特許第5772677号(P5772677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許5772677-蓄電装置 図000002
  • 特許5772677-蓄電装置 図000003
  • 特許5772677-蓄電装置 図000004
  • 特許5772677-蓄電装置 図000005
  • 特許5772677-蓄電装置 図000006
  • 特許5772677-蓄電装置 図000007
  • 特許5772677-蓄電装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772677
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/34 20060101AFI20150813BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150813BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150813BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   H01M2/34 A
   H01M4/36 C
   H01M10/00 102
   H01M10/04 Z
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-69192(P2012-69192)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-201049(P2013-201049A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中溝 太一
(72)【発明者】
【氏名】木下 恭一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 悠史
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−294003(JP,A)
【文献】 特開2005−133193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/34
H01M 4/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のセパレータと、前記セパレータを間に挟んで対向する位置に形成された正極シートおよび負極シートとを有する電極体と、
前記電極体内における少なくとも一部に配置され、前記負極シートに接しており、水素を吸蔵した状態の水素吸蔵合金を含んでいる水素吸蔵部材と、
前記電極体および前記水素吸蔵部材を収納するケースと、
前記ケース内の圧力が上昇すると、前記圧力によって作動して電流を遮断する電流遮断装置とを備えており、
前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極活物質層とを含んでおり、
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金は粒状であるとともに、
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金の表面は、前記負極集電体に用いられている材料を含む金属により被覆されている蓄電装置。
【請求項2】
シート状のセパレータと、前記セパレータを間に挟んで対向する位置に形成された正極シートおよび負極シートとを有する電極体と、
前記電極体内における少なくとも一部に配置され、前記正極シートに接しており、水素を吸蔵した状態の水素吸蔵合金を含んでいる水素吸蔵部材と、
前記電極体および前記水素吸蔵部材を収納するケースと、
前記ケース内の圧力が上昇すると、前記圧力によって作動して電流を遮断する電流遮断装置とを備えており、
前記正極シートは、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質層とを含んでおり、
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金は粒状であるとともに、
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金の表面は、前記正極集電体に用いられている材料を含む金属により被覆されている蓄電装置。
【請求項3】
前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に形成された負極活物質層とを含んでおり、
前記水素吸蔵部材は、前記負極シートに接しており、
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金は粒状であるとともに、
