(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772941
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】プラズマCVD装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20150813BHJP
C23C 16/509 20060101ALI20150813BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20150813BHJP
H01L 31/0747 20120101ALI20150813BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/509
H01L31/04 420
H01L31/06 455
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-266490(P2013-266490)
(22)【出願日】2013年12月25日
(62)【分割の表示】特願2010-9752(P2010-9752)の分割
【原出願日】2010年1月20日
(65)【公開番号】特開2014-75606(P2014-75606A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2014年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江尻 広恵
(72)【発明者】
【氏名】坂本 桂太郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 文保
【審査官】
正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−090939(JP,U)
【文献】
特開平06−124906(JP,A)
【文献】
特開2003−342737(JP,A)
【文献】
特開平04−297578(JP,A)
【文献】
特開2007−214296(JP,A)
【文献】
特開2000−012471(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/022179(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/509
H01L 31/0747
H01L 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と該真空容器に排気配管によって接続された排気装置とを有し、該真空容器内には基板保持材を兼ねた接地電極と、該接地電極と相対向する位置に配置された第一放電電極とを有し、該真空容器内に原料ガスを導入してプラズマを形成し、基板表面に薄膜を形成するプラズマCVD装置において、
前記第一放電電極に複数配置された前記原料ガスを導入する給気孔と、
前記第一放電電極に複数配置されたプラズマ発生孔と、
前記第一放電電極に形成された、連結溝の構造を有する高さ5mm以上の1個の給気室と、
前記第一放電電極と同電位に保たれた第二放電電極とを具備し、
該第二放電電極は、第一放電電極の側面を覆うように配置され、かつ、前記第一放電電極の前記接地電極と反対側の面と第二放電電極との間に空間を有し、
該空間が前記真空容器内の排気配管接続口と連通しており、
前記空間と前記プラズマ発生孔が連通しているプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記第一放電電極に複数配置されたプラズマ発生孔の直径が、前記第一放電電極に複数配置された前記原料ガスを導入する給気孔の直径よりも大きい請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記接地電極と前記第一放電電極の中間よりも第一放電電極側に位置する電位制御板を備え、該電位制御板は複数の貫通孔を備え、電位を一定に保つための電源に接続されている請求項1または2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
前記電位制御板に設けられた複数の貫通孔と、前記第一放電電極に複数配置されたプラズマ発生孔とが、各々接地電極方向において重なって配置されている請求項3に記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
真空容器を減圧に保持し、該真空容器内の接地電極上に基板を設置し、該接地電極と相対向する第一放電電極に高周波電力を印加してプラズマを形成し、原料ガスを前記真空容器内に導入して前記基板に薄膜を形成するプラズマCVD方法において、
