(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記グリコールエーテルの含有量が、前記ゴムラテックスの固形分と前記樹脂エマルジョンの固形分との合計100質量部に対して、70〜300質量部である、請求項1に記載のタイヤパンクシール剤。
前記界面活性剤の含有量が、前記ゴムラテックスの固形分と前記樹脂エマルジョンの固形分との合計100質量部に対して、3〜20質量部である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤパンクシール剤。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の標準またはオプションの装備として、パンク修理キットが導入されるケースが増加している。
パンク修理キットは、タイヤパンクシール剤(タイヤパンクシール材)と任意のコンプレッサー等とを組み合わせた構成が知られており、また、実際の製品としては、「タイヤパンク応急修理剤」等と称するタイヤパンクシール剤と、シガーライターソケットから電源を採る小容量のコンプレッサー等とを組み合わせ、コンパクトにパッケージングしたものが一般的に知られている。
【0003】
ここで、上記タイヤパンクシール剤は寒冷地でも使用できるように低温下でも凍結し難いこと(耐凍結性)が求められる。
【0004】
このようななか、例えば、特許文献1には、「天然ゴムラテックス及び/又は合成樹脂エマルジョンとプロピレングリコールとを含むタイヤパンクシール剤において、前記プロピレングリコール/水の比が0.5〜1.1であり、かつBL型粘度計を使用したときの−20℃の粘度が回転数60rpmで100〜1200mPa・sであるタイヤパンクシール剤。」が開示されている(請求項1)。
また、特許文献2には、「天然ゴムラテックス、粘着付与剤、1,3−プロパンジオール及びノニオン性界面活性剤を含むタイヤのパンクシーリング剤。」が開示されている(請求項1)。
特許文献1および2には、上記構成をとることにより、低温での注入性に優れる旨が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のタイヤパンクシール剤について説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本発明のタイヤパンクシール剤は、ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョンと、後述する式(1)で表されるグリコールエーテルと、界面活性剤とを含有する。
本発明のタイヤパンクシール剤はこのような構成をとるため、耐凍結性に優れるとともに、液量が少なくても優れたシール性を示すものと考えられる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
【0013】
タイヤパンクシール剤を用いたタイヤパンク修理では、パンクしたタイヤにタイヤパンクシール剤を注入し、その状態で走行する。このとき、タイヤ中でタイヤパンクシール剤が撹拌され、結果、タイヤパンクシール剤中の固形分が析出し、パンク孔が塞がれる。
ここで、タイヤに注入されたタイヤパンクシール剤は走行により撹拌されて泡立つ場合がある。本発明者は、このようにタイヤパンクシール剤が泡立つと、注入したタイヤパンクシール剤の見かけの容積が増大し、液量を減らしてもシール性が保持されることを知見している。さらに、後述する式(1)で表されるグリコールエーテル(特定のグリコールエーテル)を配合したタイヤパンクシール剤は、初期の泡立ちが高く、また、時間が経過しても泡立ちが維持されることを知見している。
本発明はこれらの知見に基づくものであり、上記特定のグリコールエーテルを配合することで、注入したタイヤパンクシール剤の見かけの容積が増大するため、液量を減らしても優れたシール性が得られるものと考えられる。また、上記特定のグリコールエーテルは凝固点が低いため、本発明のタイヤパンクシール剤は耐凍結性にも優れるものと考えられる。
なお、本発明のタイヤパンクシール剤は上記特定のグリコールエーテルを含有するために、粘度が低く、注入性にも優れる。
以下、本発明のタイヤパンクシール剤が含有する各成分について説明する。
【0014】
[ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョン]
本発明のタイヤパンクシール剤は、ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョンを含有する。なかでも、ゴムラテックスおよび樹脂エマルジョンを含有するのが好ましい。すなわち、ゴムラテックスと樹脂エマルジョンとを併用するのが好ましい。
以下、ゴムラテックスおよび樹脂エマルジョンについて説明する。
【0015】
<ゴムラテックス>
上記ゴムラテックスは特に限定されず、従来公知のゴムラテックスを用いることができる。
ゴムラテックスの具体例としては、天然ゴムラテックス、クロロプレンラテックス、スチレンブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス、スチレンブタジエンアクリルゴムラテックスなどが挙げられる。なかでも、天然ゴムラテックスが好ましい。
本発明のタイヤパンクシール剤では、ゴムラテックスを1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
上記天然ゴムラテックスは、特に限定されず、従来公知の天然ゴムラテックスを用いることができる。
天然ゴムラテックスの具体例としては、ヘベア・ブラジリエンシス樹をタッピングして採取されるもの、天然ゴムラテックスから蛋白質を除去した所謂「脱蛋白天然ゴムラテックス」などが挙げられる。
【0017】
ゴムラテックス中の固形分の含有量は特に制限されないが、ゴムラテックス全体に対して40〜80質量%であることが好ましい。
【0018】
<樹脂エマルジョン>
上記樹脂エマルジョンは、特に限定されず、従来公知の樹脂エマルジョンを用いることができる。なかでも、合成樹脂エマルジョンが好ましい。
