特許第5772600号(P5772600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5772600表面被覆型補強材、反応射出成形用配合液、及び反応射出成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772600
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】表面被覆型補強材、反応射出成形用配合液、及び反応射出成形体
(51)【国際特許分類】
   C08K 9/06 20060101AFI20150813BHJP
   C08G 61/08 20060101ALI20150813BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20150813BHJP
   B29B 15/08 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   C08K9/06
   C08G61/08
   B32B27/00 A
   B29B15/08
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-547607(P2011-547607)
(86)(22)【出願日】2010年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2010073195
(87)【国際公開番号】WO2011078256
(87)【国際公開日】20110630
【審査請求日】2013年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2009-295719(P2009-295719)
(32)【優先日】2009年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503423096
【氏名又は名称】RIMTEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097180
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 均
(74)【代理人】
【識別番号】100110917
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100147393
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 一基
(72)【発明者】
【氏名】亀井 伸人
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−208157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 9/06
B29B 15/08
B32B 27/00
C08G 61/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン構造を有する炭化水素基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤(I)からなる被覆層A、及びシランカップリング剤(I)以外のカップリング剤及び/又は脂肪酸からなる被覆層Bを、それぞれ一層以上有する積層被覆層を補強材表面に有してなる表面被覆型補強材。
【請求項2】
シランカップリング剤(I)が、以下の一般式(Q):
R’SiR’’ (Q)
(式中、R’とR’’は各々同じであっても異なっていてもよい任意の基、Xはノルボルネン構造を有する炭化水素基、gとhは0〜3の整数、pは1〜4の整数、g+h+p=4である。)
で示される化合物からなる請求項1記載の表面被覆型補強材。
【請求項3】
被覆層Bが、カップリング剤(I)以外のシランカップリング剤、チオールカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、及び脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1種からなる請求項1又は2記載の表面被覆型補強材。
【請求項4】
被覆層Aの少なくとも一層が、補強材表面の積層被覆層の最外層から、当該最外層を含めて5層以内にある請求項1〜3いずれか記載の表面被覆型補強材。
【請求項5】
補強材表面の積層被覆層が7層以下である請求項1〜4いずれか記載の表面被覆型補強材。
【請求項6】
補強材が無機充填剤である請求項1〜5いずれか記載の表面被覆型補強材。
【請求項7】
ノルボルネン系モノマー、重合触媒、及び請求項6に記載の表面被覆型補強材を含有してなる反応射出成形用配合液。
【請求項8】
型内で、請求項1〜6いずれかに記載の表面被覆型補強材の存在下、ノルボルネン系モノマーを重合触媒により塊状重合させる工程を有する反応射出成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の反応射出成形体の製造方法により得られうる反応射出成形体。
【請求項10】
前記R’とR’ ’は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基及び炭素数1〜6のアルコキシ基からなる群から選択される請求項2〜6いずれか記載の表面被覆型補強材。
【請求項11】
前記被覆層A一層の厚さは、1分子層〜3分子層であり、前記被覆層B一層の厚さは、1分子層〜30分子層である請求項2〜6いずれか記載の表面被覆型補強材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆型補強材、該表面被覆型補強材を含む反応射出成形用配合液、及び反応射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタセシス重合触媒を用い、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、及びテトラシクロドデセン等のノルボルネン系モノマーを型内で成形と同時に塊状重合してノルボルネン系重合体からなる成形体を得る方法として反応射出成形法は良く知られている。反応射出成形法は、典型的には、モノマー及び触媒を含有する第一の予備配合液とモノマー及び共触媒を含有する第二の予備配合液とを衝突混合させ、得られる重合反応性の配合液(重合性反応液)を型内に充填(射出)して、加熱硬化させることにより重合反応と同時に成形を行なう方法である。得られる成形体は一般に、機械的強度、耐熱性、及び寸法安定性に優れており、自動車、農業機器、及び建設機器等の部材や、電気機器、及び電子機器等のハウジング等に賞用されている。
【0003】
かかる成形体では、さらに剛性を向上させるために、それを構成するノルボルネン系重合体にガラス補強材などの無機材料などを添加する場合がある。しかしながら、ノルボルネン系重合体は極性が極めて低く、無機材料との密着性に劣るという問題がある。
【0004】
かかる問題に対し、例えば、特許文献1には、ノルボルネン構造を有する環状オレフィン基を置換基として有するシランカップリング剤で無機充填剤の表面を処理することにより、無機充填剤と重合体との接着性が改善された無機材料充填重合体成型物を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−185558号公報(米国特許第5055499号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が、特許文献1に従って無機材料充填重合体成型物の製造を試みたところ、無機充填剤を比較的多く配合してなる反応射出成形用配合液は高粘度であり、無機充填剤の分散性に劣り、成型物の剛性が低下する場合があることが明らかになった。
本発明の目的は、反応射出成形用配合液に配合して用いる場合、該配合液の粘度増加が実質的に起きず、良好に分散でき、また、得られる反応射出成形体にあっては、その剛性を向上させることができる表面被覆型補強材を提供することにある。
本発明の他の目的は、当該表面被覆型補強材を含有してなる反応射出成形用配合液を提供することにある。
