上記実施の形態の電池短絡素子10は、一つの電池100の負極端子132と正極端子131とを短絡させるものであるが、一つの電池100に限らずに、複数の電池を組み合わせたものに対して適用してもよい。例えば、電池短絡素子10は、複数の電池が直列に接続された電池システムに対して適用してもよいし、複数の電池が並列に接続された電池システムに対してそのすべての電池もしくは複数の電池間に短絡素子を用いることによって適用してもよいし、複数の電池が直並列に接続された電池システムに対して適用してもよい。
【0122】
(3)
上記実施の形態の電池100では、負極端子132と正極端子131とを一つの電池短絡素子10により短絡可能な状態に接続しているが、これに限らずに、負極端子132と筐体102との間と、正極端子131と筐体102との間とをそれぞれ一つずつの電池短絡素子10により短絡可能な状態に接続してもよい。筐体102は、電気導電性のある例えば金属部材により構成されている。このため、上記のような構成としても、電池100に異常な熱が生じた場合に、負極端子132と筐体102とが短絡し、かつ、正極端子131と筐体102とが短絡することにより、負極端子132と正極端子131とを短絡させることができる。また、このように、2つの電池短絡素子10により負極端子132と正極端子131とを短絡可能な状態に接続することで、何らかの異常により一方の電池短絡素子10が短絡してしまっても、正常な状態の電池100を短絡して放電することを防ぐことができる。
【0123】
(4)
上記実施の形態の電池短絡素子10では、特に言及していないが、さらに、例えば短絡素子部材13の表面に一定温度以上になったら色が変化するサーモテープを貼ってもよい。このように、電池短絡素子10を構成することにより、サーモテープの色の変化を、電池100に異常が発生して電池短絡素子10が作動したか否かを判定するための指標に利用することができる。
【0124】
(5)
上記実施の形態の電池短絡素子10では、第一電気伝導体15は正極端子131と正極接続部材11を介して接続され、第二電気伝導体16は負極端子132と負極接続部材12を介して接続されているが、これに限らずに、第一電気伝導体15が負極端子132と接続され、第二電気伝導体16が正極端子131と接続されるようにしてもよい。