上記合成樹脂エマルジョンの具体例としては、ウレタンエマルジョン、アクリルエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体エマルジョン、ポリ塩化ビニル系エマルジョンなどが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
樹脂エマルジョンは、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンまたはエチレン−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体エマルジョンであるのが好ましく、エチレン−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体エマルジョンであるのがより好ましい。
【0019】
樹脂エマルジョン中の固形分の含有量は特に制限されないが、樹脂エマルジョン全体に対して30〜70質量%であることが好ましい。
【0020】
本発明のタイヤパンクシール剤において、ゴムラテックスと樹脂エマルジョンとの合計の含有量は特に制限されないが、タイヤパンクシール剤全体に対して30〜80質量%であることが好ましい。
また、ゴムラテックスの固形分と樹脂エマルジョン固形分との合計の含有量は特に制限されないが、タイヤパンクシール剤全体に対して10〜50質量%であることが好ましい。
【0021】
[グリコールエーテル]
本発明のタイヤパンクシール剤は、下記式(1)で表されるグリコールエーテルを含有する。
【0023】
上記式(1)中、R
1は、水素原子またはアルキル基を表す。なかでも水素原子であることが好ましい。アルキル基は特に限定されない。アルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0024】
上記式(1)中、pは、1以上の整数を表す。なかでも、2以上の整数であることが好ましく、3以上の整数であることがより好ましい。
【0025】
上記グリコールエーテルの具体例としては、メチルグリコール、メチルジグリコール、メチルトリグリコール、メチルポリグリコール、ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、ジメチルポリグリコールなどが挙げられる。
【0026】
本発明のタイヤパンクシール剤において、グリコールエーテルの含有量は特に制限されないが、上記ゴムラテックスの固形分と上記樹脂エマルジョンの固形分との合計100質量部に対して、10〜500質量部であることが好ましく、50〜300質量部であることがより好ましく、70〜300質量部であることがさらに好ましく、100〜300質量部であることが特に好ましい。
【0027】
[界面活性剤]
本発明のタイヤパンクシール剤に含有される界面活性剤は特に限定されず、従来公知の界面活性剤を用いることができる。界面活性剤の具体例としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ソルビタン、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレン−プロピレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルエステルカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルリン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルケニルコハク酸塩などが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン酢酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩などが挙げられる。
両性イオン界面活性剤としては、例えば、ジメチルアルキルベタイン、アルキルアミドベタインなどが挙げられる。
【0029】
界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤であることが好ましく、アニオン性界面活性剤であることがより好ましく、硫酸エステル塩であることがさらに好ましい。
【0030】
上記硫酸エステル塩は特に制限されないが、アルキル硫酸エステル塩またはポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩であることが好ましく、下記式(2)または(3)で表される化合物であることがより好ましい。
【0032】
上記式(2)および(3)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基を表し、M
+は、1価のカチオンを表し、nは、1〜15の整数を表す。
【0033】
上記式(2)および(3)中、R
2およびR
3が示す炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基(ラウリル基)、ウンデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロプロピルメチル基、トリフルオロエチル基などが挙げられ、中でも、炭素数10〜20の長鎖アルキル基であるのが好ましい。アルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0034】
上記式(2)および(3)中、M
+が示す1価のカチオンとしては、例えば、1価の金属カチオン(例えば、アルカリ金属のカチオン)、アンモニウムカチオンなどが挙げられ、なかでも、下記式(4)で表されるカチオンが好ましい。
【0036】
上記式(4)中、R
41〜R
44は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜5のアルキル基)、または、ヒドロキシ基を有するアルキル基(例えば、−R−OH:ここで、Rはアルキレン基(好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基))を表す。R