また、本発明の更に他の目的は、当該表面被覆型補強材を用いる反応射出成形体の製造方法、及び当該製造方法により得られる、剛性に優れた反応射出成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討の結果、ノルボルネン構造を有する炭化水素基を持つシランカップリング剤からなるカップリング剤層と、当該シランカップリング剤以外のカップリング剤からなるカップリング剤層とからなる、2層のカップリング剤層を、その表面に積層被覆した無機充填剤は、反応射出成形用配合液に比較的多く配合しても、該配合液の粘度増加が実質的に起きず、良好に分散でき、なおかつ得られる反応射出成形体の剛性が向上しうることを見出した。この知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、下記〔1〕〜〔9〕が提供される。
〔1〕ノルボルネン構造を有する炭化水素基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤(I)からなる被覆層A、及びシランカップリング剤(I)以外のカップリング剤及び/又は脂肪酸からなる被覆層Bを、それぞれ一層以上有する積層被覆層を補強材表面に有してなる表面被覆型補強材。
〔2〕シランカップリング剤(I)が、以下の一般式(Q):
R’SiR’’ (Q)
(式中、R’とR’’は各々同じであっても異なっていてもよい任意の基、Xはノルボルネン構造を有する炭化水素基、gとhは0〜3の整数、pは1〜4の整数、g+h+p=4である。)
で示される化合物からなる前記〔1〕記載の表面被覆型補強材。
〔3〕被覆層Bが、カップリング剤(I)以外のシランカップリング剤、チオールカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、及び脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1種からなる前記〔1〕又は〔2〕記載の表面被覆型補強材。
〔4〕被覆層Aの少なくとも一層が、補強材表面の積層被覆層の最外層から、当該最外層を含めて5層以内にある前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の表面被覆型補強材。
〔5〕補強材表面の積層被覆層が7層以下である前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の表面被覆型補強材。
〔6〕補強材が無機充填剤である前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載の表面被覆型補強材。
〔7〕ノルボルネン系モノマー、重合触媒、及び前記〔6〕に記載の表面被覆型補強材を含有してなる反応射出成形用配合液。
〔8〕型内で、前記〔1〕〜〔6〕いずれかに記載の表面被覆型補強材の存在下、ノルボルネン系モノマーを重合触媒により塊状重合させる工程を有する反応射出成形体の製造方法。
〔9〕前記〔8〕に記載の反応射出成形体の製造方法により得られうる反応射出成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反応射出成形用配合液に配合して用いる場合、該配合液の粘度増加が実質的に起きず、良好に分散でき、また、得られる反応射出成形体にあっては、その剛性を向上させることができる表面被覆型補強材を提供することができる。また、本発明によれば、当該表面被覆型補強材を含む、取扱い性に優れた反応射出成形用配合液、及び剛性、特に曲げ強度と曲げ弾性率に優れた反応射出成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の表面被覆型補強材は、ノルボルネン構造を有する炭化水素基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤(I)からなる被覆層A、及びシランカップリング剤(I)以外のカップリング剤及び/又は脂肪酸からなる被覆層Bを、それぞれ一層以上有する積層被覆層を補強材表面に有してなるものである。
本明細書において「積層被覆」とは、補強材表面上に被覆層を積層すると同時に、被覆層で補強材表面を被覆することをいう。
【0011】
以下、本発明の反応射出成形用配合液を配合液と、本発明の反応射出成形体を成形体と略記する。また、シランカップリング剤(I)とシランカップリング剤(I)以外のカップリング剤とをまとめてカップリング剤という場合がある。
【0012】
<補強材>
本発明に用いる補強材は、固体状のものであればよく、特に限定されるものではない。また、補強材の表面状態は、特に限定されるものではなく、必ずしも、平滑、平坦、又は非多孔性である必要はない。さらに、例えば、金属でコーティングされたガラス板のように、補強材自体の材料とは異なる材料により表面が予め被覆されたものであってもよい。補強材の形状も特に限定されるものではなく、例えば、板状、棒状、筒状、小片状、繊維状、球状、又は粒状のいずれであってもよい。補強材は、得ようとする成形体の目的に応じて、公知のものから適宜選択して用いればよいが、その取扱い性、及び得られる成形体の剛性を向上させる観点から、通常、ガラス製補強材、セラミック製補強材、金属製補強材、カーボン製補強材、及びポリマー製補強材や、無機充填剤などが好適に用いられ、中でも、無機充填剤がより好適に用いられる。これらの補強材は、それぞれ単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0013】
ガラス製補強材としては、例えば、ガラス板、ガラスビーズ、ガラスマット、及びガラスチップなどが挙げられる。セラミック製補強材としては、例えば、セラミック板などが挙げられる。金属製補強材としては、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、及び銅などからなる、金属板、金属フィルム、及び金属パイプなどが挙げられる。カーボン製補強材としては、例えば、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、及びカーボンフィラーなどが挙げられる。ポリマー製補強材としては、例えば、繊維状ポリマー、樹脂バルーン、及び樹脂フィラーなどが挙げられる。
【0014】
無機充填剤としては特に限定はないが、通常、繊維状充填剤、又は粒状充填剤が好適に用いられる。
【0015】
補強材として繊維状充填剤を用いると、得られる成形体において剛性や寸法安定性を向上させることができる。本発明において繊維状充填剤とは、そのアスペクト比が5〜100の無機充填剤である。アスペクト比は、好ましくは10〜50、より好ましくは15〜35である。アスペクト比がかかる範囲にあれば、得られる配合液の取り扱い性に優れ、また、得られる成形体の剛性や寸法安定性が充分なものとなり、好適である。
【0016】
なお、本明細書において充填剤のアスペクト比とは、充填剤の平均長軸径と50%体積累積径との比(平均長軸径/50%体積累積径)をいう。ここで、平均長軸径は光学顕微鏡写真で無作為に選んだ100個の充填剤の長軸径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均長軸径である。また、50%体積累積径は、X線透過法で粒度分布を測定することにより求められる値である。
【0017】
繊維状充填剤の50%体積累積径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは1〜30μmである。50%体積累積径がかかる範囲にあれば、得られる配合液の取り扱い性に優れ、また、得られる成形体の剛性や寸法安定性が充分なものとなり、好適である。
【0018】
繊維状充填剤の具体例としては、ガラス繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、塩基性硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、テトラポット型酸化亜鉛、石膏繊維、ホスフェート繊維、アルミナ繊維、針状炭酸カルシウム、及び針状ベーマイトなどを挙げることができる。中でも、少ない配合量で成形体の剛性を高めることができ、塊状重合反応を阻害しないという点より、ガラス繊維、及びウォラストナイトが好ましい。
【0019】
