(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772808
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/12 20060101AFI20150813BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20150813BHJP
H01G 2/24 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
H01G4/12 358
H01G4/12 349
H01G4/30 301E
H01G1/04
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-281227(P2012-281227)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-127504(P2014-127504A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2014年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 全啓
(74)【代理人】
【識別番号】100167966
【弁理士】
【氏名又は名称】扇谷 一
(72)【発明者】
【氏名】粟田 浩季
(72)【発明者】
【氏名】宇野 翠
(72)【発明者】
【氏名】末藤 貴俊
【審査官】
田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−136308(JP,A)
【文献】
特開2011−014940(JP,A)
【文献】
特開平04−288809(JP,A)
【文献】
特開昭59−094806(JP,A)
【文献】
特開平06−215978(JP,A)
【文献】
特開2007−242995(JP,A)
【文献】
特開2009−200168(JP,A)
【文献】
特開平06−204075(JP,A)
【文献】
特開2012−004330(JP,A)
【文献】
特開2000−003806(JP,A)
【文献】
特開平06−132182(JP,A)
【文献】
実開昭59−065523(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/12
H01G 2/24
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極が形成された複数のセラミック誘電体層を積層した内層部と、
内部電極が形成されていない複数のセラミック誘電体層を前記内層部の外側に積層した外層部とを備えた積層体、および
前記積層体の両端部に形成される外部電極を含む積層セラミック電子部品であって、
前記両外側の外層部のうち一方の外層部のみにおいて、露出している前記セラミック誘電体層を含む外側セラミック誘電体層の色と前記外側セラミック誘電体層と前記内層部の間の内側セラミック誘電体層の色とが異なり、色が異なる前記外側セラミック誘電体層を含む前記一方の外層部の厚みが、他方の外層部の厚みより厚く、
前記外側セラミック誘電体層は、Ca、Zrを含むペロブスカイト型化合物からなり、前記内側セラミック誘電体層がBa、Tiを含むペロブスカイト型化合物からなることを特徴とする、積層セラミック電子部品。
【請求項2】
内部電極が形成された複数のセラミック誘電体層を積層した内層部と、
内部電極が形成されていない複数のセラミック誘電体層を前記内層部の外側に積層した外層部とを備えた積層体、および
前記積層体の両端部に形成される外部電極を含む積層セラミック電子部品であって、
前記両外側の外層部のうち一方の外層部のみにおいて、露出している前記セラミック誘電体層を含む外側セラミック誘電体層の色と前記外側セラミック誘電体層と前記内層部の間の内側セラミック誘電体層の色とが異なり、色が異なる前記外側セラミック誘電体層を含む前記一方の外層部の厚みが、他方の外層部の厚みより厚く、
前記外側セラミック誘電体層を溶解処理して溶液とした場合、前記溶液がCa、Zrを含むペロブスカイト型化合物からなり、前記内側セラミック誘電体層を溶解処理して溶液とした場合、前記溶液がBa、Tiを含むペロブスカイト型化合物からなることを特徴とする、積層セラミック電子部品。
【請求項3】
内部電極が形成された複数のセラミック誘電体層を積層した内層部と、
内部電極が形成されていない複数のセラミック誘電体層を前記内層部の両外側に積層した外層部とを備えた積層体、および
前記積層体の両端部に形成される外部電極を含む積層セラミック電子部品であって、
前記両外側の外層部のうち一方の外層部のみにおいて、露出している前記セラミック誘電体層を含む外側セラミック誘電体層の色と前記外側セラミック誘電体層と前記内層部との間の内側の内側セラミック誘電体層の色とが異なり、色が異なる前記外側セラミック誘電体層を含む前記一方の外層部の厚みが、他方の外層部の厚みより厚く、