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金の表面は、前記負極集電体に用いられている材料を含む金属により被覆されている、請求項2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記負極活物質層は、リチウムを吸蔵及び放出可能な材料を含んでおり、
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金は、ミッシュメタル系の水素吸蔵合金であり、
前記負極集電体に用いられており、前記水素吸蔵合金の表面を被覆している金属に含まれている材料は、銅である、請求項1または3に記載の蓄電装置。
【請求項5】
前記電極体は、前記正極シート、前記負極シート及び前記セパレータによる積層構造を有しており、
前記水素吸蔵部材は、積層方向における電極体の中央部に配置されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄電装置。
【請求項6】
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金は、β相を少なくとも一部に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電装置。
【請求項7】
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金は、α相とβ相の両方を含む、請求項6に記載の蓄電装置。
【請求項8】
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金の金属原子の個数がMであり、前記水素吸蔵合金に吸蔵されている水素原子の個数がHである場合に、0.2≦H/M≦0.8をみたしている、請求項6または7に記載の蓄電装置。
【請求項9】
0.4≦H/M≦0.6をさらにみたしている、請求項8に記載の蓄電装置。
【請求項10】
前記水素吸蔵部材の前記水素吸蔵合金は、前記ケース内の温度が上昇すると吸蔵していた水素を放出する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系のリチウム二次電池等の蓄電装置の場合、特許文献1に記載されているように、電池の過充電時または短絡時に充電電流を遮断する、電流遮断装置(Current Interrupt Device:CID)を備えていることが多い。このような電流遮断装置は、例えば、蓄電装置の内圧が所定値を超えて高くなった際に、充電電流を遮断する。また、このような電流遮断装置を確実に動作させるために、特許文献2に記載されているように、蓄電装置の過充電時に水素を発生させるための添加剤(芳香族系モノマー)が蓄電装置の電解液に添加されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−112151号公報
【特許文献2】特開平9−171840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載されているように、電解液に過剰量の添加剤を添加することは、蓄電装置の容量が小さくなる等の弊害が発生する可能性があるため、好ましくない。蓄電装置の過充電時等に、電流遮断装置を確実に動作させるために必要な量のガスを発生させる、新たな手段を見出すことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する蓄電装置は、シート状のセパレータと、セパレータを間に挟んで対向する位置に形成された正極シートおよび負極シートとを有する電極体と、電極体内における少なくとも一部に配置され、正極シートと負極シートのうち少なくともいずれか一方に接しており、水素を吸蔵した状態の水素吸蔵合金を含んでいる水素吸蔵部材と、電極体および水素吸蔵部材を収納するケースと、ケース内の圧力が上昇すると、圧力によって作動して電流を遮断する電流遮断装置とを備えている。
【0006】
上記の蓄電装置によれば、蓄電装置の過充電時などの際にケース内の温度が上昇すると、水素吸蔵合金から水素が発生し、ケース内の圧力が上昇して電流遮断装置によって電流が遮断される。電流遮断装置を確実に動作させるために必要なガス量を、水素吸蔵合金から発生する水素によって補うことができ、より確実に、蓄電装置の過充電時等に電流を遮断することが可能となる。また、電流遮断装置を確実に動作させるために電解液に過剰量の添加剤を添加する必要が無く、添加剤による蓄電装置の特性低下を抑制することができる。
【0007】
上記の蓄電装置では、電極体は、正極シート、負極シート及びセパレータによる積層構造を有しており、水素吸蔵部材は、積層方向における電極体の中央部に配置されていてもよい。
【0008】
