(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記測定チップは熱伝導性材料からなる熱伝導ブロックで覆われており、前記熱伝導性ブロックに前記ヒータが取り付けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の全有機体炭素測定装置。
【背景技術】
【0002】
純水や超純水と呼ばれる不純物の少ない液体試料には、製薬用水、半導体製造用行程水、冷却水、ボイラー水、水道水などがある。
【0003】
試料水中の全有機体炭素を測定する全有機体炭素測定装置としては、有機体炭素を二酸化炭素に変換する有機物酸化分解部、有機物酸化分解部で発生した二酸化炭素をガス透過膜を介して測定水へ抽出する二酸化炭素抽出部、及び二酸化炭素抽出部で抽出した二酸化炭素量を測定するために測定水の導電率を測定する導電率検出部を備えたものがある。
【0004】
そのような全有機体炭素測定装置において、二酸化炭素抽出部は有機物酸化分解部で酸化処理が施された試料水から二酸化炭素を測定水に移動させるために、試料水と測定水をガス透過膜で隔てて配置することにより、試料水中の二酸化炭素をそのガス透過膜を介して測定水に移させるようにしている(特許文献1参照。)。
【0005】
μTAS分野では、試料中の二酸化炭素を純水などの測定水に抽出する機能や測定水の導電率を測定する機能を1つのチップとして集積した測定チップが使用されることがある。その場合、測定チップに集積された機能の再現性を高めるために、測定チップの温度を一定に維持することが一般的に行なわれている(例えば、特許文献2参照。)。特に、上記の全有機体炭素測定装置のように導電率の検出により測定を行なう場合は、導電率が温度の影響を受けて変動するため、液体(測定水)の温度を計測して導電率の検出値の補正を行なう必要がある。
【0006】
JIS K 0130によれば、測定値の温度補償を行なわない場合には、恒温槽などを用いて試料温度を指定温度(通常は25℃±0.1℃)に調節して測定する方法が、温度補償に伴なう誤差がないので指定温度における導電率を最も正確に測定できる方法であるとされている。したがって、上記の測定チップを用いる場合には、温度補償を行なうか、チップの温度を一定にする必要がある。
【0007】
さらに、超純水の導電率を測定する場合は、JIS K 0552によれば、温度の変化に対する電解質の導電率の変化に対する補償と水の解離の変化による導電率の変化に対する補償の二重温度補償機能をもつ導電率計で測定する必要があるとされている。しかし、温度測定の誤差は必ず含まれ、かつ電解質によっても液温1℃の上昇に対する導電率の変化は異なるため、二重温度補償には少なくとも2種類の誤差が含まれることになる。したがって、超純水の導電率を測定する場合には、温度補償を行なうよりもチップの温度を一定にするほうが小さい誤差で測定できる。
【0008】
以上のことから、測定結果の再現性を高めるためには、測定チップの温度を一定にすることが好ましい。そのための方法としては、測定チップをヒータで加熱できるようにするとともに測定流路の温度を検出する温度センサを設け、温度センサの計測値が所定の温度に維持されるようにヒータの駆動を制御する方法が一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
測定チップの温度よりも低い温度の測定水が測定流路を大流量で流れた場合、測定流路の熱が測定水に奪われて測定流路の温度が急激に低下する。これにより、測定流路の温度を検出する温度センサの検出値が急激に低下するため、ヒータが測定チップを加熱することによって温度センサの検出温度を一定にするように試みる。
【0011】
しかし、ヒータが測定チップの加熱を開始しても、大流量の測定水が測定水流路を流れている間は測定流路付近の熱が測定水によって局所的に奪われるため温度センサの検出温度が低いままとなり、温度センサの検出温度が所定温度に戻るまでヒータが加熱を続ける結果、測定チップ全体が過剰に加熱されてしまう。これにより、測定流路の測定水の流れが止まると測定流路の温度が所定温度よりも高い温度にまで急激に上昇するという現象が起こる。測定流路の測定水の流れが止まったときにヒータは加熱を停止するが、測定チップ全体が高温になっているため、その後、導電率測定を行なう場合には、測定チップの温度が所定温度に低下するまで待機しなければならず、測定を開始するまでの待機時間が長くなる。
