【文献】
中本斉 他,連続鋳造圧延法による高性能銅合金線の開発,銅と銅合金,2012年,Vol.51, No.1,p.306-310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Co,P及びSnを含有する析出強化型銅合金からなり、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材を冷間加工することによって製造される銅合金線であって、
Co;0.20mass%以上0.35mass%以下、P;0.095mass%超え0.15mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.5mass%以下、を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
CoとPの原子比Co/Pが、1.2≦Co/P≦1.7の範囲内とされていることを特徴とする銅合金線。
さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の銅合金線。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のCo、P及びSnを含有する銅合金線を製造する場合には、ビレットと呼ばれる断面積の大きな鋳塊を製出し、このビレットを再加熱して熱間押出し、その後、さらに伸線加工等を行う方法が実施されている。しかしながら、断面積の大きな鋳塊を製出した後に熱間押出を行って銅合金を製造する場合、鋳塊のサイズによって得られる銅合金の長さが制限されることになり、長尺の銅合金線を得ることができなかった。また、生産効率が悪いといった問題があった。
【0007】
そこで、例えばベルトホイール式の連続鋳造機等を用いた連続鋳造圧延法によって銅合金線を製造する方法が提案されている。この場合、鋳造と圧延とを連続で実施するために、生産効率が高く、長尺の銅合金線を得ることが可能となる。
また、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造し、この連続鋳造線材を冷間加工することによって銅合金線を製造する方法も提案されている。
【0008】
しかしながら、ベルトホイール式の連続鋳造機等を用いた連続鋳造圧延法によって製造された銅合金線、及び、連続鋳造線材を冷間加工することによって製造された銅合金線は、ビレットを熱間押出する熱間押出工程を含む製造方法によって製造された銅合金線に比べて、強度が低くなる傾向にあった。このため、強度を確保するためには、熱間押出工程を含む製造方法によって製造する必要があり、高強度の銅合金線を効率良く生産することができなかった。
【0009】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、Co,P及びSnを含有する析出強化型銅合金からなり、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材を冷間加工することによって製造されても十分な強度を確保することができる銅合金線を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、連続鋳造圧延法で製造された銅合金線は、熱間押出工程を含む製造方法によって製造された銅合金線に比べて、Co,Pの偏析が大きいことが判明した。これは、熱間押出の場合には、鋳塊を高温まで加熱して保持することができ、Co、Pの偏析を解消することができるが、連続鋳造圧延法では、得られた鋳塊がそのまま圧延されるため、鋳造時の偏析を十分に解消できないためと推測される。このように、連続鋳造圧延法によって製造された銅合金線は、Co,Pの偏析が大きいために、Co及びPの化合物からなる析出物の個数が不足し、強度が低下するとの知見を得た。このような問題は、連続鋳造線材を冷間加工することによって製造された銅合金線においても同様である。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであって、本発明の銅合金線は、Co,P及びSnを含有する析出強化型銅合金からなり、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材を冷間加工することによって製造される銅合金線であって、
Co;0.20mass%以上0.35mass%以下、P;0.095mass%超え0.15mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.5mass%以下、を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有
し、CoとPの原子比Co/Pが、1.2≦Co/P≦1.7の範囲内とされていることを特徴としている。
【0012】
