【文献】
山内美穂, 北川宏,ポリマー保護CuPdナノ粒子の水素吸蔵特性,日本化学会講演予稿集,2005年 3月11日,Vol. 85th No1,385
【文献】
山内美穂, 北川宏,ポリマー被覆PdCuナノ粒子の水素吸蔵特性,分子構造総合討論会2004講演要旨集,2004年 9月 1日,Vol. 2004 No1,1P027
【文献】
K. Sun, J. Liu, N. K. Nag, N. D. Browning,Atomic Scale Characterization of Supported Pd-Cu/γ-Al2O3 Bimetallic Catalysts,J. Phys. Chem. B,2002年11月28日,Vol.106, No.47,12239-12246
【文献】
Yuan Wang, Hanfan Liu, Naoki Toshima,Nanoscopic Naked Cu/Pd Powder as Air-Resistant Active Catalyst for Selective Hydration of Acrylonitrile to Acrylamide,J. Phys. Chem.,1996年12月12日,Vol.100, No.50,,19533-19537
【文献】
Jurka Batista, Albin Pintar, Jana Padeznik Gomilsek, Alojz Kodre, Frederic Bornette,On the structural characteristics of γ-alumina-supported Pd-Cu bimetallic catalysts,Applied Catalysis A; General,2001年 9月 3日,Vol.217, No.1/2,55-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水素雰囲気への暴露処理は、30〜150℃の範囲の温度での第一段階と40〜250℃の範囲の温度での第二段階とからなり、かつ第一段階と第二段階の温度差が10〜100℃の範囲である請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のCuPd合金ナノ粒子の作製法としては、前記のように、高沸点の有機溶媒を用いた熱分解法、あるいは多価アルコールを溶媒、還元剤として高温度で長時間かけて合成する多価アルコール法が知られている。
【0009】
上記の熱分解法では、原料に酢酸銅及び酢酸パラジウムを使用し、高沸点の有機溶媒(例えば、2-エトキシエタノール(兼還元剤)、メチルイソブチルケトン、キシレン、ブロモベンゼン)に溶解し保護剤であるポリビニルピロリドン(PVP)を混合したのち、二時間ほど還流する(110-156℃)ことで、原料の金属塩が熱分解され、CuPdナノ粒子が合成される。しかし、CuPdナノ粒子とともにCu
2Oナノ粒子が副生する場合がある(非特許文献1)が、CuPdナノ粒子のみが得られたとの報告もある(非特許文献2)。
【0010】
多価アルコール法では、原料に硫酸銅及び酢酸パラジウム、保護剤にPVPを用いて合成される。溶媒であり還元剤でもあるグリコールに上記金属塩、PVP、NaOH(pH調整)を溶解し、198℃で3時間還流することでCuPdナノ粒子が得られる(非特許文献3、4)。
【0011】
このように熱分解法及び多価アルコール法のいずれの方法でも、110℃を超える高温での処理が必要である。
【0012】
これらの方法で作製されたCuPd合金ナノ粒子は、構成金属の小さなドメインを含み、混合のムラなどがある不均一な合金のナノ粒子である。不均一な合金のナノ粒子では、電気的あるいは化学的特性が低く、安定した触媒特性が得られないなどの問題がある。また、いずれの方法も、生産効率が悪く、作製コストが高くなるという問題もある。
【0013】
また、特許文献1には、保護剤を用いた貴金属を含む金属のコロイドの調製方法が記載され、貴金属としてパラジウムが記載され、かつ貴金属以外の金属として銅の記載がある。しかるに、パラジウムと銅の合金からなるコロイドについての実施例の記載はなく、特許文献1に記載の方法によって、CuPd合金ナノ粒子が調製されることは確認できない。
【0014】
本発明は、光触媒、燃料電池の電極触媒として使用しても十分な触媒活性と、耐被毒性を有するCuPd合金ナノ粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、上記CuPd合金ナノ粒子を用いた触媒用組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明は以下のとおりである。
[1]
結晶構造がB2型またはL1
2型であり、平均粒子径が1〜200nmであり、かつCu
xPd
(1-x)で示される(但し、B2型の場合は0.3<x<0.7であり、L1
2型の場合は0.7≦x≦0.98である)、CuPd合金ナノ粒子。
[2]
下記式(1)で表される規則化度が95%以上である[1]に記載のCuPd合金ナノ粒子。
(1−(m−M)/M)×100% (1)
m:CuPd合金ナノ粒子の格子定数
M:Cu原子とPd原子が規則的に配列したバルクの格子定数
[3]
[1]または[2]に記載のCuPd合金ナノ粒子と保護ポリマーとを含む組成物。