【0012】
そこで、本発明は、測定流路の温度の安定化に要する時間を短縮することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、試料水中の有機体炭素を二酸化炭素に変換する有機物酸化分解部と、有機物酸化分解部で発生した試料水中の二酸化炭素をガス透過部を介して測定水へ抽出する二酸化炭素抽出部、二酸化炭素抽出部を経た測定水を流通させるための測定流路、測定流路を流れる測定水の導電率を測定する導電率検出部を備えた測定チップと、測定流路の温度を検出する温度センサと、測定チップを加熱するためのヒータと、二酸化炭素抽出部に有機物酸化分解部を経た試料水を導入するとともに測定流路で測定水を所定の流量で流し、二酸化炭素抽出部を経た測定水の導電率を測定する測定工程を実行するための測定手段、測定工程が実行される前に、温度センサの検出温度に基づいて測定流路の温度が所定温度になるようにヒータの動作を制御するための温度制御手段及び測定流路において測定工程中よりも大きい流量で測定水を流す測定水処理工程を測定工程とは異なるタイミングで実行するための測定水処理手段を備えた制御部と、を備えた全有機体炭素測定装置である。
【0014】
本発明の第1の態様は、温度制御手段が測定水処理工程中に温度センサの検出温度に拘わらずヒータによる加熱動作を行なわないように構成されているものである。
【0015】
本発明の全有機体炭素測定装置の第2の態様は、温度制御手段が、温度センサの検出温度が導電率測定時に測定流路の温度を調整する温度よりも低く設定された温度になるようにヒータの動作を制御するよう構成されているものである。
【0016】
本発明の全有機体炭素測定装置の第3の態様は、測定流路の温度を検出する温度センサよりもヒータに近い位置の温度を検出する第2の温度センサを備え、温度制御手段が、測定水処理工程中は第2の温度センサの検出温度が所定温度になるようにヒータの動作を制御するよう構成されているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の態様では、測定水処理工程で測定流路の温度が所定温度よりも低くなった場合でも、ヒータによる測定チップの加熱が行なわれないように制御部の温度制御手段を構成した。これにより、測定水処理工程において測定チップが過剰に加熱されることがなくなる。測定水処理工程における測定チップ全体の温度低下は測定流路に比べて小さいため、測定水処理工程の終了後にヒータで加熱することによって測定チップの温度を所定の温度にまで迅速に復旧させることができる。したがって、測定流路の温度が所定の温度で安定するまでの時間を短縮することができる。
【0018】
本発明の第2の態様では、温度制御手段が、測定水処理工程中は導電率測定時に測定流路の温度を調整する温度よりも低く設定された温度になるようにヒータの動作を制御するよう構成されているので、測定水処理工程中は温度センサの検出温度が測定時よりも低い設定温度以下の状態でしかヒータによる加熱が行なわれず、ヒータによる測定チップの過剰な加熱が抑制される。これにより、測定水処理工程の終了後に温度センサの検出温度が所定温度で安定するまでの待機時間を短縮することができる。
【0019】
本発明の第3の態様では、測定流路の温度を検出する温度センサよりもヒータに近い位置の温度を検出する第2の温度センサを備え、温度制御手段が、測定水処理工程中は第2の温度センサの検出温度が所定温度になるようにヒータの動作を制御するよう構成されているので、測定水処理工程中に測定流路よりもヒータに近い位置の温度が所定温度よりも高い温度になるまで過剰に加熱されることがなくなり、測定水処理工程の終了後に温度センサの検出温度が所定温度で安定するまでの待機時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