上述の構成の銅合金線においては、Co;0.20mass%以上0.35mass%以下、P;0.095mass%超え0.15mass%以下と、Co、Pを比較的多く含んでいるので、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材を冷間加工することによってCo、Pの偏析が大きくなった場合であっても、Co及びPの化合物を十分に析出させることができ、強度の向上を図ることが可能となる。よって、Co,P及びSnを含有する析出強化型銅合金からなる強度の高い銅合金線を、例えば連続鋳造圧延法又は連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材を冷間加工することによって効率よく製造することが可能となる。
【0013】
ここで、本発明の銅合金線においては、CoとPの原子比Co/Pが、1.2≦Co/P≦1.7の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、CoとPの原子比Co/Pが、Co/P≧1.2とされているので、Co量が十分に確保され、Co及びPの化合物からなる析出物の個数を確保できる。また、CoとPの原子比Co/Pが、Co/P≦1.7とされているので、P量が十分に確保され、Co及びPの化合物からなる析出物の個数を確保できる。なお、析出物を構成するCo及びPの化合物がCo
2Pとすると、CoとPの原子比Co/Pは2となるが、Co、Pの偏析が大きい場合には、理論量よりもPを多く含むことで、Co及びPの化合物(Co
2P)からなる析出物の個数を確保することが可能となるのである。
【0014】
また、本発明の銅合金線においては、さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種以上を含むことが好ましい。
この場合、Ni,Feによって、Co及びPの化合物を微細化することができ、さらなる強度の向上を図ることができる。
【0015】
また、本発明の銅合金線においては、さらに、Zn;0.002mass%以上0.5mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下、Zr;0.001
mass%以上0.1mass%以下、のいずれか1種以上を含むことが好ましい。
この場合、銅材料のリサイクル過程で混入するSを、Zn、Ag、Zrによって無害化することができ、中間温度脆性を防止し、銅合金線の強度及び延性を向上させることができる。
【0016】
さらに、本発明の銅合金線においては、原子比で(Co+P)/Snが、3.5≦(Co+P)/Sn≦8.5の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、(Co+P)とSnの原子比を上述の範囲に制御することにより、Co及びPの化合物からなる析出物による析出強化と、Snの固溶による固溶強化とをバランスさせることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Co,P及びSnを含有する析出強化型銅合金からなり、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材を冷間加工することによって製造されても十分な強度を確保することができる銅合金線を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態に係る銅合金線について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である銅合金線は、Co,P及びSnを含有する析出強化型銅合金からなり、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材を冷間加工することによって製造される銅合金線であって、Co;0.20mass%以上0.35mass%以下、P;0.095mass%超え0.15mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.5mass%以下、を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する。また、本実施形態では、CoとPの原子比Co/Pが、1.2≦Co/P≦1.7の範囲内とされている。さらに、本実施形態では、原子比で、(Co+P)/Snが、3.5≦(Co+P)/Sn≦8.5の範囲内とされている。
【0020】
なお、この銅合金線においては、さらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種以上を含んでいてもよい。
また、さらにZn;0.002mass%以上0.5mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下、Zr;0.001
mass%以上0.1mass%以下、のいずれか1種以上を含んでいてもよい。
以下に、各元素の含有量を上述の範囲内に設定した理由について説明する。
【0021】
(Co)
Coは、Pとともに、銅の母相中に分散する析出物を形成する元素である。
ここで、Coの含有量が0.20mass%未満の場合には、析出物の個数が不足し、強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、Coの含有量が0.35mass%を超える場合には、強度の向上に寄与しない元素が多く存在し、導電率の低下等を招くおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Coの含有量を0.20mass%以上0.35mass%以下の範囲内に設定している。