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載のCuPdナノ合金粒子を担体に担持した触媒用組成物。
[5]
担体は、無機化合物である[4]に記載の触媒用組成物。
[6]
触媒は、水分解水素発生反応、水分解酸素発生反応、または有機物分解反応に対するものである[5]または[6]に記載の触媒用組成物。
[7]
水または水溶液中に保護ポリマーの存在下でCuイオン及びPdイオンの分散液または溶解液を調製し、
得られた分散液または溶解液に、前記Cuイオン及びPdイオンに対する還元剤を添加して、Cuイオン及びPdイオンを還元してCuPdナノ粒子を調製する
ことを含むCuPdナノ粒子の製造方法。
[8]
前記分散液または溶解液中のCuイオンとPdイオンのモル比が0.3超:0.7未満〜0.7未満:0.3超の範囲であり、
還元温度を10℃以上とし、結晶構造がB2型であり、かつCu
xPd
(1-x)で示される(但し、0.3<x<0.7)CuPdナノ粒子を調製する[7]に記載の製造方法。
[9]
前記分散液または溶解液中のCuイオンとPdイオンのモル比が0.01:0.99〜0.99:0.01の範囲であり、
還元温度を10℃未満とし、結晶構造がfcc型であり、かつCu
xPd
(1-x)で示される(但し、0.01≦x≦0.99)CuPdナノ粒子を調製する[7]に記載の製造方法。
[10]
前記分散液または溶解液中のCuイオンとPdイオンのモル比が0.7:0.3〜0.98:0.02の範囲であり、
還元温度を10℃以上とし、結晶構造がL1
2型であり、かつCu
xPd
(1-x)で示される(但し、0.7≦x≦0.98)CuPdナノ粒子を調製する[7]に記載の製造方法。
[11]
前記還元剤が水素を含有する化合物である[8]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]
[8]または[10]に記載の方法によりCuPdナノ粒子を製造し、製造されたCuPdナノ粒子を水素雰囲気に暴露して、結晶構造の規則性が向上したCuPdナノ粒子を得る、結晶構造の規則性が向上したCuPdナノ粒子の製造方法。
[13]
[8]または[10]に記載の方法により製造したCuPdナノ粒子の下記式(1)で表される規則化度が98%未満であり、
結晶構造の規則性が向上したCuPdナノ粒子の下記式(1)で表される規則化度が99%以上である[13]に記載の製造方法。
(1−(m−M)/M)×100% (1)
m:CuPd合金ナノ粒子の格子定数
M:Cu原子とPd原子が規則的に配列したバルクの格子定数
[14]
前記水素雰囲気への暴露処理は、0〜200℃の温度で、かつ水素圧1Pa〜10MPaで行う、[12]または[13]に記載の製造方法。
[15]
前記水素雰囲気への暴露処理は、温度が異なる多段階で行う[12]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]
前記水素雰囲気への暴露処理は、30〜150℃の範囲の温度での第一段階と40〜250℃の範囲の温度での第二段階とからなり、かつ第一段階と第二段階の温度差が10〜100℃の範囲である[12]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、規則性の高いCuPd合金ナノ粒子が提供される。具体的には、規則B2型またはL1
2型の結晶構造を有するCuPd合金ナノ粒子が提供される。従来、このような規則B2型及びL1
2型の結晶構造のCuPd合金ナノ粒子は知られてはいなかった。
【0017】
さらに本発明によれば、上記規則B2型またはL1
2型の結晶構造のCuPd合金ナノ粒子、さらにはfcc型の結晶構造のCuPd合金ナノ粒子を高い生産効率で調製し得る、CuPdナノ粒子の製造法が提供される。
【0018】
本発明により提供されるCuPd合金ナノ粒子は、PtやPdに比べ安価に製造でき、かつ耐久性も高いため、光触媒、燃料電池の電極触媒などへの応用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[CuPd合金ナノ粒子]
本発明は、CuPd合金ナノ粒子に関し、このナノ粒子は、結晶構造がB2型またはL1
2型であり、平均粒子径が1〜200nmであり、かつCu
xPd
(1-x)で示される。但し、B2型の場合は0.3<x<0.7であり、L1
2型の場合は0.7≦x≦0.98である。
【0021】
本発明のCuPd合金ナノ粒子は、結晶構造がB2型であるか、またはL1
2型である。結晶構造がB2型であるCuPd合金ナノ粒子は、Cu
xPd
(1-x)で示され、かつ0.3<x<0.7である。xが0.3以下では、不規則fcc型となり一酸化炭素への耐被毒性が弱くなる。0.7以上ではL1
2あるいは不規則fcc型となり、不規則fcc型となった場合はB2型と比較して一酸化炭素への耐被毒性が弱くなる。xは、0.3<x<0.7であるが、好ましくは0.4<x<0.6である。B2型の結晶構造は、体心立法構造を基本にしており、立方体の八つの頂点をCu、体心の位置にPdが配置した構造である。CuとPdが入れ替わってもかまわない。
【0022】
結晶構造がL1
2型であるCuPd合金ナノ粒子は、Cu
xPd
