特許第5772925号(P5772925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772925
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】高屈折率高強度樹脂用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/38 20060101AFI20150813BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20150813BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   C08G18/38 Z
   C08G18/76 Z
   G02B1/04
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-229413(P2013-229413)
(22)【出願日】2013年11月5日
(62)【分割の表示】特願2007-201769(P2007-201769)の分割
【原出願日】2007年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-40608(P2014-40608A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2013年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2006-252381(P2006-252381)
(32)【優先日】2006年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基晴
【審査官】 福井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−236818(JP,A)
【文献】 特許第3562579(JP,B2)
【文献】 特開平10−039101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物40重量%〜90重量%、(b)キシリレンジチオール化合物3重量%以上30重量%以下、およびo−、m−およびp−キシリレンジイソシアネートからなる群から選択される(c)化合物2重量%以上30重量%以下を含有する光学材料用樹脂組成物。
【化1】
(1)
(式中、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【請求項2】
前記(a)エピスルフィド化合物が、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド又はビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドである請求項1に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b)キシリレンジチオール化合物が、m−キシリレンジチオール又はp−キシリレンジチオールである請求項1に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(c)化合物が、m−キシリレンジイソシアネートである請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(d)エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物を含む請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(d)エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物が、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネートおよびペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートからなる群より選択される1種以上である請求項5に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項7】
さらに(e)硫黄原子を有する無機化合物を含む請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項8】
光学材料用樹脂組成物中に含まれるNCO基の数に対して光学材料用樹脂組成物中に含まれるSH基の数(SH基数/NCO基数)が1〜2である請求項1に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項9】
さらに(f)重合触媒としてオニウム塩および/又はホスフィン類を光学材料用樹脂組成物に対して0.001重量%〜5重量%含有する請求項1に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項10】
光学材料用樹脂組成物を硬化して得られる光学材料が下記(1)〜(3)を満たす請求項1に記載の光学材料用樹脂組成物。
(1)落球強度が4.5J以上
(2)引張強度が50kgf以上
(3)耐熱性が80℃以上
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物を硬化して得られる光学材料。
【請求項12】
請求項11記載の光学材料からなる光学レンズ。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物を硬化して得られる光学材料の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学材料用樹脂組成物に関し、更には、それを用いたプラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター等の光学材料に関する。中でも本発明はプラスチックレンズとして好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は軽量かつ靭性に富み、また染色が容易であることから、各種光学材料、特に眼鏡レンズに近年多用されている。光学材料、中でも眼鏡レンズに特に要求される性能は、物理的性質としては、低比重、高透明性及び低黄色度、高耐熱性、高強度等であり、光学性能としては高屈折率と高アッベ数である。高屈折率はレンズの薄肉化を可能とし、高アッベ数はレンズの色収差を低減するが、屈折率が上昇するほどアッベ数は低くなるため、両者を同時に向上させる検討が実施されている。これらの検討の中で最も代表的な方法は、特許文献1に示されるエピスルフィド化合物を使用する方法である。