41〜R
44の少なくとも1つはヒドロキシ基を有するアルキル基であるのが好ましい。
上記式(4)で表されるカチオンとしては、例えば、トリエタノールアンモニウムなどが挙げられる。
【0037】
本発明のタイヤパンクシール剤において、界面活性剤の含有量は特に制限されないが、上記ゴムラテックスの固形分と上記樹脂エマルジョンの固形分との合計100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましく、3〜20質量部であることがさらに好ましい。
【0038】
[任意成分]
本発明のタイヤパンクシール剤は、必要に応じて、上述した各成分以外の成分(任意成分)を含有してもよい。そのような任意成分としては、例えば、凍結防止剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、分散剤、脱水剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0039】
[タイヤパンクシール剤の製造方法]
本発明のタイヤパンクシール剤の製造方法は特に制限されず、例えば、上述した各成分を、撹拌機を用いて混合する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<タイヤパンクシール剤の製造>
下記第1表に示される成分を同表に示される割合(質量部)で撹拌機を用いて混合し、タイヤパンクシール剤(実施例および比較例のタイヤパンクシール剤)を製造した。なお、第1表中、ゴムラテックスおよび樹脂エマルジョンについてカッコ内の数値は固形分の質量部を表す。
【0042】
<ロスマイルス試験>
得られたタイヤパンクシール剤についてロスマイルス試験を行った。具体的には、得られたタイヤパンクシール剤について、JIS K3362:2008に準じ、「すべての溶液が流出した直後の泡の高さ」(初期の泡の高さ)、および、「すべての溶液が流出してから5分後の泡の高さ」(5分後の泡の高さ)を測定した。結果を第1表に示す。
【0043】
<シール性>
得られたタイヤパンクシール剤について以下のとおりシール性を評価した。
タイヤのトレッドのショルダー溝部にパンク孔(直径4mm)を空けた。
次いで、パンク孔を空けたタイヤをドラム試験機に装着し、得られたタイヤパンクシール剤をタイヤのバルブ口から300ml注入し、タイヤ内圧が150kPaになるように空気を充填した。なお、上記300mlは従来の液量のおよそ2/3に当たる。
その後、荷重350kg、時速30kmの条件下で上記タイヤを1分間走行させて停止する間欠運転を、空気漏れが無くなるまで(シールされるまで)繰り返した。空気漏れの有無は、目視および石鹸水をパンク孔付近に吹き付けることで確認した。
そして、以下の基準によりシール性を評価した。結果を第1表に示す。シール性の観点から、AまたはBであることが好ましく、Aであることがより好ましい。
・A:間欠運転5サイクル以内にシールされた。
・B:間欠運転6〜10サイクルでシールされた。
・C:間欠運転11サイクル以上でシールされた。
【0044】
<耐凍結性>
得られたタイヤパンクシール剤について以下の基準で耐凍結性を評価した。結果を第1表に示す。耐凍結性の観点から、Aであることが好ましい。
・A:−40℃で凍結しない。
・B:−40℃で凍結する。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
第1表に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・ゴムラテックス:天然ゴムラテックス(Hytex HA、固形分:60質量%、フェルフェックス社製(野村貿易社取扱))
・樹脂エマルジョン:エチレン−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体エマルジョン(スミカフレックス950HQ、固形分:50質量%、住化ケムテックス社製)
・プロピレングリコール:プロピレングリコール
・エチレングリコール:エチレングリコール
・1,3−プロパンジオール:1,3−プロパンジオール
・メチルトリグリコール:メチルトリグリコール(上記式(1)で表されるグリコールエーテル。ここで、R
1:水素原子、p=3。)
・メチルジグリコール:メチルジグリコール(上記式(1)で表されるグリコールエーテル。ここで、R
1:水素原子、p=2。)
・界面活性剤1:ラウリル硫酸トリエタノールアミン(エマールTD、分子量:405、花王社製)(上記式(2)で表される化合物。ここで、R
2:ラウリル基(n−ドデシル基)、M
+:上記式(4)で表されるカチオン(ここで、R
41:水素原子、R
42〜R
44:−CH
2CH
2OH)。)
・界面活性剤2:ラウリル硫酸アンモニウム(ラテムル AD−25、花王社製)
【0049】
第1表から分かるように、ゴムラテックスおよび/または樹脂エマルジョンと上記式(1)で表されるグリコールエーテルと界面活性剤とを含有する本願実施例はいずれも耐凍結性に優れ、また、液量が少なくても優れたシール性を示した。
実施例1と4との対比から、上記式(1)中のpが3以上の整数である実施例1はより優れたシール性を示した。
また、実施例1〜3の対比から、グリコールエーテルの含有量がゴムラテックスの固形分と樹脂エマルジョンの固形分との合計100質量部に対して70〜300質量部である実施例1および3はより優れたシール性を示した。
また、実施例1と8との対比から、界面活性剤が上記式(2)で表される化合物であり、上記式(2)中のM
+が上記式(4)で表されるカチオンであり、上記式(4)中のR
41〜R
44の少なくとも1つがヒドロキシ基を有するアルキル基である実施例1はより優れたシール性を示した。
また、実施例1および5〜7の対比から、界面活性剤の含有量がゴムラテックスの固形分と樹脂エマルジョンの固形分との合計100質量部に対して3〜20質量部である実施例1、6および7はより優れたシール性を示した。
【0050】
一方、上記式(1)で表されるグリコールエーテルを含有しない比較例1〜5は液量が少ない場合、シール性が不十分であった。