特許第5772645号(P5772645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772645
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】溶銑の脱りん処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/02 20060101AFI20150813BHJP
   C21C 5/32 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   C21C1/02 110
   C21C5/32
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-27305(P2012-27305)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-163844(P2013-163844A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120581
【弁理士】
【氏名又は名称】市原 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(74)【代理人】
【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
(72)【発明者】
【氏名】谷垣 武
(72)【発明者】
【氏名】神林 徹
【審査官】 深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−001536(JP,A)
【文献】 特開2000−073112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00−7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上底吹き転炉を用いて行うSiを0.2〜0.6質量%含有する溶銑の脱りん処理方法であって、
脱りん処理時の装入塩基度(CaO質量/SiO質量)を1.4〜2.0とし、
その装入塩基度の範囲とするために供給するCaO源のうちで、
カルシウムフェライトを塊状で溶銑1tあたり4kg以上供給し、
かつ、CaOを粉状で溶銑1tあたり2〜4kgの範囲で、上吹きランスを通じて酸素とともに溶銑へ吹き付けて供給すること
を特徴とする溶銑の脱りん処理方法。
【請求項2】
前記カルシウムフェライトの供給を、前記上吹きランスによる酸素吹付け開始後、その酸素吹付け時間が全酸素吹付け時間の35%以上80%以下経過する間に行うこと
を特徴とする請求項1に記載の溶銑の脱りん処理方法。
【請求項3】
前記CaOの粉状での供給を、前記上吹きランスによる酸素吹付け開始後、その酸素吹付け時間が全酸素吹付け時間の80%経過するまでに完了すること
を特徴とする請求項2に記載の溶銑の脱りん処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上底吹き転炉を用いて行う溶銑の脱りん処理方法において、蛍石に代表されるハロゲン化物を用いることなく、鉄分ロスを抑制しつつ、脱りん率を向上させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、りん(P)の含有量が低い低P鋼の需要増加に伴い、溶銑段階で予備脱りんを行って溶銑中のりんを除去した後、転炉で脱炭吹錬を実施する製鋼方法が発展してきた。この際の予備脱りん処理は、トーピードカーや溶銑鍋、或いは転炉等の設備を使用し、CaO系の精錬剤と酸素源を添加して行われる。
【0003】
この予備脱りん処理において、脱りん反応を効率的に行わせるには、スラグ塩基度(CaO質量%/SiO質量%)を上げることが重要である。しかし、スラグ塩基度を上げるとそのために供給するCaO系精錬剤の溶融性が悪くなるため、実操業においては蛍石を精錬剤の一部として添加することで精錬剤の溶融性を確保する方法が、幅広く利用されてきた。
【0004】
