特許第5772812号(P5772812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5772812スケジューリングシステム、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772812
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】スケジューリングシステム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 5/00 20060101AFI20150813BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   G08G5/00 A
   G08G1/00 D
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-505478(P2012-505478)
(86)(22)【出願日】2011年3月2日
(86)【国際出願番号】JP2011001212
(87)【国際公開番号】WO2011114635
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-61120(P2010-61120)
(32)【優先日】2010年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】祐成 光樹
【審査官】 岩田 玲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−208200(JP,A)
【文献】 特開平7−65300(JP,A)
【文献】 特開2008−110759(JP,A)
【文献】 特開平10−340399(JP,A)
【文献】 特開2007−4252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 5/00
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリングシステムであって、
移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成するリンク作成手段と、
前記移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータと、前記移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データとに基づいて、リンク毎に前記移動体が他の移動体と異常接近しないように、前記移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算するリンク調整幅計算手段と、
前記移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の前記移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する調整移動計画決定手段とを
含むことを特徴とするスケジューリングシステム。
【請求項2】
移動モデルデータを記憶する移動モデル記憶手段と、
移動条件データを記憶する移動条件記憶手段とを含み、
リンク調整幅計算手段は、前記移動モデル記憶手段が記憶する移動モデルデータと、前記移動条件記憶手段が記憶する移動条件データとに基づいて、リンク調整幅を計算する
請求項記載のスケジューリングシステム。
【請求項3】
リンク調整幅計算手段は、移動モデル記憶手段が記憶する各リンクの移動モデルデータに基づいて、所定の移動体が他の移動体と異常接近しないようにリンク調整幅をリンク毎に計算する
請求項記載のスケジューリングシステム。
【請求項4】
リンク調整幅計算手段は、移動条件記憶手段が記憶する各リンクの移動条件データに基づいて、計算したリンク調整幅を修正し、新たにリンク調整幅を決定する
請求項2または請求項記載のスケジューリングシステム。
【請求項5】
調整移動計画決定手段は、リンク調整幅計算手段が計算したリンク調整幅に基づいて、全リンク共通で移動体同士の異常接近を回避可能なリンク調整幅の積集合を計算し、計算したリンク調整幅の積集合に基づいて、移動体の調整移動計画データを決定する
請求項から請求項のうちのいずれか1項に記載のスケジューリングシステム。
【請求項6】
所定の移動体のリンクと他の移動体のリンクとの最短距離を計算し、計算した最短距離が所定の距離以下であるリンクのペアを特定するリンク選別手段を含み、
リンク調整幅計算手段は、前記リンク選別手段が特定したリンクのペアについてリンク調整幅を計算する
請求項から請求項のうちのいずれか1項に記載のスケジューリングシステム。
【請求項7】
リンク選別手段は、移動体の複数のリンクから成る移動経路を包含する移動体エリアを用いて、移動体エリア同士の重畳判定を行うことで、移動体同士が異常接近するか否かを判定し、判定結果に基づいて、最短距離が所定の距離以下であるリンクのペアを特定する
請求項記載のスケジューリングシステム。
【請求項8】
所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリング方法であって、
リンク作成手段が、移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成し、
リンク調整幅計算手段が、移動モデル記憶手段に記憶された前記移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータと、移動条件記憶手段に記憶された前記移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データとに基づいて、リンク毎に前記移動体が他の移動体と異常接近しないように、前記移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算し、
調整移動計画決定手段が、前記移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の前記移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する
ことを特徴とするスケジューリング方法。
【請求項9】
所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリングプログラムであって、
コンピュータに、
移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成するリンク作成処理と、
移動モデル記憶手段に記憶された前記移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータと、移動条件記憶手段に記憶された前記移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データとに基づいて、リンク毎に前記移動体が他の移動体と異常接近しないように、前記移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算するリンク調整幅計算処理と、