導電率の測定時に導電率検出部を流れる測定水の流量が変動すると、導電率検出部で検出する導電率にばらつきが生じ、検出精度が低下するという問題がある。そのため、測定時には、導電率検出部を流れる測定水の流量が一定になるように制御する必要がある。測定流路を流れる測定水の流量を安定させるために測定流路の途中に流量調整バルブを設けることが考えられるが、その場合には流量を調節する手間が煩雑になる。また、送液元のポンプの経時変化により流量が変化するなど、測定流路を通る測定水の流量が変化すると、その流量を一定にするために流量調整バルブをその都度調整する必要が生じる。調整しないと再現性が低下してしまう。さらに送液元のポンプに脈流があれば測定水の流量が変動し、それによっても測定値のばらつきが大きくなる。
【0022】
そこで、本発明の全有機体炭素測定装置の好ましい実施形態は、測定流路を介して測定水を貯留する測定水貯留部に接続され、測定水を吸入することによって測定流路を流れる測定水の流量を制御するシリンジポンプと、シリンジポンプに接続され、シリンジポンプから吐出される測定水を排出するための排出流路と、排出流路に設けられ、シリンジポンプに測定水を吸引する工程で閉じ、シリンジポンプから測定水を吐出する工程で開くよう制御部に制御される開閉弁と、をさらに備えている。これにより、導電率の測定時に測定流路を流れる測定水の流量をシリンジポンプの吸入速度を制御することによって高精度に制御することができる。シリンジポンプに吸入した測定水は、開閉弁を開いた状態で吐出することによって排出する。開閉弁を閉じているときは、測定流路を流れる測定水の流量はシリンジポンプの吸入流量と同じであるが、開閉弁を開くことで測定水が導電率の測定時よりも大きい流量で測定流路を流れる。すなわち、開閉弁を開いてシリンジポンプから測定水を吐出する工程が測定水処理工程である。
【0023】
また、好ましい実施形態としては、測定チップが熱伝導性材料からなる熱伝導ブロックで覆われており、熱伝導性ブロックにヒータが取り付けられている形態が挙げられる。熱伝導ブロックで測定チップを覆い、熱伝導性ブロックにヒータを取り付けることで、測定チップを周囲から全体的に均一に加熱することができる。また、測定チップと熱伝導ブロックからなるユニット全体の熱容量が大きくなるので、測定水処理中にヒータによる加熱が行なわれないことによる測定チップと熱伝導ブロックからなるユニット全体の温度の低下具合が小さくなり、測定水処理の終了後にヒータによる加熱を再開することによって測定チップと熱伝導ブロックからなるユニット全体の温度を所定の温度に戻すまでの時間を短縮することができる。
【0024】
以下に本発明の一実施例を説明する。
図1は全有機体炭素測定装置の一実施例の概略図である。
この全有機体炭素測定装置は、試料水を流すための試料水流路2と、測定水を流すための測定水流路15を備えている。試料水流路2と測定水流路15は、それぞれの一部区間が測定ユニット8の測定チップ10内においてガス透過膜14を挟んで互いに対向している。試料水流路2上の
測定ユニット8よりも上流側に、IC(無機態炭素)除去部4と有機物酸化分解部6が配置されている。
【0025】
IC除去部4は、疎水性多孔質
膜を介して真空ポンプにより減圧にすることにより試料水中の二酸化炭素を除去するものである。有機物酸化分解部6は、試料水中の有機体炭素を二酸化炭素に変換するものである。有機物酸化分解部
6はUV(紫外線)ランプ5の周りに流路が巻かれた構造をしており、試料水がその流路を通過するときにUVランプ5からのUVエネルギーにより酸化を受ける。有機物酸化分解部
6の流路内部には触媒(例えば、酸化チタン)が塗布されていることが好ましい。
【0026】
測定ユニット8は試料水流路2の一部を構成するガス交換流路9と測定水流路15の一部を構成するガス抽出流路16がガス透過膜14を挟んで対向配置されるように複数の基板の積層により構成された測定チップ10と、その測定チップ10の周囲を覆う熱伝導性の熱伝