【0003】
一方、高屈折率化にともない薄肉化したレンズに対しては、安全性等の観点から従来に増して高強度が望まれる。レンズに望まれる強度は大きく分けて三種ある。第一に落球強度である。レンズに物が当たった際あるいはレンズを落とした際に簡単に破壊しない強度が必要である。第二に耐ドリル強度である。ドリルでレンズに穴をあける際に欠けや割れが生じないこと、すなわちドリル加工性が良好なことである。いわゆるツーポイントと呼ばれるフレームを装着する場合に穴を開ける必要があるが、この際に欠けや割れが生じない強度が必要である。第三に引張強度である。ツーポイントフレームの使用に耐えるためにはフレームが撓んでもレンズが破壊されない強度が必要である。
同時に、耐熱性も必要である。プラスチックレンズは表面を保護するためにハードコートを付ける事が標準となっているが、ハードコートをかける際に熱がかかるため、耐熱性が必要となっている。
【0004】
従来からエピスルフィド化合物を用いた材料については、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、および特許文献8に示されるようにさまざまな高強度化の検討が行われてきているが、これらの検討では一部の強度試験のみを評価するに終わり、すべての強度試験を満足するものは得られていなかった。更には、より一層の高強度が望ましいことは言うまでも無い。また、高強度のレンズを得ようとした場合、耐熱性の低下が見られる場合があり(特許文献2、特許文献3、および特許文献4)、強度と耐熱性の両立は必須であるが困難であった。また、硬化物が白濁、あるいは硬化が十分でなく、眼鏡用レンズとして実用性に欠けるもの(特許文献5、特許文献6、および特許文献7)もあった。さらには合成困難な材料を用いているため実用化しにくいもの(特許文献8)もあった。
したがって、エピスルフィド化合物を用いたレンズは高屈折率、高アッベ数を有するが、さらに優れた強度と耐熱性を付与したレンズの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3491660号公報
【特許文献2】特許3541707号公報
【特許文献3】特開2001−131257号公報
【特許文献4】特許3562579号公報
【特許文献5】特開平11−352302号公報
【特許文献6】特許3642973号公報
【特許文献7】特開2005−272788号公報
【特許文献8】特許3706036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、優れた光学物性を有し、優れた強度と耐熱性を有する光学材料を提供し得る光学材料用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような状況に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、本課題を解決し、本発明に至った。
すなわち、本発明の一実施形態は、(a)下記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物、(b)キシリレンジチオール化合物および(c)キシリレンジイソシアネート化合物を含有する光学材料用樹脂組成物である。
【化1】
(1)
式中、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を示す。
本発明の好ましい態様は、上記(a)エピスルフィド化合物が、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド又はビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドである光学材料用樹脂組成物である。また、本発明の別の好ましい態様は、上記(b)キシリレンジチオール化合物が、m−キシリレンジチオール又はp−キシリレンジチオールである光学材料用樹脂組成物である。また、本発明の別の好ましい態様は、上記(c)キシリレンジイソシアネート化合物が、m−キシリレンジイソシアネートである光学材料用樹脂組成物である。また、本発明の別の好ましい態様は、上記(c)キシリレンジイソシアネート化合物が、1、3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼンである光学材料用樹脂組成物である。
【0008】
また、本発明の別の好ましい態様は、さらに(d)エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物を含む光学材料用樹脂組成物である。また、本発明の別の好ましい態様は、上記(d)エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物が、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネートおよびペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートからなる群より選択される1種以上である光学材料用樹脂組成物である。また、本発明の別の好ましい態様は、さらに(e)硫黄原子を有する無機化合物を含む光学材料用樹脂組成物である。
また、本発明の別の好ましい態様は、光学材料用樹脂組成物中に含まれるNCO基の数に対して光学材料用樹脂組成物中に含まれるSH基の数(SH基数/NCO基数)が1〜2である光学材料用樹脂組成物である。また、本発明の別の好ましい態様は、上記(a)エピスルフィド化合物が、光学材料用樹脂組成物に対して40重量%〜90重量%含まれる光学材料用樹脂組成物である。また、本発明の別の好ましい態様は、さらに(f)重合触媒としてオニウム塩および/又はホスフィン類を光学材料用樹脂組成物に対して0.001重量%〜5重量%含有する光学材料用樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の他の実施形態は、上記光学材料用樹脂組成物を硬化して得られる光学材料である。
本発明の好ましい態様によれば、高強度、高耐熱性などの優れた特性を有する光学材料用樹脂組成物及び光学材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、(a)下記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物、(b)キシリレンジチオール化合物および(c)キシリレンジイソシアネート化合物を含有する光学材料用樹脂組成物である。
【化2】
(1)
式中、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を示す。