前記原料ガスの導入を前記第一放電電極に複数配置された給気孔より行い、
前記第一放電電極を前記基板方向に貫通し、前記真空容器を排気する排気配管接続口に連通した複数のプラズマ発生孔内でプラズマを形成し、
連結溝の構造を有する高さ5mm以上の1個の給気室を有する前記第一放電電極と同電位に保たれ、前記第一放電電極を挟んで前記接地電極と反対側の位置に、前記第一放電電極の前記接地電極と反対側の面との間に空間を持つように配置された第二放電電極に
該空間と連通するように設けられた排気配管接続口より前記真空容器内の排気ガスを除去するプラズマCVD方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置およびプラズマCVD方法に関するものである。特に、シリコン薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ等に利用されるアモルファスシリコン薄膜を形成するためのプラズマCVD装置およびプラズマCVD法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン系薄膜太陽電池に用いられるアモルファスシリコン薄膜を作成する技術として、
図7に示す装置を用いた平行平板型プラズマCVD法が採用されている。このような従来の平行平板型プラズマCVD装置は、放電電極と、放電電極と相対向する位置に配置された基板保持部材を兼ねた接地電極を持ち、放電電極表面に原料ガスを供給するための小穴を複数設けて基板の前面空間に均一にガスを供給し、真空容器内を排気系により一定の圧力に保持し、放電電極に高周波電力を印加してプラズマを発生させ、基板表面にアモルファスシリコン薄膜を形成する。
【0003】
しかし、このような平行平板型プラズマCVD装置はガスを均一に排気する工夫がなく、大面積基板を用いた場合では、排気の不均一によりアモルファスシリコン薄膜の膜質や厚み等にムラが発生する。
【0004】
さらに、平行平板型プラズマCVD法で生成したアモルファスシリコン薄膜は、光照射により膜中の中性ダングリングボンド(欠陥)が増大し、光劣化を起こすことが知られている。この光劣化はStarber−Wronski効果として30年以上前に見出されているにも関わらず、現在も解消されていない。この光劣化を起こすメカニズムは明確に解明されたわけではないが、膜中のSi−H
2結合濃度と相関があることが知られている。 太陽電池の変換効率は、入射光による入力エネルギーを100mW/cm
2で規格化した場合、開放電圧Voc(V)×短絡電流密度Jsc(A/cm
2)×曲線因子FF(%)で求められる。曲線FFは、太陽電池の電圧−電流特性における最大出力点の[電圧×電流]を、[開放電圧Voc×短絡電流Isc]で割った値となる。FFは光劣化により低下するが、Si−H
2結合濃度が低い膜では、劣化前と劣化後のFFの差(△FF)が小さくなることが報告されている(非特許文献1)。また、非特許文献2では、Si−H
2結合濃度1.8%で劣化前効率9.00%、△FF10.1%、劣化後効率7.43%のアモルファスシリコン膜と、Si−H
2結合濃度<0.9%で劣化前効率8.79%、△FF3.9%、劣化後効率8.09%のアモルファスシリコン膜が報告されている。このように、Si−H
2結合濃度を抑え、△FFが小さくなったアモルファスシリコン膜を用いることにより、劣化後効率の高い薄膜太陽電池を作製することができる。Si−H
2結合濃度が増加する原因として、成膜中に発生する高次シラン(Si
mH
2m+1:m≧4)が膜中に取り込まれることが挙げられる。高次シランの膜中への混入を防ぎ、光劣化の少ない高品質な膜を形成するためには、高次シランを速やかにプラズマ反応領域から除去する必要がある。
【0005】
これらの課題を解決する手法として、例えば特許文献1に開示されているような装置がある。このプラズマCVD装置は、放電電極または接地電極にプラズマ空間へガスを放出するための内径0.1〜1.0mmのガス噴出口と、プラズマ空間からガスを排気するための内径がデバイ長さ以下の排気ノズルを複数備え、電極内部にガス噴出口へガスを供給するためのガス室を持ち、放電電極の側面および裏面をデバイ長さ以下の距離を保ってアースシールドで包囲し、アースシールドと放電電極裏面との間に排気ノズルと連通した排気室を設けている。電極の全面にガス噴出し口と排気ノズルを配置することにより、大面積基板においても均一な排気が可能である。しかしながら、ガス排気のための排気ノズルの内径がデバイ長さ以下であるため排気ノズル内でプラズマを形成することができない構造であり、加えて排気ノズルのサイズが限定されることによって排気能力が制限されるため、高次シランを除去するための十分な排気能力を実現できないという問題を持っている。
