(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1コンデンサ(C3)と前記ダイオード整流器(2)との間で前記第1電源線(LH)または前記第2電源線(LL)に設けられる第2リアクトル(L3)を更に備える、請求項1から3のいずれか一つに記載の直接形電力変換装置。
前記単相交流電源(1,2)が出力する交流波形を当該交流波形の位相角(ωt)の正弦値として把握したときの当該位相角(ωt)の二倍の値(2ωt)に対する余弦値(cos(2ωt))が正となる第1期間(T1)のみにおいて、前記整流デューティ(drec’)は補正される、請求項7に記載の直接形電力変換装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1の実施の形態.
<直接形電力変換装置の構成>
図1に示すように、本直接形電力変換装置は、ダイオード整流器2と、フィルタ3と、充放電回路4と、インバータ5とを備えている。
【0028】
ダイオード整流器2は単相交流電源1と接続され、ダイオードD21〜D24を備えている。ダイオードD21〜D24はブリッジ回路を構成し、単相交流電源1から入力される単相交流電圧Vinを単相全波整流して整流電圧に変換し、これを直流電源線LH,LLの間に出力する。直流電源線LHには直流電源線LLよりも高い電位が印加される。ダイオード整流器2には単相交流電源1から入力電流Iinが流れ込む。
【0029】
フィルタ3はリアクトルL3とコンデンサC3とを備えている。コンデンサC3は直流電源線LH,LLの間に設けられる。リアクトルL3は、コンデンサC3よりもダイオード整流器2側で、直流電源線LH又は直流電源線LL(
図1の例示では直流電源線LH)上に設けられる。リアクトルL3とコンデンサC3とは互いに協働して、いわゆるLCフィルタを形成できる。
【0030】
コンデンサC3は例えばフィルムコンデンサであって、電解コンデンサの静電容量に比べて小さい静電容量を有する。このようなコンデンサC3はダイオード整流器2が出力する整流電圧をほとんど平滑しない。よってコンデンサC3の両端電圧v3は整流電圧の脈動の周期と同じ周期で脈動する。
【0031】
なお
図1の例示では、リアクトルL3はダイオード整流器2の出力側に設けられているものの、
図2に例示するように、ダイオード整流器2の入力側に設けられても良い。
図2ではリアクトルL3は、ダイオード整流器2と単相交流電源1とを接続する入力線に設けられる。かかるリアクトルL3もコンデンサC3とともにLCフィルタを形成することができる。
【0032】
充放電回路4はコンデンサC3に対してダイオード整流器2とは反対側に設けられ、バッファ回路4aと昇圧回路4bと電流阻止部4cとを有する。バッファ回路4aはコンデンサC4を含み、直流電源線LH,LLとの間で電力を授受する。
【0033】
バッファ回路4aはダイオードD42と逆並列接続されたトランジスタ(ここでは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:以下「IGBT」と略記)Scを更に含んでいる。トランジスタScは、直流電源線LH,LLの間において、コンデンサC4に対して直流電源線LH側で直列に接続されている。ここで逆並列接続とは、順方向が相互に逆となるような並列接続を指す。具体的にはトランジスタScの順方向は直流電源線LLから直流電源線LHへと向かう方向であり、ダイオードD42の順方向は直流電源線LHから直流電源線LLへと向かう方向である。トランジスタScとダイオードD42とはまとめて一つのスイッチ素子(第1スイッチ)として把握することができる。
【0034】
昇圧回路4bはダイオード整流器2からの整流電圧(より詳細にはコンデンサC3の両端電圧v3)を昇圧してコンデンサC4を充電する。例えば昇圧回路4bは、ダイオードD40と、リアクトルL4と、トランジスタ(ここではIGBT)Slとを含んでいる。ダイオードD40は、カソードと、アノードとを備え、当該カソードは第1スイッチとコンデンサC4との間に接続される。リアクトルL4は直流電源線LHとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlは直流電源線LLとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlにはダイオードD41が逆並列接続されており、両者をまとめて一つのスイッチ素子(第2スイッチ)として把握することができる。かかる構成はいわゆる昇圧チョッパとして知られている。
【0035】
コンデンサC4は、昇圧回路4bにより充電され、両端電圧v3よりも高い両端電圧vcが発生する。具体的には直流電源線LHから第2スイッチを経由して直流電源線LLへと電流を流すことによってリアクトルL4にエネルギーを蓄積し、その後に第2スイッチをオフすることによって当該エネルギーがダイオードD40を経由してコンデンサC4に蓄積される。
【0036】
両端電圧vcは両端電圧v3より高いので、基本的にはダイオードD42には電流が流れない。従って第1スイッチの導通/非導通は専らトランジスタScのそれに依存する。よって、以下、トランジスタScのみならず、これとダイオードD42とをまとめた第1スイッチについて、スイッチScと称することがある。
【0037】
また、直流電源線LHの方が直流電源線LLよりも電位が高いので、基本的にはダイオードD41には電流が流れない。従って第2スイッチの導通/非導通は専らトランジスタSlのそれに依存する。よって、以下、トランジスタSlのみならず、これとダイオードD41とをまとめた第2スイッチについて、スイッチSlと称することがある。
【0038】
電流阻止部4cはコンデンサC3,C4の間で直流電源線LH又は直流電源線LLに設けられ、コンデンサC4からコンデンサC3へと流れる電流を阻止する。電流阻止部4cは例えばダイオードD43で実現される。
図1の例示では、ダイオードD43は直流電源線LHに設けられ、その順方向はダイオード整流器2からインバータ5へと向かう方向である。
【0039】
かかる充放電回路4は、スイッチScが非導通するときにコンデンサC3の両端電圧v3とほぼ同じ電圧を出力し、スイッチScが導通するときにコンデンサC4の両端電圧vcとほぼ同じ電圧を出力する。
【0040】
インバータ5は充放電回路4が出力する直流電圧を交流電圧に変換し、これを出力端Pu,Pv,Pwに出力する。インバータ5は6つのスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを含む。スイッチング素子Sup,Svp,Swpはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Sun,Svn,Swnはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LLとの間に接続される。インバータ5はいわゆる電圧形インバータを構成し、6つのダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnを含む。
【0041】
ダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDupは、出力端Puと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Supと並列に接続される。同様にして、ダイオードDvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnは、それぞれスイッチング素子Svp,Swp,Sun,Svn,Swnと並列に接続される。
