特許第5772768号(P5772768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772768
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】外壁の開口部構造
(51)【国際特許分類】
   E06B 3/34 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   E06B3/34
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-191564(P2012-191564)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-47543(P2014-47543A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯 永治
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 将
【審査官】 土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−224691(JP,A)
【文献】 特開2006−328822(JP,A)
【文献】 特開2009−293316(JP,A)
【文献】 実開平03−055481(JP,U)
【文献】 実開平02−040881(JP,U)
【文献】 実開平03−004887(JP,U)
【文献】 実開昭59−109877(JP,U)
【文献】 特開2001−152575(JP,A)
【文献】 特開2003−336450(JP,A)
【文献】 特開平8−193466(JP,A)
【文献】 特開平4−202991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 3/32 − 3/46
E05D 15/10
E05D 15/28
E05F 11/02 − 11/34
E06B 7/02 − 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体に設けられた開口部に突き出し窓が内付けされた外壁の開口部構造であって、
前記突き出し窓は、枠部材と、該枠部材に対して屋外側に突出して開放される障子と、前記枠部材と障子との間に設けられ前記障子を平行移動させるリンク機構とを備え、
前記枠部材は、開口部の屋内側寄りに前記障子を引き込んで閉鎖する構成となされ、
前記障子は、該障子の突出量を規制する固定手段を備えて、壁体の屋外面と略面一に揃えた開放位置で固定されたときに該障子と前記開口部の見込部との間に隙間を形成することを特徴とする外壁の開口部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の外壁の開口部構造において、
前記障子は、壁体の屋外面と略面一に揃う第1の開放位置と、壁体の屋外面より突出する第2の開放位置との少なくとも2段階の突出量を選択可能に規制されていることを特徴とする外壁の開口部構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の外壁の開口部構造において、
前記開口部は、高さ方向に長く、幅方向に狭いスリット形状であることを特徴とする外壁の開口部構造。
【請求項4】
壁体に設けられた開口部に突き出し窓が内付けされた外壁の開口部構造であって、
前記突き出し窓は、壁体に対して屋外側に平行に突出して開放される障子を備え、
前記障子は、該障子の突き出し幅が、前記壁体の屋外面と略面一に揃えた開放位置に固定されたときに、該障子と前記開口部の見込部との間に隙間を形成することを特徴とする外壁の開口部構造。
【請求項5】
請求項4に記載の外壁の開口部構造において、
前記障子は、壁体の屋外面と略面一に揃う第1の開放位置と、壁体の屋外面より突出する第2の開放位置との少なくとも2段階の突き出し幅を選択可能とされていることを特徴とする外壁の開口部構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載の開口部構造において、
前記開口部は、壁体に沿って屋外側に配設された片引き玄関ドアの引き込み側に並設されたことを特徴とする外壁の開口部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部に突き出し窓を備えた外壁の開口部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建物においては、開口部から自然の風を効率よく取り入れて通風や換気を行い、空調設備に頼らずとも、快適な住環境を得られるようにすることが好ましい。特に、春や秋などの穏やかな気候の季節には、窓を開け放して通風することで十分に自然の涼が得られ、省エネルギーにも貢献することができる。
