特許第5772766号(P5772766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5772766連続鋳造における丸鋳片の凝固末期冷却装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772766
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】連続鋳造における丸鋳片の凝固末期冷却装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/124 20060101AFI20150813BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B22D11/124 F
   B22D11/124 R
   B22D11/16 104P
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-188932(P2012-188932)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-46314(P2014-46314A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴則
(72)【発明者】
【氏名】古川 昇
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−184047(JP,A)
【文献】 特開2003−21288(JP,A)
【文献】 実開平4−80645(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/124
B22D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用鋳型から引き抜かれた鋳片を二次冷却するために、前記鋳片の最終凝固位置に、引き抜き方向に複数配置したスプレー式冷却装置であって、
前記スプレー式冷却装置を適数個で1つのブロックとして、ブロック毎に1つの冷却水配管とエアー配管により冷却水とエアーを供給可能なように構成すると共に、これらブロック毎の冷却水配管とエアー配管それぞれの、メイン配管への着脱を、基端側を支点とするレバーの先端側の回動により行えるカプラーを介して行うようにしたことを特徴とする連続鋳造における鋳片の凝固末期冷却装置。
【請求項2】
前記鋳片の凝固末期冷却装置は、冷却水のみ、あるいは気液混合ミストを噴出するものであることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造における鋳片の凝固末期冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造設備の二次冷却装置として丸鋳片の最終凝固位置に設置するスプレー式の鋳片の凝固末期冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、取鍋内の溶鋼を一旦タンディッシュに注湯した後、タンディッシュ底部に設置した浸漬ノズル1を介し水冷式の鋳型2に注湯して一次冷却することで、溶鋼表面に凝固シェル3を形成する。そして、鋳型2から引き抜かれた凝固シェル3は、鋳型直下ではクーリンググリッド或いはサポートロール4によって、さらにその下方ではガイドロール5によって案内支持されながら二次冷却されて凝固シェル3を成長させ鋳片6となされる(図1参照)。なお、図1中の7は二次冷却用のスプレーノズルである。
【0003】
この連続鋳造において、特に鋳片中心部の軸心割れが懸念される鋼種を鋳造する際は、軸心割れを低減するために、最終凝固位置に凝固末期冷却帯8を設けてさらに鋳片6を冷却し、中心の凝固界面における引張り応力の発生を防止して圧縮応力を発生させるように制御する場合もある。
【0004】
このように、鋼の連続鋳造において、均一な凝固シェルの形成と成長及び品質の向上に、鋳片の冷却は非常に重要である。鋳片を二次冷却するための冷却水は、メイン配管から、複数のセグメント毎の配管に分岐した後、セグメントを構成する各スプレー式冷却装置を介して、水単独或いはエアーを混合した気液混合ミストとして鋳片に吹き付けられる。
【0005】
上記のような冷却系統には、配管内に蓄積された水垢や送水槽内に堆積した異物などが混入する場合があり、それらが原因で冷却装置のノズルが閉塞する場合がある。ノズル閉塞が発生すると、鋳片の冷却が不均一になり、鋳片曲がりを始めとした品質不良が発生するため、ノズル閉塞の防止は鋼の連続鋳造において不可欠である。
【0006】
ノズルの閉塞防止にはオフラインでノズル閉塞物を除去することが重要であるが、ノズル群を有するスプレー式冷却装置は鋳片を保持するためのガイド機構とともに構成されている(ローラーエプロン)。ローラーエプロンは複数のセグメントA(図1参照)で構成されており、オフラインでの整備のためのスプレー式冷却装置の取外し及び取付けはセグメント単位で実施する必要がある。このセグメントを構成する複数のスプレー式冷却装置11はセグメントAと一体となされており、しかも、図6に示すように、スプレー式冷却装置11ごとに別個の冷却水配管12とエアー配管13に接続されているので、その着脱に長時間を要し、生産性の低下を招く。
【0007】
そのため、スプレー式冷却装置は一度設置すると取り外してオフライン整備を行うことをあまり行わないので、連続鋳造中にノズル閉塞に至る場合があり、従来からノズルの閉塞を抑制する技術が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1では、各冷却系列における流量調整弁の開度と冷却水量からノズルの閉塞を検知する技術が開示されている。また、特許文献2では、スプレー噴射流の圧力をダミーバーに設置した受圧板を介してロードセルで測定し、測定した圧力の変化からノズル閉塞を検知する技術が開示されている。また、特許文献3ではノズル内部の冷却水温度と元配管の温度差からノズル閉塞を検知する技術が開示されている。