【0042】
例えばスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,SwnにはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)が採用される。
【0043】
誘導性負荷6は例えば回転機であり、インバータ5からの交流電圧に応じて回転する。
【0044】
このような直接形電力変換装置によれば、コンデンサC4の両端電圧vcは昇圧回路4bによってコンデンサC3の両端電圧v3よりも大きくなる。したがって、仮に電流阻止部4cが設けられていない場合、スイッチScが導通すればコンデンサC4からコンデンサC3へと電流が流れる。これによって、コンデンサC3の両端電圧v3が不要に増大する。
【0045】
一方で、本直接形電力変換装置では、電流阻止部4cがコンデンサC4からコンデンサC3へと流れる電流を阻止する。よって、コンデンサC3の両端電圧v3が不要に増大することを回避できる。
【0046】
また両端電圧v3の増大を回避できるので、両端電圧v3をダイオード整流器2による整流電圧と同程度にすることができる。したがって、例えばスイッチScが非導通してコンバータ(ダイオード整流器2及びフィルタ3)からインバータ5へと電流が流れるときには、整流電圧と同等の両端電圧v3をインバータ5に入力できる。
【0047】
一方で、特許文献1の制御は、後に詳述するように、当該コンバータからインバータ5へと電流が流れるときに整流電圧がインバータ5に入力されるという考えに基づく制御である。上述のように本直接形電力変換装置によれば、このとき整流電圧と同等の両端電圧v3をインバータ5に入力できるので、本直接形電力変換装置は特許文献1の制御に適している。
【0048】
以上のように、本直接形電力変換装置によれば、ダイオード整流器2の入力側にコンデンサを設ける場合に比して、コンデンサC3の定格電圧を低減することができ、しかも本直接形電力変換装置は、コンバータ(ダイオード整流器2+フィルタ3)からインバータ5へと電流が流れるときに整流電圧がインバータ5に入力されるという考えを前提とした制御(例えば特許文献1の制御)に好適である。
【0049】
<電流阻止部の位置>
図1,2の例示では、ダイオードD43はバッファ回路4aと昇圧回路4bとの間で直流電源線LHに設けられている。これはダイオードD43で生じる損失を低減するという観点で望ましい。例えば
図3のようにダイオードD43が昇圧回路4bよりも前段で直流電源線LHに設けられると、昇圧回路4bへと流れる電流(つまりリアクトルL4に流れる電流、
図3において矢印で示す)がダイオードD43を通過する。一方で、
図1,2の例示では昇圧回路4bに流れる電流はダイオードD43を通過しない。よってダイオードD43で生じる損失を低減できるのである。言い換えれば、ダイオードD43による損失を避けて、コンデンサC4を充電できる。
【0050】
<電流阻止部>
図4の例示では、電流阻止部4cはダイオードD43とスイッチS4とを備えている。ダイオードD43とスイッチS4とはバッファ回路4aと昇圧回路4bとの間で直流電源線LHに設けられ、互いに直列に接続される。ダイオードD43の順方向はダイオード整流器2からインバータ5へと向かう方向である。スイッチS4は例えばIGBTであり、その順方向はダイオードD43のそれと同じである。
【0051】
なお
図4の例示ではダイオードD43が設けられているものの、ダイオードD43は設けられていなくてもよい。この場合、スイッチS4をスイッチScと排他的に導通させる。これによってダイオードD43が設けられなくても、コンデンサC4からコンデンサC3へと流れる電流を阻止できる。
【0052】
一方で、スイッチS4に印加される逆電圧を低減するという観点では、ダイオードD43を設けることが望ましい。ここでいう逆電圧とは、電流が順方向に流れるときにスイッチS4に印加される電圧とは逆方向の電圧であり、スイッチS4の両端のうちコンデンサC4側の端を高電位とした電圧である。ダイオードD43が設けられれば、ダイオードD43とスイッチS4との直列接続体が電流阻止部4cに印加される逆電圧を支持することになるので、スイッチS4に印加される逆電圧を低減することができる。
【0053】
またこの電流阻止部4cはコンバータ(ダイオード整流器2+フィルタ3)を電流形コンバータとして機能させることができる。なぜなら、電流阻止部4cはダイオードD43を有するのでいわゆる逆阻止能力を有し、またスイッチS4を有するからである。
【0054】
かかる電流阻止部4cによっても、コンデンサC4からコンデンサC3に電流が流れることを阻止できる。ただし、電流阻止部4cがダイオードD43のみを有していれば、次の観点で望ましい。即ち、以下で詳述するように、単相交流電圧Vinに瞬時電圧上昇が生じると、これに起因して電流阻止部4cに電流が流れるところ、この電流の大小という観点では、電流阻止部4cはダイオードD43のみを有することが望ましい。
【0055】
図5は、
図4の直接形電力変換装置において、単相交流電源1からの単相交流電圧Vinに瞬時電圧上昇が生じたときの、交流電圧Vinと、インバータ5に入力される直流電圧Vdcと、コンデンサC4の両端電圧vcと、電流阻止部4cに流れる電流i4とを示し、
図6は
図5の拡大図である。
図7は、
図1の直接形電力変換装置において、交流電圧Vinに瞬時電圧上昇が生じたときの、単相交流電圧Vinと直流電圧Vdcと両端電圧vcと電流i4とを示し、
図8は
図7の拡大図である。
【0056】
ここでは単相交流電圧Vinの振幅は約325[V]程度であり、主として正弦波形状を採る。ただし、
図5〜8の例示ではこの単相交流電圧Vinに雷サージを模したパルスが加えられる。例えば、パルス幅50[μ秒]のパルスが単相交流電圧Vinの振幅のピーク付近に印加され、これにより単相交流電圧Vinは最大で電圧値800[V]まで上昇する。
【0057】
図5において、直流電圧Vdcは、両端電圧vc、両端電圧v3(整流電圧と同等)、又は零を採る。なお両端電圧v3は整流電圧と同等であり、理想的には単相交流電圧Vinが示す正弦波の絶対値に沿う波形を有する。
【0058】
直流電圧Vdcがどの値を採るかはスイッチSc,S4の導通/非導通と関連して説明できる。即ち、
図4も参照して、スイッチScが導通する期間ではインバータ5には両端電圧vcが入力されるので、直流電圧Vdcは両端電圧vcを採る。スイッチScが非導通し、スイッチS4が導通する期間では、コンデンサC3の両端電圧v3がインバータ5に入力されるので直流電圧Vdcは両端電圧v3を採る。スイッチSc,S4の両方が非導通する期間では直流電圧Vdcは零を採る。
【0059】
また本実施の形態において、両端電圧vcは脈動している。より詳細には、期間T1(単相交流電圧Vinを正弦波としたときの電源位相角が0度〜45度、135度〜225度、315度から360度である各期間)において、両端電圧vcは低減する。これは期間T1において、スイッチScが適宜にオンしてコンデンサC4が適宜に放電するからである。一方、期間T1以外の期間T2において両端電圧vcは増大する。これは期間T2においてスイッチScを非導通に維持しつつ昇圧回路4b(スイッチSl)を動作させてコンデンサC4を充電するからである。ただし、
図5では単相交流電圧Vinに瞬時電圧上昇が生じており、これに起因しても両端電圧vcは増大する。この点については後に述べる。
【0060】
以上のように両端電圧vcは期間T1において低減し、期間T2において上昇する。つまり両端電圧vcは単相交流電圧Vinの周期の半分の周期で脈動する。但し両端電圧vcはほぼ一定であってもかまわない。
【0061】
さて
