特許第5772966号(P5772966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772966
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】アルミ樹脂接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20150813BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20150813BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20150813BHJP
   C23C 22/07 20060101ALI20150813BHJP
   B29C 65/64 20060101ALI20150813BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20150813BHJP
   B29K 81/00 20060101ALN20150813BHJP
   B29K 105/22 20060101ALN20150813BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B32B15/08 N
   C23C28/00 Z
   C23C26/00 J
   C25D11/04 E
   C23C18/16 Z
   C23C22/07
   B29C65/64
   B29K67:00
   B29K81:00
   B29K105:22
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-536229(P2013-536229)
(86)(22)【出願日】2012年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2012074216
(87)【国際公開番号】WO2013047365
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2014年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-208624(P2011-208624)
(32)【優先日】2011年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(72)【発明者】
【氏名】飯野 誠己
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正憲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】磯部 昌司
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−156764(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/055248(WO,A1)
【文献】 特開2005−200730(JP,A)
【文献】 特開2011−052292(JP,A)
【文献】 特開平04−361879(JP,A)
【文献】 特開2010−173298(JP,A)
【文献】 特開2012−041579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 65/00−65/82
B32B 1/00−43/00
C23C 18/00−20/08
C23C 22/00−22/86
C23C 26/00−26/02
C23C 28/00
C25D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材と、このアルミ基材の表面に形成された酸素を含有する酸素含有皮膜と、この酸素含有皮膜の上に接合され、熱可塑性樹脂で形成された樹脂成形体とを有し、
前記熱可塑性樹脂が、繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂であり、かつ、
前記酸素含有皮膜が、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用いた亜鉛含有皮膜形成処理で得られた亜鉛元素を含有する皮膜であることを特徴とするアルミ樹脂接合体。
【請求項2】
樹脂成形体が接合される前の表面に酸素含有皮膜を有するアルミ基材は、その最表面から3μmの深さまでの表層においてEPMAで測定された酸素量が0.1〜48重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のアルミ樹脂接合体。
【請求項3】
酸素含有皮膜の上に樹脂成形体を接合する接合方法が、射出成形又は熱圧着による方法であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミ樹脂接合体。
【請求項4】
熱可塑性樹脂中に含まれる非共有電子対を持つ元素が、硫黄、酸素、及び窒素からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の元素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミ樹脂接合体。
【請求項5】
繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、液晶ポリマー、サルフォン系樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルミ樹脂接合体。
【請求項6】
樹脂成形体がカルボニル基(C=O)を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアルミ樹脂接合体。
【請求項7】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程と、
