【文献】
Biotechnol. Appl. Biochem., 2006, Vol.45, p.87-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤は、下記一般式(1)で表されるタンパク質リガンドが担体に固定化されている。
【0016】
R−R
2 ・・・・・(1)
(式中、Rは4〜20個のヒスチジンが連続した部位を含む4〜300個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列(ヒスチジンリンカー)を示し、R
2はプロテインAのZドメイン(Zドメイン:配列番号1)若しくはそのフラグメント(Zフラグメント)又はこれらの変異体を含む50〜500個のアミノ酸残基からなる、イムノグロブリンと結合可能なアミノ酸配列を示す。ここで、RはR
2のC末端またはN末端に結合する。)
【0017】
1.アフィニティークロマトグラフィー用充填剤
1.1.担体
1.1.1.構成
担体の形状は、特に限定されず、略球状や粉体を含む粒子状、中空繊維を含む繊維状、フィルム状など任意の形状をとることができるが、表面積が大きく製造も容易であることから粒子の形状が好ましい。かかる粒子は多孔性でも非多孔性でもよい。粒子状の担体は充填ベッドとして使用することもできるし、懸濁形態で使用することもできる。懸濁形態には流動層(expanded bed)および純然たる懸濁物として知られるものが包含され、粒子が自由に運動できる。モノリス、充填床及び流動層の場合、分離手順は一般に濃度勾配による従来のクロマトグラフィー法に従う。純然たる懸濁物の場合は、回分法が用いられる。あるいは、担体は、チップ、キャピラリーまたはフィルターのような形態であってもよい。
【0018】
本実施形態に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を構成する担体は、好ましくは20〜80μm、より好ましくは30〜60μmの粒径(体積平均粒子径)を有する。粒径が20μm以上であると、高流速下でカラム圧力が高くなりにくい。粒径が80μm以下であると、タンパク質リガンドや抗体等の生体関連物質の結合容量が低下しにくい。なお、本発明における「粒径」とは、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置により得られる担体の体積平均粒径である。
【0019】
本実施形態に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を構成する担体は、好ましくは多孔質であり、50〜150m
2/g、より好ましくは80〜120m
2/gの比表面積を有する。ここで、比表面積が50m
2/g以上であると、タンパク質リガンドや抗体等の生体関連物質の結合容量が低下しにくい。一方、150m
2/g以下であると、充填剤の強度に優れ、高流速下で充填剤が破壊されにくく、カラム圧力の上昇が抑制される。本発明における「比表面積」とは、水銀ポロシメーターにより得られる細孔径10〜5000nmの細孔の有する担体の表面積を担体の乾燥重量で除した値である。
【0020】
本実施形態に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を構成する担体は、好ましくは100〜400nm、より好ましくは200〜300nmの体積平均細孔径を有する。ここで、体積平均細孔径が100nm以上であると、高流速下の結合容量低下が抑制される。一方、400nm以下であると、流速にかかわらず結合容量の低下が抑制される。本発明における「体積平均細孔径」とは、水銀ポロシメーターにより得られる細孔径10〜5000nmの細孔の体積平均細孔径である。
【0021】
上記範囲の粒径、比表面積、および細孔径分布を満たす場合、精製対象溶液の流路となる担体間の隙間および担体内の細孔径と、精製対象分子の結合表面積のバランスが最適化され、高流速下の結合容量が高いレベルに維持される。
【0022】
担体の材質としては、例えば、親水性表面を有するポリマーであり、例えば、外表面(および存在する場合には内表面にも)ヒドロキシ基(−OH)、カルボキシ基(−COOH)、アミノカルボニル基(−CONH
2、或いはN置換型)、アミノ基(−NH
2、或いはN置換型)、エポキシ基、オリゴ基またはポリエチレンオキシ基を有するポリマーである。ポリマーは、一実施形態では、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のような合成ポリマーである。かかる合成ポリマーは、例えば、J.MATER.CHEM 1991,1(3),371−374に記載の方法等の公知の方法により容易に製造することができる。或いは、トヨパール(東ソー社)のような市販品も使用される。他の実施形態におけるポリマーはデキストラン、デンプン、セルロース、プルラン、アガロース等の多糖類である。かかる多糖類は公知の方法により容易に製造され、例えば特許第4081143号に記載の方法を参照されたい。或いは、セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社)のような市販品も使用される。その他の実施形態ではシリカ、酸化ジルコニウムなどの無機担体であってもよい。
