特許第5772964号(P5772964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772964
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】ガス分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/40 20060101AFI20150813BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20150813BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20150813BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B01D71/40
   C08J5/18CEY
   C08F20/28
   C08F290/06
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-531247(P2013-531247)
(86)(22)【出願日】2012年8月23日
(86)【国際出願番号】JP2012071268
(87)【国際公開番号】WO2013031621
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2014年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-184246(P2011-184246)
(32)【優先日】2011年8月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 和志
(72)【発明者】
【氏名】林田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高畑 広彰
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−155206(JP,A)
【文献】 特開2005−074317(JP,A)
【文献】 特開2003−205224(JP,A)
【文献】 光重合によるポリシランの親水化と有機−無機ハイブリッド薄膜の作製,日本化学会講演予稿集,1998年 3月,Vol.74th No.1,Page.627
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/40
B01D 71/52
C08F 20/28
C08F 290/06
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシエチレン鎖を有するモノマーまたはオリゴマーと、平均粒径3〜50nmの非晶質の有機基含有金属酸化物粒子とを含む組成物の硬化物からなり、前記オキシエチレン鎖を有するモノマーまたはオリゴマーが、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる化合物であり、前記有機基が水酸基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エーテル基、エポキシ基、エステル基、オキシエチレン基、アクリルアミド基、アミノ基、イミノ基、アミド基及びウレタン基からなる群から選ばれる、非晶質の前記有機基含有金属酸化物粒子を含むガス分離膜。
【請求項2】
前記オキシエチレン鎖を有するモノマーまたはオリゴマーが、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリルアミド、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリルアミド及びポリエチレングリコールのウレタン(メタ)アクリレート変性化合物からなる群から選ばれる化合物である請求項1のガス分離膜。
【請求項3】
前記組成物が、さらに酸素または窒素を含む官能基を有するモノマーまたはオリゴマーを含むことを特徴とする請求項1のガス分離膜。
【請求項4】
前記酸素または窒素を含む官能基が、水酸基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、エステル基、アミノ基、イミノ基、ペプチド基、アミド基、及びウレタン基からなる群から選ばれることを特徴とする請求項のガス分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離性能に優れ、かつ、実用的な機械的強度を有するガス分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子ガス分離膜によって混合ガスの分離、精製を行う多くの試みがなされている。例えば、環境問題の高まりから、燃焼排ガス等から窒素と二酸化炭素を選択的に透過させることにより、二酸化炭素を分離・回収する試みがなされている。また、酸素富化空気又は窒素富化空気を高分子ガス分離膜により空気から酸素を選択的に透過させて調製し、酸素富化空気を空気調節器、燃焼システム、医療機器等で、窒素富化空気を食品保存、燃焼性材料の発火防止に活用する試みがなされている。更には、乾燥空気を得るための除湿膜が実用化されている。これらの用途に用いるガス分離膜には、透過ガスの非透過ガスに対する選択性、および透過速度のいずれも優れていることが要求される。また、使用環境によっては、更に機械強度、安定性、耐熱性、耐薬品性等の特性も要求されるので、数多くの高分子分離膜が検討されている。特に、高効率なガス分離に好適な形状である中空糸膜等を製造する上では、ガス選択性および透過速度に加えて機械強度に優れていることが重要である。