【0003】
一方で、近年では防犯に対する関心が高まっており、建物の防犯性能を確保することは極めて重要な課題となっている。また、建物単体で高い防犯性能を確保し、良質な住宅ストックの形成を図ることが求められている。
【0004】
開口部における防犯性の向上にあたっては、侵入盗等の被害に遭いにくく、破壊されにくい構造とすることが求められている。また、開口部を侵入企図者に接近されにくくしたり、また接近しにくいと感じさせたりすることも有効とされている。特に、接地階に設ける窓や、屋外バルコニー等に面する窓等のように、外部から接近することが比較的容易な開口部には、確実な侵入防止措置を講じることが好ましい。
【0005】
出入りの用に供しない開口部の侵入防止措置としては、例えば面格子を外付けしたりガラリ等を連設したりすることが広く行われている。しかしながら、片開き窓やすべり出し窓のように、障子の開閉方式によっては、屋外側に面格子やガラリ等を取り付けられない場合があった。また、ガラリ等を設けることによって、居室に閉塞感を生じたり美観を損ねたりする懸念があり、障子を開放されているかどうかを外部から視認されやすいという問題点もあった。
【0006】
障子を開放した状態で防犯性を備えさせる手法として、例えば特許文献1には、窓枠内に、採光部及び採風部を連設し、採光部には透明なガラス製パネルをはめ殺しにし、採風部には屋外側にガラリを嵌め込んだ構成の窓が開示されている。また、採風部の屋内側には平行突き出し障子を設け、ガラリの屋内側に障子を突出させて開放することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−293316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記従来例の窓は、住宅等の建物において実用化するには未だ問題点があった。すなわち、はめ殺しの採光部とガラリを備えた採風部とを並設する構成であるため、配置場所に広い壁面を必要とすることに加え、屋内側に平行突き出し障子が開放されて出っ張るので屋内側に開閉のためのスペースを必要とする。そのため、建物のどのような部分にでも配置できるものではなく、例えば廊下、階段、水回り居室等の狭い空間には不向きであり、設計自由度に劣る。効率のよい通風のためには、建物全体の風の流れを考慮して風の入口と出口とを計画すべきであるが、このように広い壁面を要する窓を建物の複数箇所に設けることは困難な場合が多い。また、屋内側に障子が引き出されるので、屋内側においてすっきりとした外観が形成されるとは言い難い。
【0009】
このように、通風性と防犯性とを兼ね備え、使い勝手がよく、良好な外観意匠を形成し得て、どのような場所にも配置することができる実用的な開口部構造は現状ではほとんど提案されていなかった。また、快適な住環境を創出するには開口部による通風・換気が重要である反面、窓を開け放しにすることには防犯面から不安が残り、窓を閉め、空調設備に頼らざるを得ない実情があった。
【0010】
本発明は、上記のような問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、良好な通風性及び採光性を備えて住環境を快適に整えることができ、外観意匠を損なうことなく高い防犯性能を確保することのできる外壁の開口部構造を実現し、ひいては良質な住宅ストックの形成に寄与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、壁体に設けられた開口部に突き出し窓が内付けされた外壁の開口部構造を前提とする。この開口部構造に対し、前記突き出し窓として、枠部材と、該枠部材に対して屋外側に平行に突出して開放される障子と、前記枠部材と障子との間に設けられ前記障子を平行移動させるリンク機構とを備えさせる。前記枠部材は、開口部の屋内側寄りに前記障子を引き込んで閉鎖する構成とする。また、前記障子には、該障子の突出量を規制する固定手段を備えさせ、壁体の屋外面と略面一に揃えた開放位置に固定したときに該障子と前記開口部の見込部との間に隙間を形成するように構成している。
【0012】
この特定事項により、障子を通して採光が可能であり、障子の四周と開口部との隙間を通して風を流通させ、通風や換気を良好に行うことができる。また、障子は壁体の屋外側に出っ張らずに開放されるので、開放されていることを外部から認識されにくく、あたかも嵌め殺し窓のような外観を形成することができ、見栄えもよい。そのため、侵入企図者の接近を妨げることができ、万一接近されても、障子の周囲に手や用具を挿入するほどのスペースは無く、こじ破りや破壊等を受けにくい構造とすることができる。したがって、通風性、採光性、意匠性、及び防犯性のいずれにも優れた開口部構造とすることができる。