【0023】
本実施形態に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤において、担体として使用される多孔性粒子の一具体例としては、例えば、20〜50重量%の架橋性ビニル単量体と3〜80重量%のエポキシ基含有ビニル単量体と20〜80重量%のジオール基含有ビニル単量体との共重合体(ただし、各単量体の合計量を100重量%とする)を含有し、粒径が20〜80μmであり、比表面積が50〜150m
2/gであり、体積平均細孔径が100〜400nmである多孔性有機重合体粒子が挙げられる。
【0024】
なお、本実施形態に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を構成する担体を水銀ポロシメーターで測定した場合の細孔径10〜5000nmの細孔の浸入体積(細孔体積)は、好ましくは1.3〜2.5mL/gである。
【0025】
1.1.2.リガンドとの結合
担体とタンパク質リガンドとの結合方法としては、一般にタンパク質を担体に固定化する方法を用いて行うことができる。例えば、カルボキシ基を有する担体を用い、このカルボキシ基をN−ヒドロキシコハク酸イミドにより活性化させタンパク質リガンドのアミノ基と反応させる方法、アミノ基またはカルボキシ基を有する担体を用い、水溶性カルボジイミドなどの脱水縮合剤存在下でタンパク質リガンドのカルボキシ基またはアミノ基と反応させアミド結合を形成する方法、水酸基を有する担体を用い、臭化シアンなどのハロゲン化シアンで活性化させてタンパク質リガンドのアミノ基と反応させる方法、または担体の水酸基をトシル化もしくはトレシル化し、タンパク質リガンドのアミノ基と反応させる方法、およびビスエポキシド、エピクロロヒドリンなどによりエポキシ基を担体に導入し、タンパク質リガンドのアミノ基または水酸基またはチオール基と反応させる方法、エポキシ基を有する担体を用い、タンパク質リガンドのアミノ基または水酸基またはチオール基と反応させる方法などが挙げられる。
【0026】
本発明で用いるタンパク質リガンドは、後述の一般式(1)で表されるものであり、このタンパク質リガンド中のアミノ基が、担体が有するエポキシ基と結合することによって、タンパク質リガンドを担体に結合する方法を用いるのが好ましい。
【0027】
好ましくは、リガンドが結合した担体は、開環エポキシ基として置換2,3−ジヒドロキシプロピル基を含み得る。この開環エポキシ基は、上記担体をリガンドに結合させた後、残余のエポキシ基を開環させることによって得ることができる。好ましくは、上記担体を含む本発明の充填剤を使用する前において、該担体のエポキシ基は実質的に全て開環されている。
【0028】
エポキシ基が開環して生成する開環エポキシ基であるアルコール性水酸基は、担体表面を親水化し、タンパク質などの非特異吸着を防止すると共に、水中で担体の靱性を向上させ、高流速下の担体の破壊を防止する役割を果たす。担体中のエポキシ基の開環方法としては、例えば、水溶媒中で、酸またはアルカリにより、加熱または室温で攪拌する方法を挙げることができる。また、メルカプトエタノール、チオグリセロールなどのメルカプト基を有するブロッキング剤やモノエタノールアミンなどのアミノ基を有するブロッキング剤で、エポキシ基を開環させても良い。最も好ましい開環エポキシ基は、多孔質担体に含まれるエポキシ基をチオグリセロールにより開環させて得られる開環エポキシ基である。チオグリセロールは、原料としてメルカプトエタノールなどよりも毒性が低く、チオグリセロールが付加したエポキシ開環基は、アミノ基を有するブロッキング剤による開環基よりも非特異吸着が低い上に、動的結合量が高くなるといった利点を有する。
【0029】
必要に応じて、担体とリガンドとの間に任意の長さの分子(スペーサー)を導入してもよい。スペーサーの例としては、ポリメチレン鎖、ポリエチレングリコール鎖、糖類などが挙げられる。
【0030】
1.2.リガンド
1.2.1.イムノグロブリン結合タンパク質
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤に使用されるタンパク質リガンドは、上記一般式(1)で表されるイムノグロブリン結合タンパク質であり得る。このイムノグロブリン結合タンパク質(以下、「タンパク質1」ともいう。)を、例えば担体のエポキシ基と反応させることにより、担体に結合させることができる。