図5,6に例示するように交流電圧Vinに瞬時電圧上昇が生じると、これに伴ってコンデンサC3の両端電圧v3が上昇する。このときスイッチS4が非導通であれば、コンデンサC4はリアクトルL3,L4およびダイオードD40を介して充電される。しかるに、コンデンサC4の充電経路にはコンデンサC3の充電経路と比べてリアクトルL3が更に介在するので、両端電圧vcの上昇は両端電圧v3の上昇に比べて緩やかである。よってこのとき両端電圧v3は両端電圧vcを超えて増大し得る。
【0062】
このように両端電圧v3が両端電圧vcよりも高い状態でスイッチS4が導通すると、コンデンサC3からコンデンサC4へとスイッチS4及びダイオードD43,D42を介して比較的大きな電流(いわゆる突入電流)が流れる。なぜなら、この経路に介在するスイッチS4およびダイオードD43,42は当該経路の電流をあまり抑制しないからである。
図5,6の例示では、電流阻止部4cに流れる電流i4は最大で3000[A]を超える。このときインバータ5には両端電圧v3が入力されるので直流電圧Vdcは両端電圧v3を採るところ、両端電圧v3は両端電圧vcとほぼ等しくなるので、
図5,6に示すように、インバータ5に入力される直流電圧Vdcは両端電圧vcとほぼ等しくなる。
【0063】
そして再びスイッチS4が非導通すると、両端電圧v3が再び両端電圧vcよりも高くなり得る。この状態で再びスイッチS4が導通すると、電流阻止部4cには再び大きな電流が流れる。
図5,6の例示では、瞬時電圧上昇の発生からスイッチS4が2回目に導通した場合にも大きな電流i4が流れている。
【0064】
一方、
図7,8の例示では、直流電圧Vdcは零を採らない。なぜなら、
図1の直接形電力変換装置ではスイッチS4が設けられていないからである。
図1の直接形電力変換装置においても、単相交流電圧Vinの瞬時電圧上昇に起因して両端電圧v3は増大する。そしてダイオード整流器2の出力電圧が増大してダイオードD43,D42が導通すると、コンデンサC3からではなく、ダイオード整流器2から、電流阻止部4c及びダイオードD42を介してコンデンサC4へと電流が流れる。この経路にはリアクトルL3が介在するので、電流i4の時間に対する上昇率が抑えられる。よって電流i4のピークが抑制される。このとき電流i4は鋸波に沿って変動し、
図7,8の例示ではその最大値は100[A]程度以下である。
【0065】
以上のとおり、
図1の直接形電力変換装置よれば、
図4の直接形電力変換装置に比して、電流阻止部4cを流れる電流i4のピークを約30分の1にすることができる。よってダイオードD43として電流容量の小さいダイオードを採用することができる。
【0066】
なお
図7,8の例示では、定常状態における電流i4の最大値は20[A]程度である。よって、瞬時電圧上昇に伴う電流i4のピーク(約100[A])は定常状態における電流i4の5倍程度である。一般にダイオードのサージ電流耐力は定格の10倍以上であるので、ダイオードD43の定格電流をインバータ5の定格電流と同程度に選定すれば、ダイオードD43は瞬時電力上昇に起因する電流のピークにも耐えることができる。
【0067】
第2の実施の形態.
第2の実施の形態にかかる直接形電力変換装置は、
図9に示すように、リアクトルL3に並列に接続される抵抗R3を更に備えている。リアクトルL3は第1の実施の形態と同様にダイオード整流器2の入力側に設けられてもよく、この場合でも
図10に示すように抵抗R3がリアクトルL3に並列接続される。
【0068】
このような抵抗R3はいわゆるダンピング抵抗として機能する。よってこの抵抗R3の抵抗値を調整することで、ダイオード整流器2に入力される入力電流Iinの波形を調整することができる。以下、抵抗R3の抵抗値と入力電流Iinの波形との関係について詳述する。
図11は、単相交流電圧Vinと、抵抗R3の抵抗値を異ならせた場合の入力電流Iinとを示している。
図11では、交流電圧Vinが一番上のグラフとして模式的に表され、抵抗R3の抵抗値が10[Ω]であるときの入力電流Iinが交流電圧Vinの下に示され、抵抗R3の抵抗値が100[Ω]であるときの入力電流Iinが一番下に示されている。
【0069】
なお、ここでは一例としてリアクトルL3のインダクタンスとして460[μH]を採用し、コンデンサC3の静電容量として25[μF]を採用する。この場合、抵抗R3の抵抗値が10[Ω]であるときのフィルタ3の減衰率は0.22であり、抵抗R3の抵抗値が100[Ω]であるときの減衰率は0.02である。
【0070】
図11に示すように、入力電流Iinには周波数の高い高調波成分が生じている。この高調波成分はインバータ5などのスイッチングに起因するものである。抵抗R3の抵抗値が10[Ω]である場合の当該高調波成分は、特に入力電流Iinがピーク又はボトムを採る付近の高調波成分として見て取ることができる。
【0071】
図11において高調波成分の振動幅は、抵抗値が10[Ω]であるときよりも抵抗値が100[Ω]であるときの方が小さい。つまりこの高調波成分は抵抗R3の抵抗値が大きいほど小さい。
【0072】
他方、
図11に示すように、抵抗R3の抵抗値が100[Ω]である場合、当該高調波成分よりも低い周波数の歪みが入力電流Iinに生じている。これは次で述べるように、入力電流Iinと単相交流電圧Vinとの位相差に起因する。即ち、入力電流Iinの位相が単相交流電圧Vinに対して進むと、入力電流Iinが低減して零に至る時点t1において単相交流電圧Vinは正の値v0を採る。
【0073】
そして交流電圧Vinが値v0から低減して零に至るまでの期間t10では、交流電圧Vinは正である。この期間t10は入力電流Iinの交流電圧Vinに対する進相時間であるので、以下では進相時間t10とも呼ぶ。この期間t10では交流電圧Vinが正であるので、ダイオード整流器2は導通せずに、即ち入力電流Iinは負になれずに零となる。
【0074】
また時点t1において交流電圧Vinが正の値v0を採るので、コンデンサC3の両端電圧v3は零にならずに最小値としての所定値(例えば値v0)を採る。
【0075】
交流電圧Vinが零を下回る直後では、交流電圧Vinの絶対値(整流電圧)がコンデンサC3の両端電圧v3を超えないので、ダイオード整流器2は導通せずに入力電流Iinは零を維持する。つまり
図11に例示するように、交流電圧Vinが零に至る時点からその絶対値が両端電圧v3と一致する時点までの期間t20においても、入力電流Iinは零を維持する。
【0076】
そして交流電圧Vinの絶対値がコンデンサC3の両端電圧v3を超えると、ダイオード整流器2が導通する。この導通に伴って入力電流Iinが急峻に変化するところ、抵抗R3の抵抗値が大きくフィルタ3の減衰率が小さい場合には、入力電流IinがLCフィルタの共振作用により振動することとなる(抵抗値が100[Ω]である場合の入力電流Iin参照)。以下では、この入力電流Iinの振動波形をフィルタ共振波形と呼ぶ。
【0077】
一方で、抵抗R3の抵抗値が小さくLCフィルタの減衰率が大きい場合は、入力電流Iinには共振による振動がほとんど生じない。つまり、抵抗R3の抵抗値が小さいほどフィルタ共振波形の振幅は小さい。
【0078】
以上のように、インバータ5等のスイッチングに起因する高調波成分と、LCフィルタの共振に起因するフィルタ共振波形の振幅とは、抵抗R3の抵抗値に対して互いにトレードオフの関係がある。かかるトレードオフの関係を考慮して抵抗R3の抵抗値を調整することで、適宜に入力電流Iinの波形を調整することができる。例えばフィルタ共振波形の振幅を優先的に低減する場合には、抵抗R3の抵抗値として比較的小さい値を採用する。
【0079】
第3の実施の形態.