導ブロック12により構成されている。測定チップ10の内部のガス抽出流路16の下流側に測定流路17が設けられているとともに、測定流路17を流れる測定水の導電率を検出するための導電率検出部18が設けられている。測定流路
17は、測定水がガス抽出流路16を経た後、
測定流路17を通過して導電率が検出された後に測定ユニット8の外部へ排出されるように構成されている。
【0027】
ガス透過部14としては、フッ素樹脂に多くの孔が形成された多孔質膜(例えば、住友電工社製のポアフロン(登録商標))、多数の孔が形成されたメンブレンフィルタ(例えば、厚さが10μm、孔径が0.2μm、気孔率が5〜20%のポリカーボネート製メンブレンフィルタ(ISOPORE MEMBRANE FILTER:MILLIPORE社の製品))、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製多孔質膜、又は流路に直交する方向に多数の微小流路が形成された膜などを用いることができる。
【0028】
測定ユニット8は、測定水流路15の一部を構成する測定チップ10の流路内の温度を検出するための温度センサ20を備えている。温度センサ20は、例えば白金測温抵抗体により構成されている。測定ユニット8の熱伝導ブロック12にヒータ24が設けられており、ヒータ24によって熱伝導ブロック12を介して測定チップ10の温度を調節する。測定水流路15を流れる測定水の流量は、測定水流量制御機構22により制御される。測定水流量制御機構22は、例えばシリンジポンプにより構成されている。
【0029】
測定水流量制御機構22やヒータ24などこの装置に設けられている機構は、その駆動が制御部26により制御される。制御部26は測定手段28、温度制御手段30及び測定水処理手段32を備えている。測定手段28は、試料水中の有機物の酸化分解、試料水中の二酸化炭素の測定水への抽出、測定水の導電率測定などの測定動作を制御するよう構成されている。
【0030】
温度制御手段30は、温度センサ20の検出温度に基づいてヒータ24の駆動を制御することにより、測定チップ10の温度を所定温度(例えば58℃)にするよう構成されている。具体的には、温度センサ20の検出温度が所定温度よりも低くなったときにヒータ20をオンにし、温度センサ20の検出温度が所定温度以上のときにはヒータ20をオフにする。
【0031】
なお、温度制御手段30による測定チップ10の温度制御には例外がある。後述する測定水処理工程の際は温度センサ20の温度が所定温度よりも低くなってもヒータ20をオンにしないように温度制御手段30が構成されている。
【0032】
測定水処理手段32は測定水処理工程を実行するよう構成されている。測定水処理工程とは、測定流路17を流れる測定水の流量が導電率測定時の流量よりも大きくなる処理をいう。例えば測定水流量制御機構22がシリンジポンプで構成されている場合には、シリンジポンプに吸入した測定水を吐出してシリンジポンプを原点に戻し、次の測定に備えるような処理である。
【0033】
測定水処理工程の際は導電率測定時よりも大流量の測定水が測定流路17を流れるため、測定流路17近傍の熱が測定水によって局所的に奪われ、温度センサ20の検出温度が所定温度よりも低い温度にまで急激に低下する。上記の温度制御手段
30の例外構成がない場合、温度センサ20の検出温度が所定温度よりも低くなった時点でヒータ20がオンになるが、温度センサ18の検出温度は測定チップ10が加熱されているにも拘わらず測定水の影響で所定温度にまで上昇せず、その間に測定チップ10全体が過剰に加熱されてしまう。ここで測定水の流れが停止すると、温度センサ20の検出温度が所定温度よりも高い温度にまで急激に上昇する。その後、測定水の導電率測定を行なうためには、温度センサ20の検出温度が所定温度に低下して安定するまで待機する必要が生じる。
【0034】
温度制御手段