(1-x)で示され、かつ0.7≦x≦0.98である。xが0.98を超えると、不規則fcc構造となり、COへの耐被毒性が低下する。xが0.7未満では、上述のように、B2型の結晶構造となる。L1
2型の結晶構造は、面心立法構造を基本にしており、立方体の八つの頂点をPd、面心にCuが配置した構造である。組成によっては一方の金属の位置が一方の金属に置換されてもよい。
【0023】
本発明のCuPd合金ナノ粒子は、結晶構造の規則性が向上したCuPdナノ粒子であり、具体的には、下記式(1)で表される規則化度が98%以上であり、規則化度は、好ましくは99.0%以上、より好ましくは99.5%以上、最も好ましくは100%またはそれ以上である。
(1−(m−M)/M)×100% (1)
m:CuPd合金ナノ粒子の格子定数
M:Cu原子とPd原子が規則的に配列したバルクの格子定数
【0024】
規則化度の算出の元となるCu原子とPd原子が規則的に配列したバルクの格子定数Mは粉末あるいは単結晶X線回折などの実験により得ることができる。あるいは、化学便覧等に示されたCu原子及びPd原子の金属結合半径値を基にMの推測値Lを計算することもできる。また、CuPd合金ナノ粒子の結晶構造と格子定数mは、粉末X線回折を行い、得られた回折パターンを解析することで求めることができる。
【0025】
例えば、B2型A
xB
(1-x)合金(0.3<x<0.7)の室温における格子定数の推定値Lは、AおよびBの金属結合半径(化学便覧改訂5版、基礎編II、p.887参照)から見積もられ、AおよびBの金属結合半径をそれぞれa、bとした場合、おおよそ以下のように表される。
L=2×(a×x+b×(1-x))/√3
作製したばかりのB2型A
xB
(1-x)合金ナノ粒子の格子定数mはA原子とB原子が規則的に配列したバルクの格子定数M(Mは上記式により算出された推定値Lに等しい)よりは大きい。後述のように水素処理によって、金属原子間の相互作用を強め、A
xB
(1-x)合金ナノ粒子の格子定数をmより減少させ、Mと同程度にすることが出来る。
【0026】
実施例2では、合成したばかりのCu
0.5Pd
0.5ナノ粒子の規則化度は
(1-(3.036-2.99)/2.99)×100=98.5%
であったが、水素処理によって、100%とすることが出来た。
CuPdナノ粒子の格子定数は、
図3または
図6に示すような、粉末X線回折パターンをリートベルト法などによって解析することで求めることができる。
【0027】
本発明のCuPd合金ナノ粒子の平均粒子径は1〜200nmであり、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜20nm、さらに好ましくは1〜10nm、さらに一層好ましくは1〜5nmの範囲である。CuPd合金ナノ粒子の平均粒子径は、小さいほど、触媒として利用する場合には活性が高くなる傾向があり好ましい。従って、CuPd合金ナノ粒子の平均粒子径は、小さいほど好ましい。尚、本発明においてCuPd合金ナノ粒子の平均粒子径は、実施例に記載のように、透過型電子顕微鏡(例えば、JEM-2000FX)による粒子の観察で得られた写真に撮影された任意の200個の粒子から見積られた値である。
【0028】
本発明のCuPd合金ナノ粒子は、平均粒子径が小さく、かつ結晶構造の規則性が向上した粒子である。そのため、触媒として使用すると、高い触媒活性を示し、かつ耐被毒性に優れたものである。
【0029】
[組成物]
本発明は、上記本発明のCuPd合金ナノ粒子と保護ポリマーとを含む組成物に関する。本発明のCuPd合金ナノ粒子は、平均粒子径は1〜200nmであり、最も好ましい場合には、平均粒子径は1〜5nmの範囲である。そのためこの粒子径を維持するために、各ナノ粒子を凝集等から保護する手段を用いることが好ましい。本発明では、そのための手段として保護ポリマーを用いる。
【0030】
保護ポリマーは、水溶性のポリマーであることが好ましく、具体的にはPVPのような環状アミド構造を有するポリマーが好適である。しかし、これに限らず、保護対象である合金粒子の種類等に応じて、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリアクリレート、ポリ(メルカプトメチレンスリレン-N-ビニル-2-ピロリドン)、ポリアクリロニトリルを用いることもできる。
【0031】
本発明の組成物は、CuPd合金ナノ粒子と保護ポリマーに加えて溶媒を含有することもできる。溶媒は水系の溶媒であることが好ましく、例えば、水単独であるか、あるいは水と水に親和性のある有機溶媒の混合溶媒であることができる。混合溶媒に用いる有機溶媒は、有機高分子の種類等に応じて適宜選択するとよく、例えばプロパノールやエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールを用いることができる。
【0032】
本発明の組成物におけるCuPd合金ナノ粒子、保護ポリマー及び溶媒の組成比は、例えば、CuPd合金ナノ粒子の濃度が1〜99質量%、好ましくは20〜99質量%の範囲であり、保護ポリマーの濃度が1〜99質量%、好ましくは1〜10質量%の範囲であることができる。但し、CuPd合金ナノ粒子、保護ポリマー及び溶媒の合計が100質量%になるように選択する。尚、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0033】