この皮膜形成工程で得られた表面処理済アルミ基材の酸素含有皮膜の上に、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を形成する樹脂成形工程とを有し、
前記酸素含有皮膜を介してアルミ基材と樹脂成形体とが接合されたアルミ樹脂接合体を製造するアルミ樹脂接合体の製造方法であり、
前記熱可塑性樹脂が、繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂であり、かつ、
前記皮膜形成工程では、水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを重量比(MOH/Zn2+)1〜100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中にアルミ基材を浸漬する亜鉛含有皮膜形成処理により、このアルミ基材の表面に亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜を形成することを特徴とするアルミ樹脂接合体の製造方法。
【請求項8】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程と、
熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を形成する樹脂成形工程と、
前記皮膜形成工程で得られた表面処理済アルミ基材の酸素含有皮膜の上に、前記樹脂成形工程で得られた樹脂成形体を熱圧着により接合するアルミ樹脂接合工程とを有し、
前記酸素含有皮膜を介してアルミ基材と樹脂成形体とが接合されたアルミ樹脂接合体を製造するアルミ樹脂接合体の製造方法であり、
前記熱可塑性樹脂が、繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂であり、かつ、
前記皮膜形成工程では、水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを重量比(MOH/Zn2+)1〜100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中にアルミ基材を浸漬する亜鉛含有皮膜形成処理により、このアルミ基材の表面に亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜を形成することを特徴とするアルミ樹脂接合体の製造方法。
【請求項9】
亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中のアルカリ源が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の水酸化アルカリであることを特徴とする請求項7又は8に記載のアルミ樹脂接合体の製造方法。
【請求項10】
亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中の亜鉛イオン源が、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、過酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及び硝酸亜鉛からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の亜鉛塩であることを特徴とする請求項7又は8に記載のアルミ樹脂接合体の製造方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂中に含まれる非共有電子対を持つ元素が、硫黄、酸素、窒素、及び炭素からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の元素であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載のアルミ樹脂接合体の製造方法。
【請求項12】
繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、液晶ポリマー、サルフォン系樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上の樹脂であることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載のアルミ樹脂接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材と熱可塑性樹脂製の樹脂成形体とが、熱可塑性樹脂の射出成形又は熱圧着により、一体的に強固に接合されたアルミ樹脂接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の分野では、放熱性の高いアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材と、絶縁性能が高く、軽量でしかも安価である熱可塑性樹脂製の樹脂成形体とを一体に接合したアルミ樹脂接合体が幅広く用いられるようになり、また、その用途が拡大している。
【0003】
そして、従来においては、このような異種材質であるアルミ基材と樹脂成形体とを互いに一体的に接合したアルミ樹脂接合体としては、アルミ基材と樹脂成形体との間を接着剤により加圧下に接合したものが用いられていた。しかるに、昨今、工業的により好適な接合方法として、アルミ基材を射出成形用金型内にインサートし、このインサートされたアルミ基材の表面に向けて溶融した熱可塑性樹脂を射出し、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を成形する際に同時にアルミ基材と樹脂成形体との間を接合する方法が開発され、アルミ基材と樹脂成形体との間の接合をより安価に、また、接合強度をより向上させるための幾つかの方法が提案されている。そして、このような提案の多くは、アルミ基材の表面に適切な表面処理を施すというものである。
【0004】