【0031】
上記一般式(1)において、Rで表されるアミノ酸配列は、4〜20個のヒスチジンが連続した部位を含む4〜300個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。Rに含まれるアミノ酸残基の数は8〜100個であることが好ましく、Rに含まれるヒスチジンが連続した部位のヒスチジンの数は4〜8個であることが好ましい。また、上記一般式(1)において、R
2はプロテインAのZドメイン(配列番号1)若しくはそのフラグメント又はこれらの変異体を含む50〜500個のアミノ酸残基からなる、イムノグロブリンと結合可能なアミノ酸配列である。R
2で表されるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基の数は120〜480個であることが好ましい。
【0032】
上記一般式(1)において、Rで表されるアミノ酸配列およびR
2で表されるアミノ酸配列のうち少なくとも一方が、リジン、アルギニン、およびシステインから選ばれる1種のアミノ酸を含む1〜50個のアミノ酸からなるドメインtを含んでいてもよい。この場合、上記アミノ酸配列中に同一または異なるドメインtが複数含まれていてもよい。
【0033】
また、上記一般式(1)において、R−は下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【0034】
R
1−r− ・・・・・(2)
(式中、R
1は4〜20個のヒスチジンが連続した部位を含む4〜100個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を示し(ここで、R
1において、前記ヒスチジンが連続した部位の末端がrと結合する。)、rは7〜200個のアミノ酸残基からなる任意のアミノ酸配列を示す。)
【0035】
上記一般式(2)において、R
1で表されるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基の数は4〜25個であることが好ましく、R
1に含まれるヒスチジンが連続した部位のヒスチジンの数は4〜8個であることが好ましく、rで表されるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基の数は10〜50個であることが好ましい。
【0036】
また、上記一般式(2)に示されるrで表されるアミノ酸配列中には、TEV切断部位が含まれていてもよい。本発明において、「TEV切断部位」とは、TEV(Tobacco Etch Virus)プロテアーゼによって特異的切断部位として認識され得るアミノ酸配列をいうが、実際にTEVプロテアーゼによって切断され得ることは要しない。また、rで表されるアミノ酸配列中に、TEVドメインの変異体(該TEVプロテアーゼで切断できるか否かと関係なく、TEV切断部位のアミノ配列と70%以上、好ましくは90%以上の相同性を有する。)が含まれていてもよい。
【0037】
タンパク質1を構成するアミノ酸残基の総個数は54〜800であり、担体に結合させる場合、80〜600であるのが好ましい。
【0038】
1.2.1.1.イムノグロブリン結合ドメイン
上記一般式(1)において、R
2は、イムノグロブリン結合ドメインを含むアミノ酸配列を表す。当該アミノ酸配列は、プロテインAのZドメイン(Zドメイン)、そのフラグメント(Zフラグメント)、及びそれらの変異体から選ばれる少なくとも1個のアミノ酸配列を含む。Zドメインについては、ニルソン・ビー(Nilsson B.)他、プロテイン・エンジニアリング(Protein engineering)、1987年、第1巻、2号、107−113頁)に記載されている。Zドメインは配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる。
【0039】
Zフラグメントとは、Zドメインのアミノ酸配列の一部を有するものであり、例えば、Zドメインのアミノ酸配列の90%以上を有するものであることが好ましく、95%以上を有するものであることがより好ましい。また、Zドメインの変異体とは、例えば、Zドメインのアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するものであり、95%以上の相同性を有するものであるのが好ましい。Zドメインの変異体は、Zドメインと比較してアルカリ耐性が改良されたものであることが好ましい。この場合、Zドメインの変異体がZドメインと比較してアルカリ耐性が改良されているかどうかは、後述する実施例記載の方法にて確認することができる。
【0040】