前記外側セラミック誘電体層と前記内側セラミック誘電体層との間にガラス層が形成されていることを特徴とする、積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記積層体の端面において前記ガラス層が前記外部電極に接続されたことを特徴とする、請求項3に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記ガラス層の厚みは、0.3μm以上であることを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記ガラス層の外側の前記外側セラミック誘電体層は、前記ガラス層の内側の前記内側セラミック誘電体層よりポアが多いことを特徴とする、請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
前記ガラス層の外側の前記外側セラミック誘電体層の合計厚みは、1.0〜80μmであることを特徴とする、請求項3ないし請求項6のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項8】
前記外側セラミック誘電体層は白色であることを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項9】
前記外側セラミック誘電体層は黒色であることを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項10】
前記外層部の最外層の前記セラミック誘電体層上にマークが形成されたことを特徴とする、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層セラミック電子部品に関し、特にたとえば、積層セラミックコンデンサなどの複数のセラミック誘電体層が積層された積層体を有する積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品は、複数のセラミック誘電体層と複数の内部電極とが交互に積層された積層体と、積層体の両端部に形成された外部電極とで構成される。この積層セラミック電子部品を回路基板上に実装する際に、積層セラミック電子部品の実装される向きによって、回路基板の実装面と内部電極の面方向とが平行に配置されたり、回路基板の実装面と内部電極の面方向とが直交するように配置されたりすることがある。積層セラミック電子部品の一つである積層セラミックコンデンサの場合、このような回路基板の実装面と内部電極との位置関係により、積層セラミック電子部品に発生する浮遊容量の値が変動し、積層セラミック電子部品の特性に影響を与えてしまう場合がある。
【0003】
したがって、積層セラミック電子部品を回路基板の実装面上に実装する際に、回路基板の実装面と内部電極の面方向との位置関係が同じであれば、積層セラミック電子部品の特性ばらつきを小さくすることができる。ところが、積層セラミック電子部品の断面が正方形である場合、外観から内部電極の面方向を見分けることは困難である。そこで、積層セラミック電子部品の製造時に、積層体の積層方向がわかるマークを積層セラミック電子部品の外面に形成しておけば、積層セラミック電子部品の内部電極の面方向を把握することができ、回路基板の実装面と内部電極の面方向との位置関係を一定に保った状態で、積層セラミック電子部品を回路基板に実装することができる。
【0004】
積層セラミック電子部品の製造時にマークを形成する場合、例えば、焼成前の誘電体の表面上に、磁器ペーストで表示マークを形成し、誘電体と表示マークとを同時に一体焼結することによって、表示マークを有する誘電体を得ることができる。ここで、表示マークを一体焼結させているため、従来の表示マークと違って、消えたり不鮮明になったりすることがない(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−72313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、長さ1.0mm×幅0.6mm×厚み0.6mmといった小型の積層セラミック電子部品に対し、個々に表示マークを形成するには、印刷、乾燥などの余分な工程が必用になるだけでなく、印刷での位置ズレなどが発生し、極めて製造することが煩雑となる。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、製造が簡単で、確実に積層セラミック電子部品の内部電極の面方向を識別することができる積層セラミック電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、内部電極が形成された複数のセラミック誘電体層を積層した内層部と、内部電極が形成されていない複数のセラミック誘電体層を前記内層部の外側に積層した外層部とを備えた積層体、および積層体の両端部に形成される外部電極を含む積層セラミック電子部品であって、