例えば、本発明者らは、既にアルミ材の凹状部と熱可塑性樹脂の嵌入部とによりアルミ形状体と樹脂成形体とが互いに係止されていることを特徴とするアルミ・樹脂射出一体成形品を提案し(特許文献1)、また、シリコン結晶からなる凸部を有することを特徴とする樹脂接合性に優れたアルミニウム合金部材を提案している(特許文献2)。
【0005】
また、例えば、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する前処理を経て得られたアルミニウム合金物と熱可塑性樹脂組成物とを射出成形によって一体化する技術(特許文献3、4)や、トリアジンジチオール類の水溶液、又は種々の有機溶剤を溶媒とした溶液を電着溶液として用い、金属の電気化学的表面処理を行った後、この表面処理後の金属とゴム又はプラスチックとを接合する技術(特許文献5)が提案されており、更には、金属板上に接着剤を塗布し、あるいは、表面処理して有機皮膜を形成し、その後に射出成形により金属と樹脂とを一体化する技術(特許文献6)や、金属の表面を酸又はアルカリで処理した後にシランカップリング剤で処理し、その後に射出成形により樹脂と接合させる技術(特許文献7)がそれぞれ提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009-151,099号公報
【特許文献2】特開2010-174,372号公報
【特許文献3】特許第3,954,379号公報
【特許文献4】特許第4,270,444号公報
【特許文献5】特公平05-051,671号公報
【特許文献6】特許3,016,331号公報
【特許文献7】特開2003-103,562号公報
【0007】
ここで、特許文献3、4に記載されたアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物を利用した方法においては、処理後から射出成形までの時間に制限があるため、安定した表面状態を維持できる時間が短いという問題がある。また、特許文献5に記載の処理方法においては、処理が複雑であるという問題があり、また、特許文献6や7に記載された方法についても、工程の複雑さや処理コストが高いといった問題がある。
【0008】
ところで、特許文献1や特許文献2に記載の通り、本発明者らは、これまでも主としてアンカー効果の嵌合に基づく物理的な接合を提案し、その手法として処理浴にハロゲンイオンを含む特殊なエッチング処理による方法を提案してきた。これらの方法は、接合強度や接合部分の気密性といった性能に問題はないものの、このエッチング処理中にハロゲンに由来するガスが発生し、周辺の金属部品や装置を腐食させず、また、周辺の環境を汚染させないための対策を講じなければならないという別の課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、アルミ基材と熱可塑性樹脂製の樹脂成形体との間を接合するに際し、周辺の設備や環境に問題がなく、簡単な操作かつ低コストで、しかも、長期に亘って優れた接合強度を達成し得る方法を開発すべく鋭意検討した結果、アルミ基材の表面に酸素を含有する酸素含有皮膜を形成し、この酸素含有皮膜の上に熱可塑性樹脂で形成された樹脂成形体を接合するに際し、この熱可塑性樹脂として、繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂を用いることにより、アルミ基材と樹脂成形体との間の射出成形又は熱圧着による接合(アルミ−樹脂間接合)の際に、アルミ基材表面の酸素含有皮膜と樹脂成形体との間に長期に亘って強固な接合が形成されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明の目的は、優れたアルミ−樹脂間の接合強度を発現すると共に耐久試験後に強度低下を起こさず、長期に亘って優れたアルミ−樹脂間の接合強度を維持し得るアルミ樹脂接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材と、このアルミ基材の表面に形成された酸素を含有する酸素含有皮膜と、この酸素含有皮膜の上に接合され、熱可塑性樹脂で形成された樹脂成形体とを有し、
前記熱可塑性樹脂が、繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂であり、かつ、
前記酸素含有皮膜が、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用いた亜鉛含有皮膜形成処理で得られた亜鉛元素を含有する皮膜であることを特徴とするアルミ樹脂接合体である。
【0012】
また、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程と、この皮膜形成工程で得られた表面処理済アルミ基材の酸素含有皮膜の上に、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を形成する樹脂成形工程とを有し、前記酸素含有皮膜を介してアルミ基材と樹脂成形体とが接合されたアルミ樹脂接合体を製造するアルミ樹脂接合体の製造方法であり、
前記熱可塑性樹脂が、繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂であり、かつ、
前記皮膜形成工程では、水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを重量比(MOH/Zn2+)1〜100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中にアルミ基材を浸漬する亜鉛含有皮膜形成処理により、このアルミ基材の表面に亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜を形成することを特徴とするアルミ樹脂接合体の製造方法である。
【0013】