【0013】
前記開口部構造のより具体的な構成として、前記障子を、壁体の屋外面と略面一に揃う第1の開放位置と、壁体の屋外面より突出する第2の開放位置との少なくとも2段階の突出量に選択可能となるよう規制した構成であってもよい。
【0014】
これにより、通常の通風時や換気時には障子を第1の開放位置に突出させて、通風性と防犯性との両方を確保することができる。また、日中の在宅時や換気量を高めたいときなどには、障子を第2の開放位置まで突出させて、より風通しをよくすることができる。このように、必要に応じて障子の開放形態を変えることができるので、利便性が高く、自然の風を利用した快適な居住環境を整えることが可能となる。
【0015】
さらに、前記開口部構造において、前記開口部を、高さ方向に長く、幅方向に狭いスリット形状とすることが好ましい。
【0016】
これにより、前記開口部からの風を、屋内の高さ方向に偏りなく流通させることができ、省スペースでありながら十分な通風量を確保することができる。また、突き出し窓の開口幅が小さいので、開口部の大きさそのものが人の侵入を阻止するものとなり、外観上は、侵入企図者から侵入の対象として狙われにくく、防犯性をより一層高めることが可能となる。加えて、かかる構成の開口部であることにより、万一、障子を破られることがあっても、屋内側への侵入を阻止することができる。
【0017】
また、本発明は、壁体に設けられた開口部に突き出し窓が内付けされた外壁の開口部構造を前提とし、前記突き出し窓に、壁体に対して屋外側に平行に突出して開放される障子を備えさせ、前記障子として、該障子の突き出し幅が、前記壁体の屋外面と略面一に揃えた開放位置に固定されたときに、該障子と前記開口部の見込部との間に隙間を形成する構成としてもよい。
【0018】
この特定事項により、障子を通して採光が可能であり、障子の四周と開口部との隙間を通して風を流通させ、通風や換気を良好に行うことができる。また、障子は壁体の屋外側に出っ張らずに開放されるので、開放されていることを外部から認識されにくく、あたかも嵌め殺し窓のような外観を形成することができ、見栄えもよい。そのため、侵入企図者の接近を妨げることができ、万一接近されても、手や用具を挿入するほどのスペースは無く、こじ破りや破壊等を受けにくい構造とすることができる。したがって、通風性、採光性、意匠性、及び防犯性のいずれにも優れた開口部構造とすることができる。
【0019】
また、前記開口部構造においては、前記障子を、壁体の屋外面と略面一に揃う第1の開放位置と、壁体の屋外面より突出する第2の開放位置との少なくとも2段階の突き出し幅を選択可能に構成することが好ましい。
【0020】
これにより、通常の通風時や換気時には障子を第1の開放位置に突出させて、通風性と防犯性との両方を確保することができる。また、日中の在宅時や換気量を高めたいときなどには、障子を第2の開放位置まで突出させて、より風通しをよくすることができる。このように、必要に応じて障子の開放形態を変えることができるので、利便性が高く、自然の風を利用した快適な居住環境を整えることが可能となる。
【0021】
さらに、前記開口部構造において、前記開口部を、壁体に沿って屋外側に配設された片引き玄関ドアの引き込み側に並設する構成としてもよい。
【0022】
これにより、玄関における採光を可能にし、玄関ドアを閉めた状態であっても、通風性を確保することができる。しかも、前記開口部の障子は、壁体の屋外面と略面一に揃えて壁体の屋外側に出っ張らずに固定することができるので、高い防犯性を確保した状態での通風が可能とされる。このとき、前記開口部は、玄関ドアの引き込み時に障子が干渉せず、安全で円滑に玄関ドアを開閉することを可能にする。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、開口部において障子からの採光と、障子と開口部との隙間を介した通風とを可能にしている。その上、前記障子を、壁体の屋外面と略面一に揃えた状態に開放することができるので、侵入被害や破壊等を受けにくくすることができ、外観意匠を損なうことなく高い防犯性能を確保することができる。したがって、通風性と防犯性との両方を兼ね備えた開口部構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る外壁の開口部構造を示す外観正面図である。
図2図1の開口部構造を示す内観正面図である。
図3】前記開口部構造における開放状態の障子を示す側面図である。
図4】前記障子が閉鎖された状態を示す横断面図である。
図5】前記障子が開放された状態を示す横断面図である。
図6】前記障子がさらに開放された状態を示す横断面図である。