Zドメインの変異体としては、例えば、特許第4391830号に記載された配列を有するタンパク質が挙げられる。例えば、特許第4391830号の請求項1には、配列番号1で規定される2以上の反復単位(Zドメイン)を含み、23位のアミノ酸残基がスレオニンであるタンパク質が挙げられる。
【0041】
また、本発明において、上記R
2は、Zドメイン若しくはそのフラグメント(Zフラグメント)、又はそれらの変異体を単独でまたは組み合わせて2個以上(好ましくは4〜10個)含むことができる。
【0042】
好ましくは、上記R
2は、Zドメイン、Zフラグメント、及びそれらの変異体から選ばれる少なくとも1個、またはそれらの2個以上若しくは4〜10個の組み合わせからなる。
【0043】
1.2.1.2.タンパク質1の製造
タンパク質1を製造するための標準技術としては、例えば、Frederick M.AusbelらによるCurrent Protocols In Molecular BiologyやSambrookら編集のMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,3
rd edition,2001)などに記載されている公知の遺伝子組換え技術を利用することができる。すなわち、目的の改変タンパク質(タンパク質1)をコードする核酸配列を含有させた発現ベクターを大腸菌などの宿主細胞に形質転換し、当該宿主細胞を適切な液体培地で培養することにより、培養後の宿主細胞から、タンパク質1を大量かつ経済的に取得することができる。好ましい発現ベクターとしては、細菌内で複製可能な既知のベクターのいずれをも用いることができ、例えば、米国特許第5,151,350号明細書に記載されているプラスミドや、Sambrookら編集のMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,3
rd edition,2001)などに記載されているプラスミドが挙げられる。また、宿主中に核酸を導入することにより宿主を形質転換させるためには、当該技術分野において知られるいずれの方法を用いてもよく、例えば、Sambrookら編集のMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,3
rd edition,2001)などに記載されている公知の方法を利用することができる。形質転換した細菌を培養して、発現されたタンパク質を回収する方法は、当業者によく知られており、本発明の実施例にも例示されている。
【0044】
すなわち、本発明の他の一実施形態にかかる核酸は、イムノグロブリン結合タンパク質あるいはその等機能変異体をコードする。本発明において、イムノグロブリン結合タンパク質の「等機能変異体(functional variant)」とは、部分的なアミノ酸の付加、削除、置換、アミノ酸残基の化学的修飾等により改変されたイムノグロブリン結合タンパク質であって、改変前のイムノグロブリン結合タンパク質のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは90%以上の相同性を保持し、かつ、イムノグロブリン結合活性において、改変前のイムノグロブリン結合タンパク質と同等のものとして扱うことができるものを意味する。すなわち、上記核酸としては、本明細書におけるタンパク質1をコードする核酸が含まれる。
【0045】
また、上述したように、タンパク質1は、イムノグロブリン結合ドメインを1個以上(好ましくは2〜12個、より好ましくは4〜10個)を含むタンパク質であってもよい。この様なタンパク質をコードする適切な発現プラスミドを本発明の実施例で示す様な方法で作製でき、イムノグロブリン結合ドメインを1個以上含むタンパク質を容易に製造することができる。
【0046】
例えば、後述する実施例において示される配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質(SP4Z)や、配列番号2において1個または数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、イムノグロブリン結合活性を有するタンパク質は、本発明で用いるイムノグロブリン結合タンパク質として好適である。
【0047】
1.2.1.3.作用効果
本実施形態に係る充填剤によれば、アルカリ性条件下での洗浄(例えば0.01〜0.2Mの水酸化ナトリウム等のアルカリ性液を用いた洗浄)に対して高い耐性を有する。その理由としては、必ずしも明らかではないが、ヒスチジンが連続した部位をZドメインに付加したことにより、担体とZドメインの結合位置がヒスチジン連続部位のない場合とは異なること、および固定化後のZドメインに何らかの構造変化が起こり、アルカリ耐性が高くなったことなどが考えられる。
【0048】