更に、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程と、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を形成する樹脂成形工程と、前記皮膜形成工程で得られた表面処理済アルミ基材の酸素含有皮膜の上に、前記樹脂成形工程で得られた樹脂成形体を熱圧着により接合するアルミ樹脂接合工程とを有し、前記酸素含有皮膜を介してアルミ基材と樹脂成形体とが接合されたアルミ樹脂接合体を製造するアルミ樹脂接合体の製造方法であり、
前記熱可塑性樹脂が、繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂であり、かつ、
前記皮膜形成工程では、水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを重量比(MOH/Zn2+)1〜100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中にアルミ基材を浸漬する亜鉛含有皮膜形成処理により、このアルミ基材の表面に亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜を形成することを特徴とするアルミ樹脂接合体の製造方法である。
【0014】
本発明において、素地となるアルミ基材の材質や形状等については、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものであれば特には制限されず、これを用いて形成されるアルミ樹脂接合体の用途やその用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決めることができる。
【0015】
また、このようなアルミ基材の表面に皮膜形成工程で形成される酸素含有皮膜については、アルミ基材との密着性が良好であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用いた亜鉛含有皮膜形成処理で得られた亜鉛元素を含有する皮膜であるか、又は、湿式かつ無電解で行うアルミニウム皮膜形成処理に由来するAl(OH)3、AlO(OH)、Al2O3、Al(PO4)、Al2(HPO4)3、Al(H2PO4)3、及びAl(H2PO4)3からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上のアルミニウム化合物を含む皮膜から選ばれたいずれかの皮膜であるか、更には、レーザー処理によりアルミ基材の表面に形成された皮膜であるのがよい。
【0016】
ここで、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成するための皮膜形成工程で行われる亜鉛含有皮膜形成処理については、アルミ基材の表面に亜鉛元素と共に酸素を酸化亜鉛(ZnO)、酸化亜鉛鉄(ZnFeO)、酸化亜鉛アルミ(ZnAlO)等の形で含有する皮膜を形成することができればよく、これによって熱可塑性樹脂が非共有電子対を持つ元素を有する場合、この熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を成形する際に、あるいは、この熱可塑性樹脂を成形して得られた樹脂成形体との熱圧着により、この酸素含有皮膜の上に形成される樹脂成形体との間に強固なアルミ−樹脂間の接合強度が達成される。
【0017】
そして、この亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用いる亜鉛含有皮膜形成処理については、好ましくは、水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを重量比(MOH/Zn2+)1以上100以下の割合、好ましくは2以上20以下の割合、より好ましくは3以上10以下の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用い、この亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を常温でアルミ基材の表面に接触させることにより、アルミ基材の表面に酸素を含む亜鉛含有皮膜を形成するのがよい。この水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)との重量比(MOH/Zn2+)が1より小さい(MOH<Zn2+)と、亜鉛が十分に溶解しないのでその効果が十分に発揮されず、反対に、100より大きい(MOH>100 Zn2+)と、亜鉛の置換析出よりもアルミ基材の溶解が速くなり、このアルミ基材の表面に亜鉛が析出し難くなる。
【0018】
ここで、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中のアルカリ源については、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムから選ばれたいずれか1種以上が用いられ、また、この亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中の亜鉛イオン源としては、好ましくは酸化亜鉛、水酸化亜鉛、過酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及び硝酸亜鉛から選ばれたいずれか1種以上が用いられる。
【0019】