図7】前記障子の開閉ハンドルを示す斜視図である。
図8】前記障子が開放された状態での風の流通を示す概念図である。
図9】前記開口部構造を設けた建物の構成例を示し、図9(a)は平面図、図9(b)は断面図である。
図10】本発明の他の実施形態に係る外壁の開口部構造を示す横断面図である。
図11】本発明のさらに他の実施形態に係る外壁の開口部構造を示す外観斜視図である。
図12】本発明のさらに他の実施形態に係り、平行突き出し窓サッシの構成例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る外壁の開口部構造について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1図9は本発明の一実施形態に係る外壁の開口部構造を示し、図1は開口部の外観を示す正面図、図2は開口部の内観を示す正面図、図3は開放状態の障子を示す側面図である。また、図4は開口部の障子が閉鎖された状態を示す横断面図、図5は障子が開放された状態を示す横断面図、図6は障子がさらに開放された状態を示す横断面図である。
【0027】
また、図7は前記障子の開閉ハンドルを示す斜視図であり、図8は風の流通を説明する概念図、図9は前記開口部構造を備えた建物の構成例を示し、図9(a)は平面図、図9(b)は断面図である。
【0028】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る外壁の開口部構造では、壁体11に開口部1が設けられている。開口部1は、高さ方向に長く幅方向に狭いスリット形状(スロット形状)とされている。
【0029】
例示の形態では、開口部1は、屋内の床面12の近傍から、天井付近までの高さを有する縦長の細長い形状に形成されている。図3に示すように、開口部1の上部には庇13が設けられ、下部には水切り材14が設けられている。
【0030】
図4に示すように、壁体11を構成する外壁材15には、開口151が設けられている。外壁材15の屋内側面には、開口151の外周部に沿って、適宜の断面寸法を有する軸組構成部材16が配設されている。軸組構成部材16には、平行突き出し窓10の取付部材17が取着されている。
【0031】
外壁材15の屋内側には、外壁材15に対向させ、内装材18が建て込まれている。外壁材15と内装材18との間には、図示しない断熱材や内装下地材が配設される。内装材18の開口端縁には、四周にわたり木製の額縁19が取り付けられている。なお、図3では、図面を見やすくするため、額縁19及び内装材18を省略して示している。
【0032】
開口部1には、平行突き出し窓10が内付けされている。平行突き出し窓10は、開口部1の形状に対応する高さ方向に長い矩形状に形成されている。この平行突き出し窓10は、枠部材2と、枠部材2に対して屋外側に平行に突出して開放される障子3と、枠部材2と障子3との間に設けられて障子3を平行移動させる複数のリンク機構4とを備えている(図3参照)。
【0033】
平行突き出し窓10の枠部材2は、外壁材15の開口151の屋内側の四周に取付部材17を介して配設されている。図4に示すように、枠部材2は左右のたて枠21が、外壁材15の屋内側から額縁19までの奥行き寸法を有して形成され、壁体11に対して内付けにより配設されている。
【0034】
また、図2に示されるように、枠部材2は、スリット形状の開口部1に対応して、高さ方向に長い矩形状に組まれている。例えば、枠部材2の高さは2100〜2200mmで形成され、枠部材2の内側の開口は、内法で2000〜2100mmの高さを有して形成されている。左右のたて枠21、21の幅方向の相互間隔は、人の侵入不能な内法寸法となされ、枠部材2の開口幅Wを構成している。具体的には、この平行突き出し窓10の枠部材2の開口幅Wは165mmであり、165mm以下とされることにより、人の侵入不能な最大幅として構成されている。
【0035】
ここで、防犯建物部品等(CP部品)の指針では、侵入のおそれのない小窓として、長辺が400mmで短辺が250mmの長方形、長径400mmで短径300mmの楕円、及び直径が350mmの円のいずれの図形も通過しない内法であることが求められている。これに対し、枠部材2の開口幅Wは、かかる小窓の条件よりもさらに厳しい条件であることから、開口部1に対する侵入のおそれを無くし、一定の防犯性を確保している。
【0036】
図4に示すように、枠部材2は、屋外側の見付部211が、外壁材15より屋内側に後退して配設され、抱きを有する納まりとされている。枠部材2の四周には、障子3に当接する戸当り22が、見込部212から枠部材2の内側方向へ突設されている。また、戸当り22は、枠部材2の見込部212の屋内側寄りに後退して設けられている。戸当り22には、障子3に密着する気密材23が配設されている(図5図6参照)。