【0022】
(P)
Pは、Coとともに、銅の母相中に分散する析出物を形成する元素である。
連続鋳造圧延方法によって製造した場合には、CoとPの偏析が大きいため、P量を多くしないと、Co及びPの化合物の個数が不足するおそれがある。そのため、Pの含有量が0.095mass%以下の場合には、析出物の個数が不足し、強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、Pの含有量が0.15mass%を超える場合には、導電率の低下等を招くおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Pの含有量を0.095mass%超え0.15mass%以下の範囲内に設定している。
【0023】
(CoとPの原子比Co/P)
CoとPは、上述のようにCo及びPの化合物からなる析出物を形成する。ここで、CoとPの原子比Co/Pが1.2未満の場合には、Co量が不足してCo及びPの化合物からなる析出物の個数を十分に確保することができないおそれがある。一方、CoとPの原子比Co/Pが1.7を超える場合には、P量が不足してCo及びPの化合物からなる析出物の個数を十分に確保することができないおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、CoとPの原子比Co/Pを1.2≦Co/P≦1.7の範囲内に設定している。
なお、Co及びPの化合物からなる析出物をとしてはCo
2Pが挙げられる。本実施形態では、CoとPの原子比Co/Pを、1.2≦Co/P≦1.7の範囲内に設定しており、Co
2Pの理論上の原子比Co/P=2よりも多くのPを含むように構成している。CoとPの偏析が大きい場合には、Pを過剰に含むことによって、Co及びPの化合物からなる析出物の個数を確保することが可能となるのである。
【0024】
(Sn)
Snは、銅の母相中に固溶することによって強度を向上させる作用を有する元素である。また、CoとPとを主成分とする析出物の析出を促進させる効果や、耐熱性、耐食性を向上させる作用も有する。
ここで、Snの含有量が0.01mass%未満の場合には、上述した作用効果を確実に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Snの含有量が0.5mass%を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Snの含有量を0.01mass%以上0.5mass%以下の範囲内に設定している。さらに望ましくは0.03mass%以上0.1mass%の範囲内が良い。
【0025】
(原子比(Co+P)/Sn)
Co、Pは、上述のようにCo及びPの化合物からなる析出物を形成して析出強化に寄与することになる。一方、Snは、母相中に固溶することにより固溶強化に寄与することになる。よって、(Co+P)/Snを制御することにより、析出強化と固溶強化とをバランスさせることが可能となる。
ここで、(Co+P)/Snが3.5未満の場合には、Snによる固溶強化が中心となってしまい、強度向上を図ろうとすると導電率が低下するため、高い導電率が要求される用途においては強度向上に限界がある。一方、(Co+P)/Snが8.5を超える場合には、Co、Pの化合物による析出強化が中心となり、化合物の析出状態(析出物粒子サイズ、析出均一性)の観点から強度向上の効果が飽和する。また、高温環境下で使用した場合に、強度等が変化してしまうおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、(Co+P)/Snを3.5≦(Co+P)/Sn≦8.5の範囲内に設定している。
【0026】
(Ni及びFe)
Ni及びFeは、Co及びPの化合物からなる析出物を微細化する作用効果を有する元素である。
ここで、Niの含有量が0.01mass%未満の場合あるいはFeの含有量が0.005mass%未満の場合には、上述した作用効果を確実に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Niの含有量が0.15mass%を超える場合あるいはFeの含有量が0.07mass%を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、Niを含有する場合には、Niの含有量を0.01mass%以上0.15mass%以下の範囲内に、Feを含有する場合には、Feの含有量を0.005mass%以上0.07mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0027】
(Zn
,Ag,Zr)
Zn
,Ag,Zrといった元素は、Sと化合物を生成し、銅の母相中へのSの固溶を抑制する作用効果を有する元素である。
ここで、Zn