【0006】
また、
図6に特許文献2記載の装置を示した。この装置によれば、ガス吸入口と連通した排気室により、プラズマ中で発生した高次シランをプラズマ反応領域から除去することが可能ではある。しかしながら、排気系へガスを送る排気管が電極の側面に設けられているため、大型化した場合に排気ムラが発生するとともに、排気能力が制限されるという問題がある。
【0007】
また、特許文献3に開示されている装置がある。この装置は、多孔高周波電極と多孔接地電極と基板が対面配置されており、基板側から原料ガスを給気し、多孔高周波電極と多孔接地電極の孔内でプラズマを発生させ、さらに多孔高周波電極を加熱することによって多孔接地電極との間に熱勾配を作り、熱泳動によって高次シランのようなラージクラスタを排気ガスとともに除去することが可能な装置である。しかし、基板の周囲に配置したリング状のガス供給管より原料ガスを給気する構造であるため、基板が大面積である場合では給気ムラが発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平6−124906号公報
【特許文献2】特開2000−12471号公報
【特許文献3】国際公開WO2006/022179パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.Matsuda et al., Solar Energy Materials & Solar Cells 78 (2003) 3-26
【非特許文献2】S.Shimizu et al., Journal of Non-Crystalline Solids 338-340 (2004) 47-50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、大面積の基板においても原料ガスの均一な給排気が可能であり、且つプラズマ空間で発生した高次シランを速やかに除去することを目的とし、ひいては、光劣化の少ない高品質なアモルファスシリコン薄膜を得ることを可能とするプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置およびプラズマCVD方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のプラズマCVD装置は以下の構成をとる。すなわち、
(1)
真空容器と該真空容器に排気配管によって接続された排気装置とを有し、該真空容器内には基板保持材を兼ねた接地電極と、該接地電極と相対向する位置に配置された第一放電電極とを有し、該真空容器内に原料ガスを導入してプラズマを形成し、基板表面に薄膜を形成するプラズマCVD装置において、
前記第一放電電極に複数配置された前記原料ガスを導入する給気孔と、
前記第一放電電極に複数配置されたプラズマ発生孔と、
前記第一放電電極に形成された
、連結溝の構造を有する高さ5mm以上の1個の給気室と、
前記第一放電電極と同電位に保たれた第二放電電極とを具備し、
該第二放電電極は、第一放電電極の側面を覆うように配置され、かつ、前記第一放電電極の前記接地電極と反対側の面と第二放電電極との間に空間を有し、
該空間が前記真空容器内の排気配管接続口と連通しており、
前記空間と前記プラズマ発生孔が連通しているプラズマCVD装置、
(2)
前記第一放電電極に複数配置されたプラズマ発生孔の直径が、前記第一放電電極に複数配置された前記原料ガスを導入する給気孔の直径よりも大きい(1)に記載のプラズマCVD装置、
(3)
前記接地電極と前記第一放電電極の中間よりも第一放電電極側に位置する電位制御板を備え、該電位制御板は複数の貫通孔を備え、電位を一定に保つための電源に接続されている(1)または(2)に記載のプラズマCVD装置、
(4)
前記電位制御板に設けられた複数の貫通孔と、前記第一放電電極に複数配置されたプラズマ発生孔とが、各々接地電極方向において重なって配置されている(3)に記載のプラズマCVD装置、
(5)
真空容器を減圧に保持し、該真空容器内の接地電極上に基板を設置し、該接地電極と相対向する第一放電電極に高周波電力を印加してプラズマを形成し、原料ガスを前記真空容器内に導入して前記基板に薄膜を形成するプラズマCVD方法において、
前記原料ガスの導入を前記第一放電電極に複数配置された給気孔より行い、
前記第一放電電極を前記基板方向に貫通し、前記真空容器を排気する排気配管接続口に連通した複数のプラズマ発生孔内でプラズマを形成し、
連結溝の構造を有する高さ5mm以上の1個の給気室を有する前記第一放電電極と同電位に保たれ、前記第一放電電極を挟んで前記接地電極と反対側の位置に、前記第一放電電極の前記接地電極と反対側の面との間に空間を持つように配置された第二放電電極に