上記の蓄電装置では、負極シートは、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを含んでおり、水素吸蔵部材は、負極シートに接しており、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金は粒状であるとともに、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金の表面は、負極集電体に用いられている材料を含む金属により被覆されていてもよい。さらに、負極活物質層がリチウムを吸蔵及び放出可能な材料を含んでいる場合には、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金は、ミッシュメタル系の水素吸蔵合金であり、負極集電体に用いられており、水素吸蔵合金の表面を被覆している金属に含まれている材料は、銅であることが好ましい。
【0009】
上記の蓄電装置では、正極シートは、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とを含んでおり、水素吸蔵部材は、正極シートに接しており、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金は粒状であるとともに、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金の表面は、正極集電体に用いられている材料を含む金属によって被覆されていてもよい。
【0010】
上記の蓄電装置では、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金は、β相を少なくとも一部に含んでいてもよく、α相とβ相の両方を含んでいることが好ましい。
【0011】
上記の蓄電装置では、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金の金属原子の個数がMであり、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素原子の個数がHである場合に、0.2≦H/M≦0.8をみたしていることが好ましく、0.4≦H/M≦0.6をみたしていることがより好ましい。
【0012】
上記の蓄電装置では、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金は、ケース内の温度が上昇すると吸蔵していた水素を放出することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水素吸蔵合金から発生する水素によって、より確実に電流遮断装置を動作させ、過充電時等に電流を遮断することが可能な蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1に係る蓄電装置の断面図である。
図2図1I−II線断面図である。
図3】実施例1に係る蓄電装置の電極体を概念的に示す図である。
図4】ミッシュメタル系水素吸蔵合金の水素吸蔵特性を示す図である。
図5】変形例に係る水素吸蔵部材を概念的に示す図である。
図6】実施例2に係る蓄電装置の断面図である。
図7】実施例2に係る蓄電装置の電極体および水素吸蔵部材を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書が開示する蓄電装置に係る技術は、例えば、一次電池、二次電池、キャパシタ等の従来公知の蓄電装置に利用することができる。この蓄電装置は、電極体と、水素を吸蔵した状態の水素吸蔵合金を含んでいる水素吸蔵部材と、電極体および水素吸蔵部材を収納するケースと、ケース内の圧力が上昇すると、圧力によって作動して電流を遮断する電流遮断装置とを備えている。電極体は、シート状のセパレータと、セパレータを間に挟んで対向する位置に形成された正極シートおよび負極シートとを有している。水素吸蔵部材は、電極体内における少なくとも一部に配置されており、正極シートと負極シートのうち少なくともいずれか一方に接している。蓄電装置は、電極体が、正極シート、セパレータ、負極シートがこの順序で積層された上で、所定の捲回軸を中心に捲回されている捲回型の蓄電装置であってもよいし、電極体が、正極シート、セパレータ、負極シートがこの順序で積層された積層型の蓄電装置であってもよい。また、本明細書が開示する蓄電装置は、車両や電気機器等に搭載されていてもよい。
【0016】
負極シートは、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを含んでいてもよい。正極シートは、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とを含んでいてもよい。電極シートの集電体、活物質層に含まれる材料(活物質、バインダ、導電助剤等)には特に制限がなく、従来公知の蓄電装置等の電極に用いられる材料を用いることができる。