30は、測定水処理工程の際には温度センサ20の検出温度に拘わらずヒータ24をオフのままにしておくよう構成されているため、上記のような問題は生じない。測定水処理工程で大流量の測定水が測定流路17を流れて測定チップ10内の流路から熱を奪っても、測定チップ10及び熱伝導ブロック12の熱容量により、測定ユニット8全体の温度低下は小さく、測定水処理工程が終了した後にヒータ24をオンにすることで、測定チップ10の温度を所定温度に迅速に戻すことが可能である。測定チップ10の熱容量は例えば10J/K程度であり、熱伝導ブロック12の熱容量は例えば1000J/K程度であることが好ましい。
【0035】
測定ユニット8及びその周辺の機構の構成の一例について
図2の概略断面構成図を用いて説明する。なお、
図2においては、有機物酸化分解部6の機能が測定ユニット8に組み込まれている。
既述のように、測定ユニット8は測定チップ10が熱伝導性材料からなる熱伝導ブロック12で覆われて構成されている。熱伝導ブロック12は、例えばアルミニウムからなる直方体形状の部材であり、内部に測定チップ10を収容する空間が設けられている。熱伝導ブロック12にヒータ24が埋め込まれており、ヒータ24をオンにすることによって測定チップ10をその周囲から全体的に加熱するようになっている。
【0036】
測定チップ10は複数の基板が積層されて構成されており、内部にガス透過膜14が挟み込まれている。測定チップ10の内部では、ガス透過膜14の一方の面側を試料水が流れ、他方の面側を測定水が流れる。測定水としては純水又は脱イオン水を用いることができる。以下、測定チップ10において、ガス透過膜14を境界として、試料水が流れる側を試料水側、測定水が流れる側を測定水側と呼ぶ。
【0037】
測定チップ10の試料水側に試料水導入流路2aと試料水排出流路2cが接続されている。測定チップ10の試料水側の表面に近い層間に酸化用流路2bが形成されており、酸化用流路2bの一端が試料水導入流路2aに通じている。酸化用流路2bの他端はガス透過膜14に面するガス交換流路9の一端と接続されている。ガス交換流路9の他端は試料水排出流路2cに通じている。流路2a,
2b及び
2cは試料水流路2の一部の区間を構成している。測定チップ10の試料水側の最上層を構成する基板は石英ガラス基板など紫外線を透過させる材料で構成されており、熱伝導ブロック12の酸化用流路2bに対応する部分に窓が設けられるなどして、酸化用流路2bに熱伝導ブロック12の外部から紫外線が照射されるようになっている。この酸化用流路2bが
図1における有機物酸化分解部6に対応している。
【0038】
測定チップ10の測定水側に測定水導入流路15aの一端、循環流路15cの一端及び測定水排出流路15dの一端が接続されている。測定水導入流路15aの一端は、測定チップ10内においてガス透過膜14に面するガス抽出流路16の一端とバイパス流路15bの一端の双方に通じている。ガス抽出流路16はガス透過膜14を挟んで試料水側のガス交換流路9と対向するように設けられている。ガス抽出流路
16の他端は測定チップ10のより表面側に形成された測定流路17の一端に接続されており、測定流路17の他端が測定水排出流路15dの一端に通じている。測定水排出流路15dの他端はシリンジポンプ42と排出流路44とに分岐している。排出流路44上に開閉弁43が設けられている。
【0039】
測定水導入流路15aの他端は純水タンク38に接続されている。測定水導入流路15aは、純水タンク38から純水を送液するための送液ポンプ39と純水中の不純物を除去するためのイオン交換樹脂カラム40を備えている。バイパス流路15bの他端は循環流路15cの一端に通じており、循環流路15cの他端は純水タンク38に接続されている。
【0040】
測定流路17の流路壁面に、外部へ引き出された測定電極18(導電率
検出部)が形成されており、測定流路17を流れる測定水の導電率を測定するようになっている。この測定流路又はその近傍の温度を検出するための温度センサが設けられており、その温度センサの検出温度が所定の温度を維持するようにヒータ24の加熱動作が制御されている。
【0041】
開閉弁43はシリンジポンプ42に測定水を吸入する際に閉じ、シリンジポンプ42に吸入した測定水を吐出する際に開くように制御される。ガス抽出流路16及び測定流路17を流れる測定水の流量は、シリンジポンプ42の吸入流量によって制御される。このシリンジポンプ42は、