該空間と連通するように設けられた排気配管接続口より前記真空容器内の排気ガスを除去するプラズマCVD方法、
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に説明するとおり、アモルファスシリコン薄膜を形成するプラズマCVD装置において、プラズマ空間で発生した高次シランを速やかに除去することができ、光劣化の少ない高品質なアモルファスシリコン薄膜を得ることができる。また、薄膜シリコン太陽電池に適用した場合は、非常に劣化後発電効率の高い膜を提供できる。さらに装置構造に起因して装置の排気能力を制限せずに、均一なガス排気と均一な原料ガスの給排気を行うことが可能である。これによって大面積基板においても膜質および膜厚が均一な薄膜形成を可能とするプラズマCVD装置および薄膜形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明にかかる第一の実施形態によるプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明にかかる第一の実施形態によるプラズマCVD装置の第一放電電極と第二放電電極の基板側表面の構造を示す概略図である。
【
図3】本発明にかかる第一の実施形態によるプラズマCVD装置の第一電極と第二電極の間に形成される空間の別形態の構造を示す概略図である。
【
図4】本発明にかかる第一の実施形態によるプラズマCVD装置の第一電極の内部構造を示す概略図である。
【
図5】本発明にかかる第二の実施形態によるプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【
図6】従来のプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【
図7】従来の平行平板型プラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその実施形態を示す図面を参照して具体的に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、本発明の第一の実施形態によるプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
また、
図2は本発明の第一の実施形態における、第一放電電極2と第二放電電極7の基板側表面の構成を示す概略図である。本発明のプラズマCVD装置は、図示しない排気装置に接続された真空容器1と、真空容器1内に備えられた第一放電電極2と、被成膜基板4の保持部材を兼ねた接地電極3と、第二放電電極7とを具備する。
【0015】
被成膜基板4は接地電極3の上にて動かないように設置されていればよく、例えば接地電極3に座繰りを設けて被成膜基板4をその中に置いたり、治具で被成膜基板4を接地電極3に押し付けたりしても良い。
【0016】
第二放電電極7は、第一放電電極2の側面と排気配管8側の面を覆うように配置されており、排気空間13は第二放電電極7と第一放電電極2の排気配管8側面との間に形成される。真空容器1内の圧力制御に支障がなければ、第一放電電極2の側面と第二放電電極7との間は、隙間が存在していても、
図1のように接していても構わない。また、排気空間13は、
図1に示されるようなボックス型の他、
図3に示すような壁面にテーパーのある形状でも構わない。排気空間13は排気配管接続口15と接続しており、排気空間13にあるガスは排気配管接続口15を通って排気配管8へと送られる。
【0017】
第一放電電極2および第二放電電極7には、マッチングボックス11を介して高周波電源12が接続されている。第一放電電極2と第二放電電極7の高周波電源は、結果として前記2つの電極を同電位にすることが出来れば、同一でなくても構わない。第一放電電極2と第二放電電極7が同電位に保たれていることにより、形成されたプラズマが排気空間13の位置に移動して異常放電が起きることを抑制できる。高周波電源12の周波数は任意に選択が可能であるが、プラズマの安定性と成膜速度の観点から、好ましくは100KHz以上100MHz以下、さらに好ましくは10MHz以上60MHz以下が良い。
【0018】
CVDを行う際、原料ガスは図示しないマスフローコントローラーによって給気管10を通り、第一放電電極2へと導入される。第一放電電極2内部には、給気室9が形成されている。給気室9は
図4に示すような連結溝の構造をしており、給気管10から導入された原料ガスは、この連結溝によって給気室9全体に広がり、第一放電電極2表面に形成されている給気孔6より成膜空間へ導入される。給気室9の高さ、つまりは連結溝の高さは、低すぎると原料ガスが給気室9全体に均一に広がり難くなるため、5mm以上が好ましい。給気孔6の直径は、プラズマが給気孔6内に入りこむ異常放電抑制の観点からデバイ長さ(式1)