前記移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の前記移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する調整移動計画決定処理とを
実行させるためのスケジューリングプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の移動計画を決定するするスケジューリングシステム、スケジューリング方法およびスケジューリングプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、スケジューリングシステムは、『定められた位置(通過指定位置)』を『定められた予定時刻(通過予定時刻)』に通過する移動体(例えば、航空機や電車、バス等)に対して、移動体同士が異常接近しないように移動計画を決定するために用いられている。一般的なスケジューリングシステムの一例が非特許文献1に記載されている。
【0003】
非特許文献1に記載されたスケジューリングシステムは、航空機を移動体とした航空管制スケジューリングシステムであり、航空機同士の異常接近を誘発しない移動計画を決定することを目的とする。航空機の移動計画には、『通過指定位置(緯度・経度)』および『通過予定時刻』が、複数の通過指定位置に関して記載されている。つまり、航空機は、出発空港で取得する移動計画に従って通過指定位置を通過予定時刻に通過し、目的空港まで航行する。
【0004】
しかし、実際の航行では天候変動等の影響により、航空機が通過指定位置を通過予定時刻に通過できない場合がある。このような場合に、航空管制スケジューリングシステムは、出発空港で取得する移動計画を調整し、『異常接近を誘発しない新たな移動計画(以下、調整移動計画という)』を決定する。
【0005】
非特許文献1に記載された航空管制スケジューリングシステムについて説明する。非特許文献1に記載された航空管制スケジューリングシステムは、空域を航行する航空機1機(以下、注目移動体という)に着目し、空域を航行する注目移動体以外の航空機(以下、周辺移動体という)と異常接近しない調整移動計画を決定する。この調整移動計画とは、『注目移動体の移動計画(以下、注目移動計画という)』を調整した結果であり、『周辺移動体の移動計画(以下、周辺移動計画という)』については調整していない。
【0006】
まず、現在の注目移動計画および周辺移動計画に従って注目移動体および周辺移動体が航行した場合に、コンフリクトが発生するか否かをシミュレーションする。そして、注目移動体と異常接近する周辺移動体が1台(1機)でも存在する場合、注目移動計画に記載された任意の通過指定位置に関して通過予定時刻を調整(例えば、通過予定時刻を前倒し、または後ろ倒し)する。そして、調整した注目移動計画を用いて、注目移動体が周辺移動体と異常接近するか否かを再びシミュレーションする。
【0007】
その後、『注目移動計画の調整処理』および『異常接近のシミュレーション処理』を繰り返し実行して、調整移動計画を決定できた時点で繰り返し実行を終了する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】福田豊他2名、“航空管制の時間管理ツールの試作”、2008年07月18日、電子情報通信学会技術研究報告 宇宙・航行エレクトロニクス、108巻、169号、23〜28項
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に記載された方法の問題点は、調整移動計画を決定するまでに長時間を要することである。その理由は、注目移動体と周辺移動体とが異常接近しないように調整移動計画を決定するために、『注目移動体の任意の通過指定位置に関して通過予定時刻の調整(注目移動計画の逐次調整)処理』および『異常接近のシミュレーション処理』を繰り返し実行しなければならないからである。
【0010】
そこで、本発明は、調整移動計画を高速に決定することができるスケジューリングシステム、スケジューリング方法およびスケジューリングプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるスケジューリングシステムは、所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリングシステムであって、移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成するリンク作成手段と、移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータと、移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データとに基づいて、リンク毎に移動体が他の移動体と異常接近しないように、移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算するリンク調整幅計算手段と、移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する調整移動計画決定手段とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によるスケジューリング方法は、所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリング方法であって、リンク作成手段が、移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成し、リンク調整幅計算手段が、移動モデル記憶手段に記憶された移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータと、移動条件記憶手段に記憶された移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データとに基づいて、リンク毎に移動体が他の移動体と異常接近しないように、移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算し、調整移動計画決定手段が、移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定することを特徴とする。
【0013】
本発明によるスケジューリングプログラムは、所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリングプログラムであって、コンピュータに、移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成するリンク作成処理と、移動モデル記憶手段に記憶された移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータと、移動条件記憶手段に記憶された移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データとに基づいて、リンク毎に移動体が他の移動体と異常接近しないように、移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算するリンク調整幅計算処理と、移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する調整移動計画決定処理とを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、調整移動計画を高速に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明によるスケジューリングシステムの第1の実施形態の構成例を示すブロック図である。