【0009】
これら特許文献1〜3で開示された技術は、ノズルの閉塞状況を検知し、深刻な閉塞に至る前に整備を行うことでノズルの閉塞を抑制する技術であるが、ノズル一つ一つを管理することができないので、各ノズルのチェックが必要となる。
【0010】
つまり、特許文献1〜3で開示された技術は、ノズルをチェックする時間や点検周期の短縮化を図ることはできても、スプレー式冷却装置の交換に要する時間の短縮を実現することはできない。また、ノズル閉塞自体を防止する技術ではないので、抜本的な対策とはならない。
【0011】
上記の問題に対し、特許文献4では、操業中は冷却水噴出口断面積が減少して所定の噴出量分布を形成し、冷却水の噴出を中断する際は噴出口断面積が増加する構造を有するスプレーノズルを用いることでノズルの閉塞を防止する技術が開示されている。
【0012】
しかしながら、特許文献4で開示された技術は、ノズルチップ(冷却水の噴出口)の閉塞防止技術であるため、オリフイス部で発生する閉塞を防止することはできない。
【0013】
すなわち、特許文献1〜4の何れの技術であっても、ノズル閉塞を抑制するためには、オフラインでノズル閉塞物を除去することや、スプレー式冷却装置の冷却水配管内に蓄積された水垢や堆積した異物の除去といった整備を行うことが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−175464号公報
【特許文献2】特開2010−172921号公報
【特許文献3】特開2003−170256号公報
【特許文献4】特開2002−59248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、鋼の連続鋳造に使用するスプレー式冷却装置のノズル閉塞を完全に防止できる技術は無いので、オフラインにてスプレー式冷却装置の整備を行う必要があるが、その際、スプレー式冷却装置の取り付け取外しに長時間がかかるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、生産性に影響を与えることなくオフラインでの整備が可能となるような、迅速な交換が可能なスプレー式冷却装置を提供することを目的としている。
【0017】
すなわち、本発明は、
連続鋳造用鋳型から引き抜かれた鋳片を二次冷却するために、前記鋳片の最終凝固位置に、引き抜き方向に複数配置したスプレー式冷却装置であって、
前記スプレー式冷却装置を適数個で1つのブロックとして、ブロック毎に1つの冷却水配管とエアー配管により冷却水とエアーを供給可能なように構成すると共に、これらブロック毎の冷却水配管とエアー配管それぞれの、メイン配管への着脱を、基端側を支点とするレバーの先端側の回動により行えるカプラーを介して行うようにしたことを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、スプレー式冷却装置の、冷却水配管とエアー配管それぞれの、メイン配管への着脱を、ブロック毎に、レバーを回動するだけで行うことが可能となるので、交換時間の短縮により生産性が向上する。そのため、生産性を低下させずにオフライン整備を行うことが可能となり、ノズル閉塞に起因する鋳片の不均一冷却を防止することができ、丸鋳片の軸心割れや曲がりの低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の鋳片の凝固末期冷却装置を備えた連続鋳造設備の概略構成図である。
図2】本発明の鋳片の凝固末期冷却装置の概略図で、(a)は鋳片引抜き方向から見た図、(b)は鋳片の横断面方向から見た図である。
図3】本発明の鋳片の凝固末期冷却装置を構成するカプラーの一例を示した図で、(a)は外形図、(b)は斜視図、(c)は縦断面図である。
図4】本発明の効果の一例を示した図で、カラーチェック評価を示したものである。
図5】本発明の効果の一例を示した図で、曲がり評価を示したものである。
図6】従来の鋳片冷却装置の概略図で、鋳片引抜き方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、生産性に影響を与えることなく、オフラインでの整備が可能となるような迅速な交換を可能にするという目的を、鋳片を最終凝固位置で二次冷却するスプレー式冷却装置をサポートロールのセグメント単位の交換ではなく、セグメントとは独立して複数のスプレー式冷却装置を一括して交換可能とすることで実現した。
【0021】
すなわち、本発明は、複数のスプレー式冷却装置を1つのブロックとして1つの冷却水配管とエアー配管により冷却水とエアーを供給可能なように構成することで、一括した交換が可能となってセグメントとは独立した交換が可能となる。本発明冷却装置により吹き付ける冷却媒体は、水単独或いはエアーを混合した気液混合ミストの何れでも良い。
【0022】
従って、スプレー式冷却装置毎に取り付け、取り外しを行う冷却水配管及びエアー配管を一体として取り付けたセグメント単位での交換と比較し、交換に要する時間を大幅に短縮することが可能になる。そのため、スプレー式冷却装置の交換が短時間で行えるようになってオフラインでの整備が可能となるので、スプレー式冷却装置のノズル閉塞を効果的に抑制できるようになる。
【0023】
また、予めノズルチップ詰まりを検査し、メンテナンスを完了した替えのブロックを準備しておくことで、容易に冷却ノズルの交換が可能となる。また、オフラインでの整備時にノズルから噴射するスプレーの噴出角度を検査し、噴出角度のズレを中心向きに修正することも容易に可能となる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。