[触媒用組成物]
本発明は、上記本発明のCuPdナノ合金粒子を担体に担持した触媒用組成物にも関する。
【0034】
担持は、特に制限はなく、通常の固体担体に用いられる担体を用いることができる。そのような担体は、例えば、無機化合物であることができる。無機化合物としては、例えば、金属酸化物(TiO
2、SrTiO
3、WO
3、TaON、ZnO、NiO、Cu
2O)、金属硫化物(ZnS、CdS、HgS)、金属セレン化物(CdSe)または、それらの誘導体を挙げることが手きる。担体は通常の触媒用担体と同様に種々の形状であることができ、粉末、顆粒状、粒状、成形体(例えば、ハニカム構造)等であることができる。
【0035】
担体に対するCuPdナノ合金粒子の担持量は、特に制限はなく、例えば、0.1〜20質量%の範囲であることができ、触媒活性や性能を考慮すれば、好ましくは0.5〜1質量%の範囲である。但し、用いる触媒反応の種類や条件によっては上記範囲外の担持量を選択することもできる。
【0036】
本発明の触媒用組成物の製造方法は、後述する方法で調製されたCuPdナノ合金粒子を、常法(例えば、浸漬法等)により担体に担持することができる。担持後は、乾燥し、必要により活性化処理(例えば、水素処理)を施すこともできる。
【0037】
本発明の触媒用組成物を触媒として用いる場合の触媒反応としては、例えば、水分解水素発生反応、水分解酸素発生反応、または有機物分解反応であることができる。但し、これらに限定される意図ではない。
【0038】
水分解水素発生反応及び水分解酸素発生反応は、例えば、本発明のCu
xPd
(1-x)ナノ粒子を担持した半導体の粉末あるいは板状に加工したものを水と混合あるいは接触させ、紫外光あるいは可視光を照射することで実施される。
【0039】
有機物分解反応は、例えば、本発明のCu
xPd
(1-x)ナノ粒子を担持した半導体の粉末あるいは板状に加工したものに分解する有機物を含む溶液に混合あるいは接触させ、紫外光あるいは可視光を照射することで実施される。
【0040】
本発明の触媒用組成物は、Pt族の金属であるPdにCuを導入したCuPd合金を用いるものであるが、PtやPdを単独の金属で用いる場合に比べて、触媒は高活性であり、かつ、Cuを導入したものであることからPd単独の場合に比べて安価である。さらに、結晶構造の規則性が向上したCuPd合金ナノ粒子であるため耐被毒性も向上したものである。
【0041】
[CuPdナノ粒子の製造方法]
本発明は、CuPdナノ粒子の製造方法に関する。
本発明の製造方法は、
水または水溶液中に保護ポリマーの存在下でCuイオン及びPdイオンの分散液または溶解液を調製する工程、及び
得られた分散液または溶解液に、前記Cuイオン及びPdイオンに対する還元剤を添加して、Cuイオン及びPdイオンを還元してCuPdナノ粒子を調製する工程を含むものである。
【0042】
<分散液または溶解液を調製する工程>
Cuイオン源としては、銅を含有する化合物を用いることができ、水または水溶液に対する溶解性に優れたものであることが適当である。そのような化合物としては、例えば、酢酸銅、塩化銅、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅およびそれらの水和物などの無機銅含有化合物、さらには、Cuを含む錯体を挙げることができる。
【0043】
Pdイオン源としては、パラジウムを含有する化合物を用いることができ、水または水溶液に対する溶解性に優れたものであることが適当である。そのような化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウムおよびそれらの水和物などの無機パラジウム含有化合物、さらには、パラジウムを含む錯体を挙げることができる。
【0044】
保護ポリマーは、上記組成物の説明で挙げたものをそのまま用いることができる。保護ポリマーの役割は、後段の還元工程で生成する合金粒子間の凝集を防止することと、生成する合金粒子のサイズを制御することが挙げられる。金属とポリマーの比率を調整することによって、粒子径を制御することが出来る。例えば、溶液中における保護ポリマーの量を相対的に増やすと、析出する合金粒子の粒径は小さくなる。この現象を利用すれば合金粒子の粒径を制御できる。尚、析出する合金粒子の粒径は、Cuイオン源及びPdイオン源となる金属含有化合物(例えば、塩)の濃度を調整することでも調整できる。
【0045】
分散液または溶解液の調製には、溶媒として、水または水溶液を用いることができる。水溶液は、組成物の説明で挙げた、水と有機溶媒の混合物であることができる。水と有機溶媒の混合物を用いる場合には、金属原料と保護剤の溶解性等を考慮して、有機溶媒の種類や有機溶媒と水との混合比を適宜調整できる。
【0046】
分散液または溶解液の調製は、上記溶媒に保護ポリマー並びにCuイオン源及びPdイオン源を加えて、溶解または分散することで行うことができる。保護ポリマー並びにCuイオン源及びPdイオン源の添加順序には制限はない。保護ポリマーを分散または溶解した溶液とCuイオン源を溶解した溶液及びPdイオン源を溶解した溶液を、適宜混合することで調製することもできる。
【0047】