図2】スケジューリングシステムが実行する動作例を示す流れ図である。
図3】注目移動計画の一例を示す説明図である。
図4】周辺移動計画の一例を示す説明図である。
図5】複数の通過指定位置を跨るリンクの一例を示す説明図である。
図6】調整飛行計画の一例を示す説明図である。
図7】リンク調整幅を計算するために利用するリンクボリュームの一例を示す説明図である。
図8】調整飛行計画の決定方法の一例を示す説明図である。
図9】スケジューリングシステムの第2の実施形態の構成例を示すブロック図である。
図10】スケジューリングシステムが実行する動作例を示す流れ図である。
図11】調整幅計算対象リンクペアの決定方法の一例を示す説明図である。
図12】調整幅計算対象リンクペアを決定するために利用する移動体エリアの一例を示す説明図である。
図13】長方形型の移動体エリアの一例を示す説明図である。
図14】平行四辺形型の移動体エリアの一例を示す説明図である。
図15】スケジューリングシステムの最小の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態1.
次に、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明によるスケジューリングシステムの第1の実施形態の構成例を示すブロック図である。図1を参照すると、スケジューリングシステムは、注目移動計画入力装置1、周辺移動計画入力装置2、データ処理装置3、記憶装置4および調整移動計画出力装置5を含む。
【0017】
注目移動計画入力装置1、周辺移動計画入力装置2、データ処理装置3および調整移動計画出力装置5は、具体的には、プログラムに従って動作するコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータやワークステーション)等の情報処理装置によって実現され、データ処理機能やデータ通信機能等を備えている。
【0018】
記憶装置4は、具体的には、光ディスク装置や磁気ディスク装置等によって実現され、データベース等を記憶するデータ記憶機能を備えている。
【0019】
注目移動計画入力装置1は、『移動計画の調整対象である注目移動体』の移動計画を示す移動計画データを入力する機能を備えている。
【0020】
周辺移動計画入力装置2は、『注目移動体を除く全ての周辺移動体』の移動計画を示す移動計画データを入力する機能を備えている。
【0021】
記憶装置4は、移動モデル記憶部41と、移動条件記憶部42とを備えている。
【0022】
移動モデル記憶部41は、移動体がリンクを移動する際の移動モデルを示す移動モデルデータを予め記憶している。移動モデルの例としては、等速度移動や等加速度運動等がある。移動モデルデータは、例えば、管理者によって予め移動モデル記憶部41に登録される。なお、本実施形態では、移動計画における2点の通過指定位置を結ぶ線分をリンクという。
【0023】
移動条件記憶部42は、移動体がリンクを移動する際の制約等の移動条件を示す移動条件データを予め記憶している。移動条件の例としては、リンク旅行時間(例えば、移動体が所定のリンク上を移動する時間)を指定時間以下にする制約等がある。移動条件データは、例えば、管理者によって予め移動条件記憶部42に登録される。
【0024】
データ処理装置3は、リンク作成手段31と、リンク調整幅計算手段32と、調整移動計画決定手段33とを備えている。
【0025】
リンク作成手段31は、具体的には、プログラムに従って動作する情報処理装置のCPUによって実現される。リンク作成手段31は、注目移動計画入力装置1および周辺移動計画入力装置2が入力する移動計画データに基づいて、移動体の異なる2箇所の通過指定位置を結ぶ線分であるリンクを作成する機能を備えている。リンク作成手段31は、移動計画データに基づいて、出発地から目的地まで、所定個の通過指定位置を特定する機能を備えている。
【0026】
リンク調整幅計算手段32は、具体的には、プログラムに従って動作する情報処理装置のCPUによって実現される。リンク調整幅計算手段32は、移動モデル記憶部41が記憶する移動モデルデータに基づいて、注目移動体と周辺移動体とが異常接近しないように『注目移動体の通過予定時刻の調整“幅”(以下、リンク調整幅という)』をリンク毎に計算する機能を備えている。さらに、リンク調整幅計算手段32は、移動条件記憶部42を参照して、リンクに対して移動条件が設定されている場合、移動条件を満足するようにリンク調整幅を修正する機能を備えている。なお、本実施形態では、リンク調整幅計算手段32は、移動体間の直線距離が所定の距離(例えば、安全距離R)以下となると、異常接近した状態となると判定する。
【0027】
調整移動計画決定手段33は、具体的には、プログラムに従って動作する情報処理装置のCPUによって実現される。調整移動計画決定手段33は、リンク調整幅計算手段32が計算した注目移動体の各リンクに対応するリンク調整幅を参照し、全リンク共通で異常接近を回避可能なリンク調整幅の積集合を計算し、調整移動計画を決定する機能を備えている。
【0028】
次に、図1および図2を参照して、スケジューリングシステムの動作について説明する。図2は、ケジューリングシステムが実行する動作例を示す流れ図である。
【0029】
移動計画の調整を行うために、管理者が注目移動計画入力装置1を用いて、注目移動計画の入力操作を行うと、注目移動計画入力装置1は、管理者の操作に従って、注目移動計画を示す注目移動体の移動計画データをリンク作成手段31に入力する。また、管理者が周辺移動計画入力装置2を用いて、周辺移動計画の入力操作を行うと、周辺移動計画入力装置2は、管理者の操作に従って、周辺移動計画を示す周辺移動体の移動計画データをリンク作成手段31に入力する。
【0030】
次いで、リンク作成手段31は、入力された全ての移動計画データから、移動体の異なる2箇所の通過指定位置を結ぶ線分であるリンクを作成する(図2のステップA1)。そして、リンク作成手段31は、作成したリンクをリンク調整幅計算手段32に出力する。
【0031】
次いで、リンク調整幅計算手段32は、移動モデル記憶部41が記憶する各リンクの移動モデルデータに基づいて、注目移動体と周辺移動体とが異常接近しないように『注目移動体の通過予定時刻の調整“幅”(リンク調整幅)』をリンク毎に計算する。その後、リンク調整幅計算手段32は、移動条件記憶部42が記憶する各リンクの移動条件データに基づいて、リンク調整幅を修正する(図2のステップA2)。
【0032】
次いで、リンク調整幅計算手段32は、全てのリンクに対するリンク調整幅の計算が完了したか否かを判断する(図2のステップA3)。そして、完了していないと判断した場合には、リンク調整幅計算手段32は、処理をステップA2に移行し、その後の処理を繰り返す。また、完了したと判断した場合には、リンク調整幅計算手段32は、計算したリンク調整幅を調整移動計画決定手段33に出力し、処理をステップA4に移行する。