本発明では、高い屈折率と良好なアッベ数のバランスを有する光学材料を提供するために、上記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物が用いられる。
(a)の一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物の具体例としては、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、ビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィド、などが好ましく挙げられる。一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物は単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。中でも好ましいエピスルフィド化合物は、下記構造式で表されるビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドであり、最も好ましいエピスルフィド化合物は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドである。
【化3】
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
【化4】
ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド
【0011】
(b)のキシリレンジチオール化合物の具体例としては、o−、m−、およびp−キシリレンジチオールが好ましく挙げられる。中でも好ましいキシリレンジチオール化合物は、下記構造式で表されるm−キシリレンジチオール、p−キシリレンジチオールであり、特に好ましいキシリレンジチオール化合物はm−キシリレンジチオールである。
【化5】
m−キシリレンジチオール
【化6】
p−キシリレンジチオール
【0012】
(c)のキシリレンジイソシアネート化合物の具体例としては、o−、m−およびp−キシリレンジイソシアネート、1,2−、1,3−、および1,4−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼンなどが好ましく挙げられる。これらは単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。中でも好ましいキシリレンジイソシアネート化合物は、下記構造式で表されるm−キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼンであり、特に好ましいキシリレンジイソシアネート化合物はm−キシリレンジイソシアネートである。
【化7】
1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼン
【化8】
m−キシリレンジイソシアネート
【0013】
また、(c)キシリレンジイソシアネート化合物は単独で用いることが望ましいが、キシリレンジイソシアネートと1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼンを任意の割合で混合しても良い。混合して用いる場合、好ましい混合の割合を、NCO基のモル数の比で表すならば次のとおりになる。キシリレンジイソシアネート中のNCO基のモル数をz、1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼン中のNCO基のモル数をuとした場合、z/uが0.01以上10以下であることが好ましい。より好ましくは0.05以上2以下、更に好ましくは0.1以上1以下である。
【0014】
また、キシリレンジチオール化合物と、エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物との混合の割合は任意であるが(ただし、キシリレンジチオール化合物は必ず用いる)、より優れた物性を発現させるためにはキシリレンジチオール化合物を主成分とし、エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物を副成分として用いることが好ましい。好ましい混合の割合を、SH基のモル数の比で表すならば次のとおりになる。エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物中のSH基のモル数をx、キシリレンジチオール化合物中のSH基のモル数をyとしたときにx/yが0.01以上2以下であることが好ましい。より好ましくは0.1以上1.2以下、更に好ましくは0.2以上1.0以下、最も好ましくは0.3以上0.8以下である。
【0015】
(d)のエステル基とメルカプト基の両方を有する化合物の具体例としては、エチレングリコールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどが好ましく挙げられる。中でも好ましい化合物は、下記構造式で表されるトリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートであり、最も好ましい化合物は、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートである。これらは単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。
【化9】
ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート
【化10】
ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート
【化11】
トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート
【化12】
トリメチロールプロパントリスチオグリコレート
【0016】
(e)の硫黄原子を有する無機化合物の具体例としては、硫黄、硫化水素、二硫化炭素、硫化セレン、セレノ硫化炭素、硫化アンモニウム、二酸化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄酸化物、チオ炭酸塩、硫酸およびその塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、二塩化硫黄、塩化チオニル、チオホスゲン等のハロゲン化物、硫化ホウ素、硫化窒素、硫化珪素、硫化リン、硫化砒素、金属硫化物、金属水硫化物等が好ましく挙げられる。これらの中でも好ましい無機化合物は硫黄、二硫化炭素、硫化セレンであり、特に好ましい無機化合物は硫黄である。これらは単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。(e)無機化合物の添加量は全樹脂量に対して0.01〜30重量%、好ましくは、0.1〜20重量%、更に好ましくは、1〜10重量%である。