【0017】
例えば、集電体としては、限定されないが、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属箔もしくはこれらの合金箔等を好適に用いることができる。
【0018】
限定されないが、リチウム系の二次電池の負極活物質の材料を例示すると、黒鉛、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ、ハードカーボン、ソフトカーボン等のカーボン、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、金属化合物、SiOx等の金属酸化物、ホウ素添加炭素等を挙げることができる。負極活物質としては、さらに炭素系粒子を含むことが好ましい。この炭素系粒子としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維などが例示されるが、緩衝性能に優れる黒鉛が好ましい。この炭素系粒子のD50平均粒子径は、Li吸蔵粒子としてSiOxを用いた場合には、1〜10μmであることが特に望ましい。本明細書が開示する電極をリチウムイオン二次電池における負極として用いる場合には、リチウムが負極にプリドーピングされていることが望ましい。負極にリチウムをドープするには、例えば対極に金属リチウムを用いて半電池を組み、電気化学的にリチウムをドープする電極化成法などを利用することができる。リチウムのドープ量は特に制約されない。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0019】
限定されないが、リチウム系の二次電池の正極活物質の材料を例示すると、LiNiO、LiCoO、LiNi0.33 Co0.33Mn0.33、LiNi0.8 Co0.15Al0.05、LiMnO、LiMn、LiNi0.5Mn0.5といった、リチウムとマンガン、ニッケル、コバルト、アルミニウム等の複合酸化物等を挙げることができる。また、正極活物質として金属リチウム、硫黄などを用いることもできる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0020】
限定されないが、好適なセパレータの材料を例示すると、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質フィルム、あるいは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、メチルセルロース等からなる織布または不織布を挙げることができる。
【0021】
蓄電装置は、さらに、電解液、集電端子等を含んでいてもよい。限定されないが、電解液としては、有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の電解液や、電解液をポリマー中に保持させたポリマー電解質等の非水系の電解液を好適に用いることができる。さらに、その電解液あるいはポリマー電解質に含まれる有機溶媒は、負荷特性の点からは鎖状エステルを含んでいることがより好ましい。そのような鎖状エステルとしては、たとえば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)に代表される鎖状のカーボネートや、酢酸エチル、プロピロン酸メチルなどの有機溶媒またはこれらの混合液を挙げることができる。
【0022】
この場合、電解液は、電極体に所定の電流が流れた場合に、水素を発生する材料を含んでいてもよい。この水素を発生する材料は、電極体に所定の電流が流れた場合に水素を発生させる目的で添加された材料であってもよい。具体例を挙げると、非水系のリチウムイオン二次電池に利用される電解液に水素を発生させる目的で添加される、芳香族系のモノマーを例示することができる。芳香族系のモノマーは、電極体に所定値以上の電流が流れた場合に重合反応を起こして水素を発生する。水素を発生させる目的で非水系の電解液に添加される添加剤は、限定されないが、芳香族モノマーであることが好ましく、具体的に例示すると、チオフェン、3−ハロゲン化チオフェン等のチオフェン類、1,2−メトキシベンゼン等のアルキルベンゼン類、1−メチル−3−(ピロル−1−イルメチル)ピリジニウムテトラフルオロボレート等の複素環式化合物、ビフェニル、フラン等を挙げることができる。
【0023】
電流遮断装置は、ケース内の圧力が上昇すると、圧力によって作動して電流を遮断する電流遮断装置であればよい。例えば、ケース内の圧力が上昇すると、圧力によって機械的に弁が開く等によって電流を遮断するものであってもよいし、水素の圧力が上昇すると、水素の圧力によって作動して電流を遮断するものであってもよい。また、電流遮断装置は、正極シートと負極シートとを短絡させることによって電流を遮断させるものであってもよいし、正極シートまたは負極シートと外部端子等との電流経路を絶つことによって電流を遮断させるものであってもよい。