【0020】
以下であることが望ましい。ここで、ε
0は真空の誘電率、kはボルツマン定数、Tは温度、n
eは電子密度、eは電子素量である。デバイ長さはプロセス条件によって変化するが、本実施形態のプラズマCVD装置を使用する一般的な条件でのデバイ長さは0.5〜2mm程度になる。電極製作の容易性を考えると直径0.3mm以上が好ましいため、好ましい給気孔の直径は0.3〜2mmである。また、給気孔6の配置は、成膜領域に均一に給気するために、例えば
図2の配置のように放電電極表面上で均等に配置されていることが好ましい。
【0021】
第一放電電極2の表面には給気孔6とともにプラズマ発生孔5が設けられている。プラズマ発生孔5は、第一放電電極2の内部に形成されている給気室9の連結溝を避けて第一放電電極2を接地電極3方向に貫通しており、排気空間13と連通している。給気孔6より基板4方向へ導入された原料ガスは、第一放電電極2と基板4との間で迂回してプラズマ発生孔5へと導入される。このとき、第一放電電極2と第二放電電極7に高周波電力を印加することで、プラズマ発生孔5内で原料ガスをプラズマ化する。排気空間へのガス流れを作った状態でプラズマを形成することで、プラズマ中に生成したパーティクルが排気されやすくなる。例えば、少なくとも珪素を含む原料ガスを使用してプラズマを形成した場合では、プラズマ中に発生する高次シランの膜混入が抑制できるため、光劣化の少ないアモルファスシリコン薄膜を成膜できる。
【0022】
プラズマ発生孔5の直径は、その中にプラズマを形成するために、少なくともデバイ長さよりも大きい必要がある。このため、プラズマ発生孔5の直径は給気孔6の直径よりも大きくなる。プラズマ発生孔5については、孔内のガス流速が大きい方がパーティクルを除去しやすいため、プラズマ発生孔5部分で電極の排気コンダクタンスを抑制しないことが重要である。プラズマ発生孔内の平均圧力をP(Pa)、原料ガスの粘性係数をη(Pa・s)、空気の粘性係数をη
0(Pa・s)、プラズマ発生孔5の直径をd(m)、孔の長さをl(m)、プラズマ発生孔の数をn(個)としたとき、第一放電電極2の排気コンダクタンスC(m
3/s)は(式2)
【0024】
となる。これより、第一放電電極2の面積S(m
2)を用いて、電極の単位面積当たりの排気コンダクタンスは(式3)
【0026】
と考えられる。ここでの平均圧力P
0は、排気空間13の圧力を0Paと仮定して、プロセス中の真空容器内の圧力との平均をとった値である。
【0027】
アモルファスシリコン薄膜を成膜する場合のプロセス圧力は、5〜100Pa程度である。本実施形態における単位面積当たりの排気コンダクタンスは、c≧0.4であることが好ましく、c<0.4となると電極部分で排気能力が抑制され、パーティクル除去効果が薄れる傾向にあるため好ましくない。また、排気によりパーティクルを除去するという観点から言えば、排気コンダクタンスは大きいほど良い。しかし、プラズマ発生孔5の直径が50mmよりも大きくなると、プラズマがプラズマ発生孔5以外の箇所に発生しやすくなったり、プラズマ発生孔5の中央部と端部でのプラズマ密度の差が大きくなり膜ムラが起こったりする。このため、プラズマ発生孔5内でプラズマを安定して形成するためにはプラズマ発生孔5の直径は50mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは20mm以下である。これより、プラズマ排気孔5の直径d(m)は、給気孔6よりも大きく、且つ(式4)
【0029】
の範囲に入る大きさであることが好ましい。
【0030】
プラズマ発生孔5の長さについては、短すぎると給気室9の高さが制限され給気の均一性が不十分になり、加えてプラズマ発生孔5内に形成したプラズマの一部が排気室13に上がって異常放電を起こす可能性がある。そのためプラズマ発生孔5の長さは目安としてその直径以上であることが好ましいが、プラズマ発生孔5の長さと直径のサイズの関係は一義的に決まるものではない。
【0031】
また、ガス排気およびプラズマ均一性の観点から、プラズマ発生孔5の位置は、
図2に示すように第一放電電極2表面に均等に配置されていることが好ましい。
【0032】
プラズマ発生孔5の上部に形成される排気空間13には、
図5のように給気管10以外に何もないことが好ましいが、ガスの流れを遮蔽する形状でなければ、例えば電極固定用の部品などがあっても構わない。電極部分で排気コンダクタンスを抑制することなく、プラズマ発生孔5で大きなガス流速を実現するためには、排気空間13は全てのプラズマ発生孔5と遮るものなく連通しており、且つ、排気配管接続口15とも直接連結している構造を取る必要がある。さらに空間の形状も、前述したような排気コンダクタンスを抑制しない形であることが重要である。