そして、この亜鉛イオン含有アルカリ水溶液において、水酸化アルカリ濃度については、10g/L以上1000g/L以下、好ましくは50g/L以上300g/L以下であるのがよく、また、亜鉛イオン濃度については、1g/L以上200g/L以下、好ましくは10g/L以上100g/L以下であるのがよい。亜鉛イオン含有アルカリ水溶液の組成を上記の範囲内にすることにより、アルミ基材の表面ではアルミニウムと亜鉛イオンとが置換反応を起こし、アルミニウムは溶解し、また、亜鉛イオンは微細粒として析出し、その結果としてアルミ基材の表面に亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜が形成される。すなわち、アルミニウムは凹部を形成しながら溶解し、この凹部内に亜鉛が析出し、亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜が形成される。ここで、水酸化アルカリ濃度が10g/L未満では亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜の形成が不十分になるという問題があり、反対に、1000g/Lを超えるとアルカリによるアルミの溶解速度が速く亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜が形成されないという問題が生じる。また、亜鉛イオン濃度が1g/L未満では亜鉛含有皮膜の形成に時間がかかるという問題があり、反対に、200g/Lを超えると亜鉛析出速度が制御できず不均一な表面になるという問題が生じる。
【0020】
また、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成するための皮膜形成工程で行われるアルミニウム皮膜形成処理については、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材を、50℃以上の温水に60秒以上浸漬する温水浸漬処理、0.1MPa以上及び1分間以上の加圧条件下の水蒸気雰囲気中に晒す水蒸気処理、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、及びリン酸二水素イオンからなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上のリン酸イオン種を0.1〜100g/Lの範囲で含有するリン酸系水溶液中に30秒〜30分間浸漬した後に80〜400℃の熱風で30秒〜30分間乾燥させるリン酸処理等の湿式かつ無電解で行うアルミニウム皮膜形成処理で処理し、このアルミ基材の表面にAl(OH)3、AlO(OH)、Al2O3、Al(PO4)、Al2(HPO4)3、Al(H2PO4)3、及びAlOSiO2から選ばれたいずれか1種又は2種以上のアルミニウム化合物を含有する酸素含有皮膜を形成することが行われる。
【0021】
また、これらの温水浸漬処理、水蒸気処理、及びリン酸処理は、そのいずれか1種の処理のみを行ってアルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成してもよく、また、必要によりそのいずれか2種の処理を組み合わせて行い、アルミ基材の表面に必要な酸素含有皮膜を形成してもよい。
【0022】
更に、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成するための皮膜形成工程で行われるレーザー処理については、アルミ基材の表面付近を、好ましくは表面付近のみを部分的に、アルミ基材の溶融温度以上まで加熱して酸化し、アルミ基材の表面付近に酸化アルミニウム(Al2O3)を析出させてこの酸化アルミニウム(Al2O3)を含む酸素含有皮膜を形成することができればよく、例えばレーザーエッチング装置等を用いて行うことができる。
【0023】
このようにして上記皮膜形成工程でアルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成して得られた表面処理済アルミ基材については、その最表面から3μmの深さまでの表層においてEPMAで測定される酸素量が0.1重量%以上48重量%以下、好ましくは0.5重量%以上20重量%以下、より好ましくは1重量%以上10重量%以下であるのがよい。この表面処理済アルミ基材の表層における酸素量が0.1重量%より低いと、アルミ−樹脂間の十分なアルミ−樹脂間の接合強度を達成するのが困難になる場合があり、反対に、酸素量を48重量%を超えて高くすることには製造上の困難が伴う。
【0024】
本発明において、上記皮膜形成工程で得られた表面に酸素含有皮膜を有する表面処理済アルミ基材については、その酸素含有皮膜の上に熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を一体的に接合する樹脂成形工程でアルミ樹脂接合体を製造するか、あるいは、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を形成する樹脂成形工程と、得られた樹脂成形体を表面処理済アルミ基材の酸素含有皮膜の上にレーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、ホットプレス溶着、熱板溶着、非接触熱板溶着、又は高周波溶着等の手段を用いた熱圧着により一体的に接合するアルミ樹脂接合工程とでアルミ樹脂接合体を製造する。
【0025】
そして、本発明においては、上記の樹脂成形工程で用いる熱可塑性樹脂としては、繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂が用いられる。ここで、熱可塑性樹脂が有する非共有電子対を持つ元素としては、好ましくは、硫黄、酸素、及び窒素から選ばれたいずれか1種又は2種以上であるのがよい。なお、熱可塑性樹脂の繰返し単位中に含まれるこれら非共有電子対を持つ元素については、それが繰返し単位の主鎖に含まれていても、また、側鎖に含まれていてもよい。
【0026】
このような繰返し単位中及び/又は末端に非共有電子対を持つ元素を有する熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)やサルフォン系樹脂等の硫黄元素を含有する樹脂、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂や、液晶ポリマー、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂等の酸素原子を含有する樹脂、例えばポリアミド(PA)、ABS、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の窒素原子を含有する熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0027】