補強材として粒子状充填剤を用いることによっても、繊維状充填剤と同様の効果を得ることができる。本発明において粒子状充填剤とは、そのアスペクト比が1〜2の無機充填剤である。アスペクト比は、好ましくは1〜1.5である。また、粒子状充填剤の50%体積累積径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは1〜30μmである。50%体積累積径がかかる範囲にあれば、得られる配合液の取り扱い性に優れ、また、得られる成形体の剛性や寸法安定性が充分なものとなり、好適である。
【0020】
粒子状充填剤の具体例としては、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、アルミナ、シリカ、カーボンブラック、グラファイト、酸化アンチモン、赤燐、各種金属粉、クレー、各種フェライト、及びハイドロタルサイトなどを挙げることができる。これらの粒子状充填剤は、中空体としたものであってもよい。中でも、塊状重合反応を阻害しないという点より、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、及びシリカが好ましい。
【0021】
以上の無機充填剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0022】
<被覆層A>
本発明において被覆層Aは、ノルボルネン構造を有する炭化水素基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤(I)からなる。本発明の表面被覆型補強材において被覆層Aは1層からなっても2以上の層からなってもよい。被覆層Aが2以上の層からなる場合、被覆層Aは連続して積層されていても、被覆層Bを挟んで断続的に積層されていてもよい。被覆層Aを構成する各層は、同一のカップリング剤からなる層であっても、異なるカップリング剤からなる層であってもよい。また、各層は、単一のカップリング剤からなっても、2以上のカップリング剤の混合物からなってもよい。なお、本発明の所望の効果の発現を阻害しない範囲であれば、被覆層Aの構成成分として、シランカップリング剤(I)以外のカップリング剤又は脂肪酸が含まれていてもよく、その含有量としては、10重量%以下である。
【0023】
本発明で用いられるシランカップリング剤(I)としては、特に限定はないが、ノルボルネン系モノマーと重合反応により効率的に結合しうることから、以下の式(Q)で示される化合物が好適に用いられる。
R’SiR’’ (Q)
【0024】
上記式(Q)において、R’とR’’は各々同じであっても異なっていてもよい任意の基である。当該基の具体例としては、水素原子;フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、及びプロピル基等の、炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、及びプロポキシ基等の、炭素数1〜6のアルコキシ基;等が挙げられるが、ハロゲン原子および炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、塩素原子、メトキシ基、及びエトキシ基がより好ましく、メトキシ基、及びエトキシ基が特に好ましい。
【0025】
上記式(Q)において、Xはノルボルネン構造を有する炭化水素基である。当該炭化水素基を構成する全炭素原子の合計数は、好ましくは7〜30であり、より好ましくは9〜20である。Xとして好適な炭化水素基としては、ビシクロヘプテニル基、及びビシクロヘプテニルアルキル基が挙げられる。なお、ジシクロヘプテニルアルキル基の、アルキル基の炭素数は2〜8が好ましい。
【0026】
上記式(Q)中、gとhは0〜3の整数であり、pは1〜4の整数である。また、g+h+p=4である。
【0027】
本発明においてシランカップリング剤(I)として用いられる、前記式(Q)で示される化合物の具体例としては、ビシクロヘプテニルトリメトキシラン、ビシクロヘプテニルエチルトリメトキシシラン、ビシクロヘプテニルヘキシルトリメトキシシラン、ビシクロヘプテニルトリクロロシラン、ビシクロヘプテニルエチルトリクロロシラン、及びビシクロヘプテニルヘキシルトリクロロシランが挙げられるが、好ましくはビシクロヘプテニルエチルトリメトキシシラン、及びビシクロヘプテニルヘキシルトリメトキシシランであり、より好ましくはビシクロヘプテニルヘキシルトリメトキシシランである。
【0028】
被覆層A一層の厚さとしては特に限定はないが、通常、1分子層〜3分子層程度、好ましくは1分子層程度である。
【0029】
<被覆層B>
本発明において被覆層Bはシランカップリング剤(I)以外のカップリング剤及び/又は脂肪酸からなる。本発明の表面被覆型補強材において被覆層Bは1層からなっても2以上の層からなってもよい。被覆層Bが2以上の層からなる場合、被覆層Bは連続して積層されていても、被覆層Aを挟んで断続的に積層されていてもよい。被覆層Bを構成する各層は、同一のカップリング剤及び/又は脂肪酸からなる層であっても、異なるカップリング剤及び/又は脂肪酸からなる層であってもよい。また、各層は、単一のカップリング剤及び/又は脂肪酸からなっても、2以上のカップリング剤及び/又は脂肪酸からなってもよい。なお、本発明の所望の効果の発現を阻害しない範囲であれば、被覆層Bの構成成分にはシランカップリング剤(I)が含まれていてもよく、その含有量としては、10重量%以下である。
【0030】
被覆層Bを構成するカップリング剤は、前記シランカップリング剤(I)以外の公知のカップリング剤であれば特に限定されるものではない。かかるカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤(I)以外のシランカップリング剤、チオールカップリング剤、アルミネートカップリング剤、及びチタネートカップリング剤などが挙げられる。
【0031】
シランカップリング剤(I)以外のシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、アクリロプロピルトリメトキシシラン、及びパラスチリルトリメトキシシランなどが挙げられる。本発明の表面被覆型補強材の分散性を高める観点から、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、及びヘキシルトリメトキシシランが好ましく、さらに入手容易であることから、ビニルトリメトキシシランがより好ましい。
【0032】
チオールカップリング剤としては、例えば、トリアジンチオール及びその誘導体、並びにメルカプトシランなどが挙げられる。本発明の表面被覆型補強材の分散性を高める観点から、トリアジンチオール誘導体が好ましい。トリアジンチオール誘導体としては、以下の一般式(Z):
【0033】
【化1】
【0034】
で表される化合物が挙げられる。一般式(Z)中、Xは−CR、−NR、−OR、又は−SRであり、R〜Rは、−H、−C2n+1(ただし、nは1〜20の自然数)、−C2mCH=CH(ただし、mは1〜20の自然数)、−CH=CH、−C16CH=CHC17、−C11(シクロヘキシル基)、−C(フェニル基)、−CH、−CHCH、−CHCHOOC(CHCH=CH(「CHOOC」は、エステル結合部である。以下同様。)、−CHCHCOOC(CHCH=CH、及び−CHCHOOC(CHCH=CHのいずれかであり、R〜Rはお互いに同じであっても異なっていても良く、Mは、H、Li、Na、K、Ca又はBaである。
【0035】
上記トリアジンチオール誘導体の中でも、Xが−NR、Rが−H、Rが−C2mCH=CHであり、MがNaのものが好ましい。このようなトリアジンチオール誘導体の具体例としては、以下の式(e)〜(g)に示される化合物が挙げられる。
【0036】
【化2】
【0037】
【化3】
【0038】
【化4】
【0039】
アルミネートカップリング剤としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
【0040】
チタネートカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリスステアロイルチタネ−ト、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェ−ト)チタネ−ト、テトライソプロピルビス(ジオクチルピロホスファイト)チタネ−ト、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネ−ト、テトライソプロピルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネ−ト、テトラ(2、2−ジアリルオキシメチルー1ーブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネ−ト、ビス(ジオクチルピロホスフェ−ト)オキシアセテ−トチタネ−ト、ビス(ジオクチルピロホスフェ−ト)エチレンチタネ−ト、イソプロピルトリオクタノイルチタネ−ト、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネ−ト、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェ−ト)チタネ−ト、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネ−ト、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネ−ト、イソプロピルトリクミルフェニルチタネ−ト、ジクミルフェニルオキシアセテ−トチタネ−ト、及びジイソステアロイルエチレンチタネ−トなどが挙げられる。本発明の表面被覆型補強材の分散性を高める観点から、イソプロピルトリスステアロイルチタネ−トが好ましい。
【0041】
被覆層Bを構成する脂肪酸としては、特に限定されるものではなく、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、及びアラキジン酸などが挙げられる。本発明の表面被覆型補強材の分散性を高める観点から、ステアリン酸が好ましい。
【0042】
被覆層Bの構成成分としては、本発明の表面被覆型補強材の分散性の向上と、得られる成形体の剛性の向上とのバランスを考慮すると、カップリング剤(I)以外のシランカップリング剤、チオールカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、及び脂肪酸からなる群より選択される少なくとも1種を用いるのが好ましい。
【0043】
被覆層B一層の厚さとしては特に限定はないが、通常、1分子層〜30分子層程度、好ましくは5分子層〜20分子層程度である。
【0044】
<表面被覆型補強材>
本発明の表面被覆型補強材は、前記被覆層A及び前記被覆層Bを、それぞれ一層以上有する積層被覆層を補強材表面に有してなるものである。
【0045】
本発明の表面被覆型補強材は、例えば、以下の層形成方法に従って、所定の被覆層を、補強材表面に積層被覆することにより形成することができる。
なお、本発明の表面被覆型補強材は、本発明の所望の効果の発現が阻害されない限り、本発明に用いるカップリング剤又は脂肪酸以外の他の材料、例えば、四塩化珪素やアルキルアルミニウム等の反応性無機化合物などからなる層を、積層被覆層中に有してなるものであってもよい。また、本発明の所望の効果の発現が阻害されない限り、当該層の位置も特に限定されるものではない。
以下、補強材表面を積層被覆するために用いる材料を「被覆材料」と、補強材又は被覆層を表面に有する補強材を「被覆対象物」という。
【0046】
用いる補強材が、例えば、板状、棒状、筒状、小片状、又は繊維状である場合、被覆材料を、例えば、エタノールなどの任意の溶剤に溶かして被覆材料液を得、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法などの公知の塗布方法により被覆対象物の表面に被覆材料液を塗布するか、被覆対象物を被覆材料液に浸漬するか、又は被覆対象物に被覆材料液を含浸させ、次いで、乾燥操作を行う工程を適宜繰り返すことにより、本発明の表面被覆型補強材を製造することができる。
【0047】
一方、用いる補強材が、例えば、球状、又は粒状である場合、以下の層形成方法を適宜繰り返すことにより、本発明の表面被覆型補強材を製造することができる。
例えば、〔i〕被覆対象物及び被覆材料を合わせて仕込み、乾式にて撹拌する方法や、〔ii〕被覆対象物を仕込み、乾式にて撹拌しながら被覆材料を添加し、さらに乾式にて撹拌する方法が挙げられる。前記〔i〕や〔ii〕の方法は、用いる補強材が1種の場合は当該補強材のみを仕込んで、2種以上の場合は、全ての補強材を一度に仕込んで実施すればよい。また、用いる補強材が2種以上の場合、〔iii〕2種以上の被覆対象物に別々に被覆材料を添加し、乾式にてそれぞれ撹拌した後、各々の被覆対象物を合わせ、更に乾式にて撹拌する方法を採用することもできる。これらの中でも、上記〔ii〕の方法が好ましく、被覆材料を被覆対象物に対し均一に分布させる観点から、被覆材料を添加する際には、噴霧などにより除々に添加していくのが好ましい。
【0048】
以下、上記〔ii〕の層形成方法に従い、補強材として無機充填剤を用い、無機充填剤の表面上、第一層目として被覆層Bに相当する被覆層B1を、第二層目として被覆層Aを、第三層目として被覆層Bに相当する被覆層B2を、それぞれ積層被覆してなる表面被覆型無機充填剤の例により、本発明の表面被覆型補強材の製造方法を具体的に説明する。なお、カップリング剤1と2は、シランカップリング剤(I)以外のカップリング剤である。
【0049】
(第一層目の形成)
ミキサーに、無機充填剤を投入し、撹拌する。無機充填剤は、繊維状充填剤のみでも、粒子状充填剤のみでもよく、繊維状充填剤と粒子状充填剤の両方でもよい。また、公知のその他の無機充填剤を更に用いてもよい。
【0050】
ミキサーの槽内の温度は、通常、0〜40℃であり、好ましくは20〜30℃である。ミキサーの翼先端速度は、通常、10〜50m/sであり、好ましくは20〜40m/sである。ミキサーの撹拌時間は、通常、30秒間〜5分間であり、好ましくは1〜3分間である。
【0051】
次いで、ミキサー内に被覆層B1を形成するための所望のカップリング剤1を噴霧により添加する。被覆材料の噴霧は、一度に行っても、複数回に分けて行ってもよい。また、ミキサーを撹拌しながらであっても、撹拌を一旦止めてからであってもよい。カップリング剤1の無機充填剤に対する噴霧量は特に限定されないが、無機充填剤100重量部に対して、通常、0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部である。
【0052】
噴霧終了後、前記撹拌条件に従って更に攪拌を行った後、無機充填剤を恒温器に移し、通常、100〜130℃、好ましくは110〜120℃で、通常、30〜120分間、好ましくは60〜90分間の条件にて乾燥させる(乾燥工程)ことにより、被覆層B1が表面に形成された無機充填剤を得る。得られた無機充填剤は、冷却せずにそのまま次の工程に使用しても良いが、通常、0〜40℃、好ましくは20〜30℃の温度範囲まで冷却し(冷却工程)、用いるのが好ましい。
【0053】
(第二層目の形成)
その表面に被覆層B1を形成した無機充填剤をミキサー内に投入し、前記と同様にして、ミキサー内にシランカップリング剤(I)を噴霧により添加する。
【0054】
噴霧終了後、前記と同様にして撹拌し、無機充填剤を恒温器に移して乾燥させ、被覆層B1の表面に被覆層Aを形成した無機充填剤を得る。得られた無機充填剤は、前記同様、冷却せずにそのまま次の工程に使用しても良いが、乾燥及び冷却後に用いるのが好ましい。
【0055】
(第三層目の形成)
第三層目の被覆層B2を、第二層目の被覆層Aと同様にしてカップリング剤2を用いて被覆層Aの表面に形成する。これにより、第一層目として被覆層B1、第二層目として被覆層A、及び第三層目として被覆層B2からなる積層被覆層を無機充填剤表面に有してなる表面被覆型無機充填剤が得られる。
【0056】
本発明の表面被覆型補強材の製造では、上記のように、補強材又は被覆層の表面に各層を形成するごとに、被覆層を有する補強材を、乾燥工程と冷却工程に供するのが好ましい。これにより、各層を構成する材料が均一に分布し、厚さの等しい層を形成することができ、好適である。
【0057】