【0033】
排気配管接続口15および排気配管8についても、そこでの排気コンダクタンスが前述したプラズマ発生孔5部分の排気コンダクタンス以下となってしまうと、プラズマ発生孔5でのガス流速が制限されてしまうため好ましくない。プラズマ発生孔5部分の排気コンダクタンスCは、電極面積S(m
2)が決定されたとき、単位面積当たりの排気コンダクタンスc(m/s)を用いると、C=c×Sとなる。一方、排気配管8の排気コンダクタンスをC’とすると、排気配管16の直径D(m)、その長さL(m)、本数N(本)、さらに前述したP(Pa)、η(Pa・s)、η
0(Pa・s)を用いて(式5)
【0036】
プラズマ発生孔5部分の排気コンダクタンスCと排気配管8のコンダクタンスC’はC’≧Cとなることが望ましいため、本実施形態のプラズマCVD装置は、(式6)
【0038】
の関係を満たして構成されることが好ましい。加えて排気配管接続口15直径は、それが接続する排気配管8の直径と同じか、それ以上であることが好ましい。なお、排気コンダクタンスは、排気系中で最も排気抵抗の大きい所で抑制されるので、前述の式は排気配管8が全て同径であり、途中で曲がることなくポンプに接続されている場合の式である。接続されている複数の排気配管径が異なる場合や途中で曲がりを持つ場合は、その形状に沿って排気配管コンダクタンスを計算する必要がある。その場合も、排気配管8の合成コンダクタンスが、プラズマ発生孔5部分の排気コンダクタンスよりも大きくなることが好ましいことは同じである。
【0039】
[第二の実施形態]
第二の実施形態によるプラズマCVD装置は、第一の実施形態のプラズマCVD装置に電位シールド板14を追加したもので、装置の概要にその他の変更は無い。
図5にその第二の実施形態によるプラズマCVD装置概略図を示す。
【0040】
第一放電電極2表面の前面には、第一放電電極2および第二放電電極7と絶縁された状態で電位制御板14が設置されている。電位制御板14には複数の貫通孔が形成されている。この電位制御板14は、接地または直流可変電源に接続されている。電位制御板14を接地または負電位に保つことで、プラズマを第一放電電極2のプラズマ発生孔5の中に閉じ込める効果を強め、電位制御板14と被成膜基板4の間に形成されるプラズマを弱めることが可能となる。電位制御板14に接続する電源は、結果的に電位制御板14に電位をかけられるものであれば問題なく、周波数がkHzオーダー以上の交流電源であれば自己バイアスによる直流オフセット電位をかけることが出来るので、直流電源以外にも、kHz程度の交流電源やRF電源を使用してもよい。
【0041】
電位制御板14の位置は、第一放電電極2と接地電極3との中間よりも第一放電電極側にあれば良いが、第一放電電極2と電位制御板14の間でプラズマが発生することを抑制するためには電位制御板14と第一放電電極2の距離は2mm以下であることが好ましい。また、電位制御板14は第一放電電極2および第二放電電極7と絶縁する必要があるため、電位制御板14と第一放電電極2の距離は0.5mm以上が好ましい。また、プラズマ発生孔5の排気能力を制限しない目的で、電位制御板14の貫通孔は、その第一放電電極2への投影像が第一放電電極2のプラズマ発生孔5と重なるように形成されることが好ましい。さらに好ましい貫通孔の形としては、電位制御板14の貫通穴の中心軸が、第一放電電極2のプラズマ発生孔5の中心軸と同一になるように貫通孔を配置し、その直径をプラズマ発生孔よりも大きくすることである。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
本発明の第二の実施形態におけるプラズマCVD装置を用いて、アモルファスシリコン薄膜を生成し、そのSi−H
2結合濃度を評価した結果を説明する。
本実施例におけるプラズマCVD装置において、電極サイズは185mm×185mm、プラズマ発生孔5の直径は10mm、長さは30mm、プラズマ発生孔の数は85個とした。SiH
4の粘性係数と空気の粘性係数よりη
0/η=1.58、平均圧力は15Paとした。本実施例におけるプラズマ発生孔5部分の単位面積辺りの排気コンダクタンスはC=26.5m/sである。
【0043】
本実施例における具体的なアモルファスシリコン薄膜の製造方法は以下の通りである。第二の実施形態にあるプラズマCVD装置の放電電極に、マッチングボックスを介して60MHzの高周波電源を接続した。まず、プラズマCVD装置内を1×10