【0024】
水素吸蔵部材に用いられる水素吸蔵合金としては、水素吸蔵によって膨張する従来公知の水素吸蔵合金材料を用いることができる。限定されないが、具体的には、ミッシュメタル(Mm)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等を含む合金を例示することができ、ミッシュメタル系合金を好適に用いることができる。ミッシュメタル系合金の具体例を挙げると、MmとNi、Co、Al、Mn等を含む合金(例えば、MmNi3.79Co0.6Mn0.56Al0.05)、ランタン(La)リッチのミッシュメタル(Lm)とNi、Co、Al等を含む合金(例えば、LmNi2.5Co2.4Al0.1)を特に好適に用いることができる。水素吸蔵合金は、単一の組成を有していてもよいし、複数の異なる組成を有する水素吸蔵合金が混合もしくは組み合わせられていてもよい。
【0025】
水素吸蔵部材は、水素吸蔵合金を有していればよく、水素吸蔵合金でない材料がその一部に含まれていてもよい。例えば、負極シートや正極シートに用いられている材料をさらに備えていてもよい。なお、水素吸蔵合金は、蓄電装置のケース内の温度が上昇すると吸蔵していた水素を放出する程度に、水素を吸蔵した状態であることが好ましい。電極体が、正極シート、負極シート及びセパレータによる積層構造を有している場合に、水素吸蔵部材は、積層方向における電極体の中央部に配置されていてもよい。ここで、積層方向における電極体の中央部とは、捲回型の蓄電装置においては、捲回された電極体の捲回軸の近傍の部分を意味し、積層型の蓄電装置においては、電極体の積層方向の中央部分を意味する。また、水素吸蔵部材は、積層方向における電極体の中央部から離れた位置に配置されていてもよい。さらには、蓄電装置が複数の水素吸蔵部材を含んでおり、積層方向における電極体の中央部と、中央部以外の位置との双方に水素吸蔵部材が配置されていてもよい。複数の水素吸蔵部材が異なる位置に配置されている場合、水素吸蔵部材からの水素の発生が、蓄電装置において温度上昇した位置による影響を受けにくい。より少ない水素吸蔵部材によって、蓄電装置内の温度分布の影響を回避するためには、積層方向における電極体の中央部と、電極体の外側に最も近い位置(ケースに最も近い位置)に水素吸蔵部材を配置することが好ましい。
【0026】
水素吸蔵部材が負極シートに接しており、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金が粒状である場合には、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金の表面は、負極集電体に用いられている材料を含む金属によって被覆されていてもよい。負極集電体に用いられるとともに、水素吸蔵合金の表面を被覆する材料としては、銅、ニッケルが好ましく、多孔性の被膜として水素吸蔵合金の表面に形成されていることがより好ましい。さらに、負極活物質層がリチウムを吸蔵及び放出可能な材料を含んでいる場合には、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金は、ミッシュメタル系の水素吸蔵合金であり、負極集電体には銅が主成分として用いられており、水素吸蔵合金の表面を被覆している金属に銅が含まれていることが好ましい。ミッシュメタル系の水素吸蔵合金は、安価である一方で、リチウム系電池における高い電位下では、溶解する場合がある。負極集電体に銅を用い、ミッシュメタル系の水素吸蔵合金の表面を、銅を材料とする金属によって被覆すれば、ミッシュメタル系の水素合金を含む水素吸蔵材料を、リチウム系電池にも利用することができる。水素吸蔵材料を含む蓄電装置を安価に提供することが可能となる。
【0027】
また、水素吸蔵部材が、正極シートに接しており、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金が粒状である場合には、水素吸蔵部材の水素吸蔵合金の表面は、正極集電体に用いられている材料を含む金属によって被覆されていてもよい。正極集電体に用いられるとともに、水素吸蔵合金の表面を被覆する材料としては、銅、ニッケルが好ましく、多孔性の被膜として水素吸蔵合金の表面に形成されていることがより好ましい。
【0028】
水素吸蔵部材は、水素吸蔵部材が接する方の電極の集電体の材料を含む金属によってその表面が被覆されている粒状の水素吸蔵合金(以下、本明細書では、マイクロカプセルという)を含むことが好ましく、マイクロカプセルの表面の金属被膜は、多孔性であることが好ましい。さらに、このマイクロカプセルが焼結等によって、シート状(板状)、円盤状、棒状等の部材に成形されていることがより好ましい。電極がシート状であるため、接触面積を確保できるという観点から、水素吸蔵部材は、シート状であることが好ましい。また、水素吸蔵部材は、活物質イオン等が通過し易くするために、その一部に孔部を有するシート状であってもよい。