両外側の外層部のうち一方の外層部のみにおいて、露出しているセラミック誘電体層を含む外側セラミック誘電体層の色と外側セラミック誘電体層と内層部の間の内側セラミック誘電体層の色とが異なり、色が異なる外側セラミック誘電体層を含む一方の外層部の厚みが、他方の外層部の厚みより厚く、外側セラミック誘電体層は、Ca、Zrを含むペロブスカイト型化合物からなり、内側セラミック誘電体層がBa、Tiを含むペロブスカイト型化合物からなることを特徴とする、積層セラミック電子部品である。
【0009】
また、この発明は、内部電極が形成された複数のセラミック誘電体層を積層した内層部と、内部電極が形成されていない複数のセラミック誘電体層を前記内層部の外側に積層した外層部とを備えた積層体、および積層体の両端部に形成される外部電極を含む積層セラミック電子部品であって、両外側の外層部のうち一方の外層部のみにおいて、露出しているセラミック誘電体層を含む外側セラミック誘電体層の色と外側セラミック誘電体層と内層部の間の内側セラミック誘電体層の色とが異なり、色が異なる外側セラミック誘電体層を含む一方の外層部の厚みが、他方の外層部の厚みより厚く、外側セラミック誘電体層を溶解処理して溶液とした場合、溶液がCa、Zrを含むペロブスカイト型化合物からなり、内側セラミック誘電体層を溶解処理して溶液とした場合、溶液がBa、Tiを含むペロブスカイト型化合物からなることを特徴とする、積層セラミック電子部品である。なお、本発明において、「外側セラミック誘電体層を溶解処理して溶液とした場合」および「内側セラミック誘電体層を溶解処理して溶液とした場合」とは、積層体を酸により溶解して溶液とした場合や、積層体をアルカリ融解した後、酸などに溶かして溶液とした場合などを意味する概念であり、溶解処理して溶液とする方法に特別な制約はない。
【0010】
また、この発明は、
内部電極が形成された複数のセラミック誘電体層を積層した内層部と、内部電極が形成されていない複数のセラミック誘電体層を内層部の両外側に積層した外層部とを備えた積層体、および積層体の両端部に形成される外部電極を含む積層セラミック電子部品であって、両外側の外層部のうち一方の外層部のみにおいて、露出しているセラミック誘電体層を含む外側セラミック誘電体層の色と外側セラミック誘電体層と内層部との間の内側の内側セラミック誘電体層の色とが異なり、色が異なる外側セラミック誘電体層を含む一方の外層部の厚みが、他方の外層部の厚みより厚く、外側セラミック誘電体層と内側セラミック誘電体層との間にガラス層が形成されていることを特徴とする、積層セラミック電子部品である。
色が異なることで確実に内部電極の面方向がわかることに加えて、さらに、色が異なる外側セラミック誘電体層の組成が内側セラミック誘電体層へ与える積層体への影響を調整することができる。
また、大気中の水分が積層体内に侵入することで信頼性が低下する恐れがある。それに対し、外側セラミック誘電体層と内側セラミック誘電体層との間にガラス層が形成されているため、内側セラミック誘電体層へ水分が侵入することを防止でき、信頼性の高い積層セラミック電子部品を得ることができる。
【0011】
また、積層体の端面においてガラス層が外部電極に接続されていることが好ましい。ガラス層が外部電極に接続された構成とすることにより、内側セラミック誘電体層の全面がガラス層で被覆されることになり、内側セラミック誘電体層への大気中の水分による侵入防止などに大きい効果を得ることができる。
【0012】
さらに、ガラス層の厚みは、0.3μm以上であることが好ましい。ガラス層の厚みを0.3μm以上とすることにより、水分の侵入を防止でき、積層セラミック電子部品の信頼性向上の効果が顕著に現われる。
【0013】
また、ガラス層の外側の外側セラミック誘電体層は、ガラス層の内側の内側セラミック誘電体層よりポアが多いことが好ましい。
外側セラミック誘電体層の中のガラス成分を多くすることにより、焼成後の外側セラミック誘電体層に多数のポアを発生させることができる。したがって、焼成して得られた積層体に外部電極用の電極ペーストを塗布することにより、外側セラミック誘電体層のポアに電極ペーストが入り込む。そのため、電極ペーストを焼き付けて外部電極を形成したとき、アンカー効果により、外部電極が強固に積層体に固着する。
【0014】
また、ガラス層の外側の外側セラミック誘電体層の合計厚みは、1.0〜80μmであることが好ましい。外側セラミック誘電体層は内側セラミック誘電体層と異なる色を有するが、セラミック誘電体層は薄いため、外側セラミック誘電体層の数が少ないと、内側セラミック誘電体層の色が透けて見える場合がある。そこで、外側セラミック誘電体層の数を多くすることにより、内側セラミック誘電体層と外側セラミック誘電体層の間の色の違いを鮮明にすることができる。外側セラミック誘電体層の合計厚みを1.0〜80μmにすることにより、積層セラミック電子部品の内部電極の面方向を示す外側セラミック誘電体層の色の違いが鮮明になる。
【0015】