図1における測定水流量制御機構を実現するものである。
【0042】
シリンジポンプ42が停止し、開閉弁43が閉じられている状態でも、純水タンク38から測定水を汲み上げる送液ポンプ39は常時送液動作を行なっており、測定水は測定水導入流路15a、バイパス流路15b及び循環流路15cを通って純水タンクに戻るという循環を行なっている。開閉弁43が閉じられシリンジポンプ42が吸入を行なっていない状態では、測定水がガス抽出流路16を流れることはない。
【0043】
シリンジポンプ42は、測定水に試料水の二酸化炭素を抽出し、その測定水の導電率を測定する測定工程の際にのみ所定の吸入速度で吸入動作を行なうようになっている。シリンジポンプ42が吸入動作を行なうと、送液ポンプ39により汲み上げられた測定水の一部がガス抽出流路16側へ流れ、測定流路17及び測定水排出流路15dを通ってシリンジポンプ42に吸入される。これにより、シリンジポンプ42の駆動速度を正確に制御することで、測定工程時のガス抽出流路16や測定流路17における測定水の微少流量を高精度に制御することができる。
【0044】
測定工程が終了した後は、シリンジポンプ42内に吸入した測定水を純水タンク38に戻す処理(測定水処理)を行なう工程(測定水処理工程)が実行される。測定水処理工程の際は、開閉弁43が開き、シリンジポンプ42が吐出動作を行なう。このとき、開閉弁43が開いたことによって送液ポンプ39により汲み上げられた測定水の一部がガス抽出流路16側へ流れる。この測定水処理工程中に測定水導入流路15aや測定流路17を流れる測定水の流量は測定工程時の流量よりも大きい。そのため、測定水の流れの増大により測定水導入流路15aや測定流路17の温度が急激に低下し、温度センサの検出温度が所定の温度よりも低くなるが、この測定水処理工程中はヒータ24による加熱動作を行なわないようになっている。
【0045】
図3に同実施例のシーケンスの一例を示す。以下に、同実施例の動作を
図1、
図2及び
図3を用いて説明する。
図1及び
図2では図示されていないが、この装置は試料水を採取するためのシリンジポンプ(試料水用シリンジ)を備えている。測定を開始する前の試料水側の前処理として、試料水用シリンジの原点を定める原点だし、試料水用シリンジの洗浄、試料水用シリンジによる試料水の吸入及び試料水のバブリングが行なわれる。バブリングは試料水中の無機炭酸を除去するためのものである。このとき、測定水側では、開閉弁43が開いた状態でシリンジポンプ(測定水用シリンジ)42の原点だし作業が行なわれ、その後、開閉弁43を閉じて測定水用シリンジ42が所定流量(例えば100μL/min)で測定水を吸入する。このとき、測定チップ10に取り付けられた温度センサ20の検出温度が所定温度(例えば58℃)になるようにヒータ24が制御される。
【0046】
次に、試料水側では、試料水用シリンジから一定量の試料水が測定チップ10へ送液される。このときに測定水側では、開閉弁43が開いた状態で測定水用シリンジ42から測定水が吐出され、測定水が純水タンク38に戻される(測定水処理)。このとき、ガス抽出流路16や測定流路17を測定時よりも大きい流量で測定水が流れて温度センサ20の検出温度が急激に低下するが、この検出温度に基づく温度制御は行なわれず、ヒータ24はオフのままである。
【0047】
測定水処理で測定水用シリンジ42が原点に戻ると、開閉弁43が閉じ、測定水用シリンジ42が所定流量(例えば100μL/min)で測定水を吸入する。これにより、ガス抽出流路16や測定流路17を測定水が所定流量で流れる。この測定水用シリンジ42の吸入動作の開始と同時に温度センサ20の検出温度に基づいた温度制御もオンになり、測定チップ10の加熱が行なわれる。温度センサ20の検出温度が所定温度で安定するまでの間、試料水側では、試料酸化用流路2bにおいて紫外線照射による試料水中の有機物の酸化分解が行なわれ、試料水中の有機物が二酸化炭素に変換される。温度センサ20の検出温度が所定温度で安定すると、試料水用シリンジは試料水が一定流量でガス交換流路9を流れるように送液し、試料水側から測定水側へ二酸化炭素を抽出する。測定水は測定水用シリンジ42によって一定流量で流れ続けており、二酸化炭素を抽出した測定水は測定流路17を流れて導電率が測定され、その後、測定水用シリンジ42に吸入される(測定)。