しかしながら、最近では、環境問題の観点から、製鋼スラグ製品にもフッ素の溶出量および濃度の規制が行われる状況にあり、蛍石等のハロゲン化物を使わない溶銑脱りん処理方法の開発が行なわれている。
【0005】
ハロゲン化物を用いない溶銑の脱りん処理方法として、カルシウムフェライトを用いる方法が知られている。
特許文献1では、少なくとも一部に化合したCaOとFeOを含んだ、主成分をCaOとFeOとする精錬剤を添加する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、脱りん吹錬終了後にスラグを分析して得られる実塩基度(スラグ中のCaO質量濃度とSiO質量濃度との比)が1.8〜2.6となるように、カルシウムフェライトを含む精錬剤を少なくとも一部に使用する溶銑の脱りん方法が開示されている。
【0007】
これらの特許文献1、2ではいずれも、脱りん効率についてのみ記載されるだけで、鉄分ロスについては何ら開示されていない。このため、カルシウムフェライトを用いて効率よく溶融スラグを形成でき、脱りん効率は向上したとしても、一般に塩基度の高いスラグは流動性が悪く、上吹き酸素ジェットによって発生した粒鉄がスラグに捕捉されたままとなり鉄分歩留まりが悪化するという問題が残されている。
【0008】
一方、従来から、低塩基度で脱りん効率を向上させる試みがなされている。
特許文献3では、スラグ塩基度を0.8〜1.8として、スラグ中(T.Fe)やスラグ質量を調整する溶銑脱りん方法が開示されているが、スラグ中粒鉄を含めた鉄分歩留まりに関する記載はなく、脱りん効率向上と鉄分歩留まり向上の双方を満たす条件については、その記載から推測することができない。
【0009】
さらに、特許文献4では、スラグ塩基度が1.0〜2.5と比較的低い条件で、上吹き酸素の供給速度を1.5〜5.0Nm/min/溶銑tonとすることで、高い脱りん効率を得ながら鉄分歩留まりの低下を抑える方法が開示されている。しかしながら、スラグ塩基度が1.0〜2.5で、上吹き酸素の供給速度が1.5〜5.0Nm/min/溶銑tonという条件は、近年の公知条件の多くを含む広い範囲である。しかも、その発明の課題としている鉄分歩留まりの向上とはスピッティングやダストの発生抑制によるものであって、スラグ中の粒鉄には言及されていない。したがって、そのような広い範囲において、脱りん効率向上と鉄分歩留まり向上の双方を満たす好適条件については、その記載から推測することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−314760号公報
【特許文献2】特開2010−001536号公報
【特許文献3】特開2002−129219号公報
【特許文献4】特開2008−266666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、蛍石に代表されるハロゲン化物を用いることなく、溶銑脱りん処理後のスラグ中に懸濁したままスラグと一緒に排出されてしまう粒鉄を減少させて鉄分歩留まりを向上させ、かつ、脱りん率を低下させることもない高脱りん効率の溶銑脱りん処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、溶銑脱りん処理において、蛍石に代表されるハロゲン化物を用いることなく、鉄分ロスを抑制しつつ効率良く脱りん処理する方法として、脱りん剤として必須のCaOと酸素源を含む低融点化合物であるカルシウムフェライトを用いる方法に着目し、この方法と、粉状CaO源を上吹きランスから酸素とともに溶銑に吹き付けて脱りん処理する方法とを組み合わせることを検討した結果、次の知見A〜Dを得ることができた。
【0013】
(A)スラグの塩基度を下げることでスラグの流動性が向上し、その結果、脱りん処理後のスラグ中の粒鉄量が著しく減少する。
(B)カルシウムフェライトを適切に使用することで処理中期以降のCaOの溶融滓化が促進され、その結果、比較的低塩基度の条件でも必要な脱りん率を確保することができる。
【0014】
(C)上記A項およびB項に加えて、粉状CaOを酸素とともに上吹きランスから適当量吹き付けることでCaOの滓化率を低下させることなく所定の塩基度に高めることができ、しかも、スラグのフォーミングを抑制して、粒鉄ロスを抑制することができる。