1.3.イムノグロブリンを単離する方法
本発明の一実施形態に係るイムノグロブリンを単離する方法を説明する。本実施形態に係るイムノグロブリンを単離する方法は、上記本発明のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を用いて、当該充填剤にイムノグロブリンを吸着させる工程(第一の工程)、当該イムノグロブリンを溶出させる工程(第二の工程)、および当該充填剤をアルカリ性液で洗浄する工程(第三の工程)を含む。
【0049】
第一の工程では、上記アフィニティークロマトグラフィー用充填剤を充填したカラム等にイムノグロブリンを含有する溶液を、該充填剤のタンパク質リガンドにイムノグロブリンが吸着する条件にて流す。ここで、上記イムノグロブリンを含有する溶液とは、イムノグロブリンを含有する任意の溶液であればよく、例えば、血清等の生体由来の検体、ハイブリドーマ培地の上清等が挙げられる。上記イムノグロブリンが吸着する条件としては、例えば、イムノグロブリン濃度0.1〜10g/L、溶液のpH5〜9、カラム中の滞留時間0.5〜50分、温度0〜40℃が挙げられる。
【0050】
この第一の工程では、溶液中のイムノグロブリン以外の物質のほとんどは吸着されずカラムを通過する。通常、一部の弱く保持された物質を除去するため、充填剤をNaClなどの塩を含む中性の緩衝液、例えば、リン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム溶液、クエン酸/リン酸水素二ナトリウム溶液、塩酸/トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン溶液、HEPES/水酸化ナトリウム溶液等、で洗浄する。第二の工程では、pH2〜5の適切な緩衝液、例えば、クエン酸/クエン酸ナトリウム溶液、酢酸/酢酸ナトリウム溶液、塩酸/グリシン溶液等、を流しイムノグロブリンを溶出させる。第三の工程では、アルカリ性液で充填剤を洗浄(CIP洗浄)する。
【0051】
本実施形態に係るイムノグロブリンを単離する方法において使用されるアルカリ性液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、トリエチルアミン、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
2.実施例
以下、本実施形態にかかるアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。また、以下の記載は本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
【0053】
2.1.合成例1(多孔質粒子の合成)
グリシジルメタクリレート(三菱レーヨン社製)8.2g、トリメチロールプロパントリメタクリレート(サートマー社製)65.9gおよびグリセリンモノメタクリレート(日油社製)90.6gを2−オクタノン(東洋合成工業社製)245.8gおよびアセトフェノン(和光純薬工業社製)62gに溶解させ、2,2’−アゾイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)2gを添加し、有機モノマー溶液を調製した。
【0054】
次に、4240gの純水にポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA−217)8.5g、ドデシル硫酸ナトリウム(花王社製 エマール10G)0.43gおよび硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)21.3gを添加し、一晩撹拌して水溶液を調製した。
【0055】
次いで、得られた水溶液を7Lセパラブルフラスコ内に投入し、温度計、攪拌翼、および冷却管を装着して、温水バスにセットし、窒素雰囲気下、600rpmで撹拌を開始した。続いて、セパラブルフラスコを温水バスにより加温し、水溶液の温度が85℃になったところで、この水溶液に滴下ロートを用いて上記有機モノマー溶液を添加し、5時間攪拌を行った。
【0056】
次いで、反応液を冷却したのち、かかる反応液を5Lのポリプロピレン製ビンに移し、粒子が浮遊するまで静置し、下方から余分な水を吸い出して廃棄した。さらに、この反応液にアセトンを加えて粒子を沈降させた。次に、反応液を3分間静置して、デカンテーションによりアセトンを除去した。この操作を2回繰り返したのち水を加えて、粒子を沈降させた。さらに、3分間静置してデカンテーションを行った。この操作を2回繰り返して粒子を洗浄した。さらに、粒子の分散液をアセトンで再び置換して、一晩風乾したのち、真空乾燥機にて乾燥を行い、多孔質粒子(以下、PBと記す。)90gを得た。PBの平均粒径は43μm、比表面積は83m