【0003】
高分子膜におけるガス分離性能は、気体の透過性の指標であるガス透過係数P、2種類のガスの選択性指標としてガス透過係数比である分離係数αで表される。ガス透過係数Pは、高分子膜への気体の溶解性の指標である溶解度係数と、高分子膜中での気体の拡散性の指標である拡散係数との積で表される。したがって、ガスの透過性を選択的に向上させるためには、高分子膜に対する透過ガスの溶解度係数及び、拡散係数又は両者を非透過ガスに対して向上させる必要がある。
【0004】
選択性の指標である分離係数αは、透過ガスと非透過ガスの透過速度の比である。すなわち、二酸化炭素の透過係数をPCO2、酸素の透過係数をPO2、窒素の透過係数をPN2、水蒸気の透過係数をPH2Oとすると、分離係数αは、αCO2/N2=PCO2/PN2、αO2/N2=PO2/PN2、αH2O/N2=PH2O/PN2で表される。ガス透過係数はJIS K7126、JIS K 7129やISO 15105などに従って、評価することができる。ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの乾燥環境でのPCO2は1〜1000Barrer、αCO2/N2は約10〜30程度である。ポリエチレングリコールのPCO2は10〜1000Barrer、αCO2/N2は約40〜70程度である。ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレンなどのPH2Oは100〜1000Barrer、αH2O/N2は約100〜1000程度である。ポリエチレングリコールのPH2Oは2000〜3000Barrer、αH2O/N2は約4000〜7000程度である。なお、1Barrer=10−10・cm(STP)・cm・cm−2・sec−1・cmHg−1である。
【0005】
ガス分離膜は、平膜で用いられる場合と、多数の中空糸膜からなる中空糸膜束を少なくとも混合ガスの導入口、透過ガスの排出口とを有する容器内に収納して構成される中空糸ガス分離膜モジュールとして用いられる場合がある。中空糸ガス分離膜モジュールにおいては、混合ガスは中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給され、中空糸膜に接して流れる間に混合ガス中の透過ガスが選択的に膜を透過し透過ガスの排出口から回収され、このガスが除かれたガスが非透過ガス排出口から回収されることによって、ガス分離が行われる。
ガス分離膜は、平膜で用いられる場合、中空糸ガス分離膜モジュールとして用いられる場合、いずれにしてもある程度の機械強度が必要である。機械強度は、引張強度などで表される。これらはJIS K7127やISO 527−3に従い、評価することができる。
【0006】
従来、ガス分離膜としては酢酸セルロース、シリコンゴム、ポリスルホンなどの種々の高分子を素材としたものが知られている。これら公知のガス分離膜は種々の分野で実用化されているが、二酸化炭素のガス分離膜としては二酸化炭素と窒素の分離係数αCO2/N2が10以下と小さく、さらに二酸化炭素で可塑化され分離係数が低下するものもあり、実用的に問題があった。
【0007】
そこでポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリカーボネートなどによるガス分離膜が提案されている。
【0008】
例えば、特公平6−96103号公報(特許文献1)には、水と接触しても膜性能が低下しないポリイミド膜にポリエチレングリコールと塩基性物質を含浸させた、分離係数αCO2/N2=51の二酸化炭素分離膜が開示されている。
【0009】
特開昭61−200833号公報(特許文献2)には、ポリエチレンオキシド鎖含有膜を用いた分離係数αCO2/N2=44の炭酸ガス選択透過膜が開示されている。
【0010】
特許3878188号公報(特許文献3)には、引張強度が11N・mm−2、分離係数αCO2/N2=34であるポリイミド膜を用いたガス分離膜が開示されている。
【0011】
特許2699168号公報(特許文献4)には、ポリカーボネートを用いたガス分離膜が示されている。実施例の記載からPCO2/PN2の分離係数を求めると、αCO2/N2=PCO2/PN2=3.6/0.108=33となる。
【0012】
特開2010−201417号公報(特許文献5)には、ポリイミドを用いたガス分離膜が示されている。実施例の記載から水蒸気透過係数PH2Oが970Barrerである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平6−96103号公報
【特許文献2】特開昭61−200833号公報
【特許文献3】特許3878188号公報
【特許文献4】特許2699168号公報
【特許文献5】特開2010−201417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、ポリエチレングルコールやポリエチレンオキシドを用いた有機高分子膜のガス分離係数αCO2/N2の高いものが開示されている。しかしながら、膜の機械強度が低く製膜性が悪いなどの欠点を有しているため、実用化には至っていない。また、ポリイミドやポリカーボネートを用いたガス分離膜は、膜の機械強度が高く中空糸にも加工可能であるため、広く実用化されている。しかしながら、分離係数αCO2/N2は、改善が求められている。