,Ag,Zrといった元素の含有量がそれぞれ上述の下限値未満の場合には、銅の母相中へのSの固溶を抑制する作用効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Zn
,Ag,Zrといった元素の含有量がそれぞれ上述の上限値を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、Zn
,Ag,Zrといった元素を含有する場合には、それぞれ上述の範囲内とすることが好ましい。
【0028】
次に、上述の銅合金線の製造方法について説明する。
図1に本発明の実施形態である銅合金線の製造方法のフロー図を示す。
まず、上記の組成の銅合金からなる銅荒引線50を連続鋳造圧延法によって連続的に製出する(連続鋳造圧延工程S01)。この連続鋳造圧延工程S01においては、例えば
図2に示す連続鋳造圧延設備が用いられる。
【0029】
図2に示す連続鋳造圧延設備は、溶解炉Aと、保持炉Bと、鋳造樋Cと、ベルトホイール式連続鋳造機Dと、連続圧延装置Eと、コイラーFとを有している。
【0030】
溶解炉Aとして、本実施形態では、円筒形の炉本体を有するシャフト炉を用いている。
炉本体の下部には円周方向に複数のバーナ(図示なし)が上下方向に多段状に配備されている。そして、炉本体の上部から原料である電気銅が装入され、前記バーナの燃焼によって溶解され、銅溶湯が連続的に製出される。
【0031】
保持炉Bは、溶解炉Aでつくられた銅溶湯を、所定の温度で保持したままで一旦貯留し、一定量の銅溶湯を鋳造樋Cに送るためのものである。
【0032】
鋳造樋Cは、保持炉Bから送られた銅溶湯を、ベルトホイール式連続鋳造機Dの上方に配置されたタンディッシュ11にまで移送するものである。この鋳造樋Cは、例えばAr等の不活性ガス又は還元性ガスでシールされている。なお、この鋳造樋Cには、不活性ガスによって銅溶湯を攪拌して溶湯中の酸素等を除去する脱ガス手段(図示なし)が設けられている。
【0033】
タンディッシュ11は、ベルトホイール式連続鋳造機Dに銅溶湯を連続的に供給するために設けられた貯留槽である。このタンディッシュ11の銅溶湯の流れ方向終端側には、注湯ノズル12が配置されており、この注湯ノズル12を介してタンディッシュ11内の銅溶湯がベルトホイール式連続鋳造機Dへと供給される構成とされている。
【0034】
ここで、本実施形態では、鋳造樋C及びタンディッシュ11に合金元素添加手段(図示なし)が設けられており、銅溶湯中に、上述の元素(Co,P、Sn等)が添加される構成とされている。
【0035】
ベルトホイール式連続鋳造機Dは、外周面に溝が形成された鋳造輪13と、この鋳造輪13の外周面の一部に接触するように周回移動される無端ベルト14とを有している。このベルトホイール式連続鋳造機Dにおいては、前記溝と無端ベルト14との間に形成された空間に注湯ノズル12を介して銅溶湯が注入され、この銅溶湯を冷却・固化することで、棒状の鋳塊21を連続的に鋳造するものである。
【0036】
このベルトホイール式連続鋳造機Dの下流側には、連続圧延装置Eが連結されている。
この連続圧延装置Eは、ベルトホイール式連続鋳造機Dから製出された鋳塊21を連続的に圧延して、所定の外径の銅荒引線50を製出するものである。
この連続圧延装置Eから製出された銅荒引線50は、洗浄冷却装置15及び探傷器16を介してコイラーFに巻き取られる。
ここで、上述の連続鋳造圧延設備によって製出される銅荒引線50の外径は、例えば8mm以上40mm以下とされており、本実施形態では25mmとされている。
【0037】
次に、
図1に示すように連続鋳造圧延工程S01によって製出された銅荒引線50に対して、冷間加工を実施する(1次冷間加工工程S02)。この1次冷間加工工程S02においては、複数段の加工が実施され、外径1.0mm以上30mm以下の範囲内の銅線材とする。本実施形態では、外径18mmの銅線材とされている。
【0038】
次に、1次冷間加工工程S02後の銅線材に対して時効熱処理を実施する(時効熱処理工程S03)。この時効熱処理工程S03によって、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を析出させる。
ここで、時効熱処理工程S03では、熱処理温度が200℃以上700℃以下、保持時間が1時間以上30時間以下の条件で実施される。
【0039】
次に、時効熱処理工程S03後の銅線材に対して、冷間加工を実施し、所定の断面形状の銅合金線とする(2次冷間加工工程S04)。
この2次冷間加工工程S04においては、複数段の加工が実施され、外径0.01mm以上20mm以下の範囲内の銅合金線とする。本実施形態の銅合金線は、外径12mmとされている。
上述の工程により、本実施形態である銅合金線が製造されることになる。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金線によれば、Co;0.20mass%以上0.35mass%以下、P;0.095mass%超え0.15mass%以下と、Co、Pを比較的多く含んでいるので、
図2に示す連続鋳造圧延装置を用いて製造してCo、Pの偏析が大きくなった場合であっても、Co及びPの化合物(Co