以上のようにして、被覆層Aと被覆層Bとを補強材表面に積層被覆してなる、本発明の表面被覆型補強材を製造することができる。補強材の表面を覆う層構造としては、被覆層A及び被覆層Bを、それぞれ一層以上有する積層被覆層であれば特に限定はない。また、前記層構造には、本発明の所望の効果の発現が阻害されない限り、本発明に用いるカップリング剤又は脂肪酸以外の他の材料により形成された被覆層が含まれていてもよい。本発明の表面被覆型補強材を配合液の調製に用いる場合にあっては、該補強材を比較的多く配合しても、実質的に該配合液の粘度増加が生じず、優れた分散性が得られ、また、得られる成形体にあっては、剛性を向上させる観点から、本発明の表面被覆型補強材において、被覆層Aの少なくとも一層は、補強材表面の積層被覆層の最外層(補強材表面から最も離れている層)から、当該最外層を含め、通常、5層以内、好ましくは3層以内、より好ましくは2層以内にあるのが好適である。また、本発明の表面被覆型補強材において、補強材表面の積層被覆層を構成する被覆層の総数としては、通常、7層以下、好ましくは5層以下、より好ましくは3層以下である。当該総数の下限は2である。
【0058】
本発明の表面被覆型補強材による効果発現に関するメカニズムの詳細は不明であるが、補強材表面、シランカップリング剤(I)、及びシランカップリング剤(I)以外のカップリング剤又は脂肪酸の各々が相互作用し、本発明の表面被覆型補強材を配合液の調製に用いる場合にあっては優れた分散性が発揮され、一方、本発明の表面被覆型補強材を用いて得られる成形体にあっては、シランカップリング剤(I)の有する、補強材と重合体との接着性改善効果が相乗的に高められるものと推定される。
【0059】
本発明の表面被覆型補強材の平均粒子径は特に限定されるものではないが、通常、0.5〜50μm、好ましくは1〜20μmである。かかる平均粒子径は、例えば、レーザー回折法により測定することができる。
【0060】
本発明の表面被覆型補強材において、被覆材料による補強材表面又は被覆層の被覆の程度は、本発明の所望の効果が得られる限り、完全である必要はない。被覆の程度としては、被覆材料で被覆する対象である、補強材又は被覆材料層の表面積を100%としたとき、通常、10%以上、好ましくは50%以上であればよい。被覆の程度は、例えば、JIS Z 8830「気体吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」により求めることができる。
【0061】
<配合液>
本発明の配合液は、ノルボルネン系モノマー、重合触媒、及び本発明の表面被覆型補強材を含有してなるものである。当該配合液において、用いる表面被覆型補強材を構成する補強材は無機充填剤である。
本発明の配合液は、通常、予備配合液を2以上調製しておき、反応射出成形を行う直前にそれらの予備配合液を混合して重合反応性の配合液として調製される。予備配合液は各々単独では重合活性を持たないが、混合することにより重合活性を示しうるように、適宜、組成を選択して調製すればよい。
【0062】
本発明に用いるノルボルネン系モノマーとは、ノルボルネン環構造を分子内に有する環状オレフィンモノマーであり、特に限定はない。中でも、耐熱性に優れた成形体が得られることから、二環体以上の多環ノルボルネン系モノマーを用いるのが好ましい。
【0063】
ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネンやノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン(シクロペンタジエン二量体)やジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;シクロペンタジエン四量体等の七環体;等を挙げることができる。
これらのノルボルネン系モノマーは、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基等の、炭素数1〜8のアルキル基;ビニル基等の、炭素数2〜8のアルケニル基;エチリデン基等の、炭素数2〜8のアルキリデン基;フェニル基、トリル基、及びナフチル基等の、炭素数6〜10のアリール基等の置換基を有していてもよい。また、これらのノルボルネン系モノマーは、エステル結合〔-C(=O)O-〕含有基、エーテル結合(-O-)含有基、シアノ基、及びハロゲン原子等の極性基を有していてもよい。
【0064】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、トリシクロペンタジエン、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエン共二量体、5−エチリデンノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−ヘキサヒドロナフタレン、及びエチレンビス(5−ノルボルネン)等が挙げられる。
【0065】
ノルボルネン系モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記ノルボルネン系モノマーのうち、入手が容易であり、反応性に優れ、得られる成形体が耐熱性に優れたものとなることから、二環体、三環体、四環体又は五環体のノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0066】
また、生成する重合体が熱硬化型となるのが好ましく、そのためには、上記ノルボルネン系モノマーとして、対称性のシクロペンタジエン三量体等の、反応性の二重結合を二個以上有する架橋性モノマーを少なくとも含むものが用いられる。全ノルボルネン系モノマー中の架橋性モノマーの含有割合は、通常、2〜30重量%であるのが好ましい。
【0067】
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、ノルボルネン系モノマーと共重合可能な、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロオクテン、及びシクロドデセン等の単環環状オレフィンモノマー等を、コモノマーとして用いてもよい。
【0068】
本発明に用いる重合触媒としては、成形体の生産性に優れることから、メタセシス重合触媒が好ましい。メタセシス重合触媒は、ノルボルネン系モノマーを開環重合することができる触媒であればよく、特に限定されない。
【0069】
メタセシス重合触媒は、遷移金属原子を中心金属原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体である。遷移金属原子としては、5、6及び8族(長周期型周期表、以下同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。
【0070】
例えば、6族のタングステンやモリブデンを中心金属原子とするメタセシス重合触媒としては、例えば、六塩化タングステン等の金属ハロゲン化物;タングステン塩素酸化物等の金属オキシハロゲン化物;酸化タングステン等の金属酸化物;オキシ有機タングステンハライド;及びトリドデシルアンモニウムモリブデートやトリ(トリデシル)アンモニウムモリブデート等の有機金属酸アンモニウム塩、特に有機モリブデン酸アンモニウム塩等;が挙げられる。これらの中では、オキシ有機タングステンハライド及び有機モリブデン酸アンモニウム塩が好ましい。
【0071】
メタセシス重合触媒としては、中でも、5、6及び8族の原子を中心金属原子とする金属カルベン錯体を用いるのが好ましい。金属カルベン錯体の中では、8族のルテニウムやオスミウムのカルベン錯体が好ましく、ルテニウムカルベン錯体がより好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が高く、ノルボルネン系モノマーを用いた成形体の生産性に優れ、得られる成形体で未反応のノルボルネン系モノマーに由来する臭気が少なく好適である。
ルテニウムカルベン錯体の中では、少なくとも2つのカルベン炭素がルテニウム原子に結合しており、該カルベン炭素のうち少なくとも一つにはヘテロ原子が直接結合しているルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。本明細書において「ヘテロ原子」とは、周期表15族及び16族の原子をいう。ヘテロ原子の具体例としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、砒素原子、及びセレン原子などが挙げられる。中でも、安定なカルベン錯体が得られることから、窒素原子、酸素原子、リン原子及び硫黄原子が好ましく、リン原子及び窒素原子が特に好ましい。