【0029】
マイクロカプセルは、例えば、特開平2−278659号公報、特開平2−278659号公報に記載の方法によって製造することができる。また、水素吸蔵部材は、例えば、特開平2−278659号公報に記載の方法において、成型時の温度を70℃以下にすることによって製造することができる。具体的には、マイクロカプセルをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の結着剤とともに混練し、成型しながら70℃以下に加熱するとともに200〜400kg/cmで加圧することによって製造することができる。通常の成型時の温度(300℃程度)よりも低い70℃以下で成型することによって、水素を吸蔵した状態の水素吸蔵合金を含む水素吸蔵部材を少ない工程で製造することができる。水素吸蔵部材の成型時の温度が低いと、マイクロカプセル同士の結着力が低下するが、蓄電装置の動作の際に水素吸蔵金属が膨張または収縮することは殆どないため、水素吸蔵部材が蓄電装置の電気特性を阻害することは殆どない。
【0030】
水素吸蔵合金の温度が高くなるほど、平衡水素圧は高くなる。蓄電装置のケース内の温度が高くなると、水素吸蔵部材において水素吸蔵合金の平衡水素圧が高くなり、ケース内の水素圧が平衡水素圧に達するまで、水素吸蔵合金から水素が発生する。
【0031】
水素を吸蔵した水素吸蔵合金の状態は、大きく分けて2つある。水素が水素吸蔵合金内に固溶体の状態で存在するα相と、水素吸蔵合金と結びつき金属水素化物として存在するβ相である。この二つの相が混在する領域(α+β相)が、プラトー領域である。水素吸蔵合金の温度が一定の場合、α相とβ相では水素吸蔵量の増加に伴い平衡水素圧が上昇する。α+β相では水素の相が2つ存在するために自由度が1つ少なくなり、水素圧が水素吸蔵量のパラメータではなくなる。つまり、プラトー領域では水素吸蔵量が増えても水素平衡圧力は殆ど増加しないため、水素吸蔵量が変化しても平衡水素圧が殆ど変化しない。
【0032】
本願が開示する蓄電装置の水素吸蔵部材の水素吸蔵合金は、β相を少なくとも一部に含んでいることが好ましい。β相をその一部に含む状態(α+β相の状態、またはβ相のみの状態)であれば、水素吸蔵合金に十分に水素が吸蔵されており、好ましい。さらには、α相とβ相の両方を含んでいる(α+β相である)ことがより好ましい。α相とβ相の両方を含んでいる、プラトー領域の水素吸蔵合金は、水素吸蔵量が変化しても平衡水素圧が殆ど変化しないため、水素吸蔵量が変化したり、ばらついたりした場合にも、所望の水素圧に達するまで水素が発生されるように設計し易い。
【0033】
水素吸蔵部材の水素吸蔵合金の金属原子の個数がMであり、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素原子の個数がHである場合に、0.2≦H/M≦0.8をみたしていることが好ましい。H/Mがこの範囲内であれば、水素吸蔵合金は概ねプラトー領域内の状態にあり、水素吸蔵量が変化しても平衡水素圧が殆ど変化しないため、水素吸蔵量がばらついた場合にも、所望の水素圧に対して水素が発生されるように設計し易い。さらに、0.4≦H/M≦0.6をみたしている場合には、水素吸蔵量の変化に対する平衡水素圧の変化がより小さくなるため、より好ましい。また、水素吸蔵量が0.4≦H/M≦0.6の範囲内となるように設計すれば、量産時に水素吸蔵量がばらついた場合にも、水素吸蔵量に対する平衡水素圧が大幅に変化することが無く、ロバスト性に優れている。
【実施例1】
【0034】
図1および図2に、実施例1に係る蓄電装置10を示す。図1は、蓄電装置10の断面図である。蓄電装置10は、捲回型のリチウムイオン二次電池である。蓄電装置10は、電極体100と、ケース140と、集電端子120,130と、電極体100の中央部に配置された水素吸蔵部材150と、電流遮断装置(図示しない)を備えている。
【0035】
図3に示すように、電極体100は、負極シート101と、正極シート102と、負極シート101と正極シート102との間に挟まれてそれぞれを分離するシート状のセパレータ103とを備えている。負極シート101は、負極集電体101aおよび負極集電体101aの表面に形成された負極活物質層101bとを含んでいる。正極シート102は、正極集電体102aおよび正極集電体102aの表面に形成された正極活物質層102bとを含んでいる。電極体100は、負極シート101、セパレータ103、正極シート102、セパレータ103が、この順序で積層された積層構造を有しており、この積層構造体を、捲回軸(図1および図3に示すr軸)を中心に捲回したものである。負極集電体および正極集電体は、銅箔である。セパレータ103は絶縁性の多孔体であり、後述する非水系の電解液がセパレータの孔部を介して通過し易くなっている。