【0015】
(D)上記A項〜C項は、Siが0.20質量%以上含有されている通常の溶銑を対象とする場合、実操業においてスピッティングやダストの発生量の変化が認められるほどの影響は及ぼさない。
【0016】
上記の知見は、具体的に次に示す発明特定事項を有する本発明によって実現され、上記課題を解決することができる。
(1)上底吹き転炉を用いて行うSiを0.2〜0.6質量%含有する溶銑の脱りん処理方法であって、
脱りん処理時の装入塩基度(CaO質量/SiO質量)を1.4〜2.0とし、
その装入塩基度の範囲とするために供給するCaO源のうちで、
カルシウムフェライトを塊状で溶銑1tあたり4kg以上供給し、かつ
CaOを粉状で溶銑1tあたり2〜4kgの範囲で、上吹きランスを通じて酸素とともに溶銑へ吹き付けて供給すること
を特徴とする溶銑の脱りん処理方法。
【0017】
(2)前記カルシウムフェライトの供給を、上吹きランスによる酸素吹付け開始後、その酸素吹付け時間が全酸素吹付け時間の35%以上80%以下経過する間に行うことを特徴とする上記(1)項に記載の溶銑の脱りん処理方法。
【0018】
(3)前記CaOの粉状での供給を、上吹きランスによる酸素吹付け開始後、その酸素吹付け時間が全酸素吹付け時間の80%経過するまでに完了することを特徴とする上記(2)項に記載の溶銑の脱りん処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、蛍石に代表されるハロゲン化物を用いることなく、溶銑脱りん処理後のスラグ中に懸濁したままスラグと一緒に排出されてしまう粒鉄を減少させて鉄分歩留まりを向上させ、かつ、脱りん率を低下させることもない高脱りん効率の溶銑脱りん処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、装入塩基度と脱P後[P]との関係を示すグラフである。
図2図2は、装入塩基度と鉄分歩留まりとの関係を示すグラフである。
図3図3は、カルシウムフェライト投入量と脱りん処理後[P]との関係を示すグラフである。
図4図4は、粉状CaO吹付け量と鉄分歩留まりとの関係を示すグラフである。
図5図5は、装入塩基度と脱りん後[P]との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
(1)一般的な脱りん処理条件
本発明では、上吹きランスと底吹き羽口とを有する上底吹き転炉を用いて、装入塩基度(CaO質量/SiO質量)を1.4〜2.0とする条件で、溶銑を予備脱りん処理する。
【0022】
脱りん処理前の溶銑は、通常、質量%で、C:4.2〜4.7%、Si:0.2〜0.6%、Mn:0.2〜0.5%、P:0.100〜0.130%を含有しており、その溶銑温度は1250〜1390℃である。その溶銑を脱りん処理した後には、質量%で、C:3.5〜3.9%、Si:0.02%以下、Mn:0.1〜0.3%、P:0.03%以下を含有し、その温度を1280〜1350℃とする。
【0023】
上吹きランスからは、酸素ガスを溶銑1tあたり1.0〜2.0Nm/minの速度で溶銑へ吹き付け、底吹き羽口からは窒素やAr等の撹拌ガスを溶銑1tあたり0.15〜0.45Nm/minの速度で溶銑中へ吹き込む。
【0024】
(2)装入塩基度
装入塩基度とは、「転炉内へ供給する副原料中に含まれるCaO質量の合計」を分子とし、「転炉内へ供給する副原料中に含まれるSiO質量の合計」と「溶銑およびスクラップ中に含まれているSiが全部SiOに酸化されたとした場合のSiO質量」との合計を分母として計算される比の数値である。脱りん処理後のスラグ塩基度は、この装入塩基度にCaOの滓化率を乗じた数値であって、その滓化率は副原料供給方法や酸素供給方法等の脱りん処理条件に依存し、従来は0.7〜1.0の範囲で変動していた。
【0025】
本発明では、装入塩基度を1.4〜2.0の範囲で調整する。
図1は、上記した一般的な脱りん処理条件において脱りん処理前の成分を含有する溶銑約240tを、従来の、カルシウムフェライトも粉状CaOの上吹きも用いない方法により脱りん処理した結果を示すグラフである。
【0026】
