特許第5772813号(P5772813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5772813燃料電池膜電極接合体の製造方法および燃料電池膜電極接合体の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772813
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】燃料電池膜電極接合体の製造方法および燃料電池膜電極接合体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20150813BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150813BHJP
   H01M 8/10 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   H01M4/88 K
   H01M8/02 E
   H01M8/10
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-506869(P2012-506869)
(86)(22)【出願日】2011年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2011050767
(87)【国際公開番号】WO2011118244
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2013年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-73070(P2010-73070)
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】羽場 靖洋
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−257438(JP,A)
【文献】 特開2001−196070(JP,A)
【文献】 特開2009−093965(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/063466(WO,A1)
【文献】 特開2009−054600(JP,A)
【文献】 特開2009−037916(JP,A)
【文献】 特開2004−095553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒層が塗工された一対の基材を、固体高分子電解質膜を挟持するように配置し、その外側から一対のラミネータロールで熱圧力を加えて前記固体高分子電解質膜の両面に前記電極触媒層を熱転写する燃料電池膜電極接合体の製造方法であって、
前記一対のラミネータロールのうち少なくとも一方は、その表面に前記固体高分子電解質膜側に転写する電極触媒層と同じ形状の凸部が形成されたラミネータロールを用い
前記ラミネータロールの凸部の間隙の表面は、前記凸部表面の弾性率よりも小さい弾性率の素材からなって、前記電極触媒層の転写を必要としない部分に前記電極触媒層が熱転写されない圧力を加えることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法において、
前記一対の基材の外側にさらに保護フィルムを配置し、これら保護フィルムの外側から前記ラミネータロールで熱圧力を加えて前記固体高分子電解質膜の両面に前記電極触媒層を熱転写することを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法において、
前記固体高分子電解質膜および電極触媒層を塗工された基材に対し、熱転写する前に余熱をかけることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法において、
前記保護フィルムに対し、熱転写する前に余熱をかけることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法において、
前記ラミネータロールで熱圧力を加えられた基材を前記固体高分子電解質膜から剥離する前に、熱ラミネートをかけることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法において、
前記ラミネータロールで熱圧力を加えられた基材を加熱しながら前記固体高分子電解質膜から剥離することを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法において、
前記ラミネータロールの凸部の高さは0.2mm以上3.0mm以下であることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法において、
前記ラミネータロールの凸部の表面凹凸が設けられていることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法において、
前記ラミネータロールの凸部の表面粗さは、0.5μm以上5μm以下の範囲内であることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項10】
電極触媒層を塗工された一対の基材を、固体高分子電解質膜を挟持するように配置し、その外側から熱圧力を加えて前記固体高分子電解質膜の両面に前記電極触媒層を熱転写するための一対のラミネータロールを備えた燃料電池膜電極接合体の製造装置であって、