2P)を十分に析出させることができ、強度の向上を図ることができる。よって、Co,P及びSnを含有する析出強化型銅合金からなる強度の高い銅合金線を、連続鋳造圧延法によって効率よく製造することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態においては、CoとPの原子比Co/Pを、1.2≦Co/P≦1.7の範囲内としているので、Co量及びP量がそれぞれ確保され、Co及びPの化合物からなる析出物の個数を確保することができ、強度の向上を図ることができる。特に、本実施形態では、Co
2Pの理論上の原子比Co/P=2よりも多くのPを含むように構成しているので、CoとPの偏析が大きい場合であっても、Co及びPの化合物からなる析出物の個数を確保することができ、強度を確実に向上させることができる。
【0042】
さらに、本実施形態においては、原子比で、(Co+P)/Snが、3.5≦(Co+P)/Sn≦8.5の範囲内とされているので、Co,Pの化合物による析出強化とSnによる固溶強化とをバランスさせることが可能となる。これにより、強度及び導電率をともに高くでき、かつ、高温環境下において使用した場合であっても、強度、導電率等の特性を安定させることができる。
【0043】
また、本実施形態において、さらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種以上を含む場合には、Ni,Feによって、Co及びPの化合物を微細化することができ、さらなる強度の向上を図ることができる。
また、本実施形態において、さらにZn;0.002mass%以上0.5mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下、Zr;0.001
mass%以上0.1mass%以下、のいずれか1種以上を含む場合には、銅材料のリサイクル過程で混入するSを、Zn、Ag、Zrによって無害化することができ、中間温度脆性を防止し、銅合金線の強度及び延性を向上させることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態である銅合金線について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、銅合金線の製造方法の一例として、
図2に示すベルトホイール式連続鋳造機を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、ツインベルト式の連続鋳造圧延機等を用いてもよい。
さらに、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造し、この連続鋳造線材を冷間加工することによって銅合金線を製造してもよい。
【0045】
また、本実施形態では、
図1のフロー図に示す製造方法で製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば、2次冷間加工工程後に最終熱処理工程を実施してもよい。また、2次冷間加工工程を省略してもよい。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0047】
<実施例1>
(本発明例1−13及び比較例1−6)
ベルトホイール式連続鋳造機を備えた連続鋳造圧延設備を用いて、表1に示す組成の銅合金からなる銅荒引線(外径25mm)を製出した。この銅荒引線に対して、1次冷間加工を実施して外径18mmとした後に、表2記載の条件で時効熱処理を施した。その後、2次冷間加工を実施して外径12mmとした。
【0048】
(従来例)
表1に示す組成の銅合金からなる外径240mmのビレットを準備し、950℃に再加熱して熱間押出を実施した。得られた押出材を1次冷間加工して外径18mmとした後に、表2記載の条件で時効熱処理を施した。その後、2次冷間加工を実施して外径12mmとした。
【0049】
上述のようにして得られた銅合金線の引張強度及び導電率を以下のように評価した。
引張強度は、JIS Z 2241に準拠し、島津製作所製AG−100kNXを用いて引張試験を実施し、引張強度を測定した。結果を表2に示す。
導電率は、JIS H 0505に準拠して、ダブルブリッジ法によって測定した。
評価結果を表2に示す。
【0050】
また、従来例において、熱間押出によって得られた熱間押出材の断面中央部から5mm×5mmの観察用試料を採取し、EPMA分析によって、CoとPの線分析を実施した。その結果を
図3に示す。
さらに、本発明例1において、連続鋳造圧延工程における中間圧延材の断面中央部から5mm×5mmの観察用試料を採取し、EPMA分析によって、CoとPの線分析を実施した。その結果を
図4に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
Co、Pの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例1,3においては、引張強度が不十分であった。Co及びPの析出物が十分に分散していないためと推測される。
Co、Pの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例2,4においては、導電率が低かった。