【0036】
ケース140は、電極体100を収容する本体141と、蓋142とを備えている。集電端子120は、ケース140内で電極体100の正極集電体102aと電気的に接続する下部121と、蓋142を貫通する上部122とを備えている。集電端子130は、ケース140内で電極体100の負極集電体101aと電気的に接続する下部131と、蓋142を貫通する上部132とを備えている。蓋142によって、ケース140の内部は密閉されている。ケース140内には非水系の電解液が満たされており、ケース140内の電極体100、電流遮断装置等の構造は、電解液に浸漬されている。この電解液には、芳香族系のモノマー添加剤が含まれている。電極体100に所定値以上の電流が流れると、モノマー添加剤が重合し、水素が発生する。なお、電解液のモノマー添加剤の量は、蓄電装置10の電池特性を阻害しない程度に調整されている。
【0037】
集電端子120,130に電圧を印加することによって、蓄電装置10は充電される。集電端子120,130に負荷を接続することによって、蓄電装置10は放電する。電流遮断装置は、蓄電装置10のケース140内の圧力が上昇し、所定の圧力値よりも高い圧力に達した場合に、正極シート102と負極シート101とを短絡させて、蓄電装置10の過充電時の過電流を遮断する。
【0038】
図2に示すように、水素吸蔵部材150は、電極体100の積層構造の積層方向の中央部である、捲回軸の近傍に、電極体100に接するように配置されている。水素吸蔵部材150は、負極シート101に接している。水素吸蔵部材150は、粒状のMmNi3.79Co0.6Mn0.56Al0.05の表面を多孔性の銅の被膜によって被覆したマイクロカプセルを焼結し、シート状にしたものである。
【0039】
マイクロカプセルは、MmNi3.79Co0.6Mn0.56Al0.05の100メッシュ以下の粉末を用意し、市販のめっき溶液を用いて、無電解銅めっきを行うことによって製造した。なお、めっき量は、めっき後に得られるマイクロカプセルの重量に対して、20wt%となるようにした。水素吸蔵部材150は、マイクロカプセルを焼結してシート状に成形して製造した。まず、マイクロカプセル6gに対して結着剤としてPTFEの粉末を加え、混練した後で、予備成型を行った。なお、結着剤の量は、マイクロカプセルと結着剤との総重量に対して5wt%となるように調整した。予備成型を行った後のマイクロカプセルおよび結着剤の両側をニッケルメッシュで挟み、成型温度60℃、成型圧力300kg/cmの条件で加熱・加圧処理した。
【0040】
図4は、MmNi3.79Co0.6Mn0.56Al0.05の水素吸蔵特性を示す図である。図4の実線は、水素吸蔵時の特性を示す吸蔵曲線であり、破線は水素放出時の特性を示す放出曲線である。縦軸は、平衡水素圧を示している。横軸は、水素吸蔵合金の水素吸蔵量であるH/Mを示している。なお、図4の下方には、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素原子の個数と水素吸蔵合金の金属原子の個数との比としてH/Mの目盛が付されており、図4の上方には、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の重量と水素吸蔵合金の金属原子の重量との比としてH/Mの目盛が付されている。図4に示すように、吸蔵曲線および放出曲線は、個数比のH/Mについて、0.2≦H/M≦0.8を満たす領域内では、水素吸蔵量が変化しても平衡水素圧が殆ど変化しない。この領域は、概ね、MmNi3.79Co0.6Mn0.56Al0.05のプラトー領域と一致する。さらに、吸蔵曲線および放出曲線の個数比のH/Mについて、0.4≦H/M≦0.6を満たす領域内では、水素吸蔵量の変化に対する平衡水素圧の変化がより小さくなっている。
【0041】
上記の方法によって製造した水素吸蔵部材150の水素吸蔵合金は、個数比のH/Mについて、0.4≦H/M≦0.6を満たす領域内の状態にあり、α相とβ相の両方を含んでいる。このため、水素吸蔵量が変化しても平衡水素圧が殆ど変化せず、水素吸蔵量ばらついた場合にも、所望の水素圧に対して水素が発生される。
【0042】
例えば、蓄電装置10の過充電時には、ケース140内の温度は70℃以上となる。図4に示すように、個数比のH/Mについて0.4≦H/M≦0.6を満たす領域内では、例えば、ケース140内の温度が20℃程度から70℃以上になると、平衡水素圧は、0.05〜0.06MPa程度から、0.3MPa程度に上昇するため、水素吸蔵部材150の水素吸蔵合金から水素が発生する。発生した水素によって、電流遮断装置が動作し、過電流が遮断される。上記のとおり、水素吸蔵部材150の水素吸蔵合金は、水素を吸蔵した状態で電極体100内に配置されており、蓄電装置10の過充電時にケース140内の温度が上昇すると、吸蔵していた水素を放出する。なお、過充電時には、電解液のモノマー添加剤からも水素が発生する。電解液のモノマー添加剤に加えて、水素吸蔵部材150も水素の発生源となるため、より確実に電流遮断装置を動作させることができる。