2/gであった。
【0057】
2.2.合成例2(タンパク質リガンドの作製)
2.2.1.イムノグロブリン結合タンパク質の作製
2.2.1.1.イムノグロブリン結合タンパク質発現ベクターの構築
イムノグロブリン結合タンパク質(SP4Z)発現ベクターを下記のステップ(i)〜(iv)で構築した。
図2は、SP4Zベクター(SP4Z−pETM11)の構築方法を説明する図である。
【0058】
(i)ステップ1
単量体ZドメインをコードするDNAを出発物質として、NcoI切断部位およびEcoRI切断部位を有する単量体Zドメインベクター(A−pETM11)を構築した。
【0059】
2.2.1.2.SP1Z−pETM11ベクター(終止コドン有りの単量体Zドメインベクター)の構築
SPZK DNA(配列番号3)をテンプレートとし、フォワードプライマーとしてプライマー153(配列番号5)およびリバースプライマーとしてプライマー156(配列番号8)を用いてPCRを実施した。プライマー153およびプライマー156にはそれぞれ、NcoI切断部位およびSacIの制限酵素切断部位が含まれる。PCRの条件は以下の通りである。
【0060】
段階1:94℃1分間1サイクル、段階2:94℃30秒間、55℃30秒間、72℃2.5分間(25サイクル)、段階3:72℃10分間1サイクル、その後4℃で保持した。
【0061】
PCR生成物はPCR精製キット(illustra GFX−96 PCR Purification Kit;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)で精製し、1%アガロースTAEゲルで100V45分間電気泳動を行った。得られたバンドをゲル抽出キット(illustra GFX PCR DNA Band Purification Kit;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)で精製した。次に、NcoI制限酵素およびSacI制限酵素を用いて切断されたpETM11ベクター(European Molecular Biology Laboratory)とPCR生成物とのライゲーションを行った。制限酵素による消化反応は、New England Biolabs製NcoI制限酵素およびSacI制限酵素を用いて37℃1時間行い、電気泳動で精製した後、ゲル抽出キットで精製した。
【0062】
ライゲーション反応は、T4 DNAリガーゼ(Invitrogen製)で室温にて終夜行った。
ライゲーションで得られたベクターをDH5a competent cell(Biomedal Life Science社製)で形質転換させ、得られた形質転換体を、カナマイシンを含むLB培地で37℃終夜培養し、一部培地からプラスミドを抽出し、挿入されたDNAフラグメントの配列が正しいことをDNAシーケンサー(3730 DNA Sequencer;Applied Biosystems製)で確認した。
【0063】
2.2.1.3.A−pETM11ベクター(終止コドン無しの単量体Zドメインベクター)の構築
プライマー153,156の代わりに、フォワードプライマーとしてプライマー153およびリバースプライマーとしてプライマー154(配列番号6)を用いて、実験2.2.1.2.と同様にA−pETM11ベクターを構築した。なお、DNAフラグメントの挿入は、pETM11のNcoI切断部位およびEcoRI切断部位を利用している。
【0064】
(ii)ステップ2
次に、A−pETM11ベクターにもう一個Zドメインを付加して、EcoRI切断部位およびSacI切断部位を有する2量体Zドメインベクター(AB−pETM11)を構築した。
【0065】
2.2.1.4.SP2Z−pETM11ベクター(終止コドン有りの2量体Zドメインベクター)の構築
SPZK DNA(配列番号3)をテンプレートとし、フォワードプライマーとしてプライマー155(配列番号7)およびリバースプライマーとしてプライマー156を用いて、PCRでEcoRI切断部位およびSacI切断部位を有する単量体ZドメインのDNAを調製し、A−pETM11のEcoRI切断部位およびSacI切断部位に挿入した。実験は実験2.2.1.2.と同様の条件で行った。
【0066】
2.2.1.5.AB−pETM11ベクター(終止コドンなしの2量体Zドメインベクター)の構築
SPZK DNA(配列番号3)をテンプレートとし、フォワードプライマーとしてプライマー155およびリバースプライマーとしてプライマー157(配列番号9)を用いて、PCRでEcoRI切断部位およびSacI切断部位を有する終止コドンなしの単量体ZドメインのDNAを調製し、A−pETM11のEcoRI切断部位およびSacI切断部位に挿入して、AB−pETM11ベクターを構築した。実験は実験2.2.1.2.と同様の条件で行った。