【0048】
導電率測定が終了した後、開閉弁43が開いた状態で測定水用シリンジ42を原点に戻して測定水を純水タンク38に戻す(測定水処理)。このとき、温度センサ20の検出温度に基づいた温度制御はオフになり、温度センサ20の検出温度は急激に低下する。
次の試料水測定のために、測定水用シリンジ42は、原点に戻ってから所定流量(例えば100μL/min)での測定水の吸入を開始し、温度センサ20の検出温度に基づいた温度制御を再開する。そして、温度センサ20の検出温度が所定温度で安定した後、測定水の導電率測定が行なわれる。以降、試料用シリンジの採取した試料のすべてについての測定が終了するまで、これらの処理が繰り返し実行される。
【0049】
上記のシーケンス中の温度センサ20の検出温度の時間変化を
図4に示す。この図の時間帯Aは、測定水用シリンジ42に吸入した測定水を純水タンク38に戻す測定水処理を実行している時間帯であり、時間帯Bは測定水処理が終了してから測定水の導電率測定が終了するまでの時間帯である。
【0050】
測定水処理を実行している時間帯Aは、測定水が測定時に比べて大きい流量でガス抽出流路16や測定流路17を流れ、その影響で温度センサ20の検出温度が55℃付近にまで急激に低下している。このとき温度センサ20の検出温度に基づいた温度制御がオフになっているため、ヒータ24による測定チップ10の加熱は一切行なわれていない。この測定水処理中の温度低下は局所的であるため測定ユニット8全体の温度低下は小さく、測定水処理が終了した後でヒータ24による測定チップ10の加熱を行なうと、温度センサ20の検出温度が58.25℃付近まで迅速に戻る。これにより、温度センサ20の検出温度が58℃付近で安定するまでの待機時間が短くてすむ。
【0051】
測定水処理を実行している時間帯Aの間もヒータ24による測定チップ10の加熱が行なわれているとすると、測定チップ10が過剰に加熱されてしまい、測定水処理が終了してガス抽出流路16や測定流路17における測定水の流れがなくなったときに温度センサ20の検出温度が異常に高い温度にまで上昇し、その検出温度を58℃付近で安定させるまでの待機時間が長くなる。
【0052】
なお、上記の問題を解決する方法としては、測定チップ10を冷却するためのペルチェ素子などの冷却機構を設ける方法も考えられるが、そうすると装置コストが増大するとともに測定ユニット8が大型化してしまうという問題がある。
これに対し、上記実施例では、従来から存在する装置の構成を変更したり追加したりすることなく、制御部26内の温度制御手段30の構成を変更するだけでよいので、コストの増大化や装置の大型化という問題が生じない。
【0053】
なお、測定水処理工程中の測定チップ10の過剰な加熱を抑制する方法としては、上記実施例の方法のほかに、測定水処理工程中の温度制御の設定温度を測定時の設定温度よりも低く設定する方法が挙げられる。例えば、測定時に行なう温度制御の設定温度が58℃の場合、測定水処理工程中の設定温度を55.5℃とするように温度制御手段30を構成しておく。これにより、測定水処理工程中も温度センサ20の検出温度が58℃になるようにヒータで加熱し続ける場合に比べて、測定チップ10の過剰な加熱を抑制できる。
【0054】
また、さらに別の方法として、温度センサ20よりもよりヒータ24に近い位置に別の温度センサを設けておき、測定水処理工程中はヒータ24に近い位置に設けられた温度センサの検出温度に基づいて測定チップ10の温度制御を行なう方法が挙げられる。温度センサ20よりもよりヒータ24に近い位置では、大きい流量で測定水が流れたことによるガス抽出流路16や測定流路17の近傍の局所的な温度低下の影響を受けにくいため、そのような位置に設けられた温度センサの検出温度に基づいて温度制御を行なうことにより、ヒータ24による過剰な加熱を抑制することができる。