ガラス層の外側の外側セラミック誘電体層は白色
または黒色にすることができる。また、ガラス層の外側の外側セラミック誘電体層の色は、判別できれば何色でもよい。
さらに、外層部の最外層のセラミック誘電体層上にマークが形成されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、積層セラミック電子部品の積層体について、積層体の側面の色の違いによって、内部電極の面方向を確実に把握することができる。したがって、積層セラミック電子部品を回路基板などに実装する際に、回路基板の実装面と積層体中の内部電極の面方向との位置関係を考慮して、積層セラミック電子部品を回路基板に実装することができる。
【0017】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサを示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す積層セラミックコンデンサの内部構造を示す断面図解図である。
【
図3】
図1に示す積層セラミックコンデンサの内部構造の他の例を示す断面図解図である。
【
図4】
図1および
図2に示す積層セラミックコンデンサを製造するための一工程を示す図解図である。
【
図5】
図4に示す工程を経て得られる積層体に外部電極を形成する工程を示す図解図である。
【
図6】
図1に示す積層セラミックコンデンサを回路基板に実装した状態を示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、この発明の積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサを示す斜視図である。
図1に示す積層セラミックコンデンサ10の長さ方向、幅方向、高さ方向のサイズとしては、表1に示すように種々のサイズのものがあるが、この発明はどのようなサイズの積層セラミック電子部品にも適用可能である。
【0021】
積層セラミックコンデンサ10は、たとえば直方体状の積層体12を含む。積層体12は、セラミック誘電体層と内部電極とを交互に積層したものであり、その幅方向と高さ方向とを含む断面形状は、正方形状であっても長方形状であってもよい。積層体12を構成するセラミック誘電体層の厚みは0.5〜5μm程度であり、その総積層枚数は300〜600枚である。
【0022】
積層体12は、
図2に示すように、内層部14と外層部16とを含む。内層部14は、複数のセラミック誘電体層18と内部電極20とが交互に積層された構成を有する。隣接する内部電極20は、セラミック誘電体層18を挟んで互いに対向するように形成される。そして、複数の内部電極20は、積層体12の対向する2つの端面に交互に引き出される。つまり、隣接する内部電極20は、それぞれ積層体12の異なる端面に引き出される。内部電極20は、例えばNiもしくはCuなどで形成され、200枚〜500枚積層されている。
【0023】
外層部16は、内部電極が形成されていない複数のセラミック誘電体層22から構成されており、内層部14の両側を挟むように配置される。外層部16の中間部には、ガラス層24が形成される。つまり、ガラス層24の外側にセラミック誘電体層22aが配置され、ガラス層24の内側にセラミック誘電体層22bが配置されている。セラミック誘電体層22a、22bは、それぞれ1枚のセラミック誘電体層であってもよいし、複数枚のセラミック誘電体層であってもよい。
【0024】
外側セラミック誘電体層26は、内側セラミック誘電体層28と異なる色に形成され、好ましくは、白色または黒色に形成される。ここで、外側セラミック誘電体層26は、外層部16のうちのガラス層24の外側に配置されたセラミック誘電体層22aに一致する。また、内側セラミック誘電体層28は、内層部14のセラミック誘電体層18および外層部16のうちのガラス層24の内側に配置された内側セラミック誘電体層22bを含む。なお、ガラス層24は、内層部14と外層部16との間に形成されてもよい。この場合、外層部16を構成する全てのセラミック誘電体層22が外側セラミック誘電体層26となり、内層部14を構成する全てのセラミック誘電体層18が内側セラミック誘電体層28となる。たとえば、外層部の厚みを40μm、内層部の厚みを420μm、外側セラミック誘電体層の厚みを10μm、内側セラミック誘電体層の厚みを480μmとすることができる。
【0025】
また、