【0067】
(iii)ステップ3
次いで、AB−pETM11ベクターに更にもう一個Zドメインを付加して、SacI切断部位およびHind III切断部位を有する3量体Zドメインベクター(ABC−pETM11)を構築した。
【0068】
2.2.1.6.SP3Z−pETM11ベクター(終止コドン有りの3量体Zドメインベクター)の構築
SPZK DNA(配列番号3)をテンプレートとし、フォワードプライマーとしてプライマー158(配列番号10)およびリバースプライマーとしてプライマー161(配列番号13)を用いて、PCRでSacI切断部位およびXhoI切断部位を有する単量体ZドメインのDNAを調製し、AB−pETM11のEcoRI切断部位およびSacI切断部位に挿入した。実験は実験2.2.1.2.と同様の条件で行った。
【0069】
2.2.1.7.ABC−pETM11ベクター(終止コドン無しの3量体Zドメインベクター)の構築
SPZK DNA(配列番号3)をテンプレートとし、フォワードプライマーとしてプライマー158およびリバースプライマーとしてプライマー159(配列番号11)を用いて、PCRでSacI切断部位およびHindIII切断部位を有する終止コドン無しの単量体ZドメインのDNAを調製し、AB−pETM11のSacI切断部位およびHindIII切断部位に挿入して、ABC−pETM11ベクターを構築した。実験は実験2.2.1.2.と同様の条件で行った。
【0070】
(iv)ステップ4
最後に、ABC−pETM11ベクターに4個目のZドメインを付加して、HindIII切断部位およびXhoI切断部位を有するSP4Z−pETM11ベクターを構築した。
【0071】
2.2.1.8.SP4Z−pETM11ベクター(終止コドン有りの4量体Zドメインベクター)の構築
SPZK DNA(配列番号3)をテンプレートとし、プライマー160(配列番号12)およびプライマー161を用いて、PCRでHindIII切断部位およびXhoI切断部位を有する単量体ZドメインのDNAを調製し、ABC−pETM11のHindIII切断部位およびXhoI切断部位に挿入して、SP4Z−pETM11ベクターを構築した。実験は実験2.2.1.2.と同様の条件で行った。
【0072】
2.2.1.9.SP4Zの発現および精製
得られたSP4Z−pETM11ベクターをE.coli(BL21株)細胞(STRATAGENE製)に導入し、18℃で1mMのIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド;Sigma−Aldrich製)を添加し、15時間インキュベートして、組み換え型イムノグロブリン結合タンパク質(タンパク質1)を発現させた。誘導に先立って、吸光度(OD600)が約0.6に到達するまで上記細胞を37℃でインキュベートした。タンパク質発現後、細胞を回収し、pH8.0のトリス緩衝液中で破砕した。
【0073】
得られた組み換え型イムノグロブリン結合タンパク質(SP4Z)は、Niアフィニティークロマトグラフィー(Ni−NTA(ニトリロトリ酢酸)粒子、キアゲン社製)によって精製された。精製されたイムノグロブリン結合タンパク質は陰イオン交換クロマトグラフィー(Q−セファロースFF、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)によって、さらに精製された。SDSゲル電気泳動によって確認されたイムノグロブリン結合タンパク質の純度は96質量%であった。
【0074】
また、得られた組み換え型イムノグロブリン結合タンパク質(SP4Z)は、飛行時間型質量分析(MALDI−TOF/MS)スペクトル分析により分子量を確認した。
【0075】
上記で調製されたイムノグロブリン結合タンパク質SP4Zのアミノ酸配列を
図1に示す。なお、
図1において、RおよびR
2は上記一般式(1)におけるRおよびR
2に対応し、R
1およびrは上記一般式(2)におけるR
1およびrに対応する。r中の下線部はTEV切断部位を示す。また、
図1におけるZフラグメントは、配列番号1で表されるZドメインのC末端のアミノ酸残基APKを除去したアミノ酸配列を有する。
【0076】
2.2.2.SP4ZwoHisの作製