前記一対のラミネータロールのうち少なくとも一方は、その表面に前記固体高分子電解質膜側に転写する電極触媒層と同じ形状の凸部が形成されたラミネータロールであり、
前記ラミネータロールの凸部の間隙の表面は、前記凸部表面の弾性率よりも小さい弾性率の素材からなって、前記電極触媒層の転写を必要としない部分に前記電極触媒層が熱転写されない圧力を加えることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造装置。
【請求項11】
請求項10に記載の燃料電池膜電極接合体の製造装置において、
前記ラミネータロールの凸部の高さは0.2mm以上3mm以下であることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造装置。
【請求項12】
請求項10または1に記載の燃料電池膜電極接合体の製造装置において、
前記ラミネータロールの凸部の表面凹凸が設けられていることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造装置。
【請求項13】
請求項12に記載の燃料電池膜電極接合体の製造装置において、
前記ラミネータロールの凸部の表面粗さは、0.5μm以上5μm以下の範囲内であることを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池を構成する膜電極接合体の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜を二つの電極(酸化極と還元極)で挟んで接合した膜電極接合体を有すると共に、この膜電極接合体をガス拡散層で挟んだ構造をしている。そして、アノードとカソードに水素と酸素を流すことで電気化学反応を起こし、発電を起こすシステムである。燃料電池は従来の発電装置と異なり、発電状態において発生するのは水のみであり、近年問題となっている二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないクリーンな発電装置として期待されている。
【0003】
膜電極接合体の作製方法としては、様々な方法が提案されている。例えば、以下の特許文献1に開示されているように、触媒担持した導電性粒子とイオン導電性を持つ高分子とを有機溶媒に分散させた燃料電池用電極触媒インクを転写基材に塗布して電極触媒層を形成し、形成した電極触媒層を所定形状に断裁した後、固体高分子電解質膜に挟持させ、熱プレス、ラミネータなどにより熱圧着する方法が知られている。
【0004】
また、以下の特許文献2に開示されているように、燃料電池用電極触媒インクを転写基材に所定形状に塗布した後、この電極触媒層付き転写シートを固体高分子電解質膜に挟持させるように配し、熱プレス、ラミネータなどにより熱圧着し、所定の膜電極接合体の形状に断裁する方法も考えられている。
また、以下の特許文献3に開示されているように、燃料電池用電極触媒インクを転写基材に塗布した後、電極形状が凸部になるように加工してあるプレス乃至ラミネータによって所定形状を転写する方法も考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−196070号公報
【特許文献2】特開2006−185762号公報
【特許文献3】特開2009−37916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、膜電極接合体の作製方法として、触媒担持した導電性粒子と固体高分子電解質膜フィルムとを有機溶媒に分散させた燃料電池用電極触媒インクを転写基材に塗布し電極触媒層を形成し、形成した電極触媒層を所定形状に断裁した後、固体高分子電解質膜に挟持させ、熱プレス、ラミネータなどにより熱圧着する方法の場合、触媒層の位置あわせに時間を要し、位置ずれが生じる可能性がある。
また、燃料電池用電極触媒インクを転写基材に所定形状に塗布した後、該電極触媒層付き転写シートを固体高分子電解質膜フィルムに挟持させるように配し、熱プレス、ラミネータなどにより熱圧着し、所定の膜電極接合体の形状に断裁する方法の場合、同様に位置ずれを起こす可能性がある。
【0007】
また、燃料電池用電極触媒インクを転写基材に塗布した後、電極形状が凸部になるように加工してあるプレス乃至ラミネータによって所定形状を固体高分子電解質膜フィルムの両面に転写する方法の場合、位置ずれの可能性が軽減し、生産タクトも向上するが、エッジ形状や固体高分子電解質膜に皺を発生する問題があった。
本発明は、係る課題に鑑みなされたものであり、その目的は固体高分子電解質膜に皺を生じることなく、相対する電極触媒層の位置ずれがない燃料電池膜電極接合体の製造方法および燃料電池膜電極接合体の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する為に、本発明は以下の手段を採った。
電極触媒層を塗工された一対の基材を、固体高分子電解質膜を挟持するように配置し、その外側から一対のラミネータロールで熱圧力を加えて前記固体高分子電解質膜の両面に前記電極触媒層を熱転写する燃料電池膜電極接合体の製造方法であって、前記一対のラミネータロールのうち少なくとも一方は、その表面に前記固体高分子電解質膜側に転写する電極触媒層と同じ形状の凸部が形成されたラミネータロールを用いる。このようなラミネータロールを用いることにより、一対の電極触媒層を位置ずれすることなく固体高分子電解質膜に正確に熱転写することができる。