【0037】
また、平行突き出し窓10において、障子3は、図1に示すように、上框31、下框32、及び左右のたて框33とを備え、内側にペアガラス34が嵌め込まれている。上框31、下框32、及び左右のたて框33の各周縁部には、鍔部35が外周方向に延設されている。図4図6に示されるように、鍔部35は、屋内側の見付面に気密材36が配設され、枠部材2の鍔受け部24に気密材36を介して密着するように構成されている。
【0038】
障子3は、枠部材2との間に架設されたリンク機構4により、屋外側へ水平方向に平行移動される。リンク機構4としては、平行突き出し窓に用いられる公知の開閉部材を用いることができ、例示のものに限定されない。
【0039】
図3に示す形態では、リンク機構4は、たて枠21に設けられた図示しない枠側ブラケットと、障子3の外側面に設けられた障子側ブラケット37と、これらの両ブラケットを連結するX字状に交差された一対のリンク部材41とを備えている。
【0040】
リンク部材41は、第1リンク41Aと第2リンク41Bの交差部が開閉自在にピン連結されている。第1リンク41Aの一端部は枠側ブラケットの下端部にスライド自在に連結され、他端部は障子側ブラケット37の上端部に連結されている。第2リンク41Bの一端部は、障子側ブラケット37の下端部の長孔371に沿ってスライド自在に連結され、他端部は枠側ブラケットの上端部に連結されている。
【0041】
かかるリンク機構4は、枠部材2と障子3との間隙を利用して、障子3の外周部の上下左右にそれぞれ架設されている。リンク機構4は、障子3の左右側面には、それぞれ、高さ方向の中間部と下部との複数箇所に設けられ、安定的な平行移動を可能にしている。
【0042】
リンク機構4は、障子3に備えられた開閉ハンドル5によって操作される。図2及び図7に示すように、開閉ハンドル5は、2本のアーム51をハンドル部52で接続して形成されている。枠部材2のたて枠21の屋内側には、高さ方向の略中間部に開閉ハンドル5の支持部53が設けられている。各支持部53は、開閉ハンドル5の2本のアーム51を、屋内側と屋外側との双方に貫通可能に形成されている。アーム51の先端部(屋外側)は、支持部53を貫通して、障子3のたて框33の屋内側に設けられた支持片331に回動可能に連結されている。
【0043】
障子3を開ける場合は、図7に示すように、アーム51が略水平姿勢となる位置まで、支持片331を中心にハンドル部52を持ち上げ、屋外方向に押す。これにより、リンク機構4がX字状に開いて延伸され、障子3が屋外側に平行移動される。
【0044】
この障子3は、突出量を規制する固定手段を備えている。例示の形態では、固定手段として、支持部53に内装されたピン54と、ピン54が走行するガイド溝55とを備えている。ガイド溝55は、各アーム51に長さ方向に形成されている。ガイド溝55の先端部(屋外側)は略円弧状に形成され、アーム51が支持片331に対して回動するのを許容する。また、ガイド溝55の途中部と、基端部(屋内側)には、ピン54が係合する段部55A、55Bが形成されている。
【0045】
ハンドル部52を持ち上げて屋外方向に押すと、ピン54がガイド溝55を走行するとともに、アーム51が支持部53を貫通して屋外側へ突き出る。これにより、障子3が屋外側へ平行に移動する。ピン54をガイド溝55の段部55Aに係合させると、障子3は、図5に示すように、外壁材15の屋外面と略面一に揃う第1の開放位置まで開放され、この状態で固定される。また、ハンドル部52を持ち上げて、さらに屋外方向に押し出し、ピン54を段部55Bに係合させると、障子3は、図6に示すように、外壁材15の屋外面より突出する第2の開放位置まで開放され、この状態で固定される。つまり、障子3は、ガイド溝55の段部55A、55Bと、ピン54との係合により、2段階の開放位置を選択可能となるように突出量が規制されている。
【0046】
障子3を閉じる場合は、上記とは逆に、開閉ハンドル5を手前に引き戻してリンク機構4を縮退させる。図2に示すように、支持部53を中心にアーム51を垂直位置まで下ろすと、障子3が完全に閉鎖される。
【0047】
これにより、障子3の上框31、下框32、及びたて框33は、屋内側の見付部が枠部材2の戸当り22に当接し、気密材23が密着する(図4参照)。また、障子3の鍔部35は、枠部材2の鍔受け部24に気密材36を介して密着する。障子3は、外壁材15の屋内面よりも屋内側に後退し、外壁材15の見込部を見せた納まりにより閉鎖される。かかる平行突き出し窓10は、開閉ハンドル5により障子3を開閉することができ、片手であっても容易に開閉操作することができる。
【0048】