50mM トリス塩酸、0.5mM EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、および1mM DTT(ジチオスレイトール)のバッファー(pH8.0)15mLにSP4Z 150mg、MobiTEVプロテアーゼ(MoBiTec社)900Uを加え30℃で12時間攪拌しSP4ZのTEV切断部位を切断した。TEVプロテアーゼで切断されたSP4ZをNi−NTAカラム(容量:4mL)に通過させて、SP4Zのヒスチジンリンカーが切断された粗SP4ZwoHisを回収した。得られた粗SP4ZwoHisは陰イオン交換クロマトグラフィー(Q−セファロースFF、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)によって、pH7.5のHEPES緩衝液中でさらに精製された。このタンパク質1woHisを遠心濃縮器(ビバスピン20、ザルトリウス社製)にて濃縮した後、10mM HEPESバーファー(pH7.5)中で12時間透析して、SP4ZwoHis(配列番号4)を調製した。
【0077】
2.3.合成例3(イムノグロブリン結合タンパク質の粒子への固定化)
2.3.1.固定化例1
1.1mLのPB、20mgのSP4Zが10mLの0.1Mリン酸バッファー(pH6.8)に分散した混合液を調製した後2.1gの硫酸ナトリウムを加え、25℃で24時間転倒混和し、SP4ZをPB(グリシジルメタクリレート・トリメチロールプロパントリメタクリレート・グリセリンモノメタクリレート共重合多孔質粒子)に結合させた。生成した粒子を濾過した後、5Mチオグリセロール10mLと混合し30℃で4時間反応させ、残余のエポキシ基をブロッキングし、PBS/0.05%Teeen20で洗浄後、PBSで洗浄し、1.1mLのSP4Z結合多孔質粒子(SP4Z−PB)を得た。
【0078】
2.3.2.固定化例2
固定化例1で、SP4Zの代わりにSP4ZwoHisを用いた以外は固定化例1と同様にして、1.1mlのSP4ZwoHis結合多孔質粒子(SP4ZwoHis−PB)を得た。
【0079】
2.3.3.固定化例3
固定化例1でPBの代わりにEpoxy−activated Sepharose6B(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いた以外は固定化例1と同様にして、1.1mlのSP4Z結合アガロース粒子(タンパク質1−AG)を得た。
【0080】
2.3.4.固定化例4
固定化例1でPBの代わりにEpoxy−activated Sepharose6B(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)、SP4Zの代わりにSP4ZwoHisを用いた以外は固定化例1と同様にして、1.1mlのSP4ZwoHis結合アガロース粒子(SP4ZwoHis−AG)を得た。
2.4.試験例
2.4.1.測定例1(イムノグロブリンG(IgG)動的結合容量の測定)
SP4Z−PB、SP4ZwoHis−PB、SP4Z−AG、SP4ZwoHis−AGをそれぞれ内径0.5cmのカラムにベッド高5cmまで詰めた。各カラムを20mMリン酸バッファー(pH7.4)で平衡化した後、ヒトポリクローナルIgG(5mg/mL)を含む20mMリン酸バッファー(pH7.4)を、線流速60cm/時間で流し、吸光度モニターで溶出液中のヒトポリクローナルIgGが10%ブレークスルー(破過)したときのヒトポリクローナルIgG吸着量を充填剤体積で割り算して充填剤の単位体積当たりの動的結合容量を求めた。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
2.4.2.測定例2(耐アルカリ性の測定)
測定例1で用いた各充填剤を詰めたカラムを低圧クロマトグラフィーシステム(AKTAprime plus;GEヘルスケアバイオサイエンス社)にセットし、0.1M水酸化ナトリウム10mlをカラム内に流した。カラムを装置から外し、密閉した後室温で一定時間放置した後、測定例1と同様に、線流速60cm/時間におけるヒトポリクローナルIgGの結合容量を測定した。0.1M水酸化ナトリウムで処理する前のヒトポリクローナルIgG結合量を100%とした時の結合容量維持率を求めた。その結果を
図3に示す。
【0083】
図3によれば、ヒスチジンリンカーを有するイムノグロブリン
結合タンパク質(SP4Z)が結合した充填剤(SP4Z−PB、SP4Z−AG)は、ヒスチジンリンカーを有さないイムノグロブリン
結合タンパク質が結合した充填剤(SP4ZwoHis−PB、SP4ZwoHis−AG)と比較して、アルカリ接触時間が長くなっても、結合容量の維持率の低下が小さかった。このことから、上記一般式(1)で表されるタンパク質リガンドが固定化された充填剤は、耐アルカリ性に優れていることが確認された。
【0084】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらなる種々の変形が可能である。また本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および結果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。