第3の実施の形態にかかる直接形電力変換装置の構成は第1又は第2の実施の形態にかかる直接形電力変換装置と同じである。ここでは入力電流Iinの共振周波数成分を制御によって抑制することを企図する。まず直接形電力変換装置の制御方法の一例について概説し、入力電流Iinの振動の抑制のための制御についてはその後に述べる。
【0080】
<電力脈動低減の基本的な考え方>
図1で示された直接形電力変換装置においては、ダイオード整流器2が全波整流を行う。よってインバータ5及び誘導性負荷6で消費される電力が一定である場合には(例えば誘導性負荷6が対称三相負荷である場合:これは多くの誘導性負荷に当てはまる)、直流電源線LH,LLに供給される電力は、充放電回路4を無視すれば、単相交流電圧の周波数の2倍の周波数を有して脈動してしまう。そこで充放電回路4によって当該脈動を軽減する。具体的にはバッファ回路4aが直流電源線LH,LLとの間で電力を授受することによって電力脈動を軽減する。
【0081】
ダイオード整流器2に入力する瞬時電力Pinは、入力力率を1として、次式で表される。但し、単相交流電圧Vinの振幅Vm及び電源角速度ω、入力電流Iinの振幅Im、時間tを導入した。電源角速度ωと時間tとの積ωtは単相交流電圧Vinの位相角を表すことになる。また交流波形は、当該交流波形の位相角ωtの正弦値として把握した。
【0083】
式(1)の右辺の第2項が電力脈動を示す。かかる電力脈動を打ち消すためには、バッファ回路4aが、第2項目と同じ値であって極性の異なる瞬時授受電力Pbufを直流電源線LH,LLとの間で授受すればよい。かかる瞬時授受電力Pbufは次式で表される。
【0085】
つまり、瞬時授受電力Pbufは、単相交流電源1から入力される瞬時電力の直流分(Vm・Im/2)と、位相角ωtの二倍の値(2ωt)に対する余弦値cos(2ωt)との積で表されることになる。
【0086】
式(2)から、バッファ回路4aが授受する瞬時電力(以下「瞬時授受電力」)Pbufは正負の値を採り得ることがわかる。瞬時授受電力Pbufは具体的には、単相交流電圧の位相角ωtが0以上π/4以下、3π/4以上5π/4以下又は7π/4以上2π以下である期間(以下「授与期間」と称す)に正の値を採り、これ以外の期間(以下「受納期間」)ときに負の値を採る。つまりバッファ回路4aは、授与期間において瞬時授受電力Pbufの絶対値を直流電源線LH,LLに授与し、受納期間において瞬時授受電力Pbufの絶対値を直流電源線LH,LLから受納する。これにより電力脈動が相殺される。
【0087】
単相交流電圧VinはVm・sin(ωt)で表されることから、上記範囲を換言して、単相交流電圧Vinの絶対値がその振幅Vmの1/√2倍の値よりも低いときには充放電回路4は正の電力を出力し、振幅Vmの1/√2倍の値よりも高いときには負の電力を出力する、とも把握できる。
【0088】
以下、授与期間及び受納期間における具体的動作について説明するが、これに先立ってまず、検討に必要な定式化を行う。
【0089】
図12は
図1に示された回路の等価回路である。
図12に示された等価回路では、ダイオード整流器2及びフィルタ3からインバータ5に電流irec1は、スイッチSrecを経由する電流irec1として等価的に表されている。同様に、コンデンサC4からインバータ5に流れる放電電流icdは、スイッチScを放電電流icdとして等価的に表されている。インバータ5において出力端Pu,Pv,Pwが直流電源線LH,LLの一方に共通して接続されるときにインバータ5を介して誘導性負荷6に流れる電流も、スイッチSzを経由する電流izとして等価的に表されている。なお零電圧ベクトルを含む電圧ベクトルについては後に詳述する。また
図12では、昇圧回路4bを構成するリアクトルL4とダイオードD40とスイッチSlとが表され、リアクトルL4を流れる電流ilが付記されている。
【0090】
また
図12の等価回路においては、フィルタ3の出力電圧が電圧源E1で示されている。電圧源E1はダイオード整流器2が出力する整流電圧(=交流電圧Vinの絶対値)を出力する。つまり、かかる等価回路は、当該コンバータからインバータ5へと電流が流れるとき(スイッチSrecが導通するとき)には、整流電圧がインバータ5に入力されるという考えに基づいている。
【0091】
このようにして得られた等価回路においては、スイッチSrec,Sc,Szが導通するそれぞれの時比率たるデューティdrec,dc,dzとインバータ5に入力される直流電流Idcとを導入して、次式が成立する。
【0093】
なお
図12から分かるように、ダイオード整流器2を流れる電流irecは、スイッチSrecを導通する電流irec1と、リアクトルL4を流れる電流ilとの和と等しい。また電流Irec1は整流デューティdrecと直流電流Idcとの積で表されるので、電流irecは式(3)に示すように、drec・Idcと、電流ilとの和で示される。
【0094】
なお電流irec1,icd,izはそれぞれ直流電流Idcにデューティdrec,dc,dzを乗算したものであるので、これらはスイッチSrec,Sc,Szのスイッチング周期における平均値である。また電流ilも同様にスイッチSlのスイッチング周期における平均値である。
【0095】
また直流電流IdcはスイッチSrec,Sc,Szをそれぞれ導通する電流irec1,icd,izの総和であるので、次式が成立する。
【0097】
よってデューティdrec,dc,dzは、各電流irec1,icd,izに対する直流電流Idcの電流分配率と見ることができる。以下では、デューティdrec,dc,dzをそれぞれ整流デューティdrec、放電デューティdcおよび零デューティdzと称することがある。
【0098】
<授与期間における動作>
授与期間においては、スイッチScを動作させてコンデンサC4から放電電流icdを流すことにより、直流電源線LH,LLへとバッファ回路4aから瞬時授受電力Pbufを授与する。よってスイッチSlは導通させず、電流ilを零とする。つまり授与期間においては昇圧回路4bを動作させない。
【0099】
ここでダイオード整流器2を流れる電流irecを正弦波状にするためには、電流irecが次式を満たせばよい。
【0101】
式(3)においてil=0が成立するので、irec=drec・Idcが成立する。よって式(5)により、整流デューティdrecは次式に設定される。
【0103】
更に、電力脈動を低減するためには、コンデンサC4の両端電圧vcと放電電流icdとの積(vc・icd)が瞬時授受電力Pbuf(式(2))に等しければよい。よって式(2),(3)から放電デューティdcは下式のように設定される。これによって、電力脈動を相殺するためのコンデンサC4の放電が行われる。
【0105】
零デューティdzは式(4)により、1から整流デューティdrecと放電デューティdcとを引いた値となる。
【0106】
なお、実際にはスイッチSrecは設けられず、等価回路において現れているに過ぎない。そしてその導通/非導通は、スイッチSc及びインバータ5の動作に従属して決定される。このような動作については後にインバータ5の動作と共に説明される。
【0107】
<受納期間における動作>
受納期間においては、バッファ回路4aは直流電源線LH,LLへと電力を授与しないので、スイッチScは導通させずに、放電デューティdcを零とする。
【0110】
ここで、電流irec1(=drec・Idc)と単相交流電圧Vinを全波整流した値|Vin|との積が、式(1)で表される瞬時電力Pinの直流分(Vm・Im/2)に等しくすることが望まれる。瞬時授受電力Pbufの授受によって、ダイオード整流器2よりも後段で消費される電力を瞬時電力Pinの直流分という一定値にできるからである。よって下式が導かれる。