分散液または溶解液中の保護ポリマーの濃度、Cuイオンの濃度及びPdイオンの濃度は、例えば、保護ポリマーが1×10
-4〜5質量%の範囲、Cuイオンが3×10
-7〜5×10
-1質量%の範囲、及びPdイオンが3×10
-7〜5×10
-1質量%の範囲であることができる。
【0048】
<還元工程>
上記工程で得られた分散液または溶解液に、前記Cuイオン及びPdイオンに対する還元剤を添加する。還元剤としては、標準還元電位が室温における水素(0eV)よりも負である化合物を用いることが、Cuイオン及びPdイオンを金属に還元する力が強いという観点から適当である。そのような還元剤としては、例えば、MBH
4,MEt
3BH(M=Na, K), 水素化シアノホウ素ナトリウム NaBH
3CN、水素化ホウ素リチウム LiBH
4、水素化トリエチルホウ素リチウム LiBHEt
3、ボラン錯体 BH
3・L、トリエチルシラン Et
3SiH、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム (Sodium Bis(2-methoxyethoxy)Alminium Hydride; Red-Al)などを挙げることができる。但し、これらの還元剤の中には、水と爆発的に反応して危険であるため水溶液中で使用できないものもあるので注意を要する。その場合は、溶媒として水以外の溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド等のアプロトニックな極性溶媒)を使用することが適当である。
【0049】
還元剤の使用量は、金属原料に含まれるCuの物質量等を考慮して適宜決定され、例えば、還元すべきCuイオン及びPdイオンの合計量の当量から50倍当量以下の範囲とすることができる。
【0050】
上記還元剤でCuイオン及びPdイオンを還元することで、CuPdナノ粒子が調製される。還元の温度は、還元により調製されるべき合金の結晶構造を考慮して決定され、例えば、0〜110℃の範囲とすることが適当である。合金の結晶構造と還元温度との関係は後述する。
【0051】
結晶構造がB2型であるCuPdナノ粒子を調製する場合には、前記分散液または溶解液中のCuイオンとPdイオンのモル比を0.3超:0.7未満〜0.7未満:0.3超の範囲とし、かつ還元温度を、10℃以上の温度とする。この条件で還元を実施すると、結晶構造がB2型であり、かつCu
xPd
(1-x)で示されるCuPdナノ粒子を調製することができる。規則構造をもつ合金は還元温度が低いと生成しにくい傾向があり、そのため還元温度を、10℃以上の温度とし、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上とする。還元温度の上限は、例えば、100℃であり、好ましくは80℃である。xの値はナノ粒子のサイズによって変化する。小さいサイズのナノ粒子は、保護ポリマーの量を増量すること、または、還元剤の量を減量すること、またはその両方により得ることができる。
【0052】
結晶構造がL1
2型であるCuPdナノ粒子を調製する場合には、前記分散液または溶解液中のCuイオンとPdイオンのモル比を0.7:0.3〜0.98:0.02の範囲とし、かつ還元温度を、10℃以上の温度とし、結晶構造がL1
2型であり、かつCu
xPd
(1-x)で示されるCuPdナノ粒子を調製することができる。規則構造をもつ合金は還元温度が低いと生成しにくい傾向があり、そのため還元温度を、10℃以上の温度とし、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上とする。還元温度の上限は、例えば、100℃であり、好ましくは80℃である。
【0053】
結晶構造がB2型であるCuPdナノ粒子を調製する場合及び結晶構造がL1
2型であるCuPdナノ粒子を調製する場合には、前記還元剤が水素を含有する化合物であることが好ましい。上記で、標準還元電位が室温における水素(0eV)よりも負である化合物の例として挙げた化合物は、いずれも水素を含有する化合物である。水素を含有する化合物を還元剤として用いると、還元の過程で水素原子が金属原子の隙間に入り込んで金属間の結合を弱くし、金属原子の再配列を促進し、さらには、規則構造をより安定化する傾向がある。また、水素を含有する化合物を還元剤として用いることで、後述する水素雰囲気暴露における規則性の向上がより容易に起こるという利点もある。本発明においては、還元剤に金属水素化物等の水素を含有する化合物を用いることで、合成時から水素を金属に作用させることで効率的にB2型合金及びL1
2型を得ることができる。
【0054】
本発明の製造方法によれば、溶媒として水を使用することができ、かつ比較的低温で、短時間の操作で合金ナノ粒子を作製することができる。さらに、本発明の方法では、構成元素であるCu及びPdが交互にあるいは数個おきに配列した規則合金ナノ粒子であるB2型またはL1
2型CuPdナノ粒子を調製できる。
【0055】
還元力の強い無機水素化物を還元剤として結晶構造がfcc型であるCuPdナノ粒子を調製する場合には、前記分散液または溶解液中のCuイオンとPdイオンのモル比が0.01:0.99〜0.99:0.01の範囲とし、かつ還元温度を10℃未満とする。この条件で還元を実施すると、結晶構造がfcc型であり、かつCu