【0033】
調整移動計画決定手段33は、リンク調整幅計算手段32が出力した注目移動体のリンク毎のリンク調整幅に基づき、全リンク共通で異常接近を回避可能なリンク調整幅の積集合を計算し、調整移動計画を決定する(図2のステップA4)。具体的には、調整移動計画決定手段33は、計算したリンク調整幅の積集合に基づいて、調整移動計画を示す移動計画データを生成し、調整移動計画出力装置5に出力する。
【0034】
次に、第1の実施形態のスケジューリングシステムの動作について、具体例を用いて説明する。
【0035】
本実施形態におけるスケジューリングシステムの物理構成について説明する。本実施形態におけるスケジューリングシステムは、注目移動計画入力装置1、周辺移動計画入力装置2、データ処理装置3、記憶装置4および調整移動計画出力装置5を含む。
【0036】
注目移動計画入力装置1、周辺移動計画入力装置2、データ処理装置3および調整移動計画出力装置5は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)等によって実現されるデータ処理部、イーサネット(登録商標)や無線LAN、専用通信ネットワーク等に対応したデータ通信部、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等のデータ記憶部等を備えるコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータやワークステーション)等の情報処理装置により実現される。記憶装置4は、具体的には、光ディスク装置や磁気ディスク装置等によって実現され、データベース等を記憶する。
【0037】
移動計画の具体例として、注目移動体(A)の注目移動計画を図3に示す。図3は、注目移動計画の一例を示す説明図である。
【0038】
図3に示す例において、注目移動体は、現在時刻tA0において現在位置(xA0,yA0)に位置する。そして、注目移動体は、通過予定時刻tA1、tA2、tA3に、それぞれ通過指定位置(xA1,yA1)、(xA2,yA2)、(xA3,yA3)を通過するように移動する。例えば、移動体として航空機を想定した場合、通過指定位置のx、yは、それぞれ経度、緯度に該当する。また、移動体としてバスを想定した場合、通過指定位置は、例えば、停留所や交差点等に該当する。
【0039】
さらに移動計画の具体例として、周辺移動体(B)の周辺移動計画を図4に示す。図4は、周辺移動計画の一例を示す説明図である。
【0040】
図4に示す周辺移動計画の例において、注目移動計画との違いは、通過指定位置の数が異なる点だけである。以降、本実施形態では、周辺移動体が1台だけ存在すると仮定して説明するが、周辺移動体が複数存在してもよい。また、本実施形態では、図3、4に示すような移動計画に従って移動体が移動して、任意時刻における注目移動体と周辺移動体との直線距離が安全距離Rを下回った場合に異常接近と判断する。
【0041】
次に、移動計画からリンクを作成する方法について説明する。具体的には、図1に示すリンク作成手段31が作成する。
【0042】
リンク作成手段31は、最も単純なリンク作成方法として、例えば、図3、4に示すように隣接する現在位置または通過指定位置を結ぶ線分をリンクとして生成する。しかし、このリンク作成方法の場合、通過指定位置数の増大に応じて、リンク数も増大する。この結果、リンク調整幅計算手段32が全リンクに対してリンク調整幅を計算するため、その処理時間が長くなることになる。
【0043】
このため、例えば、図5に示すように、複数の通過指定位置を結ぶ近似直線に対して各通過指定位置が近傍に存在する場合には、リンク作成手段31は、複数の通過指定位置を跨るようにしてリンクを作成してもよい。図5は、複数の通過指定位置を跨るリンクの一例を示す説明図である。これ以降では隣接する現在位置または通過指定位置を結ぶ線分をリンクに用いて説明する。
【0044】
次に、リンク調整幅を計算する方法について説明する。具体的には、図1に示すリンク調整幅計算手段32がリンク調整幅を計算する処理を実行する。
【0045】
注目移動体の調整移動計画に関して、最終通過指定位置(図3では通過指定位置3が該当する)の通過予定時刻tA3を、tA3+Δtに変更したと想定する。また、例えば、移動モデル記憶部41が記憶するリンクA01、A12、A23の移動モデルが等速度移動であった場合を想定する。この場合、リンク調整幅計算手段31は、図6に示すように、通過指定位置k=1、2の通過予定時刻tAkを、リンク距離LA(k−1)(k)を用いて計算する。
【0046】
なお、現在位置については、現在時刻の修正ができないため、tA0のままとする。以降、移動体のリンクでの移動モデルを等速度移動と仮定して説明するが、これに限らず、例えば、移動モデルが等加速度移動であってもよい。リンク調整幅計算手段31は、移動モデルが等速度移動以外であっても、上記の例と同様に通過指定位置k=1、2の通過予定時刻tAkを、Δtを用いて計算できる。
【0047】
ここで、注目移動体のリンクA12に着目すると、リンク調整幅計算手段31は、注目移動体がリンクA12を等速度移動する際の任意時刻tにおける位置xA(t)、yA(t)を、それぞれ式(1)、(2)を用いて求めることができる。
【0048】
【数1】
【0049】
同様に周辺移動体のリンクB12に着目すると、リンク調整幅計算手段31は、周辺移動体がリンクB12を等速度移動する際の任意時刻tにおける位置xB(t)、yB(t)を、それぞれ式(3)、(4)を用いて求めることができる。
【0050】
【数2】
【0051】
なお、周辺飛行計画については通過予定時刻の変更をしないので、周辺移動体の任意時刻tにおける位置xB(t)、yB(t)にΔtを含まない。
【0052】
また、リンク調整幅計算手段31は、任意時刻tにおける注目移動体と周辺移動体との距離Lを、位置xA(t)、yA(t)および位置xB(t)、yB(t)から、式(5)を用いて求めることができる。
【0053】
【数3】
【0054】
注目移動体と周辺移動体とが異常接近しないためには、任意時刻において『距離L>安全距離R』を満たすΔtを計算すればよい。よって、リンクB12を移動する周辺移動体に異常接近しないための『注目移動体のリンクA12のリンク調整幅ΔtA12B12』は、式(6)によって表される。
【0055】
【数4】
【0056】
式(6)におけるΔtA12B12Lは、調整幅ΔtA12B12の下限値を示す。また、式(6)におけるΔtA12B12Uは、調整幅ΔtA12B12の上限値を示す。
【0057】
リンク調整幅計算手段32は、注目移動体の全リンクに関して、周辺移動体の全リンクに対するリンク調整幅を計算する。図3、4の移動計画の場合、注目移動体のリンク数が3であり、周辺移動体のリンク数が2であるので、リンクペア数は6(=3×2)となる。よって、リンク調整幅計算手段32は、リンク調整幅の計算を合計6回実行する。式(6)は、一般にΔtに関する高次不等式となる。そのため、リンク調整幅計算手段32は、例えば、公知である代数解法(例えば、4次方程式に対するフェラーリ解法等)や近似解法(例えば、ニュートン法等)を用いて、式(6)の解を算出する。