図3に示すように、内層部14の両側を挟むそれぞれの外層部16の厚みは異なっていてもよい。焼成時にセラミック誘電体層22aの組成が内層部14へ遷移する場合があるが、外層部16の厚みを異ならせることで遷移する組成の影響を調整することができる。外層部16のうち外側セラミック誘電体層26の色と内側セラミック誘電体層28の色とを異ならせるため、セラミック誘電体層の組成をそれぞれ異ならせているが、外側セラミック誘電体層26の組成が内層部14へ遷移しないよう、外側セラミック誘電体層26と内層部14の間のセラミック誘電体層の厚みを厚くしてもよい。この場合、ガラス層24を設けなくてもよい。ここで、外層部16のそれぞれの厚みが異なるように、一方側の厚みが20μm〜50μmとし、他方側の厚みが180μm〜250μmとしてもよい。色が異なる外側セラミック誘電体層26は、一方側の外層部にあってもよいし、他方側の外層部にあってもよく、もちろん両方側の外層部にあってもよい。なお、色が異なる外側セラミック誘電体層26が、厚み180μm〜250μmである他方の外層部にある場合、外側セラミック誘電体層26と内層部14の間のセラミック誘電体層の厚みは、100μm〜150μmの範囲で任意に選ばれる。外側セラミック誘電体層26と内層部14の間のセラミック誘電体層の厚みが100μm以上であるため、外側セラミック誘電体層26の組成が、内層部14へ遷移して、信頼性が低下することを防止できる。または、大気中の水分が内層部14へ侵入することを防止できる。外側セラミック誘電体層26と内層部14の間のセラミック誘電体層の厚みが150μm以上の場合は、外層部16の厚みが厚くなりすぎて、結果として積層体全体の厚みが大きくなり、積層セラミック電子部品の小型化が阻害される。例えば、一方側の外側セラミック誘電体層の厚みを30μm、一方側の外側セラミック誘電体層と内側セラミック誘電体層28との間の厚みを0μm、他方側の外側セラミック誘電体層の厚みを70μm、他方側の外側セラミック誘電体層と内側セラミック誘電体層との間の厚みを120μm、内層部の厚みを600μmとし、他方側の外側セラミック誘電体層26の色が内側セラミック誘電体層28および一方側の外側セラミック誘電体層26の色と異なっている。
【0026】
外側セラミック誘電体層26は、内側セラミック誘電体層28と異なる色に形成され、例えば白色または黒色に形成される。それにより、積層方向の端部にある積層体12の側面(
図1の幅方向と長さ方向とを含む側面)と、内側セラミック誘電体層28の端部が露出する側面(
図1の高さ方向と長さ方向とを含む側面)とを区別することができる。つまり、外側誘電体層26の色によって、積層方向の両端にある積層体12の側面であることを識別することができる。ここで、1枚のセラミック誘電体層22aで外側セラミック誘電体層26が形成されてもよいが、セラミック誘電体層22aは薄いため、下地の色が透けて見えるということが考えられる。そこで、複数枚のセラミック誘電体層22aで外側セラミック誘電体層26を構成し、その合計厚みを1.0〜80μmとすることにより、外側セラミック誘電体層26の色の視認性を高めることができる。
【0027】
外側セラミック誘電体層26を構成するセラミック誘電体層22aの組成としては、Ca、Zrを含むペロブスカイト型化合物と、Si、Mnを添加物素材として含んでいてもよい。ここで、Caの含有量を1モル部としたとき、Siの含有量a(モル部)が、0.5≦a≦3.0、Mnの含有量b(モル部)が、0.1≦b≦4.0の関係を満たすように調整される。また、外側セラミック誘電体層26を構成するセラミック誘電体層22aの組成としては、Ba、Tiを含むペロブスカイト型化合物と、Siを添加物素材として含んでいてもよい。ここで、Baの含有量を1モル部としたとき、Siの含有量a(モル部)が、0.5≦a≦3.0であり、色を調整するために、添加物素材としてMn、Mgなどの添加物素材を含まないか、もしくは微量に添加する。たとえば、添加物素材の量を増やすことで黒色にすることができ、たとえば、添加物素材の量を減らすことで白色にすることができる。このような組成を有する外側セラミック誘電体層26を粉末状にし、酸によって溶解して、ICP発光分光分析を行った場合、上述のような組成を有していることを確認することができる。
【0028】
また、内側セラミック誘電体層28を構成するセラミック誘電体層18、22bの組成としては、Ti、Baを含むペロブトカイト型化合物と、Mn、Si、Mgを添加物素材として含む。ここで、Baの含有量を1モル部としたとき、Mn含有量c(モル部)が、0.1≦c≦0.5、Siの含有量d(モル部)が、0.5≦d≦3.0、Mgの含有量e(モル部)が、0.2≦e≦1.5の関係を満たすように調整される。このような組成を有する内側セラミック誘電体層28を粉末状にし、酸によって溶解して、ICP発光分光分析を行った場合、上述のような組成を有していることを確認することができる。
【0029】
このように、外側セラミック誘電体層26と内側セラミック誘電体層28との組成が違う場合、ガラス層の外側セラミック誘電体層26とガラス層の内側セラミック誘電体層28との間で焼成時における収縮率に差が生じる。そのため、ガラス層24の外側セラミック誘電体層26とガラス層24の内側セラミック誘電体層28との間でクラックなどが生じる可能性があり、このクラックから大気中の水分が侵入すると、絶縁抵抗値の低下が発生し、積層セラミックコンデンサ10の信頼性が低下する。しかしながら、ガラス層24があることにより、クラックの発生が抑えられ、クラックが発生したとしても、大気中の水分の侵入を防止することができる。そのため、積層セラミックコンデンサ10の絶縁抵抗値の低下を防止することができ、信頼性の高い積層セラミックコンデンサ10を得ることができる。