【0015】
このことから実用上期待されるガス分離膜としては、分離特性として示される分離係数αが、αCO2/N2で40以上、αO2/N2で2.5以上、さらに、機械強度としての引張強度が、10N・mm−2以上であることが求められている。
【0016】
本発明の目的は、上記課題を解決するためになされたもので、ガス分離性能が高く、機械強度に優れたガス分離膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、オキシエチレン鎖を有するモノマーまたはオリゴマーと有機基含有金属酸化物粒子とを含む組成物の硬化物からなるガス分離膜を用いることによって、高いガス分離特性を保持しながら、かつ、機械強度の高いガス分離膜を得ることを見いだした。
【0018】
本発明には、以下の発明が含まれる。
【0019】
本発明は、オキシエチレン鎖を有するモノマーまたはオリゴマーと非晶質の有機基含有金属酸化物粒子とを含む組成物の硬化物からなるガス分離膜である。
【0020】
また、上記組成物が、さらに酸素または窒素を含む官能基を有するモノマーまたはオリゴマーを含むものであることが好ましい。
【0021】
さらに、上記酸素または窒素を含む官能基が、水酸基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、エステル基、アミノ基、イミノ基、ペプチド基、アミド基、及びウレタン基からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ガス分離性能が高く、さらに機械強度の優れたガス分離膜が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
オキシエチレン鎖を有するモノマーまたはオリゴマーは、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリルアミド、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールのウレタン(メタ)アクリレート変性化合物などから選ばれる化合物が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0025】
前記有機基含有金属酸化物粒子は、Al、Ta、Zr、Si、Ti、Mg、Zn、Sr、Bi、Ca、Ga、In、Fe、Co、Cu、Ni、Nb、Ba、Ge、およびSnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素の金属酸化物である。該有機基は、水酸基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エーテル基、エポキシ基、エステル基、オキシエチレン基、アクリルアミド基、アミノ基、イミノ基、アミド基、及びウレタン基からなる群から選ばれる。
【0026】
また、前記有機基含有金属酸化物粒子は、非晶質であることが好ましい。すなわち前記有機基含有金属酸化物粒子が非晶質の場合、オキシエチレン鎖を有するモノマーまたはオリゴマーとの結合力が高いため、ガス分離膜の機械強度が向上する。該有機基含有金属酸化物粒子の結晶性は、X線回折法による回折ピークによって評価することができる。
【0027】
前記有機基含有金属酸化物粒子の平均粒径は、3〜50nmが好ましい。例えば、土岐元幸著 表面技術 50,161(1999)に示されるように、アルコキシドは、加水分解の過程で三量体、四量体を経て縮合すると分子量1000未満の無機高分子オリゴマーになり、約1〜2nm大の粒子を形成する。これらがさらに縮合、成長、凝集すると、本発明でいう有機基含有金属酸化物粒子となる。粒径が2nm以下であると、分子量は10000未満と見積もられるオリゴマーであり、この領域の有機基含有金属酸化物粒子を用いたガス分離膜の機械強度は低い。また、粒径が50nmを超えると、有機基含有金属酸化物粒子が凝集を起こしやすいため不均一な膜となり、やはり機械強度が低下する。有機基含有金属酸化物粒子の平均粒径は、3〜50nmであり、好ましくは5〜45nmであり、さらに好ましくは10〜35nmである。なお、この粒子径は動的光散乱法にて測定することができる。
【0028】
前記有機基含有金属酸化物粒子は、ゾルゲル法によって作成できる。その材料としては、アルミニウムアセチルアセトネート、テトラ−i−プロポキシアルミニウム、ペンタエトキシタンタル、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−i―プロポキシジルコニウム 、テトラ−t−ブトキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、トリブトキシ・モノアセトナトジルコニウム、テトラエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンブトキシド多量体、チタンアセチルアセトネート、 ジエトキシマグネシウム、ジエトキシ亜鉛、亜鉛アセチルアセトネート、ジ−i−プロポキシチタンストロンチウム、トリ−t−アミロキシビスマス、ジエトキシカルシウム、トリ−i−プロポキシガリウム、テトラエトキシガリウム、ジ−i−プロポキシインジウム、トリ−i−プロポキシインジウム、トリ−i−プロポキシ鉄、コバルトアセチルアセトネート、銅アセチルアセトネート、ニッケルアセチルアセトネート、ニオブアセチルアセトネート、ペンタ−i―プロポキシニオブ、バリウムアセチルアセトネート、ジ―i―プロポキシバリウム、ビス(ジピバロイルメタナト)バリウム、ゲルマニウムアセチルアセトネート、テトラ―i―プロポキシゲルマニウム、テトラ―n―プロポキシゲルマニウム、テトラ―i―ブトキシゲルマニウム、テトラ―n―ブトキシゲルマニウム、テトラ−i−プロポキシスズなどが挙げられる。中では、チタン系化合物とシラン系化合物が好ましい。チタン系化合物はゾルゲル反応の反応性が速く、所定の粒子径にしやすい。シラン系化合物は、有機基を導入するのに適している。