図5に示すように、障子3が第1の開放位置に固定されているとき、外壁材15の開口151の見込部と障子3の四周の框(31、32、33)との間には、隙間S1が形成されている。隙間S1は、例えば20mm程度の大きさとされる。そのため、外観は図1に示したような形態となり、障子3と、外壁材15の屋外面とが略面一に揃えられて、障子3が開放されているかどうかは識別されにくいものとなる。また、一見すると、障子3は嵌め殺し窓のようにも見える外観を呈する。
【0049】
したがって、第1の開放位置では、開口部1は、外観上、侵入企図者から侵入の対象として狙われにくいものとなる。その上、隙間S1は、手や工具等を差し込むことができない程度に狭いので、防犯上、極めて有利な開放形態とすることができる。
【0050】
加えて、図8に示すように、障子3が第1の開放位置にあるとき、障子3の四周の隙間(S1)を通して、屋外側と屋内側とに風が流通する。これにより、居室の通風や換気を良好に行うことができる。しかも、第1の開放位置にあっては、上記のとおり防犯性が確保されているので、障子3を開放したままとしても、安心して快適に過ごすことができる。
【0051】
さらに、図6に示すように、障子3が第2の開放位置に固定されているときには、外壁材15の開口151の見込部と、障子3の框(31、32、33)との間には、隙間S2が形成される。隙間S2は、例えば50〜60mm程度の大きさとされる。図3に示される、障子3と庇13との隙間や、水切り材14と障子3との隙間も、概ね20〜60mm程度の大きさとされる。
【0052】
これにより、第2の開放位置にあっては、十分な通風量が得られ、自然の風を屋内に取り入れ、また屋内の空気を屋外に排出することが可能となる。特に、開口部1は、高さ方向に長いスリット形状とされ、掃き出し窓と同様の屋内の床面12の高さレベルまで設けられているので、足元から涼しい風を取り込むことが可能となる。また、天井付近では、隙間S2から流通する風により、あたためられた空気が冷やされ、又は屋外に排出される。これにより、空調機器に頼らずとも快適な居住環境を創出することができる。
【0053】
なお、第2の開放位置では、障子3と外壁材15との隙間S2が、第1の開放位置での隙間S1よりも広い。そのため、隙間S2に手を差し入れる余地を生じるが、万一、障子3がこじ開けられたとしても、開口部1がスリット形状であり、枠部材2の開口幅Wは人の侵入不能な大きさとされている。これにより、開口部1からの侵入に至っては完全に阻止することができ、防犯性を確保することができる。
【0054】
また、開口部1はスリット形状であることから、強風時の通風にも好適に作用する。すなわち、上記のとおり外壁材15の開口151と、障子3との隙間S1、S2を通して風を流通させる構成であるので、風は開口部1の正面からは吹き込まず、障子3に衝突して減勢される。このため、通常であれば障子3を閉めてしまうような強風時であっても、その風が直接、屋内側へは吹き込まず、図8に示すように障子3の側方から緩やかに流通する。よって、強風時にも障子3を開放しておくことができ、良好な通風性を確保することができる。
【0055】
このように構成された外壁の開口部構造により、開口部1は高い防犯性を有するとともに良好な通風性を備えたものとすることができる。このため、建物の接地階における外壁であって、外部からの侵入が比較的容易とされる部分であっても、好適に設けることができ、安心して開放することができる。
【0056】
また、かかる開口部構造によれば、省スペースで設けることができるので、建物全体の通風計画に従って、効果的な配置形態を容易に実現することができる。例えば、複数箇所に対面させて開口部1を配置することにより、通風経路の入口と出口とを設けることができる。また、開口部1同士の距離を確保することで、建物全体に風の流れを形成することができる。さらに、開口部1同士の高さを相互に異ならせることで、通風性をより一層高めることができる。
【0057】
すなわち、図9(a)に例示するように、玄関ホール91の1方向に玄関ドア92が設けられ、玄関ドア92の側部に近接して開口部1aが設けられている。これにより、玄関ホール91に採光及び通気が可能となる。また、この開口部1aに対して、対面する壁面に開口部1bが設けられている。これにより、開口部1aと開口部1bとが通風経路の入口と出口を形成し、玄関ホール91及び玄関ホール91に連続する空間に風の流れを形成することができる。
【0058】
ここで、開口部1bが玄関ホール91に隣接して配置された例えば階段室93に、開口部1aと高さを異ならせて配置されることで、図9(b)に示すように、高さ方向にも広く風の流れが形成され、通風性を向上させることができる。また、玄関ホール91の床面より高い位置に配設された開口部1bは、屋外からの光を入射させ、階段室93だけでなく、玄関ホール91まで届かせることができる。