−4Paまで真空容器底面に設けられた排気穴より排気した。その後、プラズマ発生孔よりの排気に切り替え、放電電極に設けられた給気孔からSiH
4を50sccmの流量にてマスフローコントローラーにより導入し、圧力を30Paに調整した。その後、放電電極に30Wの電力を投入しプラズマを発生させることにより、接地電極上に設置した単結晶シリコン基板上にアモルファスシリコン薄膜を形成した。
【0044】
得られたアモルファスシリコン薄膜の膜中Si−H
2結合濃度を、FT−IR測定により求めた。FT−IR測定にはHORIBA社製FT−720を使用し、分解能は4cm
−1、積算回数16回で測定を行った。Si−H
2結合濃度は以下の手順で評価した。2000cm
−1付近のピークから、ガウス関数(式7)
【0045】
【数7】
【0046】
を仮定して2090cm
−1のピークを分離した。ここで、hはピーク高さ、σはピーク幅、ω
pはピーク波数である。
【0047】
次に、吸収係数(式8)
【0048】
【数8】
【0049】
を用いて、分離したピークから結合水素密度
【0050】
【数9】
【0051】
を求めた。
ここで、Tsは単結晶シリコンの透過率(%)、ΔTはベースラインを引いたアモルファスシリコン薄膜の透過率(%)、dは膜厚(cm)、ωは波数(cm
-1)、Aは比例定数1.4×10
20cm
-2を示す。Si原子数密度を5.0×10
22cm
-3で近似し、N
H2よりSi−H
2結合濃度
【0052】
【数10】
【0053】
を算出した。
測定試料は、15mm×15mmの単結晶シリコン基板上に、実施例1の方法にてアモルファスシリコン薄膜を成膜したものを用いた。
【0054】
[実施例2]
実施例1において,流量を100sccmとした以外は同様にしてアモルファスシリコン薄膜基板を得た。
得られたアモルファスシリコン薄膜より、実施例1と同様の方法にてSi−H
2結合濃度を求めた。
【0055】
[比較例1]
図7に示す従来の平行平板型プラズマCVD装置の放電電極に、マッチングボックスを介して13.56MHzの高周波電源を接続した。平行平板電極の電極サイズは185mm×185mmであり、放電電極表面には直径0.5mmの給気孔が8mmピッチで256個形成されている。まず、プラズマCVD装置内を1×10
−4Paまで真空容器底面に設けられた排気穴より排気した。その後、放電電極表面の給気孔よりSiH
4を50sccmの流量にてマスフローコントローラーにより導入し、圧力を30Paに調整した。その後、放電電極に30Wの電力を投入しプラズマを発生させ接地電極上に設置した単結晶シリコン基板上にアモルファスシリコン薄膜を形成した。電極にプラズマ発生孔は設けておらず、プラズマは放電電極と接地電極の間に形成される。また、ガスの排気は上述の真空容器底面からのみ行っており、放電電極に排気機構は具備していない。上述した以外の点については、実施例1と同一の条件にて成膜した。
得られたアモルファスシリコン薄膜より、実施例1と同様の方法にてSi−H
2結合濃度を求めた。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1、2および比較例1から求めたSi−H
2結合濃度を表1に示す。
【0058】
実施例1が示すように、本実施形態のプラズマCVDで得たアモルファスシリコン膜で低いSi−H
2結合濃度が得られている。
また、実施例2に示すように、ガス流を上昇させるとプラズマ発生孔中の流速が高められ、さらに低いSi−H
2結合濃度が得られている。
【0059】
このように第一,第二の実施形態であるプラズマCVD装置を用い,シリコン薄膜を成膜させると,従来の平行平板型プラズマCVD装置で形成した膜と比べて高次シランの混入が少なく、欠陥が低減された高品質な膜が得られる。また,この高品質なアモルファスシリコン薄膜基板を太陽電池に適用することで,光劣化が少ない薄膜太陽電池を作製することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、プラズマCVD装置およびアモルファスシリコン薄膜の形成に限らず、微結晶シリコン薄膜等の各種薄膜形成、エッチング装置やプラズマ表面処理装置などにも応用することができるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0061】
1 真空容器
2 第一放電電極
3 接地電極
4 基板
5 プラズマ発生孔
6 給気孔
7 第二放電電極
8 排気配管
9 給気室
10 給気管
11 マッチングボックス
12 高周波電源
13 排気空間
14 電位制御板
15 排気配管接続口
16 反応容器
17 電極部
18 基板
19 基板ホルダ(接地電極)
20 ガス排気孔
21 ガス吸気孔