【0072】
前記ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、以下の式(1)又は式(2)で表される錯体が挙げられる。
【0073】
【化5】
【0074】
式(1)及び(2)において、R10及びR20はそれぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20の炭化水素基;を示す。X及びXはそれぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を示す。L及びLはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を示す。また、R10とR20は互いに結合して、ヘテロ原子を含むか、又は含まないで、環を形成していてもよい。さらに、R10、R20、X、X、L及びLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成していてもよい。
【0075】
前記ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、以下の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0076】
【化6】
【0077】
式(3)及び(4)において、R30、R40、R50およびR60はそれぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20個の炭化水素基を示す。また、R30、R40、R50およびR60は任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0078】
前記式(1)及び(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子である。また、中性電子供与性化合物とは、中心金属原子から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子である。
【0079】
メタセシス重合触媒の使用量は、反応に使用するノルボルネン系モノマー1モルに対し、通常、0.01ミリモル以上、好ましくは0.1ミリモル以上、かつ、50ミリモル以下、好ましくは20ミリモル以下である。メタセシス重合触媒の使用量が少なすぎると重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が低下する一方、使用量が多すぎると反応が激しすぎるため、反応射出成形時に型内に配合液が充分に充填される前に硬化したり、触媒が析出し易くなって配合液を均質に保存することが困難になる傾向がある。
【0080】
重合活性を制御する目的で、活性剤(共触媒)をメタセシス重合触媒と併用してもよい。活性剤は特に限定されず、例えば、周期表11〜14族の原子を含む有機金属化合物を挙げることができる。その具体例としては、エチルアルミニウムジクロリドやジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド、及びアルコキシアルキルアルミニウムハライド等の有機アルミニウム化合物;テトラブチル錫等の有機スズ化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;等が挙げられる。メタセシス重合触媒としてオキシ有機タングステンハライドや有機モリブデン酸アンモニウム塩を用いる場合には、ここに具体例として挙げた活性剤を併用するのが好ましい。一方、メタセシス重合触媒としてルテニウムカルベン錯体を用いる場合には、活性剤を用いても用いなくてもよい。
【0081】
活性剤の使用量は、特に限定されないが、通常、反応に使用するメタセシス重合触媒1モルに対して、0.1モル以上、好ましくは1モル以上、かつ、100モル以下、好ましくは10モル以下である。活性剤を用いなかったり活性剤の使用量が少なすぎたりすると、重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が低下する一方、使用量が多すぎると、反応が激しすぎるので、反応射出成形時に型内に配合液が充分に充填される前に硬化する傾向がある。
【0082】
活性剤は、通常、モノマーに溶解して用いるが、反応射出成形法による成形体の性質を本質的に損なわない範囲であれば、少量の溶剤に懸濁させた上で、モノマーと混合することにより、析出しにくくしたり、溶解性を高めたりして用いてもよい。
なお、活性剤は、通常、メタセシス重合触媒を含有する予備配合液には添加せず、ノルボルネン系モノマー及び活性剤を含有する別個の予備配合液を調製して用いるのが好ましい。
【0083】
また、活性調節剤を用いてもよい。活性調節剤は、後述するように重合触媒を含有する予備配合液と活性剤を含有する予備配合液とを混合し、重合反応性の配合液として金型に注入して重合を開始する際、注入途中で重合が開始するのを防ぐためのものである。
かかる活性調節剤としては、エーテル、エステル、及びニトリル等のルイス塩基、アセチレン類及びα−オレフィン類が好適に使用される。具体的には、ルイス塩基としては、ブチルエーテル、安息香酸エチル、及びジグライム等を例示することができる。また、アセチレン類としてはフェニルアセチレン等が、α−オレフィンとしてはビニルノルボルネン等を例示することができる。また、一方で共重合モノマーとして、極性基含有モノマーを用いる場合には、それ自体がルイス塩基であることがあり、活性調節剤としての作用を兼ね備えていることもある。活性調節剤は、活性剤を含む予備配合液に添加するのが好ましい。また、活性調節剤としては、アルコール類も好適に用いることができる。
更に、モノマーの重合転化率を向上させるため、重合促進剤を用いるのが好ましい。重合促進剤としては、塩素原子含有化合物が好ましく、中でも有機塩素化合物及び塩素化ケイ素化合物が好ましい。その具体例としては、2,4−ジクロロベンゾトリクロリド、ヘキサクロロ−p−キシレン、2,4−ジクロロ−トリクロロトルエン、及び四塩化ケイ素等を挙げることができる。
上記活性調節剤及び重合促進剤の添加量は、特に限定されないが、本発明の配合液中、概ね10重量ppm〜10重量%である。
【0084】
本発明の配合液における、本発明の表面被覆型補強材の配合量としては、ノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、5〜900重量部であるのが好ましく、10〜400重量部であるのがより好ましい。
本発明の配合液中、表面被覆型補強材が多すぎると、配合液を金型内に注入する際にタンクや配管内で該補強材が沈降したり、注入ノズルが詰まったりする傾向がある。逆に、少なすぎると、得られる成形体の剛性や寸法安定性が不充分になる傾向がある。
【0085】
本発明の配合液は、通常、1.3〜1.6、好ましくは1.5〜1.6の剪断速度係数を有するエラストマーを含有するのが好ましい。このようなエラストマーを配合することにより、流動性に優れた配合液を得ることができ、これを用いて、ヒケの少ない成形体を得ることができる。エラストマーの剪断速度は、特開2008−163105号公報に記載の方法で測定することができる。
【0086】
エラストマーの具体例としては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びこれらの水素化物等を挙げることができる。
【0087】
本発明においては、エラストマーは、オレフィン系エラストマーであるのが好ましく、エチレン−プロピレンコポリマー及びエチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)がより好ましい。エチレン−プロピレンコポリマーとしては、エチレン単位5〜50重量%、及びプロピレン単位50〜95重量%からなるものが特に好ましく、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマーとしては、エチレン単位5〜50重量%、プロピレン単位50〜95重量%、及びジエンモノマー単位0〜10重量%からなるものが特に好ましい。
【0088】