また、前記ラミネータロールの凸部の間隙の表面は、前記凸部表面の弾性率よりも小さい弾性率の素材からなって、前記電極触媒層の転写を必要としない部分に前記電極触媒層が熱転写されない圧力を加える機能を有する。こうすることで、固体高分子電解質膜の皺、損傷をなくし、電極触媒層の形状精度を向上することができる。
【0009】
また、前記一対の基材の外側にさらに保護フィルムを配置し、これら保護フィルムの外側から前記ラミネータロールで熱圧力を加えて前記固体高分子電解質膜の両面に前記電極触媒層を熱転写する。これによって、固体高分子電解質膜に皺が入らず、電極触媒層と固体高分子電解質膜の間に気泡などが入ることがない。
一般的に、電極触媒層を塗工する基材と固体高分子電解質膜の熱膨張率は異なる為、電極触媒層と固体高分子電解質膜を、例えば常温付近で位置あわせを行い、その後熱転写すると、固体高分子電解質膜に皺が入るおそれがある。また、例えば膜電極接合体の性能を高めるため電極触媒層の多孔度を上げるなどした場合でも、固体高分子膜と電極触媒層の接合性を高める必要があるため、熱転写する前に余熱をかける必要がある。
【0010】
電極触媒層が塗工された基材から固体高分子電解質膜に貼りあわせた後に、保護フィルム、基材を剥離する前に、熱ラミネートをかけると、膜電極接合体の性能を更に向上させることができる。
また、電極触媒層を固体高分子膜に熱圧着を加えた後、その温度を保ったまま基材剥離することで、電極触媒層の欠け、固体高分子膜からの剥がれを抑制することができる。また、固体高分子電解質膜の電極触媒層近傍の皺や、膜電極接合体自体がカールするなどの変形を防ぐことができる。
【0011】
電極触媒層の転写に用いる凸部の高さが0.2mm以上3mm以下にすることで、固体高分子電解質膜の皺、損傷をなくし、電極触媒層の形状精度を向上することができる。
記方法により作製した膜電極接合体は優れた電気特性を示し、外観上に欠損がない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固体高分子電解質膜に皺を生じることなく、相対する電極触媒層の位置ずれがない高品質の燃料電池膜電極接合体を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る固体高分子形燃料電池100の分解斜視図である。
図2】本発明に用いるラミネータロール50の一例を示す斜視図である。
図3】本発明に用いるラミネータロール50の断面図である。
図4】本発明に係る膜電極接合体製造方法の実施の一形態を示す説明図である。
図5】本発明に係る膜電極接合体製造方法の他の実施形態を示す説明図である。
図6】本発明に係る膜電極接合体製造方法の他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る燃料電池膜電極接合体の製造方法ついて説明する。なお、本発明は、以下に記載する各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
図1は、本発明に係る固体高分子形燃料電池100の分解斜視図である。図示するようにこの固体高分子形燃料電池100にあっては、膜電極接合体10の電極触媒層11および電極触媒層12と対向して空気極側ガス拡散層21および燃料極側ガス拡散層31が配置される。これにより、それぞれ空気極20及び燃料極30が構成される。膜電極接合体10は、固体高分子電解質膜13を電極触媒層11と電極触媒層12とで挟んで構成される。
【0015】
そして、空気極20側にはガス流通用のガス流路41を備えると共に、燃料極30には冷却水流通用の冷却水流路42を備えた導電性でかつ不透過性の材料よりなる1組のセパレータ40,40が配置される。燃料極30側のセパレータ40のガス流路41からは燃料ガスとして、例えば水素ガスが供給される。一方、空気極20側のセパレータ40のガス流路41からは、酸化剤ガスとして、例えば酸素を含むガスが供給される。
なお、図1は、一組のセパレータ40,40に固体高分子電解質膜13、電極触媒層11,12、ガス拡散層21,31が狭持された、いわゆる単セル構造の固体高分子形燃料電池であるが、セパレータ40,40を介して複数のセルを多重に積層した構成であっても良い。
【0016】
次に、この電極触媒層11,12の形成方法について説明する。この電極触媒層11,12は、触媒担持した導電性粒子とイオン伝導性高分子を含む。
触媒担持した導電性粒子は、導電性を持つ担体と、触媒能を持つ触媒金属から成り立つ。触媒金属には、カソードでは酸素の還元反応、アノードでは水素の酸化反応に触媒作用を有すれば特に限定するものではない。具体的は、遷移金属単体、遷移金属群からなる合金、酸化物、複酸化物、炭化物、錯体があげられる。中でも、特にPt、Pd、Ni、Ir、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Au、Ag、Cu等が好ましく、この群からなる合金、酸化物、複酸化物、炭化物、錯体からなる。また、粒径としては、触媒金属の利用率、反応性および安定性を考慮し、1nm以上10nm以下程度が好ましい。
【0017】
導電性を持つ担体としては、特に制限されず公知のものが使用できるが。代表的なものとしてはカーボン粒子があり、具体的にはカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、固体酸凝集体等の炭素粒子等が挙げられ、この中から一つ以上選べばよい。粒径としては10nm以上100nm以下程度が好ましい。