xPd
(1-x)で示される(但し、0.01<x<0.99)CuPdナノ粒子を調製することができる。fcc型の合金は還元温度が高いと生成しにくい傾向があり、そのため還元温度を10℃未満とし、好ましくは5℃以下、より好ましくは0℃以下である。還元温度の下限は、例えば、−10℃である。
【0056】
<水素雰囲気暴露処理>
本発明は、上記方法により結晶構造がB2型またはL1
2型であるCuPdナノ粒子を製造し、製造されたCuPdナノ粒子を水素雰囲気に暴露して、結晶構造の規則性が向上したCuPdナノ粒子を得る、結晶構造の規則性が向上したCuPdナノ粒子の製造方法を包含する。
【0057】
上記方法により製造した結晶構造がB2型またはL1
2型であるCuPdナノ粒子は、下記式(1)で表される規則化度が99%未満である。それに対して、水素雰囲気に暴露することで、下記式(1)で表される規則化度が99%以上である、結晶構造の規則性が向上したB2型またはL1
2型であるCuPdナノ粒子を得ることができる。
(1−(m−M)/M)×100% (1)
m:CuPd合金ナノ粒子の格子定数
M:Cu原子とPd原子が規則的に配列したバルクの格子定数
【0058】
前記水素雰囲気への暴露処理は、上記方法で得られたCuPdナノ粒子と保護ポリマーの混合物から溶媒である水等を除去(例えば、乾燥により)した後に、所定の温度及び水素圧力にて行うことができる。温度は、例えば、0〜200℃の範囲であり、水素圧力は1Pa〜10MPaの範囲であることができる。水素雰囲気暴露処理の条件は、好ましくは50〜150℃の範囲で、かつ水素圧1MPa〜5MPaの範囲である。処理時間は、温度及び圧力に応じて適宜設定することができ、例えば、1〜1000時間の範囲とすることができ、1〜10時間の範囲とすることもできる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0059】
さらに水素雰囲気暴露処理は、温度が異なる多段階で行うこともでき、処理温度は段階毎に高くなることが好ましい。多段階処理は、例えば、30〜150℃の範囲、好ましくは50〜150℃の範囲、より好ましくは70〜130℃の範囲の温度での第一段階と40〜250℃の範囲、好ましくは80〜200℃の範囲、より好ましくは120〜180℃の範囲の温度での第二段階とからなり、かつ第一段階と第二段階の温度差が10〜100℃の範囲、好ましくは20〜90℃の範囲、より好ましくは30〜80℃の範囲であることができる。水素雰囲気暴露処理を温度が異なる多段階で行うことで、規則化度をより高めることができ、その結果、TiO
2などの光水分解用触媒と併用した場合に、高い光水分解性能を示す、という利点がある。
【0060】
多段階処理における水素雰囲気暴露時間は、適宜設定できるが、例えば、第一段階の水素雰囲気暴露時間は、例えば、1〜500時間の範囲、好ましくは100〜400時間の範囲、第二段階の水素雰囲気暴露時間は、例えば、0.1〜200時間の範囲、好ましくは1〜100時間の範囲である。
【0061】
上記方法により製造した規則化度が95%未満、好ましくは98%未満、より好ましくは99%未満である結晶構造がB2型またはL1
2型であるCuPdナノ粒子を水素雰囲気暴露処理に付すことで規則化度が水素雰囲気暴露処理前より高くなり、結晶構造の規則性が向上した、規則化度が98.5%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%またはそれ以上のB2型またはL1
2型であるCuPdナノ粒子を得ることができる。更に、バルクよりも格子定数が小さくなるというナノサイズ効果により、100%以上の規則化度が得られることがある。特に、上記方法において還元剤として水素を含有する化合物を用いた場合、還元の過程で水素原子が金属原子の隙間に入り込んでいるため、水素雰囲気暴露処理による規則化度の向上は容易になる、という利点がある。
【実施例】
【0062】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0063】
実施例1
・不規則fcc型CuPdナノ粒子の合成
7.5×10
-4molの酢酸銅を100mlのイオン交換水、7.5×10
-4molの酢酸パラジウムを50mlのアセトンに溶解した。これらの溶液と1.5×10
-1molのポリ[N-ビニル-2-ピロリドン](NW=48000)を混合し、イオン交換水を加えて300mlの溶液を作製し、0℃に冷却した。100mlのイオン交換水に溶解した7.5×10
-3mol のNaBH
4を一度に加えると黒褐色のコロイド溶液が得られた。30分間撹拌した後、アセトン、水、ジエチルエーテルを用いた再沈殿を3回繰り返して、溶媒、および副生成物の無機化合物を取り除いて、CuPdナノ粒子を得た。このCuPdナノ粒子を元素分析した結果、金属(銅及びパラジウム)の含有率は11.7質量%であり、残りは、ポリ[N-ビニル-2-ピロリドン]であった。尚、上記金属の銅とパラジウムの内訳はICP発光分析から、原料の組成からモル比(原子比)で50:50であると決定した。
【0064】
(水素雰囲気暴露処理(以下、水素処理という))