【0043】
(変形例)
水素吸蔵部材の形状は、実施例1で説明した形状に限られない。例えば、図5に示すように、複数の孔151を有する多孔性のシート状の水素吸蔵部材150aであってもよく、円盤状、棒状等の形状であってもよい。また、実施例1では、水素吸蔵部材150は、電極体100の積層構造の積層方向の中央部である、捲回軸の近傍に配置されていたが、これに限定されない。捲回軸から離れた位置に配置されていてもよい。また、蓄電装置10が複数の水素吸蔵部材を含んでおり、電極体100の積層構造の積層方向の中央部と、中央部以外の位置(例えば、ケース140に最も近い位置)との双方に水素吸蔵部材が配置されていてもよい。
【実施例2】
【0044】
捲回型以外の蓄電装置を例示して、水素吸蔵部材の配置される位置等について、説明する。図6は、実施例2に係る蓄電装置20の断面図である。蓄電装置20は、積層型のリチウムイオン二次電池である。蓄電装置20においては、図7に示すように、電極体200は、負極シート201、セパレータ203、正極シート202がこの順序でそれぞれ多数積層された積層体である。また、水素吸蔵部材250は、電極体200の積層方向(図6および図7に示すx方向)の中央部に配置されており、負極シート201とセパレータ203との間に挟まれている。図7に示すように、負極シート201は、負極集電体201aと、負極集電体201aの両面に形成された負極活物質層201bとを備えている。また、正極シート202は、正極集電体202aと、正極集電体202aの両面に形成された正極活物質層202bとを備えている。負極集電体201a、負極活物質層201b、正極集電体202a、正極集電体202aおよびセパレータ203の材料としては、それぞれ負極集電体101a、負極活物質層101b、正極集電体102a、正極集電体102aおよびセパレータ103と同様の材料が用いられている。水素吸蔵部材250は、蓄電装置10の水素吸蔵部材150と同様の材料および形状であり、同様の製造方法によって製造されている。その他の構成については、蓄電装置10と同様であるため、蓄電装置10の100番台の参照番号を200番台に読み替えることによって、説明を省略する。なお、図示されていないが、蓄電装置20は、蓄電装置10と同様の電流遮断装置を備えており、ケース240内は、蓄電装置10と同様の電解液によって満たされている。
【0045】
蓄電装置20においても、蓄電装置10と同様に、電極体200の中央部に水素吸蔵部材250が配置されており、水素吸蔵部材250の水素吸蔵合金は、図4に示す個数比のH/Mについて0.4≦H/M≦0.6を満たす領域内の状態にあり、α相とβ相の両方を含んでいる。このため、例えば、蓄電装置20の過充電時に、ケース240内の温度が20℃程度から70℃以上になると、水素吸蔵部材150の水素吸蔵合金から水素が発生する。発生した水素によって、電流遮断装置が動作し、過電流が遮断される。電解液のモノマー添加剤に加えて、水素吸蔵部材150も水素の発生源となるため、より確実に電流遮断装置を動作させることができる。なお、実施例1の変形例において説明したことと同様に、蓄電装置20についても、水素吸蔵部材は、図5に示すような多孔性のシート状の水素吸蔵部材であってもよく、また、円盤状、棒状等のシート状以外の形状であってもよい。また、水素吸蔵部材は、積層方向の中心から離れた位置に配置されていてもよく、さらには、蓄電装置20が複数の水素吸蔵部材を含んでおり、電極体200の積層方向の中央部と、中央部以外の位置(例えば、ケース240に最も近い位置)との双方に水素吸蔵部材が配置されていてもよい。
【0046】
以上、本発明の実施形態および実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0047】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
10,20 蓄電装置
100,200 電極体
101,202 負極シート
101a,201a 負極集電体
101b,201b 負極活物質層
102,202 正極シート
102a,202a 正極集電体
102b,202b 正極活物質層
103,203 セパレータ
120,130,220,230 集電端子
121,131,221,231 下部
122,132,222,232 上部
140,240 ケース
141,241 本体
142,242 蓋
150,150a,250 水素吸蔵部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7