本発明の鋳片の凝固末期冷却装置は、連続鋳造用鋳型から引き抜かれた鋳片を最終凝固位置で二次冷却するためのスプレー式冷却装置21で、例えば図2に示すような構造である。
【0025】
22は外周側に配置したエアー配管で、その内周側に冷却水配管23を配置した環状の二重管構造となし、エアー配管22からエアーを、冷却水配管23から冷却水を供給するようになっている。
【0026】
そして、例えば図2(b)に示すように、半径方向内側に向かって12個配置された気液二流体式のノズル24から気液混合ミストを噴射するようになっている。以降、このスプレー式冷却装置をスプレーリングと呼称する。
【0027】
加えて、従来は、図6に示したように、スプレーリング毎に冷却水配管及びエアー配管を接続していたのに替えて、本発明では、図2(a)に示すように、例えば3つのスプレーリング21を1つのブロックBとし、前記冷却水配管23とエアー配管22をブロック毎に1つずつとして、この1つずつの冷却水配管23とエアー配管22から3つのスプレーリング21に冷却水とエアーを供給するようにしている。
【0028】
また、図6に示した従来のスプレーリングは、冷却水配管及びエアー配管の接続はねじ継手によって行っていたものを、本発明では、ブロック毎の冷却水配管23とエアー配管22それぞれの、メイン配管への着脱を、図3に示すような、基端側を支点とするレバー25aの先端側の回動により行えるカプラー25を介して行うようにしている。
【0029】
また、本発明では、ブロックBの下部とセグメント架台26との間にコッターピン27を打ちこむことでブロックBとセグメント架台26を固定し、ブロックBとセグメント架台26を容易に着脱できる構成としている。
【0030】
次に、上記構成の本発明装置の効果を確認するために、鋳造毎に冷却装置の交換を実施する試験を行った。
【0031】
以下、その試験結果について説明する。試験は、曲率半径が10.5mを有する機長41mの丸ビレット鋳片鋳造用の湾曲型連続鋳造機の、メニスカスから30〜35mの丸ビレット鋳片の最終凝固位置に、丸ビレット鋳片の軸心割れ低減のための強冷却を施すべく本発明装置を適用して行った。その際の鋳造条件と鋼種は以下の通りである。
【0032】
・鋳造条件
丸ビレット鋳片のサイズ:外径191mmと225mm
鋳造速度:1.8〜3.6m/min
ストランド数:4〜6
【0033】
・鋼種
C:0.05質量%、Si:0.30質量%、Mn:1.30質量%、P:0.013質量%、S:0.002質量%、残部:Fe+不純物
【0034】
本試験では、3つのスプレーリングを400mmの間隔で配置したブロックを4セット、各ブロック間が400mmの間隔となるようにセットした。
【0035】
本発明装置を適用して連続鋳造した丸ビレット鋳片の品質を調査するため、軸心割れについては、ビレット横断面端面のJIS Z 2343に規定された染色浸透探傷試験、いわゆるカラーチェックを行い、割れの長さをカラーチェックの指示範囲(mm)とし、その平均値で評価した。その結果を図4に示す。
【0036】
図4から分かるように、カラーチェックの指示範囲(mm)は、図6に示した従来の冷却装置を適用した場合は、1.1mm(n数:3664本評価)であったものが、前記本発明の冷却装置を適用したことにより0.3mm(n数:84本評価)と大幅に低減した。
【0037】
また、曲がりについてはチャージ当たり定常鋳込み部分の中央部分から6本の頻度でビレット曲がり量を測定し、ビレット1m当たりの曲がり量として評価した。その結果を図5に示す。
【0038】
図5から分かるように、ビレット1m当たりの曲がり量は、図6に示した従来の冷却装置を適用した場合は1m当たり3.7mmであったものが、前記本発明の丸鋳片の凝固末期冷却装置を適用したことにより1m当たり1.5mmと低減し、ばらつきのない鋳片を得ることができるようになった。
【0039】
その結果、従来はセグメントの交換時期に18時間かかっていたスプレーリングの着脱、および閉塞防止のためのオフライン整備に要する時間を、本発明のスプレーリングを採用することで4時間に大幅に短縮することができた。そのため、生産性阻害の影響なくスプレーリングの交換が可能となった。
【0040】
さらに、鋳造後はスプレーリングを取り外し、オフラインでノズル閉塞物の除去と配管内の異物除去を行うメンテナンスが容易に可能となり、その結果、ノズル閉塞の発生なく、均一な鋳片冷却を安定して行う鋳造が可能となった。
【0041】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0042】
上記実施例では、丸ビレット鋳片の連続鋳造時に丸ビレット鋳片の軸心割れ低減のために活用されている凝固末期冷却に本発明を適用した例について説明したが、本発明は鋳型直下の二次冷却スプレー冷却装置においても同様に適用することが可能である。
【0043】
また、上記実施例では、凝固末期冷帯8に配置されたサポートロール9と干渉するため、1つのブロックBに固定するスプレーリング21を3つとしたが、取り合いに応じてその数は調整可能なことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上の本発明は、連続鋳造であれば、湾曲型のみならず、垂直型、垂直ベンディング型など、どのような方式の連続鋳造であっても適用できる。
【符号の説明】
【0045】
2 鋳型
6 鋳片
21 スプレー冷却装置(スプレーリング)
22 エアー配管
23 冷却水配管
24 ノズル
25 カプラー
25a レバー
B ブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6