本発明において、上述した酸素含有皮膜を有するアルミ基材の表面に接合される樹脂成形体を製造する上で、特に好ましい熱可塑性樹脂としては、IR分析においてカルボニル基(C=O)に由来するピーク(1730cm-1付近)を有する樹脂成形体が成形されるような熱可塑性樹脂である。
【0028】
また、本発明においては、素地となるアルミ基材の表面全体に酸素含有皮膜を形成し、得られた表面処理済アルミ基材の必要な個所にのみ射出成形により、または、熱圧着により樹脂成形体を接合してもよく、あるいは、コスト性を考慮して、アルミ基材の表面の一部又は必要な個所のみに酸素含有皮膜を形成し、得られた表面処理済アルミ基材の必要な個所に射出成形により、または、熱圧着により樹脂成形体を接合してもよい。そして、アルミ基材の表面の一部又は必要な個所のみに酸素含有皮膜を形成する際には、酸素含有皮膜を形成する部分以外の部分を、例えばマスキングテープ等でマスキングした後に酸素含有皮膜を形成するための処理を行い、次いでこのマスキングした部分のマスキングテープ等を除去すればよい。
【0029】
本発明におけるアルミ樹脂接合体の製造方法においては、必要により上記酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程に先駆けて、アルミ基材の表面の前処理として、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理から選ばれたいずれか1種以上の処理を行ってもよい。
【0030】
上記前処理として行う脱脂処理については、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、界面活性剤等からなる通常の脱脂浴を用いて行うことができ、処理条件としては、通常、浸漬温度が15℃以上55℃以下、好ましくは25℃以上40℃以下であって、浸漬時間が1分以上10分以下、好ましくは3分以上6分以下である。
【0031】
また、上記前処理として行うエッチング処理については、通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液、又は、硫酸−リン酸混合水溶液等の酸水溶液が用いられる。そして、アルカリ水溶液を用いる場合には、濃度20g/L以上200g/L以下、好ましくは50g/L以上150g/L以下のものを用い、浸漬温度30℃以上70℃以下、好ましくは40℃以上60℃以下、及び処理時間0.5分以上5分以下、好ましくは1分以上3分以下の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。また、酸水溶液である硫酸−リン酸混合水溶液を用いる場合には、硫酸濃度10g/L以上500g/L以下、好ましくは30g/L以上300g/L以下、及びリン酸濃が10g/L以上1200g/L以下、好ましくは30g/L以上500g/Lのものを用い、浸漬温度30℃以上110℃以下、好ましくは55℃以上75℃以下、及び浸漬時間0.5分以上15分以下、好ましくは1分以上6分以下の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。
【0032】
更に、上記前処理として行うデスマット処理については、例えば1〜30%濃度の硝酸水溶液からなるデスマット浴を用い、浸漬温度15℃以上55℃以下、好ましくは25℃以上40℃以下、及び浸漬時間1分以上10分以下、好ましくは3分以上6分以下の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。
なお、上記前処理として行う化学研磨処理や電解研磨処理については、従来公知の方法を採用することができる。
【0033】
本発明におけるアルミ基材と樹脂成形体との間の接合の原理については、未だ不明な点も多いが、次のような検証結果から概ね以下のように考えている。
すなわち、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜を有する複数の表面処理済アルミ基材を形成し、一部の表面処理済アルミ基材については、その表面にカルボニル基(C=O)を有するポリフェニレンスルフィド(PPS)の射出成形によりPPS成形体を接合してアルミPPS接合体とし、残りの表面処理済アルミ基材については、先ず、100℃に保持した電気炉中でステアリン酸を揮発させ、その中に表面処理済アルミ基材を24時間暴露し、酸素含有皮膜の上にステアリン酸の単分子膜を有するステアリン酸処理済アルミ基材とし、このステアリン処理済アルミ基材の表面にカルボニル基(C=O)を有するPPSの射出成形によりPPS成形体を接合してステアリン酸処理アルミPPS接合体とし、これらアルミPPS接合体とステアリン酸処理アルミPPS接合体との間における接合強度の違いを測定した。
結果は、ステアリン処理有アルミPPS接合体における接合強度は、アルミPPS接合体の接合強度に比べて明確に低下していた。
【0034】
ステアリン酸は親水基であるカルボキシル基(COOH)と疎水基であるアルキル基(C17H35)とを併せ持ち、1分子の厚みをもつ単分子膜を形成する性質がある。ステアリン酸処理アルミPPS接合体においては、そのアルミ基材の酸素含有皮膜とステアリン酸のカルボキシル基側が化学結合してしまい、アルキル基側がPPS成形体と接触するかたちとなるため、その結果として、アルミ基材とPPS成形体の化学結合を阻害され、アルミPPS接合体の接合強度に比べて接合強度が低下したものと考えられる。
【0035】
また、ステアリン酸処理前後の表面処理済アルミ基材について、その表面を観察して比較検討したが、ステアリン酸単分子膜の有無により表面の構造に違いは見られなかった。一方、ステアリン酸処理後の表面処理済アルミ基材について、液滴を垂らし、その接触角を測定すると、接触角は180°に近くなり、液滴はほぼ球形になった。このことは、ステアリン酸のアルキル基側がアルミ基材の最表層側に偏在していることを裏付ける結果である。