【0029】
さらに前記有機基含有金属酸化物粒子に有機基を導入するためには、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリル基、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するシラン化合物などを用いることが好ましい。
【0030】
さらに二酸化炭素や酸素の透過性を向上させるため、前記有機基含有金属酸化物粒子にオキシエチレン鎖を導入することが好ましい。その方法としては、例えば、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基を有するシラン化合物とメトキシポリエチレングリコールなどのオキシエチレン鎖を有する化合物を反応させて得られるシラン化合物を用いることができる。
【0031】
これらの原料を使用して作成される前記有機基含有金属酸化物粒子は、単一の金属と酸素による酸化物であっても、複数の金属と酸素による酸化物であってもよい。
【0032】
前記組成物は、さらに酸素または窒素を含む官能基を有するモノマーやオリゴマーを含む。酸素または窒素を含む官能基とは、国際純正・応用化学連合(IUPAC)の有機基名表に記載されている、酸素に基づく置換基、エーテル基、カルボン酸およびエステル基、アシル基、酸素を含む複合基、窒素1原子を含む置換基、窒素2原子以上を含む置換基が好ましい。その中でも特に、水酸基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、エステル基、アミノ基、イミノ基、ペプチド基、アミド基、ウレタン基が好ましい。これらの例としては、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、N−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−(ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレートなどから選ばれる化合物が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0033】
本発明のガス分離膜は、上述したモノマーまたはオリゴマーと有機基含有金属酸化物粒子、必要に応じて重合開始剤を混合し、製膜後、熱や放射線等により硬化させて得られる。生産性の点からは、紫外線、電子線等の放射線による硬化が好ましい。
【0034】
本発明の膜で分離される気体は、二酸化炭素、酸素、窒素、水素、メタン、水蒸気などである。ガス分離膜の応用では、とりわけ、空気中から二酸化炭素および酸素を分離、濃縮することが重要である。例えば、二酸化炭素捕集貯蔵(CCS=Carbon dioxide Capture and Storage)、温室や太陽光利用型植物工場や完全閉鎖型植物工場などの栽培施設、藻類培養装置、光合成細菌培養槽、水性ガスシフト反応装置、燃料電池ガス改質装置、二酸化炭素回収貯蔵装置、電子部品包装機、ボイラー、焼成炉、二酸化炭素洗浄装置、二酸化炭素センサにおいて、本発明のガス分離膜によって二酸化炭素を他のガスから分離して濃縮することができる。保管庫、冷蔵庫、CA(Controlled Atmosphere)貯蔵庫では、本発明のガス分離膜によって酸素と窒素を分離し窒素富化した空気や二酸化炭素を富化した空気で、保管・貯蔵の雰囲気を制御することが、野菜、果実、精肉、魚介類などの生鮮食料品の保存に優位である。酸素濃縮器、酸素供給医療機器などでは、本発明のガス分離膜によって酸素と窒素を分離し酸素富化した空気を用いることができる。更には、家、マンションや業務ビルなどの住空間や工場などの工業用施設やクリーンルームなどの除湿や加湿による湿度調整のための空気調節機、ガスボイラーやガス発電機の排ガスから水蒸気と二酸化炭素を分離回収して例えば植物工場へ水と二酸化炭素を供給したり、空気の除湿に利用できる。
【0035】
本発明の膜は、中空糸に加工することができる。本発明のガス分離膜そのものを中空糸として紡糸しても、基材になる多孔体ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミドなどに塗布したり、含浸させたりして、表面あるいは孔内部に満たしてもよい。ガス分離膜を中空糸、あるいはそれをモジュールにすることでガス分離膜の気体の流量に対する面積を広くして透過する気体量を効率的に増加させることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
[アルコキシド化合物Aの合成]
イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製、LS−3415)17重量部、メトキシポリエチレングリコール(シグマアルドリッチ製、M6768)24重量部、ラウリン酸ジブチル錫0.04重量部を混合し、室温で6時間攪拌して下記式(1)のアルコキシド化合物Aを得た。