また、本発明においては、エラストマーが5〜100のムーニー粘度を有するものであるのが好ましい。エラストマーのムーニー粘度が上記範囲よりも高い場合、反応射出成形機を配合液が循環する間にエラストマーの分子鎖が切断されて、得られる成形品の物性が低下し、ムーニー粘度が上記範囲よりも低い場合、エラストマーが成形品に完全相溶して耐衝撃性が劣るだけでなく、耐熱性も低下する不具合を発生する傾向がある。
【0089】
本発明の配合液において、エラストマーの配合量としては、ノルボルネン系モノマー100重量部当り、0.5〜20重量部であるのが好ましく、2〜10重量部であるのがより好ましい。エラストマーの配合量が上記範囲にあれば、本発明の配合液の流動性がよく、ヒケが少ない成形体が得られるので、好適である。
【0090】
本発明において、得られる成形体の特性の改良又は維持のために、配合液に各種添加剤をさらに配合してもよい。かかる添加剤としては、補強剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料、ジシクロペンタジエン系熱重合樹脂及びその水添物等を挙げることができる。
【0091】
各種添加剤は、重合触媒を含有する予備配合液に添加しておき、反応射出成形時に、モノマーを含有する予備配合液と混合する方法;モノマーを含有する予備配合液に添加しておき、反応射出成形時に、重合触媒を含有する予備配合液と混合する方法;予め型内に充填しておく方法;等により、本発明の配合液に添加される。添加方法は、添加剤の種類により適宜選定すればよい。
【0092】
本発明の配合液の調製方法は、特に限定されないが、典型的には、重合触媒が活性剤を必要とするか否かによって、以下の2つの方法を示すことができる。
重合触媒が活性剤を必要としない場合には、ノルボルネン系モノマーを含有する予備配合液(以下、「a液」ということがある。)と、重合触媒を少量の不活性溶媒に溶解又は分散して調製した予備配合液(以下、「b液」ということがある。)とを混合して、本発明の配合液を調製すればよい。
【0093】
この場合、本発明の表面被覆型補強材は、「a液」及び「b液」のいずれに含有させてもよいが、ノルボルネン系モノマーを含有する「a液」に含有させるのが好ましい。
【0094】
なお、本発明の表面被覆型補強材は、1種単独で用いてもよいし、また、その調製に用いた無機充填剤が相異なる2種以上のものや、用いた無機充填剤は同じであるが、用いた被覆材料や、無機充填剤の表面上に形成された被覆材料の層構造が相異なる2種以上のものを併用してもよい。例えば、用いた無機充填剤が繊維状充填剤である表面被覆型補強材と、用いた無機充填剤が粒子状充填剤である表面被覆型補強材とを、本発明の配合液の調製に用いる場合、それらは、それぞれ別個の予備配合液に配合しても、両者を同一の予備配合液に配合してもよい。本発明の表面被覆型補強材の沈降を抑制し、予備配合液の保存安定性を良好に維持する観点からは、後者の配合方法が好ましい。
【0095】
一方、重合触媒が活性剤を必要とする場合には、ノルボルネン系モノマーと活性剤とを含有する予備配合液(以下、「A液」ということがある。)と、ノルボルネン系モノマーと重合触媒とを含有する予備配合液(以下、「B液」ということがある。)とを用意し、それらを混合することにより、本発明の配合液を調製すればよい。このとき、ノルボルネン系モノマーのみからなる予備配合液(以下、「C液」ということがある。)を併用してもよい。
【0096】
この場合、本発明の表面被覆型補強材は、「A液」、「B液」及び「C液」のいずれに含有させてもよいが、「C液」に含有させるのが好ましい。本発明の表面被覆型補強材は、重合触媒が活性剤を必要としない場合と同様に、1種単独で用いてもよいし、また、相異なる2種以上のものを併用してもよい。相異なる2種以上のものを併用する場合、本発明の表面被覆型補強材の沈降を抑制し、予備配合液の保存安定性を良好に維持する観点から、いずれの表面被覆型補強材も同一の予備配合液に配合するのが好ましい。
【0097】
本発明の配合液においてエラストマーを配合する場合、エラストマーは、上記のどの予備配合液〔「a液」若しくは「b液」、又は、「A液」、「B液」若しくは「C液」〕に配合してもよいが、ノルボルネン系モノマーを含有する予備配合液に配合して使用するのが好ましい。
本発明の配合液は、以上の通りの予備配合液を、以下に示すような方法により適宜混合することにより得られる。
【0098】
<成形体の製造方法>
本発明の成形体の製造方法は、型内で、本発明の表面被覆型補強材の存在下、ノルボルネン系モノマーを重合触媒により塊状重合させる工程を有する。
【0099】
前記工程の実施は、例えば、衝突混合装置を備えた反応射出成形(RIM)装置を用いて行うことができる。すなわち、衝突混合装置に、二種以上の予備配合液を、それぞれ別個に導入して、ミキシングヘッドで瞬間的に混合させ、得られる重合性反応液を型内に注入し、この型内で塊状重合を行うことにより、本発明の成形体を得る。なお、衝突混合装置に代えて、ダイナミックミキサーやスタティックミキサー等の低圧注入機を使用することも可能である。
【0100】
用いる表面被覆型補強材を構成する補強材が無機充填剤である場合、予備配合液として、前記した、「a液」及び「b液」、又は「A液」、「B液」及び「C液」を用いればよい。予備配合液は前記ミキシングヘッド内で混合され、本発明の配合液となる。この場合、配合液が注入された型内では、表面被覆型補強材の存在下、重合触媒によりノルボルネン系モノマーが塊状重合されることになる。一方、用いる表面被覆型補強材を構成する補強材が無機充填剤以外である場合、表面被覆型補強材を添加しないこと以外は、補強材が無機充填剤である場合と同様にして、予備配合液を調製し、用いればよい。予備配合液は前記ミキシングヘッド内で混合され、表面被覆型補強材を含まない、重合性反応液となる。この場合、表面被覆型補強材を構成する補強材としては、例えば、ガラス板、金属箔、樹脂フィルム、又は繊維材料が挙げられるが、かかる補強材を用いてなる表面被覆型補強材を型内に予め設置しておく。かかる型内に重合性反応液を注入すれば、該型内において、表面被覆型補強材の存在下、重合触媒によりノルボルネン系モノマーを塊状重合することができる。
【0101】
反応射出成形に供する前の重合性反応液(本発明の配合液を含む。以下、同じ。)の温度は、通常、10〜60℃が好ましく、粘度は、例えば、30℃において、通常、5〜3,000mPa・s、特に50〜1,000mPa・sが好ましい。
【0102】
反応射出成形に使用する金型の材質としては、特に限定されないが、スチール、アルミニウム、亜鉛合金、ニッケル、銅、及びクロム等の金属であるのが好ましい。金型は、鋳造、鍛造、溶射、及び電鋳等のいずれの方法で製造されたものでもよく、また、メッキされたものであってもよい。
金型の構造は、型に重合性反応液を注入する際の圧力を勘案して決めるとよい。金型の型締め圧力は、通常、ゲージ圧で0.1〜9.8MPaである。
成形時間は、ノルボルネン系モノマー、重合触媒、活性剤の種類、それらの組成比、金型温度等によって変化するため一様ではないが、一般的には5秒間〜6分間、好ましくは10秒間〜5分間である。
【0103】
用いる金型としては、割型構造、すなわち、コア型とキャビティー型を有する成形型を用いるのが好ましい。コア型とキャビティー型は、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。コア型とキャビティー型で形成されるキャビティ内に重合性反応液を注入して塊状重合を行う場合、一般に意匠面側金型の金型温度T1(℃)を意匠面に対応する側の金型の金型温度T2(℃)より高く設定しておくのが好ましい。これにより、成形体の表面外観をヒケや気泡のない美麗なものとすることができる。
T1−T2は、下限が好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、上限が好ましくは60℃以下である。T1は、上限が好ましくは110℃以下、より好ましくは95℃以下であり、下限が好ましくは50℃以上である。T2は、上限が好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下であり、下限が好ましくは30℃以上である。