【0036】
以上から、本発明のアルミ樹脂接合体における表面処理済アルミ基材とカルボニル基(C=O)を有する樹脂成形体との間において、酸素含有皮膜の酸素と樹脂中のカルボニル基との間に化学的な結合が生じ、この化学的な結合による作用がアルミ基材と樹脂成形体との間の接合強度を高くする効果を発現しているものと考えられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のアルミ樹脂接合体は、アルミ基材の表面を酸素含有皮膜で被覆し、次いで、非共有電子対を持つ元素を含有する熱可塑性樹脂を用い、この熱可塑性樹脂の射出成形により、又は、この熱可塑性樹脂の射出成形で得られた樹脂成形体の熱圧着により、アルミ基材表面の酸素含有皮膜の上に樹脂成形体を接合して得られるものであり、酸素含有皮膜を介してアルミ基材と樹脂成形体とが強固に接合されるだけでなく、長期に亘って優れたアルミ−樹脂間の接合強度を維持し得るものである。
【0038】
また、本発明のアルミ樹脂接合体の製造方法によれば、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程において、ガス発生等もないほか常温での操作も可能であり、周辺の設備や環境に問題がなく、簡単な操作かつ低コストで、長期に亘って優れたアルミ−樹脂間の接合強度を発揮し得るアルミ樹脂接合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施例1で作成された接合強度用アルミ樹脂接合体を説明するための説明図である。
図2】本発明の実施例1で実施されたアルミ−樹脂間の接合強度の評価試験の方法を説明するための説明図である。
図3】本発明の実施例1で作成された気密性試験用アルミ樹脂接合体を説明するための説明図である。
図4】本発明の実施例1で実施されたアルミ−樹脂間の気密性評価試験の方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明のアルミ樹脂接合体及びその製造方法を具体的に説明する。
〔実施例1〕
(1) 表面処理済アルミ基材の作製
市販のアルミニウム板材(A5052; 板厚2.0mm)から40mm×40mmの大きさの接合強度試験用アルミ基材を切り出した。更に、40mm×40mmの大きさに切り出したアルミ基材の中央に10mmφの穴を開け、気密性試験用アルミ基材を作製した。また、皮膜形成処理剤として水酸化ナトリウム濃度100g/L及び酸化亜鉛濃度25g/L(Zn+として20g/L)の亜鉛イオン含有ナトリウム水溶液を調製した。次に、この亜鉛イオン含有ナトリウム水溶液中に上記のアルミ基材を室温下に3分間浸漬し、その後水洗し、表面に亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜が形成された試験用の表面処理済アルミ基材を作製した。
【0041】
(2) 皮膜の含有酸素量の測定
得られた表面処理済アルミ基材について、EPMA(島津製:EPMA1610)を用い、照射径が40μm/stepで縦横方向にそれぞれ512step測定するマッピング分析を実施した。ここで、測定面積は20.48mm×20.48mmであり、1stepのサンプリングタイムは20msであって、加速電圧は15kVであり、酸素の深さ方向の分解能は3μm以下である。次に、検出された酸素強度を事前に作成した検量線から重量百分率(wt%)として算出した。なお、検量線は、Al2O3標準試料(酸素量:48wt%)の酸素強度と高純度Al箔の酸素強度の2点から算出し作成したものを使用した。
結果を表1に示す。
【0042】
(3) 接合強度試験用アルミ樹脂接合体の作製
熱可塑性樹脂としてPPS(ポリプラスチックス社製商品名:フォートロン)を用い、上で得られた接合強度試験用表面処理済アルミ基材を射出成形機の金型内にセットし、金型温度150℃、樹脂温度320℃、射出速度100mm/s、保圧50MPa、保圧時間3秒の射出成形条件でPPSの射出成形を行い、図1に示すように、5mm×10mm×30mmの大きさのPPS成形体3を成形すると共に、このPPS成形体3を5mm×10mmの面積で表面処理済アルミ基材2の亜鉛含有皮膜(図示せず)上に接合させ、接合強度試験用のアルミ樹脂接合体1を作製した。
【0043】
(4) 気密性試験用アルミ樹脂接合体の作製
熱可塑性樹脂としてPPS(ポリプラスチックス社製商品名:フォートロン)を用い、上で得られた試験用表面処理済アルミ基材を射出成形機の金型内にセットし、金型温度150℃、樹脂温度320℃、射出速度100mm/s、保圧50MPa、保圧時間3秒の射出成形条件でPPSの射出成形を行い、図3に示すように、520mmφの大きさのPPS成形体6を成形すると共に、このPPS成形体6を235.5mm2の面積で表面処理済アルミ基材7の亜鉛含有皮膜(図示せず)上に接合させ、気密性試験用のアルミ樹脂接合体2を作製した。
【0044】
(5) アルミ樹脂接合体の樹脂部分のIR分析
このようにして作製された試験用アルミ樹脂接合体1及び2について、IR分析装置(Agilent Technologies 660FastImage-IR)を使用し、顕微ATR法により樹脂成形体部分のIR分析を実施し、カルボニル基(C=O)由来のピーク(1730cm-1付近)の有無を確認した。結果は、表1に示す通り、カルボニル基(C=O)由来のピークが検出された。
【0045】
(6) アルミ樹脂接合体の耐久試験後の接合性の評価試験
このようにして作製された試験用アルミ樹脂接合体について、アルミ樹脂接合体を温度85℃及び湿度85%の環境下に1000時間放置してアルミ樹脂接合体の耐食性を評価するアルミ樹脂接合体の耐久試験を行い、この耐久試験後のアルミ樹脂接合体について、下記の方法でそのアルミ−樹脂間の接合性(接合強度及び気密性)の評価試験を行った。
【0046】
図2に示すように、接合強度評価試験として、アルミ樹脂接合体1の表面処理済アルミ基材2を冶具4に固定し、PPS成形体3の上端にその上方から1mm/min.の速度で荷重5を印加し、表面処理済アルミ基材2とPPS成形体3との間の接合部分を破壊する方法でアルミ樹脂接合体の接合部のせん断強度を評価する試験を実施し、耐久試験後におけるアルミ樹脂接合体の接合強度を評価した。