上記で得られたCuPdナノ粒子をステンレス製の容器に入れ、ステンレス製の真空ラインと接続した。試料を室温で30分以上、373Kで30分以上加熱・脱気したのち、0.1 MPaの水素圧力を印加して3時間保持するか、または2MPaの水素圧力を印加して6時間保持した。保持後、温度を一定のままで水素を30分程度排気し、常温まで放冷した。
【0065】
実施例2
・規則B2型CuPdナノ粒子の合成
7.5×10
-4molの酢酸銅を100mlのイオン交換水、7.5×10
-4molの酢酸パラジウムを50mlのアセトンに溶解した。これらの溶液と1.5×10
-1molのポリ[N-ビニル-2-ピロリドン](NW=48000)を混合し、イオン交換水を加えて300mlの溶液を作製し、30℃に加熱した。100mlのイオン交換水に溶解した7.5×10
-3molのNaBH
4を一度に加えると黒褐色のコロイド溶液が得られる。50分間撹拌した後、アセトン、水、ジエチルエーテルを用いた再沈殿を3回繰り返して、溶媒、および副生成物の無機化合物を取り除いた。このCuPdナノ粒子を元素分析した結果、金属(銅及びパラジウム)の含有率は18.6質量%であり、残りは、ポリ[N-ビニル-2-ピロリドン]であった。尚、上記金属の銅とパラジウムの内訳は、ICP発光分析からモル比(原子比)で52:48であると決定した。
【0066】
(水素雰囲気暴露処理(以下、水素処理という)(1))
上記で得られたCuPdナノ粒子をステンレス製の容器に入れ、ステンレス製の真空ラインと接続した。試料を室温で30分以上、373Kで30分以上加熱・脱気したのち、0.1 MPaの水素圧力を印加して3時間保持するか、または2MPaの水素圧力を印加して6時間保持した。保持後、温度を一定のままで水素を30分程度排気し、常温まで放冷した。
【0067】
(水素雰囲気暴露処理(水素処理)(2))
上記で得られたCuPdナノ粒子をステンレス製の容器に入れ、ステンレス製の真空ラインと接続した。試料を室温で30分以上、373Kで30分以上加熱・脱気したのち、373Kにて2 MPaの水素圧力を印加して240時間保持したのちに、引き続き423Kまで昇温し2MPaの水素圧力を印加して24時間保持した。保持後、温度を一定のままで水素を30分程度排気し、常温まで放冷した。
【0068】
試験例1
(1)透過型電子顕微鏡観察
実施例1及び2で得られた還元後のCuPdナノ粒子をJEM-2000FXにて観察を行った。結果を
図2に示す。得られた写真(上図)のうち200個の粒子から平均粒子径を見積もって下図に示す。CuPd(0℃)が実施例1の結果であり、CuPd(30℃)が実施例2の結果である。
【0069】
(2)粉末X線回折測定
実施例1及び2で得られた還元後のCuPdナノ粒子をRINT-2000/PCによりCu Kαの波長で回折測定に付した。結果を
図3に示す。CuPd(0℃)が実施例1の結果であり、CuPd(30℃)が実施例2の結果である。
【0070】
図3に示す結果から、合成温度0℃で作製した試料(実施例1)、合成温度30℃で作製した試料(実施例2)のXRDパターンでは、それぞれ別の回折パターンが観測され、実施例1では不規則fcc型構造、実施例2では規則B2型構造のCuPdナノ粒子が得られることがわかった。
【0071】
図4には、実施例1及び2で得られた粒子に水素処理を施した試料についてX線回折測定を行った結果を示す。その結果、実施例2で得られた粒子について、水素処理(1)、特に373Kにて水素圧力0.1MPaで3時間の処理により、回折位置が高角度側へシフトし、原子間距離が短縮し、金属配列が整列した合金ナノ粒子が得られることがわかった。
【0072】
0.1MPaで3時間処理した場合と2MPaで6時間処理した場合では粉末X線回折パターンに大きな変化はみられなかったため、これらの試料の格子定数に大きな変化はないと推測される。次に、作製したばかりの試料と水素処理(1)を施した試料のTEM像を
図5に示す。
図5のTEM像では、373Kにて水素圧力0.1MPaで3時間処理した試料のTEM像におけるコントラストは作製したばかりの試料に比べて均一であった。373Kにて水素圧力2MPaで6時間処理した試料では更に均一になっている。これは、水素処理により、粒子内部の構造だけでなく、表面における規則性が向上することを示している。水素により、粒子内部および表面での構造の規則性が向上することで触媒活性が向上したと考えられる。
【0073】
また、
図4に示すように、実施例1で得られた粒子についても、水素圧力2MPaで6時間の水素処理により、回折位置が高角度側へシフトした。この結果は、水素処理が、不規則fcc型CuPd合金においても金属原子間の相互作用を強めることを示すものである。その結果、結果は示していないが、水素処理は、不規則fcc型CuPd合金についても触媒活性を高める働きが有る。
【0074】
図9は、実施例2で得られた粒子に水素処理(2)を施した試料についての放射光を用いた粉末X線回折パターンとそのリートベルト法による解析結果である。矢印で示す位置にB2構造に特有のピークが観測されている。これは、粒子内部において結晶が成長し、結晶子サイズが増大したためである。解析の結果、格子定数は2.97Åと決定した。
【0075】
図10には、実施例2で作製したばかりの試料と水素処理(1)を施した試料(100℃、2MPa H
2)、水素処理(2)を施した試料(100℃、150℃、2MPa H
2)のTEM像を示す。