【0017】
本発明の目的の一つである高強度を発現させるためには、光学材料用樹脂組成物中に含まれるNCO基の数に対して光学材料用樹脂組成物中に含まれるSH基の数(SH基数/NCO基数)が1以上であることが望ましい。より好ましくは1.1以上、更に好ましくは1.2以上である。一方、高い耐熱性を維持するためには光学材料用樹脂組成物中に含まれるNCO基の数に対して光学材料用樹脂組成物中に含まれるSH基の数(SH基数/NCO基数)が2以下であることが望ましい。より好ましくは1.9以下、更に好ましくは1.8以下である。
【0018】
高い屈折率と良好なアッベ数のバランスを有する光学材料であるためには、高い屈折率と良好なアッベ数のバランスを有する(a)エピルスルフィド化合物の割合が光学材料用樹脂組成物に対して40重量%以上であることが望ましい。より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上である。一方、高強度を維持するためには、(a)エピルスルフィド化合物の割合が光学材料用樹脂組成物に対して90重量%以下であることが望ましく、より好ましくは85重量%以下、更に好ましくは80重量%以下である。
(b)キシリレンジチオール化合物の割合が、光学材料用樹脂組成物に対して1重量%以上50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは3重量%以上30重量%以下、更に好ましくは5重量%以上20重量%以下である。
(c)キシリレンジイソシアネート化合物の割合が、光学材料用樹脂組成物に対して1重量%以上50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは2重量%以上30重量%以下、更に好ましくは3重量%以上20重量%以下である。
【0019】
本発明では、更に(f)重合触媒としてオニウム塩やホスフィン化合物が好ましく用いられる。具体例としては第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第3級スルホニウム塩、第2級ヨードニウム塩、ホスフィン化合物などが好ましく挙げられる。中でも光学材料用樹脂組成物との相溶性の良好な第4級アンモニウム塩および第4級ホスホニウム塩、ホスフィン化合物がより好ましく、さらに好ましくは第4級ホスホニウム塩である。より好ましい化合物の具体例としては、テトラ−n−メチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−エチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラオクチルアンモニウムクロライド、テトラフェニルアンモニウムクロライド、テトラ−n−メチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−エチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラオクチルアンモニウムブロマイド、テトラフェニルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−メチルホスホニウムクロライド、テトラ−n−エチルホスホニウムクロライド、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロライド、テトラオクチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラ−n−メチルホスホニウムブロマイド、テトラ−n−エチルホスホニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラオクチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい化合物は、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルホスフィンであり、最も好ましい化合物は、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドである。
【0020】
(f)重合触媒の添加量は、光学材料用樹脂組成物の成分、混合比および重合硬化方法によって変化するため一概には決められないが、通常は光学材料用樹脂組成物に対して0.001重量%以上5重量%以下が好ましく、より好ましくは、0.01重量%以上1重量%以下、最も好ましくは、0.01重量%以上0.5重量%以下である。(f)重合触媒の添加量が5重量%より多いと硬化物の屈折率、耐熱性が低下し、着色する場合がある。また、0.001重量%より少ないと十分に硬化せず耐熱性が不十分となる場合がある。
【0021】
光学材料用樹脂組成物を重合硬化させる際に、ポットライフの延長や重合発熱の分散化などを目的として、必要に応じて重合調整剤を添加することができる。重合調整剤は、長期周期律表における第13〜16族のハロゲン化物を挙げることができる。これらのうち好ましい化合物は、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物であり、より好ましい化合物はアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物である。さらに好ましい化合物は具体的にはジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム、トリフェニルアンチモンジクロライドであり、最も好ましい化合物の具体例は、ジブチルスズジクロライドである。重合調整剤は単独でも2種類以上を混合して使用してもよい。
【0022】
また、他の重合調整剤としてホスフェートやフェニルホウ酸を挙げることができる。これらのうち好ましい化合物は、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジブトキシエチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソデシルホスフェート、ジラウリルホスフェート、ジステアリルホスフェート、ジ−n−ヘキサデシルホスフェート、ジオレイルホスフェート、ジテトラコシルホスフェート、ジフェニルホスフェート、ジエチレングリコールホスフェート、フェニルホウ酸であり、さらに好ましい化合物はジフェニルホスフェート、フェニルホウ酸であり、最も好ましい化合物はジフェニルホスフェートである。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもよい。