図1にグラフで示すように、蛍石を用いた場合には、装入塩基度を高くするほど脱りん処理後の溶銑中P濃度が低下しており、装入塩基度が1.4以上で脱りん処理後の溶銑中P濃度は概ね0.030質量%以下になっていた。しかし、蛍石を用いない場合には、全体として脱りん処理後の溶銑中P濃度が高い上に、装入塩基度を高くしても脱りん処理後の溶銑中P濃度を下げる効果は少ししか認められず、処理後溶銑中P濃度を概ね0.030質量%以下にするためには、装入塩基度を、2.0を超える領域まで高める必要があった。
【0027】
また、図2は、図1と同じ条件で脱りん処理した際の、装入塩基度と鉄分歩留まりとの関係を示すグラフである。
図2にグラフで示すように、蛍石を用いた場合には、装入塩基度を高くしても鉄分歩留まりが低下する傾向は認められなかった。しかし、蛍石を用いなかった場合には全体として鉄分歩留まりが低かった上に、装入塩基度を高くすると鉄分歩留まりが低下する傾向が認められた。この両者の差は、装入塩基度が1.4〜2.0の範囲では約0.5%で一定であったが、装入塩基度が2.0を超えると次第に広がる傾向があった。
【0028】
そこで、本発明では蛍石を使わずに、蛍石を使った場合と同様な脱りん処理効果を上げることを目指して、装入塩基度が1.4〜2.0の範囲で調整することとした。
装入塩基度が1.4未満では、蛍石を用いた場合でも処理後の溶銑中P濃度を0.030%以下に安定して低下させることが難しい。また、そのような低塩基度ではスラグのフォーミングが激しく、スロッピングが多くなって鉄分歩留まりが低下してしまうからである。
【0029】
一方、装入塩基度が2.0を超えると、蛍石を用いない場合の鉄分歩留まりの低下が大きくなっていたので、蛍石無しによる鉄分歩留まりの低下を新たな発明によって回復させることが難しくなると考えたからである。
【0030】
この装入塩基度を2.0以下に調整することにより、脱りん処理後のスラグ塩基度が確実に2.0以下となるため、そのような低塩基度のスラグではCaOの滓化率が高く、未滓化のCaOが少なくなっている。したがって、そのようなスラグは、路盤材の原料として用いる際に必要な低い水浸膨張率を得るためにも有利となる。
【0031】
(3)カルシウムフェライトおよび粉状CaOの使用条件
本発明では、装入塩基度を調整するために供給するCaO源として、天然鉱物起源の生石灰、軽焼ドロマイト、石灰石等のほか、製鋼精錬時の副生成物である転炉スラグや取鍋スラグ等とともに、合成プリメルト製品であるカルシウムフェライトを溶銑1t当たり4kg以上必ず用いて、CaO源の滓化を促進する。
【0032】
本発明におけるカルシウムフェライトとは、CaOとFeとの化合物であって、CaOとFeとの割合が質量比で4:6〜3:7のものをいう。
このカルシウムフェライトは、融点が1400℃前後と低いため、本発明に係る処理中の溶銑温度が1250〜1350℃であって、しかも上吹きランスから酸素ガスを吹き付けて溶銑中のSiやC並びにFe等を酸化させて加熱源とする方法では、容易に溶融滓化させられる特性を有している。また、このカルシウムフェライトは、脱りん反応に欠かせないCaOとFeOをともに含有しているため、脱りん剤として優れている。したがって、処理前の溶銑中に含まれているSi等が酸化されてSiO等となり、カルシウムフェライト以外に副原料として供給されるCaO源等とともに溶融スラグを生成する際、そのスラグ生成を促進するとともに脱りん反応を促進する副原料として好適である。
【0033】
このカルシウムフェライトの使用量は、装入塩基度が1.4〜2.0であって、上吹きランスから粉状で供給するCaO質量を溶銑1t当たり2〜4kgの範囲で確保した上で、他のCaO含有副原料に代えて多くするほうが溶銑脱りん率の向上には有利となる。ただし、他のCaO含有副原料に比べて高価であるため、次に説明するように、溶銑1t当たり4kg以上用いることによって、処理後の溶銑中P濃度を安定して0.03質量%以下に低減する効果を発揮させられるので、そのことに留意しつつ使用量を調整するとよい。
【0034】