【0018】
また、この電極触媒層11,12には、触媒担持した導電性粒子以外にも、触媒を担持していない導電性粒子を混合させても良い。さらに撥水材、増孔材などの電極触媒層11,12の撥水性などを向上する為の添加材を加えてもよい。
また、この電極触媒層11,12に含まれる高分子は、イオン伝導性を有するものであれば良いが、具体的には、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどを用いることができる。中でも、デュポン社製Nafion(登録商標)、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどを用いることが好ましい。また、電極触媒層と電解質膜の密着性を考え、固体高分子電解質膜と同じ材料を選択することが好ましい。
【0019】
触媒担持した導電性粒子、イオン伝導性高分子及び適宜分散剤・添加剤を加え、インク化したものを基材に塗工し、乾燥することで完成する。
塗工方法としては、ドクターブレード法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法、スプレー法などの塗布法などの方法が挙げられるが、特に限定しない。基材により最適なものを選定する。
この電極触媒層11,12は、後述するように基材90を介して固体高分子電解質膜13に転写される。
【0020】
この基材90としては特に限定しないが、電極触媒層11,12が熱圧着により離型するものが良い。具体的にはPTFE、ETFE等のフッ素系樹脂、表面にシリコン樹脂等が塗布されている離型材、PETフィルム、ポリイミド、PEEKなどの高分子フィルム、SΜS等の金属板などが挙げられるが、電極触媒層11,12が良好に印刷されかつ良好に固体高分子電解質膜13に転写されれば特に限定しない。
【0021】
また、この基材90は、エンボス処理、ブラスト処理、粗化、コロナ処理など表面処理を行ってもよい。
この基材90への塗工パターンは連続、ストライプ状、間欠状など、種類を問わないが、電極触媒層11,12及び基材90の有効活用のため、目的とする膜電極接合体10の電極面積と同等以上の大きさに適宜印刷してあればよい。
【0022】
本発明における固体高分子電解質膜13は、イオン伝導性を有するものであり、フッ素系高分子電解質膜としては、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などが挙げられる。炭化水素系高分子電解質膜としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜が挙げられるが、特に限定しない。膜厚は5μm以上100μm以下程度が好ましい。
【0023】
本発明における基材90から固体高分子電解質膜13への電極触媒層11,12のラミネータ転写方法について述べる。
図2は、本発明方法に用いるラミネータロール50の一例を示す斜視図、図3はその断面図である。図示するように、このラミネータロール50は、回転軸51を備えたロール本体52の表面に凸部53が複数設けられている。この凸部53は、その表面がロール本体52と沿うように曲面状に湾曲していると共に、その平面形状が膜電極接合体10の電極触媒層11,12の形状と同じ形状をしている。この凸部53の表面の材質はステンレスなどの金属から構成されているが、金属の他にシリコンゴム、フッ素ゴム、ブタジエンゴムなどのゴム材でも構わない。
凸部53の平面形状は、電極触媒層11,12の所望の形状を形成できれば、電極触媒層11,12の形状と略同じ形状であってもよい。また、凸部53の大きさは、形成したい電極触媒層11,12の大きさに合わせて適宜設計することができる。
ラミネータロール50の表面に設けられる凸部53の個数は、特に指定されないが、最終的な燃料電池膜電極接合体の固体電解質の面積と、固体電解質ロールの巾などを考慮しロスの無いような面取りを取るなど、適宜設計することができる。
【0024】
そして、図4に示すように、このラミネータロール50と、表面に凸部53を有さない平滑表面のラミネータロール60を互いに近接離間自在にセットし、そのラミネータロール50,50に加圧しながらその間を固体高分子電解質膜13と、それを挟むように電極触媒層70,70が連続して塗工した一対の基材90,90とを連続的に通過させて固体高分子電解質膜13の両面に、目的とする形状の電極触媒層11,12を間欠的に熱転写する。
このようにして電極触媒層11,12を固体高分子電解質膜13に間欠的に転写することで、生産タクトの早い膜電極接合体10の製造方法を構築できる。
【0025】
また、図2に示すように、ラミネータロール50の凸部53の間隙54で固体高分子電解質膜13を傷つけないようにするため、ラミネータロール50,60はギャップ調整により隙間調整できるようにする。また、一対のラミネータロール50,60は一対の電極触媒層11,12を転写後にギャップを広げ、固体高分子電解質膜13のみ送り速度を変更すると電極触媒層11,12のロスがない。図4では、表面に目的とする膜電極接合体10の電極形状が凸部になるように加工してあるラミネータロール50に対し、対向するラミネータロール60は平滑なものを用いているが、平滑なラミネータロール60の代わりに、一方のラミネータロール50と同様に、表面に目的とする膜電極接合体10の電極形状が凸部53になるように加工してあるラミネータロール50を用いてもよい。