【0038】
【化1】
(1)
【0039】
[有機基含有金属酸化物F1の合成]
前記アルコキシド化合物A 50重量部と3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学、KBM5103)50重量部を混合し、アルコキシド溶液とした。このアルコキシド溶液を撹拌しながら、2N塩酸5重量部、純水5重量部、1−メトキシ−2−プロパノール50重量部の混合液を室温で滴下し、6時間撹拌を続けた。この溶液を所定厚みのスペーサーを設けたガラス板に塗布し、室温で1時間乾燥後、80℃で36時間反応させ、固形物F1を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は20nmであった。
【0040】
[有機基含有金属酸化物F2の合成]
前記アルコキシド化合物A 60重量部とチタンブトキシド多量体(日本曹達製、B−10)40重量部を混合したアルコキシド溶液を用いる以外は、有機基含有金属酸化物F1の合成と同様にして、固形物F2を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は45nmであった。
【0041】
[有機基含有金属酸化物F3の合成]
3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学、KBM5103)60重量部とチタンブトキシド多量体(日本曹達製、B−10)40重量部を混合し、アルコキシド溶液とした。このアルコキシド溶液を撹拌しながら、2N塩酸10重量部、純水5重量部、1−メトキシ−2−プロパノール65重量部の混合液を室温で滴下し、3時間撹拌を続けた。この溶液を所定厚みのスペーサーを設けたガラス板に塗布し、室温で1時間乾燥後、80℃で24時間反応させ、固形物F3を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は30nmであった。
【0042】
[有機基含有金属酸化物F4の合成]
前記アルコキシド化合物A 30重量部、3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学、KBM5103)30重量部、チタンブトキシド多量体(日本曹達製、B−10)40重量部を混合し、アルコキシド溶液とした。このアルコキシド溶液を用いる以外は有機基含有金属化合物F3の合成と同様にして、固形物F4を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は25nmであった。
【0043】
[有機基含有金属酸化物F5の合成]
室温乾燥後の反応を、80℃で15時間とした以外は、有機基含有金属酸化物F1の合成と同様にして、固形物F5を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は5nmであった。
【0044】
[有機基含有金属酸化物F6の合成]
チタンブトキシド多量体(日本曹達製、B−10)40重量部の代わりに、テトラ-t-ブトキシジルコニウム(高純度化学研究所製、ZRR18LB)40重量部を用いた以外は有機基含有金属酸化物F4の合成と同様にして、固形物F6を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は20nmであった。
【0045】
[有機基含有金属酸化物F7の合成]
室温乾燥後の反応を、80℃で8時間とした以外は、有機基含有金属酸化物F1の合成と同様にして、固形物F7を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は2nmであった。
【0046】
[有機基含有金属酸化物F8の合成]
2N塩酸の代わりに2Nアンモニア水を用いた以外は、有機基含有金属酸化物F1の合成と同様にして、固形物F8を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は60nmであった。
【0047】
[有機基含有金属酸化物F9の合成]
テトラヒドロフラン(関東化学製)100重量部に、3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学、KBM5103)30重量部とテトラ―i―プロポキシチタン(高純度化学研究所製 TIR03LB)70重量部を添加した。次に、2N硝酸20重量部、テトラヒドロフラン200重量部の混合液を室温で滴下し、1時間撹拌を続けた。この溶液を室温にて18時間以上静置して得られたゲルを砕き、湿度60%で、容器ごと100℃で1時間加熱し、固形物F9を得た。得られた粒子の動的光散乱による平均粒径は40nmであった。これはX線回折でチタン酸化物のアナターゼ結晶を含むと認められた。
【0048】
これらの有機基含有有機金属酸化物(F1〜F9)について、表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
[有機化合物Bの合成]