【0058】
リンクペア数が多く高次方程式を解くための長時間を要する場合には、リンク調整幅計算手段32は、例えば、図7に示すような『3次元空間(t−x−y)において注目移動体のリンクA12を包含する6面体(以下、リンクボリュームVA12)』を利用して、リンク調整幅を近似計算してもよい。リンクボリュームVA12は、xy平面に平行で、且つ通過指定位置1、2をその平面内に含む上面・下面(図7で塗潰された2面に該当)と、4つの側面とで構成される。なお、リンクボリュームVA12において、通過指定位置2から上面の各辺に対する法線距離は、安全間隔Rよりも大きな値とする。同様に、通過指定位置1から下面の各辺に対する法線距離は、安全間隔Rよりも大きな値とする。
【0059】
これを用いることにより、リンク調整幅計算手段32は、周辺移動体のリンクB12が、リンクボリュームVA12の4側面と交差せず、且つリンクボリュームVA12に包含されないΔtを計算することで、『注目移動体のリンクA12のリンク調整幅ΔtA12B12』を近似計算できる。リンクボリュームVA12を利用してリンク調整幅を計算する場合、高々2次不等式を解くだけであるため、高次不等式を解く場合と比較して計算時間を短縮できる。
【0060】
次いで、リンク調整幅計算手段32は、リンク調整幅を計算した後、移動条件記憶部42が記憶する移動条件データ『注目移動体がリンクを移動する際の制約条件』に基づいて、リンク調整幅を修正する。例えば、『注目移動体のリンクA12の移動速度』が『安全移動速度V』を越えてはならないという移動条件であった場合、リンク調整幅計算手段32は、式(7)を満たすリンク調整幅Δtcndを計算する。
【0061】
【数5】
【0062】
式(7)におけるΔtcndLは、調整幅Δtcndの下限値を示す。また、ΔtcndUは、調整幅Δtcndの上限値を示す。そして、リンク調整幅計算手段32は、『計算済の調整幅ΔtA12B12』および『リンク調整幅Δtcnd』の積集合を、新たな『リンク調整幅ΔtA12B12』として求める。
【0063】
次に、注目移動体の調整移動計画を決定する方法について説明する。具体的には、図1に示す調整移動計画決定手段33が調整移動計画を決定する処理を実行する。
【0064】
図3、4の移動計画の場合、リンク調整幅計算手段32は、計算したリンク調整幅tA01B01、tA01B01、tA12B01、tA12B02、tA23B01、tA23B02を調整移動計画決定手段33に出力する。
【0065】
次いで、調整移動計画決定手段33は、リンク調整幅の積集合を計算し、最終的なΔtの範囲を決定する。図3、4の移動計画の場合、調整移動計画決定手段33は、図8に示すように、最終的なΔtの範囲を『ΔtA23B01L<Δt<ΔtA01B01U』と決定する。図8は、調整飛行計画の決定方法の一例を示す説明図である。
【0066】
つまり、『ΔtA23B01L<Δt<ΔtA01B01U』を満たすΔtであれば、注目移動体と周辺移動体との異常接近を回避可能であるため、調整移動計画決定手段33は、図6に示す例のようにΔtから通過指定時刻(tA1、tA2)を計算し、調整移動計画を決定する。具体的には、調整移動計画決定手段33は、計算した通過指定時刻(tA1、tA2)に基づいて、調整移動計画を示す移動計画データを生成し、調整移動計画出力装置5に出力する。なお、リンク調整幅の積集合が空集合となる場合には、調整移動計画決定手段33は、異常接近を回避可能な調整移動計画が存在しないものと判断する。
【0067】
その後、調整移動計画出力装置5は、例えば、調整移動計画決定手段33が出力した移動計画データを表示部に表示するように制御する。
【0068】
以上の第1の実施形態では、リンク調整幅計算手段32が、移動条件記憶部42が記憶する移動条件データに基づいてリンク調整幅(ΔtA12B12)を修正する例について説明したが、処理の順序はこれに限らない。例えば、リンク調整幅計算手段32が移動条件データから計算するリンク調整幅(Δtcnd)を調整移動計画決定手段33に出力し、調整移動計画決定手段33がリンク調整幅(ΔtA12B12)およびリンク調整幅(Δtcnd)の積集合を計算し、調整飛行計画を決定するようにしてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、注目移動計画入力装置1および周辺移動計画入力装置2が移動計画データをデータ処理装置3に出力した後に、リンクを作成する処理を実行したが、注目移動計画入力装置1および周辺移動計画入力装置2が予めリンクの作成を行い、リンク作成結果をデータ処理装置3に出力するようにしてもよい。
【0070】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0071】
本実施形態では、リンク毎に計算する『注目移動体の通過予定時刻の調整“幅”(リンク調整幅)』に基づき調整移動計画を決定することにより、『注目移動計画の逐次調整処理』および『異常接近のシミュレーション処理』を繰り返し実行する必要が無い。このため、注目移動体と周辺移動体との異常接近を誘発しない調整移動計画を高速に決定できる。
【0072】
実施形態2.
次に、本発明の第2の実施形態について図面を参照して説明する。図9は、スケジューリングシステムの第2の実施形態の構成例を示すブロック図である。
【0073】
図9を参照すると、本実施形態では、スケジューリングシステムは、図1に示す第1の実施形態の構成に加えて、データ処置装置3がリンク選別手段34を、記憶装置4がリンクペア記憶部43を含む。
【0074】
リンク選別手段34は、具体的には、プログラムに従って動作する情報処理装置のCPUによって実現される。リンク選別手段34は、リンク作成手段31が作成した『注目移動体の各リンク』と『周辺移動体の各リンク』との最短距離を計算し、最短距離が安全距離Rを下回るリンクペア(以下、リンク調整幅計算対象リンクペア)を特定する機能を備えている。また、リンク選別手段34は、特定したリンク調整幅計算対象リンクペアをリンクペア記憶部43に記憶させる機能を備えている。
【0075】
また、本実施形態では、リンク調整幅計算手段32は、リンクペア記憶部43が記憶するリンク調整幅計算対象リンクペアに対してだけリンク調整幅を計算する。
【0076】
次に、図9および図10を参照して、本実施形態におけるスケジューリングシステムの動作について説明する。図10は、スケジューリングシステムが実行する動作例を示す流れ図である。
【0077】
図10に示すステップA1、A2、A4の動作については、第1の実施形態においてリンク作成手段31、リンク調整幅計算手段32、調整移動計画決定手段33がそれぞれ実行する動作と同一のため、説明を省略する。
【0078】
第1の実施形態では、リンク作成手段31が作成した『注目飛行計画のリンク』と『周辺飛行計画のリンク』との全てのリンクペアに対して、リンク調整幅を計算(リンク調整幅計算手段32)して、注目移動体の調整移動計画を決定していた。
【0079】