【0026】
電極触媒層11,12を転写する際のラミネータロール50の温度は、80℃以上150℃以下が好ましい。より好ましくは100℃以上140℃以下がよい。このような温度で熱転写を行うことで、膜電極接合体の性能を高めることができる。この温度を外れた場合、固体高分子電解質膜13の熱劣化を引き起こしたり、電極触媒層11,12の転写不良を引き起こすおそれが高くなる。
【0027】
また、図5に示すように、固体高分子電解質膜13への皺の発生を減少させるため、電極触媒層70を連続して塗工した基材90,90の外側にそれぞれ保護フィルム80,80を配置してもよい。なお、いずれも表面に目的とする膜電極接合体10の電極形状が凸部になるように加工してあるラミネータロール50,50を用いる場合は、同期を取りながら対向させ、電極触媒層11,12の位置ずれのないようにすることが望ましい。
【0028】
また、図6の示すように、予め基材90,90へ電極触媒層11,12をパターン塗工しておけば電極触媒層70のロス(無駄)を減らすことが可能となる。また、保護フィルム80は、平滑性や耐熱性があるフィルムであれば特に限定しないが、PET、PP、PTFE、ETFE、ポリイミド、PEEKなどが望ましい。また、その厚みも特に限定するものでないが15μm以上100μm以下が望ましい。15μmより小さいと固体高分子電解質膜13の皺防止への効果が薄く、100μmより大きいと生産コストがかさむという不都合が生ずる。
【0029】
また、ラミネータロール50によって固体高分子電解質膜13に電極触媒層11,12を熱転写する前に、基材90や固体高分子電解質膜13、保護フィルム80を予熱しておくと製造する膜電極接合体10に皺が入ったり、カールするのをより効果的に防ぐことができる。予熱の温度は、50℃以上140℃以下程度が良い。予熱の方法としては、温風、IR、熱ラミネートなど手法を問わないが、熱転写する前に、温度を50℃より下げないようにすると、膜電極接合体10に皺などが入ることがない。
【0030】
また、電極触媒層11,12を固体高分子電解質膜13へ熱転写し、基材90を剥離する際に熱をかけたロールを用いればなおよい。熱をかけたロールとしては、加熱機構を有するロールなどが挙げられる。また、熱転写から剥離までの間、基材90及び膜電極接合体10の温度を50℃以下に下げないことが望ましい。こうすることで電極触媒層11,12の転写残りをなくすことが可能となる。
また、ラミネータロール50の凸部53の高さ(ロール本体52表面からの高さ)も特に限定するものではないが、0.2mm以上3mm以下であるのが望ましい。こうすることで電極触媒層11,12を形状精度良く熱転写することが可能となる。
【0031】
また、ラミネータロール50の凸部53のエッジ部分は、図3のようにR面取りしてあることが望ましい。こうすることで、電極触媒層11,12が形状精度良く熱転写することが可能となる。なお、Rの値については、電極触媒層11,12が形状精度良く熱転写することができる範囲で適宜設定することができるが、具体的には、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
また、ラミネータロール50の凸部53は、さらにその表面に凹凸がつけてあっても良い。こうすることで電極触媒層11,12の多孔性に面内分布をつけることができ、結果として電極触媒層11,12の撥水性・導電性を高め、膜電極接合体10の性能を高めることができる。具体的には、凸部53の表面粗さが0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0032】
また、ラミネータロール50の凸部53の間隙の表面は、凸部53表面の弾性率よりも小さい弾性率の素材で形成することが望ましい。つまり、固体高分子電解質膜13の電極触媒層11,12の部分にのみ圧力がかかる場合、固体高分子電解質膜13に皺が入ることがある。そこで、電極触媒層11,12の熱転写の際に、固体高分子電解質膜13の電極触媒層11,12が必要とされない部分にも小さい圧力を加えると高分子電解質膜13に皺が生じない。
しかし、圧力が高すぎると固体高分子電解質膜13の電極触媒層1,12が必要とされない部分にも電極触媒層11,12が転写されてしまう。そこで、凸部53の間隙に、凸部53よりも小さい弾性率の素材を用いることで凸部53の間隙部分は電極触媒層11,12が熱転写されない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の燃料電池膜電極接合体の製造方法を用いることによって、固体高分子電解質膜に皺を生じることなく、相対する電極触媒層の位置ずれがない優れた性能・外観形状の膜電極接合体10が効率的に製造できる。
【符号の説明】
【0034】
10…膜電極接合体
11…電極触媒層(空気極側)
12…電極触媒層(燃料極側)
13…固体高分子電解質膜
20…空気極
21…ガス拡散層(空気極側)
30…燃料極
31…ガス拡散層(燃料極側)
40…セパレータ
41…ガス流路
42…冷却水流路
50…ラミネータロール(凸部あり)
51…回転軸
52…ロール本体
53…凸部
54…隙間
60…ラミネータロール(凸部なし)
70…電極触媒層
80…保護フィルム
90…基材
100…固体高分子形燃料電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6