【0076】
(3)規則化度の算出
実施例2で合成した(水素処理前の)CuPdナノ粒子の規則化度と水素処理(1)(373 Kにて水素0.1MPa加圧)後のCuPdナノ粒子の規則化度を、
図6に示すH
2加圧In-situ粉末X線回折パターンからCuPdナノ粒子の格子定数をリートベルト法などによって解析することで求めて、算出した。水素処理前のCuPdナノ粒子の格子定数mは3.036であり、水素処理後のCuPdナノ粒子の格子定数mは2.99であった。その結果、水素処理前のCuPdナノ粒子の規則化度は、(1-(3.036-2.99)/2.99)×100=98.5%であったのに対して、水素処理(1)後のCuPdナノ粒子の規則化度は、(1-(2.99-2.99)/2.99)×100=100%であった。水素処理(2)後のCuPdナノ粒子の規則化度は、(1-(2.97-2.99)/2.99)×100=101%であった。規則化度が100%以上となるのは、表面エネルギーを低下するために格子が圧縮されるという直径がナノメートル領域の粒子にみられるナノサイズ効果により起こる現象である。
【0077】
実施例3
水分解水素発生に対する活性試験
実施例2で得られた合金粒子1mg(総金属量)を含む試料を20mlのイオン交換水に溶解し、超音波処理を15分おこなった。合金ナノ粒子水溶液に1gのTiO
2 (P25)粉末を加え、更に15分超音波処理を行った。得られた懸濁液を濾過してCuPdナノ粒子担持TiO
2触媒を作製した。参照試料として直径6.3±1.0nmのPdナノ粒子を担持したTiO
2を作製した。
【0078】
(光水分解水素発生試験)
上記で得られた100mgの担持触媒(実施例2で得た規則B2型CuPd合金ナノ粒子(水素処理(1)前及び後)担持触媒及びPdナノ粒子担持触媒)に10vol.%のメタノール水溶液を加え、250mlの反応溶液を調製した。この溶液を幕張理化学製の閉鎖循環装置に設置し、キセノンランプ照射後に発生する水素量を島津社製ガスクロマトグラフGC-8Aにて定量した。結果を
図7に示す。
図7には、光水分解反応の触媒として用いられるPd担持触媒の結果も参考として記載する。
【0079】
実施例2で作製した水素処理(1)を施した規則B2型CuPd合金ナノ粒子(0.1MPa水素、373K、3時間および2MPa水素、373K、6時間)を担持した触媒は、合成したばかり(水素処理前)のB2構造のCuPd担持触媒に比べて、光水分解による水素生成活性は、それぞれ1.3倍および1.7倍に向上したことがわかった(
図7)。さらに、水素処理(1)後の規則B2型CuPd合金ナノ粒子担持触媒は、光水分解反応の触媒として用いられるPd担持触媒よりも高い活性を示すことがわかった。
【0080】
さらに、実施例2で作製した水素処理(2)を施した規則B2型CuPd合金ナノ粒子(2MPa水素、373K、240時間および2MPa水素、423K、24時間)を担持した触媒についても、10vol.%のメタノール水溶液を加え、250mlの反応溶液を調製した。この溶液を幕張理化学製の閉鎖循環装置に設置し、キセノンランプ照射後に発生する水素量を島津社製ガスクロマトグラフGC-8Aにて定量した。結果を
図11に示す。
図11には、一般的に用いられる光析出法により作製された保護剤を含なまない裸のPdを担持した触媒についても参考として記載する。水素処理(2)後の規則B2型CuPd合金ナノ粒子担持触媒は、作製したばかりのB2型CuPd合金ナノ粒子担持触媒よりも2倍以上の高い活性を示した。この結果より、活性の高い光水分解触媒を示すナノ粒子を得るには水素処理(2)は水素処理(1)よりも有効であることがわかった。また、水素処理(2)を行ったB2型CuPdを用いた触媒は、光触媒として一般的に使われる裸のPdを担持した触媒よりも活性が高いことがわかった。さらに、裸のPdを使用した触媒は光照射後30分間は高い活性を示したが、それ以降は活性が低下した。実施例では犠牲還元剤としてメタノールを使用しているため、光照射によりホルムアルデヒドが発生する。裸のPdを使用した場合はホルムアルデヒドの被毒により活性が失われるが、本発明で提供するCuPdナノ粒子を用いた触媒にはこのような被毒による性能の劣化は観測されなかった。この結果より、CuPdナノ粒子はホルムアルデヒドによる被毒にも耐性があることを示している。
【0081】
実施例1で水素処理して作製したfcc型CuPd合金ナノ粒子担持触媒についは光水分解水素発生試験を行っていないが、前述のように水素処理により、不規則fcc型CuPd合金においても金属原子間の相互作用を強めるので、光水分解反応等の触媒活性は増大するものと考えられる。
【0082】
(一酸化炭素被毒試験)
実施例1及び2で得られた試料(いずれも2MPa水素、373K、6時間水素処理(1)品)を一気圧の一酸化炭素下に30分間放置して一酸化炭素による被毒を行った。結果を
図8に示す。
【0083】
一酸化炭素被毒後の水素発生量(15時間後)一酸化炭素(CO)被毒による性能劣化の程度は、Pdに比べて不規則fcc型CuPd(実施例1)では1/2、規則B2型CuPdでは1/3(実施例2)となり、耐被毒性に改善が観られた。CO吸着による活性低下率は-47%(Pd)、-24%(不規則fcc型CuPd、実施例1)、-14%(規則B2型CuPd、実施例2))であった。