本実施形態では、リンク選別手段34は、ステップA1でリンク作成手段31が作成した『注目移動体の各リンク』と『周辺移動体の各リンク』との最短距離を計算し、最短距離が安全距離Rを下回るリンクペア(リンク調整幅計算対象リンクペア)を特定する。そして、リンク選別手段34は、特定したリンク調整幅計算対象リンクペアをリンクペア記憶部43に記憶させる(ステップB1)。
【0080】
その後、リンク調整幅計算手段32は、リンクペア記憶部43が記憶するリンク調整幅計算対象リンクペアに対してだけリンク調整幅を計算する(ステップA2、ステップB2)。
【0081】
次いで、調整移動計画決定手段33は、第1の実施形態と同様の処理に従って、リンク調整幅計算手段32が計算したリンク調整幅に基づいて、全リンク共通で異常接近を回避可能なリンク調整幅の積集合を計算し、調整移動計画を決定する(ステップA4)。具体的には、調整移動計画決定手段33は、計算したリンク調整幅の積集合に基づいて、調整移動計画を示す移動計画データを生成し、調整移動計画出力装置5に出力する。
【0082】
次に、第2の実施形態のスケジューリングシステムの動作について、具体例を用いて説明する。
【0083】
本実施形態では、第1の実施形態の構成に加えて、データ処理装置3が、リンク選別手段34を含み、さらに、記憶装置4が、リンクペア記憶部43を含む点が第1の実施形態と異なる。
【0084】
リンクペア選別手段34が調整幅計算対象リンクペアを特定する方法を、図11を用いて説明する。図11は、調整幅計算対象リンクペアの決定方法の一例を示す説明図である。図11には、通過指定位置(xA1,yA1)、(xA2,yA2)から成る注目移動体のリンクA12と、通過指定位置(xB0,yB0)、(xB1,yB1)、(xB2,yB2)から成る周辺移動体のリンクB01、B12とが記載されている。
【0085】
まず、リンクペア選別手段34は、リンクA12、B01から成るリンクペア(A12,B01)に関してリンク間の最短距離S(A12,B01)を計算する。
【0086】
次いで、リンクペア選別手段34は、算出した最短距離S(A12,B01)が安全距離Rを下回るか否かを判断する。
【0087】
そして、S(A12,B01)が安全距離Rを下回ると判断した場合(S(A12,B01)<R)、『リンクA12を移動する注目移動体』と『リンクB01を移動する周辺移動体』とが異常接近する可能性があると判断して、リンクペア選別手段34は、リンクペア(A12,B01)を調整幅計算対象リンクペアとしてリンクペア記憶部43に記憶させる。
【0088】
つまり、リンクペア選別手段34は、『リンクA12上の任意時刻・地点に存在する注目移動体』と『リンクB01上の任意時刻・地点に存在する周辺移動体』との最短距離だけに基づいて、異常接近の可能性を判断する。
【0089】
同様に、リンクペア選別手段34は、周辺移動体の残りのリンクB12に関してもリンクペア(A12,B12)との最短距離S(A12,B12)を計算する。そして、リンクペア選別手段34は、算出した最短距離S(A12,B12)が安全距離Rを下回るか否かを判断することで、A12とB12とが調整幅計算対象リンクペアであるか否かを判断する。
【0090】
その後、リンクペア選別手段34は、『注目移動体の全リンク』と『周辺移動体の全リンク』との全組合せに対する調整幅計算対象リンクペアであるか否かについての判断を完了した時点で、処理を終了する。
【0091】
第1の実施形態との差異として、本実施形態では、調整幅計算対象リンクペアを特定する際に、通過予定時刻tを使用しなくてよいことが重要である。つまり、リンクペア選別手段34は、移動体の位置データ(x,y)だけを用いて調整幅計算対象リンクペアを特定すればよい。
【0092】
この理由は、注目移動体の通過指定位置(x,y)の通過予定時刻tについては、リンク選別手段34の後に処理を実行するリンク調整幅計算手段32および調整移動計画決定手段33によって変更されるためである。すなわち、リンク選別手段34は、通過予定時刻tを考慮して調整幅計算対象リンクペアを特定しても異常接近の可能性を判断できないからである。
【0093】
移動体のリンク数が増大した場合、『注目移動体の全リンク』と『周辺移動体の全リンク』との全組合せ数が増大し、調整幅対象リンクペアを特定するために必要な処理時間が長くなる場合がある。このため、図12に示すように、複数のリンクから成る折れ線移動経路を包含するエリア(以下、移動体エリア)を利用して、調整幅対象リンクペアの特定時間を短縮するようにしてもよい。
【0094】
周辺移動体の移動エリア(以下、周辺移動体エリア)の具体例として、図13に示す長方形型のエリアがある。図13は、長方形型の移動体エリアの一例を示す説明図である。
【0095】
リンクペア選別手段34は、周辺移動体エリアとして、周辺移動体の全リンクの通過指定位置(x,y)から抽出した『最大x座標xBmax、最小x座標xBmin』および『最大y座標yBmax、最小y座標yBmin』を用いて、長方形型エリアを作成する。
【0096】
また、リンクペア選別手段34は、周辺移動体エリアと同様に、注目移動体の移動エリア(以下、注目移動体エリア)も長方形型エリアとして作成するが、安全距離Rだけエリア拡大する。
【0097】
次いで、リンクペア選別手段34は、注目移動体エリアと周辺移動体エリアとの重畳判定を行うことで、『注目移動体エリアに含むリンクを移動する注目移動体』と『周辺移動体エリアに含むリンクを移動する周辺移動体』とが異常接近する可能性があるか否かを判断する。具体的には、リンクペア選別手段34は、注目移動体エリアと周辺移動体エリアとが重畳する場合に、異常接近する可能性があると判断する。このように移動体エリアを利用することで、複数のリンクに対して一括で調整幅計算対象リンクペアを特定できるため、調整幅対象リンクペアの特定時間を短縮できる。
【0098】
なお、移動体エリアの形状は、図13に示す長方形型エリア以外であってもよい。長方形型エリア形状以外の移動体エリアとして、例えば、図14に示す平行四辺形型エリアがある。
【0099】
平行四辺形型エリアは、移動体エリアに包含される全リンクの通過指定位置(x,y)を用いて計算する近似直線をy軸に沿って平行移動して得られる線分Tおよび線分Bと、移動体エリアに包含される全リンクの通過指定位置(x,y)から抽出する最小x座標および最大x座標で得られる線分Lおよび線分Rとからなる閉面である。
【0100】
図14に示すように、平行四辺形型エリアは、長方形型エリアと比較して移動体の複数リンクから成る折れ線経路にフィットした形状である。そのため、リンクペア選別手段34は、これを用いることで、調整幅対象リンクペアを厳密に特定することができる。
【0101】
次いで、リンク調整幅計算手段32は、リンクペア記憶部43が記憶する調整幅対象リンクペアだけリンク調整幅を計算し、計算したリンク調整幅を調整移動計画決定手段32に出力する。
【0102】
以上のように、第2の実施形態では、注目移動計画入力装置1および周辺移動計画入力装置2が移動計画データをデータ処理装置3に出力した後に、リンクを作成して選別する処理を実行したが、処理の順序はこれに限らない。例えば、注目移動計画入力装置1および周辺移動計画入力装置2が予めリンクを作成して選別する処理を行い、リンク選別結果をデータ処理装置3に出力するようにしてもよい。
【0103】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0104】