Snの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例5においては、引張強度が不十分であった。Snの固溶硬化が不十分であったためと推測される。
Snの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例6においては、導電率が低かった。
【0054】
これに対して、Co、P、Snの含有量が本発明の範囲とされた本発明例1−13においては、引張強度が高く、導電率が十分に確保されていた。
特に、本発明例1においては、熱間押出工程を含む製造方法で製造された従来例と同等の強度を有していた。なお、
図3及び
図4から、従来例では、Co,Pの偏析が解消されているのに対して、本発明例1では、Co,Pの偏析が解消されていない。本発明例1では、偏析が解消されていなくても十分な強度が得られていることが確認された。
【0055】
また、CoとPの原子比Co/Pが、1.2≦Co/P≦1.7の範囲内とされた本発明例1−3は、本発明例4,5よりも強度がさらに向上していることが確認される。
さらに、Ni,Fe、Zn、Mg、Ag、Zrを含む本発明例6−9においては、これらの元素を含有していないものに比べて強度がさらに向上していることが確認される。
また、Snの含有量が多い本発明例10−13においては、導電率が若干低いものの強度が大幅に向上している。
【0056】
以上のことから、本発明によれば、Co,P及びSnを含有する析出強化型銅合金からなる銅合金線を連続鋳造圧延法によって製造した場合であっても、熱間押出工程を含む製造方法で製造された銅合金線と同様の強度を得られることが確認された。
【0057】
<実施例2>
(本発明例21−28)
上方連続鋳造機を用いて、表3に示す組成の銅合金からなる連続鋳造線材(外径25mm)を製出した。この連続鋳造線材に対して、1次冷間加工を実施して外径18mmとした後に、500℃×4時間の条件で時効熱処理を施した。その後、2次冷間加工を実施して外径12mmとした。
【0058】
(本発明例31−38)
横型連続鋳造機を用いて、表3に示す組成の銅合金からなる連続鋳造線材(外径25mm)を製出した。この連続鋳造線材に対して、1次冷間加工を実施して外径18mmとした後に、500℃×4時間の条件で時効熱処理を施した。その後、2次冷間加工を実施して外径12mmとした。
【0059】
(本発明例41−48)
ホットトップ連続鋳造機を用いて、表3に示す組成の銅合金からなる連続鋳造線材(外径25mm)を製出した。この連続鋳造線材に対して、1次冷間加工を実施して外径18mmとした後に、500℃×4時間の条件で時効熱処理を施した。その後、2次冷間加工を実施して外径12mmとした。
【0060】
上述のようにして得られた銅合金線の引張強度及び導電率を、実施例1と同様の条件で評価した。評価結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示すように、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機を用いて連続鋳造線材を製出し、この連続鋳造線材に対して熱間加工することなく、冷間加工することによって製造した銅合金線材においても、引張強度が高く、導電率が十分に確保されることが確認された。
【0063】
<実施例3>
(本発明例51−64)
次に、例えばワイヤーハーネスのように強度と導電率との高いバランスが要求される用途向けとして、表4に示すように、(Co+P)/Snを制御した銅合金線を評価した。
【0064】
本発明例51−55は、実施例1の本発明例1−13と同様に、ベルトホイール式連続鋳造機を備えた連続鋳造圧延設備を用いて銅荒引線(外径25mm)を製出し、1次冷間加工、熱処理、2次冷間加工を行うことにより、表4に示す組成の銅合金線(外径12mm)を得た。
【0065】
本発明例56−58は、実施例2の本発明例21−28と同様に、上方連続鋳造機を用いて、表4に示す組成の銅合金からなる連続鋳造線材(外径25mm)を製出し、1次冷間加工、熱処理、2次冷間加工を行うことにより、表4に示す組成の銅合金線(外径12mm)を得た。
【0066】
本発明例59−61は、実施例2の本発明例31−38と同様に、横型連続鋳造機を用いて、表4に示す組成の銅合金からなる連続鋳造線材(外径25mm)を製出し、1次冷間加工、熱処理、2次冷間加工を行うことにより、表4に示す組成の銅合金線(外径12mm)を得た。
【0067】
本発明例62−64は、実施例2の本発明例41−48と同様に、ホットトップ連続鋳造機を用いて、表4に示す組成の銅合金からなる連続鋳造線材(外径25mm)を製出し、1次冷間加工、熱処理、2次冷間加工を行うことにより、表4に示す組成の銅合金線(外径12mm)を得た。
【0068】
【表4】
【0069】
(Co+P)/Snを3.5≦(Co+P)/Sn≦8.5の範囲内とした本発明例51−64においては、いずれも引張強度及び導電率が高く、例えばワイヤーハーネス等の高強度及び高導電率を要求される用途において適用可能であることが確認された。