撹拌機及びジムロートを取り付けた3つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート85mL(0.401mol)及び、ラウリン酸ジブチル錫0.2gを仕込み、窒素気流下で70℃まで昇温した。次いでポリエチレングリコール(三洋化成工業製、PEG600)117.0g(0.195mol)をゆっくり添加し、反応混合物を窒素気流下、70℃で4時間加熱した。次いで、反応混合物に、ジブチルヒドロキシトルエン0.25g及び2−ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製 HEA)49.0g(0.422mol)を加え、更に4時間反応させた。このようにして、ポリエチレングリコールの両末端にウレタンアクリレート基を持つ下記式(2)の化合物Bを得た。
【0051】
【化2】
(2)
【0052】
[実施例1]
ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学製、14EG−A)40重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬製、PET−30)20重量部、光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ製、イルガキュア184)3重量部、アセトン20重量部を混合し、撹拌しながら、前記固形物F1を15重量部加えた。室温にて1時間攪拌し、ガス分離膜材料溶液を得た。この溶液を、ポリエチレンテレフタレート製剥離フィルムへ塗布し、乾燥後、1J・cm−2の紫外線を照射して硬化させた。ポリエチレンテレフタレート製剥離フィルムから剥離し、ガス分離膜C1を得た。膜厚は51μmであった。また、X線回折からは結晶ピークは観測されなかった。
【0053】
[実施例2]
実施例1のF1の代わりにF2を用いる以外は同様にして、ガス分離膜C2を得た。膜厚は55μmであった。
【0054】
[実施例3]
実施例1のF1の代わりにF3を用いる以外は同様にして、ガス分離膜C3を得た。膜厚は52μmであった。
【0055】
[実施例4]
実施例1のF1の代わりにF4を用いる以外は同様にして、ガス分離膜C4を得た。膜厚は58μmであった。
【0056】
[実施例5]
実施例1のF1の代わりにF5を、ポリエチレングリコールジアクリレートの代わりに前記化合物Bを用いる以外は、実施例4と同様にして、ガス分離膜C5を得た。膜厚は55μmであった。
【0057】
[実施例6]
ポリエチレングリコールジアクリレートの代わりに前記化合物B、ペンタエリスリトールトリアクリレートの代わりにカプロラクトン変性トリス−(−2−アクロキシエチル)イソシアヌレート(新中村化学工業製A−9300−1CL)を用いる以外は、実施例4と同様にして、ガス分離膜C6得た。膜厚は50μmであった。
【0058】
[実施例7]
ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学製、14EG−A)40重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬製、PET−30)20重量部の代わりに、ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学製、14EG−A)33重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬製、PET−30)15重量部、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド(東京化成工業製)12重量部を用いる以外は、実施例4と同様にして、ガス分離膜C7得た。膜厚は53μmであった。
【0059】
[実施例8]
実施例4のF4の代わりにF6を用いる以外は、実施例4と同様にして、ガス分離膜C8を得た。膜厚は51μmであった。
【0060】
[比較例1]
固形物F1を添加しないで、実施例1と同様にしてガス分離膜R1を作製した。
膜厚は53μmであった。
【0061】
[比較例2]
固形物F1の代わりに固形物F7を用いる以外は、実施例1と同様にしてガス分離膜R2を作製した。膜厚は50μmであった。
【0062】
[比較例3]
固形物F1の代わりに固形物F8を用いる以外は、実施例1と同様にしてガス分離膜R3を作製した。膜厚は60μmであった。
【0063】
[比較例4]
固形物F1の代わりに固形物F9を用いる以外は実施例1と同様にしてガス分離膜R4を作製した。膜厚は50μmであった。
【0064】
このように作製して得られたガス分離膜について、それぞれの分離係数αCO2/N2と引張強度を測定した。
【0065】
[分離係数α]
分離係数αは、JIS K 7126−1のガスクロマトグラフ法に準拠し、温度35℃、差圧1atmにて、二酸化炭素及び窒素の透過係数PCO2及びPN2を測定し、それぞれの分離係数αCO2/N2を求めた。結果を表2に示す。
【0066】
なお、実施例1のガス分離膜について、酸素及び窒素の透過係数PO2及びPN2を測定し分離係数を求めたところ、αO2/N2は、3.6であった。また、JIS K
7129のガスクロマトグラフ法に準拠し、温度35℃、湿度80%、差圧1atmにて、水蒸気透過量を測定し、透過係数PH2Oを計算し、分離係数、αH2O/N2を求めたところ、αH2O/N2は、4700であった。
【0067】
なお、比較例1のガス分離膜については、αO2/N2は、3.2、αH2O/N2は、4200、であった。
【0068】
[引張強度]
引張強度は、JIS K 7127に準拠し、引張速度5mm・min−1にて測定した。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】