図3は、前記した一般的な溶銑脱りん処理条件において、蛍石を用いずに、粉状CaOを酸素とともに上吹きランスから溶銑1t当たり2〜4kg吹き付ける条件下で、溶銑1t当たりのカルシウムフェライト使用量と処理後の溶銑中P%との関係を調査した結果を示すグラフである。
【0035】
図3にグラフで示すように、粉状CaOを酸素とともに上吹きランスから溶銑1t当たり2〜4kg吹き付ける効果と合わせて、カルシウムフェライトを溶銑1tあたり4kg以上供給することで、処理後の溶銑中P濃度が安定して0.030%以下になっていることが分かる。
【0036】
また、このようなカルシウムフェライトの使用効果は、溶銑中にSiが存在していて容易にSiOが生成される酸素供給初期に添加するよりも、溶銑中にSiがほぼ存在しなくなる時点以降、すなわち、上吹きランスによる酸素吹付け開始後、その酸素吹付け時間が全酸素吹付け時間の35%以上が経過した後に溶銑上に添加することで、一層好適に発揮されると考えられる。
【0037】
ただし、カルシウムフェライトといえども添加後に溶融滓化時間と脱りん反応時間を必要とするので、その添加は上吹きランスによる酸素吹付け開始後、その酸素吹付け時間が全酸素吹付け時間の80%経過するまでに行うことが好ましい。
【0038】
また、CaO含有副原料の溶融滓化を促進しCaOの滓化率を高めるためには、CaO含有副原料をより細かくして供給することが効果的である。しかしながら、最大粒径を5mm以下とするような細かな粒径分布を有するCaOを転炉の上方から投入添加しても、飛散ロスが多くなってしまい所期の効果を上げることができない。より細かい粒径のCaO源を供給する手段としては、粉状のCaO源を上吹きランスから酸素ガスとともに溶銑に吹き付ける方法が優れている。この方法によれば、粉状のCaO源を用いても飛散ロスを抑制することができ、しかもCaOが高温の火点領域に直接供給されるためにその滓化率も高いことが期待される。
【0039】
そこで、本発明では、上記したカルシウムフェライトの使用に加えて、さらに、粉状のCaOを上吹きランスを通じて酸素とともに溶銑に吹き付けて、CaOの滓化を促進する。そのため、本発明における粉状のCaO源は、生石灰や転炉スラグ等のCaOを40質量%以上含むCaO源の混合物であって、その混合物全体のCaO含有濃度が80質量%以上としたものを、その最大粒径が3mm以下であるように粉砕したものとする。したがって、生石灰を最大粒径1mm以下に粉砕したものが好適であり、さらに、その最大粒径を0.5mm以下などと細かくしたもののほうが、CaOの滓化を高速化するという点からは一層好ましい。
【0040】
この吹き付ける粉状のCaOの量は、装入塩基度が1.4〜2.0であって、前記したようにカルシウムフェライトにより供給するCaOの質量を溶銑1t当たり4kg以上確保した上で、多ければ多いほど脱P反応促進には好適と考えられる。しかし、粉状のCaOを使用すると、図4を参照しながら後述するように、スラグのフォーミングが抑制される傾向が認められた。したがって、装入塩基度が1.4に近い低塩基度側ではスラグフォーミングを抑制してスロッピングを防止する効果があるが、装入塩基度が1.7〜2.0のような本発明の技術的範囲内で比較的高い条件では、スラグの流動性を低下させてスラグ中の粒鉄を増加させてしまうことに留意を要する。
【0041】
図4は、前記した一般的な溶銑脱りん処理条件において、蛍石を用いずに、装入塩基度が1.7〜2.0、かつ、溶銑1t当たりのカルシウムフェライト使用量を4〜8kg用いる条件で、酸素とともに上吹きランスから吹き付ける粉状CaOの量が鉄分歩留まりに及ぼす影響を表すグラフである。
【0042】
図4にグラフで示すように、粉状CaOの使用量が溶銑1t当たり4kgを超える辺りから、鉄分歩留まりが低下することが分かる。この粉状CaOの使用量が多い条件では脱りん処理後のスラグの流動性が低く、粒鉄が多い状況が目視で確認されたため、この鉄分歩留まりの低下はスラグ中の粒鉄が増加に原因があると考えられる。
【0043】
ただし、粉状のCaOの使用には、CaOの滓化率を高め、スラグフォーミングを適度に抑制する効果もあるので、その使用量は溶銑1t当たり2kg以上用いることが適当である。
【0044】