【0059】
したがって、屋外からの光が差し込まず玄関ホールが暗くなってしまうという従来の問題点を解消することができ、明るく風通しの良好な空間を玄関ホール91及びこれに隣接する居室等を形成することが可能となる。
【0060】
(他の実施形態)
本発明に係る外壁の開口部構造は、上記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。例えば、開口部1の形状は、スリット形状に限定されるものではなく、どのような形状で構成されてもよい。開口部1はどのような形状とされても、障子3の開放形態を第1の開放位置とすることで、良好な通風性と高い防犯性とを兼ね備えることができる。そのため、上記の実施形態は例示であり、限定的なものではない。
【0061】
また、図10に示すように、開口部1は、障子3の屋内側に網戸61を設置することも可能である。障子3は、平行移動して枠部材2の屋外側で開閉され、屋内側へ突出することはない。したがって、枠部材2の戸当り22の屋内側に網戸61の走行レール62を設け、巻き上げ式のロール網戸等を好適に設置することができる。
【0062】
また、開口部1は、引戸との併用も可能である。例えば、図11に示すように、外壁材15に沿って屋外側に配設された片引き式の玄関ドア7と、開口部1とを近接させて並設することができる。これにより、玄関部分における採光を可能にし、玄関ドア7を閉めた状態であっても、通風性を確保することができる。しかも、開口部1の障子3を、第1の開放位置に固定することで、高い防犯性を確保した状態での通風が可能とされる。このとき、玄関ドア7の引き込み側に開口部1が設けられていても、障子3と外壁材15の屋外面とが略面一に揃っているので、玄関ドア7の開閉に障子3が干渉することはない。したがって、安全で円滑に玄関ドア7を開閉することができる。
【0063】
また、障子3に嵌め込むガラスの種類を、防犯複層ガラス、防犯ガラス、又は合わせガラスとすることで、開口部1における防犯性能をさらに高めることができる。また、半透明ガラス等を用いることにより、屋内側への視線を遮り、プライバシーを確保することもできる。さらに、障子3にガラスではなく、アルミパネル等の透視性を有しない不透明の板材を嵌め込んで形成することにより、プライバシーに配慮した換気用の開口部1を形成することができる。
【0064】
また、本発明に係る外壁の開口部構造においては、開口部1に内付けされる平行突き出し窓10を、図12に示すように、枠部材を兼ね備えた窓枠81を一体に備えた平行突き出し窓サッシ8として形成することも可能である。障子3の第1の開放位置は、窓枠81の屋外側見付面と略面一に揃うように構成される。窓枠81は、壁体11の開口部1に内付けされ、壁体11の屋外面と略面一に揃えて取り付けられる。
【0065】
これにより、窓枠81を多様な構造からなる壁体の開口部に設けることができ、どのような建物の開口部にも平行突き出し窓サッシ8を好適に配設することができる。また、障子3を開放したとき、壁体の屋外面と略面一に揃えて固定する構成が容易に得られ、開口部の見込部と障子3との間に通風のための隙間を良好に形成することができる。
【0066】
また、本発明に係る外壁の開口部構造として、開口部1を水平方向(横方向)に長く高さ方向に狭い横長のスリット形状としてもよい。かかる横長形状の開口部1を、天井に近い高さ位置で高窓として配設したり、床面に近い高さ位置で地窓として配設したりしてもよい。開口部1をかかる形状とした場合にも、高い防犯性が確保され、外部からの視線を遮ることからプライバシーも確保される。開口部1を高窓とした場合には、さらに防犯性が高められて好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、出入りの用に供しない建物の開口部に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 開口部
10 平行突き出し窓
11 壁体
12 床面
15 外壁材
151 開口
16 軸組構成部材
17 取付部材
18 内装材
19 額縁
2 枠部材
21 たて枠
22 戸当り
23 気密材
24 鍔受け部
3 障子
31 上框
32 下框
33 たて框
331 支持片
35 鍔部
37 障子側ブラケット
371 長孔
4 リンク機構
41 リンク部材
41A 第1リンク
41B 第2リンク
5 開閉ハンドル
51 アーム
52 ハンドル部
53 支持部
54 ピン
55 ガイド溝
55A 段部
55B 段部
7 玄関ドア
8 平行突き出し窓サッシ
81 窓枠
91 玄関ホール
93 階段室
S1 隙間
S2 隙間
W 開口幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12