金型温度を調整する方法としては、例えば、ヒータによる金型温度の調整;金型内部に埋設した配管中に循環させる、温調水や油等の熱媒体による金型温度の調整;等が挙げられる。
【0104】
塊状重合の終了後、金型を型開きして脱型することにより、本発明の成形体を得ることができる。かかる成形体は、剛性、特に曲げ強度と曲げ弾性率に優れたものである。本発明の成形体は、例えば、自動車や建機・農機等のボディパーツ、外壁や天井、床等の住宅資材、電気・電子部品の封止材料や放熱材料などとして好適に用いられる。
【実施例】
【0105】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。以下において「部」及び「%」は特に断りのない限り重量基準である。
また、各特性は、下記に示す方法により測定した。
【0106】
(1)配合液の粘度
配合液は、ノルボルネン系モノマーと表面被覆型無機充填剤とを含む予備配合液Xと、重合触媒を含む予備配合液Yとを混合して調製するが、予備配合液Yの配合量は極少量であり、配合直後(約2分以内)では予備配合液Xの粘度に実質的に影響を与えないと考えられたことから、予備配合液Xの粘度は、調製直後の配合液の粘度と実質的に同じである。そこで、実施例と比較例では、予備配合液Xの粘度を測定して、配合液の粘度とみなした。
なお、予備配合液Xの粘度は、B型粘度計を用いて、液温30℃とし、No.23のローターを用い、回転数60rpmの条件で1分間撹拌したときの値を測定した。
【0107】
(2)曲げ強度
成形体の曲げ強度は、JIS K 7171に従い測定した。標準偏差σは、測定データの相加平均を求めた後、各測定データから相加平均を差し引いた値を2乗したものの総和を求め、次いで測定データ数から1を差し引いた値で該総和を除して不偏分散(σ’2)を得、該不偏分散の正の平方根として求めた。
【0108】
(3)曲げ弾性率
成形体の曲げ弾性率は、JIS K 7171に従い測定した。標準偏差σは、前記曲げ強度の場合と同様にして求めた。
【0109】
実施例と比較例で成形体の製造に使用した成分を以下に示す。
<シランカップリング剤>
・ビシクロヘプテニルトリエトキシシラン
(以下、NrSiと表記する。)
・ビシクロヘプテニルエチルトリエトキシシラン
(以下、NrC2Siと表記する。)
・ビシクロヘプテニルヘキシルトリエトキシシラン
(以下、NrC6Siと表記する。)
<チタネートカップリング剤>
・イソプロピルトリスステアロイルチタネート
(以下、TTSと表記する。)
<前記カップリング剤以外のカップリング剤>
・ビニルシラン(以下、VSiと表記する。)
<無機充填剤>
・粒子状充填剤
(水酸化アルミニウム;50%体積累積径:12μm、アスペクト比:1)
【0110】
以下においては、その表面にカップリング剤層を有する無機充填剤を処理後充填剤と記載する。
【0111】
実施例1
(表面被覆型無機充填剤の調製)
1Lのヘンシェルミキサーに、粒子状充填剤を100部投入し、槽内温度20℃、翼先端速度20m/sで撹拌した。次いで、ミキサー内に、VSiを0.5部噴霧することにより添加し、噴霧終了後、翼先端速度20m/sで1分間撹拌した。その後、処理後充填剤をイナートオーブンに移し、温度を110℃として、1時間乾燥し、20℃まで冷却した。
【0112】
次いで、ミキサー内に、上記で得た、冷却後の処理後充填剤を投入し、NrC2Siを0.5部噴霧することにより添加し、噴霧終了後、翼先端速度20m/sで1分間撹拌した。その後、処理後充填剤をイナートオーブンに移し、温度を110℃として、1時間乾燥し、20℃まで冷却した。
【0113】
次いで、ミキサー内に、TTSを0.5部噴霧することにより添加した。噴霧終了後、翼先端速度20m/sで1分間撹拌した。その後、処理後充填剤をイナートオーブンに移し、温度を110℃として、1時間乾燥し、20℃まで冷却することにより、粒子状充填剤の表面にカップリング剤層を3層積層被覆してなる表面被覆型無機充填剤を得た。
【0114】
(予備配合液Xの調製)
ジシクロペンタジエンを90部と、トリシクロペンタジエンを10部とからなる混合モノマーに、上記にて製造した表面被覆型無機充填剤を257部添加し、ホモジナイザーを用いて、回転数13500rpm、1分間の条件でせん断分散することにより、ノルボルネン系モノマーと、表面被覆型無機充填剤と、を含有する予備配合液Xを調製した。得られた予備配合液Xについて、上記方法により、粘度を測定した。
【0115】
(予備配合液Yの調製)
上記とは別に、メタセシス重合触媒としてルテニウムカルベン錯体1.7部をトルエン100部に溶解させ、予備配合液Yを得た。
【0116】
(成形体の調製)
内部に縦250mm×横200mm×厚さ3mmの箱形状の空間(キャビティ)を有する一対の反応射出成形用金型を準備し、一方の金型を温度90℃に、もう一方の金型を60℃に加温した。なお、この反応射出成形用金型は、一方の金型の下部に、反応液注入孔を有する構成となっている。
【0117】
次いで、100部の予備配合液Xと、0.45部の予備配合液Yとを混合し、十分に攪拌して配合液を得た後にピストン式の簡易注入容器に充填し、注入圧力0.3Mpaで反応射出成型用金型内に配合液を注入した。注入後120秒間硬化させ、成形体を取り出した後、120℃のイナートオーブンで1時間加温した。上記方法により、得られた成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0118】
実施例2、3
実施例1で得た表面被覆型無機充填剤における2層目のNrC2Si層を、実施例2ではNrC6Si層とし、実施例3ではNrSi層とした以外は実施例1と同様にして表面被覆型無機充填剤を得た。また、当該充填剤を用いた以外は実施例1と同様にして、予備配合液の粘度を測定し、成形体を製造し、得られた成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0119】
実施例4
実施例1に記載の方法に準じ、粒子状充填剤の表面に1層目としてNrC2Si層、次いで2層目としてTTS層を積層被覆して表面被覆型無機充填剤を得た。また、当該充填剤を用いた以外は実施例1と同様にして、予備配合液の粘度を測定し、成形体を製造し、得られた成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0120】
実施例5
実施例1で得た表面被覆型無機充填剤における1層目のVSi層をNrC2Si層とし、2層目のNrC2Si層をVSi層とした以外は実施例1と同様にして表面被覆型無機充填剤を得た。また、当該充填剤を用いた以外は実施例1と同様にして、予備配合液の粘度を測定し、成形体を製造し、得られた成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0121】
実施例6
実施例1に記載の方法に準じ、粒子状充填剤の表面に1層目と3層目としてVSi層、2層目としてNrC2Si層、4層目としてTTS層を積層被覆して表面被覆型無機充填剤を得た。また、当該充填剤を用いた以外は実施例1と同様にして、予備配合液の粘度を測定し、成形体を製造し、得られた成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0122】
比較例1、2
実施例1に記載の方法に準じ、粒子状充填剤の表面に、比較例1ではTTS層のみを形成し、比較例2ではNrC2Si層のみを形成して表面被覆型無機充填剤をそれぞれ得た。また、当該充填剤を用いた以外は実施例1と同様にして、予備配合液の粘度を測定し、成形体を製造し、得られた成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0123】
実施例1〜6及び比較例1〜2での測定結果等を表1にまとめて示す。
【0124】
【表1】
【0125】
表1より、粒子状充填剤の表面に、本発明に係る被覆層A及び被覆層Bを、それぞれ一層以上有する積層被覆層を有してなる、本発明の表面被覆型無機充填剤を含む配合液は、液粘度が低く、該充填剤の分散性に優れ、得られる成形体は、曲げ強度及び曲げ弾性率が高くなることが分かる(実施例1〜6)。
一方、粒子状充填剤の表面に被覆層を1層のみ形成してなるものを用いた場合、実施例1〜6のものと比べて、配合液の液粘度が高くなり、得られる成形体においては曲げ強度又は曲げ弾性率が低くなることが分かる(比較例1、2)。