そこで、本発明では、上記したカルシウムフェライトの使用に加えて、さらに、粉状のCaOを溶銑1t当たり2〜4kgの範囲で、上吹きランスを通じて、酸素とともに溶銑に吹き付けて、CaOの滓化を促進するとともにスラグのフォーミングを適当にコントロールする。
【0045】
上記のような粉状CaOの吹付け効果を上げるためには、脱りん反応促進およびスラグフォーミング抑制の両方に関し、上吹き酸素の吹付け中に或る程度の時間を必要とする。したがって、粉状CaOの吹付けは、上吹きランスによる酸素吹付け開始後、その酸素吹付け時間が全酸素吹付け時間の80%経過するまでに完了させることが好ましい。
【実施例】
【0046】
次に、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。
高炉から出銑された溶銑約240tを機械撹拌式脱硫装置(KR)で脱硫処理した後、脱りん処理用の上底吹き転炉に装入した。上吹きランスは4個の酸素噴出孔を有するものを用い、そこからの酸素供給速度は20000Nm/h(1.4Nm/min/t)、底吹きは4本の羽口から窒素供給速度を5400Nm/h(0.38Nm/min/t)として実施した。
【0047】
カルシウムフェライトは、組成がCaO=38質量%、FeO=60質量%で、最大粒径が50mmの塊状のものを使用し、上吹きランスから吹き付ける粉状CaO源には、組成がCaO=94質量%で、最大粒径が3.0mmの生石灰を用い、それを吹き付ける場合の吹き込み速度は150kg/minとした。
【0048】
吹錬時間は8〜10分間とし、処理後の温度は1280〜1320℃に制御した。
本発明の実施例および比較例の結果を、その副原料供給条件とともに表1に纏めて示し、その表1に示した例を含めて、装入塩基度と脱りん処理後の溶銑中P濃度との関係を図5にグラフで纏めて示す。
【0049】
【表1】
【0050】
以下、表1のNo.1〜11を説明する
No.1は、請求項1で規定する条件を満たす実施例である。処理後溶銑中P濃度は0.024%と目標値の0.030%以下を達成しており、鉄分歩留まりは97.4%と良好な数値であった。
【0051】
No.2は、請求項1および2で規定する条件を満たす実施例である。No.1と比べて処理後溶銑中P濃度は0.019%に低下し、鉄分歩留まりも97.1%と遜色ない数値であった。
【0052】
No.3は、請求項1および2で規定する条件を満たす実施例である。No.2同様に、No.1と比べて処理後溶銑中P濃度は0.019%に低下し、鉄分歩留まりも96.9%と遜色ない数値であった。
【0053】
No.4は、請求項1〜3で規定する条件を満たす実施例である。No.1〜3と比べて処理後溶銑中P濃度は0.014%に低下し、鉄分歩留まりも98.6%と最も良好な数値であった。
【0054】
No.5〜7は、従来例であって、カルシウムフェライトも粉状CaO吹付けも実施していない。装入塩基度を高くするにつれて処理後溶銑中P濃度は低下する傾向にあったが、いずれも目標値である0.030%以下にすることができなかった。
【0055】
No.8は、比較例であって、カルシウムフェライトを少量(2.1kg/t)使用した。しかし、処理後溶銑中P濃度の目標値を達成することができなかった。
No.9は、比較例であって、カルシウムフェライトを少量(1.8kg/t)に加え、粉状CaOを、請求項1で規定する条件を満たす所定量(3.0kg/t)使用した。しかし、処理後溶銑中P濃度の目標値を達成することができなかった。
【0056】
No.10は、比較例であって、カルシウムフェライトを少量(2.2kg/t)に加え、粉状CaOを、請求項1で規定する条件を超える多量(5.8kg/t)使用した。その結果、処理後溶銑中P濃度は0.028%と目標値を達成したが、代わりに鉄分歩留まりが95.4%と大幅に低下してしまい、満足できる結果とならなかった。
【0057】
さらに、No.11は、比較例であって、粉状CaOを使用せず、代わりにカルシウムフェライトを多量(4.9kg/t)使用して、装入塩基度を所定範囲より高くした例である。その結果、処理後溶銑中P濃度は0.015%と目標値を大きく下回ったが、鉄分歩留まりが95.4%と大幅に低下しており、やはり満足できる結果とはならなかった。
図1
図2
図3
図5
図4