【0030】
このような効果を得るためには、ガラス層24の内側セラミック誘電体層28の全面が被覆されるようにガラス層24が形成されていることが好ましい。したがって、ガラス層24は、積層体12の両端部に形成される後述の外部電極に接続されるように形成される。
【0031】
ガラス層24の厚みは、0.3μm以上で、3.0μm未満であることが好ましい。ガラス層24の厚みは、積層体12を幅方向および高さ方向を含む面から研磨することで測定することができる。ガラス層24の厚みが0.3μm未満であると、大気中の水分侵入に対する信頼性向上の効果を得ることができない。また、ガラス層24の厚みが3.0μm以上であると、Siなどの添加物がガラス層24を形成するために過剰に使われていることになり、セラミック誘電体層22bの機械的強度が低下する。この積層セラミックコンデンサ10では、焼成時に外側セラミック誘電体層26に含まれる成分と内側セラミック誘電体層28に含まれる成分とが反応し、外側セラミック誘電体層26と内側セラミック誘電体層28の間にガラス層24を析出させることができる。
【0032】
積層体12の長手方向の両端部には、外部電極30が形成される。外部電極30は、積層体12の端面から4つの側面に回り込むように形成される。外部電極30は、積層体12の端部を電極ペーストに浸漬し、焼結することによって下地金属層が形成される。この下地金属層上にNiめっきおよびSnめっきを施すことにより、外部電極30が形成される。なお、積層体12の側面に回り込んだ下地金属層の厚みは20μmであり、10〜20μmの範囲で適宜選択される。また、積層体12の端面における下地金属層の厚みは、20μmであり、10〜20μmの範囲で適宜選択される。Niめっき層の厚みは、1.5〜6.0μm、Snめっき層の厚みは、1.0〜8.0μmの範囲である。
【0033】
なお、積層体12の外側セラミック誘電体層26のガラス成分の量によって、外側セラミック誘電体層26に多数のポアを形成することができる。そこで、内側セラミック誘電体層28よりも外側セラミック誘電体層26にポアを多く形成しておくことにより、積層体12を電極ペーストに浸漬したときに、電極ペーストが外側セラミック誘電体層26のポアに入り込む。それにより、外部電極30と積層体12との間でアンカー効果を得ることができ、積層体12の端部に強固に固着した外部電極30を得ることができる。
【0034】
なお、ガラス層24の外側セラミック誘電体層26の外面に、例えば、インクジェットプリント、印字、インクの転写などにより、マークを形成してもよい。このように、マークを形成することにより、積層体12の積層方向の端面の視認性をさらに高めることができる。この場合、マークを形成するためのインクとして、内部電極20を形成するための導電ペーストを用いてもよい。
【0035】
上述した積層セラミックコンデンサ10は、以下に述べる積層セラミックコンデンサの製造方法によって作製される。この積層セラミックコンデンサ10を作製するために、まず、セラミック誘電体層を構成する素材として、純度99重量%以上のCaCO
3、ZrO
2の各粉末を準備し、別の色のセラミック誘電体層を構成する素材として、純度99重量%以上のBaCO
3、TiO
2の各粉末を準備した。これらの粉末を大気中で、1100〜1300℃で2時間仮焼し、Ca、Zrを含むペロブスカイト型化合物と、Ba、Tiを含むペロブスカイト型化合物を合成した。合成後、解砕することでセラミック誘電体層を構成する主要な成分である主成分粉末を得た。なお、この主成分粉末の製造方法に特別の制約はなく、固相法、水熱法、その他の公知の種々の方法を用いることが可能である。また、素材にも特に制約はなく、炭酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物など種々の形態のものを用いることが可能である。また、HfO
2などの不可避不純物を含有していてもよい。そして、この主成分粉末について、XRDにより(202)回折ピークの積分幅を測定した。なお、積分幅は、ピーク形状を表す曲線を囲む面積をピーク頂点の高さで割った値である。次に、添加物素材として、SiO
2、MnCO
3、Mg
2O
3の各粉末を準備した。これらの粉末をセラミック誘電体層の主成分粉末中のCa含有量1モル部に対するSiの含有量がaモル部(aは0.5〜3.0の範囲)、Mnの含有量がbモル部(bは0.1〜4.0の範囲)となるように、秤量した後、主成分粉末と調合することにより調合物を得た。それからこの調合物をボールミルにより湿式混合した後、乾燥、解砕して誘電体原料粉末を得た。また、同様にBa含有量1モル部に対するSiの含有量がcモル部(cは0.5〜5.0の範囲)、Mnの含有量がdモル部(dは0.1〜0.5の範囲)、Mgの含有量がeモル部(eは0.2〜1.5の範囲)となるように誘電体原料粉末を得た。つぎに、これらの誘電体材料で形成されたセラミックグリーンシート40が準備される。そして、