【0112】
単相交流電圧VinはVm・sin(ωt)で表され、電流irec1はdrec・Idcで表されるので、式(9)から整流デューティdrecは下式のように設定される。
【0114】
零デューティdzは1から整流デューティdrecを引いた値に設定される(式(4))。このように零デューティdzを設定することにより、出力電力の脈動を相殺するための零電圧ベクトルの期間を設定することができる。
【0115】
次に、リアクトルL4を流れる電流ilについて説明する。授与期間と同様に、ダイオード整流器2を流れる電流irecを正弦波状にするためには、電流irecが式(5)を満足しなければならない。したがって電流ilは、式(8),(10)も考慮して次式で設定される。
【0117】
つまり、受納期間においてダイオード整流器2に入力する入力電流Iinを正弦波状にするための、電流ilが決定される。よってリアクトルL4に流れる電流ilが式(11)を満足するように昇圧回路4bを制御すればよい。この昇圧回路4bはいわゆる連続モード、不連続モード、および、臨界モードのいずれを用いて制御されてもよい。ここでは一例として、不連続モードを用いる場合について説明する。また電流ilはスイッチSlのスイッチング周期についての平均値であり、以下では平均値と区別すべく、その瞬時値を電流ilsとして説明する。
【0118】
図13に不連続モードにおける電流ilsの波形の概念図を示す。スイッチSlのスイッチング周期をTとし、その導通期間をΔT1としている。よってスイッチSlが導通する昇圧デューティdlはΔT1/Tで表される。また
図13に示すように、スイッチSlがオフした後に、リアクトルL4に電流ilsが流れる期間をΔT2としている。
図13の例示では、電流ilsは不連続であるので、期間ΔT1,ΔT2の和は周期Tよりも小さい。ここでは簡単のため、電流ilsの波形を三角波として近似して取り扱う。電流ilsは零からピーク値Ipの間の値を採る。
【0119】
スイッチング周期の始期を基準(零)とする時間tと期間ΔT1,ΔT2との関係から次式が成立する。なお、コンデンサC4の両端電圧vcは昇圧回路4bによって単相交流電圧Vinの振幅Vmよりも高く充電されている。また充電経路のインダクタンスを値Lmとして表した。実際には充電経路のインダクタンスはリアクトルL4のインダクタンスが主となるので、値LmはリアクトルL4のインダクタンスと見ることができる。
【0123】
ピーク値Ipはt=ΔT1が成立するときの電流ilsであるので、ピーク値Ipは式(12)にt=ΔT1を代入することでIp=Vin・ΔT1/Lmで求まる。
【0124】
また式(13)においてt=ΔT2が成立するときにil=0が成立することから、ΔT2=Vin・ΔT1/(vc−Vin)が成立する。かかる関係を考慮しつつ、式(12),(13)からスイッチング周期Tにおける電流ilsの積分値を求め、この積分値をスイッチング周期Tで除算すると電流ilは次式で求まる。
【0126】
よって式(11)も考慮してスイッチSlが導通する昇圧デューティdlは次式で表される。
【0128】
<インバータ動作の制御>
スイッチSc,Slは
図1に示す直接形電力変換装置に設けられるので、上述のようにスイッチSc,Slのデューティを決定することができる。一方で、スイッチSrec,Szは
図1に示す直接形電力変換装置に実際に設けられているわけではない。
図12に示す等価回路上のスイッチSrec,SzはスイッチSc及びインバータ5のスイッチングによって等価的に制御される。スイッチSrec,Szを等価的に制御する方法を説明するために、まずインバータの一般的な制御について説明する。
【0129】
U相に対応する一対のスイッチング素子Sup,Sun、V相に対応する一対のスイッチング素子Svp,Svn及びW相に対応する一対のスイッチング素子Swp,Swnはそれぞれ相互に排他的に制御される。よって、各スイッチング素子のスイッチ状態に応じて、インバータ5の全体としては次の8つのスイッチングパターンが存在する。ここで上側スイッチング素子が導通し、下側スイッチング素子が非導通であるスイッチ状態を「1」で表現し、上側スイッチング素子が非導通であって下側スイッチング素子が導通するスイッチ状態を「0」で表現する。各相についてのスイッチ状態をU相、V相、W相の順で並べると、スイッチングパターンとしては、(0,0,0)(0,0,1)(0,1,0)(0,1,1)(1,0,0)(1,0,1)(1,1,0)(1,1,1)の8つのパターンが存在する。
【0130】
インバータ5において上述の各スイッチングパターンが実現されることにより、当該スイッチングパターンに応じて出力端Pu,Pv,Pwからそれぞれ電流Iu,Iv,Iwが出力される。
【0131】
図14には上記のスイッチングパターンに対応した電圧ベクトルV0〜V7が示されている。電圧ベクトルを示す符号「Vx」の「x」は、スイッチ状態を示す上記3つの数字を3桁の二進数として捉え、当該二進数を10進数に変換した数字を採用している。例えばスイッチングパターン(1,0,0)は電圧ベクトルV4として表される。
【0132】
各電圧ベクトルV1〜V6は、これらの始点を中心点に一致させ、それらの終点を放射状に外側に向けて配置される。各電圧ベクトルV1〜V6の終点同士を結ぶと正六角形を構成する。電圧ベクトルV0,V7では出力端Pu,Pv,Pwが短絡されるので、電圧ベクトルV0,V7は大きさを有さない。よって電圧ベクトルV0,V7は中心点に配置される。かかる電圧ベクトルV0,V7を零電圧ベクトルと称している。
【0133】
なお、各電圧ベクトルV1〜V6のうちの隣り合う2つと、各電圧ベクトルV0,V7とにより構成される正三角形の領域をそれぞれS1〜S6と呼ぶ。
【0134】
インバータ5では上記スイッチングパターンが選択的に採用されて動作する。インバータ5を電圧ベクトルを用いて制御する場合、電圧ベクトルの指令値V*は、電圧ベクトルV0〜V7で合成できる。これらの電圧ベクトルが採用される期間を調整することにより、指令値V*はその位置する領域S1〜S6のそれぞれにおいて任意に設定できる。但し、一つの電圧ベクトルが連続して採用される期間は、単相交流電圧の周期に対して十分に短い期間で設定される。
【0135】
図15のタイミングチャートは、直接形電力変換装置の授与期間における動作を例示している。ここでは簡単のため、キャリヤCとして周期tsを有する三角波を採用する。この三角波では、例えば、最小値および最大値がそれぞれ0,1をとり、増加時の傾斜の絶対値と減少時の傾斜の絶対値とは互いに等しい。
【0136】
授与期間においては上述の通り昇圧回路4bを動作させないので、昇圧デューティdlは零であり、整流デューティdrec、放電デューティdcはそれぞれ式(6),(7)で設定され、零デューティdzは整流デューティdrecと放電デューティdcとに基づいて式(4)で設定される。
【0137】
キャリヤCが整流デューティdrec以上の値を採るときにスイッチSrecが導通すると設定すれば、スイッチSrecは整流デューティdrecで導通することになる(期間trec=drec・tsにおいて等価的に導通)。また式(4)が成立するので、キャリヤCがデューティの和(drec+dz)以上の値を採るときにスイッチScが導通すると設定すれば、スイッチScは放電デューティdcで導通することになる(期間tc=dc・tsで導通)。そしてキャリヤCが整流デューティdrec以上であって和(drec+dz)以下の値を採るときに、スイッチSzが導通することになる(一周期tsにおいて二回出現する期間tz/2=dz・ts/2において導通:キャリヤC増加時の傾斜と減少時の傾斜とは絶対値が等しいので期間tzが二等分されている)。このようにデューティdrec,dzに基づいた指令値をキャリヤCと比較することにより、キャリヤCの一周期tsにおいてスイッチSrec,Sc,Szをそれぞれ等価的に導通させる期間trec,tc,tzが設定される。このようなキャリヤ比較の結果、スイッチScが導通するタイミングが決定される。