重合調整剤の添加量は、通常、光学材料用樹脂組成物に対して、0.0001〜5.0重量%であり、好ましくは0.0005〜3.0重量%であり、より好ましくは0.001〜2.0重量%である。
【0023】
本発明の光学材料用樹脂組成物において、硬化物の屈折率等の諸物性を調節するために、(a)化合物以外のエピスルフィド化合物、(b)化合物以外のチオール化合物、(c)化合物以外のイソシアネート化合物、エポキシ化合物、不飽和基を有するアルコール類を併用することも可能である。
【0024】
また、本発明の光学材料用樹脂組成物を重合硬化して光学材料を得る際、周知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤等の添加剤を加えて、得られる材料の実用性をより向上せしめることはもちろん可能である。
【0025】
酸化防止剤の好ましい例としてはフェノール誘導体が挙げられる。中でも好ましい化合物は多価フェノール類、ハロゲン置換フェノール類であり、より好ましい化合物はカテコール、ピロガロール、アルキル置換カテコール類であり、最も好ましい化合物はカテコール、ピロガロールである。紫外線吸収剤の好ましい例としてはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物が挙げられる。中でも好ましい化合物はベンゾトリアゾール系化合物であり、特に好ましい化合物の具体例は2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ペンチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールである。ブルーイング剤の好ましい例としてはアントラキノン系化合物が挙げられる。これらの酸化防止剤、紫外線吸収剤およびブルーイング剤の添加量は、通常、光学材料用樹脂組成物に対してそれぞれ0.000001〜5重量%である。
【0026】
また、本発明の光学材料用樹脂組成物は重合中に型から剥がれやすい場合は、周知の外部および/または内部密着性改善剤を使用または添加して、得られる硬化物と型の密着性を向上せしめることも可能である。密着性改善剤としては、周知のシランカップリング剤やチタネート化合物類などが挙げられ、これらは単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。添加量は通常、光学材料用樹脂組成物に対して0.0001〜5重量%である。逆に、本発明の光学材料用樹脂組成物は重合後に型から剥がれにくい場合は、周知の外部および/または内部離型剤を使用または添加して、得られる硬化物の型からの離型性を向上せしめることも可能である。離型剤としては、フッ素系ノニオン界面活性剤、シリコン系ノニオン界面活性剤、燐酸エステル、酸性燐酸エステル、オキシアルキレン型酸性燐酸エステル、酸性燐酸エステルのアルカリ金属塩、オキシアルキレン型酸性燐酸エステルのアルカリ金属塩、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸エステル、パラフィン、ワックス、高級脂肪族アミド、高級脂肪族アルコール、ポリシロキサン類、脂肪族アミンエチレンオキシド付加物などが挙げられ、これらは単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。添加量は通常、光学材料用樹脂組成物に対して0.0001〜5重量%である。
【0027】
本発明の光学材料用樹脂組成物を重合硬化して光学材料を製造する方法は、さらに詳しく述べるならば以下の通りである。前述した各組成成分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合触媒、ラジカル重合開始剤、密着性改善剤、離型剤などの添加剤を、全て同一容器内で同時に撹拌下に混合しても、各原料を段階的に添加混合しても、数成分を別々に混合後さらに同一容器内で再混合しても良い。各原料および副原料はいかなる順序で混合してもかまわない。混合にあたり、設定温度、これに要する時間等は基本的には各成分が十分に混合される条件であれば良い。
【0028】
本発明では光学材料用樹脂組成物に対し、あらかじめ脱気処理を行うことが好ましく、これにより光学材料の高度な透明性が達成される場合がある。脱気処理は、組成成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物、重合触媒、添加剤の混合前、混合時あるいは混合後に、減圧下に行うことが好ましい。好ましくは、混合時あるいは混合後に、減圧下に行う。処理条件は、0.001〜50torrの減圧下、1分〜24時間、0℃〜100℃で行う。減圧度は、好ましくは0.005〜25torrであり、より好ましくは0.01〜10torrであり、これらの範囲で減圧度を可変してもよい。脱気時間は、好ましくは5分〜18時間であり、より好ましくは10分〜12時間である。脱気の際の温度は、好ましくは5℃〜80℃であり、より好ましくは10℃〜60℃であり、これらの範囲で温度を可変してもよい。脱気処理の際は、撹拌、気体の吹き込み、超音波などによる振動などによって、樹脂組成物の界面を更新することは、脱気効果を高める上で好ましい操作である。脱気処理により、除去される成分は、主に硫化水素等の溶存ガスや低分子量のチオール等の低沸点物等である。さらには、これらの樹脂組成物および/または混合前の各原料を0.05〜10μm程度の孔径を有するフィルターで固形物等を濾過し精製することは本発明の光学材料の品質をさらに高める上からも好ましい。
このようにして得られた光学材料用樹脂組成物は、ガラスや金属製の型に注入し、加熱や紫外線などの活性エネルギー線の照射によって重合硬化反応を進めた後、型から外される。好ましくは、加熱によって重合硬化する。この場合、硬化時間は0.1〜200時間、通常1〜100時間であり、硬化温度は−10〜160℃、通常−10〜140℃である。重合は所定の重合温度で所定時間ホールドし、0.1℃〜100℃/時間で昇温し、0.1℃〜100℃/時間で降温およびこれらの組み合わせで行う。また、重合終了後、硬化物を50〜150℃の温度で10分〜5時間程度アニール処理を行う事は、本発明の光学材料の歪を除くために好ましい処理である。さらに必要に応じて染色、ハードコート、耐衝撃性コート、反射防止、防曇性付与等表面処理を行うことができる。
こうして得られた重合体は、3次元架橋しているため不溶、不融化した樹脂状物である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、評価は以下の方法で行った。
落球強度:2.5mm厚の平板に127cmの高さから10gの鉄球を落下させて、順次鉄球の重量を10gずつ増加させて平板が破壊するまで試験を行い、破壊した時の鉄球の与えた衝撃エネルギー(J)を測定した。