結果を表1に示す。
【0047】
図3及び図4に示すように、気密性評価試験として、アルミ樹脂接合体2の表面処理済アルミ基材7を、O−リング9を介してクランプ12で、アルミ固定用冶具8及び気密性試験冶具10に固定し、正圧+0.5MPaでエアーを3分間印加し、PPS成形6の接合部のエアーリーク量を計測する試験を実施した。評価時間内においてエアーリークがない場合を○、エアーリークが観察された場合を×として評価した。
結果を表1に示す。
【0048】
〔実施例2〜9〕
アルミ基材として表1に示す材質のものを使用し、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液として表1に示す液組成のものを使用して水酸化アルカリ濃度及び亜鉛イオン濃度を表1に示す濃度にした以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして樹脂部分のIR分析、接合強度、及び気密性の評価試験を行った。
結果を表1に示す。
【0049】
参考例10〜11〕
アルミ基材として表1に示す材質のものを使用し、30wt%硝酸水溶液に常温で5分間浸漬した後にイオン交換水で十分に水洗し、次いで5wt%水酸化ナトリウム溶液に50℃で1分間浸漬した後に水洗し、更に、30wt%硝酸水溶液に常温で3分間浸漬した後に水洗する前処理を施した。次に、80℃の熱水で20分間浸漬させる水和処理をすることによりアルミニウム皮膜形成処理を施し、アルミ基材の表面にアルミニウム化合物AlO(OH)を含む酸素含有皮膜を形成した以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして樹脂部分のIR分析、接合強度、及び気密性の評価試験を行った。
結果を表1に示す。
【0050】
参考例12〜13〕
アルミ基材として表1に示す材質のものを使用し、レーザーエッチング処理(装置名:ミヤチテクノス/ML-7112A、レーザー光波長:1064nm、スポット径:50-60um、発振方式:Qスイッチパルス、周波数:10kHz)により、同一方向にピッチ幅50μm間隔で照射し、表層に熱酸化皮膜(酸素含有皮膜)を形成した以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして樹脂部分のIR分析、接合強度、及び気密性の評価試験を行った。
結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例14〕
熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレート(PBT)を使用した以外は、上記実施例1と同様にして、試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして樹脂部分のIR分析、接合強度及び気密性の評価試験を行った。なお、PBTの射出成形条件は金型温度100℃、樹脂温度250℃、射出速度100mm/s、保圧50MPa、保圧時間2秒の射出成形条件で行った、
結果を表1に示す。
【0052】
〔実施例15〕
亜鉛含有水酸化ナトリウムによる処理に先駆けて、前処理として水酸化ナトリウムを用いたエッチング処理と硝酸によるデスマット処理を実施した以外は、上記実施例1と同様にして、試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして樹脂部分のIR分析、接合強度及び気密性の評価試験を行った。なお、水酸化ナトリウムによるエッチング処理は5wt%水溶液で60℃1分の浸漬処理であり硝酸によるデスマット処理は10wt%水溶液で25℃3分実施した。
結果を表1に示す。
【0053】
〔比較例1〕
皮膜形成処理剤を用いて亜鉛含有皮膜を形成する皮膜形成工程を行わなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1に係る試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして樹脂部分のIR分析、接合強度、及び気密性の評価試験を行った。
結果を表1に示す。
【0054】
〔比較例2〕
皮膜形成処理剤を用いて亜鉛含有皮膜を形成した後、更にその上に無電解NiPメッキ処理を行い、亜鉛含有皮膜をNiPメッキ皮膜に変えた以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2に係る試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして樹脂部分のIR分析、接合強度、及び気密性の評価試験を行った。
結果を表1に示す。
【0055】
〔比較例3〕
アルミ基材として表1に示す材質のものを使用し、30wt%硝酸水溶液に常温で5分間浸漬した後にイオン交換水で十分に水洗し、乾燥させ、アルミ基材の表面に自然酸化皮膜を有するアルミ基材を形成した以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして樹脂部分のIR分析、接合強度、及び気密性の評価試験を行った。
結果を表1に示す。









【0056】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアルミ樹脂接合体は、耐久試験の前後において共に優れた接合強度を有するため、自動車用各種センサーの部品、家庭電化製品の部品、産業機器の部品等の各種部品の製造に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…アルミ樹脂接合体、2…表面処理済アルミ基材、3…樹脂成形体、4…冶具、5…荷重、6…樹脂成形体、7…表面処理済アルミ基材、8…アルミ固定用冶具、9…O−リング、10…気密性試験冶具、12…クランプ、12…リークテスタ。
図1
図2
図3
図4