【0138】
スイッチSrecを期間trecで導通することと等価な動作をダイオード整流器2に行なわせ、かつ、スイッチSzを期間tzで導通することと等価な動作をインバータ5に行わせるため、インバータ5は下記のような制御を受ける。なお
図15においては、それぞれスイッチング素子Sup,Svp,Swpと排他的に制御されるスイッチング素子Sun,Svn,Swnの導通/非導通については図示を省略している。
【0139】
ここでは簡単のため、インバータ5が有する各スイッチング素子の導通期間も、スイッチSrec,Sc,Szの導通期間trec,tc,tzを導くために用いたキャリヤと同じキャリヤCを用いて求める場合について説明する。
【0140】
図15では、インバータ5において、電圧ベクトルの指令値V*を電圧ベクトルV0,V4,V6を用いて合成する場合が例示されている。かかる合成は例えば電圧ベクトルの指令値V*が領域S1にある場合に採用される。なお、簡単のために零電圧ベクトルV7は採用されない場合について説明するものの、零電圧ベクトルV7を採用してもよい。
【0141】
さて、一般的に、インバータ5の動作を制御する際には出力端Pu,Pv,Pwにおける出力電圧の指令値として、相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*が採用される。
図15に示された場合では、電圧ベクトルV0,V4,V6を用いた変調が例示されているので、0<Vu*<Vv*<Vw*=1の関係が成立する。
【0142】
そしてインバータ5が零電圧ベクトルを採用して動作するときにダイオード整流器2に転流させるべく、キャリヤCが整流デューティdrecの値を採るときを境として、キャリヤCが比較されるべき指令値を変更する。具体的には、キャリヤCがdrec・(1−Vu*)以下のときにスイッチング素子Supを導通させ、キャリヤCがdrec・(1−Vv*)以下のときにスイッチング素子Svpを導通させ、キャリヤCがdrec・(1−Vw*)以下のときにスイッチング素子Swpを導通させる。
【0143】
このような導通パターンは期間trecにおいて、従来の三角波と相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*との比較に相当する。キャリヤCのうち、値0〜drecを採る三角波の部分をVu*、Vv*、Vw*で内分するからである。但し、
図15の例ではVw*=1が成立するので、drec・(1−Vw*)=0が成立し、スイッチング素子Swpは期間trecにおいては導通していない。以上の動作により、期間trecにおいては例えば電圧ベクトルV0,V4,V6,V4,V0がこの順で採用される。
【0144】
また、キャリヤCがdrec+dz+dc・Vu*以上のときにスイッチング素子Supを導通させ、キャリヤCがdrec+dz+dc・Vv*以上のときにスイッチング素子Svpを導通させ、キャリヤCがdrec+dz+dc・Vw*以上のときにスイッチング素子Swpを導通させる。
【0145】
このような導通パターンは期間tcにおいて、従来の三角波と相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*との比較に相当する。キャリヤCのうち、値drec+dz〜1(=drec+dz+dc)を採る三角波の部分をVu*、Vv*、Vw*で内分するからである。但し、
図15の例ではVw*=1が成立するので、drec+dz+dc・Vw*=1が成立し、スイッチング素子Swpは期間tcにおいては導通していない。以上の動作により、期間tcにおいても期間trecと同様に、電圧ベクトルV0,V4,V6,V4,V0がこの順で出力される。
【0146】
期間trec,tcにおける各スイッチング素子の制御により、期間trec,tcで挟まれた期間tz/2においては、スイッチング素子Sup,Svp,Swpが非導通となる。これにより、期間tz/2においては、零電圧ベクトルとして電圧ベクトルV0が出力される。
【0147】
他方、インバータ5が零電圧ベクトル以外で動作するのは、インバータ5が直流電源線LH,LLから電流を受けるときに許される。よって零電圧ベクトル以外でのインバータ5の動作はスイッチSzが非導通のときに行われる。
【0148】
なお、期間tzは、上述の説明から明らかなように、デューティdzによって決定される期間である。言い替えれば、相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に拘わらず(依存せずに)、インバータ5が零電圧ベクトルを採用する期間である。つまり、デューティdzは、インバータ5が出力する電圧の大きさに拘わらず、インバータ5が零電圧ベクトルで動作するデューティである、とも把握できる。また整流デューティdrecは、式(4)を考慮して、放電デューティdcと零デューティdzとの和を1から引いて得られるデューティである、とも把握できる。
【0149】
図16のタイミングチャートは、直接形電力変換装置の受納期間における動作を例示している。受納期間においても授与期間と同じキャリヤCが採用される。また整流デューティdrec、放電デューティdcはそれぞれ式(10),(16)で設定される(但し式(16)で採用される電流ilについては式(11)を用いる)。
【0150】
授与期間と同様に、キャリヤCが整流デューティdrec以上の値を採るときにスイッチSrecが導通すると設定する。しかし受納期間においては上述の通り、放電デューティdcは零であり、式(4)からdrec+dz=1が成立する。よって授与期間とは異なり、スイッチSrec,Szは排他的に導通/非導通することになる。
【0151】
このようにデューティdrecに基づいた指令値をキャリヤCと比較することにより、キャリヤCの一周期tsにおいてスイッチSrec,Szをそれぞれ等価的に導通させる期間trec,tzが設定される。
【0152】
受納期間においてもインバータ5の動作は期間trecにおいて指令値drec・(1−Vu*),drec・(1−Vv*),drec・(1−Vw*)とキャリヤCの値との比較により、スイッチング素子Sup,Svp,Swpの動作が決定され、電圧ベクトルV0,V4,V6,V4,V0がこの順で採用される。
【0153】
またdc=0が成立するので、指令値drec+dz+dc・Vu*,drec+dz+dc・Vv*,drec+dz+dc・Vw*はいずれも1となり、期間tzにおいてはインバータ5は零電圧ベクトルV0に基づいた動作をすることになる。
【0154】
またスイッチSlについては例えば次のように制御される。例えば不連続モードを採用する場合には、スイッチング周期Tとして一定値を採用することができるので、ここでは簡単のためにスイッチング周期TとしてキャリヤCの周期tsを採用する。そして、キャリヤCがデューティdl以下の値を採るときにスイッチSlが導通すると設定すれば、スイッチSlはデューティdlで導通することになる。デューティdlは式(16)においてT=tsを採用して求めることができる。つまりスイッチSlが導通する期間tlはデューティdlと周期tsとの積で求められる。これは
図13の期間ΔT1に相当する。
【0155】