耐ドリル強度:ドリルの回転数2500rpm、進入速度600mm/分で2.5mm厚の平板に直径2mmの穴を開けたときの周辺部の状態を測定した。周辺部に欠けが見られないものを○、見られたものを×とした。
引張強度:直径50mm、2mm厚のプラノーレンズの両端から4mmのところに直径2mmの穴を開けた。2つの穴にピンを差し込んで両端を固定し、10mm/分の速度で引っ張り、破壊時の強度(kgf)を測定した。
耐熱性:3mm厚の試料に直径1mmのピンを乗せて10gの荷重を与え、30℃から10℃/分で昇温してTMA測定を行い、熱膨張が変化したピークの値を測定した。80℃以上を○、80℃未満を×とした。
屈折率、アッベ数:アッベ屈折率計(株式会社アタゴ製アッベ屈折率測定機NAR−4T)を用い、25℃で測定した。
屈折率の測定では、d線(587.6nm、黄色)での屈折率を測定した。これは、一般的にndと表記される。
アッベ数の測定では、まずd線(587.6nm、黄色)、F線(486.1nm、青色)、C線(656.3nm、赤色)での屈折率を測定した。それぞれの数値をnd、nF、nCとした場合、アッベ数νdは以下の計算式で求められる。
νd=(nd−1)/(nF−nC)
【0030】
実施例1
(a)エピスルフィド化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィドを67重量部、(b)キシリレンジチオール化合物としてm−キシリレンジチオールを16重量部、(c)キシリレンジイソシアネート化合物として1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼンを17重量部、内部離型剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム0.005重量部、重合調整剤としてジブチルスズジクロライド0.05重量部、重合触媒としてテトラブチルホスホニムブロマイド0.1重量部、抗酸化剤としてカテコール0.005重量部、および紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール0.5重量部を混合し、室温で攪拌して均一液とした。次に上記組成物を10torrの減圧下で30分脱気を行った後、レンズ用モールドに注入し、オーブン中で30℃から100℃まで22時間かけて昇温して重合硬化させた。その後、型から外し、110℃で1時間加熱してアニール処理を行った。得られたレンズは透明であり、良好な外観であった。光学物性、強度、耐熱性を測定し、その結果を表1に示した。
【0031】
実施例2〜6
実施例1に示す操作を、表1に示す組成で実施した。得られたレンズはいずれも透明であり、良好な外観であった。光学物性、強度、耐熱性を測定し、その結果を表1に示した。
【0032】
実施例7〜14
表1に示すように、(d)エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物を併用した組成で実施した。得られたレンズはいずれも透明であり、良好な外観であった。光学物性、強度、耐熱性を測定し、その結果を表1に示した。
【0033】
実施例15、16
表1に示すように、(e)硫黄原子を有する無機化合物を併用した組成で実施した。得られたレンズはいずれも透明であり、良好な外観であった。光学物性、強度、耐熱性を測定し、その結果を表1に示した。
【0034】
実施例17〜20
表1に示すように、(d)エステル基とメルカプト基の両方を有するおよび(e)硫黄原子を有する無機化合物を併用した組成で実施した。得られたレンズはいずれも透明であり、良好な外観であった。光学物性、強度、耐熱性を測定し、その結果を表1に示した。
【0035】
比較例1〜8
実施例1に示す操作を、表2に示す組成で実施した。(b)キシリレンジチオール化合物または(c)キシリレンジイソシアネート化合物を用いずに、他の化合物を用いた組成で重合硬化させたため、強度が十分に出なかった。さらには、耐熱性も不十分な例もみられた。
【0036】
【表1】
化合物略称
(a)エピスルフィド化合物
a−1:ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
a−2:ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド
(b)キシリレンジチオール化合物
b−1:m−キシリレンジチオール
b−2:p−キシリレンジチオール
(c)キシリレンジイソシアネート化合物
c−1:1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼン
c−2:m−キシリレンジイソシアネート
(d)エステル基とメルカプト基の両方を有する化合物
d−1:ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート
d−2:ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート
d−3:トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート
d−4:トリメチロールプロパントリスチオグリコレート
(e)硫黄原子を有する無機化合物
e−1:硫黄
【0037】
【表2】
化合物略称
a−1:ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
a−2:ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド
b−1:m−キシリレンジチオール
b−2:p−キシリレンジチオール
DMDS:ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド
DMMD:2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン
c−1:m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート
c−2:m−キシリレンジイソシアネート
BIC:1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン
DIMB:ジ(イソシアネートメチル)ビシクロヘプタン
BIND:2,5−ビス(イソシアネートメチル)−1,4−ジチアン
e−1:硫黄
【0038】
本発明の好ましい態様である光学材料用樹脂組成物を重合硬化することにより、これまで従来の化合物を原料とする限り困難であった、十分に高い屈折率と良好なアッベ数を有し、更に高い強度と耐熱性を有する光学材料を提供することが可能となった。