図4に示すように、セラミックグリーンシート40上に、導電ペーストで複数の矩形の内部電極パターン42が形成される。内部電極パターン42は、例えばスクリーン印刷やグラビア印刷などによって形成される。
【0036】
次に、内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシート40を複数枚積層して、外層部16に対応する部分が形成される。その上に、内部電極パターン42が形成されたセラミックグリーンシート40を複数枚積層して、内層部14に対応する部分が形成される。さらに、内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシート40を複数枚積層して、外層部16に対応する部分が形成される。これらのセラミックグリーンシート40を積層することにより、マザー積層体44が形成される。
【0037】
なお、焼成後に外側セラミック誘電体層26となるセラミックグリーンシート40と内側セラミック誘電体層28となるセラミックグリーンシート40とは、それぞれ上述のような色が異なるような誘電体材料が選択されて形成されたものである。例えば、外側セラミック誘電体層26には、Ca、Zrを主成分とするペロブスカイト型化合物の誘電体材料からなるセラミックグリーンシートを用い、内側セラミック誘電体層28には、Ba、Tiを主成分とするペロブスカイト型化合物の誘電体材料からなるセラミックグリーンシートを用いてもよい。
【0038】
マザー積層体44を形成後、平板状の金型を用いて、圧着し、圧着されたマザー積層体44が、個々の積層体12を得るためのグリーンチップにカットされる。マザー積層体44のカット方法は、ダイサーによるカットでもよいし、押し切り刃による押し切りであってもよい。
【0039】
次に、グリーンチップを焼成することにより、内部電極20を有する積層体12が得られる。なお、焼成の前後において、グリーンチップまたは積層体12の角部を丸めるために、バレル研磨を行ってもよい。グリーンチップの焼成温度は、1200〜1300℃程度である。グリーンチップを焼成することにより、積層体12の外側セラミック誘電体層26と内側セラミック誘電体層28との間にガラスが析出し、ガラス層24が形成される。
【0040】
さらに、
図5に示すように、積層体12の一方端部が保持具50で保持され、積層体12の他方端部が、ベース52上の電極ペースト層54に浸漬される。積層体12の端部に付着した電極ペーストを焼結させることにより、下地電極が形成される。この下地電極上に、NiめっきおよびSnめっきを施すことにより、外部電極30が形成される。
【0041】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサ10は、
図6に示すように、回路基板60に形成されたランド62に半田64で接続される。この場合、たとえば、半田ペーストを用いて、積層セラミックコンデンサ10の外部電極30がランド62に保持され、リフローによって外部電極30がランド62に半田付けされる。
【0042】
この積層セラミックコンデンサ10においては、積層方向の端部にある積層体12の側面が、特別な色によって識別可能に形成されている。したがって、回路基板の実装面と内部電極20の面方向とが平行になるように積層セラミックコンデンサ10を実装する場合には、色によって識別可能な積層方向の端部にある積層体12の側面が上面となるようにして、積層セラミックコンデンサ10を回路基板に実装すればよい。また、回路基板の実装面と内部電極20の面方向とが直交するように積層セラミックコンデンサ10を実装する場合には、色によって識別可能な積層方向の端部にある積層体12の側面が回路基板と直交するようにして、積層セラミックコンデンサ10を実装すればよい。
【0043】
回路基板の実装面と内部電極20の面方向とが平行になるように積層セラミックコンデンサ10を実装する場合、色によって識別される面が上もしくは下になるようにして、包装材(テープ)に積層セラミックコンデンサ10がテーピングされる。このとき、色によって識別される面に、インクジェットプリント、印字、インクの転写などによってマークを施しておけば、さらに視認性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明は、積層セラミックコンデンサだけでなく、回路基板と内部電極との位置関係により特性に影響を受ける積層セラミック電子部品に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 積層セラミックコンデンサ
12 積層体
14 内層部
16 外層部
18 セラミック誘電体層
20 内部電極
22 セラミック誘電体層
24 ガラス層
26 外側セラミック誘電体層
28 内側セラミック誘電体層
30 外部電極