なお、ここではスイッチSlがキャリヤCに同期して、期間trecにおいてスイッチングする場合を例示しているが、期間tzにおいて、または期間tz,trecの双方において、スイッチングしても良く、また、キャリヤC以外のキャリヤに基づいてスイッチングしても良い。
【0156】
<入力電流の共振周波数成分の抑制制御>
入力電流Iinの絶対値たる電流Irecは、ダイオード整流器2からインバータ5へと流れる電流irec1(=drec・Idc)とリアクトルL4を流れる電流ilとの和である(式(8))。よって整流デューティdrec又は電流ilを調整することで電流Irecを調整でき、ひいては入力電流Iinを調整することができる。
【0157】
さて入力電流Iinのフィルタ共振波形は、第2の実施の形態で述べたように、入力電流Iinが零から離れた直後に生じる(
図11参照)。よってこのフィルタ共振波形は主として授与期間T1において生じる。授与期間T1では電流ilは例えば零に設定されるので、授与期間T1では入力電流Iinは電流irec1に依存する。よって第3の実施の形態では、整流デューティdrecを調整することで、電流irecを調整し、ひいては入力電流Iinのフィルタ共振波形を低減することを企図する。
【0158】
一方で、リアクトルL3の両端電圧VLは、
図17に示すように、入力電流Iinの高周波成分(インバータ5のスイッチングによる高調波成分とフィルタ共振波形とを含む)に応じて変動する。電圧VLはリアクトルL3を流れる電流、即ち電流irec、の変化率が高いほど高い値を採る。電流irecは入力電流Iinの絶対値なので、
図17に示すように、入力電流Iinが正の範囲では、その変化率が高いほど電圧VLは高い値を採り、入力電流Iinが負の範囲では、その変化率が低いほど電圧VLが高い値を採る。
【0159】
このように電圧VLには入力電流Iinのフィルタ共振波形に応じて変動する。そこで第3の実施の形態では、リアクトルL3の電圧VLを検出し、検出した電圧VLに基づいて整流デューティdrecを補正する。より詳細には電圧VLが大きいほど整流デューティdrecを低減し、電圧VLが小さいほど整流デューティdrecを増大する補正を行う。より具体的な一例として、電圧VLに所定値Kを乗算した補正値(K・VL)を、整流デューティdrecから減算する補正を行う。以下では、補正後の整流デューティdrecを補正後整流デューティdrec’と呼ぶ。
【0160】
そして、補正後整流デューティdrec’でスイッチSrecを導通させることと等価な制御を、スイッチSc,Slおよびインバータ5に行わせる。具体的な制御は上述したとおりであるものの、整流デューティdrecとしては補正後整流デューティdrec’を採用する。また補正後整流デューティdrec’の採用に伴って、放電デューティdcおよび零デューティdzの少なくとも何れか一方を変更することが望ましい。なぜなら、式(4)より、デューティdrec’,dc,dzの和は1を維持するからである。
【0161】
放電デューティdcは例えば電力脈動を相殺するように式(7)で設定される。よって放電デューティdcを変更すれば、電力脈動の抑制効果が低下する。したがって、ここでは放電デューティdcではなく、零デューティdzを変更する。変更後の零デューティをdz’とする。より詳細には、変更後の零デューティdz’を補正後整流デューティdrec’と放電デューティdcの和を1から減算して求める。
【0162】
そして、デューティdrec’,dc,dz’を用いて上述のようにスイッチSc及びインバータ5制御することで、補正後整流デューティdrec’でスイッチSrecを等価的に導通させることができる。なおこの制御においては、零デューティdz’を用いてインバータ5の零相電流が制御される。
【0163】
かかる制御によれば、補正後整流デューティdrec’は電圧VLが大きいほど低減されるので、電圧VLが大きいときに電流Irec1(=drec’・Idc)を低減できる。言い換えれば、入力電流Iinの変化率が大きいときに、電流Irec(=Irec1+il=|Iin|)を低減できる。これにより、入力電流Iinの共振周波数成分を抑制することができる。
【0164】
図18は補正後整流デューティdrec’を採用した場合のシミュレーション結果を示す。
図17,18の比較から理解できるように、整流デューティdrecの補正により、入力電流Iinの振動(フィルタ共振波形の振幅)を低減できることが分かる。
【0165】
なお
図18の例示では、インバータ5などのスイッチングに起因した高調波成分はほとんど低減されていない。これは次の理由による。即ち、インバータ5では、キャリヤ一周期当たりに複数回のスイッチングが生じる。一方、整流デューティを補正する制御周期はキャリヤ周期と同程度であるので、整流デューティを制御しても、制御が間に合わないのである。
【0166】
また入力電流Iinのフィルタ共振波形は、上述のとおり、入力電流Iinが零から離れる時点以後に生じ、フィルタ3の特性に応じた時間が経過することによって解消する(
図17の入力電流を参照)。よって全ての期間において整流デューティdrecを電圧VLに基づいて補正する必要はなく、少なくとも入力電流Iinが零から離れた時点以後の所定期間において補正が行われれば良い。
図18では、一例として、授与期間T1のみ整流デューティdrecを補正しており、補正の有無が制御切替信号として示されている。
図18では、制御切替信号が活性であるときに整流デューティdrecが補正され、制御切替信号が非活性であるときに整流デューティdrecが補正されない。これにより、入力電流Iinの共振による変動を抑制しつつも、制御処理数を低減することができる。
【0167】
<制御部>
図19は、本直接形電力変換装置を制御する制御部10の概念的な構成の一例を示している。制御部10は、電流分配率生成部11と、共振抑制制御部15と、減算部16と、加算部13,17と、比較部12,14と、キャリヤ生成部23と、出力電圧指令生成部31と、演算部32,33と、比較部34,35と、論理和/論理積演算部36とを備えている。
【0168】
電流分配率生成部11は単相交流電流Vinの振幅Vmと、入力電流Iinの振幅Imと、直流電流Idcについての指令値Idc*と、両端電圧vcについての指令値vc*と、電源角速度ωとを入力する。振幅Vm,Im及び電源角速度ωは例えば公知の検出部を設けることで、検出されて電流分配率生成部11に入力される。指令値Idc*,vc*は不図示の外部から入力される。
【0169】
電流分配率生成部11は、授与期間T1においては、式(6),(7)に基づいて整流デューティdrec及び放電デューティdcをそれぞれ出力するとともに、昇圧デューティdlとして零を出力し、受納期間T2においては式(10),(16)に基づいて整流デューティdrec及び昇圧デューティdlをそれぞれ出力するとともに、放電デューティdcとして零を出力する。また電流分配率生成部11は整流デューティdrecと放電デューティdcとの和を1から減算した値を零デューティdzとして出力する。
【0170】
共振抑制制御部15はリアクトルL3の電圧VLを入力する。電圧VLは公知の電圧検出部7によって検出される。共振抑制制御部15は電圧VLが大きいほど大きい補正値を出力する。例えば電圧VLと所定値Kとの積を補正値として出力する。
【0171】
また
図19の例示では、例えば共振抑制制御部15には電源角速度ωが入力される。共振抑制制御部15は、電源角速度ωと時間tとの積ω・tにより求まる授与期間T1において、電圧VLが大きいほど大きい補正値を出力し、受納期間T2においては零を補正値として出力してもよい。
【0172】