本実施形態では、『注目移動体の各リンク』と『周辺移動体の各リンク』との最短距離に基づき、リンク調整幅の計算対象とするリンクペア(リンク調整幅計算対象リンクペア)を予め絞り込む。このことにより、図9のリンク調整幅計算手段32が実行するリンク調整幅計算の回数を削減できる。そのため、注目移動体と周辺移動体との異常接近を誘発しない調整移動計画を高速に決定することができる。
【0105】
以上のことから、本発明によるスケジューリングシステムは、以下のような課題を解決するための手段を備えているといえる。
【0106】
本発明によるスケジューリングシステムは、『移動体の異なる2箇所の通過指定位置を結ぶ線分(リンクと呼ぶ)』を作成するリンク作成手段(図1のリンク作成手段31)と、『移動体がリンクを移動する際の移動モデル(図1の移動モデル記憶部41が記憶する)』および『移動体がリンクを移動する際の制約条件(図1の移動条件記憶部42が記憶する)』に基づき、注目移動体と周辺移動体とが異常接近しないように『注目移動体の通過予定時刻の調整“幅”(リンク調整幅)』をリンク毎に計算するリンク調整幅計算手段(図1のリンク調整幅計算手段32)と、リンク調整幅計算手段で計算したリンク調整幅を用いて調整移動計画を決定する調整移動計画決定手段(図1の調整移動計画決定33)とを有する。
【0107】
このような構成を採用し、注目移動体のリンク毎に計算するリンク調整幅に基づいて調整移動計画を決定することにより、『注目移動計画の逐次調整処理』および『異常接近のシミュレーション処理』を繰り返し実行する必要が無くなるため、課題を解決することができる。
【0108】
また、本発明は、以下のような効果を奏するといえる。
【0109】
本発明の効果は、『移動体がリンクを移動する際の移動モデル』を記憶しておくだけで、注目移動体と周辺移動体との異常接近を誘発しない調整移動計画を高速に決定できることにある。
【0110】
その理由は、注目移動体のリンク毎に計算するリンク調整幅を基づき調整移動計画を決定することにより、『注目移動計画の逐次調整処理』および『異常接近のシミュレーション処理』を繰り返し実行する必要が無いためである
【0111】
次に、本発明によるスケジューリングシステムの最小構成について説明する。図15は、スケジューリングシステムの最小の構成例を示すブロック図である。図15に示すように、スケジューリングシステムは、最小の構成要素として、リンク作成手段31、リンク幅調整手段32および調整移動計画手段33を含む。
【0112】
図15に示す最小構成のスケジューリングシステムでは、リンク作成手段31は、移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成する。次いで、リンク調整幅計算手段32は、リンク毎に移動体が他の移動体と異常接近しないように、移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算する。次いで、調整移動計画決定手段33は、移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する。
【0113】
従って、最小構成のスケジューリングシステムによれば、所定の移動体が他の移動体との異常接近を回避し得る調整移動計画を短時間で決定することができる。
【0114】
なお、本実施形態では、以下の(1)〜(8)に示すようなスケジューリングシステムの特徴的構成が示されている。
【0115】
(1)スケジューリングシステムは、移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンク(例えば、リンクA01)を生成するリンク作成手段(例えば、リンク作成手段31によって実現される)と、リンク毎に移動体が他の移動体と異常接近しないように、移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅(例えば、ΔtA01B01)を計算するリンク調整幅計算手段(例えば、リンク調整幅計算手段32によって実現される)と、移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する調整移動計画決定手段(例えば、調整移動計画決定手段33によって実現される)とを含むことを特徴とする。
【0116】
(2)スケジューリングシステムにおいて、所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリングシステムであって、調整移動計画決定手段は、移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータおよび移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データに基づいて、調整移動計画データを決定するように構成されていてもよい。
【0117】
(3)スケジューリングシステムにおいて、移動モデルデータを記憶する移動モデル記憶手段(例えば、移動モデル記憶部41によって実現される)と、移動条件データを記憶する移動条件記憶手段(例えば、移動条件記憶手段42によって実現される)とを含み、リンク調整幅計算手段は、移動モデル記憶手段が記憶する移動モデルデータと、移動条件記憶手段が記憶する移動条件データとに基づいて、リンク調整幅を計算するように構成されていてもよい。
【0118】
(4)スケジューリングシステムにおいて、リンク調整幅計算手段は、移動モデル記憶手段が記憶する各リンクの移動モデルデータに基づいて、所定の移動体が他の移動体と異常接近しないようにリンク調整幅をリンク毎に計算するように構成されていてもよい。
【0119】
(5)スケジューリングシステムにおいて、リンク調整幅計算手段は、移動条件記憶手段が記憶する各リンクの移動条件データに基づいて、計算したリンク調整幅を修正し、新たにリンク調整幅を決定するように構成されていてもよい。
【0120】
(6)スケジューリングシステムにおいて、調整移動計画決定手段は、リンク調整幅計算手段が計算したリンク調整幅に基づいて、全リンク共通で移動体同士の異常接近を回避可能なリンク調整幅の積集合を計算し、計算したリンク調整幅の積集合に基づいて、移動体の調整移動計画データを決定するように構成されていてもよい。
【0121】
(7)スケジューリングシステムにおいて、所定の移動体のリンクと他の移動体のリンクとの最短距離(例えば、最短距離S)を計算し、計算した最短距離が所定の距離(例えば、安全距離R)以下であるリンクのペアを特定するリンク選別手段(例えば、リンク選別手段34によって実現される)を含み、リンク調整幅計算手段は、リンク選別手段が特定したリンクのペアについてリンク調整幅を計算するように構成されていてもよい。
【0122】
(8)スケジューリングシステムにおいて、リンク選別手段は、移動体の複数のリンクから成る移動経路を包含する移動体エリア(例えば、図12に示す注目移動体エリア)を用いて、移動体エリア同士の重畳判定(例えば、注目移動体エリアと周辺移動体エリアとの重畳判定)を行うことで、移動体同士が異常接近するか否かを判定し、判定結果に基づいて、最短距離が所定の距離以下であるリンクのペアを特定するように構成されていてもよい。
【0123】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0124】
(付記1)移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成するリンク作成手段と、リンク毎に前記移動体が他の移動体と異常接近しないように、前記移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算するリンク調整幅計算手段と、前記移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の前記移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する調整移動計画決定手段とを含むことを特徴とするスケジューリングシステム。
【0125】
(付記2)所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリングシステムであって、調整移動計画決定手段は、前記移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータおよび前記移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データに基づいて、調整移動計画データを決定する付記1記載のスケジューリングシステム。
【0126】
(付記3)移動モデルデータを記憶する移動モデル記憶手段と、移動条件データを記憶する移動条件記憶手段とを含み、リンク調整幅計算手段は、前記移動モデル記憶手段が記憶する移動モデルデータと、前記移動条件記憶手段が記憶する移動条件データとに基づいて、リンク調整幅を計算する付記2記載のスケジューリングシステム。
【0127】
(付記4)リンク作成手段は、全ての移動体の移動計画に関して移動体の異なる2箇所の通過指定位置を結ぶ線分であるリンクを作成する付記2又は付記3記載のスケジューリングシステム。
【0128】
(付記5)リンク調整幅計算手段は、移動モデル記憶手段が記憶する各リンクの移動モデルデータに基づいて、所定の移動体が他の移動体と異常接近しないようにリンク調整幅をリンク毎に計算する付記3又は付記4記載のスケジューリングシステム。
【0129】
(付記6)リンク調整幅計算手段は、移動条件記憶手段が記憶する各リンクの移動条件データに基づいて、計算したリンク調整幅を修正し、新たにリンク調整幅を決定する付記3から付記5のうちのいずれかに記載のスケジューリングシステム。
【0130】
(付記7)調整移動計画決定手段は、リンク調整幅計算手段が計算したリンク調整幅に基づいて、全リンク共通で移動体同士の異常接近を回避可能なリンク調整幅の積集合を計算し、計算したリンク調整幅の積集合に基づいて、移動体の調整移動計画データを決定する付記2から付記6のうちのいずれかに記載のスケジューリングシステム。
【0131】
(付記8)所定の移動体のリンクと他の移動体のリンクとの最短距離を計算し、計算した最短距離が所定の距離以下であるリンクのペアを特定するリンク選別手段を含み、リンク調整幅計算手段は、前記リンク選別手段が特定したリンクのペアについてリンク調整幅を計算する付記2から付記7のうちのいずれかに記載のスケジューリングシステム。
【0132】
(付記9)リンク選別手段が特定したリンクのペアを記憶するリンクペア記憶手段を含む付記8記載のスケジューリングシステム。
【0133】
(付記10)リンク選別手段は、移動体の複数のリンクから成る移動経路を包含する移動体エリアを用いて、移動体エリア同士の重畳判定を行うことで、移動体同士が異常接近するか否かを判定し、判定結果に基づいて、最短距離が所定の距離以下であるリンクのペアを特定する付記8又は付記9記載のスケジューリングシステム。
【0134】
(付記11)移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成し、リンク毎に前記移動体が他の移動体と異常接近しないように、前記移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算し、前記移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の前記移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定することを特徴とするスケジューリング方法。
【0135】
(付記12)所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するスケジューリング方法であって、前記移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータおよび前記移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データに基づいて、調整移動計画データを決定する付記11記載のスケジューリング方法。
【0136】
(付記13)コンピュータに、移動計画データによって示される移動体の移動経路を分割した部分経路であるリンクを生成するリンク作成処理と、リンク毎に前記移動体が他の移動体と異常接近しないように、前記移動体の通過予定時刻の調整幅であるリンク調整幅を計算するリンク調整幅計算処理と、前記移動経路を構成する全リンクのリンク調整幅を用いて、調整後の前記移動体の移動計画を示す調整移動計画データを決定する調整移動計画決定処理とを実行させるためのスケジューリングプログラム。
【0137】
(付記14)所定の通過指定位置を所定の通過予定時刻に通過する移動計画に従って移動する移動体に対して、他の移動体と異常接近しないように調整した移動計画を決定するためのスケジューリングプログラムであって、コンピュータに、調整移動計画決定処理で、前記移動体が移動経路を移動する際の移動特性を示す移動モデルデータおよび前記移動体が移動経路を移動する際の制約条件を示す移動条件データに基づいて、調整移動計画データを決定する処理を実行させる付記13記載のスケジューリングプログラム。
【0138】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0139】
この出願は、2010年3月17日に出願された日本特許出願2010−061120を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用の可能性】
【0140】
本発明は、航空機や電車、バス等の移動体の移動計画を決定する用途に適用できる。また、移動体の異常接近を高速に検出し、移動計画を決定する機能を、工場・作業場で稼動する移動機械同士の衝突事故を防止する用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0141】
1 注目移動計画入力装置
2 周辺移動計画入力装置
3 データ処理装置
4 記憶装置
5 調整移動計画出力装置
31 リンク作成手段
32 リンク調整幅計算手段
33 調整移動計画決定手段
34 リンク選別手段
41 移動モデル記憶部
42 移動条件記憶部
43 リンクペア記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15