減算部16は整流デューティdrecと補正値とを入力し、整流デューティdrecから補正値を減算し、その結果を補正後整流デューティdrec’として出力する。
【0173】
加算部17は零デューティdzと補正値とを入力し、これらを加算して補正後零デューティdz’として出力する。これにより、補正後零デューティdz’は、補正後整流デューティdrec’と放電デューティdcとの和を1から減算した値となる。
【0174】
補正後整流デューティdrec’と補正後零デューティdz’とは加算部13において加算され、その結果(drec’+dz’)が比較部12においてキャリヤCと比較される。キャリヤCは例えばキャリヤ生成部23で生成される。比較部12の比較結果はスイッチScへ与えるスイッチング信号SScとして出力される。例えば比較部12はキャリヤCが値(drec’+dz’)以上となる期間で活性化した信号をスイッチング信号SScとして出力する。
【0175】
昇圧デューティdlは比較部14においてキャリヤCと比較され、その比較結果がスイッチSlへ与えるスイッチング信号SSlとして出力される。例えば比較部14はキャリヤCが昇圧デューティdl以下となる期間で活性化した信号をスイッチング信号SSlとして出力する。
【0176】
出力電圧指令生成部31は相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
図19の例示では、出力電圧指令生成部31は誘導性負荷6の回転速度ωmと、その指令ωm*とを入力する。回転速度ωmは公知の検出部によって検出され、指令ωm*は不図示の外部によって入力される。出力電圧指令生成部31は回転速度ωmとその指令ωm*との偏差が低減するように、公知の手法によって相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0177】
演算部32は補正後整流デューティdrec’と補正後零デューティdz’と放電デューティdcと相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を入力する。演算部32は値(drec’+dz’+dc・Vx*)(ただしxはu,v,wを代表する)を算出してこれらを出力する。演算部33は補正後整流デューティdrec’と相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*とを入力し、値(drec’・(1−Vx*))を算出してこれらを出力する。
【0178】
値(drec’+dz’+dc・Vx*)は比較部34においてキャリヤCと比較され、値(drec’・(1−Vx*))は比較部35においてキャリヤCと比較される。比較部34は例えばキャリヤCが値(drec’+dz’+dc・Vx*)以上となる期間で活性化した信号を出力し、比較部35は例えばキャリヤCが値(drec’・(1−Vx*))以下となる期間で活性化した信号を出力する。
【0179】
比較部34,35の比較結果は論理和/論理積演算部36に入力される。比較部34,35の比較結果の論理和が、スイッチング素子Sup,Svp,Swpへとそれぞれ与えるスイッチング信号SSup,SSvp,SSwpとして出力され、これらの否定が、スイッチング素子Sun,Svn,Swnへとそれぞれ与えるスイッチング信号SSun,SSvn,SSwnとして出力される。
【0180】
第4の実施の形態.
第4の実施の形態にかかる直接形電力変換装置の構成は第2の実施の形態にかかる直接形電力変換装置と同一である。ここではフィルタ3の定数設定により入力電流Iinの進みを抑制し、共振周波数成分を低減する方法について述べる。
【0181】
リアクトルL3のインダクタンスおよびコンデンサC3の静電容量は、非特許文献4のIII章Aに示される設計法に基づき設定することができる。例えばダイオード整流器2に入力される交流電源1の入力条件として、交流電圧Vinの実効値として230[V]、入力電流Iinの実効値として16[A]を採用すると、表1の欄Jに示す定数が設定される。
【0183】
ここで、%Lは、ダイオード整流器2の定格インピーダンスZに対するリアクトルL3の誘導性リアクタンスの比(=Z/ωL,ωは電源角速度)であり、fcはフィルタ3の遮断周波数である。
【0184】
この場合、入力電流Iinの交流電圧Vinに対する進相時間Δt(位相差を電源角速度ωで除算したもの)は352.2[μ秒]であり、定格入力力率は99.4%である。また内線規定に示される、力率が下限値85%となるときの負荷は定格の18%である。よって、このようなフィルタ3を採用すれば、能力可変範囲が10:1程度とされる空調用インバータでは、力率が85%を下回りえる。このように力率が85%を下回ることは望ましくない。
【0185】
そこで、負荷が定格の10%であるときに力率が85%以上となるように定数を求めた結果を表1の欄Aに示す。かかる定数によれば、コンデンサC3の静電容量が小さくなるので、入力電流Iinの交流電圧Vinに対する進相時間を低減することができる。
図20は、その上部において交流電圧Vinを示し、また欄Aに示す定数を採用した場合の電流波形を、抵抗R3の抵抗値別に示している。抵抗R3の抵抗値が20[Ω]であるときの入力電流Iinが
図20の交流電圧Vinの下部に示され、抵抗値が200[Ω]であるときの入力電流Iinが
図20の最下部に示されている。なお抵抗値が20[Ω]であるときの減衰率は約0.19であり、抵抗値が200[Ω]であるときの減衰率は約0.02である。
【0186】
図20におけるコンデンサC3の静電容量は表1の欄Aで示すとおり15[μF]であり、
図11におけるコンデンサC3の静電容量は表1の欄Jで示すとおり25[μF]であるので、進相時間t10は
図11に比して短くなる。よって、入力電流Iinが零となる時点t1における交流電圧Vinの値v0を
図11に比して低減することができる。これにより、コンデンサC3の両端電圧vcの最小値が低減される。両端電圧vcの最小値が低減すれば、入力電流Iinが零から再び流れ始めるまでの期間t20も小さくなる。したがって、入力電流Iinが流れ始めるときの初期的な変動幅を低減することができ、ひいてはフィルタ共振波形の振幅を小さくすることができる。
【0187】
コンデンサC3の静電容量をさらに小さく設定することで、進相時間t10をさらに低減できるものの、キャリヤ周期にてPWM変調される電流源をキャリヤに同期して電流分配する変調原理より、進相時間t10をキャリヤ周期以下としても、コンデンサC3の両端電圧vcの最小値を下げることができず、入力電流Iinのゼロクロス付近に非通流期間が発生する。表1の欄Bには、キャリヤ周波数5.9[kHz](約キャリヤ周期169.5[μ秒])における、回路定数の下限値が示される。このとき進相時間T10はキャリヤ周期とほぼ同じである。
【0188】
言い換えれば、進相時間t10がキャリヤ周期とほぼ同じとなるコンデンサC3の静電容量を、コンデンサC3の静電容量についての下限値とすることが望ましい。
【0189】
図21は欄Bに示す定数を採用した場合の電流波形を、抵抗R3の抵抗値別に示している。抵抗R3の抵抗値が20[Ω]であるときの入力電流Iinが
図21の上部に示され、抵抗値が200[Ω]であるときの入力電流Iinが
図21の下側に示されている。なお抵抗値が20[Ω]であるときの減衰率は約0.22であり、抵抗値が200[Ω]であるときの減衰率は約0.02である。抵抗R3の抵抗値が大きいほど入力電流Iinの共振周波数成分は増大する。ただし、コンデンサC3の静電容量が更に小さくなるので進相時間t10は更に短くなり、共振周波数成分は
図20で示すそれに比して小さい。